ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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43.揃わぬ旅人

 目を覚まさないアヴドゥルさんは、意識こそ無いが安定した呼吸をしている。だが苦悶の表情を浮かべ、ゲプ神の一撃の威力を物語っていた。

 そんな彼の胸板にある5つの傷穴を押さえ、ジョセフさんは清潔なタオルで圧迫しながら波紋で治療に努めている。

 

「………………」

 

 僕らが今いるのは片方の前輪を失ったバギーの上。それも砂漠のど真ん中で敵と交戦中だ……といっても、現在進行形で戦っているのは承太郎と花京院。そして運び屋(アッシー)と化してる僕のケルベロスだ。

 花京院は法皇の緑(ハイエロファントグリーン)で空から本体を探しだし、承太郎は僕のケルベロスに跨り本体のいる方角へ直進している。本体に辿り着きさえすれば承太郎は負けないだろう。

 

「……花京院、そっちは?」

 

「今のところ問題ない。ただ僕の法皇の緑(ハイエロファント)は、触手を細く伸ばす事で射程距離を伸ばしている。本体へたどり着いた時には、加勢する程の力は無いだろう」

 

「承太郎も無事そう?原作では砂の下からの不意打ちで苦しめられたけど…」

 

「それも問題ない。君のスタンドのスピードに合わせて敵スタンドは追って来てる。速さのあまり砂を巻き上げてしまって、何処から飛来するかは丸分かりだ……って、葎崎さんは自分のスタンドの目を通して確認できないのか?」

 

「うん…目の届かない所だと指示を出すだけの自動操縦に切り替わるから」

 

「俺の銀の戦車(チャリオッツ)と同じか。俺のも自分の目で見て戦うタイプのスタンドだ」

 

 何の役目も持たないポルナレフが口を挟むと、「暇なら手伝え」とジョセフさんに声を掛けられる。自動操縦モードでやる事のない僕も、それに乗じて自主的に手伝いに入る。

 何より、仕留められずに仲間を危険に晒してしまった責任は大きい。

 

「……うぅ………」

 

「………アヴドゥル?」

 

 彼が苦しそうに唸るので、ポルナレフがついつい声を掛けてみる。しかし返答は無い。未だに意識はなく、無意識に漏れた苦痛なのだろう。

 

「……ごめんなさい……アヴドゥルさん……ごめんなさい…」

 

 それに対して僕も、無意識のうちに謝罪の言葉を隙間から零した。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 日が照りつけるアスワンを走り回ること一時間弱…

 走りっぱなしというわけではないが、それに等しい運動量に私は根を上げ始める。

 

「ハァ…ハァ…クソッ‼︎ 何処に行ったあのバカ‼︎」

 

 息を荒げながらも私は、探し物が見つからず声も荒げる。

 やはりこの身体は貧弱だな………そこらの常人と比べればまだマシだが。

 

「ん?何だ…随分と騒がしいが…………あれは…」

 

 喧騒が聞こえるので辿ると、曲がり角の先の店で見知った顔が並んでいた。だが約1名の顔に白黒の小動物がへばりついていた。

 

「やっと見つけた」

 

 探し物を見つけて歩み寄ると、その先にいた人物達が私の顔を見て歓喜の声を上げる。

 そこにいたのはジョセフ達だった。しかし、その場に承太郎とアヴドゥルの姿は無い。

 

「レオン‼︎」

 

「ジョセフ…貴様、よくも面倒ごとを押し付けてくれたな」

 

 軽く睨みを利かせると、ジョセフは苦笑いを浮かべて謝ってくる。

 

「何の話?」

 

「元を辿れば礼神…君のせいだ」

 

「僕?」

 

「礼神、お前さんの指示でイギーとの合流を先延ばしにしたじゃろ?しかしその連絡を財団にした時にはすでに、打ち合わせ通りにイギーを近くの町に財団は輸送してたんじゃ。受け取りを先延ばしにされた気まぐれなイギーを、また保護施設へ連れて行くの骨が折れる……そこで先にアスワンにいたレオンにイギーを受け取ってもらったんじゃよ」

 

 そのイギーが、さっきまで私が探していた探し物なんだがな…目を離すとすぐ消える…

 

