ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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40.それぞれの旅路

 太陽は僅かに顔を出し、(レイヴン)が赤子を狙って尾行してくる。肉は柔らかく、保護者がいなければ無力なので狩りやすい……奴らにとっては絶好の獲物だろう。

 だが数匹の烏はしばらく尾行したのちに、諦めたかのように飛び去った。

 赤子を連れて私が村へ入ったからだな。

 

「まだ人の目はないか……噴水の広場にでも置いておくか」

 

 これ以上の面倒を見る気にはならず、私は日の当たらない噴水広場の屋根の下に放置……人に見つかる前に私は、その村の名を知らぬまま村の先へと進み出した。

 

 村の反対側から砂漠へ……日が出てしまっているので、徒歩では少しキツイな。だが紅海の港町まではそう遠くない。

 

「ラクダでも盗むか……いや、止めておこう」

 

 そう諦めてケースからボトルを取り出し口に付ける。

 しかし中身の鮮血は既に底をついていた。

 するとそこで携帯機器から音が漏れる。連絡が入ったようだ。

 

「…私だ……どうかしたか?」

 

 通話相手は財団の人間だった。

 私が望んだアイテムの輸送が間に合わず、港町ではなく当初経由するはずだった無人島に運んだとの事……

 

「はぁ……血液もお預けか……」

 

 スカーフで口元を隠し直し、私は砂漠を歩き出す。

 

 

 

 

 

 ウミネコがニャアニャアと鳴き、登りきった太陽が海を輝かせる。数隻の漁船とクルーザーが港に付けられている。

 だが事前に購入してあるクルーザーは一隻だけ……本来は皆と乗る予定だった船だ。

 

「どうやって島まで行くか……」

 

 今ここで小切手を使い船を買ってもいいが、既に一隻のクルーザーを港町の住人は売っている。唐突な購入は不可能だろう……

 船が使えないとなると残された手段は水上歩行か海底遊泳…………できればそれは嫌だが……よし。

 

「密航するか……」

 

 紅海を横断する船を適当に調べ、私はそれに忍び込む。

 昔は暗殺企業をやっていた……施設のような大層な警備システムがない以上、私にとっては造作も無い。

 

「……ここらに潜んでればいいか…」

 

 貨物が積まれた灯りのない部屋。

 その部屋の奥へ進み、大きめの木箱の裏で身を潜める。

 

「……ふむ……落ち着く…………」

 

 今まで休まず歩いていたので、流石に流れた汗を拭う。

 気化冷凍法を使い軽く体温を冷ますと、私は僅かながらの空腹感に襲われる。

 

「…そういえば何も食べていないな」

 

 積まれた木箱をノックして周る。やがて私は、5個目の木箱を叩き反響具合で中身を察した。揺すってみると、敷き詰められた中身がゴロッと、僅かながらに転がる音がした。

 

「篭った音だ……硬く……転がるということは球体…何かの果実か?」

 

 試しに爪を引っ掛けて釘を丁寧に抜き、波以上の音を立てずにフタを開ける。

 中身は港町だからこそ育つヤシなどの実だった。

 

 2.3個取り出すと、叩きつけずに指先の指圧だけで釘を打ち直す。そして取り出した木の実は、鞭の仕込み刃で穴を開ける。

 

「いただきます」

 

 果汁と果肉のある良い食材だ。2.3個もあれば水分も十分取れるし腹も膨れる。

 だが甘い……私はどちらかというと甘党だが、コレだけだと少し酸味のあるものが食べたくなるな……

 

「………にしても出航はいつだ?」

 

 忍び込むのに数分、木箱の開閉にまた数分、更に食事に数分……外から見た時この船は荷物を積み終え帆を張り始めていた。ともなればそろそろ出航すると思ったのだが……

 

 耳を澄ませると船腹に打ち付けられる波の音が聞こえる。

 だが不意に奇妙な音が聞こえた……海の中からだ。

 船底に耳を当てるとそれが明確に聞こえる…まるで金属を無理やり取り外すような音だ。

 どの道普通ではない。

 

「……………」

 

 我々のルートからここへ来る事は検討済みだろう。だとすれば敵が来ている可能性も……

 そう思い私は船から外へ出てみる。

 

「……何だ……コレは…………」

 

 船員を含めた港町の住人達は、皆気を失い所々で倒れていた。倒れる方向はバラバラ……何かから逃げてやられたとすれば、ある程度は同じ方向へ向いているはず……

 つまりこれは全て不意打ち………

 

「ッ‼︎ 貴様か‼︎」ガッ!

