ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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54.騙すのに嘘は不要

「んぉ、ようやく戻ってきおったわい」

 

 私と礼神が部屋に戻ると、そこにはジョセフがいた。

 話を聞くところによると、私が部屋鍵も持たずに飛び出したから留守番をしていた………と言っているが、それはタテマエで今後の私の動きを知る為に待っていたのだろう。

 

 ………というか。

 

「ジョセフ………まさか私をハメたのか?」

 

「さぁの〜?」チャリ

 

 そう言ってジョセフが、自分の泊まっている鍵を指先で回す。

 承太郎が鍵を取りに来ると知っていてあんな話をしたのか………だがタイミングはわからないはずだ。2人が聞いていたのは単なる偶然か………真偽はわからんな。

 

「で、何かあったのか?」

 

「まぁな。屋上で承太郎と殴り合ってきた」

 

「ワッハッハ‼︎お前さんには良い薬になったんじゃないか?」

 

 思い通りに事が運んだ。とでも言いたそうな表情でジョセフが笑う。それを見て礼神は「笑い事じゃ無いよ」と言って不機嫌になる。

 

 ………ん?そういえば、ここにジョセフがいてまだ鍵持っているという事は………

 

「ジジイ。まだここにいやがったのか!」バタン‼︎

 

 扉を押し開けて承太郎が入って来る。

 そしてジョセフの手から鍵を奪って早々に出て行こうとする。早く休みたいようだな。それなりに私も反撃をしたしな。

 だが出る前にこちらを横目に見て足を止める。

 

「………旅を続けるつもりなら………わかってんだろうな?」

 

「ハァ………あぁ、話せば良いんだろう?乗り気じゃ無いが、わかっているよ」

 

 そう返すと、何も言わずに承太郎は出て言った。

 夕食の時に集まってもらって打ち明けてもいいが、それが混乱を招いて今夜ゆっくり休めない可能性もある。

 打ち合わせの時に夕食は個々で取るように言っているし、話すのは明日の朝でいいだろう。

 

「そういう訳だ。ジョセフもそれで満足だろ?」

 

「うむ。それじゃワシも失礼するよ。また明日」

 

「あぁ」

 

 承太郎に続きジョセフも出て行き、私は荷物からボトルを取り出し口に含む。

 

「………疲れた」

 

「お疲れ。夜食はルームサービスで頼もう。寝てて良いぞ」

 

 そう告げると、礼神は何も言わずにベッドに倒れ込んだ。

 布団が「バフッ」と音を立て、礼神はそのままの体勢で口だけ動かす。

 

「………僕の声、レオンさんと承太郎には効かなかったね」

 

「殴り合いに集中してたからな」

 

「あとは精神力の差かなぁ〜〜………そういえばレオンさん……」

 

「何だ?」

 

「その………DIOと昔何があったか……チョット気になるんだけど………」

 

 今となっては別に構わないので、私は礼神が聞いて来る事全てに答えてあげた。

 

 

 

 

 

 そして翌日………

 

「………と、言うわけだ」

 

「「………………」」ポカーン

 

 ワルターの存在を知らせ今後の動きを打ち合わせした後、朝食の場で私は、昨夜約束した通り秘密を暴露する。

 話して良い事など何も無いと言ったが、ポルナレフと花京院の唖然とした表情が見れたのは儲けものか?

 花京院は口を開けて停止し、ポルナレフも動きを止めてフォークからはブロッコリーが転げ落ちた。

 

 DIOについて話があると言えば真剣な眼差しを向けるが、「実は私の兄なんだ」なんて言えばそうなるのは当然か。

 

「えっと………冗談…か?ハハハッ、随分と笑えない……な?」

 

 普段冗談など言わないからポルナレフが混乱している。しかし花京院は早くも冷静を取り戻し、少しだけ考え込む。

 

「………本当の事…なんですね?」

 

「あぁ」

 

 そう短く答えてから、私は100年近く昔の悲劇と私の罪を告白した。

 ちなみにラバーソウルはこの場にはいない。下手に聞かれて情報を彼が得てしまえば、戦意関係なく情報源として敵に狙われる可能性があるからだ。

 

 数分をかけて話し終えると、ポルナレフはフォークを置いて額に汗を滲ませる。

 

「…マジかよ。な、何で今、このタイミングで言うんだ⁉︎なんの前触れもなく……」

 

「やっぱり可笑しいと思うよなポルナレフ。私もそう思うよ。ほら見ろ承太郎、ジョセフ。やっぱり言わない方が良かったんだ」

 

「レオン………後の祭りだぜ」

 

 朝食の手を進めながらそう言うと、無愛想にそう返される。

 

「承太郎…君は知っていたのか?」

 

「承太郎と礼神は昨日………ワシはとうの昔から知っておるよ」

 

「ポルナレフも言いましたが………何故今それを?」

 

