ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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45.目には目を、妖刀には……

 日が沈んだ空は黄昏でほんのり赤い。

 そんな空の下を流れるナイル川は、操縦士を失った小舟を水流に乗せて運んでいた。

 

「ポルナレフッ!貴様の銀の戦車(チャリオッツ)の動きやパワーはさっきしっかりと取り込んだ‼︎ 一度闘った相手には決ッ…………ッして負けない‼︎」

 

 承太郎の顔、声帯、身体を拝借した刀のみのスタンド、アヌビス神は台詞を吐き捨てると悠々と刀を構えた。

 

 いくら学習しようと時を止める承太郎の星の白金(スタープラチナ)には勝てるわけがない。だがその承太郎が操られると誰が想像しただろうか。

 絶対の勝率を誇る男がこうも簡単に再起不能になるとは…

 

 しかも此方(こちら)にとって都合の悪いのはそれだけではない。

 

 承太郎の身体を拝借されてしまえば、我々は手が出しにくい。仮に承太郎に死の覚悟があったとしようが、DIOを倒せるのは承太郎だ……我々の手で死なせるわけにはいかない。

 

「……礼神…」

 

「わかってるよ‼︎ チョット待って‼︎」

 

 敵と味方の情報を最も握っている彼女は、口元を手で押さえ汗を流す。目はあちこち泳ぎ続け、反対の手は指を立て宙を彷徨わせている。

 この戦闘の攻略法を必死に考えているが唐突な事で頭は上手く回らないようだ。

 

「考える隙も与えんッ! シェァァァァア‼︎‼︎」

 

銀の戦車(シルバーチャリオッツ)‼︎」ギィン

 

 間も無くしてアヌビスが襲いかかる。するとポルナレフが迷いも無く時間稼ぎ役を買って出る。しかし相手の剣撃が上なのか、ポルナレフのスタンド像の持ち手が僅かに痙攣した。

 それを見兼ね花京院が弾幕をはり、アヌビスは小舟の端まで後退する。

 

「エメラルドスプラッシュ‼︎ 僕も手をかそう。2人で食い止めるぞ!」

 

「よせ花京院‼︎ 奴は恐ろしい早さで学習する! 勝算無しに出てくんな、無駄に相手を強くするだけだぜ⁉︎」

 

「だからといって黙って下がれと? 君は既に知り尽くされている。時間稼ぎにもならない」

 

 語句を強くして弾幕を張ると、アヌビスは弾幕の隙間を縫うように躱し、躱しきれないものは刀で弾いた。

 

「花京院の攻撃パターンも、今ので覚えたぞ…」

 

「はたしてそうかな?」

 

 挑発的な笑みをとり花京院がアヌビスを指差す。次の瞬間エメラルドの雨が降り注ぐが、それは一撃たりとも被弾しない。

 

「アヌビス神…学習能力……時間稼ぎも長くはもたん。レオン‼︎ ワシに作戦がある」

 

「何だ?」

 

「これでも戦況は読める方じゃ。ひとまず場所が悪い。狭い小舟の上じゃ大勢では戦えん」

 

「花京院の弾幕と このスペースで合わせられるのは、スピードのあるポルナレフだけ……それはそうだが川岸に着けろと?そんな暇はないだろ」

 

「別に岸につけるわけではない、耳をかせ。礼神も来なさい」

 

 頭を捻らせる礼神を呼び寄せ、ポルナレフ達が時間を稼ぐ間にジョセフの作戦を聞き入れる。

 

「……………それは…作戦なのか?」

 

 耳打ちされた内容を理解し、私は怪訝な表情でジョセフを見返す。

 

「もちろんじゃ。このジョセフ・ジョースター…何から何まで計算済みよ‼︎」

 

「………本当にこれでいくの?」

 

 不安に思うのか礼神も疑いの目を向ける。しかし………はぁ。

 他にもいい作戦はあるのだろうが、急には思い浮かばないし説明する時間もない。これで行くしか無いのだろう。

 

「ポルナレフ、花京院、選手交代だ」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ジョセフさんも可笑しな作戦を思いつくな……

