ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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57.飢えた猛者達

「コレは罠だ‼︎全員出ろ‼︎」

 

 オジさんにとっては人生で数度しか無い程の声量で叫んでみる。だけどみんなが気付いた時には遅かったみたい……砂のスタンドが使えるワンちゃんが咄嗟に動いたおかげで助かったみたいだけど………

 

「ホル君大丈夫?オジさんは大丈夫!」

 

「俺も…なんとか」

 

 砂に押し出されて尻餅をついたホル君ことホル・ホースは、オジさんの手をとって立ち上がる。

 そして2人仲良く門の方へ振り向けば、塀の上に着地していたハヤブサが硬い口角を僅かに吊り上げていた。

 

「ケキョキョキョキョ‼︎」

 

 ハヤブサ特有の鳴き声を発しながら両翼を広げると、それに沿うように氷柱(ツララ)状の弾幕が次々と生成される。

 

「………オジさん困っちゃうなぁ〜」

 

「笑ってる場合じゃねぇだろ‼︎ 来るぜ、旦那ァ‼︎」

 

 ホル・ホースは拳銃型のスタンド、皇帝(エンペラー)を構え、オジさんも注射器を両手に持って構えた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 

ガオン‼︎ガオン‼︎

 

 奇妙な消滅音が崩れかかった空間のあちこちで反響し、時折目の届く所にヒビ1つない風穴が開く。

 

「何だ?ペットショップが凍らせて固定させたのに、今度こそ生き埋めにする気か⁉︎」

 

「みたいだねポルナレフ。3つに分断されたうちの、僕らを相手取るみたいだ」

 

「なら走るぞ!壁の向こうにいるうちにな!」

 

 アヴドゥルの言葉を合図に皆が走り出す。

 イギーはすでに砂埃を充満させて亜空間を視認できる環境を作る。壁の向こうで破壊工作しているのでわかってはいたが、我々が走る通路にヴァニラ・アイスはいなかった。

 

「レオンさん平気なの?」

 

「あぁ………少し走り辛いが」

 

 ジョセフを庇った際に右腕を失った私は、右肩から先が無いおかげでバランス感覚が多少狂ってしまう。すると何も言わずにポルナレフが肩を貸してくれる。おかげでバランスを保つ事ができ、真っ直ぐ走る事ができた。

 

「………………!」

 

 やがて消滅音は背後の方で遠くなり、我々は少しだけ広いホールに出る。左右均一に並べられた太く聳え立った柱と複数の廊下の入り口が見える。

 そこで一度、今走ってきた空間を振り向く。それを待っていたかのように今来た廊下からは崩壊音が聞こえて来た。

 そのうちあの亜空間は我々の後を追ってくるだろう。

 

「廊下と比べれば広いが、炎を飛ばしたり剣を振り回すには狭いだろう………もう少し先へ進みましょう」

 

 アヴドゥルがそう言って足を進める。

 ヴァニラ・アイスからは多少離れたので、警戒しながら歩く事になる。

 

 そうやって更に先へ進んでいると、割と頼っていたから少しだけ不安になる。何にといえばW-Refの事だ。

 館に入った時から辺り一面を放流しているスタンドエネルギーを、私のW-Refは感知している……エンヤ婆の正義(ジャスティス)の時の様に、W-Refの感知能力をスタンドエネルギーが覆っていたのだ。

 まるで墨汁の中を泳いでいる様で、それ以外が何も感じられない。

 

「……幻術の幽波紋使い」

 

「ん?何がだ、近くにいるのか⁉︎」

 

 ボソッと呟くとポルナレフが辺りを警戒しながら尋ねるので、私は今感じ取れる事をそのまま口にした。

 

「そういう事ですか……より一層注意しましょう」

 

「今見えるこの壁も……もしかしたら偽物かもね」

 

 アヴドゥルと礼神がそう言って、更に警戒心を強める。

 

 ところで………

 

「ところでポルナレフ………()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」ピタッ

 

 歩くのをやめてポルナレフが振り向く。

 

「………何のことだ?」

 

「とぼけるな」ゴッ

 

 左拳がポルナレフの顔面に突き刺さり、ポルナレフは顔面から広がるように蒸発していった。

 

「ギニャァァァァッ⁉︎」

 

「フシャァァァ‼︎」

 

 それを見るや否や、今度はアヴドゥルが私に襲いかかってくる。だが()()()()とは違い、動きが素人でまったく相手にならない。

 アヴドゥルを真似ていた者は秒速で蒸発する。

 