 神妙な顔付きで私の表情を伺うように花京院が訪ねて来る。

 

「私は最後まで隠し通すつもりだった………だがバレてしまってな。ジョセフは肩の荷を下ろすために打ち明けろとしつこいし………もちろん皆の混乱も危惧しての黙認だ。企みがあるわけではない」

 

「あ、いえ。別にレオンさんを疑ってるわけでは………」

 

 少し申し訳なさそうに両手を振る花京院。

 そして何か気付いたのか、ポルナレフはバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「今聞いた話………つ…つまりこう言うことか?テメェは最初、承太郎の母親である空条 ホリィを救うために旅に参加した。だがそれと同時に……兄であり親友でもあるジョナサン・ジョースターを弔う為にDIOを………」

 

 そこまで言って口を手で覆い、ポルナレフはワナワナと震える。

 

「………そうだポルナレフ。貴様と同じだな」

 

「いや………相手が違うだろ。俺は憎っくきJ・ガイル。レオンは……幼少期に苦楽を共にしたもう1人の兄。妹の仇を討つ為何年も俺は殺意に身を焦がしていた………だがお前は相手が兄であるが為に、それを抱くことも出来ず100年近く苦しんでいた。流石に俺もあの時はキレたが、カルカッタで言われた一言にも納得がいくぜ………あんたと俺じゃ、弔いの重みもかけてきた時間もが違いすぎる。確かにレオンからしたら()()()()()()()の事なのかもな。なんせお前は100年待ったんだ………」

 

「ん、その節はまぁすまなかったな。私の言い方も悪かった」

 

「正直な話。あの時ブチ切れたかったのはレオンの方だったんだろ?俺だけが復讐に身を焦がしていたから」

 

「その話は止めよう。過ぎた事………それこそ後の祭りだ」

 

「そうですね………ところで話は戻りますが、何故今それを打ち明けたんですか?レオンさんがジョースターさんにシツコク言われたのはわかりました。ならジョースターさんは何故打ち明けさせようと?信頼してくれているのは有り難いんですが、レオンさんの肩の荷を下ろさせる為だけには思えないんですが………」

 

 花京院の言う通りだ。

 ジョセフの事だ。帰らないならせめて打ち明けろ、と言っていたが、最初からジョセフは私の身を案じて帰そうと考えている。おそらく今もな。

 

「レオンは昔から嘘や隠し事が得意でな、気づきにくいが着実と精神的な意味で衰弱していっている。弔う対象と敵が両方とも家族なのだから無理もない。現にアンラベルの発作が活発になりワシにバレたのは旅立つ事を決めた次の日じゃ。ワシはレオンを日本に帰そうと思っている」

 

「結局ソレか………打ち明けようと打ち明けまいと、お前は私をリタイアさせるつもりなんだな?」

 

 今に「私を帰す」という意見をジョセフが言うだろう。と、思った矢先に本当に言いやがった。

 

「ならば多数決を取ろう。参加者はレオンを除くワシら5人。半数がお前さんの旅を許可するなら、もう好きにせい。もちろんワシは「帰す」に1票」

 

 そう言って手を挙げるジョセフ。

 なるほど…私と一対一で話し込んでも無意味と悟ったか。それでこの場を借りて全員で意見を出す。

 

「何故私に投票権がないんだ?」

 

「裁判で容疑者が自分を許すと宣言しても、周囲は納得せんだろう?それと同じじゃよ」

 

 私の有無も言わせずに始める気のようだ。すると2番目に手を挙げたのは花京院だった。

 

「では………僕も「帰す」に1票。元々僕は、レオンさんが第二のスタンドを所持していると知った時点で、貴方には帰って頂きたかった。今となってはもうスタンドによる問題ではありませんが、未だに苦しんでいるのなら僕は貴方の旅に反対します……すみません」

 

「いや良いんだ。人の意見………説得はできても、命令する権利は誰にも無い」

 

 また一言謝ってきた花京院にそう言う。

 テーブルを囲んでいるのは6人…すでに向こうには2票か………

 そこでまた1人手を挙げた。

 

「俺はレオンの旅を許可するぜ」

 

「承太郎ッ⁉︎」

 

「………良いのか?」

 

 こちらについた最初の1票はまさかの承太郎だった。

 

「俺は昨夜殴り合ってレオンの腹の底がようやく知れた。俺はレオンを信じる」

 

 学帽を被り直し手を下ろすとポルナレフも賛同して手を挙げてくれた。

 

「俺もレオンの旅を許可する。俺に似て非なる心境で……それも俺よりも苦しい状況下で生きたレオンには、結末を見届ける権利と義務がある!」

 

「………これで2対2じゃな。女神さん…お前さんはどちらじゃ?」

 

 全員の視線が礼神に向けられる。朝食時から一言も話していない礼神は、無表情を作ろうとしながら汗を流す。

 

「ぼ……僕は………………」

 

