ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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39.夢を見せし者に悪夢を

 破損した右翼の側面、潰れた左側のタイヤ、回りはするが曲がったプロペラ、ヒビの入った窓ガラス………そして…

 

「セスナは………使えそうか?」

 

「………気になるなら命を張って操縦してみろ」

 

「ごめんなさい」

 

 そしてその前で正座する初老…ジョセフさん。

 そのジョセフさんの前で仁王立ちするのはレオンさんと承太郎……ジープ壊した時もこのアングル見たなぁ〜

 原作と比べれば原形を保っているが、結局のところセスナは使えないようだ。

 

「ジジィ……テメェこの旅を終えたら、二度と乗り物に乗るな」

 

「そ、そこまで言うことないじゃろ」

 

「それもそうだな。ジョセフ…1人で乗る分には構わないぞ」

 

「……事故前提で言っとるのか?」

 

「あぁ。その左手の義手も旅客機墜落が原因だということを忘れたか?」

 

「どうする?ひとまず塩でもかけるか?」

 

「ポルナレフ大変だ。食用の塩しかない……」

 

「ジョースターさん…今度、腕のいいお祓い師を紹介しましょう」

 

 ポルナレフと花京院は悪ノリして冗談めいてるが、アヴドゥルさんだけ結構マジで考えてるね。顎に手を当てて記憶を手繰り寄せてる感じ……誰を紹介しようか悩んでるのかな。

 

「それはそうと……セスナが使えないとなるとしばらく徒歩か……今日はココで野宿し明日出発しよう」

 

「了解しますた。それじゃ僕は夕飯を…」

 

「あー、ならワシはベビーフードを作ろう」

 

「罪滅ぼしか?構わないが」

 

 レオンさんの言葉を聞き流し、ジョセフさんは赤ちゃんを抱き抱える。

 

「にしてもこの子の熱が下がってよかった。怪我もないようだし」

 

「すまないな。ジョセフの悪運に巻き込んでしまって」

 

 そんなジョセフさんの肩から顔を出し、レオンさんは赤ちゃんにそう告げた。まだジョセフさんに(精神的)攻撃を続けるつもりなんだろうか。

 

 そう思ったがレオンさんは、僕らから離れるように歩き出した。

 

「レオンさんどこ行くの?」

 

「考え事だ。遠くまではいかないから、少し1人にしてくれ」

 

 

 

 

 

 その後は夕食を終え、僕らは寝袋に包まってみんな眠りについた。

 何で眠ろうとすることに恐怖を覚えるんだろう…昨日もそうだった……

 

 その時は何故かわからなかった…毎度決まって、眠ってから気付くんだ……そういうスタンドなんだから当たり前なんだけどね。

 

 気がつくと僕らは遊園地にいた。

 

『ラリホー‼︎ 昨日は訳あって時間が足り無かったが、今回はもう起こすやつがいねぇぜ‼︎』

 

 何故こうなったのか………それは記憶を消されたからだ。

 最初の被害者は僕……ヤプリーンについて仮眠を取ると、すぐさま術中に落ちてしまった。まさかその時に原作知識まで忘れさせられるなんて………

 その日の夕食時に作戦会議だったんだけど、死神13(デスサーティーン)の能力だけは、先に告げておくべきだった。

 バタフライ効果云々言ってた過去の自分を殴りたい……

 

「……みんないる?」

 

「…あ、あぁ。クソ…また来てしまった」

 

 死神13の能力は、寝ている者の精神を自身が作り出した夢の空間に引きずり込むというもの……

 

 この空間は死神13自身が作り出した空間であり、常に遊園地のような外観を有している。また、この空間におけるあらゆる現象は死神13の思い通りになる。

 夢の中で攻撃されると現実でも同じように傷がつき、殺されると現実でも同様に死ぬ。

 

 そして何より、このスタンドの一番厄介な点は、目覚めると夢の記憶が消える事……覚えていなければ対策はできない。

 