 

「ムォッ⁉︎」

 

 背後から伸びてきたその腕を掴み、私は軽く捻りあげる。すると相手は地から足を離して一回転……私の拘束から、いとも容易く抜け出した。

 

 その男の手には注射器が握られている。

 

「伊月……竹刀………‼︎」

 

「レオン・ジョースター……なんで君がここに?思ったより早いな。ジョースター御一行は既にこの町にいるのかい?」

 

 目立つ白衣姿の男……手入れの行き届いていないヒゲ、目の下に広がるクマ。

 それだけの特徴がありながら、半径2mに入るまで私は気付けなかった。W-Refが感知能力に目覚めてなければ私もやられていただろう。

 相手はそれだけ、気配を断つのが上手かった。

 

「プハッ…伊月の旦那!後いくつだ?……って、レオン⁉︎」

 

 パールを持ったホル・ホースが海から上がってくる。

 まさか………そういう事か………それが狙いか……

 

「貴様はこの旅で何度も出くわすな……貴様の顔も見飽きた。今後の為に此処で再起不能になってもらうぞ、伊月 竹刀‼︎」

 

「オジさん困っちゃうなぁ〜。でもそれはコッチの台詞でもあるんだよな………ホース君、チョット離れてて。とっておき使うから」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 数キロレオンの旅路を戻り、レオンが赤子(マニッシュボーイ)を置き去った場所………そこには6人の旅人が立ち寄っていた。

 

「やっ……と‼︎ 村に着いた‼︎…人工建築物がなぜか懐かしく感じるよ!」

 

「止めろよ礼神……一緒にいるだけで恥を掻くぜ」

 

 葎崎(むくらざき) 礼神(れいか)こと僕の頭頂部に、ポルナレフの手刀が「ズビシッ」という効果音とともに落ちてくる。

 

「だって砂漠……徒歩……辛い」

 

「オメェはスタンドに乗ってたじゃねぇか」

 

「足まで骨だから砂の上だとたまに沈むんだよ!乗り心地が更に悪くなって………お尻痛い…」

 

 布切れ(アバヤ)の上からお尻を摩ると、太陽光を吸収した黒地が、驚く程の熱を与えてくる。

 

「早く脱ぎたい‼︎」

 

「まだダメじゃよ、港から海へ出るまでの辛抱じゃ。それよりアヴドゥル達が戻ってきた。飯屋を見つけたようじゃ」

 

 ジョセフさんが指差す先から2人の男達が戻ってくる。アヴドゥルさんと花京院だ。

 

「承太郎は?」

 

「6人掛けの席を取ってもらっている。早く行こう」

 

 笑顔を浮かべて花京院が僕の手を引き、小走り気味に歩き出す。

 そこで僕は腕を振って、花京院の手を振りほどく。

 

「止めてよ。暑いから手汗ひどいし、僕は小さいから走られたら歩幅合わずに転ぶ」

 

「あ、ご、ごめん…でも君くらいなら転んでも支えられる」

 

「イヤイヤそうじゃなくて、そこまでして走る意味ないでしょ」

 

 呆れ気味に肩をすくめると、アバヤの上からでも僕の動きがわかったのか、花京院はバツが悪そうに頭を掻いて背を向けた。

 

「……哀れ花京院」ボソッ

 

「アヴドゥルさん何か言った?」

 

「いや……何でもない」

 

「……クククッ」

 

 アヴドゥルさんが苦笑いを浮かべてから歩き出し、ポルナレフは押し殺しながらも笑い声を漏らす。

 一体何故?何か面白い事あった?