『我は主の旅を許可する』

 

「ッ⁉︎」

 

 そこで意外な人物が手を挙げた。

 

「アンラベル‼︎お前はレオンのスタンドじゃろう!レオン同様に投票権などないわ‼︎」

 

『何故だ。我はアンラベル、我が主レオン・ジョースターの第二のスタンド……主を守るのが我の役目だ。この場の誰よりも主の事を思っている我だからこそ、この場の誰よりも言葉に()()とやらが存在すると思うのだが………』

 

「ぬぅ………ならば何故お前がそっちに手を挙げる。レオンの為を思ってか?」

 

『あぁ、主の事を思ってだ。主の健康状態以上の情報が手に取るようにわかる。そんな我が許可したのだ。全員が否定しようとも、我の言葉にこそ耳を傾けるべきではないか』

 

 アンラベルのその言葉には誰も反論できなかった。

 

「これで2対3だ。葎崎がコッチ側に投票すればレオンは旅を続ける。ジジイ側に投票したとしても、3対3でこの多数決は保留だな。つう事はだ……結果を出すのはまた今度となり、この多数決を始める前の状態に戻るのが妥当だな。そう思わねぇか?」

 

「承太郎まで………」

 

「これ以上話しても無駄だな。さっさと飯食って出発するぜ」

 

 承太郎の言葉にジョセフは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 日本からはるか3万キロ。我々はついにカイロに足を踏み入れた。

 この場を今歩けているのは、言いくるめに近いがジョセフを説得できたからだ。

 花京院も「帰す派」だったが、彼は………

 

『確かに僕は貴方に帰って頂きたい。心配ですから………ですが同時に僕はレオンさんを信じています。多数決という場だったからこそ自分の意見を言いましたが、旅の同行を強く願うレオンさんを僕は否定できません』

 

 ………と、そう言ってくれた。

 

 朝食を済ませた後は、部屋で待機していたラバーソウルに声をかけて再出発した。現時点ではまだラバーソウルは我々と共にいる。

 敵は我々の動向を何かしらの手段でわかっているようでもあるが、念の為に財団の迎えなどにもと言った動きは見せなくない。その為、ホテルに迎えに来させるのではなく、我々が待ち合わせ場所に向かう事になっている。

 荷物などの受け渡しならまだしも、今回の財団への依頼はラバーソウルの保護だ。その場に放置というわけにはいかない。(そもそも1人になる事を極端に避けたがる)

 

「ほ、本当に大丈夫か……ですか?て、敵との戦闘には加わらなくても良いんですよね?」

 

「あぁ、保護すると言ったからには、お前さんの安全も保証する」

 

「………できればだがな」

 

「ッ⁉︎」ビクッ‼︎

 

 ジョセフの言葉に続けてポルナレフがそう言うと、ラバーソウルは一瞬反応し、変装道具を必死に掛け直す。

 今のラバーソウルはターバンを巻いてサングラスとマスクを身に付けている。

 

「ポルナレフ〜、あまり虐めんな〜」

 

 暑さにやられているのか、覇気のない声で礼神がそう言った。

 そんなこんなで歩いていると一軒の店を見つける。

 

「あそこだ。あの店が財団との待ち合わせ場所…彼らは幽波紋使いと比べれば無力だ。先に財団を動かし待たせると敵に襲われる可能性もある。その場に長時間居座らせない為に後から来る事になっているから、待ち時間の間は休んでいてくれ」

 

「また休みですか……連戦よりはマシですが、こうのんびりするのはやはり不安になりますね」

 

 その店の正体はカフェで、我々は8人がけの大きなテーブルを囲み、空席を1つ作って座る。イギーはその辺の日陰で寝転がり、間も無く店員が我々の所にやってくる。

 

「ようこそ外国の方々…何にします?」

 

「アイスティー」

「ワシもアイスティー」

「同じく」

「僕も」

「俺も」

「フルーツ系の飲み物」

「ア、アイスティ……」

 

 各々が注文すると店員は店の奥に消えてから、数分と待たないうちに7人分の飲み物を持って戻って来る。

 

「フゥー、暑い日のアイスティーってのは上手いなぁ」

 

「美味しい♪」

 

(……私もジュースにすれば良かったかな)

 

 礼神が飲むフルーツドリンクを見てそう思うと、隣に座っているラバーソウルがまた震えだす。

 

「……おい………もう少し落ち着け。すぐに財団も来るはずだ」

 

「え、えぇ………そうですが………それとは別に………………えっと…」

 

 そう言ってチラチラと視線で何かを訴えて来る。その視線の先を見てみると、そこには1人の男がつまんなそうにこちらを見ていた。

 

 手元にはトランプが並んでいる。

 

「………礼神」

 

「んー?………ん!」

 

