ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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42.砂上の奇襲

 時刻は日が顔を出す前くらいかな。

 紅海の海中を進む潜水艦……そこでは1人の初老が携帯機器を片手に口を動かしていた。

 

「おぉそうか!女教皇(ハイプリエステス)を‼︎ して、スタンドの方はどうじゃ?………うむ、わかった。承太郎達に伝えておこう」

 

 ジョセフさんが電話を切るのを待ってから、僕は早速尋ねた。

 

「今の電話の相手レオンさんでしょ? 何だって?」

 

「礼神が予言しとった女教皇を倒したらしい。苦戦したが第二のスタンドでどうにかなったそうじゃ。それと、己のスタンドのせいで死ぬことはもうないが、結局、制御は難しいものらしい。だがもう仲間に危害は加えないとのことじゃ」

 

「ふん…」

 

 話を聞き終えると鼻を鳴らし、承太郎が学帽のツバを目尻まで下げる。まったくもう…承太郎ってここまで心配性だったっけ?

 

「心配なんかしてねぇぜ」

 

「心を読むなバカ太郎。さて……それじゃ女教皇という戦闘イベントが消滅したので、次のイベントの対策会議を始めさせてもらいますよー」

 

 そう言って6人がけにしては小さな備え付けテーブルに集まる。障害物の無い広い海底であれば少しくらい操縦席を離れられるが、アヴドゥルさんは用心して運転席を離れないので、僕らが操縦席の後ろに集まる。

 

「アヴドゥル、少しくらい休んだらどうだ?ワ…」

 

「触るな‼︎ テメェは大人しくしてやがれ‼︎」

 

 …………「ワシが代わろう」と言おうとしたのかすら判断できないタイミングで、承太郎が鬼の形相でジョセフさんの腕を掴む。

 流石に過剰反応過ぎる……と言いたいところだけど、誰もそれを言わない…寧ろ承太郎の反射神経に敬意を表したくなるくらいだ。

 それほどにジョセフさんの乗り物運の悪さを、僕らは信じ込んでしまっている。

 

「………ジョセフさん飲み物です」

 

「…………」

 

 花京院がお盆で持ってきた珈琲を無言で受け取り、ジョセフさんはその場で胡座をかいて座る。

 あーあー拗ねちゃった…

 

「葎崎さんもどうぞ…砂糖とミルクは?」

 

「2つずつ。ちゃんと人数分だよね?」

 

「ん?…1…2…3…ちゃんと6人分だが?」

 

「ならいいんだ、気にしないで。それじゃ始めようか」

 

 皆が珈琲を受け取りその場で胡座をかく。操縦席のすぐ後ろは通路で何も置かれてない。故に操縦席に座るアヴドゥルさん以外は、みんな床に直座りだ。

 

「まず次に現れるはずの幽波紋使いはンドゥール…っていう盲目のDIO信者さん」

 

「ンドゥール…能力は?」

 

「能力…というか液状のスタンドで砂漠の砂の下から襲ってくる。盲目だから耳が頼り。音を立てたら攻撃される、足音もアウト」

 

「動けねぇのかよ…じゃあ対処法は?礼神の知る原作とやらではどうやって倒したんだ?」

 

 肩を竦めてポルナレフが疑問顔。

 それにドヤ顔で僕が返す。

 

「簡単だよ!奴は盲目な代わりに聴力が異常に発達してて、凄く遠くから遠隔操作で攻撃してくる」

 

「それの何処が簡単なんだよ」

 

「忘れたのかい?僕は死神だよ?」

 

 少し自称気味にそう言って笑うと、花京院が軽く僕の頭を(はた)いた。

 

「君は死神なんかじゃない。僕らの頼もしい仲間だ。あまり自分を酷く言うなよ」

 

「…ゴメン?」

 

 ちょっと不機嫌そうにそう言われ、少し驚いた僕は珈琲を口に含み、その苦味で思考をリセットする。

 

「さて…まぁひとまず僕に任せてよ。出来る限り小声にするけど、万が一にでも聞こえないように各々が対策して」

 

「対策って…耳塞いでキラキラ星でも歌えばいいのか?」

 