 

「花京院。何ならワシがレクチャーしてやろうか?ん?」

 

「結 構 で す ‼︎」

 

 肩を組んでくるジョセフさんを押し除け、花京院は語気を強めて断った。

 

 ………なんだろう…僕だけが話題に乗り損ねてる気がする。

 

「おまたせ承太郎」

 

「おう……」

 

 頬杖をついて承太郎が窓から外を眺めている。

 何かをジッと見てるけど どうしたんだろう。

 

「どうしたの承太郎」

 

「ん」

 

 口も開かずそう答え、人差し指で視線の先を指差す。そこには多くの野次馬がいた。

 

「噴水のところで捨て子が見つかったらしい」

 

「酷いことをするね」

 

「……テメェの目は節穴か? あの赤ん坊……昨日の幽波紋使いだぜ」

 

「え………本当だ。レオンさんもこの町を通ったんだね」

 

 そう言うと承太郎が、少し神妙な表情を見せる。

 

 意外だな……ジョセフさんには冷たい態度を見せる承太郎が、いなくなったレオンさんを不安に思い心配している。

 

「レオンさんならきっと大丈夫だよ」

 

「急にどうした?別に俺はそんな心配してねぇぜ」

 

 学帽の唾を下げて目元を隠す承太郎……

 彼は気付いていないがアレは、落ち込んだ時や今みたいに図星を指された時の癖だ。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ……奴が強く厄介だというのは十分承知だ。

 私と張り合い、二度三度と逃走を成功させているからな。

 今度こそはと挑み戦ったは良いが………

 

「クソッ‼︎ 次から次へと……なぜ不安要素が私の周りには集まるんだ⁉︎」

 

 苛立ちながらも私は、一隻のクルーザーを頂戴して海岸に沿って海上を走らせていた。

 ヤツら2人はと言うと、今回もまんまと逃げられた……いや、今回ばかりは()()()()()()と言うべきか。

 

『大丈夫か主よ』

 

「あぁ……助かった」

 

 本当……スタンドが暴走した事で助かった。

 やはりこのスタンドは強力だ……だが獰猛すぎる……危うく気絶した港町の住人を殺すところだった……

 

「大丈夫だから消えてくれ……頭痛がする」

 

 そう言うと頭痛が引いた。今度の命令は、素直に聞いてくれたようだ。

 ひとまず私は、伝える事を伝えなければな……

 

 懐から取り出した携帯機器で、ジョセフを選択してコールを鳴らす。

 

『なんじゃ?どうしたレオン』

 

「今大丈夫か?」

 

『あぁ』

 

「そうか…では要件だけ伝える」

 

 そう前もって言うと、記憶を辿りながら要件を述べ始める。

 

「紅海の港町で伊月とホル・ホースの襲撃に遭った。奴らは港町の住人を気絶させた隙に船やクルーザーを破壊していた…もしかしたら数の関係上、金を突き返されてクルーザーが使えなくなる可能性もある。だから紅海の海岸沿いを北上した所の洞窟に、盗んだクルーザーを一隻隠しておく」

 

『伊月共はどうなった?』

 

「………逃げられた……その事で1つだけ、お前達に伝えておこう。伊月 竹刀とは承太郎以外は戦うな」

 

『承太郎なら勝てるのか?』

 

「詳細は不明……奴との近距離戦は不味い…が、時を止められる承太郎なら勝算が高い。以上だ」

 

『一体どういう…プツッ』

 

 一方的に通話をきり、私は懐に携帯を仕舞おうとして落としてしまう。海には落ちなかったのでホッと胸を撫で下ろし、1度運転を止めて携帯機器を拾い上げる。

 

「………クソッ」

 

 拾うために動かした手に痛みが走る。何を隠そうこの腕は、伊月との戦闘で二の腕あたりから切り落とされたばかりの腕だ。

 そのダメージでスタンドが目覚め返り討ちにしたのだが、それ以外のダメージを私は与えられていなかった……

 私はあの戦いにおいて劣勢だったのだ。

 

