「………戻っちゃった。ハァ〜………」
「おい、その反応はなんだ葎崎」
僕は噴水に腰掛けて巨漢な男を見上げる。その隣には額を片手で抑える花京院の姿もある。
「うぅ……悪い夢でも見ていたようだ」
「あんなに可愛かったのに………こんなに逞しく………」
「フンッ、やれやれだぜ……だがやはり、テメェはやる時はやる奴だったな」
「褒められた〜、イェーイ」
「お袋みてぇな事を言ってんじゃねぇぜ」
そう言って着崩れた学ランを着直して学帽を被り直す。
「花京院は大丈夫?頭痛いの?」
「少し脳内が混乱してる感じがするけど……まぁ、大丈夫だよ、お姉ちゃ…………」
………………?
「………………」
ゆ………っくりと花京院が紅潮していく。だ、ダメだ。笑っちゃダメだ。
承太郎も顔背けて被り直したばかりの学帽のツバを深く下げた。表情は見えないが肩は僅かに震えている。笑ってんなこいつ。
そう思う僕も笑いを堪えているが、さっきからニヤニヤが止まらん……開いた口も塞がらん。
平常心を保とうと、話の矛先を承太郎に向けて誤魔化すと……
「じょ、承太郎は大丈夫?一度蹴られたけど…」
「問題ないぜ、葎崎!」
「プッ…アハハハ!チョ、それ反則だろ‼︎」
堪えていたものが溢れ、僕は腹を抱えて笑いだす。
だって承太郎がキメ顔で堂々と、しかも少し強めの口調で答えるんだもん‼︎花京院が失敗した後に‼︎花京院への当てつけにしか思えない!
その花京院は手で自分の顔を覆って、噴水の腰掛けに座って蹲る。
「………………」
「ほ、ほら花京院w 行こ?みんなと合流しないと」
「………あぁ…そうだね」
手からはみ出た表情は未だに紅く、ついつい悪戯心がくすぐられる。
「よし、行くよ花京院。お姉ちゃんについといでw…ってワァッ⁉︎」
上から頭を抑えられ、花京院が掌でグリグリと僕の髪を乱しまくる。抵抗するにも力の差が……
「チョ、ゴメンて!悪かったって!だからヤメレ‼︎」
「………やれやれだぜ」
…とか言いつつ承太郎の肩はまだ震えていた。
「オーイ、良かった。まだココにおったか」
ちょいと渋めの声が耳に入り目を向けると、路地からジョセフさんが歩いてきた。その肩には………あら?
「お帰りなさいジョセフさん。なんか別の持ってきたね」
「偶然見つけてのぉ………ってウォ⁉︎こ、コレを礼神がやったのか⁉︎」
崩れた民家を見て驚くジョセフさん。 僕はそれよりも、ジョセフさんが担いでる2人に驚きなんだけどな。
「何で兄弟持ってんの?」
ジョセフが担いで居たのは、アレッシーと比べれば大した特徴の無い長身の男と、その弟と思われるチビっ子だった。
片方がチビっ子だとしても、2人を担いで持ってくるとはなんてパワフルなお爺さんなんでしょう。
「ってか予言見て逃げ回ってた2人をどうやって捕らえたの?」
(それは…………
ー
ーー
ーーー
路地裏を走り回るジョセフはアレッシーを見失った。
しかしジョセフは影に隠れ、すぐさま着替えを始める。
「そう何度も逃がすかっての!」
ジョセフ・ジョースターという男は若い頃、破茶滅茶な発想で相手の虚を突くが、味方にも「ふざけているのか」と注意を受ける程の発想を実行する事が多々ある。
それを今までセーブするのが レオンの役目でもあったが今はいない。
「おっし、完璧だぜ!」
窓ガラスを鏡代わりに自分の姿を確認する。本人は完璧だと称しているが、それは実に酷い姿だった。
角張った体格を覆う女性用の服、濃くキツイメイク、異常に膨らませた胸部、口元には申し訳程度にレオンから渡されたスカーフが巻かれている。
女装のつもりのようだが化け物にしか見えない。コレでバレずに近付くつもりのようだが普通なら上手く行くはずがない。普通なら……
「アレッシーに任せたオインゴ達はその場を離れて様子を見ます。だけど変装した男に気を付けろ………か」
「お兄ちゃん、コレ………」