「そんな事したら、敵のスタンドで腹に風穴開くよ。大丈夫…耳を塞ぐだけでいいよ。それでも心配なら生唾でも飲んでて。耳塞ぎながらやると、一瞬だけ飲み込む時の音に聴覚が反応するから……そこでジョセフさん、少し財団に連絡をお願いします」

 

「ん?何じゃ?」

 

 珈琲の入ったコップを傾けながら、拗ねていたジョセフさんは尋ねてくる。

 

「犬って結構耳が良いんだ。万が一があるし、助っ人のイギーとの合流はもう少し先にしてもらいたいんだ」

 

「なッ!イギーだと⁉︎ ジョースターさん‼︎ あいつを呼んだんですか⁉︎」

 

 操縦席から顔だけを向けて、アヴドゥルさんがジョセフさんに荒々しく尋ねる。原作と同じで、やっぱり協力的じゃ無いんだね。

 

「大丈夫だよアヴドゥルさん。イギーは最後、共に戦ってくれる仲間だよ。予言者の僕が保証するよ」

 

「…本当か?」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアヴドゥルさん。

 それに対して僕はフレンドリーに、軽々しく肯定する。

 

「大丈夫、大丈夫!イギーは「愚者と名乗る勇者」って呼ばれるくらいだからね‼︎」

 

「…勇者?……礼神がそう言うなら、ひとまずは信じよう」

 

「知ってるのか、アヴドゥル」

 

「ああ。よぉ〜くな」

 

 承太郎の問いに、アヴドゥルが眉間に皺を寄せて答えた。

 

「ちょっと待て。助っ人ってことは、当然幽波紋使いってことか?」

 

「うむ、勇者では無く愚者(ぐしゃ)愚者(ザ・フール)のカードの暗示を持つ幽波紋使いじゃ」

 

「ザ・フール?ふへへ、何か頭の悪そうなカードだなあ」

 

「ポルナレフ……君はそう言ってイギーにやられたよ」

 

「何ッ⁉︎」

 

「顔に飛びついて髪の毛毟られるよ」

 

「おいおい勘弁してくれ‼︎頭は止めろよ頭は‼︎」

 

 そう言って両手で銀電柱ヘアーを整え、ジョセフさんは立ち上がり電話をかけに行った。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 日が登った頃……私は進む道中のとある町で足を止め、久し振りにちゃんとした食事を頂いていた。

 …………この町に来たのには別の理由もあるからだが……

 ちなみにアンラベルは既に姿を消していた。というか鬱陶しかったので消した。消したのだが…………

 

『我は消えんよ…何度でも蘇るさ』

 

「………………」

 

 今まで縛り付けていた事による解放感からか、私の周囲を浮遊して飛び回る。鬱陶しいことこの上無い。

 食事をする私を観察したり、周囲を物珍しそうにキョロキョロと見渡している。

 

「頭痛は無い……が此奴は現れる。それもスタンド像有りで…理由の可能性といえば、私の体外にいるからか……私に影響の無い範囲での活動状態なのか……」

 

『おそらく両方であろう。現に我は浮遊している…その理由は、地に足をつけて歩く脚力すら無いからだ。それほどに今の我は弱い。できることなら歩きたい』

 

「…………わからない」

 

『何がだ』

 

「貴様の性格だ」

 

 そこでは私の携帯機器に着信が入る。

 私はすぐに取らずに勘定を済ませ、人気のない場所に移動してから携帯機器を開いた。

 

「どうしたジョセフ」

 

『ようやく出たか。今どこにいる』

 

「アスワンだ。夜中(やちゅう)ランニングなら海岸からすぐさ」

 

『そうか、砂漠は越えたんじゃな。途中で敵とは遭遇しなかったか?』

 

「いや……数時間前に報告した通り、紅海の海岸で出くわした女教皇だけだ。それがどうした?」

 

『礼神が言うには砂漠で、エジプト9栄神の大地の神を意味するゲブの神を暗示する幽波紋使いが現れるらしい。まぁ過ぎたのならもう良い』

 

「そうか?引き返して片付けたって構わんが……」

 