「……敗北…と言ってもいい」

 

 クルーザーを盗むために、住人が目覚める前に海に飛び出した。再生に時間をかけられなかったので、この腕は繋がっただけで完治はしていない。

 

「薬物の蝶……暗殺者、殺し屋並みのスペック……その次はなんだ…………奴は人間だぞ」

 

 またクルーザーの操縦を再開し、ブツブツと独り言を呟き考える。

 

「奴が人間じゃ無いとしても………そんな……」

 

 信じ難い………複数種類のスタンドを持つ者は、そこまで珍しくないのか?

 

 

 

 

 

 クルーザーを洞窟に隠した私は、生き物の亡骸を石の上に置いて立ち上がる。近くには魚の骨や蟹の甲羅も転がっている。

 まったく……エジプトまでの旅……聞こえからしてみれば旅行なのだが、現在の私はどう見たってサバイバルだ。

 

「ふむ……やはり人の血でないと調子は出ないか……」

 

 洞窟に住み着いていた蝙蝠の死骸を手放し、私は洞窟の外へ目を向ける。

 時刻は………昼を過ぎ、日が傾き始める頃か?

 後数時間もすればジョセフ達は港町に……海沿いを北上するのに更に数時間か………

 

「1日歩き通しだな………乗り物が欲しい」

 

 洞窟に隠したキー付きのままのクルーザーを尻目に、私は海上を歩き始めた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ーーー。ーーーーーー」

 

 訳の分からん言葉が飛び交うのを眺めながら、アバヤで唯一露出している目元を擦り空を見上げる。

 

「……何話してんだろ……何でもいいから早く終わらせてよー」

 

 聞き慣れぬ言葉で会話するジョセフさんには聞こえないくらいの声だが、僕は愚痴気味に呟いた。

 

「レオンさんの予想通りクルーザーが売れないらしい。ジョースターさんはその代わりに、砂場でも走れる乗り物を譲ってもらえるように交渉してるようだ」

 

「通訳ありがとアヴドゥルさん〜」

 

 どうでもいいけどアヴドゥルさんの呼び方、レオンさんはレオンさんで、ジョセフさんはジョースターさんなんだね。

 そう思いながら直立不動の姿勢でいると、話を終えたジョセフさんが戻ってくる。

 

「待たせたな。無事に砂漠でも走れる四輪駆動車を手配した。すぐに出発……クルーザーのある洞窟を見つけた頃には日が沈んどるじゃろうし、海へ出るのは次の日じゃ」

 

「ジジイ。手配した乗り物はもちろん二台だろうな?」

 

「二台?一台じゃが……何故?」

 

「ポルナレフが運転するのと、テメェが1人で乗る用の車だ」

 

「……………」

 

「承太郎……あまり年寄りを虐めたらいけないよ」

 

 僕ら6人は買った四輪駆動車に乗り北上を始める。

 もちろん運転手はポルナレフ、助手席はアヴドゥルさん…ジョセフさんは承太郎の隣で、その後ろに僕と花京院。

 承太郎はジョセフさんの方をチラチラと確認し安全を確保…ウンザリした様子でジョセフさんは頬杖をついている。ジョセフさんの悪運はもう呪いと言っても過言ではないので、そのせいか隣に座る花京院も少し落ち着かない様子だ。

 

 小一時間の車旅……海が見える位置をキープして走る四輪駆動車は、やがて一方の看板の前で停車する。

 もう夜遅くで何も見えないのでランタンを近づけると、看板には「立ち入り禁止」と書かれている………と、アヴドゥルさんが教えてくれた。

 言っただろ?僕はそこまで頭が良くないんだ。他国の言葉なんて使えんよ。

 

「洞窟は恐らくこの下じゃ」

 

 立ち入り禁止の看板を無視して、比較的砂の少ない岩場を降りていく。すると崖の側面にポッカリと口を開けた洞窟を見つけた。

 洞窟の歩けそうな岩の上を通るが、ランタンの光源だけじゃ奥までは照らせない。

 

