ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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38.眠って悪夢を…目覚めて忘却を…

 砂漠を横断した我々がヤプリーンについたのは、翌日の夕焼け頃……

 

 ラクダをヤプリーンの牧師に売り、陽も沈み始めたので私は明日使うセスナ機を買いに……他の皆には先に宿を取りに行ってもらった。

 

「7人で乗れるのはあるか?」

 

「ん?誰だあんた…」

 

 セスナを買うべく発着場へ足を運び、丁度機体から降りたパイロットに声をかける。すると不審な目を私に向けてくる。

 

「私は旅の者で、仲間があと6人いる。とても大事な用事で先を急いでいてね。この村の生命線だということはわかっているが、7人で乗れる小型飛行機を1機売ってもらいたい」

 

「急にそんなことを言われてもね。この村の顔役を通してくれないと何とも言えないね……そもそも7人?今この村にあるセスナは4人乗りのこいつだけね」

 

 そう言って男は、今まで乗っていたセスナをノックするように叩く。

 

「向こうのはダメなのか?」

 

「アレは数時間後に使う予定がある」

 

「どんな予定だ?できることなら譲ってもらいたい」

 

「それは……本人に話を通してもらいたいね」

 

 やれやれ面倒臭い……

 

 

 

 

 

「〜〜〜。それで構わないか?」

 

「あぁ、そこまで言うなら構わないぜ」

 

 30分ほどの交渉の末…私はチップを弾んでセスナ機の使用予定をキャンセルしてもらい、村の顔役から正式にセスナを買い取った。

 思ったよりスムーズに話は進んだ。数時間後に使う予定は、6人家族の旅行だったらしい。

 その一家の大黒柱には2度旅行が楽しめるだけの資金を……顔役には通常価格の3倍の値で譲ってもらった。

 

「えぇ〜、あたし達 旅行行けないの〜?」

 

「ゴメンな、私も先を急いでいるんだ」

 

 大黒柱の娘と思われる子がごねり、男は少し困り顔だったので責任を持って私が謝罪する。

 膝をついて目を見つめ話すと、少女は俯いて「うん」と小声で呟いた。

 

 そんなこんなで7人用セスナを無事買い取って、私は皆が取った宿へ向かう。

 ロビーではジョセフがタバコを丁度吹かしていたので部屋を聞き、私の借り部屋へ向かった。

 

「……フゥー」ドサッ

 

 ベッドに倒れ込み顔を横へ向けると、壁際に置かれた私のケースが目に入る。誰かが運んでくれたのだろう。

 明日の予定確認は夕食どきに話し合う予定だ……それまでに仮眠と、血液を摂取しておこう。

 早速壁際に移動してケースを開け、中から血液ボトルを取り出し口をつける………すると…

 

「ヤバイヤバイヤバイ‼︎ヘルプヘルプヘルプ‼︎」

 

「ッ⁉︎」

 

 隣の部屋から慌てた礼神の声が聞こえた。

 

「まさか……敵スタンド⁉︎」

 

 部屋を飛び出した私は隣の部屋へ向かう。掛かっていた鍵は髪の毛でピッキング……そうやって部屋に入るとそこには、魘されながら寝ている礼神の姿があった。

 

「………ただの寝言か……砂漠の横断は辛かったからな」

 

 昼夜の温度差などストレスの要因は幾つも有る。それで悪夢でも見てしまっているのだろう。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp‼︎‼︎」

 

「……おい、礼神‼︎」

 

「ウォォォォーーーッ‼︎⁉︎」ガバッ‼︎

 

「……ようやく起きたか」

 

「はぁ…はぁ……レオンさん?」

 

 凄い様子で魘されていたので、ついに私は礼神を起こした。

 寝汗が凄く、よっぽど酷い夢だったのだろう。

 

「……⁉︎、レオンさん‼︎ その口どうしたの⁉︎」

 

「口?」

 

 そっと自分の口元を触れると、緩く滑りのある何かが指先に着いた。そんな指に目をやると、指先は真っ赤に染まっていた。

 

「あぁ…これは先程 血を飲んだからだな。拭い忘れた」

 

「何故に?」

 

「君が凄い様子で魘されていたからだ」

 

「へぇ…痛っ…」

 

 自分が魘されていた事を今知った様子で、彼女は興味無さそうに声を漏らした。そして思い出したかのように痛みを口にして首を抑えた。

 

「どうした?」

 

「なんか首に……切り傷?」

 

「………私じゃないぞ」

 

「うん知ってる。血を吸ったような傷じゃないもん」

 

 礼神の手をどかして見ると、確かに刃物で切ったような赤い線が首に走っていた。もう少し深ければ頸動脈に達したんじゃないか?

