ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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53.溢れた涙は掬えない

 承太郎達が仕立て屋へ向かうのを見送ってしばらく経った今、私はジョセフと部屋で話を進めていた。

 話の内容はラバーソウルから聞き出した情報をより詳細にしたものだ。

 

「それで、話とは何じゃ?」

 

「ジョセフはワルターを覚えているか?」

 

 私かその名を出すと、ジョセフは頬を緩ませて懐かしそうに口を開く。

 

「ワルター、忘れもせんよ。昔は遊んでやった事もあるのう」

 

 腕を組んで目を瞑り、「懐かしい」「もう成人して大分経つな」と嬉しそうに笑顔で話し出す。

 ワルター。フルネームで呼ぶと「ワルター・()()()()()()()()()()」。ファミリーネームからわかるように、彼はシーザーの息子の1人だ。

 昔ジョセフが手品を見せると目を輝かせて食い付き、幼い頃はジョセフによく懐いていた。そんなワルターをジョセフは、ホリィと同じくらいに可愛がっていた。

 

 そのワルターが………

 

「……そのワルターがDIOの手中に落ちているらしい」

 

 ピシリと石化したように動きを止め、血の気を引かせたジョセフが間抜けな面で私を見つめた。

 

「なん…じゃと………?」

 

「ラバーソウルはこう言っていた。「アヴドゥルから受けた傷は、伊月のスタンドを吸収して回復していた。だがあんたから受けた一撃がまだ強く痛みを与えていた」「1人の男が後から来た。その男が俺の腹に触れると、突然身体が麻痺し痛みは消えていた」………とな…」

 

「レオンの一撃……ラバーソウルに放った波紋は………」

 

象牙色波紋疾走(アイボリーホワイトオーバードライブ)。私が作った技。それも熟練の波紋使いでも扱うのが難しい技だ」

 

 私の言葉にジョセフが驚きで返す。

 本来は駆け巡る性質の波紋をその場に残し続けるというのは、昔から不可能と言われていた事だ。それを可能にするには、波紋の力、入射角、腕力、対象の抵抗力を一定の比率にしなければならないのだ。

 

「そんな技を使えるのは私の知人、そして才能があり幼い頃から波紋を鍛えて来た者のみ。つまり私が波紋を鍛えていた時の教え子数人………DIOの手中に堕ち、私の波紋を緩和させたのは()()()()()()()()

 

「………クソッタレ、なんて事じゃ!」

 

「肉の芽か洗脳かはわからないが、少なくともゾンビではないだろう。波紋が使えるのだからな」

 

 事実から導き出される答えを一つ一つ紡いでいると、ジョセフは声を荒げる。

 

「し、しかし‼︎ワルターがそう簡単に捕まるとは思えん‼︎」

 

「落ち着け、相手は幽波紋使いだぞ?シーザーに確認も……既にした」

 

「………そうか………間違いない…のか」

 

 肩を落としジョセフが焦りを表情に出す。

 

「シーザー曰く、ある日パタリと姿を消したらしい。旅行に行こうと思えばその日の内に国を出るような行動力があり、お前と似ていて自由人だったからな………だからしばらくの間は気にも留めなかったらしい。だが旅先からの連絡すらもないまま二ヶ月が過ぎた所で、私が連絡してきたとの事だ」

 

「………つまりここ最近の話か」

 

 大分ショックだったのか、頭を抱えて黙り込む。ホリィの状態が悪化した事を告げた時も同じ表情を浮かべていたな。

 自分と共に闘った戦友の息子だという事もあるし、私も同じ気持ちで心苦しい。

 

「皆には明日伝えるが、お前には先に言っておこうと思ってな。話はそれだけだ」

 

「そうか………よし、わかった。うむ!」

 

  一度自分の顔を叩き、ジョセフは気合を入れ直すように気持ちを入れ替えた。

 

「………なんて面構えをしとるんじゃ。レオンも気持ちを入れ替えんか」

 

「ん?」

 

「死んだ魚みたいな目をしとるぞ」

 

 そう言われて窓ガラスに目を向けると、確かに光の無い目をした私が薄っすらと映っていた。そんな私を嘲笑うように外は晴天で眩しく、堪らず私は背を向けた。

 