 寝ている時に身につけていた物は夢の中に持ち込むことができる。それはスタンドも例外ではない……寝る前に発現させなければ夢の中では使えない。

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()という大原則があるため、夢の中においては死神13は、一方的な攻撃(勝利)が可能ということになる。

 

 そんな世界に僕は、3度も来てしまった……

 

「どうすんだ礼神‼︎ 結局みんな寝ちまったじゃねぇか‼︎ 前の夢で掘った傷文字も、奴に消されちまってる‼︎」

 

「礼神を責めるなポルナレフ! お前には他に策があったのか⁉︎」

 

「言い争ってる場合じゃねぇぜ‼︎ 今度ばかりは起こす奴がイネェ‼︎」

 

「そうだ‼︎ レオンさんは⁉︎ 彼はどこに⁉︎ 唯一の希望といえば彼ぐらいしか………」

 

 花京院の言葉でレオンさんの事を思い出す。

 彼だけは昨日、死神13の術に落ちなかった。何故かはわからない…W-Refで無力化したのかもしれないし、違うかもしれない。

 

『ラリホー‼︎』

 

「やばい‼︎ ひとまず逃げろ‼︎」

 

 ピエロフェイスの死神が、無邪気に鎌を振り回す。

 この世界は奴の思いのまま……その気になれば地面を泥沼化して捕縛だってできる。

 それをしないのは楽しんでいるからだろう……勝ちの決まった理不尽なゲームを……

 

『ラーリホーー‼︎』

 

「ヌォッ‼︎」

 

「アヴドゥル‼︎」

 

 足首を切られたアヴドゥルさんが前のめりに倒れる。

 ニタニタと笑う死神は、面白そうに……そして焦らすように鎌を、アヴドゥルさんの首にかける。

 

『ラリホー…まずは……1人』

 

「む、ここにいたのか………っと、それどころではないか」

 

「レオン⁉︎」

 

 メリーゴーランドの影からレオンさんが現れる。その表情は何処か思い詰めているのか、ウンザリしているかのようにも見えるし、何かを諦めている様にも見える。

 

『ホッ⁉︎、お、お前は‼︎』

 

 レオンさんに視線が集まる中、背後で死神が喚く。その声に反応して振り返ると、死神は痙攣してから、やがて力無く停止し動かなくなった。

 

「アヴドゥル、無事か?」

 

「え、えぇ…一体何が?」

 

「レオン…………まさか……」

 

「察しがいいなジョセフ。単刀直入に言う…目覚めたら私から離れろ」

 

「一体何を言って……」

 

 

 

 

 

「……おろ?」

 

 ……目が覚めた…

 

 寝袋から這い出て起き上がると、僕を除いた5()()が丁度上半身を起こし、星空の下で僕と同じように周囲を見渡している。

 承太郎、花京院、ジョセフさん、アヴドゥルさん、ポルナレフの5人だ………レオンさんはというと、僕らより先に目覚めていたのか、赤ちゃんの首根っこを掴んで宙に持ち上げている。

 

 その手にはW-Refが発現されており、スタンド能力を無理に解かせたんだとわかる。

 不本意な解除だからなのか、記憶はまだ残っている。忘れていた記憶もすべて……多分みんなも覚えていると思う。

 能力の発動中に目覚めたのではなく、目覚める前に能力が解除された……多分この辺の違いが記憶に関係するのだろう。

 

「みんな…よく聞け。今すぐこの場を離れるぞ…何のアクションも取らずに離れるんじゃ」

 

 いつの間にか中腰になり移動していたジョセフさんが、切羽詰まった小声で僕らにそう告げてくる。

 

「何でだ?」

 

「いいから早くしろ!」

 

 ポルナレフの疑問を一刀両断……ジョセフさんは焦りを見せて小声で怒鳴る。身体は既に背を向けて、離れようと足を踏み出している。

 何をそんなに慌てているのだろう。

 