 

「こんな危ない傷を一体どこで?」

 

「………さぁ…普通気付くと思うんだけど………わからんね」

 

「葎崎さん‼︎どうかしたのか⁉︎」バタン‼︎

 

 不可解な謎を目の当たりにしてると、勢い良く部屋のドアが開かれ、花京院が血相を変えて入って来た。

 彼も礼神の寝言が聞こえて飛んで来たんだろう。

 

「あ、花京院も来てくれたの?大丈夫だよ。なんか悪夢に魘されてただけみたい」

 

 礼神は花京院を安心させようとそう言ったのだが、花京院は更に血の気を引かし、顔を真っ青にした。

 何故だ?…と、一瞬思ったが瞬時に理解した。

 

 ………マズイな

 

「……どういうことですかレオンさん?」

 

「落ち着け、私じゃない。私が来た時には既に傷を負っていた」

 

「なら何故貴方の口元に血が? まさか…ッ⁉︎」

 

「違う‼︎落ち着け‼︎」

 

 私が礼神の血を吸ったんだと勘違いしている花京院が、ワナワナと震えながら私に手を伸ばす。

 その腕を私は両腕で掴んで止めたが、止めなかったらそのまま首に手をかけるつもりだったのか?

 君の握力では無理だが殺す気なのか?

 

「問答無用‼︎ エメラルドスプラッシュ‼︎」

 

「ヤメロォォォォオ⁉︎」

 

 

 

 

 

「……さて、夕食も終わり早速話を進めようと思うんじゃが………どうしたんじゃレオン?」

 

 傷だらけの私を見てジョセフが尋ねてくる。

 無論……W-Refでガードしきれなかったエメラルドスプラッシュの治りかけの傷だ。

 あの後、礼神が弁解してくれたので半信半疑だが花京院は、さっきの事を不問にしてくれた。

 しかし食事中は何度か睨まれる始末だ……まったく、私が何をした?

 

「気にせず話を進めてくれ」

 

 花京院と礼神以外は疑問を残したままだが、私がそう言うとジョセフが話を始める。

 

「まず明日の予定じゃ。レオンが問題なくセスナを買ってくれたので、明日の早朝にそれで飛ぶ。礼神、予言の方は?」

 

「んー………特に無いよ」

 

「……無い?………アブダビの港町では襲われて墜落と言っていたじゃないか」

 

「あるぇ?そうだっけ?」

 

 花京院の言い分に皆が頷くが、礼神は身に覚えがないといった感じで首を傾げる。

 私もそれを不審に思い、さっきあった事を口にして注意を促す。

 

「花京院の言う通り、確かに墜落すると言っていた。第一、先程スタンド攻撃らしきものを受けたじゃないか」

 

「なんじゃと⁉︎」

 

「ですが少し可笑しいんです。葎崎さんの首……既にレオンさんが治しましたが、そこに刃物の傷がありました。首に切り傷ですよ?普通は怪我しないところです。頸動脈を誰かが狙ったとしか思えません」

 

「それで、敵は?」

 

 花京院の説明に承太郎が質問し、先に部屋に来ていた私に花京院が視線を送る。

 

「…見ていない。だがそれ自体も可笑しい……私が部屋に来るのを察して犯行を止めたのか?もしそうなら首に傷が入るとこまでやって寸止めをした事になる。寝てる相手への攻撃だから、紙一重でハズしたとは思えない」

 

「確かにおかしいな…傷をつけて証拠をつけちまったなら、そのまま切るだろ。俺ならそうするぜ?」

 

 ポルナレフがそう言って、片手で首を掻っ切る真似事をする。

 

「それに部屋は密室だった。スタンド能力で間違いない…だとしたら尚更謎は深まる」

 

