ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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36.恋人は姿を見せない

 地に膝をつけ老婆の脈を取る……指先が触れた首筋はまだ暖かいが次第に冷めていく。W-Refで触れてもみるが、生命エネルギーもスタンドエネルギーも感じとれない。

 

「……どうじゃレオン」

 

「ジョセフ………確かに死んでいるよ」

 

 老婆の死を告げると礼神はバツが悪そうな表情を浮かべ、私と承太郎を除く皆が彼女に目を向ける。

 

「安全は確認した。さっさと出発するぞ」

 

「やるじゃねぇか、葎崎」

 

 ジープのキーを指で回す私は横を通り過ぎ、承太郎は礼神の頭に手を すれ違い様にポンッと置く。

 

「………アハハ…お二人は優しいね……アレが僕のコンプレックスだよ。恐ろしいだろ?」

 

「礼神は味方だろう?何を恐れる必要がある。ポルナレフ、運転は出来そうか?」

 

 そう言って話を切り上げると、その場で立ち尽くしていた皆もジープに乗り込み始めた。

 

「おう。問題ねぇよ」

 

「結構穴が空きましたが、どれもこれも致命傷ではない……長い間痛ぶる気だったのでしょう」

 

「レオン、義手の調子が少しおかしい…メンテナンスを頼む」

 

「銃弾を受けた時か?アヴドゥル、席を代わってくれ」

 

 悲しそうな表情を浮かべる礼神の横を、各々がいつも通り通りすぎる。

 

「葎崎、さっさと乗れ。いつまで黄昏てるつもりだ。腹を括ったんじゃねぇのか?」

 

「………ごめん、今行く」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 みんな優しいね。

 僕がこんな様子だからか、いつも以上に絡んでくれる。

 

「………そんなに気を使わなくていいよ?」

 

「こういう時レディは、大人しく甘えてれば良いんだよ」

 

「初対面でガキ扱いした貴様が言うか、ポルナレフ」

 

「五月蝿ぇアヴドゥル!」

 

「いや本当に……むしろ今は黄昏させて欲しいんだけどな……あの能力は僕のコンプレックスなんだってば。いざ使ってみると、嫌な事思い出しちゃって……僕は女神なんかじゃない…死神なんだ…」

 

 目を瞑ると豪華に包まれた孤児院が瞼に映る。

 みんなは僕を女神だと言ってくれたけど……どっちかっていうと僕は死神だ……

 地獄の番犬と呼ばれるケルちゃん(スケルトンケルベロス)も今となってはおかしい………

 番犬は侵入者を追い払う存在……でもケルちゃんは逆に、地獄へ招き入れてしまう。

 

「コンプレックス? 悩みがあるならワシが聞いてやろう。伊達に長生きしとらんからのぅ」

 

「……ジョセフさん……本当にこの話題はもう触れないでください。知りたいなら僕のいないところでレオンさんに聞いて……」

 

 それだけ告げると僕は睡魔に襲われ、カーブの勢いでアヴドゥルさんに思いっきり寄りかかってしまう。

 

「眠いのか?無理もない……次の町か敵が見えるまで休むと良い」

 

 そう言って僕の反対側の肩を、アヴドゥルさんは優しく叩いてくれる。

 お言葉に甘えて僕はそのまま、引き込まれるように眠りについた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………寝た……か?」

 

「えぇ……良くここまで付いてこれたものです」

 

 ジョセフの義手をメンテナンスしながら、私はアヴドゥルを横目で見る。彼の表情からは優しさと悲しみが読み取れる。

 

「……できたぞジョセフ」

 

「うむ……なぁレオン。ワシらと分かれている間…礼神に一体何があった?」

 

「……わからない。だが道中、私と礼神は3人の幽波紋使いと接触した……1人は運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)…予言ではお前達を襲うはずだった幽波紋使いだ。1人はホル・ホース……最後の1人は、毎度お馴染み伊月 竹刀だ」

 

「またか。これで何度目だ?」

 