「ゲッ…ゲプッ…」

 

「ぅ……ぁ……』

 

 その時、レオンさんの方から二種類の呻き声が聞こえた。

 1つは呼吸の儘ならぬ赤ちゃんの声……もう1つはレオンさんの声……だと思う。

 何故かいつもと違って、軽くノイズが掛かっている感じがする。

 

「おいレオン!その辺にしとけよ!」

 

「ま、待つんじゃポルナレフ‼︎」

 

 敵であっても相手は乳幼児……それを見てられず、ポルナレフはレオンさんの手から赤ちゃんを奪い盗る。

 

「確かに俺らは此奴に殺されかけたが、そこまでやる必要はないだろ?」

 

「バカモン‼︎ さっさと赤子を置いて逃げるんじゃ、ポルナレフ‼︎」

 

「逃げる?ハッ! 一体何から?」

 

 鼻で笑うポルナレフ…しかしジョセフさんの表情はドンドンと険しくなる。レオンさんは赤ちゃんを掴んでいた手で頭を抑え、低く唸り苦しんでいる。

 

「おい…レオン?……一体何が」

 

「近付くな承太郎‼︎」

 

「何をそんなに慌ててんだジョースターさん? ちゃんとわかるように1から説明してくれよ」

 

「わ、ワシは……天秤に掛けただけなんじゃ………その赤子の命と……()()()()()()()()()()()………」

 

「何を訳のわからない事を…「エメラルドスプラッシュ‼︎」 ドワァ⁉︎」

 

 突如として横から伸びてきた宝石の弾幕……それはポルナレフの脇腹から足にかけて被弾し、赤子を抱いたまま弾き飛ばした。

 

「イッテェな‼︎何しや……が……る⁉︎」

 

『ぅ……ぐ………離……れろ……」

 

 直径3mほどのクレーター……それが数秒前にポルナレフがいた場所に出現していた。

 そのクレーターの真ん中には群青色の炎が横たわっていて、その炎の片方の端っこはレオンさんの腰に繋がっている。

 

「二撃目が来るぞ‼︎」

 

「シ、銀の戦車(シルバーチャリオッツ)、グァッ⁉︎」

 

 薙ぎ払うように振られた炎はポルナレフの脇腹を捉えたかのように見えた。だがそれは、間一髪で現れた彼のスタンドがガードしてくれたので、致命傷は避けられた。しかし……

 

「大丈夫かポルナレフ⁉︎」

 

「い…今の一撃でチャリオッツの鎧が砕け散った……なんて威力だ…」

 

 防御力を失い次は無いと思った矢先に、躊躇なく攻撃してくるレオンさん……一体どうしてしまったのだろう。

 

星の白金(スタープラチナ)‼︎」ドゴォン‼︎

 

『………………」

 

 ポルナレフの前に立ち、承太郎が群青色の炎を殴る。

 群青色のその炎は消し飛んだかのように見えたが、火力を増した炎のように一瞬膨張し、元の形に戻った。

 

「レオンの背中が少し盛り上がっている…スタンドか?……スタンド像がレオンの身体と重なってるのか?」

 

『……………』ギロッ

 

「しまった‼︎ 今ので承太郎も敵と認識してしまった‼︎」

 

「だからよぉ‼︎ジョースターさん‼︎ 一体全体どうなってんだよ‼︎ 説明はまだか⁉︎」

 

「今は自分の命の心配だけをしていろ‼︎ さもなくば殺されるぞ‼︎ ()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

『………主を守るのが我の役目だ』

 

 レオンさんのものではないノイズのかかった高い声……それを発したレオンさんに似た何かは、腰辺りから更に炎を生やし、計9本の炎を携えている。

 そして光の無い空洞のような瞳で、彼は僕らを見つめるのだった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ……夢から覚めてどれ位の時間が過ぎたのだろう……

 