「成る程……仮に物をすり抜ける能力や、テレポートが可能なら殺してから逃げるのは十分可能。カマイタチなどの遠距離攻撃なら、それ以降攻撃してこないのも可笑しい……他のみんなにも仕掛けるタイミングはあったハズなのだが…もしや何か条件があるのでしょうか?」

 

「どういう事だアヴドゥル」

 

「例を挙げるならJ・ガイルの吊られた男(ハングドマン)。反射物のある場所しか移動できないように、何か条件を満たさないと攻撃できないとか……」

 

「葎崎…テメェ部屋で、何か特別な事をしたか?」

 

「…寝てただけなんだけど」

 

「じゃあ何だ?吊られた男が鏡を移動するスタンドのように、そいつは夢の世界を移動するスタンドなのか?」

 

「ポルナレフ。夢は見た者の精神バランスで見せられる記憶の片鱗だ。夢の世界なんてあるわけないだろ」

 

 ポルナレフの推測を花京院が冷たく切り捨てる。

 

「ひとまず、用心する事に越したことはない。今日は各自で部屋を取ったが、やはりペアで泊まるようにしよう」

 

 ジョセフの案に一同が賛成し、我々は一度チェックアウトして、再度部屋を借りた。

 

 

 

 

 

 気がつくと私は とある寝室にいた。

 だが清潔感溢れるその部屋は宿の仮部屋ではない……宿にしては多くの家具がこの部屋には置かれて、どれもこれもデザインが古かった。

 

「ここは………なるほど。最近顔を出さないと思ったら……」

 

 部屋を見渡すがそこには誰もいない。

 私が寝室の扉を押し開けると、その先は長い廊下になっていて、さらにその通路を進み階段を下りると、少しデザインの古い時計が掛けられたロビーに出る。

 

「確かこっちだったな」

 

 記憶を手繰り寄せて足を向けた先は、昔は良く皆と食事をした場所だった。

 

『おはよう主よ』

 

 そこにいたのは、ティーカップで紅茶に口をつける場違いな女性だった。

 洋風のデザインで成り立っているこの空間に、第2のスタンドはいつもの着物姿でティータイムの真似事をしていたのだ。

 

「…………おはようなのか?」

 

『…………現実の時刻は……予定起床時間の30分前だ』

 

「ほう……事細かくわかるのだな」

 

『今現実では主の体を拝借し、我は枕元の時計を見つめている』

 

「なんだと?」

 

 私が眠っている事を良いことに、此奴は私の体を今使っているらしい。

 すぐに意識を強く持ち所有権を奪い返そうとしたが、スタンドが私に掴みかかりそれを止める。

 

『待ってくれ主よ。聞かれたから確認しただけなんだ。何もしない……話がある……だからまだ目覚めないでくれ』

 

 そう告げてくると、日の光を取り込んでいた窓が光を遮断し、外が暗闇に変わる。夜目は利くのだが何故か何も見えない。

 

『主がこの屋敷に住んでいた頃……まだ主は人間だった』

 

「だから夜の風景が見えないのか。それで……幼少時代に住んでいたジョースター邸の夢などを見せて何が言いたい」

 

 幼少時代の食事時に使っていた自分の席に座り、私はスタンドの方へ体を向ける。スタンドは私の隣の席(当時はジョジョが座っていた席)に座り、ノイズっぽい重い口調で語り始めた。

 その声の重さから、見えないはずの表情が真剣そのものに思え始める。

 

『……我を受け入れてくれ』

 

「またそれか………考えは改めたのか?」

 

『……我は………主に生きてもらいたい。その為なら……』

 

「仲間を見捨てられては困る」

 

 …………スタンドが黙る。

 

 次の言葉が出ないようなので、立ち上がりその場を離れようとすると、服の裾をスタンドが掴んでくる。

 

『………我は……………何をするために存在するのだ…』

 

「……………」

 

『我は……主を守る権利すらないのか…』

 

「……守る対象に、仲間を加えてくれれば万事解決なんだが……」

 

 そう告げると視界が光で白に染まっていき、眩くて私は目を閉じた。そして次に目を開けると、そこには昨夜泊まった部屋の風景が広がっていた。

 つまり夢は覚め、現実に戻ったのだろう。

 