「さぁな。私が運命の車輪を相手にしている間、残りの2人に礼神が連れ去らわれた………無事救出したんだがその時からだ…礼神の目付きが変わったのは………」

 

「……それで?」

 

「頼まれた」

 

「頼まれた?何を……」

 

 私は振り向き礼神の両耳に触れ、波紋で穴を塞ぎながら口を開いた。

 

「旅が終わるまで日本には帰らない。だが守って欲しい…と…」

 

 波紋による簡単な治療を終えてからは、それ以上にこの話が続くことはなかった。

 

 ひとまず私はこの時間を使い、皆の傷を癒す事にした。

 

 

 

 

 

「………なぁレオン。もう少し他のやり方ねぇのか?」

 

「無理を言うな。貴様の傷が一番酷い…触れて一箇所から流すだけでは効率が悪い」

 

 頭から水をかけられるポルナレフは、前を向いたまま私に抗議した。しかしそれで治療法を変える訳にはいかない。

 

「……だけどよ〜運転中の人に水ぶっかけるって……なんか…こう…」

 

「なら吸血鬼の力で細胞組織を代用させ、丁寧に肉の芽とかで内側から治そうか?」

 

「………このままでいい」

 

「ひとまず運転は代わってやろう。ポルナレフ、道の端に止まりなさい」

 

 気を利かせてジョセフがそう言ってくれるが、ポルナレフは迷ったかのようにバックミラー越しにアイコンタクトを送ってくる。

 

「………ジジィ、ポルナレフが事故らねぇか心配してるぜ」

 

「なっ⁉︎ 失敬な‼︎ ワシだってジープくらい運転できるわい‼︎」

 

 キレ気味にジョセフが言うので渋々ジープを止め、ポルナレフはジョセフと運転を代わる。

 この時…今までシートベルトをつけてなかった承太郎から「カチッ」という音が聞こえたのは、たぶん気のせいではないと思う。

 

「それはそうと花京院……何故私を睨んでいるんだ?」

 

「いえ……別に?」

 

 そんな会話が背後で聞こえたので振り向くと、花京院は口を尖らせて窓の外へ顔を背け、アヴドゥルは少し困り顔を浮かべている。

 

  (どうしたんだ?………あぁ…原因はそれか…)

 

 気がつくと礼神は、アヴドゥルに膝を枕に熟睡していた。

 亡者がボディーチェックをした時…いや、もっと前から気付いてはいたが………

 

  (…花京院は礼神の事を………)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『あれ〜。お嬢ちゃん逃げてきちゃったんだぁ…ダメだよ、ちゃんと部屋で待ってないと……』

 

『何で?何でこんな事するの⁉︎』

 

『何でって……興奮するんだよ。生きたまま人が燃えていくの……面白くて美しいよ?死ぬことでどれだけ苦しいか伝えてくれるその姿こそ、私の美学なんだよ』

 

『嫌だ…来ないで‼︎』

 

『いやいや…近付かないと切れないでしょ?足切らないと逃げられるからちゃんと切らないと…』

 

ガァァァァァァアアア‼︎‼︎‼︎(止めてよ‼︎‼︎‼︎)

 

 

 

 

 

「………ハッ…」

 

 目が覚めるとそこには満天の星空が広がっていた。

 

「……嫌な夢見た後じゃなぁ〜…」

 

「あ、起きたかい葎崎さん」

 

 起きてから真っ先に声をかけてきたのは花京院だった。身体を起こして周囲を確認し、僕は一瞬目を疑った。

 煙を吹くジープと、それを弄る銀の柱と占い師……そして少し離れた所で正座した初老と、その前で腕を組み仁王立ちするイケメンが2人……

 

「えぇ〜っと……どうしたの?」

 

「ジョースターさんが運転した…そしたらジープが煙を吹き始めた」

 

「何それ なんてスタンド?」

 

 後で聞いたことだけど、壊れた原因はわからなかったらしい。レオンさんも少しそういう知識があるのかジープを調べてた……でもやっぱり故障の原因はわからなかったようだ。

 ちなみに「ガス欠」とか「エンスト」とか、そういう初歩的な故障ではないらしい。

 