『頼もしいのう…あー、ちょっと待て、礼神に代わる』

 

 そう言って声が消え、少ししてから明るい少女の声が聞こえてきた。

 

『おはよー。旅は順調?ご無事?』

 

「問題無い」

 

『そ、ならレオンさんはそのまま先に進んで。引き返すのはタイムロスにつながるし、アスワンには2人の幽波紋使いがいるからそっちをお願い』

 

「了解、能力は?」

 

『ある意味強力だけど戦闘能力は皆無。兄弟の幽波紋使いで、兄は誰かに変装するスタンド…弟は未来予知のスタンドだよ』

 

「………強いのか?」

 

『ある意味ね。どの店のどのドリンクを飲むかを予知して、変装した兄が毒を盛る……みたいな流れだったはず』

 

「ふむ……原作ではどう倒した?」

 

『聞いても意味無いよ。運が良かっただけだから………そういえばなんでアスワンにいるの?ルート的にアスワン寄らずに北上すると思ってた』

 

「面倒ごとが1つだけな…」

 

『………? 気をつけてね。それを片付けたら、恐縮だけどアスワンで待ってて。そこで合流しよう』

 

「わかった。ところでそっちはどうだ?無事か?」

 

『無事無事〜。ただ承太郎が少し寂しそ………OK 承太郎、スタプラの拳をおろしたまえ…ちょ、…だから僕が悪かったって……ま、本当に待って⁉︎…チョッ‼︎……ガッ』

 

 ……通信機器を落としたのか、金属板との衝突音が聞こえしばらくノイズ音だけが流れる。

 

『………よっと…もしもし、レオン?』

 

「ポルナレフか……大丈夫か?」

 

『おう。礼神が花京院を壁に逃げ回ってる。いたって平和だ』

 

「そうか。ジョセフは?変な気は起こしてないだろうな?」

 

『あぁ。機械の類には一切触らせてねぇぜ。今は悪乗りして礼神を捕まえようと………あ』

 

「……どうした?………おい本当に大丈夫か!…………私の気のせいか? 非常ベルらしきものが鳴ってる気がするんだが⁉︎ おい‼︎ 返事しろ‼︎」

 

『………………プツッ』

 

 …………通話は切れた……

 

『………主よ…顔が青いぞ』

 

「…祈ってくれ…彼らの生存を………」

 

 正直な話、幽波紋使いよりジョセフが手強い。何故こうなった? どうしてここまで事故を起こせる?

 

『…主よ……今はそれどころではないのだろう』

 

「……はぁ……そうだな。ひとまず私は、私のやるべきことをするか……」

 

 大きめの溜息と不安だけを残し、私は適当に歩き始めた。

 

「2人……さっさと片付けるか…」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

『なんて美しい海底だ……ただのトレジャーで来たかったもんだぜ』

 

 光の差す海底を見渡すようにクルクルと身体を回し、ポルナレフは残念そうに肩をすくめる。

 

『見ろ!海底トンネルだ…ついにエジプトの海岸だぞ!』

 

 そう言うアヴドゥルさんは海底トンネルを指差し、その岩盤に沿って浮上するよう促す。

 洞窟は1つ…もちろん鼻の穴には見えないし、口の裂け目らしきものも見えない。

 

『深度7m……もうすぐじゃな』

 

『あぁ、もうすぐだ。もうすぐなのに……ヤレヤレ、結局こうなるんだな』

 

 ゴーグル越しに睨む承太郎を見て、ジョセフさんは顔を背ける。

 僕らは今、絶賛海中遊泳中……理由はもちろん潜水艦が壊れたから。それ以外の理由で、わざわざ泳いで上陸する物好きがこの中にはいない。

 

『…ゴメンね花京院、引っ張ってもらっちゃって』

 

『気にしないでくれ。にしても、葎崎さんがカナヅチだったのは意外だ』

 

 法皇の緑(ハイエロファントグリーン)で引っ張りながら泳ぐ花京院に僕は改めて感謝する。そんな僕はスタンドの触手を腕を巻き付けられながら、水流に逆らわないように直立(?)を保ったまま微動だにしない。してるのは呼吸だけだ。