 彼女の名前を呼んでから男を指差すと、礼神はグラスに口を付けたまま指し示す方を向く。

 するとその男はこちらの動きに気付き、並べていたトランプを手早くケースにしまい歩み寄って来る。

 そして堂々と、我々の座っているテーブルの空いてる席に腰を下ろした。そんな彼からはスタンドエネルギーを感じる。

 

「……トランプを持った男。随分と堂々とした登場じゃないか。()()()()()………だったかのう?」

 

 ジョセフがそう言うと、バービーと呼ばれた男はピクリと眉間を動かし口を開く。

 

()()()()です。私の名前はダービー…D'.A.R.B.Y。D(ディー)の上にダッシュが付く。その口振りからして、巫女殿から私の事を聞いているようですね。では、面倒な前置きはやめて私と賭けをしませんか?」

 

 ダービーと名乗った男がそう言うと、ポルナレフが銀の戦車(シルバーチャリオッツ)を出して頸動脈にレイピアを当てる。まだ切れてはいない。

 

「テメェ、自分の存在がバレてるとわかってて出て来るか?普通」

 

 ポルナレフの言葉などどこ吹く風で、ダービーはトランプをシャッフルし始める。

 

「テメェ聞いてんのか‼︎」

 

「えぇ、聞いていますよ。私は魂を奪う幽波紋使い、賭けというのは人間の魂を肉体から出やすくする。そこから奪い取るのが私の能力です。ですから貴方達はリスクを犯さず、賭け事をせず、脅して私から状態を聞き出したいのでしょう?」

 

「なら話が早いな。俺のチャリオッツが切り裂く前にDIOの居場所を吐きな!」

 

「……フフッ」

 

 ポルナレフの言葉にダービーが笑う。そして続けるように口を開いた。

 

「何故私が脅された程度で吐かなければいけないんです?それに、脅されて私との賭け事を始めるのはそちらですよ?」

 

「んだどぉ⁉︎テメェ知らねえのか、チップが無ければギャンブルはできねぇんだぜ⁉︎」

 

 そう、原作の彼は一般人ギャンブラーを装いポルナレフの魂を奪い取り、その魂をチップに戦いを挑んで来るのだ。だが我々は最初から敵だと知っている。

 賭けなどせず、能力は使わせず、荒いが武力行使で情報だけ絞り出す。それが礼神の予言を元に予定した打ち合わせだ。

 

 しかし………

 

「ですから……チップはこちらで用意いたしました」パチン

 

 彼が指を鳴らすと、店内に2人の男が入って来る。

 

「ッ⁉︎」

 

「……貴様」

 

 ジョセフは驚き、私はダービーを鋭く睨みつける。

 

「ジジイ、レオン………知り合いか?」

 

「……あぁ」

 

 入ってきた男の1人は高身長の金髪、もう1人はスーツ姿で眼鏡をかけたサラリーマンのような男で2人とも美形だ。

 

「これを見てください」

 

 入って来た2人が席に着くのを確認しダービーがスタンドを出すと、2人は糸の切れた人形のように気を失う。

 

「これでチップが2つ揃いました。そして更にもう一枚………これで十分ですかな?」

 

 先程入ってきた2人の男の顔が描かれた2枚のコイン。それとは別に女性の顔が描かれたコインが1枚取り出された。このコインに描かれた顔も知った顔だ。

 

「……何故彼らが………何故彼ら3人の魂を貴様が持っている‼︎」ダンッ‼︎

 

 ジョセフがテーブルを叩き立ち上がるが、ダービーは澄ました表情でトランプをきる。

 

「レオン・ジョースターとジョセフ・ジョースター以外はこの3枚のコインの人物を知らないのでピンと来ていないようだね………おっと失礼、()()()()()()()()()()と呼ぶべきだったかね?………………………………ん?」

 

 ニヤついて反応を窺うが誰1人表情を変えないので、逆にダービーが少し驚く表情を見せる。

 

「こちらの動揺を誘うつもりだったのか?それは残念だったな。丁度今朝、私の秘密を打ち明けたところだ」

 

「………なるほど」

 

 またつまんなそうな表情をして出した3枚のコインを並べる。

 

「さて、それでは2人以外ピンときてないようなので私が説明しよう。この3枚のコインの魂の持ち主………名前は左からワルター・アントニオ・ツェペリ、鈴原 海斗、鈴原 アルシアだよ」

 

 そこまで聞いてジョセフが歯をくいしばる。私も気持ちは同じだ。ワルターが手中に落ちてしまったのは知っていた。だが何故あの2人まで………

 そう思っていると、ダービーがまたニヤついた笑みを浮かべてこちらを見た。

 

「ギャンブラーだと聞いていたが、精神攻撃もなかなかじゃないか………まさかラバーソウルを保護するところまで予測していたのか?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

「お、おい。どうすんだ?」

 

 まだイマイチ状況の掴めていないポルナレフは1度スタンドを引っ込める。

 