「テメェは二度とハンドルを握るな。わかったか、クソジジイ」

 

「ジョセフ……お前だって死にたくはないだろう?」

 

「やめたげてよー‼︎ ほら、墓地でケルちゃんが強く噛んだのが原因かもしれないじゃん⁉︎」

 

「…ワシの味方はお前だけじゃよ……」

 

 いやいや、味方にならざるをえませんよ。

 だって今にもお爺ちゃん泣き出しそうだもん…というか既に涙目……

 

「……で、ここからカラチまでどうすんだ?」

 

「そうだな……問題はそこだ」

 

「すまねぇみんな…俺がジョースターさんに運転を代わったばっかりに…」

 

「止めて‼︎ お爺さんのライフはとっくに0だよ‼︎」

 

「そんな事は置いといて、早く移動手段をどうにかしましょう」

 

 最後に言ったアヴドゥルさんは無意識だったんだろうけど、僕はジョセフさんが小声で「…そんなことって………」と呟いて傷付くのを目の当たりにした……お気の毒に……

 

「ここは既に山道を抜けた一般道だ。町ではないが所々に家も立っている………車か何かを譲ってもらおう」

 

 そんな訳で僕らはレオンさんの交渉が終わるのを待つことにした。レオンさんは近くの民家に足を運び扉を叩く。

 しばらくするとひとりの女性が戸を開ける。夜遅くの事もあって不機嫌そうだが、レオンさんの顔を見て一気に上機嫌になる。

 

「………こういう時もレオンさんの存在って助かるね…」

 

「うぅーむ。わしも若ければあのくらい……」

 

「よしなよジョセフさん」

  (前科がある貴方じゃ冗談では済みませんよ)

 

 後半を小声で伝えると、わかりやすくジョセフさんが固まる。そして苦笑いを浮かべて平静を装い始めた。

 

 その後…レオンさんが馬車()()を買い取り、それでカラチまで移動する事になった。

 馬の代わり?……もちろんケルちゃんです。

 

「人に見られたくない。夜のうちに急いでくれ」

 

「へいへいほー」

 

 ケルちゃんの骨の隙間に縄を通して馬車と繋ぐ。後は自動操縦させれば大丈夫、痛ッ!

 

「……うぅ…そっか……空いたまんまか」

 

 違和感を感じて無意識に耳を触れると、エンヤに開けられた穴に爪が引っかかる。

 開けられた穴が大きかったからだろう。耳朶には完治はしたが小さな穴が残っていた。

 

「指を通せる程の穴だったからな。ピアスの穴も何も通さずに放置すれば塞ぐというし、そのうち塞がるさ」

 

「でも気になって触っちゃう……折角だしピアス付けようかな。ジョセフさんお金貸して」

 

「いいとも。貸すも何もプレゼントしてやろう」

 

「えぇ、いいよ。チャイナドレスと違って、旅には不要な物だからさ………そういえばドレスってどうしたんだっけ?」

 

 するとレオンさんが苦い顔を浮かべてアヴドゥルを指差した。

 

「シンガポールで道端に捨てると罰金だからな……処理も面倒だったので跡形もなく燃やしてもらった」

 

「せっかく似合っとったのに………レオン、鉤爪がわしの頸動脈に刺さりそうなんじゃが……」

 

 アハハ…仲がよろしいことで……

 そんな事を思っていると、花京院が僕の肩を叩いてくる。

 

「葎崎さん。良かったらコレをあげよう。僕のスペアだ」

 

「おぉ!チェリーピアス!」

 

 花京院がいつも付けてるピアスを僕に渡してくる。すると続けてポルナレフも、自分の付けているピアスをプレゼントしてくれる。

 

「チェリーとハーフハート……うーん、嬉しいけどゴメンね。僕こういう ぶら下がった奴怖いや。なんか引っ張られた時を想像しちゃって」

 