 

『辛いならケルちゃん使うから別に良いんだよ?』

 

『平気だよ。君1人くらい』

 

 ケルちゃんにしがみつけば海中も移動できるんだけど、花京院は何故かこの役を譲ろうとしない……まぁ楽だし、お言葉に甘えさせてもらうけど………

 

 そうこうしてる間に海面が近づき、先頭から順番に上陸した。

 

「…プハァッ!ありがと花京院。もう良いよ」

 

 触手が引っ込み、解放された腕でスキューバーダイビングの装備を外す。

 服は乾くかなぁ……エジプトだし乾きそうだけど洗いたいな…

 

「にしても、まさかあんな事になるとはなぁ…」

 

 何故潜水艦が壊れたかというと、無論ジョセフさんが原因だ。

 花京院を壁に逃げる僕を、悪戯心で紫の隠者(ハーミットパープル)を使い捕まえようとしたのだ。

 しかしそれは外れ、僕の後ろにあったよくわからない機械に絡みついた。そして紫の隠者(ハーミットパープル)の能力は念写だが、キリモミ回転して墜落するセスナを立ち直すほど強力に機械に干渉することもできる。

 

「それが原因で基盤や配線…メーターが狂ってしまったのでしょう」

 

「もうてめーには何も言えねぇ………とてもアワれすぎて。何も言えねぇ」

 

 アヴドゥルの推測をよそに、承太郎は敵キャラに吐き捨てるような台詞を実の祖父に放つ。ジョセフさんは涙目…抗議する気力もない……早くこの話題が終わるのを祈っている。

 

「おいみんな、これ見ろよ!誰か倒れてるぞ!」

 

 このタイミングでポルナレフが離れた岩場で手を振って僕らを呼ぶ。ひとまずナイスだ。

 

「誰か知らねぇが、中々セクシーな子だぜ?」

 

 フェミニストなポルナレフは上半身を抱き起こし、体を支えながら脈をとる。どうやら生きているようだ。

 

「本当に凄い美人……」

 

 その美貌は女の僕でも見惚れてしまうほどだ。

 紫色のポニーテールを持ち、白いドレスを着ている美女。襲われでもしたのかドレスははだけ、隙間からジプシー風の衣装が見える……更に胸にはヒトデ型のブラという露出度の高めの服装だ…

 

「どうする?病院に連れて行くか?」

 

 ポルナレフがそんな事を言う。

 やっぱり男なんだね……美人相手だとスグ親切にしたがる。

 

「よせよポルナレフ。面倒だぜ」

 

「待てよ承太郎…この子、意識があるぜ?」

 

「ぅ……ん……」

 

 ポルナレフの言う通り意識がある。だがとても弱々しく、意識は朦朧としている。恐らく僕らの存在どころか、誰かに抱き抱えられてることにすら気づいていないだろう。

 

「次の町はすぐそこ…そこで車を買って砂漠横断だよね。だったら手続きしてる間に病院に連れてってあげようよ」

 

 そう言って足を動かすと、みんなも僕に続いて歩き始めた。美人の人はポルナレフが背負っている。役得だとでも思ってるのか、鼻の下が少し伸びていた。

 ちなみにジョセフさんは上陸してから何も喋ってない。心中お察ししますよ、お祖父さん。

 

 それはそうと……

 

「………誰か先頭歩いてー。僕は道知らんよー」

 

「…やれやれだぜ」

 

 

 

 

 

 町までの距離は大したことではなかった。

 ここの言葉が使える2人…ジョセフさんは車を…アヴドゥルさんはポルナレフと一緒に女の人を病院に連れて行った。

 

「………ねぇ承太郎」

 

「……何だ?」

 

 絶賛待機状態の学生組は、適当なカフェ的な店で道を流れる人混みを眺めている。

 

「ここは禁煙だよ?」

 

「…チッ」

 

 咥えた火のついてないタバコを箱の中に戻す。

 学生のうちからそんなもの吸ってるのに、何故あんなにも身体能力が高いんだろう。つくづくジョースター家の血筋は化け物揃いだね。

 

「………暇だねぇ」

 

 話す話題もなく飲み物を口につける。まだかまだかと待っていると、ジョセフさんが先に戻ってくる。

 彼も席に加えて追加注文し、残すはアヴドゥルさん達2人だけとなった。

 

「…そうだ。ジョセフさん、黒キューブ貸して」

 

「何故じゃ?」

 

「シスターに電話したい」

 

 暇なあまりそう言うと、止める理由もなかったので普通に携帯機器を渡してくれる。それを僕は周囲の人に見られぬよう隠して使用する。

 これって国際電話も出来るのかな?