「ん、あぁ。マライアがやられる予言だな、わかってる。あの犬の変装とレオンの性転換………変装といったらその高レベルなどちらかだな。十分に気をつけ………………」
乗り物運は悪いが、原作のジョセフはワムウ戦の時に掴み損ねたハンマーが指輪に引っかって手放さずに済んだり、火山の噴火の際も岩盤を盾に運良く生き残る程の強運の持ち主である。
ジョセフのいる路地裏の向かいから歩いてきたのは、弟の予言を読み注意しながらも、レオンの探知能力の射程外を逃げ続けるオインゴボインゴ兄弟であった。
そんな2人とジョセフは互いの姿を認識した。
運良く巡り合わせになった別のターゲットを、ジョセフはもちろん捕らえようとする。
「…お、お兄ちゃん?」
「………いや流石にそれはねぇぜボインゴよ。幾ら何でも………コレは………」
「アラァ〜〜〜。ボクちゃん達ぃ?お姐さんと一緒に遊ばなぁい?」
「……………」
(……誰かは知らんが、ジョースター共の誰かがこんな事をするわけがない。こんな
予知により知ったマライアの敗北と、それを行なったレオンとイギーの高レベルな変装………
灯台下暗しというわけではないが、それを頭の片隅に置いておいたオインゴは高レベルな変装を意識し、
承太郎の祖父ということもあって、良く見れば面影もあるが、目も当てられない酷いものだったので目をそらす。
「アラァ?どうしたのォ?照れてるのォ?」
「……どのみち、ヤバい奴には違いねぇ。ボインゴよ…無視していくぞ。目も合わせるなよ」
「う、うん」
目を逸らし別の道へ歩こうとした時、そう遠くない場所で激しい崩壊が聞こえる。まるで何かが壁を無理やり突き破ったような轟音だ。
それに一瞬気を取られて間も無く、ジョセフの身体に異変が生じた。
「………………ッ⁉︎」
「………わ………ワシを見るんじゃあないッ‼︎」
………同時刻、噴水広場にいた礼神はアレッシーを仕留めていた。
ー
ーー
ーーー
………で、ワシを見て呆気に取られていた2人を波紋で気絶させたが、そんな事言えるか!ワシが社会的に死ぬ‼︎)
「ぐ、偶然じゃよ!本当に!レオンが追い込むように追ってくれたお陰で鉢合わせできたんじゃ‼︎」
焦るように笑みを浮かべるジョセフさん。なんか隠してる?
「ふーん。ひとまずレオンさん達と合流しよっか」
「だな……ジジイ、早く連絡しろ」
「そうじゃな。礼神、携帯を返しとくれ」
「あ、はい」
「うむ………ん?花京院はどうしたんじゃ?妙に赤いが……」
「………なんでもありません」
そう言って花京院がソッポ向くと、先程の事を思い出し僕は俯く。承太郎も学帽を被り直して小さく肩を震わせた。
それに気付いた花京院が承太郎の脇腹を軽く殴ったのは言うまでもない。
………そういえば。
「………」チラッ
………ラバーソウル、いつまで寝てんだろ。
ー
ーー
ーーー
ポルナレフとランニングをすること数十分。
ようやくジョセフから連絡が入り、我々はホテルに戻る事になる。作戦通りあの兄弟とジョセフを鉢合わせさせることができたようだ。
その事をポルナレフに伝えて帰路に就くと、ホテルの玄関で眠っているイギーを見つける。私が近付くと耳をピクつかせて片目を開け、「もう終わったのか?」とでも言いたそうな表情で欠伸をついた。
そこにジョセフ達も帰ってくる……が、何やら絵面が酷い。
「………ソレは何だ?」
「情報源です」
無邪気にピースした礼神が言う。そんな彼女の後ろにはケルベロスを纏って無理やり歩かされるラバーソウル………まぁ、それはいい。途中合流した時に見たし、別に驚く事ではない。しかし……
「フロントになんて言うつもりだ?」
「それはレオンさんお願いします。ほら、フロントの人達はみんな女性だよ。なんとか言いくるめてください」
「………………わかった」
………1人くらい何とかなるか。
まずは肉の芽を取り除かないとな………