「ジョースターさん。ということは、この犬が事前に聞かされていた助っ人ですか?聞いてた通り、本当に犬だとは…」

 

 ポルナレフの顔面にへばりつき髪を毟り取るボストンテリアを指差し、花京院は冷静に尋ねてくる。

 

「そうじゃ。この犬こそが愚者(ザ・フール)のカードの幽波紋使い。名前は「イギー」…ニューヨークの野良狩りにも決して捕まらなかったのをアヴドゥルが見つけ、ワシとレオンとアヴドゥルの三人がかりでやっとの思いで捕まえた」

 

「んな説明は後にして、誰か此奴を取ってくれーーーッ⁉︎」

 

 悲痛な叫びを上げるポルナレフを見て、私は懐からイギーの好物を取り出す。するとすぐさまそれに気付き、イギーは顔面から離れて私の元へ駆け寄ってくる。

 

「コーヒー味のチューインガムが大好きだけれど、決して誰にも心を許さない。じゃが…」

 

Sit(座れ)‼︎」

 

 ハッキリとした発音で目を見て英単語を放つと、イギーは面倒臭さそうに腰を下ろした。

 

「…この通り…レオンの言うことだけは聞く」

 

「厳密には妥協してるだけだ。私にも心は開いていないし、言う事を聞かないことも多い」

 

 ジョセフの説明に補足をつけて膝を折ると、地面に手がつきそうになったところで、イギーが私の手からガムを奪った。ちなみに、間違っても箱の方を取られるようなミスはしないように注意している。

 

「さて、合流も済んだ。情報交換を始めよう……アヴドゥルと承太郎はどうした?」

 

 そう言うと礼神がわかりやすく表情を濁した。

 

「……無事に合流できたわけでは無さそうだな」

 

 

 

 

 

 その後、その場を離れた我々は近くに停めてあったバギーに乗車し、アスワンの病院へと向かう事となった。

 アヴドゥルが重症、承太郎は軽症だがついでに診てもらっているらしい。

 

「ということは、私が合流する前に病院に寄っていたのか」

 

「えぇ。承太郎は兎も角、アヴドゥルさんの傷は深いようです」

 

「そうか…ム?それはオレンジか。一つ貰うぞ」

 

「良いぜー」

 

 前を向き運転するポルナレフに一声かけ、私は先程買ったと思われる紙袋からオレンジを一つ取り出す。

 するとその手を礼神に止められる。

 

「その前にレオンさん。そっちは片付いたの?」

 

「あぁ、変装と予言の幽波紋使いだろ?まぁ……問題ない」

 

 問題ない事には無いが正直「片付いた」と言うべきかどうか…

 奴らを追い詰めはしたのだが、再起不能にする直前に見知らぬ男達が来て、何故か二人は其奴らに袋叩きにされたのだ。

 つまり私は何もしていない。

 

「なら食べて良いよ。原作では其奴らに、オレンジ型の爆弾が仕込まれたから」

 

「………ふむ、火薬の匂いも無い…普通の果実の香りだ」

 

 念の為の確認を終え、皮を剥いて果肉を口に放り込む。

 すると甘酸っぱい味が口内に広がる。実に美味い。

 

「美味しそうに食べるねー」

 

「好物なんだ。フルーツ全般が…というか甘い物が」

 

「へぇー、甘党なんだ」

 

 オレンジを食べ終え、口元をスカーフで隠して舌舐めずりをすると、一息ついて座席に持たれる。

 

「ん?花京院。お前、左手の親指が上になって組んでるなあ」

 

「…そうだな。それがどうした?」

 

「ギャハハハッ! その手の組み方は、お前の前世は女だった証拠だよおーーん‼︎ オレは右親指が上だから前世は男との占いだもんねーー」

 

 突如としてポルナレフがどうでも良い事を呟く。相変わらずというか、何というか……

 それを聞いたジョセフも、自然と左が上に来ると公言しポルナレフにバカにされている。そしてバックミラー越しに後部座席を見ると、ポルナレフは表情を冷まして前を向いた。

 

「…………なんかスマン」

 

「お?何だ?言いたいことがあるなら言いなよ」

 

 軽くキレた口調でそう言う礼神は、右親指を上にして指を組んでいた………

 

「おいそこの電柱、こっち向けよ」

 