 気がつくと私は暗闇の底で捕縛されていた。

 全身に掴み掛かった灰色の無数の腕……視界は暗闇しか認識させないが、頭痛と共に脳内に見覚えのない映像が流れる。

 

「…これは………あの赤子か?」

 

 首を掴まれ宙にぶら下がる赤子……映像の手前から伸びる右腕がこの子を掴んでいるようだ。

 

「この手は私の腕か……」

 

 尖った爪と紫色のネイル…

 そこで私の右手が、無意識に力を込めている事に気付く……映像の腕と連動しているのだろうか………私は無意識に対して必死に抵抗した。さもなくば赤子の首は折れるどころではなく、握り千切れるであろう。

 だがコレは赤子の為ではない……奴から身体の所有権を奪い取るためだ。もし殺して血の匂いでも嗅げば、此奴は獰猛性を増す。

 

「…なっ!来るなポルナレフ‼︎」

 

 ポルナレフが赤子を奪い盗る映像が流れる。

 全身に力を込めて抗うが、錆びた音を立てる手が私を離さない。

 

「ここは……恐らく私の精神世界……ここに来るのも……二度目だ……」

 

 初めて第2のスタンドが顔を出した時も私はここに来たことがある。その時にスタンドの危険性と、所有権を奪いかえす方法を知った。

 

「意識を強く……早く……戻れ……」

 

 手が更に錆びて朽ち、右腕が解放される。

 解放された腕で頭を押さえ、頭痛に耐えながらも現実に戻ることに集中する。

 

「クッ……また⁉︎」

 

 背後から新たな手が1本伸びてきて私の右腕に絡みつく。

 すると映像の方ではポルナレフが何かにぶつかって飛び、その直後に青黒い炎が地面に叩きつけられクレーターを作った。

 

「早く……戻らねば……誰かが……死ぬ前に‼︎」

 

 意識を強く持つと手が次々と朽ち果てる。だが次々と新たな手が私に纏わりつく。

 そんな手の大半が急に崩れ落ちた。脳内に流れる映像で、丁度承太郎に殴られた時だ。

 

「…なるほど……色々と分かってきたが…今はそれどころでは………」

 

 全ての手が朽ち果てるのにどれだけの時間を労しただろう。

 最後の1本になった時には頭痛は消え、映像の私も動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………怪我人は?」

 

「……レオンか?戻ったのか?」

 

 目を開けると私の視界に、映像ではないリアルが映った。

 

「あぁ……で、怪我人は……」

 

「ポルナレフと承太郎が軽傷……他は無事じゃ、赤子も含めてな」

 

 それを聞き私は赤子の元へ足を運ぶ。

 赤子は私を見ただけで涙を浮かべ恐怖していた。オマケに失禁している。

 

「皆の記憶は元に戻したのだろうな?」

 

 この世の終わりのような形相で、何度も首を縦に振る。

 嘘はついていないようだ。

 

「もし嘘だったりもう一度我々の敵として向かってきたら、私は貴様を探し出し、容赦なく頭骨を踏み砕いてやる。わかったな?」

 

 最後にそう脅し、私はみんなの方へ身体を向けた。

 

「……いつかはバレると思った。だがこのスタンドは知られたくなかった…少なくとも旅の道中ではな……だから黙ってた…それを踏まえて聞きたいことがあるなら聞いてくれ」

 

 力なくそう言った私に、最初に質問したのは承太郎だった。

 

「さっきのは何だ」

 

「私のスタンドだ。DIOと同じで私の身体には他者の遺伝子が入っている。それが原因だろう」

 

「何故隠していた」

 

「見ての通り操作が利かない……暴走気味なんだ。私だけを守ろうとする……そんな私に少しでも害成す者は皆殺そうとする。それ以外の思考回路がないんだろ」

 

「ふざけんな‼︎ それでこっちは死にかけたんだぞ‼︎」

 

 堪らず声を荒げるポルナレフ……それもそうだ…仲間内で危険に晒されれば当たり前………私はゆっくりと口を開いた。

 