「そうか?俺はそうとは思わないけどな」

 

 そう言ってポルナレフは自分のピアスを受け取り荷物にしまう。花京院にも同様に返したが、彼は少し残念そうな顔をした。

 

「でもどうしようかな。カラチに着くまで時間はまだかかるし……承太郎、君のくれよ」

 

 承太郎の耳朶に付いたシンプルな丸いピアスを指差し言う。

 

「やなこった、俺は予備なんて持って来てねぇんでな」

 

「ちぇ〜…」

 

「葎崎…ならこういうピアスはどうだ?」

 

 少し残念な気分になっていると、承太郎はレオンさんの耳を指差す。そういえばレオンさんも幾つかピアス付けてるね。

 今まで気にしなかったけど、レオンさんの耳には耳朶から外側に沿って3個…そして耳の上の方に1つ付いている。

 

「レオンさんは予備持ってる?」

 

「今は無いが、別に塞がっても私はすぐに開けれる。1組分でいいか?」

 

「やったー!ありがと‼︎」

 

 レオンさんが左耳からピアスを2つ外して手渡してくれる。

 青紫に輝くソレを付けようとするが、初めてなもので上手く付けられない。

 するとレオンさんが僕からピアスを取り上げて、僕の耳に飾ってくれる。

 

「誰か鏡持ってたよね?見せて見せて!」

 

 一番髪の手入れに時間のかかるポルナレフが、鏡を取り出して僕に向けて構えてくれる。

 それを見つめて首を振り、左右から自分の顔を眺めてみる。

 

「うん……良いね。ありがと!」

 

「あぁ…どういたしまして」

 

 レオンさんの澄ました笑顔は、何故か今だけ引きつっていた。

 ……僕の後ろを見て苦笑いをしている?

 

「……………?」

 

 振り向いてみるが特に変わった物はない。

 強いて言うなら花京院がいるだけだ……アレ?少しだけ怒ってらっしゃる?

 

  (うーん。くれた物を返すのは少し失礼だったかな?)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『レオン様は最悪……生きてなくとも問題ありませんがのぅ』

 

  (……逆にとれば、できることなら生きたまま連れて行くつもりだった。生きた私に用があった…という事か………)

 

 道中で私はエンヤ婆の言葉を思い出した。

 私を戦力として迎え入れたいのか……だが相手はDIO。他にもなにかあるとは思うんだが……

 

「そろそろカラチじゃ。ここからは歩こう」

 

「ん?もう着いたのか?」

 

 考え事をすると、ついつい周りが見えなくなるな。

 ジョセフの言葉で我に返り、我々は街の手前で馬車を乗り捨てる。

 

「お疲れ葎崎さん」

 

「ありがと花京院。ふぅー…さて、次も頑張りますか!」

 

 両腕を上に伸ばして背骨を鳴らす。それを見かねて、周りの人間も軽く身体を動かす。

 なんせこの街でも我々は敵と遭遇し、誰かの脳内で戦う羽目になるからだ。

 

「葎崎、あまり無茶はするな」

 

「承太郎こそ。君ら3人は重症なんだからね」

 

 エンヤの術中にハマった3人を見て、礼神は口を尖らせる。

 私も今は考えるのを止めて切り替えないとな…

 

 相手のスタンドは恋人(ラバーズ)

 史上最弱の極小スタンドらしいが、脳内に侵入し、侵入された者とシンクロする能力を持つ。

 本体のダメージがスタンドを通して、侵入した者に数倍で与えられるというのだ……そうなっては外へ出すまで手が付けられない。

 

「原作と違い、誰の脳内に入ってくるかはわからない…でも肉の芽を使ってくるのは確定……速やかにお願いしますね」

 

「あぁ」

 

 この戦いの鍵は私だ。

 私のW-Refでシンクロを解除すれば何て事はない。その後は私とジョセフで、肉の芽を波紋で取り除けばいい。

 

「ならさっさと行こう………む?」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「…いや……なんでもない」

 

 今誰かに見られた気が………気のせいか?