「………夢から追い出された……のか? 都合のいい奴だ」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp‼︎‼︎」

 

「…………礼神、起きろ」

 

「ウォォォォーーッ‼︎‼︎」ガバッ‼︎

 

 隣のベッドで魘されていたので、私は声を掛けて礼神を揺さぶり起こす。

 

「………デジャブ」

 

「………またか」

 

「…たぶん」

 

「多分?…覚えてないのか?」

 

「………うん……でも助かった。レオンさんが起こしてくれたから」

 

「………そうか…」

 

 少し起床時間は早いが、私は部屋を出て礼神に着替える時間を与える。

 今はまだ、日が顔すら出してない時間帯だ…東の空がうっすら明るいだけで、廊下は暗く普通の人なら目が慣れるのに時間がかかるだろう。

 

「レオンさーん。着替え終わったよー」

 

 それを聞いて部屋に戻ると、時間を持て余す礼神はベッドに座り、足をブラブラと揺らしていた。

 

「……アバヤを着なさい」

 

 この国の女性は肌を出すことを禁じられているので、それだけは忘れぬように告げる。

 

「あ、忘れてた。少し時間あるけどどうしよっか…」

 

「大して変わらない……ポルナレフあたりが寝坊しそうだ。起こして出発の準備をしよう」

 

 私の意見に賛同し、礼神はベッドから飛び降りて荷物を片手に部屋を出た。私も自分の荷物を手にして部屋を出た。

 

 

 

 

 

「………おはよう……どうした?」

 

 朝食の場に集まった旅の一行……皆は何故か顔色が悪く、朝食もいつもと比べて喉を通っていないようだった。

 寝ていたはずなのに全員やつれ、疲れを見せている。

 

「……いや……寝てたはずなんだが、ドッと疲れが……」

 

「ワシもじゃ。な〜んか恐ろしい夢を見ていたはずなんじゃが……」

 

「奇遇ですね。僕もです」

 

「そうなのか……全員取り憑かれたように魘されてたぞ」

 

 青ざめた表情を手で覆い、私以外の皆がそう告げる。

 レベルの低いドッキリ………な訳が無いか……む?

 

「花京院……その手首の傷はいつ?」

 

「え?……あぁコレですか。実は身に覚えがなくて……」

 

「見せてみろ。治してやる……む、礼神と同じ切り傷か…」

 

「…え?」

 

「…ん?」

 

 波紋を当てて傷を治していると、花京院どころか、全員が私を見て首を傾げる。そして次に視線は礼神に集まった。

 

「葎崎…テメェ怪我したのか?」

 

「いや…無傷だよ?」

 

「……何言ってるんだ?治したから無傷なだけであって、昨夜、首に謎の切り傷があっただろ」

 

「オメェーこそ何言ってんだ?生憎俺にはサッパリなんだが?」

 

 自身の頭を指でつつきながらポルナレフが言うと、全員がウンウンと頷く。

 

 ………私が可笑しいのか?

 

 その後我々は話を切り上げ朝食に勤しむ。すると、昨日セスナを売ってくれたパイロットが慌てた様子でやってくる。

 何やら話があるようだが、先に朝食を終えたジョセフが相手をしに行ってくれた。

 

「うっし!俺らも食い終わったし発着場に行こうぜ」

 

「あぁ」

 

 ポルナレフの一声をきっかけに、我々はセスナ機が置いてある発着場へ向かう。

 

 ……にしても気になるな。

 魘される礼神、礼神の謎の傷、礼神の記憶欠如…翌日にはその症状が私以外のみんなにも見える。

 私は昨夜は第二のスタンドに夢を見せられたから例外と考えると…………

 

 ポルナレフの言う事も、あながち間違いじゃないのかもしれないな。

 

「少し気になることがある。みんなは先に行っててくれ」

 

「ん?そうか?」

 

「何があるかわかりません。お気をつけて」

 

 アヴドゥルの忠告を聞いてから、私は小さな村をブラリと回ってみる。

 小刻みに周囲感知機能(アラウンドセンサー)を使って周囲に気をくばるが反応は無い。

 