そんな訳で私はフロントの女性に
その際にみんなとは別れ、結果的にラバーソウルから情報を聴き出すのは私と礼神の仕事になった。
ちなみに予知と変装のスタンド兄弟は、兄の方の骨を承太郎がへし折り病院送りにしたらしい………たしかに弟は性格上、兄が動かなければ自分も動かないだろう。少し強めの波紋も流したようだし………
「まずどうする?僕、拷問初めてだから……あ、イギーは寝てて良いよ。お疲れ様〜」
イギーを抱き抱えてペット用ベッドに寝かせると、礼神がやる気満々と言わん顔で振り向く。
「………君は拘束だけしてくれれば良いよ。聴き出すのは私がやるから」
そう言って私は、椅子に座り気絶したラバーソウルの前に立つ。そして数度揺さぶるが、彼は中々目を覚まさない。
口元に耳をやると呼吸音が聞こえるので死んではいない……だが悪夢でも見てるのか時折呻き声をあげる。
「……おろ?」
「何故起きない。ん?どうした……」
背後でそんな声が聞こえ振り向くと、礼神が手に持ったものを見て首を傾げている。やがてハッとした表情で、礼神が私にそれを見せてくる。
「………声を使ったのか」
「うん……目覚めないのと関係あるのかな?」
礼神が握っていたのは例の藁人形で、私はそれを見て頭に手をやる。万が一ラバーソウルが目覚めない原因がそれなら、まだ能力が解明してないので起こし方もわからない。面倒だな。
「ンドゥールの時と違って青いんだな」
「そうなんだよね………剥がしてみる?」
「あぁ」
藁人形に貼られた青い札を勢いよく剥がしてみると、札が急に燃え始め跡形なく消えた。しかし昨夜とは違い、黒い藁人形は残っていた。
「……ゥウ…」
そしてまたラバーソウルを揺すってみる。すると今度は問題なく意識が戻ったようだ。
詳細不明の能力だったから肝を冷やしたが、これで問題なく話が……
『……ゥ……ゥウ…ア、ウワァァァァア‼︎‼︎』ドサッ
目が覚めたラバーソウルは自分の身体を抱き締め、震える脚で逃げ出そうとする。しかし私がそれを阻止するまでもなく、ラバーソウルはその場で転け震え上がる
『ヤメ………ヤメテクレ…そんな物…付けたくない………許して、許してくれ……』ガタガタ
みるからに精神的な問題が見られる。だがそれ以前に、私はある事に気付いた。むしろ何故今まで気付かなかったのだろう。さっきから
『ラバーソウル……まさか貴様、非・幽波紋使いなのか?』
現にラバーソウルの使っている言葉は英語で、脳内翻訳をされている感じはしない。一応礼神に確認をとるが、英語を話せない彼女は言葉の意味がわからないらしい。
「礼神、藁人形を」
彼女から藁人形を受け取りW-Refで調べてみる。すると藁人形の中からイエローテンパランスのスタンドエネルギーを感知する。
ンドゥール戦で出来た藁人形からは感知できなかったのだが、その違いは………本体の生死か?
『俺は死にたく無い……まだ……俺は………まだ………』ガタガタ
………まずはこのマナーモードを解除しないとな。
ー
ーー
ーーー
僕が藁人形から札を剥がすとラバーソウルが目を覚ました。しかし彼は発狂していて、レオンさんが調べた結果スタンドを失っているらしい。しかもその失ったスタンドは今、藁人形の中にあると言う。
これがケルベロスの能力?
そんなことを考えていると、ラバーソウルがガタガタと震えながらうわ言のように英語で何かを呟く。
スタンド越しに伝わる震えが僕に伝わってくる。肉の芽が取れたことで正気に戻るはずなのに、それで発狂してるって事は肉の芽を植え付けられる前に恐ろしい目に遭ったのだろう。
そもそも何故肉の芽を植えられていたのだろうか。
『落ち着け、安心しろ……安心しろよ、ラバーソウル………悪いようにはしない。約束する』
そして発狂状態のラバーソウルは今、レオンさんの手によって冷静さを取り戻して言った。これは何を使ってるんだろう…波紋?洗脳?肉の芽?