 何も思い浮かばなかった僕は、それに従うしか無いけど。

 ひとまず僕は言われた通りにイギーの元へ…

 

「イギー!逃げるよ!」

 

 僕の声を聞いて、寝ていたイギーは耳を動かし反応する。しかし次にとった行動は、面倒そうな表情を浮かべただけだった。

 それでも自分の身に危険を感じたのか、素直に舟から飛び降り着水……1人で勝手に川岸へ退避した。

 

 ジョセフさんの言った通り、僕が伝えるだけ伝えるとイギーは勝手に逃げた。

 できればイギーの砂のスタンド、ザ・フールで戦って欲しいんだけどな。

 砂なら切られずに纏わり付き拘束できるのに…そこはまだ僕らに気を許してないから無理かな。

 

「葎崎さん‼︎」

 

「お、花京院とポルナレフ来たね」

 

「作戦って何だ⁉︎ 何をすれば良い⁉︎」

 

 駆け寄って来た2人は僕に指示を仰ぐ。

 戦闘に関してはジョセフさんとレオンさんに任せてある。今僕らがやるべき事は1つ。

 

「逃げる‼︎ まず気絶した商人さんを見捨てられないから持って来て。抱えて川岸まで泳ぐ」

 

「オメーカナヅチだろ!どうやって…」

 

「花京院お願い」

 

「…仕方ないな」

 

 呆れたようにそう言う花京院は何処か嬉しそう。

 彼は法皇の緑(ハイエロファントグリーン)の触手を僕に巻き付けると、別の触手を伸ばして商人まで回収してくれた。

 

「行くよ」

 

「ばっち来い!」

 

 偶然川岸に聳え立っていた電柱(ポルナレフではない)にまた別の触手を絡ませると、花京院のスタンドは力強く僕らごと川岸まで引っ張った。花京院のスタンドって力無いイメージだけど、張力って言うのかな…引っ張る力が強いんだよね。

 

「はい到着」

 

「流石花京院。仕事が早い」

 

 あっという間に陸地に上がると、僕は触手から解放されイギーがちゃんといることを確認する。

 

「テメェ花京院‼︎ 俺も運べよ‼︎」

 

「定員オーバーだ」

 

 唯一生身で川を泳いで渡るポルナレフは、ツンとした花京院の答えを聞いて軽く睨んだ。当の本人は全く気にして無いね。

 ちなみにイギーは既に二度寝の体勢で地面に転がっていた。

 

「ふぅ…で、本当に良かったのか? 俺たちだけ逃げて…」

 

「いいの。ジョセフさんの指示なんだし、大丈夫……なはず。ここは頭脳派のお二人に任せるしか…」

 

「…あれ? 葎崎さん。そういえば君、スタンドを使えば泳げたんじゃ?」

 

「貸し出し中でーす」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ……脱力状態になるのも久しぶりだ。

 

「〜〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

 ……何かしらの掛け声と共に、承太郎(アヌビス入り)が刀を振りかざしてくる。それを私は手の甲で受け止め横に流す。 流れた刀は折り返し私の首を右から狙ってくる。今度はそれを仰け反ってかわす。

 一太刀振るうたびに起こる微風が私の肌を撫でる。紙一重で躱した時のこの感覚が私は好きだ。

 だがそれも長くは続かないだろう……素人目には闇雲に振り回してるように見えるが、奴はワンパターンな攻撃は決してしていなかった。

 

(まるで詰将棋だ)

 

 新たな一振りを流し、また新たな太刀を受け止める……視覚と触覚以外の神経を削ぎ、身を守る術に全集中しているため周囲の状況は全く理解できない。承太郎(アヌビス風味)が何か言っているがそれも聞こえない。脳が声を遮断している。

 

 どうせ「今の動きも覚えたぞ」とか言っているんだろう。

 

 ……というか、雑念が増えて来たな。そろそろ集中力も切れ始めている。

 

「絶ッ……………対に負けない‼︎」

 

「しばらくは私も敗北せんぞ? 貴様からしても初の経験だろう、素手素足で太刀を受け止められるのは……」

 