「今日はここで泊まるんだね…」

 

「そうじゃ。ワシとアヴドゥルはクルーザーを確認してくる。その間に皆は就寝の準備でもしておいてくれ」

 

 車に置いてあった荷物はケルちゃんに収納して持ってきてある。僕はケルちゃんの側面を撫でて寝転がらせると、肋骨を開けさせて荷物を取り出す。

 

「……ポルナレフどうかした?」

 

「いや……異様な光景だからよ」

 

 

 

 

 

 クルーザーも無事発見し、夜食を食べ終えると僕らは速やかに就寝した。

 

「……………」ムクリ

 

 僕を除いて…………

 

「………ケルちゃん」チャプッ

 

 寝袋から這い出た僕は洞窟から出て海へ……

 ケルちゃんを呼び出した僕は海に誘導し着水させ、僕はその上に飛び乗る。肋骨の方は骨のみで隙間はあるが、逆に背中側は皮に覆われていて空気を蓄えた浮き袋の代わりになる。

 

「………………」

 

 骨でできた前足で掻かれた水流は、最も簡単に波でもみ消される。水掻きとなる皮は僅かだが、それでもケルちゃんは海上を確かに泳いでいた。

 スタンドの背の上で腰を下ろし空を見上げると、夜空が僕らを見下ろすように視界を覆う。

 

「………あの辺に月があるのかな」

 

 残念な事に天気は悪く星は見えず、淡い光が雲越しに薄っすら見える。多分あれが月の光………

 

「……ふぅ………ドワッ⁉︎」ザブンッ

 

「どこ行く気だ?」

 

 急にケルちゃんがグラつき、軽く海水が足元を濡らす。

 理由はゴツい男が飛び乗ったからだろう。

 

「急に飛び乗るなバカ‼︎ 背皮から空気が溢れるだろ‼︎」

 

「で、どこ行く気だ?」

 

 無視かい…

 

「べっつにぃ〜。ただ寝付けなかっただけ」

 

 片足ずつプラプラと揺らして海水を払う。

 

「この旅を始める前は海に行った事全然無くてね……少し海上散歩をしてみたくなっただけ」

 

「一度もねぇのか?」

 

「そだよー。孤児院いた頃もその後も、そんな大きな贅沢はできなかったからね」

 

「………その前もか?」

 

「その前?……………あぁ、前世ね。ないよ」

 

「覚えてるのか?」

 

「うん。名前は忘れたけど割と色々………思ってみれば不思議な感じ。転生自体もそうだけど、赤ちゃんの時の出来事は忘れてるのに、前世の事は覚えてるんだよ?」

 

「……………」

 

「あ………興味ありげな顔をしてるね」

 

 承太郎は鼻を鳴らして顔を背け、僕は満足そうな笑みを浮かべる。だが一言謝って表情を崩した。

 

「でもゴメンね………うろ覚えで自分から話す事は無いや。質問があるなら答えるよ」

 

「そうか………で、いつまで海の上散歩するつもりだ?」

 

「眠くなるまで。承太郎はもう戻る?だとしたら岸に寄せるよ」

 

「いや、いい」

 

「そっ………」

 

「……………」

 

「…………暇だなぁ……なんか話してよ」

 

「好きな食いもんは?」

 

「幼馴染にそれ聞く?」

 

「……………前の家族構成は」

 

 僕の前世が気になるのか、迷いつつもそう聞いてきた。僕も親しかった友人の知らない過去があれば、大なり小なり気になるしおかしくはない。

 

「父と姉と僕の3人暮らしだった。片親だったけど父は某有名な会社のお偉いさんで、お金に困ることは無いそこそこ裕福な生活だったよ。でも僕の居場所はなかった」

 

「………聞かない方がいい話か?」

 

「いや別に虐待とかそういう話じゃないよ。人に話せば「お前の思い込みだ」って言われるような不幸自慢だから」

 

「………むしろ聞かせたいような口振りだな」

 