「ワルターについては……今朝言ったな。そして鈴原夫妻………アルシアはワルターの妹で、海斗はアルシアの夫じゃ。何故芋蔓式のようにコインになっているかは理解できんがな」

 

 ギリリと食いしばりジョセフはダービーを睨み続ける。

 

「どうやって私が彼らの魂を得たかはこの際どうでも良いでしょう。重要なのは今どうするかでは?」

 

 そう言ってダービーはコインの後ろでカードを並べる。

 

「………彼らを助けたくば賭け勝負をしろと?」

 

「えぇ」

 

「勝ったら解放するんだろうな?」

 

「もちろん。私は博打打ちだ……誇りがある。負けたものは必ず払います。負けんがね」

 

(ヌグゥ………賭け勝負となればワシは「グラスとコイン」なんかが得意じゃが、礼神の予言ではワシは敗北している。承太郎なら勝てるらしいが、訳あって勝ち方は教えてくれんし………こういう勝負で一番強いのはレオンじゃが、今のレオンでは………)

 

「………ふぅ………ジョセフ、あまり私を舐めるなよ」

 

 不安そうな視線を私に向けるジョセフにそう言ってから、私は立ち上がり2人がけのテーブルに移動する。

 

「いいだろう、見せてやる。一流詐欺師にも劣らないジョセフすら捩じ伏せる、レオン・ジョースターのギャンブルをな」

 

「いいね……ならレオン。例の言葉を言ってもらいたいんだが………わかるかな?」

 

「あぁ、私の魂を賭けよう‼︎」

 

「グッド‼︎」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 そんなこんなでレオンさんがダービーとイカサマバトルをする事になった。まずは未開封のトランプを開けて細工がないかを承太郎が調べる。

 

「………ねぇジョセフさん。「ラバーソウルを保護するところまで予測していたのか?」ってさっきレオンさん言ってたけど、どういう事?」

 

「あぁ、ワシらはラバーソウルを通してワルターが手中に落ちた事を知った。そして気持ちを切り替え旅を再開した。そして今に至る」

 

「………それが?」

 

「例えばの話じゃが、大切な親友が捕まったらお前さんはどうする?」

 

「まぁ心配だし………助けようとするかな?」

 

「そしてあと少しで助けられるという時に、別の親友が2人捕まってると知ったらどうする?」

 

「あぁ〜………面倒臭い」

 

「言葉にしてみればそれで終わりじゃが、実際体験してみると中々精神的にキツいものよ………」

 

 ジョセフさんはそう言って汗を拭う。

 

 えっと………ワルターさんがシーザーの息子で、アルシアさん?がシーザーの娘で、海斗さんがアルシアさんの旦那さん。

 ツェペリ家とも繋がりはもちろんあるだろうし、レオンさん、ジョセフさんがその3人を見捨てられないのは別に不思議ではない。

 

 にしてもなんでその3人のうち2人だけ………ワルターさんと海斗さんだけココにいるんだろう。

 

 椅子に座り気絶している2人を見て前髪を丁寧にかきあげる。そこには肉の芽が埋め込まれており、これが原因でDIOのいいなりになっているんだとわかる。

 

「巫女殿、あまり触れないでもらえるかな?今の彼らはその肉の芽によって辛うじて血液が流れている状態なのだ」

 

「つまり今のうちに除去すると肉体的に死ぬってことか?」

 

「Yes。それでも数分以内に魂を取り戻せば問題ないが………」

 

 ダービーと花京院がそんな会話をすると、ジョセフさんが口を挟む。

 

「1つ聞くが、アルシアの身体は無事なんじゃろうな?」

 

「えぇもちろん。今は………という話ですが。同じく肉の芽のおかげで血流は流れているから、3日前に彼女から魂を抜いたが腐ってないはずだよ」

 

「クッ………」

 

 言い回しが気にくわないのかジョセフさんが辛い顔をする。

 そこで承太郎が口を開く。

 

「ごく普通のトランプだぜ。間違いない」

 

「では確認が終わったようなので、君はアッチでコレを付けてくれ」

 

 ダービーは承太郎に手錠を手渡す。

 

「これで離れた窓枠にでも腕を繋げばいい。流石に止まった時の中でカードをすり替えられてはたまらないからね」

 

 鍵は用意されていないが、星の白金(スタープラチナ)なら手錠を簡単に壊せる。つまりそれが壊れない限り承太郎はそこから動けない……時止めの能力を使っていない証明になるという事だ。

 

「これで舞台は整ったかな………あぁ、それと。君は窓際に座ってくれ。日光を当てれば吸血鬼の能力は使えないだろう?」

 

「あぁ、それで洗脳は使えないな。ゲーム内容は私が決めて良いのか?」

 

「えぇ。構いませんよ。いかなるルールでも私は負けんがね」

 

 圧倒的自信があるのか、ダービーは余裕でそう挑発する。

 そんな挑発には乗らず、レオンさんは淡々と話し始めた。

 