「ぬぅッ⁉︎」

 

『我がW-Refは斬撃すらも吸収する。貴様にとっての未知の領域は……まだまだ有り余っているぞ』

 

「………」ドッ

 

『ウッ…』

 

 ………我が物顔でドヤ顔を決めるアンラベルが正直ウザい。

 

 雑にだが横にいる其奴を殴ると、小さく呻いて姿を消した。私と反比例するスタンド…ダメージが私に返ってくる事はないので躊躇などは無い。

 

「レオォォォン‼︎‼︎」

 

 そのやり取りを油断や余裕と捉え気に入らなかったのか、アヌビスは怒号と共にまた切り掛かってくる。

 段々と剣撃の速さも上がっていくが力は上がらない……上がっているのかもしれないが………

 

「ヌゥウ⁉︎」

 

「力技など無駄だ…私のスタンドの前ではな」

 

 両手で受け止めこのままスタンドエネルギーを吸い尽くしたいのだが、やはり時間がかかる。

 せめて取り憑かれた承太郎を解放したいが、どういうわけかそれができない。W-Refが本体に触れれば、その間スタンドや能力が使えなくなるはずなのだが……

 

(できない可能性といえば、エネルギーが承太郎に流れていてそこまで吸収できないとかか?)

 

 W-Refが吸収できるのは触れた所から…間接的に…つまり刀越しに承太郎のエネルギーは吸収できない。

 

「どうじゃ!できんのか⁉︎」

 

「できない‼︎」

 

「ならば(乗り気じゃ無いが)プランBじゃ‼︎」ブンッ

 

 右腕を伸ばすと、荊が更にその先に向かって伸びる。そしてそれは承太郎の左足に巻き付く。

 

「ヌゥン‼︎」

 

「甘い‼︎」スパン

 

 老いても未だに力強い両腕で荊を荒々しく引く。しかし体勢を崩しかけた所で切断されてしまう。

 精一杯引いたのか、引いていたジョセフが逆によろけてしまう。

 

「恨むなよ承太郎!」

 

 背面蹴りを打ち込むが吸血鬼の力で万が一クリーンヒットしたら承太郎がタダでは済まない。かといって波紋を使えばスピードが落ち、アヌビスの剣撃についていけなくなってしまう。

 結果 私は加減をした様子見の一撃を放つ。

 

「怖いか? フフフフフ。攻撃に躊躇いが見えるぞ?」

 

 怖いに決まっているだろ、当たり前だ。

 親友の玄孫(やしゃご)に風穴なんて普通開けれない。そんな事をしてみろ、ジョジョに合わせる顔がないぞ。

 

 蹴りは刀の峰で受け止められてしまう………だが。

 

「だがこれで良い、これが良い」ギィン‼︎

 

 蹴りと刀の隙間から金属音が響く。

 

「太刀音⁉︎ まさか…‼︎」バキィン‼︎

 

reflection(全てを返そう)。折れて短くなった…間合いが狭まったな」

 

 今までに溜めてきた剣撃のエネルギーを放出し、その力で妖刀は中腹から叩き折れて飛んでいった。

 本体が傷付き承太郎の身体がフラフラと揺れる。

 術が弱まったのか?

 

「や、やったか⁉︎」

 

「まだだ。念の為に川に落とせ‼︎」

 

「わかったわい‼︎」ギュルッ‼︎

 

 またもや荊が承太郎の身体に絡み付く。ジョセフは今度こそと力を込めて引き、承太郎の身体が僅かに浮いた。

 

「ま…だ……だぁッ‼︎」ズバズバッ‼︎

 

「こいつッ‼︎ また切断されてしまった‼︎」

 

 全体重をかけて引っ張ったのか、尻餅をついてから立ち上がるジョセフ。腰を強く打ったのか、己の腰を摩り続けている。

 

「なるほど。俺を水中に落とすつもりなのか……だがその程度の策では絶対に負けない‼︎」

 

「やはり一筋縄ではいかんか…レオンよ、まだもつか?」

 

「……自信はないが、()()()()まだ時間がありそうだ」

 

