時刻はわからない。しかし日は既に沈んでしまっている。備え付けのランプが淡い光を放っている。
そんなジョースター邸にいるのは私と吸血鬼となったディオのみ……私の武器は五発分の弾丸の入った拳銃…それと前世から磨いていた合気道だ。
「WRY………」
ディオが低く唸る。彼の武器はその肉体のみ……だが私が圧倒的不利だ。相手は人類を超越した吸血鬼……
「だが私は臆さない…今まで通り、力無くして倒す」
「やってみろ!このディオに対して‼︎」
窓に腰を掛けていたディオは悠然と立ち上がる。そして私にゆっくりと近づいて来る。
(何処からどの角度で攻撃してくる?)
それを見極める為に、私は脱力して全神経を目に集中させる。人類には稀に、能力を削ぐことで他の能力が向上する者がいる……目を閉じれば聴覚が一時的に良くなる者のようにな。
そして私もその部類だ。脱力して無心になる事で反射神経を高められるのだ。
「その目だ……」
僅かな攻撃予備動作も逃さないように集中していると、ディオが足を止めて口を開いてくる。
「お前のその目が私は憎いのだ。貴様の気高く冷静なその目がな‼︎」
立ち止まったかと思えば、ディオは床を蹴り上げて瓦礫を飛ばしてくる。少し驚いたが園児が投げたボールのように遅く見える。
ランダムで飛んで来る瓦礫の中で自分に被弾する物だけを見極める。そして被弾する物の側面を撫でて軌道をずらす。
この技は銃弾すらも軌道をずらせる技だ……理論上の話で試した事はないが、私もそれは可能だと思う。
「かかったなアホが‼︎」
気がつくとディオが頭上にいた。瓦礫は目眩しだったらしい。
前世の母に感謝しよう。合気と超感覚の才能ある私を産んでくれて。
「無駄だディオ」
彼の振り下ろした拳を受け止める。それと同時に、同じ速さで後退すれば勢いこそ消せないがダメージは消せる。
私は彼の腕を鉄棒のように扱って吹き飛ぶように逃げる。
「ほう……レオン、お前は何度も私を驚かせてくれるな。ところでその拳銃は使わないのか? お前の武器はソレと体術のみだろう?」
「そうだ…武器はこれだけだ……武器はな……」
その時、ディオの頭上から瓶が落下してくる。吸血鬼ならばその聴覚で気付けるだろうが、生憎今は瓦礫の崩壊音がそれを邪魔している。
「私は成功確率の低い策を武器とは呼ばないんだ」
そしてその瓶はディオの頭部に打ち付けられ、瞬時にヒビが入り中身が漏れる。
「今回は……成功したがな」
「URYYYAAAAA⁉︎」
瓶の中身は濃硫酸という酸性の溶解液だ。この日の為に作っておいたのさ。
「吸血鬼の再生速度は異常だが、皮膚に染み込み深く溶かすソレに耐えれるかな?」
ここぞとばかりに発砲。扱うのは初めてだが、向けた方向に弾が飛ぶという事実だけ知ってれば、このくらいの距離で頭に当てるのも難しくは無い。
………外すのが怖くて、五発全て撃ったがな…しかも結局被弾数は二発。
「おのれレオンッ‼︎」
痛みに耐えながらもディオが突進して来る。その間に私は、壁に掛かっていた模造刀を取る。切れ味は悪いが、鉄の棒としての働きくらいはしてくれるだろう。
さっきと同じ方法で受け流すのは危険が高い。ディオが殴る速度を変化させれば一巻の終わりなのだ。
「ディオォォォオオ‼︎」
……戻ってきてしまったか、ジョジョ。仕方ないか……君はそんな男だ。
声だけ聞いてジョジョが来たことを察する。目を離そうものなら、その瞬間私は死ぬからな。
「フンッ、ジョジョか……尻尾を巻いて逃げればよかったものを‼︎」
ディオは攻撃を止めてジョジョにターゲットを移す。彼に被害が出るのはごめんだが、私はこれを利用しよう。
注意がジョジョに逸れると、私は模造刀をディオの心臓に突き刺す。本当は脳を狙いたかったが、血の流れに支障が出ればパワーダウンするだろう。
「…やはり甘いなレオン……貴様ならそうすると思ったぞ‼︎」
「なんだと?」
肉に突き刺す感触とともに、模造刀は確かにディオを貫いた。だがまるでノーダメージなのは予想外だ……ん?模造刀を伝って感じるこれは心臓の鼓動か? いや違う。