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「……あれがレオン・ジョースター……そして小さいのが巫女…葎崎 礼神………か…」

 

 人口600万の首都カラチ……その町の広場に聳え立つ時計塔の展望広場にその男はいた。

 黒塗りのサングラスを掛けた男は双眼鏡を手に、街の入り口の方を見つめていた。反対の手には誰かからの手紙が握られている。

 

「フッフッフッ……戦闘はすでに始まっている。見えぬ敵に恐怖するがいい…敵の情報を得ているのは貴様らだけでは「ドカッ‼︎」

 

 不敵な笑みを浮かべると同時に、広場で遊んでいた子供の1人が男にぶつかる。その拍子に男は、指を緩めて手紙を手放してしまう。

 

「……おいガキ」

 

「あ…ゴメン 兄ちゃ、ギャブッ⁉︎」

 

 まだ5,6歳の少年は蹴り飛ばされて展望広場の柱にぶつかる。落ちなかったことに安堵すると同時に、遊んでいた子供達は逃げる様に階段を降りて行った。

 

「…チッ……ガキっての何で高い所が好きなんだ。伊月の手紙が飛ばされちまったじゃねぇか。まあ良い……アドバイスには全て目を通してある」

 

 そう言って座り直すと男サングラスを投げ捨て、双眼鏡を改めて両目に当てた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ドネル・ケバブ。

 肉の塊を棒に刺し、回転させながら表面を焼いている。それを焼きたてのナイフで削ってパンに乗せて食べる中東方面のハンバーガーである。

 

「腹ごしらえでもするか。すまない、7人分くれないか?」

 

「7個1400円よ」

 

 レオンさんの注文に対してそう言う店員。

 

 中東方面では日本や西洋などの常識は全く通用しない……というのは、値段が凄くいい加減なのだ。

 日常の値打ちを知らない初めての外国人は、一体いくらなのか見当もつかず 凄くカモられてしまう。

 しかしこの世界ではカモることは悪い事ではない。騙されて買ってしまった奴がマヌケなのである!

 

 原作ではジョセフさんが買い物の仕方を読者にレクチャーしてカモられるが、レオンさんは一味違った。

 

「私は目が良いんだ。先程遠くから、1個30円で売っているところが見えたぞ?」

 

「アハハ!きっと見間違いね。そんな値段で売ってたから私の家族みんな飢え死に…」

 

 その時…店員とレオンさんの目が交差する。

 

「……でも私親切ね。イケメンお兄さんに免じて210円でいいよ」

 

 少し表情に赤みを見せた店員は7人分のケバブを通常価格で売ってくれた。

 

「ありがとう」

 

 トドメに笑顔で感謝。これがレオンさんの交渉術である……だが僕達は1つだけ疑問を抱いていた。

 

 店員が()()なのだ。

 

 原作では僕らにケバブを売った男性店員がDIOの刺客なのだが、ここの店員は女性。

 他にもケバブを売ってる店はあるし、バタフライ効果で別のやり方で接触してくる可能性もある。

 

「……って事はやっぱり…」

 

 ひとまず今言える事は1つだけ……

 

「ケバブ美味しい」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『やっほー。今日も屑らしく生きてる? 』

 

「……………」

 

 珍しい奴から手紙が来たと思い開けると、最初の一文が彼をいきなり不快に感じさせた。

 手紙を読む男の名は「ダン」…恋人(ラバーズ)の暗示を持つ幽波紋使いである。

 彼は不快な気持ちを感じながらも次の文に目を移した。

 

『現在ホル・ホースとコンビ組んでるオジさんです。オジさんの予想では婆さんの次の刺客が君だと思って手紙をよこしました。では早速本題……もちろんコレはジョースター達に見られないようにね?』

 

「……さっさと本題に入れ」

 

 聞こえる訳のない小言を呟き、ダンは再び続きに目を移す。

 

『わかったよ、仕方ないなぁ〜〜』

 

「ッ⁉︎」

 