(夢の中で発動……こういった制限があれば遠距離タイプの可能性も……)

 

 軽く周囲を一周してから私も発着場へ向かう。すると前方から約5.6人分のスタンドエネルギーを感じる。無論、承太郎達だろう。

 

「じゃから今更売れんとなっても困るんじゃよ‼︎ 昨日確かに金を受け取ったんじゃろ⁉︎」

 

「金は返すよ。実は赤ん坊が39度の熱を出したね。この村には医者はいないので、医者のいる町に飛ばないといけない」

 

 発着場に付くと、ジョセフとパイロットの揉め事が聞こえてくる。何事かと思い聞き耳をたてると、熱を出した赤子を医者のいる町に連れてくためにセスナを使うとのこと……

 

「戻ってくるのは明日の夕方ね」

 

「夕方だと?4人乗りのセスナはどうした」

 

「昨夜別の用が急にできて飛んでったよ」

 

「あの……こうしてはどうでしょう?満員のセスナでも赤ん坊1人くらいなら載せられます。ですからこの方々に任せてお医者のところへ連れて行って貰えば……」

 

 母親らしき女性にそう言われジョセフも私も断ったが、このまま見殺しにすることもできないので結局連れて行くことになってしまった。

 

「別にいいんじゃねぇの?空を高速で移動するセスナに、どうやってDIOの刺客が来るってんだ?遠距離に優れた恋人(ラバーズ)でも無理だぜ。それに…」

 

 一度口を紡いでから、ポルナレフは買ったセスナのタイヤをを蹴る。

 

(ストレングス)と違ってセスナそのものがスタンドって事もない。だろ?承太郎」

 

「あぁ…それより俺は、ジジィの運転の方が心配だぜ」

 

 無理に赤子を置いて行くのも無理そうだし、皆が賛同するなら仕方ない。

 

「その点は心配いらん。パイロットは私だ」

 

「ならいい…」

 

 私の言葉で安心した様子を見せた皆がセスナの後部席に乗り込む。ちなみに赤子はポルナレフが抱いている。

 それに続き私も操縦席へと乗り込んだ。

 

「おいジジィ、何でテメェがそこにいる」

 

「補助席だ、操縦士は私だと言っただろ?大丈夫だ」

 

「……………」

 

「………大丈夫……だよな?」

 

 先入観のせいだろう……何故か今のジョセフからは、不穏なオーラを感じる。

 

「……ジジィ…代われ」

 

「ワシ泣いてもいい?」

 

 補助席に座ることすら許されないとは………

 

 

 

 

 

 補助席側は特にやる事もないが、一応承太郎に簡単なレクチャーを施し我々は離陸した。

 席順は操縦席が私、補助席が承太郎…2列目にジョセフとポルナレフ(と赤子)、3列目に残りの3人だ。

 

「いや〜空の旅ってのも良いもんだな〜!」

 

「だな…操縦がジジィなら、こうはいかねぇぜ」

 

 補助席と後部席の間でそんな会話をしている。

 いつもなら拗ねて口を挟むだろうジョセフだが今は静かだ…気になり一瞬後ろを盗み見たが、ジョセフは目を閉じ背凭れに体重を預けている。私の真後ろで眠っているようだ。

 

「ポルナレフは飛行機とか乗ったことないの?」

 

「いや、もちろんあるぜ?でも窓側の席に座れない事も多いし、窓小せぇし景色は楽しめないだろ」

 

「飛行機は飛ぶとすぐに雲の上だからな。僕もこうやってマジマジと見る機会は初めてかな?」

 

「にしても乗り物って…どうしてこう眠くなるんだ?レオン、俺は寝かせてもらうぜ。ついたら起こしてくれ」

 

 そう言ってポルナレフは眠りにつき、やがて機内にはエンジン音と風を切る音だけが日常音の様に流れる。

 

「…………ん?」

 

「おろ?レオンさん どうしたの?」

 

「……大だ……ポルナレフを起こしてくれ」

 

 いち早く赤子の分泌物が、私の嗅覚を苦しめる。

 眉間に皺を寄せてそう頼むと、アヴドゥルがポルナレフを起こす。

 

「……………」

 