 

「そういう時はまず、メニューから財団を選ぶんじゃ。それで財団の……ワシがやろう」

 

 再びジョセフさんの義手に戻すと、慣れた手付きで扱い二、三言話すと僕にまた渡してくる。

 

「掛けたい相手の電話番号を言うんじゃ」

 

 そう言われて慣れぬ口調で電話番号を口にすると、通話先から若い男性の声が確認を申し出てくる。

 

『◯◯◯-◯◯◯-◯◯◯◯で間違いありませんね?』

 

「は、はい」

 

 そう答えると聞き慣れた着信音が聞こえ、3コール後に受話器を取り上げる音が聞こえた。

 

『もしもし?』

 

 懐かしく思える老女の声……

 

「僕だよシスター。礼神だよ」

 

『レイカ?…よかった。連絡もなかったから心配しました』

 

「ごめんなさい。色々と大変で」

 

『怪我は?体調を崩したりはしてませんか?』

 

「大丈夫だよ」

 

『ならよし。それで、どうかしましたか?』

 

「ちょっと声が聞きたかっただけ。あとそろそろ連絡を挟むべきなかな〜って」

 

 安否を知らせる現状報告と、ちょっとした雑談や小言を挟んで僕は通話を切った。

 こういう時の家族の言葉って不思議な力があるよね。これで僕はまだ頑張れる!

 

「…終わったようだな」

 

「おろ…アヴドゥルさん。戻ってたんだ」

 

 電話を終えた時にはみんなが揃って席についていた。いつの間にか僕待ちになっていたらしい。

 

「ごめんごめん、お待たせ〜」

 

「もう良いのか?」

 

「うん。シスターの声聞けて元気100倍!家族の温もりは偉大だね」

 

「そのシスターってのが里親かい?」

 

「違うよポルナレフ。僕がいた孤児院の従業員だよ。僕がいた孤児院は放火にあってね…それで里親を探すこともできず、僕はそのままシスターの元で育ったんだ」

 

「そ、それは…悪い事を聞いたな……」

 

「まったくだよ!セスナの中では承太郎が気を利かしてくれたってのに!酷い奴だね‼︎」

 

 ちょっと調子に乗って辛い返答をすると、ポルナレフは見え透いたご機嫌取りを始めてきた。

 丁度いい暇潰しだね。

 

「よし、そろそろ行こう」

 

「了解」

 

 ジョセフさんの一言で一同は出発。オープンカーの運転手はもちろんポルナレフ。間違ってもハンドルを蹴らないように、ジョセフさんは最後部席だ。

 まぁどのみち壊れるんだろうけど……

 

「にしても酷い親もいたもんだな…礼神を捨てるなんて、どうかしてるぜその親。顔が見てみたいぜ」

 

「捨てたおかげで今があるから、前半は強く肯定できないな…でも顔を見てみたい気持ちは少し僕もあるかな。無理だろうけど…」

 

「財団の力を借りればもしかしたらできるかもしれないぞ?」

 

「いやいやジョセフさん……僕は孤児院に置いてかれたんじゃなくて捨てられたんですよ。手続きとかもなく手掛かりがない……それに親は顔も性格も僕とは似ていない。僕のこの姿は前世に似ている。人格も前世のまま…レオンさんも自分の姿が前世のものだって言ってた」

 

「ふむ。前世か…まったく同じ姿なのか?」

 

「ジョセフさんも気になる?この前承太郎に話したばかりなのにな……あ、紅海を渡る前の夜、寝付けなくて少し話したんだ」

 