『今の一文で、驚いた君の表情が目に浮かびます』

 

「ッ‼︎‼︎⁇」

 

 一度手紙から目を逸らして、汗を拭い気持ちを落ち着かせる。気持ちを整えもう驚かないと心に決めたところで再び(みたび)手紙に目を向ける。

 

『じゃあ本題』

 

「………」イラッ

 

 まだ遊び心のある小言があると思ったダンは、軽く裏切られた気になりそれがイラつきを生む。

 しかしそんな感情も棚上げして彼は手紙を読み始めた。

 

『まず相手は君の能力を十分に理解している。その対処法も………レオン・ジョースターには注意しろ。君のスタンドが誰かの頭の中に侵入しても、奴のW-Refで操作権を断たれてボコられる可能性がある。そしてこれは推測だが、彼には感知能力がある……半径25mくらいかな?』

 

「要点を抑えると「25m以上近付かずに隠れて攻撃すればいい」って事か……」

 

『それじゃ頑張ってね。親愛ならぬ友人(クソ野郎)へ、(呪念)を込めて 伊月 竹刀より』

 

 手紙を読み終えたダンは一度手紙を握り潰してポケットに突っ込んだ。

 

「あいつ俺の事嫌ってんのか?俺も嫌いだが……次会ったら恋人(ラバーズ)で………いや、あいつは元々、脳内にスタンドを入れてんだったな…無駄か」

 

 苛立った様子で独り言を呟き、ダンは時計塔へ向かった。

 

 ………これが数時間前の出来事である。

 

 時計塔の上からジョースター達を確認しながら、ダンはスタンド能力を既に使っていた。

 街の外で確認した時点で、レオンの脳内に送り込んでいたのだ。

 

「レオン・ジョースター…奴さえ始末すれば形勢は逆転する」

 

 ダンが最も警戒しているスタンド能力…それがW-Ref。

 その不安要素を早々に取り除くべく、ダンはスタンドに肉の芽を持たせて脳に先行させていたのだ。

 

 吸血鬼に肉の芽が効くのかはわからない。だが今のダンにそれ以外の攻撃方法はなかった。

 

「さぁ…どうなる?」

 

 肉の芽を脳内で成長させて食い破らせるつもりなのだが、流石にまだそこまで成長はしていない。

 今か今かと双眼鏡でレオンを目視していると………

 

「………」ギロッ

 

「ッ⁉︎」

 

 何かを探していたのか辺りを見渡すレオン……そんな彼の視線がダンを捉え、彼は条件反射で柱の陰に隠れる。

 

「い、今目があったぞ⁉︎…き、気のせいか?」

 

 心情落ち着かないダンは念の為にその場を離れ、時計塔の内側の階段を焦り気味に降り始める。すると時間差で時計塔展望広場で物音がする。

 

「…………」

 

 緑色に発光する筋の入った生物が、先程まで彼のいた場所を詮索し始めた。やがてその生物は体を更に糸状にし、触手を伸ばして隅々まで伸ばし始めた。

 

(花京院の法皇の緑(ハイエロファントグリーン)⁉︎ 畜生‼︎あいつら、俺の存在に気付いてやがる‼︎ 早くこの場を離れないと……)

 

 時計塔を駆け降りたダンは路地裏に逃げ込んだ。

 その十数秒後……レオン達がその場にやってきた。

 

「いたか、花京院」

 

「いえ…少なくとも今は誰もいません……」

 

 

 

 

 

「こ…こんな事なら鍛えておくべきだった………」

 

 路地裏を抜け息を切らしたダンは、両手を膝に置いて肩を上下に動かしている。いくら吸っても肺が酸素を求め続け、彼は運動不足を自覚する。

 

「に……にしても何故ばれた⁉︎ 何かを探している様だった。あの時点で俺の術にかかった事に気づいていた⁉︎ 接触せずにスタンドだけを忍ばせたというのに何故‼︎」

 

 脳を回転させていると1つの誤算に気付いた。

 

「あの餓鬼か⁉︎ クソが‼︎」

 