「…フッ…フフフフ、レオン。貴様らにはまだ策があり、「成功すれば承太郎を殺さずに勝てる」…と、考えているな。フフフフ。それは甘い考えだ、甘い甘い。なぜなら……ここらでトドメのとっておきのダメ押しというヤツを出すからだ‼︎」

 

 勢いをつけて飛び上がり斬りかかってくるアヌビス。刀の構え方は上から振り下ろすいたってシンプルな形。

 どれだけ力があろうとW-Refは斬撃すら吸収する。片手を掲げて刀の太刀筋を予想する。

 今現在の奴のスピードなら、全神経を集中させ受け止める事は容易い。

 

「…と、思ったんだが」

 

 本能という奴だろう。

 私はまだ奴が高い位置にいるにも関わらず、咄嗟に手を引き一歩間合いを広げた。

 すると太刀の届く距離がギリギリだったのか、右肩から左腰にかけて赤い線が浮かび上がる。しかし服は切れていなかった。

 

「ッ……⁉︎」

 

「レオン‼︎」

 

「狼狽えるな。無事だ」

 

 全身に力を込めて圧を自らに加えると、一瞬だけ血が噴き出したが胸板を流れる流血はすぐに止まった。

 

「おのれ…承太郎の星の白金(スタープラチナ)を…‼︎」

 

「たかが一太刀…されど一太刀…どちらにしろ、私の命を狩るには浅い太刀だな。だが………」

 

 我々の目の前には、承太郎の他に長髪の屈強な戦士が佇んでいた。いつの間にか妖刀は戦士が握っており、刃先には血が付いていた。

 

「………今のは直感で致命傷を避けれたが、流石に星の白金(スタープラチナ)のスピードには吸血鬼でも付いていけないぞ」

 

「そりゃそうじゃろうな」

 

 事前に礼神から乗っ取った対象のスタンドが使えると聞かされていたが、星の白金(スタープラチナ)相手にどう立ち回るべきか……

 ジョセフの考えた作戦(?)を遂行するには、承太郎ごとで構わないから川に落とす必要がある。

 

「シャァァァア‼︎‼︎」

 

「来るッ⁉︎」

 

 星の白金(スタープラチナ)の間合いに入らないように、私は後退しながら鞭を振るい始める。もちろん鞭ではスタンドは倒せない。しかしそれ以外に手が無い。

 

「馬鹿め‼︎ スタンドはスタンドでないと倒せない。常識だろうがァァァア⁉︎」

 

 一気に間合いを詰めてくるアヌビス。

 私の鞭はというと、物の見事に切断されてしまっている。ジョセフが紫の隠者(ハーミットパープル)で捕縛しようとするが、それも瞬く間に切断されていく。

 

「ジョセフ・ジョースター。このアヌビス神…お前の攻撃パターンはもう覚えた。一度闘った相手には絶対に負けんのだァァァア‼︎」

 

 やがて間合いに入ってしまった私に、星の白金(スタープラチナ)が刀を振り下ろす。

 

「クッ……ここだ‼︎」

 

 仕込み刃を出し太刀筋に構えて受け止めようとする。刃負けしてしまった時の為にW-Refまでも構えた。しかし両方共もってしていても、太刀筋を止める事は出来なかった。

 

「…………?」

 

 ………一瞬何が起きたかわからなかった。

 

 妖刀は確かに私の身体を通り過ぎたが、私の身体に真新しい傷は現れなかった。

 

「レオン・ジョースター。いや、()()()()()()()()()‼︎ 貴様への勝利はたった今 確信した。DIO様の命令はジョースターどもの抹殺及び、貴様の生け捕り。暫くは大人しくしてもらうぞ‼︎」

 

「貴様ッ⁉︎」ズバッ

 

 ブランドーの名前に反応してしまった私の隙を突き、アヌビスは私の両足を斬り落とした。そして苦痛に呻く間も空けずに、奴は私を船から蹴り落とした。

 私が背にしていた小舟の手摺りは既に切断されており、為すすべなく私は川に蹴り落とされたのだ。

 私の身体を通り抜けた一太刀は、最初から私ではなく背にしてた手摺りを狙っていたのだ。

 スタンドをすり抜ける事は無いようだが、W-Refは触れる事すら出来なかったのだろう。完全にスピード負けしたのだ。

 