「ならインディアンポーカーは知っているか?」

 

「えぇもちろん。各プレイヤーが1枚のカードを額に貼り付けて、自分にだけ見えないようにして、相手のカードや相手の反応を見て勝負するか降りるかを決めるポーカーの一種でしょう?」

 

「そうだ。それの亜種をやろうと思う」

 

「亜種?」

 

「別に難しいルールに変えるつもりはない。単に「自分が見えず相手が見える」というのを逆にするだけだ」

 

「つまり引いた1枚のカードで勝負するかどうか決めるという、ルールを簡略化した物ですね」

 

「あぁ。この勝負でさっさと終わらせる」

 

 そう言ったレオンさんが賭けた魂は、レオンさん、ポルナレフ、ラバーソウルの3人…そしてオマケにジョセフさんの魂が賭けられた。

 ダービーの持ってる3つの魂の他に、DIOの居場所などの情報を吐かせるため………ちなみにポルナレフとラバーソウルはいきなり賭けられたのは今回戦力外だから。

 

 これで勝てば相手の保持している3人の魂をまとめて回収でき口も割らせられる。

 でも負けたら………………

 

「早速始めよう」

 

 トランプをバラバラにテーブル上に振り撒き、細かいルール設定を説明する。

 纏めるとこんな感じ↓

 

 ・引いた1枚のカードが大きい方が勝ち(1 < K < joker)

 ・勝負して勝てば2点、相手が降りたら1点

 ・降りた場合は使うはずだったカードを場に戻す

 ・10点先取した方が勝ち

 

「あぁ、それと………もちろん貴方達はそっちにいてくださいね。私の手が見えてしまう」

 

 ダービーにそう言われレオンさんの後ろに並ぼうと思ったが、ジョセフさんが「ワシらの表情を見る事でダービーが有利になってしまう」と言うので僕らは2人の手札が見えない位置に移動した。

 

「ファーストゲームだ」ペラッ

 

「あぁ………」ペラッ

 

 2人はカードめくり少し考え込む仕草をする。

 

「………さて、ここは様子見で………勝負「フン」……ッ⁉︎」サクッ

 

 挑発的な笑みを浮かべるダービーが勝負を宣言しようとした時、何を思ったのかレオンさんは引いたカードを手裏剣のようにダービーに投げた。

 それは回転しながらも真っ直ぐと………吸い込まれる様にダービーの右手の甲に刺さる。

 

「イッ………」ペラッ

 

「レ、レオン‼︎いったい何を⁉︎」

 

「スマン、その表情が気に食わなくて」

 

「ハァッ⁉︎」

 

「冗談だ。ダービーが落としたトランプを見てみろ」

 

 レオンさんがそう言うので拾って見ると、そのカードはハートのKだった。そしてレオンさんはテーブル上にばら撒かれたカードを何枚かめくり、1枚のカードを手に取った。それもまた、ハートのKだった。

 

「な、何ッ⁉︎ 同じカードが2枚⁉︎」

 

「ダービー……貴様、袖の中にトランプを隠しているな?」

 

「ま、まさか………コレを見破られるなんて………グッ」

 

 そう言って刺さったトランプを抜き簡単な止血をする。

 

「オレのイカサマを見破るとは…みくびっていたようだ………」

 

「今のゲームは無かったことにしてもらう、仕切り直しだ……それと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()バレない自信があるなら構わんが………」

 

「い、いや…やめておこう。これは、どんな相手だろうと舐めてかかってはいけないという教訓として反省する事にしよう」

 

 鋭い眼差しに恐怖を覚えたのか、ダービーはそう言ってジャケットを脱ぐ。すると袖や懐から同じ柄のトランプがボロボロ出てくる。

 

「………トランプってあんな簡単に刺さるんだ…」

 

 今のを見た僕の感想はそれだけだった。

 そしてゲームは仕切り直された。

 

「………さて、この手なら…勝てそうだ」

 

「下手に嘘をつくな。勝負」

 

「………ッチ、降りるよ」

 

 1回目 1-0

 

「………そうだな……今度は勝負だ」

 

「私もだ」

 

 レオンさんはJ(11)、ダービーは10

 

「クッ‼︎」

 

 2回目 3-0

 

 この要領でゲームは淡々と進んでいく。そして6回目。

 

(……こ、今度こそ………Kッ!これなら勝てる‼︎)

「勝負」

 

「降りる」

 

「………それは残念だ」

 

 6回目 7()-()3()

 

「な、何故だ。何故……まだ3点?この私が………」

 

 狼狽えるダービーに対してレオンさんは余裕そう……

 カードを手にすればポーカーフェイスだが、思考中のダービーは汗を流して焦っている。

 それもそのはず……()()()()()()()()()()()()()()()()