「……だな。私の責任だ………まだ大丈夫だと思い込んで旅を続けてしまった……結果私は……仲間を傷つけた」スッ

 

「ッ⁉︎」

 

 

 それに関しては謝る事しか私にはできない。

 

 ………不完全究極生物の誠心誠意の謝罪………

 

 それは皆を黙らせるには十分な行為だったようだ。

 

 

「……何やってんだ……レオン……らしくねぇじゃねぇか…」

 

 深々と頭を下げる私を見て、珍しく承太郎がワナワナと震えている。やがて承太郎は私の胸倉を掴み、素手で思い切り殴りつけてきた。

 

「承太郎‼︎」

 

「ヤカマシィッ‼︎ 止めるんじゃねぇ‼︎ おいレオン……テメェの言いたい事は十分わかった。その上で何故俺らを頼らねぇ‼︎ 」

 

「……承太郎…」

 

「テメェにとって俺らは何だ⁉︎ そんなに頼りねぇか‼︎………テメェは…………お前は………」

 

 ……違うんだ承太郎……そういうことじゃない………

 お前が私の立場だったら同じことをするだろ?

 その時は私も、お前と同じことをするが………

 

 なのに「頼らない」という行為が、

 互いに理解できないのは何故なんだろうな……

 

「よせ承太郎……レオンさんだって辛かったんだ。彼はこの道中でもスタンドに悩まされ、ホリィさんと同じように高熱で苦しんでいた」

 

「なんだと⁉︎ レオンさん、それは本当ですか⁉︎」

 

 神妙な表情だったアヴドゥルが声を荒げる……それを無視して私は花京院を見つめる。

 

「…それは言わない約束だろう…花京院…………はぁ…そろそろ潮時か……」

 

「おいレオン……何を考えていやがる?」

 

 殴り飛ばされたままの体勢だった私は不意に立ち上がり、自分の荷物に手をかけた。

 

「これ以上仲間を傷つけないためだ……私は私で旅を続ける。別行動だ………もしかしたら途中で力尽きるかもしれんが、運が良ければ克服の糸口を見つけられる。仲間がいなければスタンドの暴走による被害もないだろ」ガッ

 

「………………」

 

「………離せ、承太郎」

 

 歩き出すと承太郎が腕を掴んでくる。

 しかし何を言えばいいかわからず、無言を決め込んでいるようだ。

 

「……では意見を聞こう。私はこれからどうすれば良い?」

 

「………………」

 

 誰も何も答えない。答えられない……

 十数秒かけてそれを確認して承太郎の手を振り払うと、赤子の入ったバスケットを持ち歩き出した。

 

「此奴がいると寝れんだろう。此奴は私が連れて行く」

 

「レオン……最後に答えろ」

 

「………何だ?」

 

「テメェはまだ………何かを隠しているのか?」

 

 ……承太郎も勘の鋭い男だな…

 

「………さぁな」

 

 肩をすくめる私に対し、承太郎は鼻で笑い安堵する。

 

「そうか……よかった」

 

「………何だと?」

 

「テメェがまだ何かを隠してるのは確かだ…それを言わないってことは、まだ先の事を考えてるってことだ。この自論はレオン…テメェが教えてくれたことだぜ」

 

 ………そういう鋭い所………少しジョセフに似ているな。

 

「レオン………あまり俺の中の憧れを崩すんじゃねぇ」

 

 …………憧れ?………承太郎のか?