「いや、前を向けポルナレフ。疫病神(ジョセフ)を乗せてる事を忘れるな」

 

 ちなみに私は左親指が上だ。

 

 

 

 

 

 アルコールの匂いが仄かに香る病室に入ると、褐色肌の男が備え付けのベッドの上で横たわっている。服は患者用の物に着替えさせられ、胸板に分厚く包帯が巻かれている。

 包帯の取り替えやすさを考慮しての患者服なのだろう。

 

 そしてその部屋の窓際には、椅子の背もたれに体重を預ける承太郎もいた。

 

「久しぶりだなアヴドゥル、それに承太郎」

 

「レオンさん」

「レオン……!」

 

 私の存在に気付くとアヴドゥルは上半身を起こし、承太郎は学帽を被り直した。

 ちなみに犬を病室に連れて行くことはできないので、イギーはポルナレフと共にバギーで待機中である。

 

「承太郎は聞いてた通り軽傷か。アヴドゥルの傷は……失礼」

 

 包帯の隙間を少し開けて傷を確認すると、そこには5つの深めの穴が空いていた。ジョセフの波紋による治癒で多少治っているので、負った時はもっと深い穴だったのだろう。

 

「ゴメン…僕が敵を仕留めきれなくて……それで…」

 

「いや、私が油断したのが原因だ。むしろその後の礼神の一撃で即死は間逃れたのだ、感謝しているよ」

 

「でももう大丈夫だよね?レオンさんと合流できたし、すぐに治療を……」

 

「……いや…私による治療はやめておこう」

 

 罪悪感を感じている礼神には悪いが、私は彼女の言葉をそう言って遮った。

 

「何で⁉︎」

 

「私の細胞は元を辿れば柱の男と吸血鬼…つまり捕食者の細胞だ。()()()()()()()()()()()()

 

「…どういうこと?」

 

「相手の細胞に似せて癒着させても、結局は他者の細胞…相手にとっては不純物だ。だから私は自らの細胞を弱めて相手の体内に送り、相手の細胞に犯されるように仕向けて相手の細胞を増やさせている」

 

「つまり細胞のカサ増しじゃ。細胞の量だけ増やし、相手に無理させて細胞を活性化させる。すると短時間で傷が塞がり箇所を修復できる代わりに、本来の自然治癒で発生する疲労のトータルが数倍に跳ね上がるのじゃ」

 

「礼神の時は死に関わる重症だったためやむを得なかったし、君の隠していた能力で仮死状態を保てていた。しかしアヴドゥルはどうだ?もう放っておいても死ぬような傷では無い」

 

『第一此奴(こやつ)が入院をする最もの原因は失血であろう。人間の正規ルートの治癒法を推奨する。それに主の治療後は波紋で疲労を軽減する必要があり、波紋使いが付きっきりにならねばならない。旅の足枷になるぞ』

 

 私の言葉に続くように補足の説明が入り、礼神は納得して項垂れる。

 

 それはそうと……

 

「レオン…そいつは何だ?」

 

「アンラベル…勝手に出てくるなと言っただろ」

 

 気がつくと獣の耳を生やす浴衣姿の女性が、病室をフヨフヨと浮遊していた。さも当たり前のように補足で説明した後に、承太郎に指差されたアンラベルは流れる風のように承太郎の眼前に移動する。

 

『我はアンラベル。我が主、レオン・ジョースターの第二のスタンドだ』

 

 そういうと触れる事もできない両手を承太郎の両頬に添えて、無機物な瞳で真っ直ぐと承太郎を見据える。

 

『貴様には迷惑を掛けた。我に謝罪の意など無いが、形だけでも謝らせてもらう』

 

 ノイズ声でそう言うと、アンラベルは承太郎から離れて私の背後を位置取る。そして肩から覗き込むように顔を出した。

 

「……紹介…もとい説明しておこう。これが私の悩みの種、アンラベルだ。能力は私との反比例…私が弱れば此奴は逆に強くなる…今までの体調不良は、能力も知らずに此奴が顔を出そうとしたからだ」

 

「コレが……」

 

『何だ花京院 典明。我が気になるか』

 

「レオンさん、制御はできるんですか?」

 