「旅に出るまで転生者だって事は隠してたからね。もう隠さないでいいと言うならば、友に聞いてもらいたいこともあるさ」

 

 そう言うと承太郎は何も言わずにタバコを咥え、ライターで火をつけて煙を吸う。無視してるような態度だが、コレは聞いてくれる流れだな。

 

「僕の父も姉も凄く優しい人だった。多分母も……母は僕を産み落とすと間も無く命を引き取った。僕の命を諦めれば助かったのに、母は自分ではなく、顔もまだ知らない僕を選んでくれたんだ」

 

 胸が少し締め付けられる気もするが、それと同時に軽くなる感覚もあった気がした。

 

「父も姉も僕を愛してくれた。母の命を奪ったのは僕なのに……当時はもちろんスタンドなんて持ってない。特技もない。優秀でもない。それでも愛してくれた。父は僕が誕生日の日は必ず祝い、病気になれば仕事を最低限にして極力看病してくれた…」

 

 ………僕はその優しさが辛かった。僕はその愛の矛先を、僕より優秀な姉に向けて欲しかった。

 

「姉も僕のために色々してくれた。誕生日には父のお小遣いではなく、自分のバイト代でプレゼントをくれた。テスト前には僕を優先して勉強を教えてくれた」

 

 僕はその努力を、自分の為に使って欲しかった。

 

「幸せだったけど苦しかったよ………いずれ捨てられんじゃないかって」

 

「……テメェの思い込みだろ」

 

「アハハ!知ってる‼︎ 僕も前世の家族がそんな酷い人だとは1mmたりとも思ってないよ。ほら、アレだよ……被害妄想話して心配されて貰いたい典型的な女子高生。そんぐらいの気持ちで話してたから」

 

 そこで口を紡ぐと、承太郎の煙を吐く吐息と波の音だけが聞こえる。

 

「次は僕が質問していい?」

 

「何だ?」

 

「レオンさんってどんな人?」

 

 静寂の末に話の話題はレオンさんへ……

 

「…2人目の父親みたいなもんだな……むしろ肉親の方はLIVE旅行行ってなかなか帰って来ねぇし、レオンの世話になった事の方が多い。レオンの方が父親らしい」

 

「へぇー。そんな事言ったら貞夫さん泣いちゃうよ?」

 

「………ガキの頃は良く遊びに連れて行ってくれた。その度にレオンを財団のデスクに縛り付けようとする財団の奴が来て、なんか情け無い奴だと思ったこともある。だが気付けばレオンは憧れになっていた。単に過ごした時間がそこそこあったからかも知れないが…」

 

「そんなに一緒にいたの?レオンさんある意味、財団の最高責任者でしょ?」

 

「だから縛り付けようとする奴が付いてきたんだ」

 

「なるへそ」

 

「小さい頃、お袋が近所付き合いで家を開けるときは決まってレオンがいた。飯も作ってくれるし………そう考えるとレオンは2人目の母親でもあるな」

 

「チョッwwwレオンさんの女装思い出すから止めろw」

 

「テメェも食っただろ、レオンの料理」

 

「うん。あれは美味しかった」

 

 ちなみに脳内では今、レオンさんがエプロン姿で料理してます。

 

「レオンさん有能だな〜。嫁に欲しい」

 

「………何言ってやがる?」

 

「冗談だよ。僕はモテないから無理だし……でもできればレオンさんみたいな人に貰われたいな〜」

 

「結構モテるだろ。テメェ」

 

「女子にはな」

 

「そうじゃねぇが…………まぁいい」

 

「……え?何?僕男子にモテるの?」

 

「1人心当たりがあるぜ」

 

「ウッソ‼︎ 誰?ヒントは⁉︎」

 

「………好物が果物」

 

「……果物…………隣のクラスの杉本?」

 

「チゲェ。誰だそれ」

 

「忘れたの?去年同じクラスで窓際でバナナ食ってた…」

 

「……もういい。岸に戻せ、寝る」

 