 時計塔広場でぶつかった時の事を思い出す。

 

「あの時は伊月からの手紙を飛ばしてしまったことに意識が向いていたが、あの時ぶつかったせいでその衝撃がレオンにフィードバックした可能性がある‼︎そうに違いねぇ‼︎」

 

 恋人の能力は潜入した者に、自分が受けたダメージを数倍にして返す事………使い方によっては非常に危険な能力だ。

 そんな能力を潜入だけさせて使わない事なんて早々ない……わざわざ能力をOFFにする機会が無いのだから、うっかり使ってしまった可能性だって高い。

 

 だか今更そんな事を考えても意味がない……

 

「今はいかに時間を稼げるかが重要だ…」

 

 近くの店でターバンを手早く買ってそれを纏い、簡素ではあるが変装を施す。

 するとそこへ………

 

「こっちであってるのか?」

 

「あぁ、そう言っている」

 

 ターバンを買った店の前をアヴドゥルとポルナレフが通過する。自分の荷物をポルナレフはクルクルと回し、アヴドゥルは自分の左耳を抑えている。

 

(な、何故こんな近くをピンポイントで……⁉︎)

 

 路地裏を使わなければ遠回りしないとこの道には出れない…だのに2人は大通りから歩いて来た。

 疑問を浮かべながらも背を向けて通り過ぎるのを待つ。

 

 やがていなくなった事を確認して、ダンは彼らとは反対方向に歩き出した。

 

 

 

 

 

「こ……ここなら大丈夫だろう…」

 

 冷や汗を浮かべながらも勝ち誇った表情を浮かべる。

 何を隠そうダンが今いる場所は橋の下……予期していなければ調べない所。そもそもこの橋を渡った先は街の外…来る確率も低い。

 

 ………そう思ったのだが。

 

「花京院…こっちで良いのか?」

 

「あぁ…いやちょっと待て……何?もう少し北寄り?」

 

 声からして承太郎と花京院だろう。会話からしてもう1人いると思うのだが、もう1人の見当は付かないし足音もおそらく2人分だ。

 

「北寄り……コッチだな」

 

「この先は町の外だが?……わかった。君がそう言うなら…」

 

 進行方向を変え、2人がダンの隠れる橋の方へ近づいてくる。

 息を潜める為にダンは己の口を手で塞ぎ、自分の鼓動が酷く大きくなるのを感じた。

 やがて2人は橋を渡り始める

 

(そ、そうだ……そのまま渡ってどっか行け‼︎)

 

 しかしダンの願いとは裏腹に、2人は橋の上で足を止める。

 ダンの願いはただのフラグと化してしまった。

 

「ここ?……周りには何もないが……下?」

 

 花京院のその言葉で、ダンは心臓が飛び出るほどに動揺する。そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見〜つけた〜〜」ギロッ

 

「ヒギャァァ〜〜〜ッ‼︎」

 

 橋の上から顔を逆さで覗かせる花京院……それがキッカケで緊張の糸が限界を超え、堪らずダンが飛び出して逃げようとする。

 

「待ちな」

 

「ウヒィ⁉︎」

 

 しかし承太郎から逃げれる訳もなく、星の白金(スタープラチナ)に首元を捕まれ橋の上に引き上げられる。

 それを確認してから、花京院は右耳を抑えながら何か呟いている。

 

「おおお俺に何かしてみろ‼︎ レオン・ジョースターがただじゃすまねぇぞ‼︎」

 

「わかってる。だからコレを持って来た」

 

 そう言って何かを取り出し、承太郎はそれでダンを躊躇いもなく殴りつけた。

 

「ゴファ‼︎」

 

「あ、葎崎さん。えぇ…今?承太郎に殴られてるよ。場所は……」

 

 記憶が途切れる最後にダンが見たのは、右耳を押さえて誰かに話しかける花京院だった。

 何故礼神がこの場にいないのに、彼女に話しかけているのか……そんな疑問も解決せずに、ダンは気を失った。

 

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