「………まぁ、お前さんの事じゃ。()()()()()()心苦しいものもあるんじゃろ」

 

「………………その話はしない約束だろ?」

 

 そう言って立ち上がり、私は洗面台へ向かい顔を洗う。そして顔を上げ、鏡で再度自分の顔を見るが相変わらずだった。

 だから何度かまた顔を洗い、感情を誤魔化すように血を飲み欲を満たす。

 

「お前さんは………昔っから優し過ぎるんじゃよ」

 

「ジョセフ、うるさいぞ」

 

「口で酷い事を言ったり、スパルタな所もあるが、結局お前さんは誰1人見捨てなかった」

 

「うるさい」

 

「思い返して見ろ。今まで誰かを見捨てた事があったか?」

 

「だから五月蝿いと言っているだろ。それが何だというんだ?」

 

 感情の高ぶりを感じるが、声を荒げぬようセーブする。あくまで冷静を装い続ける。

 これはアンラベルを受け入れる前の癖だな。

 

「ワシが言いたいのは…()()()()()()()()()()()()()という事じゃ」

 

「初………見捨てる事がか?……一体私が誰を見捨てると?」

 

 

 

 

「DIO」

 

 

 

 ………そう言われ、雷に打たれたように感情が麻痺する。文字通り頭の中が真っ白になり、いらん事に気付かされた気持ちだ。

 

「………………」

 

「レオン、考えたんじゃが………もう帰らんか?」

 

「………は?何を言っている。ふざけるなよ⁉︎」

 

 此奴は何を言っているんだ?今更帰ろう?ホリィはどうする⁉︎今までの旅を無駄にする気か⁉︎

 流石に私は声を荒げた。

 

「お前……何を言っているのかわかってるのか?」

 

「もちろん」

 

「DIOを野放しにし、ホリィを見捨てるのか⁉︎ワルターはどうする⁉︎アヴドゥルの事は忘れていないか⁉︎それを全部投げ捨てろと言うのか‼︎」

 

 顔が妙に熱い。これは怒りか?こんな感情はここ数十年感じていなかったな。いや、あのバカの不始末の時は流石に怒ったな。だがそれを除けば本当に怒りなんて………………………?

 

「………………」

 

 三途の川でDIOの生存を知った時、私は怒りを覚えたか?ジョジョに対して申し訳ないとは思ったし、闘志が湧くのは感じたが………

 DIOの入った棺を引き上げ、始末するのを失敗したと財団から報告を受けた時、焦りはしたが怒りは?………いや、むしろ………………

 

「もう一度言う。お前さんは優し過ぎるんじゃよ」

 

 ………………私はこの後に及んで、DIOを殺す事を躊躇っているのか?

 そう疑問を抱いた時、「それは違う」等といった心の声は聞こえなかった。

 

 私はその疑問を否定しなかった。

 

「………………実を言うと………旅を始めてから私はよく眠れていない」

 

 アンラベルを押さえ付けて苦しみ横になる事はあったが、飛行機内でも、ホテルでも、カルカッタから礼神と2人で移動した時も、私はちゃんとした睡眠を取れていないのだ。

 

「アンラベルを受け入れてからは、反比例でアンラベルに身体を乗っ取らせ、無理矢理意識を沈めたりしている」

 

「………………」

 

「………あぁそうだよ。認めよう。私は弟としてDIOに対し怨みやらを抱いていない。だがこの旅がストレスを与えているとしても、私は旅を止めるつもりはないし、奴に肩入れするつもりもない。私は見届けなければならない」

 

 ジョセフは深く座り直してから指を組み、前傾姿勢になって呟くように話し始めた。

 

「やはり帰るべきじゃよ」

 

「断る」

 

「何も全員で帰ろうと言ってる訳ではない。レオンは礼神を連れて帰ってくれ。今の礼神の能力なら、ホリィからスタンドを取り除ける。そうなればホリィを助ける事もできるだろう」

 

「だがDIOを野放しにはできない」

 

「後はワシらに任せてくれんか。ワルターもアヴドゥルも連れて帰る。DIOもワシらが………」

 

「断る。私は見届けなければならない。帰る訳にはいかない。何故そこまでして帰そうとする?」

 