(すぐに両足を生やすのはいくらなんでも無理だ…死にはしないが、足がコレでは泳ぐ事もままならない)

 

 仕方なく後をジョセフに任せ、私はナイル川の底に身を潜めた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「レオン‼︎」

 

 両足を斬り落とされたレオンが落とされ、遅れてジョセフが彼の名を呼ぶ。

 しかし先程の様な返答は返って来ず、代わりに殺戮的な笑みを浮かべた承太郎が振り向く。無論、承太郎は術に嵌り、この笑みはアヌビス神のものであった。

 

「ジョセフ・ジョースター。次はお前だ」

 

「ぬぅ……紫の隠者(ハーミットパープル)‼︎」

 

 牽制でスタンド攻撃を仕掛けるが、アヌビスはアッサリと切り捨てる。まるで歯が立っていないようだ。

 

「フフフフフ このアヌビス神。お前の紫の隠者(ハーミットパープル)の動きはもう覚えたのを忘れるな。一度闘った相手にはもう絶っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に負けんのだァァァーーーっ‼︎‼︎」

 

 船上を駆けてアヌビスが迫り、紫の隠者(ハーミットパープル)を伸ばしたジョセフは帆のはられたマストの上に登る。

 

「うひ〜〜、危ない危ない。危うく真っ二つになるとこじゃった……」

  (にしても……ワシ一人で此奴を突き落とせるかどうか……)

 

「逃げたつもりか?」ズバッ

 

「Oh My God ⁉︎」

 

 しかしマストは柱ごと切り倒され、ジョセフはまた船上に転げ落ちる。受け身はとったが、事態が好転する事はなく追い詰められてしまった。

 

「承太郎の様に長い間 時を止められずとも、お前のスタンド 、紫の隠者(ハーミットパープル)では俺のスピードにはついて来れまい。さっさと諦めて死ねィィィ‼︎」

 

「熱くなるのは良いが、足元には気をつけろよ?」

 

「何ィ⁉︎ いつの間に‼︎」

 

 何かを踏んで盛大に転んだ隙に、ジョセフは戯けた様子でその場を離れる。

 

「レオンが甘党で良かったわい。食べ物を粗末にして怒られるじゃろうが……まぁ仕方ない」

 

「コレは………飴……玉……?」

 

 転んで這い蹲っばったアヌビスは、眼前を転がる飴玉(イチゴ味)を摘み上げワナワナと震える。

 まともに戦おうともせず、先程とは打って変わって巫山戯(ふざけ)て逃げ回れば誰だって苛立ちは覚える。

 

「てめぇを…絶ッ……対にぶっ殺す‼︎」

 

 血管をピクつかせ、怒号と共に刀を振り上げる。

 

「そういえばお前さん…さっき「俺のスピード」がどうとか言っとったの。言うておくが、それはお前の力ではない。承太郎の力じゃ…更にお前、時を長くは止めれないんじゃな。……所詮は小物だという事じゃな」

 

 やれやれと両手を上げて溜め息を吐くと、更に激昂して跳び上がる。

 

「次にお前は…「ふざけるな、この老いぼれが‼︎」…と言う」

 

「ふざけるな、この老いぼれが‼︎…………ハッ⁉︎」

 

 アヌビスのその返答に満足そうな笑みを浮かべ、ジョセフは左手を……厳密に言えば持っていた携帯機器を掲げた。

 次の瞬間 眩い光がアヌビスの視覚を襲い、振り下ろしたアヌビスの妖刀はジョセフに当たらず、船板に勢いよく突き刺さる。

 

「携帯機器のフラッシュガンじゃ‼︎ お前が剣の達人だろうと、見えなければスイカ割りもできんのじゃな。ほれ、胴体がガラ空きじゃぞ」

 

「舐めるな‼︎ この程度、近付けば気配で貴様の位置など………何ッ⁉︎ 気配が無い?」

 