レオンさんはラバーソウルの頭を両手で掴み、自分のオデコと相手のオデコをくっ付けて優しく語りかけていた。まるで弟を慰めるお兄ちゃんみたいだ。
『落ち着くまで休んで構わないぞ。飲み物を持ってこよう』
『………………』
そしてラバーソウルから離れると、レオンさんは冷蔵庫から飲み物を取り出す。んでレオンさんが離れてる間のラバーソウルは、初めて優しさに触れた虐待された子のように涙を流している。とても下ネタ暴露してた敵キャラとは思えない。
原作ではあまり好きなキャラでは無いが、不憫に思った僕は彼の震える手にそっと手を置く。すると少し驚いた様子で僕を見て、また涙を流し始めた。
そんなこんなで数十分後、ラバーソウルはようやくそれなりに話せるようになった。
『もう良いのか?』
『あ、あぁ。大丈夫だ…もう』
「………何だって?」
言葉がわからずレオンさんに尋ねると、それを察したのかラバーソウルが口を開く。
「俺は大丈夫って言ったんだ」
「ウェッ⁉︎日本語話せるの?」
「シンガポールの公用語は英語だが多種多様な民族がいるからな。俺は日本語、英語だけでなく中国語、マレー語もそれなりに話せる。一般人でも三カ国語を話せるのは当たり前だ」
「うわぁ…僕としては考えられない。ってか急に流暢に話すんだね」
「まぁな、あんたからしたら結構凄えだろ」
「おぉ、凄え凄え」
だいぶ落ち着いたのか、軽く冗談を言うかの様にラバーソウルは胸を張って言った。
ってかキャラ崩壊してない?肉の芽の影響?それとも戦闘時に熱くなって口悪くなるタイプの人?
「ではわかっていると思うが、知ってる事を話してくれるか?」
その言葉を最後に少しだけ流れた静寂の後、ラバーソウルは冷や汗をかき、生唾を飲み込んでから口を開いた。
「……その前に………敵を尋問するなら、拘束とかしないのか?」
そう言ってラバーソウルは両手首を重ねて、手錠に繋がれているようなジェスチャーを取る。
今はケルベロスの拘束も解き、3人で席に着いている。
「それなら心配いらない。貴様のスタンドは偶然だが此方で確保しているし、今の貴様からは敵意を感じない」
「そうか……優しいん…だな」
そしてまた沈黙………やがてラバーソウルは恐る恐る口を開いた。
「俺は………シンガポールでアヴドゥルとあんたに敗北した。そして次に目を覚ましたのは知らない狭い個室だった。病室ではなかったな…そして扉が開かれアイツ………あのお方が入ってきた」
「………DIOか」
「あ、あぁ………アヴドゥルから受けた傷は、伊月のスタンドを吸収して回復していた。だがあんたから受けた一撃がまだ強く痛みを与えていた」
「それで?」
「1人の男が後から来た。その男が俺の腹に触れると、突然身体が麻痺し痛みは消えていた」
「………………」
「それで……」
「まだお前は戦える………とでも言われ、肉の芽を植えられて敗北したという記憶を上書きされた」
「…そ、そうだ」
レオンさんが指を立てて言い当てると、尋常じゃ無い冷や汗を流しながらラバーソウルはそう言った。さっきまで軽くおちゃらけてたのに……
きっとシンガポールで負けた事で、僕らに勝つ自信が無くなったのだろう。そんな状態では身体が動いても勝てるわけがない。だから肉の芽で思考改善か何かを施し捨て駒のように僕らに放った……
実際にまだあった事は無いからわからないけど、その出来事はラバーソウルにとって、トラウマになりうる恐怖だったのだろう。
「DIOの居場所はわかるか?」
「それは………ダメだ、思い出せない。肉の芽で操られてる間の記憶はスッポリ抜け落ちている」
「そうか、なら聞きたい事は以上だ」
「………信じるのか?俺の言葉を」
「先程、波紋で思考能力を鈍らせた。今の貴様は最初に考えた事をそのまま口にしてしまう。質問を聞けばその答えを無意識に考え、嘘はその後に作られる。だから嘘はつけない」
「そうか………………」
「………………………」
「……………………?」
ここでまた静寂。
「えっと………ラバーソウル…さん?どうしたの?」
「は?」
「もう聞く事は無い。好きな所に行っていいぞ。まさかもう一度戦う事はないだろうしな」
「いや……それは………………」
口をモゴモゴ動かし、また身体を震わせ始めた。
『ふむ………怖いのだな………………おい、無視をするで無い……む、聞こえないのか………』
突拍子もなくアンちゃんが出てくる。しかし今のラバーソウルにはそれが見えず、アンちゃんはヘソ曲げて姿を消した。
何がしたかったの?