 

「……クッ……ハハハッ‼︎ ふざけるなよ承太郎…貴様にそう言われたら、タダでは死ねないじゃないか」

 

 何故か気が軽くなり気持ちよく笑うと、私は承太郎に正方形のブロックを投げ渡した。

 予備の携帯機器だ。

 

「私が2つ持っても意味などないからな……無くすなよ?」

 

 それを最後に歩き始めた。

 今度は誰も止めない…止められない……

 

 コレばかりは私の力で解決しなければいけないからだ。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「……行っちゃったね…いいの?」

 

 レオンさんが闇夜に消えた後……誰に対してでもなく、ポツリと僕は呟いた。

 その疑問を掬ってくれたのはジョセフさんだった。

 

「構わん……旅の道中でこうなる事も、薄々感付いてはいた」

 

「俺たちは初耳だがな。ジジィ、いい加減説明しろ」

 

「……あのスタンドが発現したのは、レオンがW-Refと呼ぶスタンドに目覚めた後じゃ。もしかしたら同時に目覚めた可能性もあるが、初めて姿を現したのはSPW財団の施設内でスタンドを調べていた時じゃ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 あの頃は確か、時系列的にアヴドゥルと知り合った後の事じゃ……スタンドについて聞いたワシは、レオンと共に財団の施設で可能性を調べていた。

 

「この手袋とブーツ……そしてジョセフの棘……それはスタンドと呼ばれるのか…」

 

「あぁ。アヴドゥルはそう言っていた。生命あるビジョンだとか……」

 

 そんなこんなで思いつく範囲で色々と試していたのじゃ。

 レオンのスタンド能力はすぐわかった……装着型となれば、それで物を殴ってみたりすることは皆考える。

 それを試してから感覚的に、衝撃が吸収されていることに気付いたのじゃ。

 

 それで次に、吸収量の上限を調べた。

 スタンドを出した手に向けて拳銃を発砲してみようとしたのじゃ…

 

 ……そこで事故が起こった。

 

 財団の人間に出しゃばりな新人がいての………

 前に大事な仕事で重大なミスを犯した大馬鹿者じゃ。

 

 そいつは何でもいいから協力がしたかったんじゃろ。

 

「スゲー、自分モノホンの銃持つの初めてっすよ」

 

「いいから寄越せ。そんな不真面目な性格だから重大なミスをするんだろうが」

 

「レオンさん厳しいっすね。そんな口聞くと撃ち抜いちゃいますよ?バンバーン……何つってw」カチッ

 

 

 ーーーーーードォンーーーーーー

 

 

「……あり?……え、あ、……違ッ……」

 

 本人は引き金を引いていないと証言しているが、故意にしろ暴発にしろ其奴の責任じゃ。

 ふざけ半分で振り回し発砲の真似事をした新人は、レオンの喉を銃弾で撃ち抜いた。

 

 それだけならまだ間に合ったかもしれない……

 気が動転したそいつは発狂し、錯乱状態で銃を乱射……そこでレオンの身に危険を感じ、奴が初めて顔を出した。

 

「…あれ……腕……痛い…え?」

 

 発狂状態から現実に戻ってきた新人は、自分の腕が貫かれた事に気付き、また発狂しそうになった。

 しかし無事だった手でドアを開けて逃げ出し生き永らえた。

 

 代わりに放置されたレオンは、1発だけ地面に攻撃したという。新人の持っていた銃を、スタンドが破壊しようとしたのだろう。

 

 地面に転がった銃を床ごと粉砕……制御しきれないオーバーアクションで建物は崩壊……死者 数十名…重症 数百名の事故に変わった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「……ワシも当時、警備室で監視カメラ越しに見ていた者から聞いただけで、それ以上の詳細は知らん。1つ言えるとすれば、レオンはその日に無辜の研究者達を無意識のうちに葬ってしまったということじゃ」

 

「ジョセフさん。その逃げた新人はどうなったの?」

 

「元々重大なミスを犯したが、レオンの情けで首の皮を繋げていた研究者じゃ。今度ばかりは首を切られたよ」

 

「ヒデェ話だな」

 

「そのスタンドについてわかったことは何かないんですか?」

 

「特にない、何もわからぬままじゃ。アヴドゥル……君にレオンがスタンドに蝕まれていることを当時言わなかったのは、ワシも蝕まれてるとは気付いていなかったからじゃ。日本を発つ前にワシも知った……偶然な。そして礼神、花京院同様に口止めをされた………ワシから言える事はこれぐらいじゃ」