「貧弱貧弱ゥ‼︎」
筋肉をポンプのように動かして血液を循環させているのか………しまった、こんな事を考えてる場合じゃなかったな。
手遅れな事に、丸太のような太長い足が眼前に迫った。
ー
ーー
ーーー
「ジョースターさん‼︎ ダメだっ‼︎」
「止めないでくれスピードワゴン‼︎僕はこれ以上家族を失うわけにはいかないんだ‼︎」
スピードワゴンが止めようとするが、それを振り切ってジョジョが館に飛び込む。
「レオン様…ジョナサン様…」
リリーは服の下に隠れたペンダントを取り出し、それを両手で握って祈り始めた。しかしその祈りは届かず、レオンが窓を突き破って外へ飛んでくる。
地面を一度バウンドしてから、何かに引きずられるように地面を転がる。それが止まるとレオンは立ち上がろうとするが、両腕を持ち上げただけで激痛が走る。僅かに持ち上がった頭もやがて下がり、オマケに吐血する。
「「レオン(様)‼︎」」
スピードワゴンとリリーが駆け寄ってくる。
「おいしっかりしろ‼︎ レオン‼︎ 聞こえるか⁉︎」
「えぇ聞こえます。ですから耳元で騒がないでください」
「レオン様、大丈夫ですか⁉︎」
「痩せ我慢は得意だが大丈夫に見えるか? 両腕骨折、臓器に折れた肋骨が刺さってるかもしれないな………」
咄嗟に両腕で頭部を守りバックステップを踏んだが、ディオの蹴りを消し切ることは出来なかったようだ。
「そんな……レオン様…」
「二人共……もう少し近付いてくれ…大声も出せないんだ」
レオンがそう言うと、二人は口元に耳を近付ける。レオンが発する弱々しい声を聴き終えると二人は驚愕する。
「な、何を言ってるんですかレオン様‼︎」
「そうだぜ‼︎そんな事を俺はさせれねぇ‼︎」
「お願いだ二人とも…私はもう動けないんだ」
「俺に……そんな酷な事をさせようってのか⁉︎」
「この選択に私とジョジョの生死がかかっている。私はこのままでは死ぬ……だがジョースター家を…我が親友ジョジョを、私の血族で消し去りたくないんだ……」
ー
ーー
ーーー
「……わかりました。私、探してきます」
良かった…私の願いを聞いてくれるのか。リリーがドレスの裾を掴んで踏まぬように持ち上げる。そして走り出そうとすると、その先に人影が現れる。
「ここにあるネ」
いつの間にいたのか、ワンチェンが残念そうな顔を浮かべて石仮面を持っていた。
「ワンチェン⁉︎」
「本当は持ってトンズラしよう思たけど、ミーはレオンに恩あるネ」
ハハ…嬉しい誤算だ。まさか悪徳商業者のようなお前が私に協力してくれるとは……ワンチェンはそのまま私に石仮面を被せてくれる。
「コレでミーを見逃した時の貸借り無しネ。薬も上げないヨ」
「ありがとう ワンチェン」
「どきな……後は俺に任せろ」
震える手でスピードが私の吐血に触れる。
そして朦朧とする意識の中、仮面越しに圧がかかる。血の付いた手でスピードが仮面を抑えてるようだ。
次の瞬間、鋭利な者が頭部に食い込んでくる。余りの痛みに意識が覚醒するが、そこから先は快感に似たものが全身を駆け巡り、不思議と力が漲ってくる。怪我の痛みも多少はマシになったな。
最高にハイとまではいかないが…ふむ、なるほど……
わからなくもない。
ー
ーー
ーーー
ジョジョの奴、どうやらこのディオを上階に誘い込みたいようだな…
「来いディオ‼︎君との決着を、今ここで付ける‼︎」
「いいだろう。レオン達を逃がそうとするその見え透いた安い策、俺があえてかかってやろうじゃないか‼︎」
レオンは虫の息…もう死んでいるかもな。スピードワゴンとかいうカスと、逃げずに外に残っているマヌケなメイドを殺すのはジョジョ!…お前を殺してからにしてやろう‼︎
壁に足を突き刺して歩くように上階へ上がる……フッフッフッ、本当に素晴らしい力だ。
「くらえ!ディオ‼︎」
大振りな動きでジョジョが何か投げてくる。それで何ができるというのだ。
「マヌケがぁ‼︎このディオに対する攻撃は、そんなチャチな物なのか⁉︎」
ー
ーー
ーーー