 勝負が成立した時は負け、良い手をダービーが引くとレオンさんは必ず降りるのだ。まるで相手の手札が見えているようだ。

 

「レオン‼︎ 貴様、何かイカサマをしているな⁉︎」

 

「………何のことだ?」

 

「トボけるな‼︎ 私の手が見えているのだろう‼︎ 何だ、鏡か⁉︎ 棚に並んだ酒瓶か⁉︎」

 

 背後を向いてダービーがそう口にする。しかし決定的証拠がない。

 

「早く次のゲームを始めよう。人質を取られてる身としては急ぎたいんだ」スッ

 

「ッ⁉︎」ガッ‼︎

 

 ゲームを降りた為、レオンさんは勝負すれば使うはずだったカードを場に戻す。それを見てダービーはレオンさんの手首を捻りあげる。

 それを見て僕らも驚く。

 

「………こ……このカードは……」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「スペードの………クイーンだと⁉︎」

 

 レオンさんが引いたカードはQ(12)。このゲーム上で2番目に強いカード。保護されている身のラバーソウルも驚きそう呟く。

 もちろんダービーも驚愕している。当たり前だ。普通こんな強いカードを引いたら勝負するはずだ、僕だってそうする。

 なのにレオンさんは「降りた」。

 

「な、な………」

 

「どうした顔色が悪いぞ?」

 

「何をした‼︎言え‼︎どんな手を使ったんだ⁉︎」

 

「何のことだ?」

 

「トボけるな‼︎」

 

「何を?イカサマ?証拠は?手段は?」

 

 レオンさんはいつもの涼しそうな顔でそう述べる。

 グゥの音も出ないダービーは「席だけ変えせてもらう」と言って移動した。ダービーの背後にあるカウンターに乗ったグラスや酒瓶……それの反射で手が見えたと思ってるようだ。

 

 ………レオンさんはどんな手を使ってるんだろ。何となくだけど、酒瓶やグラスじゃない気がする。

 

(私は博打打ちのギャンブラーだ、相手のペースに飲まれるな………1だがブラフをかましてやる‼︎)

「勝負」

 

「私も勝負だ」

 

「ッ⁉︎」

 

 結果はクローバーの1とクローバーの2でレオンに点が入った。

 

 7回目 9-3

 

 そして8回目、9回目と連続でダービーは強いカードを引いたがレオンさんは降りる。

 

 そして10回目

 

 「「勝負」」

 

 10回目 11-5

 

「私の勝ちだな」

 

「う、嘘だ……私はそんじょそこらのギャンブラーとは違う………そんな私がこんな呆気なく、イカサマも見破れずに………ど、どんな手を使ったんだ‼︎教えろ‼︎」

 

「別に卑怯な事はしていない。ただ相手の表情を見て、目を見てカードを当てただけだ」

 

「………っ!…ヘヘッ、そう言うことかよレオン」

 

「何?ポルナレフ分かったのか⁉︎」

 

 花京院のそのセリフを聞き、ダービーはポルナレフの方に視線を向ける。

 

「何だと……それは一体なんだ⁉︎スタンドか⁉︎」

 

「チゲェよ。レオンの言う通り、表情を見て当てただけだ。敵の表情から手を想像し心理戦を行う。ただのギャンブルと同じだな」

 

「そ、そんなわけがない………私のポーカーフェイスはそんな安くない………」

 

「反則はしてない。ちゃんとルールに則っている。まぁこの勝負を始めた時点で…その()()が何を指すのか気付かなかった時点で貴様の負けという事だ」

 

「み、認めない…こんなの…絶対何かイカサマが………」

 

「仕方ない………コレだけは言っといてやろう。これは私の掌で行う公開処刑のようなもので、私に勝つには10回私に降りさせるしかない。だがそれを勝負と受け止め、敗北の段階まで進めたのは貴様の意思だ。だからコレは貴様の正真正銘の敗北だ、いい加減に受け入れろ」

 

 そう言って歩み寄ると後ずさりするダービー。

 

「もう一度言う………私の勝ちだ‼︎」

 

 その声と共にコインが消滅し、煙のような人型が肉体へと戻っていく。それを見てダービーは自分が敗北を認めた事を理解して膝をつき項垂れた。そんなダービーを上から覗き込むように立ち上がり、レオンさんが声をかける。

 

「……さて、人質も解放された事だし吐いてもらおうか。DIOの居場所だけでいい」

 

「………………知ら……ない」

 

「……シラを切る気か?」

 

「本当だ‼︎私にだって誇りがある‼︎」

 

 半発狂状態で掴みかかるようにダービーが叫ぶ。それだけの大声を出すと、店にいた人達はコッソリと逃げ始める。

 そういえばここの店の人全員グルなんだっけ?