「当たり前じゃ。だってワシ近づいてないもん」

 

「ハァ⁉︎」

 

 義手から放たれた光で目が潰れたアヌビスに向かってそう言うと、ジョセフは遠くから何かを投げつける。

 するとその気配には気付いたのか、妖刀で飛来して来る物を切断した。しかしその中身が承太郎の身体に降り注ぐ。

 

「何……身体が…痺れ……」

 

「波紋入りの飲料水じゃ。波紋を練るのに時間がちと掛かったがの。そして紫の隠者(ハーミットパープル)

 

 アヌビスが麻痺してるうちに薔薇のスタンドを身体に巻きつける。

 それとほぼ同時に甲板には亀裂が走り、商船は大きく揺れる。突如として現れた大きな亀裂を見れば、誰もが間も無く沈没すると察した。

 

「何…ッ⁉︎ 何故急に……船が……」

 

「ワシじゃよワシ…ワシのスタンドで船底に数ヶ所穴を開けた。工夫しても紫の隠者(ハーミットパープル)じゃそれが限界でな」

 

「バカを…言え……その程度で…こんな……」

 

「要因は他にもある。船の老化による寿命、戦闘による余波……操縦する者もおらんし、気付かんうちに岩にぶつけたかもしれん……だが一番の沈没の理由といえばコレじゃな」

 

 空いてる方の手で親指を立て、ジョセフは己を指差す。

 

 

「ワシが乗船している‼︎」

 

 

 その声に呼応するように船の自然崩壊が更に進み、今立っている足元からも水面に飛び込める程になる。

 今度はアヌビスも抵抗できず、ジョセフは己も川に飛び込み水中に引き摺り込んだ。

 

(クッ…水中に引き込んだからなんだ‼︎ 2,3日もすれば錆びるが、その前に上がればいいだけの事! 動き辛いのは向こうも同じ…痺れももうすぐ取れる。そうすれば…)

 

『アヌビス……貴様は既に私が再起不能だと思っているのか?』

 

 不意に水中で話しかけられ、アヌビスは声のする方にぎこちなく顔を向ける。

 そこには両足を斬り落とされたレオンと、先に飛び込んだジョセフがいた。レオンはジョセフの手から空のボトル…厳密には空気の入ったボトルを受け取った。

 

『一呼吸できれば充分だ』

 

『まさか⁉︎ 早く陸に上がらねば⁉︎』

 

『もう遅いわい……ってコレ、ワシも巻き添え食らうんじゃ……』

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「カヒュッ⁉︎」

 

 僕らが川岸に避難してから数分後…ナイル川の川底からスパーク音が響き渡り、同時に僕の身体を痺れが襲う。それから遅れて激戦を終えたであろう3人が川から這い出て来た。

 レオンさんは両足が切られていて這い蹲る様に動き、乗っ取られていた承太郎は意識が無くジョセフさんに背負われている。失礼だが三人の中で一番戦闘に不向きなジョセフは何故かピンピンしてた。そして誇らしく胸を張り、陸に上がるや否や話しかけて来る。

 

「どうじゃ礼神! ワシだって戦えるんじゃよ。ヒッヒッヒッ」

 

「………あぁーーゴメン ジョセフさん。僕のスタンドは遠距離だと自動操作だから、戦闘の一部分すら見てない」

 

「なんじゃ…残念じゃのう」

 

 ガッカリと肩を落としたご老人…恐らくMVPばりの働きをした自信があったのだろう。

 ちなみに他の二人……レオンさんは座り込んで軽く休憩していて、承太郎はジョセフさんの手で地べたに寝かされた。

 

「……レオン…本当にそれで治んのか?」

 

「あぁ……ほらくっついた」

 

「今更だが人間辞めてんだな……」

 

 両足を自己治癒してるレオンさんに向け、ポルナレフがそう呟いた。確かにそう言いたい気持ちはわかる。

 レオンさんは切れた両足の断面を付けて抑えているだけ…治療法にしては雑な事この上ない。

 それでも治るから便利な身体だよね。

 