 砂漠を走るバギーの上で、そんな会話で暇を潰す。すると転生者ってのは結構話せるネタが多い事にその時気付いた。聞かれる分には割と話せる。

 

「前世と全く同じってわけじゃないよ。今は青黒のツートンカラーみたいな髪の色だけど、前世は全体的に藍色っぽかった。ちょうど今の二色を混ぜた感じ」

 

「礼神は前世、どんな子だったんじゃ?」

 

「別に?ただの女子高校生だったよ」

 

「要するに二度目の高校生活か…なら勉学にも苦労しとらんだろ」

 

「ところがどっこい……勉学は良いとは言えない……前世では姉に教えてもらってたんだけどな〜。偶に兄も教えてくれたな……怖くて滅多に頼まなかったけど」

 

「ちょっと待て…」

 

 そこで話を黙って聞いていた承太郎が右手を上げて口を挟む。その手で学帽をかぶり直し質問してきた。

 

「てめぇは父、姉との3人暮らしじゃなかったのか?」

 

「あぁ〜そう言ってたね……忘れてた。兄は家には滅多に帰らなくてね……そういえば姉も2人いた…上の姉は家出をしたりしてる。そんな気がする…ウッカリしてた」

 

「家出だぁ?なんか訳あり家族だったのかよ⁉︎」

 

「訳あり…うーん。何を基準に訳ありというのか……と言うか前世の記憶を思い返す必要性は、原作知識以外はとくに無かったし…そもそも原作を何故読み始めたのかってのもうろ覚え〜」

 

「思い出せないのか?」

 

「…あぁーここまで出てる……………そうだ!当時仲良かった学校の先輩に一部を借りたんだ。それでハマって…」

 

「別の世界でも同じように学校があるんだな」

 

「ちなみに僕は生徒会の会長補佐をやってましたー。部活は合唱部でーす」

 

 一度聞かれるとドンドンと溢れる過去の記憶……聞かれることで思い出せる内容も幾つか…割と楽しい。

 

「で?こっちは?」

 

「こっち?」

 

 ポルナレフが親指を立てて思春期っぽい質問をしてくる。

 偶にポルナレフって子供っぽいところあるよね……あ、そういえばこの旅で誰かの幼少期を目撃できるんじゃない⁉︎ 期待してるぞアレッ……アレックス?…名前何だっけ?

 それはそうと……

 

「その親指は彼氏とかそういう意味…だよね?残念な事にいなかったねぇー。漫画貸してくれた先輩が悪ふざけして告ってくる事はあったけど……」

 

「それはどんな人だ?」

 

 ここで食いついたのは花京院。高校生だとやっぱり、男子でも恋愛話が気になる人はいるんだね。

 

「確かね……よくカッコつける先輩だった。下の姉さんと喧嘩したこともあったな……ボロ雑巾みたいになってたけど……」

 

「女にやられるって……相当弱いなそいつ」

 

「そうとも限らんぞポルナレフ。女性が優位に立つ場面なんてそう珍しくはない」

 

「そういや…ジジイも、スージー婆ちゃんの尻にひかれる光景も見たことが」

 

「その話はよせ承太ろッ⁉︎」ガクン‼︎

 

 そんな会話を弾ませていると、急に車体がガクンと揺れた。

 それを境に運転が荒々しくなり、ポルナレフがハンドルを回しても関係ない方向にカーブし始める。

 

「みんな!車体から落ちないで‼︎」

 

 急カーブで横転しかけるがギリギリのところで踏ん張り、なんとかひっくり返るのを防いだ。

 

「…イテテ…お前ら無事か?」

 

 運転席で振り返るポルナレフは、全員の安否を確認する。

 何人かが肘などをぶつけて痣を作ったが、今までの旅の怪我と比べれば無傷判定だ。

 

「なんて切れ味だ…前輪が持ってかれてるぜ」

 

「本当だ。切られたタイヤがあんな所に」

 

 ポルナレフの言葉を聞いて、花京院が離れた場所に飛んでったタイヤを指差す。そんな花京院の襟を掴み、僕は彼に姿勢を下げるよう伝える。

 