 

「………レオン」

 

「……ッチ。嘘は言ってない。無駄に賭けてしまったな。情報漏出を防ぐ為に、DIOは現在地を此奴にすら教えていないらしい」

 

「ところでポルナレフ、もう分かりやすく言っていいんじゃないか?どんな手を使ったのか見抜いたんだろ?」

 

「だからそのまんまだって。表情を…目を見て当てたんだ」

 

「だからそれが………そういうことか、イヤでも…まぁレオンさんなら……」

 

「ポルナレフ〜、焦らさず教えてよ」

 

 花京院は分かったようだが、僕は相変わらずわからないので尋ねてみる。

 

「だから目だよ目!瞳だって立派な()()()だぜ?」

 

「ウッソ‼︎ レオンさん瞳に反射したカードを見てたの⁉︎」

 

「あぁ。私が用意した鏡等で見たわけではない。対戦相手の持ち前の瞳………これをイカサマだというなら、眼球を抉って出直せ」

 

「エグーい………って肉の芽の除去忘れてない⁉︎」

 

「あ、そうだったな」

 

 ダービーから魂を取り戻したので、ワルターさん?と海斗さん?が目覚める前に肉の芽を取り除こうとする。

 すると………

 

 

 

ーーーボフン‼︎ーーー

 

 

 真っ白な煙が視界を覆った。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………ゴホッ、ゴホッ‼︎…一体何が?………⁉︎お前は‼︎」

 

「………よう。調子はどうだい、博打打ちさんよお」

 

 カフェに煙が充満した瞬間、ダービーは誰かに抱き抱えられスグに投げ出された。そして次に目を開けるとそこはバギーの荷台で、ダービーはそこに転がされていた。

 そんな彼の前には、おそらく煙を焚いてダービーをカフェから連れ出したであろう男が座っていた。

 その男はカウボーイハットを被り、口には煙草が咥えられている。そして同時に気付いた。荷台が揺れている事に。

 カウボーイハットの男………もといホル・ホースはダービーと同じく荷台に乗っていた。運転席ではない。にも関わらずバギーは走っている。

 つまり別の誰かが運転しているということ…もちろん誰か気になり目を向けると、ダービーは青ざめる。

 

「ダービーくんお久ァ〜………オジさんの事覚えてる?」

 

 白衣姿で手入れの行き届いていない顔が特徴の男………バギーを運転していたのは伊月 竹刀だった。

 いつもなら乾いた笑みでケラケラ笑う彼だが、今の伊月はドス黒く濁った瞳で、運転しながらも静かにダービーを睨んでいた。

 そして前を向いて一言………

 

「ホル君、後ろ」

 

 短くそう言われホル・ホースが振り向けば、迫ってくるのは無数のエメラルド。ホル・ホースは銃型のスタンド、帝王(エンペラー)の銃弾で全て弾く。

 すると遅れて紫色のレーザーらしきものが飛んでくるが、それは伊月がドリフトをする事で躱した。

 

「………わ、私を助けに………」

 

「来たと思ってんの?オジさんがぁ?」

 

「ヒッ………」

 

 喉が急速に乾くのを感じ、ダービーは黙り込む。

 そしてだいぶ離れた所でバギーを止め、伊月も荷台にやって来る。

 

「………………」

 

「………オジさんが何で怒ってるか……わかる?」

 

「ち、違うんだ‼︎DIO様の命令で……」

 

「知るかよ。やったのはテメェだろ?アルシアから魂を奪ったのはお前で、奪ったままでも人質として機能させる為に肉の芽を植えたのもテメェだろ?全部知ってんだぞ?」

 

「ゆ、許してくれ‼︎違うんだ!チップ、チップが必要だったんだ‼︎」

 

「結局負けてるみたいだけどね。そもそも俺は………アルシアだっけ?その子の生存を条件にDIOと手を組んでたんだぜ?それに君が手を出すとか………何したかわかってる?」

 

「違う…違うんだ‼︎」

 

「何が?」

 

 そう言って懐から注射器を取り出すと、ダービーは目の色を変えて逃げ出そうとする。

 

「ヤメロォ‼︎()()()()()……()()()()()()()()()()()()()‼︎‼︎」

 

 伊月とホル・ホースを突き飛ばし、ダービーはバギーから転げ落ち擦り傷を作る。それでもダービーは、血相を変え無我夢中で逃げ出した。

 

「おい‼︎…ったく、追わなくて良いのか?伊月の旦那よ」

 

「うん、良いよ………()()()()()

 

 彼が手に持っている注射器は、いつの間にか空になっていた。

 

「エンヤの婆さんにプレゼントしたのと同じ奴だよ。もう死んでるけど、後1時間もすれば動かなくなる」

 

「ふーん。んなことより、そろそろ教えてくれたって良いんじゃねぇか?そのアルシアって女の事をよ」

 

「全部終わったらね?」

 

「ッケ………またそれかよ」

 

「アハハハ、ゴメンね〜………ふぅ………輝楽…もうスグだ」

 

「………だからカグラってのも説明しろよ」

 

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