「………怖いのか?」
アンちゃんが消えた後にレオンさんが尋ねた。するとラバーソウルは首を縦に振った。
「最初は金で雇われただけだった。だが一度しくじり、肉の芽を植えられて強制的にまた雇われた。そして2度目の失敗………今の俺に未来があると思うか⁉︎」
またガタガタと震え、ラバーソウルは自身の身体を抱きしめる。
「失敗した!3度目は無い!始末‼︎ 逃げれば追われる!始末‼︎」
発狂じみた様子でそう呟く。そして次に、耳を疑う言葉が飛び出して来た。
ー
ーー
ーーー
「………………という事があってだな」
場所は変わってホテルレストラン。
昼食の場で腹ごしらえをしつつ、情報交換と今後の動きの確認の為に我々はここに集まっていた。
「………で、なんて答えたんだ?」
ウィンナーを刺して持ち上げたままのフォークを空中で止め、承太郎が驚いた様子でそう聞いて来た。
承太郎だけではない。私と礼神以外はみんな食事の手を止めている。礼神はその隙に、承太郎が持っていたフォークに向かって首を伸ばし、刺さっていたウィンナーに食らいつく。
承太郎は気付いていない。
「断った」
「だ、だよなぁー‼︎ 幾ら何でも2度も戦った相手……それも俺や花京院と違って、1度目は素の状態で襲われたんだもんな!」
安心したと言わんばかりに、ポルナレフは食事を再開する。
「ならラバーソウルはどうするんじゃ?」
「財団に連絡を入れて彼を保護するように手配した。今の彼が我々に襲いかかる理由は無いし、敵意も感じなかったからスタンドも返した」
「ん?スタンドを………返した?」
ポルナレフが咀嚼しながら首を傾げる。すると礼神が胸を張って報告を始める。
「なんとですね!僕のスタンドの声の能力……わかっちゃったみたいなんだよ!」
「おぉー、良かったじゃねぇか」
「良かったですね。葎崎さん」
「う、うん」
本人にとっては一大イベントのように感じたようだが、ポルナレフと花京院は違う。まるで親戚の子が誕生日を迎えた時の様なリアクションだ。
「どんな能力だったんじゃ?」
「それは……えっと………………僕もよく分かんなくて、わかったかもしれないと言ったのはレオンさんで………」
そう言ってこちらに視線を向ける。
と言っても推測の段階だし食事中に話すには長い……食事を中断するのも嫌だし彼女に任せるか……
「アンラベル」
『うむ、主に変わって我が話そう』
着物を翻して現れたアンラベルは、我々が囲む食卓の中心に移動する。
『先に言っておくがコレは答えではない………これから話す事は今までの事柄から推測しただけだという事を我は述べておこう』
話題がそちらに変わり、ポルナレフの他にも食事の手を止めていた者たちが手を動かし始める。
そして承太郎は何も刺さってないフォークを咥えてから礼神にジト目を向けたが、礼神は知らんぷりを通し、アンラベルは気にせず私の推測を述べ始めた。
『結果から言うと、葎崎 礼神の真の能力は「魂を部分的に剥ぎ取る」様なものだと考えている。根拠は「声を聞いた者が気絶する事」と「ラバーソウルが本体を揺すった所で目覚めなかった事」だ。おそらく魂が身体から離れ、例の藁人形に定着したからだと考えられる』
「待ってください。ならンドゥールが、お……葎崎さんの声を聞いた後にスタンド攻撃をしたのは何故ですか?今日だってレオンさんとイギーを除く僕らがソレで気絶しましたが、スタンドを失うなんて異常は幼児化で失った承太郎だけでしたよ」
『それは声が剥ぎ取る力しか持っていないからだと主は考えている。現にケルベロスは、ンドゥールの下に承太郎と向かってから藁人形を吐いたと聞いている。つまり剥ぎ取った魂を回収するには、ターゲットに直接近づく必要があるのだろう。花京院 典明…貴様らに異常が無いのは単に「仲間だから」とわかっているが為に、ケルベロスが奪わなかったのだろう。ケルベロスも半自立型スタンドだからな』
花京院の問いに真面目にアンラベルが答える。
ん?………礼神が肩を震わせている。笑っている様だが………何故?