「…うぅ……ここは…まさかッ⁉︎」

 

「目が覚めたか…そのまさかじゃ、承太郎。じゃがもう終わった」

 

「そうか…………手間かけさせたな、ジジイ」

 

「ところで礼神…そろそろ()()()()を外してくれんか?」

 

「あぁ、ゴメンゴメン」

 

「スタンド…なんの話です?」

 

「これじゃよ コレ」

 

 そう言ってジョセフさんが服を脱ぐ。すると服とシャツの間から骨が現れる。無論、それは僕のスタンドなんだけどね。

 

「スタンドは小さくできる…っていう情報を恋人(ラバーズ)戦で思い出してね。僕のスタンドは簡単な骨の操作ができるから、縮めて骨の仕組みを変えて人が纏える様にしたんだ。骨の鎧……差し詰め「骸鎧(スカルメイル)」ってとこかな?」

 

「まんまだな」

「まんまじゃな」

「まんまですね」

「まんまか…」

「まんまじゃねぇか」

「アギッ」

 

「…………」

 

 ………ネーミングセンスが欲しい……ってかみんなは気付いてるのかな…最近僕が自分のスタンドを「ちゃん」呼びしてないのを…

 最近無性に恥ずかしくなってきたんだよね……アヴドゥルさん復帰したら名前付け直して貰おうかな。例のタロットで。

 

「戻っといで〜」

 

「イダダダッ⁉︎」

 

 僕の声に反応したスタンドが、ジョセフさんの胴体から無理やり離れようとする。まずは肋骨を開閉しなさいよ…ジョセフさん痛がってるじゃん。

 

「よし…足は問題無く動く。承太郎は?」

 

「……頭痛はするが問題ない」

 

 回復を終えたレオンさんの声で一同が立ち上がる。ちなみに商人達は未だに気絶中です。

 

「ところでアヌビスは?」

 

「川に沈めたよ。それはそうと………やはり考えるべきかのう」

 

「何がー?」

 

「お祓い」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 〜アヌビスside〜

 

 ………覚えたぜ……

 このアヌビス神の本体は500年前この剣を作った刀鍛冶…そのスタンドだけが生きている。

 つまり本体のいないスタンド………DIO様が博物館の倉庫の暗闇から引っ張り出してくれた……

 DIO様のスタンド「世界(ワールド)21」はあまりにも強く俺にはとても敵わぬスタンド。だから忠誠を誓った……

 ……誓ったってのにチッキショ〜〜〜ッ‼︎

 

 おのれジョセフ・ジョースター‼︎ あんな方法で撹乱し運頼みで勝利した気になりやがって‼︎

 

 だが幸運な事にこのアヌビス神……まだ敗北はしていない。

 レオンに折られ飛んだ刀の破片が運良く陸地に突き刺さっているのだ‼︎ 後は誰かが気付き引き抜けばすぐにでも追って殺してやる‼︎

 

 ……む? 誰か来やがったぞ。

 

「…………ん? 何か光って……」

 

 ………ッ‼︎

 

 此奴は……フフフフフ、運が良い‼︎ 此奴のスタンド能力と俺の能力があれば今度こそ奴らに…それどころか、承太郎にも遅れを取らんぞ⁉︎ フフフフフ……

 

 さぁ抜け‼︎ 俺を引き抜きジョースターどもを皆殺しにするのだ‼︎

 

「…………………」

 

 ………?

 

 何をしている。早く俺を引き抜け‼︎ 鞘はいらないとしても、新しい持ち手を作らねばならんのだぞ⁉︎

 

「…………………」

 

 

 ーーーーーーガキン‼︎ーーーーーー

 

 

 んなッ⁉︎

 

 コイツッ‼︎ 俺を引き抜かず蹴飛ばしやがった‼︎ 何考えてやがる⁉︎ しかもコッチは川沿いじゃねぇか‼︎ ヒィ〜〜〜⁉︎

 

「………………フンッ…生憎俺は、剣を振るうガラじゃないんでな。()()()()()()()()。んっん〜 名言だな、こりゃ」

 

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