「このままだと、お前さんが壊れてしまいそうで………」

 

「………DIOがいざ死ぬと言う時に、私が耐えられないとでも言うのか?」

 

 自嘲気味に笑うが、ジョセフは真面目な眼で私を見据える。

 

「エリナ婆ちゃんに聞いたぞ。ワシの祖父、ジョナサン・ジョースターの死を知った時、お前さん…自分の頭骨に届くほど、爪を頭に食い込ませたとか」

 

「それはエリナが話を盛ったな………ひとまず!私は帰らないぞ。この話は終わりだ」

 

 そう言って一方的に話をぶった切るが、ジョセフは構わず話し続ける。

 

「何故受け入れる前のアンラベルによる発作が、旅を始めてから悪化したと思う?何故ワシや礼神達にバレたと思う?」

 

「……黙れ」

 

「ワシがガキの頃は、レオンの嘘など全く見抜けなかった。お前さんしか知らぬ事を一度隠そうと思ったものは、決して誰にも気付かれない………いつも通りならな」

 

「黙れ」

 

「アンラベルを受け入れた事で発作は無くなり、目には見えなくなったが確実に精神的ダメージが蓄積されているはずだ。精神的疲労はステータスを害しているはずじゃ!」

 

「黙れッ‼︎」

 

お前こそ黙れィ‼︎」ゴッ‼︎

 

「ッ⁉︎」ドサッ

 

 ………………ジョセフに殴られた私は、ベッドに背中から倒れ込んだ。一瞬何が起きたかわからず、目を丸めて天井を見上げていた。

 

そんなに俺らは頼りねぇか(そんなにワシらは頼りないか)

 

 悲しげな目で見下ろすジョセフの姿が、若き日のジョセフと重なる。

 そうだったな………柱の男達が目覚める前の日も、私だけ無茶して心配かけたんだったな。

 

「帰らぬならせめて話そう………レオン、肩の荷を少しは下ろしたって良いんじゃないか?」

 

「………私はこの旅の元凶の弟だ。DIOの実の弟だと………そう打ち明けろと?」

 

「………………」

 

「………言える訳ないだろ……今更」

 

「…女神さんは知りたがっていたぞ。恐らく承太郎も…いや、皆がレオンを慕い、信じ、支えたがる」

 

「………………それを伝え何になる。不安を煽るだけだ…」

 

 そう言い残すと、私はジョセフから逃げるように部屋を出た。

 

「………不器用じゃのぉ〜〜」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「待ってよ承太郎」

 

「………………………」

 

「ねぇ、歩くの早いよ」

 

「………………………」

 

 口を固く閉ざしたまま、承太郎は大股で足を進める。

 承太郎の歩幅に合わせる事もできず、僕は小走りで背中を追っていた。隣を並走しようとも思ったが、そうすると承太郎が更にスピードを上げるので、仕方なく後ろをついて行く。今は顔を見られたくないのだろう。

 やがて彼はエレベーターに飛び乗り、即座にドアを閉める。おかげさまで僕は乗り損ねてしまう。

 

「葎崎………ついてくるな」

 

 閉まる刹那、目元を学帽のツバで隠してそう言われた。

 

「……屋上に向かってるのか」

 

 この場にあるエレベーターは1つではない。

 僕がボタンを押して少し待つと、隣のエレベーターが開き僕はそれに乗り込んだ。

 

 エレベーターは上へと上がり、途中で誰かが乗り込む事もなく最上階へ着く。

 

 最上階から短い階段を登った先には扉があり、それを開けると屋上に出る。そしてその日中の日差しの中には承太郎がいた。

 煙草を咥え、僕が今開けた扉の横の壁に背を預けていた。

 

「承太r「ダンッ‼︎」

 

 声をかけると、僕が名前を言い切る前に承太郎が壁を殴る。そして寄りかかるのをやめて、僕に背を向けて屋上の鉄柵に移動する。

 

「ついてくるな。と…言ったはずだ」

 

「………返事をした覚えはないね」

 

 そう言って承太郎に歩み寄ると、近寄りがたい感情を滲み出してくる。まるで承太郎が意図的に出しているようだ。

 

「………」ソッ

 