「え、ちょ、気になるじゃんかよぉー‼︎」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 一方その頃……紅海に浮かぶとある無人島では……

 

「…ん……ん……んくっ……」

 

 誰もいないはずの無人島の浜辺に1人分の足跡……それを辿ると開けた場所で石に腰を下ろした人外がそこにいた。

 

「んくっ……ん……プハッ…ふぅ、生き返る」

 

 満足そうに爽やかな笑顔を浮かべる1人の人外……笑顔は爽やかだが、口元を鮮血で濡らしているので猟奇的でもある。

 右手には特殊なボトルが握られ、反対の手で口元を拭うとその手でスカーフを引っ張り上げて口を隠した。

 

「さて……補給品も回収した。夜の内に島を出るか」

 

 傍らに置かれた段ボールを開け、中から様々なアイテムを手持ちに加える。

 その作業も終え立ち上がると、それと同時に曇っていた夜空から……雲の隙間から降る月光が、人外を照らした。

 

 赤い瞳と淡く光るような白髪を携えた人外……(もと)いレオン・ジョースターは、浜辺へ向けて歩き出した。

 

「血も飲んだし、次の大地まで泳げるだろう………ん?」カツン

 

 海へ向かう途中の砂浜で、レオンの足に何かが当たる。

 石や流れ着いた珊瑚ではない……金物の音だ。

 

「今のはこれ……か?」

 

 自分が蹴ったと思われる物体を拾い上げ、首を傾げてソレを眺める。

 実物を見るのは初めてだが、レオンはそれに見覚えがあった。

 

「ランプか……それにこれは…スタンド?」

 

 直接触れて感じた……この中からスタンドエネルギーが溢れている事に…………

 触れているがエネルギーは吸収できない。どうやらランプはスタンドではないようだ。問題は中にある。

 それをレオンは近場の石の上に置いて足を振り上げる。

 

「面倒だ………蹴り砕くか」

 

 振り下ろされた踵がランプを粉砕する。すると、中から勢いよく空気と煙が飛び出し視界を覆う。

 そして気がつくと、レオンの目の前には機械仕掛けの人型のスタンドが佇んでいた。

 

『3つ!3つだッ‼︎願い事を言……ギャッ⁉︎』

 

「ふん……思ったより硬いな」

 

  (な、何だこいつは〜〜⁉︎ いきなりランプを破壊するわ、いきなり回し蹴りはなつわ………やはり俺がDIO様の刺客だと気付いて?)

 

 こいつは審判(ジャッジメント)の暗示を持つスタンド…本体はカメオと言う幽波紋使い。紛れも無いDIOの刺客だ。

 しかしレオンはそれを薄々わかっていながら、確信はしていなかった。

 

「…礼神の予言を聞き忘れた……まぁ良い。こいつがスタンドなのは間違いない」

 

(何だこいつ…俺が刺客だとは知らねぇのか。ならば……)

『俺の名はカメオ。御察しの通りスタンドだ…本体はとうの昔に死に、その念から産まれランプに長年閉じ込められていた。出してくれた礼をしたい。願い事を言え…3つだ!願いを叶えてやろう‼︎』

 

 あくまでランプの魔人を演じようと、カメオはそう言って指を3本(片手に3本しかないデザインだが)立て、その手をレオンに向けた。

 

(………どうだ?……)

 

「………願い…か……面白い。何でも叶えられるのだな?」

 

 審判の能力は、人の願いを土に投影する事。

 死んだ者であっても対象の記憶からその死者を操り人形として土から作り上げる事が出来る。

 

(釣れた‼︎ いや、探りを入れているだけかもしれん)

『その質問に対する答えが1つ目の願いか?そんなつまらん願い事でいいのか?ランプから俺を出してくれたお礼…何でも叶うのだぞ』

 

 ボロを出さぬようそう演じるカメオ……もしレオンの立場であれば怪しむのは当然……しかしレオンはこの後願いを口にした。

 そしてカメオ(サンドバッグ)を見て、レオンは妖艶に笑った。

 

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