(ヤベッ、花京院のお姉ちゃん発言思い出した………)プルプル
『もう一度言わせてもらうがこれは推測である。ンドゥールに関しては死して肉体を離れた魂を回収した可能性もある』
「なぁ、さっきの部分的に………ってのはどういう事だ?」
『ケルベロスの使用者である葎崎 礼神は、声の力で仮死状態になり痛覚を遮断できると言っていた。だが意識はあると言っていた。魂が完全に肉体を離れれば意識も無いはずだろう。ラバーソウルも気絶時に呻き声を上げていた』
「だからか………」
『言える事はこれぐらいだろう。更に調べるには様々な検証を必要とする』
「ご苦労様、アンラベル。もういいぞ」
そう言うと、アンラベルは私の背後に陣取って肩から顔を出し、右手でオカズを一品指差す。
「……あむ」
『うむ。美味だ』
その感想を最後にアンラベルは姿を消した。今の一連のやりとりが何を意味するのかわからなかったのか、皆は不思議そうな表情を浮かべて私を見ている。
ただの味覚の反比例で、アンラベルの所望した料理を褒美代わりに味わわせただけなんだがな………説明しなくてもいいか。
「そういえば、ラバーソウルは今どこにいんだ?」
「イギーと共に私達の泊まっている部屋にいる。それと今後の予定だが、ジョセフと話す事が多々ある。敵襲やラバーソウルの事もあるしもう一日ここに泊まる。だから皆はまだ身体を休めていてくれ、明日の朝に整理した情報を話す。流石にもう無いと思うが、新手の幽波紋使いには気を付けろ」
「おい、そんな余裕がある状況か?」
「あぁ、礼神曰く予定よりは早く進めている。問題ない。むしろ今のうちに休めるだけ休め。この先はおちおち休めないぞ」
「………なら良いが」
不満があるのかそう言って承太郎は学帽を被り直す。
「あ、じゃあ僕は学生服を直してきたいでーす」
「わかった。単独行動は避けて、誰か連れて行くんだぞ」
ー
ーー
ーーー
「で、なんで俺なんだ?…いや、保護してもらう身だしよぉ。別に構いやしないんだが………少し不用心すぎねぇ?」
昼食を終えた後、僕は承太郎を連れてラバーソウルの案内で仕立て屋へ向かっていた。
「だってラバーソウルさんここの言葉わかるし、地理も僕よりあるでしょ?それに、君が暴れた時に抑えられるのは僕が適任だからね」
花京院が心配して付いてきてくれそうだったけど、それよりトラブルに巻き込まれるのは嫌だから「これ以上ポルナレフが変な事しないよう見張ってて」と言っておいた。
「確かココ……店主が服オタクで有名な変わり者だ。腕は確かで、普段なら直す機会の無い日本の学生服なんかは、喜んで直してくれるはずだぜ」
「そうか、邪魔するぜ」
そうこうしてるうちに店に着き、承太郎を先頭に入店する。
店主との会話や依頼とかはちゃんとラバーソウルが引き受けてくれた。やがて僕はボロボロの学生服を店主に手渡した。
ちなみに今の僕は、新しく買って貰ったワイシャツと比較的に無事だったズボンを着ている。サラシは巻いてない。
「明日の朝には仕上がるってよ」
「了解。それじゃ出発する時に取り来よう」
そんなわけで僕らは帰路につく。
とくに何事も無くホテルに着くと、ポルナレフがロビーでタバコを吸っていて鍵をラバーソウルに投げつけて来る。ラバーソウル用のシングルらしい。
「そ、それじゃあ俺はこの辺で………」
そう言ってラバーソウルと別れ、僕は部屋に戻ろうとする。すると承太郎が、部屋鍵を同室のジョセフさんに預けたままだった事に気付き、僕と共に部屋に向かう。多分まだ、僕の泊まってる部屋でレオンさんと話し合ってるはずだからね。
「………にしても承太郎。どうかしたの?」
「何がだ」
「元々無口だったけど………なんかいつもと様子が違う気がして」
「気のせいだぜ」クイッ
はい、帽子被り直した〜。
なんか浮かない顔…というか、ずっと考え込んでるみたいなんだよね。ここまで来るまでの間も、部屋に向かってる今ですら何かに思考を向けている。
そうこうしてる間に部屋前に到着。
ノックして鍵を開けて貰おうとすると、中から話し声が聞こえ……………………
「………………え?」
「………………………」クルッ
偶然にも中から聞こえた言葉でノックをしようとした握り拳を宙で止める。聞き間違いかと思い承太郎を見ると、彼は無表情のまま踵返して歩き出した。
(………あ、待って承太郎!)
一瞬遅れて僕は追いかける。廊下に敷かれたカーペットのお陰で足音は立たない。競歩で歩く承太郎に追い付く為に小走りするが、それでも足音は立たなかった。
というより僕も承太郎も、無意識のうちに音を立てないように移動していた。急な事で理解できなかったが、バレないようにその場を立ち去ったのだ。
「………承太郎………アハハ…ハ………ぼ、僕の………聞き間違い………かな………?」
「………………………」
答えは帰ってこない。
多分、承太郎にも僕と同じ言葉が部屋から聞こえたんだろう。