「………」

 

 鉄柵に体重を預けたまま街中を見下ろす承太郎の背に、僕は指先を軽く乗せる。

 学ラン越しに伝わってくる小さく細かい震えを感じ、僕は滑らせるように承太郎の脇腹に両腕を差し込む。

 

「…………ッ……」

 

 後ろから抱き着く形でいると、僕の手の甲に一粒、二粒と雫が零れ落ちた。承太郎は左手で口を抑え、右手は握り潰さんとばかりに自身の胸倉を掴んでいた。

 堪えるような篭った嗚咽はほとんど聞こえない………それ程に小さい。

 

 ひとまず承太郎は手が離せなさそうなので、僕は手を伸ばして承太郎の代わりに学帽を被り直させた。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」スッ

 

 しばらくそのままでいると無言で僕の手を掴み、自分から引き剥がすように腕を解く。そしてまた承太郎は街中を見下ろす。その時には小さな嗚咽も止まっていた。

 

「まったく知らなかったわけじゃねぇんだ」

 

「……そうなんだ。実は僕も……どういう経緯でジョースター家のレオンさんが吸血鬼になったか不思議だったんだけど、なんとなくわかっちゃったかも………点が線で繋がった感じ」

 

「砂漠で闘ったンドゥール……奴は「できる事なら彼の方に会いたかった」と、死ぬ間際に言った。それが誰だと言えば「DIOの弟」だと言った………詳しく追求しようとした時には力尽きていた。藁人形の事を忘れた理由はそれだ。ジジイにそれを聞いたら誤魔化されたが、何か隠しているのは察した………なら隠した理由は?」

 

 そこまで言うと口を閉ざした。

 

 するとそこに………………

 

「む、先客か………なんだ、お前達か」

 

「ッ⁉︎」

 

 このタイミングで屋上に やって来たのはレオンさんだった。

 

「………レオン」

 

「ちょうどいい。承太郎、一本貰えるか?」

 

 承太郎は差し出されたレオンさんの手に、一瞬間を開けて煙草を差し出す。そして火をつけてあげると、レオンさんは口一杯に煙を吸ってから吐き出す。

 

「……波紋使いが煙草吸って良いのかなぁ〜」

 

 空気が重いので、軽く戯けた調子でそう言ってみる。

 

 

 

 だがこれがキッカケで、空気は更に重くなる。

 

 

 

「リサリサも吸っていただろ。別に問題ない」

 

「………それってエリザベス曾祖母さんの事か」

 

「そうだ承太郎。ジョセフと私の母で……」

 

 

 

「テメェの母?姪だろ」

 

 

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 空気にヒビが入ったかのように、ピシリという効果音が聞こえた。

 被せ気味に言われたその一言に驚きはしなかった。むしろ驚きもせず冷静に事を考えれたことに驚いた。

 

 ………さっきのを聞かれたか……それとも敵の誰かが吐いたか………

 

 もしくは………両方か………

 

 思い返してみれば承太郎の目が疑心暗鬼だったような気もする。

 

「………何故黙ってた?」

 

「言って得する事がないからだ」

 

「だから黙ってんのか。今までも、これからも」

 

「だな」

 

「俺たちは仲間だよな?」

 

「もちろんだ」

 

「それでも言わねぇのか」

 

「あぁ」

 

「俺らが信用できないのか?」

 

「信用してるからこそ言えない事もある」

 

 トントン拍子で進む会話が、そこでリズムを崩した。

 

「………ジジイに何を言われた」

 

「帰れ………だとさ。礼神も連れてな」

 

(え?僕も?)