「どったのポルナレフ?」

 

「…いや、なんかまた悪夢をねぇ……それよりオムツねオムツ、ハイハイ……ってなんじゃこりゃ⁉︎ オメェ履いたままウ◯コして恥ずかしくねぇのか⁉︎人として‼︎」

 

「赤ん坊だから当たり前だ。だからムツをしてるんだろ」

 

「ウゲェ〜、マジか…知らなかった………それはそうとどうやるんだ?」

 

「見てらんないよポルナレフ…赤ちゃんプリーズ。僕がやるよ」

 

 赤子を逆さに持つポルナレフを見かねて礼神が名乗り出る。

 操縦席からは見えないが、手際良くできているらしい。

 

「はへー、手際良いな。お前妹か弟でもいんのか?」

 

「いたよ…昔ね。僕は孤児院で育ったから、4人の年下の子がいた。そりゃオシメくらい何度も替えるよ」

 

「エッ……そりゃ…悪い事を聞いたな。悪い」

 

「別にいいよ。今は幸せだし」

 

「へぇー、優しい親御さんに引き取られたんだな……」

 

「……ポルナレフ……その話はそれ以上するな」

 

 悪気はなかったんだろうが、ポルナレフの言葉に礼神が返答する前に、承太郎はその話を切り上げさせた。

 賢明な判断だ…私だってそうするつもりだった。

 

 引き取られるも何も…放火魔によって孤児院が全焼し、礼神は従業員だったエーデルガルトと今は暮らしているのだ。それを彼女の口から説明させるのは、可哀想だしさせたくはない。

 

「………………」

 

 今思えばあの放火事件……

 

 

『これが僕のコンプレックス…恐ろしいだろ?』

 

 

 放火魔は捕まる前に心臓麻痺で死んでいた……

 生まれつきあったその能力で身を守ったのかもしれない……

 

 

『いざ使ってみると、嫌な事思い出しちゃって……』

 

 

 声で犯人を仮死状態にさせて死に持って行ったのだろう……

 だが彼女の能力は無差別………

 

 

『僕は女神なんかじゃない…死神なんだ』

 

 

(……つまりはそういう事か)

 

 彼女が背負う罪の意識……それがどれだけ大きいのか、私には到底わからないし、理解しようとして踏み込んではいけないのだろう。

 

「う………うーむ……ぐ……おぉ…」

 

「ん?なんだ?」

 

 突如として漏れるように聞こえてきた唸り声。

 操縦に気を使いながらも、私は振り向いて確認する。それと同時に………

 

「う、ウォォーーーッ⁉︎ 止めろ‼︎ 止めるんじャァァア‼︎」

 

「グッ⁉︎」

 

 魘されるようにジョセフが酷い寝相を披露する。両手を振り回し、辺り構わず暴れている。

 

「しまった‼︎ 此奴、操縦桿を⁉︎」

 

 アヴドゥルが慌ててジョセフを後ろから止めたが、ジョセフは脚で操縦桿に蹴りを当ててしまう。

 結果…操縦桿は大きく回転する………

 

「ま、まさか……墜落するのか?」

 

「………あぁ…」

 

「あぁ…じゃねぇよ‼︎ なんとかしろよパイロット‼︎」

 

 水平を保って飛んでいたセスナはキリモミに……軌道修正などできず、回転する世界の片鱗に近づいた地面が見える。

 

「ウワァァァァア⁉︎」

 

 誰とも分からぬ悲鳴が聞こえ、セスナは重力にしたがって落下速度を加速させる。

 

 だがそれは次第にゆっくりと減速し、やがて一瞬だけ空中で停止する。

 

「………W-Ref…」

 

 高度2mほどの位置で、逆さになったセスナは空中停止していた……しかしそれも一瞬…重力に従ってセスナは、地面に不時着した。

 

 W-Refで運動エネルギーを吸収し不時着させたのだが、誰も無傷の生還に喜ぶものはいなかった。

 赤子も無事でセスナ以外は何も失っていないのだが、ジョセフだけは大きな物を失った。

 

「ジョセフ………お前もう帰れ……」

 

 墜落した衝撃で目覚めたジョセフに、私はそう冷たく言い放つのであった。

 

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