「私が弱るとアンラベルが身体を乗っ取り敵を捕食する。そうする事で回復するのだが、私が制御できるのはその後だ……乗っ取られてる間は完璧な制御はできない」

 

『安心しろ。我は貴様らへの危害は極力加えない。貴様らに危害を加えた時、主からストレスを感じた。だから味方には手を出さない。主を守るのが我の使命だ』

 

「………だそうだ」

 

 説明を終えてスタンドを消すと、一同は少しだけ難しい顔をした。

 

「…まぁ……上出来な方ですよね」

 

 苦笑いで花京院がそう言うと、みんな否定はしなかった。

 

「では話を戻そう。説明の通り、レオンによる治療は愚策じゃ。よってアヴドゥルには少しだけ入院してもらう」

 

「うぅ…本当にごめんね?」

 

「大丈夫だ。2、3日で退院できるさ。そしたらすぐ追いかける」

 

 アヴドゥルが笑顔でそう言って、礼神は彼の手で髪を掻き乱される。

 

「それじゃワシらは行くぞ」

 

「えぇ、ご武運を…」

 

「その前にちょっと良い?」

 

 別れようとした矢先に礼神が手を挙げ皆の足を止める。

 

「何じゃ?」

 

「いや、アヴドゥルさんに用がある。少しだけ…いい?」

 

「構わんよ。ワシらは表で待っている」

 

 ジョセフがそう告げ、私達はバギーに戻った。

 

「軽傷だと聞いたが、承太郎は大丈夫なのか?」

 

「あぁ…てめぇはどうなんだ」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 そう言ってバギーに乗り、乗せていたケースからボトルを取り出し、私は鮮血を喉に通した。

 

「誰か早く此奴をどかしてくれーーーッ⁉︎」

 

 気がつくとポルナレフはイギーと戯れていた。

 仲良くなるのが早いじゃないか。流石はポルナレフだ。

 

「そうじゃなくて‼︎…………って事!」

 

「…ん…礼神の声か?」

 

 声が聞こえ顔を上げると、アヴドゥルがいる病室から2人の会話がダダ漏れになっていた。

 

「いやだから、私の炎は赤くとも……」

「じゃなくって‼︎」

 

 ……病室では静かにしろ。

 

「それより早く助けてくれ〜〜〜ッ‼︎」

 

 いい加減助けるか…というか、私以外に助けようとする奴はいないのか?

 そう思いつつ私は懐からガムを取り出す。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「思い込みで強くなるならできるはずなの!OK⁉︎」

 

「だから私の炎は元々…」

 

「だ・か・ら‼︎」

 

 

 〜少女熱弁中〜

 

 

「…ゼェ…ゼェ……」

 

「や、やるだけ…やってみよう」

 

 僕の説明を聞き終えると、アヴドゥルさんは引き気味に首を縦に振った。

 もう少し説得力というか…語力があれば……

 

「それじゃ…ゼェ…僕は行くよ…フゥ…メモはココに置いておくね」

 

 息切れして絶え絶えになりながらそう伝え、僕は病室を出た。

 少しのつもりが説明が長引きだいぶ待たせてしまったなぁ。

 

「ごめんなさい。遅れますた」

 

「随分と疲れているな。何を話して来た?」

 

「強くなる為のアドバイスと、この先出てくる幽波紋使いの一覧表置いてきた」

 

 僕がそう言うと皆が僕に視線を向けてくる。その無言の威圧のせいで、僕はバギーに乗り込むのを一瞬躊躇う。

 

 あ、でもイギーだけガム噛んでて可愛い。

 

「シンガポールでは教えてくれなかった未来の情報……それを今更教えると言うのか?」

 

 少し低い声でポルナレフがそう言う。その表情には凄味があった。

 

「それは数が多くてみんなを混乱させると思ったから。でも今は違う。DIOの館に着くまでの道中で出くわす新たな幽波紋使いは4人…館には6人」

 

「合わせて切り良く10人か」

 

「そのうちの2人は雑魚みたいなもの……ひとまず道中に出くわす4人について説明するよ。でもその前に車出そうよ、いい加減にさ…」

 

 そう言うと花京院がバギーのドアを開けてくれ、僕が乗り込むとポルナレフがアクセルを踏み込んだ。

 

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