 

 互いに顔を見ずに会話していたが、承太郎が身体をこちらに向ける。

 そして鉄柵から離れて、程よく距離を取る。

 

「だろうな。血の繋がりってやつなのか、遺伝というやつなのか………話が早くて助かるぜ」

 

 そう言って承太郎は自らのスタンド、星の白金(スタープラチナ)を発現させて臨戦態勢を取る。

 

「………なんの真似だ?」

 

「今の会話……テメェはDIOの弟だと認めたってわけでいいんだな?」

 

「……まさか、私を敵とみなすのか」

 

「まさか………俺はジジイと同じ意見を提示したいだけだぜ。だがどちらかというと、俺は()()()でな………」

 

 決して冗談を言っているわけではない。真剣な眼差しをして、強い決意と共に闘気を滾らせている。

 

「レオン。大人しく日本に帰ってもらうぜ」

 

「………ほら言わんこっちゃない。知られたところでいい事もなく、起こる出来事はマイナス方向ばかり。根が優しいお前に知られたら、追い返されるとも思ったさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………まぁ、スタンドまで出してくるのは想定外だが」

 

 一気に煙を吸い込み、煙草の消耗を加速させる。

 吸い終えてから火を消してゴミをしまうと、安全圏まで離れて私も臨戦態勢に入る

 

「人は誰かの言葉を理解しない。自分の言葉ではないからな。ならどうやって理解させればいいと思う?相手の言葉で伝えるんだ」

 

 男は拳で語る。と誰のセリフかはわからないが誰かが言ったのだ。そして承太郎の言葉もその類だろう。

 今逃げ出しても意味はない。理解してもらわなければ進めない。

 

 なら………

 

「承太郎………拳を交えよう(話をしよう)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 承太郎はレオンの事を尊敬し、憧れとしていた。

 レオンは承太郎の事を信頼し、時に頼っていた。

 

 そんな2人が今、屋上で互いを傷つけ合っている。

 礼神はそんな中、どうすればいいかもわからず戸惑っていた。止めたいとは思っているが、行動に移せずにいた。

 

星の白金(スタープラチナ)‼︎」

 

「W-Ref……グッ⁉︎」スィ-

 

 日中の人並みに身体能力の落ちたレオンが星の白金(スタープラチナ)の攻撃を捌けるわけもなく、防御態勢をとったものの拳をモロに受けてしまう。

 しかしそれは計算内。W-Refのブーツで地面との摩擦力を吸収して、滑走するように後方へ下がる。そうする事でレオンは衝撃を緩和した。

 だがそれは承太郎も予測していた事で、すぐさま接近して拳を振り下ろしてくる。

 

(承太郎のスタンドは恐ろしく速いが射程が短い。滑走して引いたが為に、承太郎自身が接近しないと星の白金(スタープラチナ)の拳は届かない。なら………)

 

 追撃の接近速度は承太郎の足運びに依存した為、レオンは二撃目のタイミングを予期………滑走による緩和を防ぐ為に上から振り下ろす事も予測して、レオンは振り下ろされたスタンドの拳をW-Refで受け止めた。

 そして今得たエネルギーを足裏から放出。ロケットスタートの容量で承太郎の懐へと飛び込む。

 1度本体に触れてしまえば、スタンドを封じられるからだ。

 

星の白金(スタープラチナ)世界(ザ・ワールド)‼︎」

 

 しかしそれは時を止める事で躱され、逆に星の白金(スタープラチナ)がレオンを後ろから拘束する。承太郎が手を緩めないと抜け出せないだろう。だがそれも………

 

透明色波紋疾走(クリアオーバードライブ)‼︎」ボンッ

 

「ぬぅっ⁉︎」

 

 レオンの手からは破裂音と共に衝撃波が発生。

 承太郎の…スタンドの腕が痺れた瞬間にレオンは拘束から抜け出した。

 

 透明色波紋疾走……それは自分の身体の一部に圧縮した反発の波紋。

 その反発力で承太郎の腕はスタンド越しに痺れ、拘束からの脱出のチャンスとなったが、同時に一瞬の隙を生み出した。

 

 

 

ーー2人とも止めてよ‼︎ーー

 

 

 そこで礼神が叫んだ。

 2人が望んで闘っている……強い意志同士で互いにぶつかっている事を察した礼神は、言葉で言っても止まらないとわかっていた。

 それでも止めたい………

 

 だから礼神は言葉でなく()を使った。しかし………

 

 

 

「オラァッ‼︎」ガツン‼︎「フンッ‼︎」

 

 

 一瞬倒れるかのように見えた2人は、踏ん張り意識を手放さなかった。むしろその崩れかけた前のめりの体勢を利用し、互いが頭突きを相手に放つ。

 