 

 一通り話し終えると辺りはまだ暗いが、夜中にしては少しだけ明るくなっていた。

 

「さて……少しでも休もう……これ以上労力を無駄にはできん」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「もしもし……私だ。今から指定する場所に荷物を運んでくれないか?昔使っていた装備一式だ……あぁ…頼む」

 

 明るくなりつつある星空の下で、私は通信機器を使い財団にアイテムの要請を頼む。仲間との関わりを断てば襲われた時の危険性はある。だが代わりに、周囲を心配せずに動ける身の軽さはメリットだ。

 携帯機器を懐に戻すと、私はボトル1本分の血液を飲み干して荷物に手をかける。

 

「………そんなに私が怖いか? 替えたばかりなのに失禁とかはしないでくれよ?」

 

 恐怖で震える赤子の入ったバスケット……手に持ってみると、私の手にも振動が伝わってくる。

 だが仕方ない……私は夢のスタンドだと薄々感づいたが、能力の詳細はわからなかったのだ。

 

 結果私は、私の意思に反するスタンドに交渉した……

 奴なら夢の中で私の身に何かあっても、眠った私の体を使い本体を倒すと思ったからだ。睡眠中の私の体を操作できることは事前に確認済み。

 

 あのまま本体を殺したとして、皆の記憶がどこまで失われてるかはわからない……だが礼神の原作知識が消えたままの可能性もある限り、下手には殺せなかった。

 

 そんな慎重に考えつつも、結局はスタンドに任せるというギャンブルをしてしまったわけだが……

 

『賢明な判断だったと我は思うぞ』

 

「……貴様が暴走しなければ、私もあの判断に胸をはれたんだがな」

 

 頭痛と共にノイズ音が脳内に響く。

 

『我はヤプーリンで主が寝たとき、既に死神と戦闘している。主を夢に引き込もうとしたところを返り討ちにした……倒せなかったがダメージは与えた……だが不安に思いその後、主を夢に誘ったのだ』

 

「ほぅ……既に私は貴様に守られていたのか………それとヤプーリンではなく、ヤプリーンだ」

 

『主よ、そろそろ我を受け入れてくれまいか』

 

 ……どうしたものか……今なら赤子以外誰もいない。

 だが1度気を許してその後も度々出てこられては困る……だがいつまでもこの問題を抱えている訳にはいかない……

 

『…!』

 

「…何だ?」

 

『主が受け入れるか悩んでくれている』

 

 ………周りには無関心だが、私の変化には食い付いてくるのだな。

 だが未だに謎の多いスタンドだ……そう易々と受け入れていいのだろうか?

 

「……貴様は受け入れさせてどうするつもりだ?」

 

『主人を守る…それが我の使命だ』

 

「それはわかった……そうだな、単刀直入に言おう。貴様に聞くのは少しおかしいが、私が知りたいのは()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

『…デメリット……』

 

「そうだ…」

 

 しばらく応答が無くなる…また都合良く逃げられたとも思ったが、頭痛はまだ引いていない。まだ会話ができる状態なはずだ。

 やはり直接聞くのは間違いだったか?

 

『………少し考えさせてくれ』

 

「考えるのか……意外だ」

 

『それで受け入れてくれる可能性があるなら、我はその答えを探そう。主の意に反する時は、主の身に危険が迫る時だけだ』

 

 やがて頭痛は引き…赤子の荒々しい呼吸音だけが聞こえるようになる。

 

「……そんなに怖いか?」

 

 過呼吸気味の赤子に視線を落とし、私は苦笑いで呟いた。

 頭が良くとも年齢は赤子……トラウマを植え付けてしまったな。

 だが結局のところは敵として現れたDIOの手下……そこまで気にかける必要もなく、私は鼻歌交じりに砂漠を歩いた。

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