「原作ではここで花京院が一時離脱する羽目になるよ。目を負傷するから気を付けて」

 

「ッ⁉︎…おい!そうこうしてる間に車体が傾いてねぇか⁉︎」

 

 落ちないように身を乗り出すと、右の後輪が砂の中に沈んでいるように見える。しかしよく見てみると、それは砂ではなく水……水のスタンドが車輪を引きずり込み始めていた。

 

「みんな………」

 

「「「「「………」」」」」

 

 僕が一声かけると、みんなはバランスをとりながらも両耳を抑えた。強く圧迫させ、ポルナレフなんかは念の為に小声で何か呟いている。

 それを確認した僕は顔を砂中に向け、小声で適当な言葉を呟いた。

 

「………」ボソッ

 

『……ッ⁉︎』

 

 引き摺り込まれかけた車体は急に自由になり、傾いていたのが戻り砂漠に叩きつけられる。

 その衝撃で何人かは砂漠に落ちてしまった。

 

法皇の緑(ハイエロファントグリーン)

 

「うおっ…と……ありがと花京院」

 

 意識が一瞬飛んだ僕も落ちかけたが、そこは花京院がスタンドで僕を引き止めてくれた。他に自力で車上に(とど)まったのは承太郎と、紫の隠者(ハーミットパープル)を使ったジョセフさん。

 逆に落ちてしまったのはアヴドゥルさんとポルナレフだった。

 

「…や、やったか?」

 

(しず)かに……絶命確定の技じゃないからまだわかんない」

 

 そもそも使った事そんなに無いしエンヤをやった時は99%とか言ったけど、ぶっちゃけ必殺成功のパーセンテージなんてわかんないんだよね。

 ひとまず生存の確認のためにケルちゃんを呼び出し、砂漠を走り回らせる。

 

「…………」

 

 しばらくしてもケルちゃんを襲ってくる事はない。ちゃんと仕留められたのかな?

 

「……どうやら、終わったようですね」

 

 安堵の息をついたアヴドゥルさんが、張り詰めさせていた緊張を解き足を踏み出した。

 そして僕もケルちゃんを呼び戻す…………すると…

 

「アヴドゥル‼︎ 危ない‼︎」

 

「何ッ⁉︎」

 

 踏み出したその足元から、蛇のようにホース状の水が這い上がってくる。その先端は掌の様になっていて、アヴドゥルさんの胸板に掴み掛かった。

 

「ガハッ…⁉︎」

 

「アヴドゥル‼︎」

「アヴドゥルさん⁉︎」

 

地獄の番犬(ケルベロス)‼︎」

 

 呼び戻してる最中で偶然近くにいた僕のスタンドを、いつもとは違い荒々しく名を呼んで指示する。

 前足で水のスタンドを叩きつけるように攻撃する。ゲプ神のスタンドはそれではたき落され、そのまま浸透するように砂の下に逃げた。

 

 ゲプ神のスタンドは原作だと、ヘリに乗っていた財団の人間の首を最も簡単に引き千切る力を見せた。もしケルちゃんの攻撃が遅ければ、アヴドゥルさんの胴体がそうなっていただろう。

 

「アヴドゥル‼︎ クソッ、息はあるか⁉︎」

 

「あ、あぁ……浅くは無いが、傷は臓器に達していない」

 

 共に落ちたポルナレフが素早く抱え、すぐさま車上に戻ってくる。

 

「僕の能力が………僕はまた守れないのかな……」

 

 殺す気でやった時点で精神的に辛いのに、それが失敗して仲間が傷ついてしまったとなると辛さ倍増……

 

 僕は思わずへたり込んでしまう。すると今まで僕を掴んでいた緑色の触手が離れ、天へと伸びていった。

 そしてスタンドではない花京院の手が、僕の頭頂部に手刀を落とす。もちろん加減をしていて痛みなんかはない……

 なんかチョップされること多くない?

 

「何をへこたれているんだい?まだ戦闘中だ…黄昏るなら後にしてくれ」

 

「ご、ごめん…」

 

「僕が敵の本体を見つける。そしたら承太郎…そして葎崎さん……力を貸してくれ」

 

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