 頭同士のぶつかり合いによる衝撃で承太郎は学帽落とし、レオンはスカーフが緩み外れかける。

 承太郎はその落ちた学帽を拾うと礼神に押し付ける。

 

「止めるんじゃぁねぇぜ」

 

 そう言ってる間に、レオンはスカーフを外して小さく畳み懐にしまった。その目は細く、礼神を数秒見つめてから承太郎に戻す。

 レオンも止められる事は望んでいなかった。

 

「オラオラオラオラオルァア‼︎」

 

「グッ………ッ」

 

 叩き込まれる星の白金(スタープラチナ)のラッシュについていけるはずもなく、レオンはまた摩擦力を奪って滑走する事にした。しかし同じ手は使えず、承太郎のスタンドの左手はレオンの右肩を強く掴んで離さない。

 右手のみのラッシュだがそれでもついていけない。しかしレオンは観察力に長けていた。

 

(私を掴んでいるという事は距離は固定。右腕の長さから叩き込まれる拳の着弾範囲は………)

 

 全てを受け止める事は出来ないがW-Refを構え、ダメージを与えられるポイントを狭める。そして誘導………レオンは自らの左頬を無意識に殴るように仕向け、ひたすら待った。

 やがて狙い通りに拳がレオンの左頬を殴り抜く。予期して待っていた一撃にレオンの両手がしがみ付いた。

 首の力を抜き衝撃を流しやすくしたが、それでも重い一撃で意識が飛びかける。これを待つ為に貰った打撃数も少なくない。それでもレオンは星の白金(スタープラチナ)の右腕を掴み止めた。

 

 ならば左の拳をと振り上げようとするが、掴んだ時点でレオンは波紋を放つ。

 

透明色波紋疾走(クリアオーバードライブ)‼︎」ドォン‼︎

 

「ヌグゥッ⁉︎」

 

 両手でホールドした状態で挟むように放たれた波紋の衝撃波は、スタンドの右腕内で反響するように迸る。

 

(波紋が流れてるのは俺の星の白金(スタープラチナ)だ……消せば俺の右腕の痺れは消えるだろうが、その隙をレオンが逃さねぇわけがねぇ………なら逆に………)

 

 承太郎は利き腕の痺れと痛みを無視して、スタンドに摑みかからせようとする………が、星の白金(スタープラチナ)はレオンに届く前に姿を消した。

 

「なっ⁉︎」

 

 消えた事に一瞬戸惑うレオンの正面からは、承太郎が直接飛び込んで来る。スタンドのヴィジョンを目眩しに、承太郎は素手でレオンに飛びかかった。

 

「レオォォォンッ‼︎‼︎」

 

 怒声の篭った声と共に豪腕が伸びる。

 驚きはしたが対処できない事もなく、レオンはW-Refを翳し防ごうとする。しかし星の白金(スタープラチナ)の攻撃を少しでも耐える為に発動させていたW-Refはここで消えてしまう。

 

「まさか…クールタイムのタイミングまで考えて………」

 

「オラァッ‼︎」

 

 何もはめていないレオンの細い腕ごと、承太郎はレオンの顔面を殴り抜いた。星の白金(スタープラチナ)による左頬への一撃もあり、レオンは千鳥足で後退し尻餅をつく。

 そこに承太郎は追い討ちをかける。飛びつき馬乗りになり、拳をまた振り下ろす。

 

「テメェは…何故そこまでして頼らねぇ‼︎」ガンッガンッ‼︎

 

 拳と共に言葉が放たれる。

 

「そんなに頼りねぇか⁉︎」

 

 更に拳が振り下ろされる。

 

「どれだけコッチが苦しい思いしてると思ってんだ‼︎」

 

 次々と溢れ出る言葉からは、悲しく、辛い感情が読み取られる。

 だが承太郎らしくもなく、その言葉の意味は自分の事ばかりで相手の気持ちを汲んでいないものだった。

 レオンの苦しみも理解しているにも関わらず、承太郎は自分の苦しみばかりを代弁している。それは自分の口からではなく、レオンの口から本音を聞こうとしているからだ。

 

「頼られねぇ俺の気持ちが、テメェにわかんのか‼︎⁉︎」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎‼︎」ガンッ‼︎

 

「「ッ⁉︎」」

 