「父さん…これからやる事が成せるように、炎に力をください」
僕は祈りを捧げると、すぐにディオと向き直った。
「ぬぅ…蝋台だったか……」
僕が投げたのは火の付いた蝋台だ。それをディオは避け、蝋台はエントランスの床で砕け散る。すると火は瞬く間に広がり、炎の海が広がる。
「ならば早々にケリをつけようじゃないか!」
ディオが僕に向かって腕を伸ばして来る。きっとあの手で僕の事を殺すつもりなのだろう。
「僕もそのつもりだ。ディオ‼︎」
僕はディオに向かって走り出した。ディオの腹部にしがみ付き、下の階に突き落とそうと足に力を入れる。
「むっ⁉︎ジョジョ、共死にするつもりかッ⁉︎」
「このまま貴様を地面に突き落としてやる! ディオ‼︎」
落下した先は炎で埋め尽くされている。例え落下で倒せなかったとしても炎が彼を焼き殺してくれるだろう。だがその時は僕も同じように死ぬ……だがそれで良い。この化物を倒す為には犠牲を払わなくてはならない…それが僕だけの命であるならば安いものだ。
「フンッ!この程度か? ジョジョォ‼︎」
このまま落とせると思ったが彼の方が一枚上手だった。ディオは壁に腕を突き刺し、片手で身体を支えた。そして片手の腕力だけで僕ごと屋根へと飛び上がったのだ。
「カハッ……⁉︎」
「既に俺は人間を超越している‼︎この程度で倒せると思っていたなら自惚れが過ぎるんじゃないのか?」
吹き飛ばされて屋根へと叩き付けられる。駄目だ……とても勝てない…この化け物を倒す事は出来ないのか?
「さらばだ…ジョジョォ‼︎」
「そう慌てるな…ディオ」
僕は目を疑った。そこにはディオの腕を背後から掴んで止めるレオンの姿があったのだ。
「レオン⁉︎ 何故貴様が此処に……まさか‼︎」
「ディオ…君はもう血を吸ったか? まだだよな。それでは満足に力を出せないぞ」
レオンの口から刃が見える。
「レ、レオン……」
「どうだいこの姿…中々いいものだよ。日向には出る事は出来なくなったが、元々私は暑がりだ…問題ない」
ー
ーー
ーーー
私はディオの背中に手刀を突き刺す。そして気化冷凍法で内側から凍らせてやる。吸血鬼の能力をまだ把握しきっていないディオは、困惑し苦痛を感じながらも攻撃してくる。
もちろんそんな苦し紛れな攻撃は、合気道の餌食になるだけだが……
下の階へ投げ落とすと、私は振り向く。そこには哀れんだ表情を浮かべるジョジョがいた。
私が吸血鬼になった事に対する感情だろう。君はこんな状態でも相変わらずお人好しだ。
「ジョジョ、外にスピードとリリーが待っている。先に逃げてくれ」
「なっ!レオンを置いてはいけない」
「私が信用できないのか? 吸血鬼ともなれば脱出は容易い。それはディオも同様……私は弟としてケジメを付けないといけない」
私が優雅に手摺に肘をつき頬杖をつくと、下へ続く壁の途中で腕を突き刺して静止しているディオを見つめる。
「上がってこれるか兄さん。無理ならそのまま落ちて構わないぞ」
「どこまで邪魔をすれば気がすむのだ…レオンッ‼︎」
再び上階へ上がって来ようとするが、脊髄を凍らせてある…もう少し火で炙られないと上手く動かせないだろう。
「あの様子じゃすぐ登ってくるな。ジョジョ、向こうの窓から飛び降り……はぁ…どこまでお人好しなんだ君…」
「ま、待てレオン‼︎止めるんだ‼︎」
私はジョジョを窓まで強引に引き摺る。多少抵抗はされるが、非力な私でも吸血鬼になれば力は上回る。
「また会おう、ジョジョ」
「レオォォォン‼︎」
ジョジョを無理矢理突き落とす。下には事前に用意した馬の餌用の牧草が積まれ、近くにスピードとリリーも立っている。
先ほど積んだばかりの牧草だが多少引火しているな……まぁジョジョなら軽症で済むだろう。
「レオンッ‼︎貴様ァ‼︎」
ふむ…丁度ディオも上がってきたようだ。と言っても、また突き落とす形になるが。
「最後に聞かせろレオン…何故お前は石仮面の秘密をそこまで知っている? 何故俺の行動の全ての先にいる⁉︎」
「さぁな……一つ言えるとしたら…それがお前の弟だという事だ」