 首を浮かせ、承太郎の振り下した拳に向けて頭突きを放つ。それを食らい承太郎は動きを止める。

 痛みによってではない。驚愕によってだ。

 本音を聞こうとしているのを察してか、レオンはあえて怒ったように声を荒げた。今までの口調とは違う少し荒い口調………私ではなく俺。普段その口からは聞かない単語だが、違和感がなかった。

 先ほど言ったようにあえて怒ったようだったが、決して演技のようには思えなかった。

 

 少しの静寂の後に口を開いたレオンの口調は元に戻っていた。

 

「………お前達にわかるか?すぐ近くに居たにも関わらず助けられず、冷たくなっていく育て親を抱いた私の気持ちが………私は転生者だ。結末を知っていてなお助けられなかった……しかもその育て親を………ジョースター卿を殺したのは実の兄だ。初めて私を我が子として受け入れてくれた人を殺したのがDIOだ」

 

 承太郎がレオンの上から退くと、レオンは起き上がりその場で胡座をかく。

 

「お前達にわかるか?ようやく悲劇が終わったと思った矢先、もう1人の兄………ジョジョ達の幸せを祈って新婚旅行に向かっていくのを見送る私の気持ちが………彼は二度と帰ってこなかった。 DIOに殺された。()()()()()()()()()()()()()‼︎………私は家族を何度失えば良いんだとその時思った………何故ジョジョが死ぬという大事な事を、当時の私は忘れていた?………あの日以上に自殺願望に駆られた日は無いよ」

 

 頭部に爪を食い込ませ蹲ったかつての自分の姿を思い出す。

 話を盛ったとレオンは言ったが、今思えば確かに脳まで爪が達していたかもしれない。

 

「頼られない者の気持ち………分かっていたはずなんだがな。だからこそ頼る事すら無いと思わせる為に隠していたのに………」

 

 脳裏に浮かぶは、柱の男が目覚め、リサリサ達に置いてかれたあの日の光景………急いで後を追うと、瀕死で皆が横たわっていたあの光景だ………

 

「………教えてくれないか、承太郎………………結末を見届ける事も、兄の尻拭いも、親友へのせめてもの罪滅ぼしすら許されない私は………何故この世に産まれて来たんだ?何故わざわざ2つ目の命を受けて産まれて来たんだ⁉︎……なぁ、教えてくれ」

 

「………………テメェ………は………」

 

「私は………………?」

 

 全員は口を紡ぎ、乾いた風の吹き抜ける音だけが五月蝿く聞こえる。

 やがて承太郎はバツが悪そうに背を向けた。

 

「………知らねえよ。俺は空条 承太郎だ………レオン・ジョースターじゃねぇ。だからそのくらい自分で決めろ」

 

 それを聞いたレオンは自嘲気味に小さく笑った。

 

「そもそも生きるのに理由が必要なのか?俺にはよくわかんねぇな。だがこれだけは言っておく………俺が生きたいと思える世界にいるのはお袋や親父、ジジイに葎崎、この旅で出会った連中…そしてテメェだ、レオン。俺はそれを守りてぇと思って今旅をしている。それでこれから無理をするかもしれねぇ。DIOに対抗できるのは俺だけらしいからな……俺はテメェらの為に戦う。だからテメェは俺の為に戦え‼︎………今はそれで我慢しろ」

 

 そう言い残して承太郎は屋上を後にした。

 それを聴き終えたレオンは自然と口元が緩み、頬に雫が流れる。

 

「ひとまず……旅は続けて良さそうだな。逃げられた気もするが………今はいいだろう」

 

 そう言って立ち上がると、レオンの腹部に強めの衝撃が走る。

 

「………礼神…」

 

「レオンざんのバガァ‼︎げんがどがじないでよ(喧嘩とかしないでよ)‼︎‼︎」

 

「……あぁ………悪かった」

 

 クシャクシャに歪んだ泣き顔をレオンに押し付けながら、礼神は泣きじゃくりながらそう言った。

 レオンはそんな礼神の背を優しく撫でていた。

 




レオンの言った「あのバカ」とは、海底からDIOを引き上げた時勝手に動き、銃でレオンの首を撃ち抜いた奴です。
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