「ゾ、ゾンビッ⁉︎」

 

 礼神が驚き私の背後に隠れる。

 いつの間にかゾンビと入れ替わっていたようだ。まぁそれにはすぐに気付いたが。

 

「レ、レオンさんは……本物だよね?波紋使えるし………仲間だよね?」

 

 不安そうに礼神が上目遣いで聞いてくる。

 それに私は優しい口調で答える。

 

「もちろん味方だ」

 

「そう……よかった」

 

「ただし………()()()()()()」グシャァア‼︎

 

 振り向きざまに礼神を蹴り飛ばす。波紋は使わなかったが、首の骨は折れて肉片が圧力でグニャリとよじれる。

 

「バッ……な、何故バレ………オレの無敵の能力がァーーッ‼︎」

 

「無敵の能力だと?後頭部に礼神の顔を作り後ろ歩きするだけの能力がか?………裏返るなら両手も逆にしろ」

 

「???………ハッ!そ…そうかッ!」

 

 正真正銘のバカだな。

 ちなみにポルナレフ達に気付いたのは肩を貸してもらった時……墨汁の中を泳いでるようだ、と言ったが流石に触れれば気付くさ。

 なのに銀の戦車(シルバーチャリオッツ)のエネルギーは微塵たりとも感じ取れなかった。

 

 それはそうと……

 

「礼神の言う通り…貴様がヌケサクと呼ばれるのも納得がいく」

 

「て、テメェ………ヌケサクと呼んだな…なめるなよ〜〜。ブッ殺すッ!このオレ様はすでに……「ドパァン」

 

「………透明色波紋疾走(クリアオーバードライブ)

 

  セリフを言い終えるのを待つのも面倒臭い……波紋の衝撃波はヌケサクの頭部を一瞬で消し飛ばす。

 波紋はゾンビや吸血鬼の弱点なのだ………そんな波紋の熟練者でもある私に勝てるわけがないだろ。

 

「さぁ……隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

 そこらじゅうから臭う()()()()()に向けて言い放てば、観念したかのように無数のゾンビが出てくる。

 本物の礼神達が心配で早く合流したいのだ……さっさと済ませよう。

 

『そんなに俺は頼りねぇか?』

 

「………………」

 

 ふとそんな台詞が脳内再生される………

 

「そうだな……彼らは信頼できるほどに強い。いつの間にかイギーもいないし、向こうにいるんだろう。心配ばかりしては無礼だな…………まぁ、急がない理由にはならんが」

 

 肩の傷口は腕を再生させようと必死に蠢いているが、右肩から先は未だに存在しない。それでも相手は雑魚の群れだ。

 

 

ハンデにすらならない

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 奇妙な消滅音が崩れかかった空間のあちこちで反響し、時折目の届く所にヒビ1つない風穴が開く。

 

「何だ?ペットショップが凍らせて固定させたのに、今度こそ生き埋めにする気か⁉︎」

 

「みたいだねポルナレフ。3つに分断されたうちの、僕らを相手取るみたいだ」

 

「なら走るぞ!壁の向こうにいるうちにな!」

 

 アヴドゥルさんの言葉を合図に僕らは走り出す。

 戦闘中の長距離移動とかはケルベロスを頼っていたので問題なかったが、自分の足で長い廊下を走っているので体力がどんどん削れる。ケルベロスを利用しすぎたことによる運動不足だね。

 そしてケルベロスを纏いながらは走り辛く、ヴァニラ・アイス相手に防御力は無意味なので一度外す。

 

「こ……ここまでこれば、ひとまずは良いんじゃない?」

 

 しばらく逃げ続けたが、自分の体力が音を上げ始めて僕も音を上げた。声をかけて止まったみんなは振り向き周囲の安全を確認する。そして冷や汗………

 逃げた先は右も左も似た景色で、あらゆる所に階段がある高低差のある空間………まさに立体巨大迷路。

 方向音痴の僕が進めば、次の瞬間元いた場所に戻れるかも怪しい……

 

「礼神、これからどうする?」

 

「僕に聞かないでよ……」

 

「あっそ。ならレオン、どうする………レオン?」

 

 呆れ顔を浮かべてから顔を背けてポルナレフは尋ねる。しかし尋ねられた当の本人は何も答えない。それどころか、そこには彼の姿すらなかった。

 

「え、レオンさんは何処⁉︎」

 

 肩を上下に動かし酸素を確保しながら問うが、みんなが互いの顔を見合わせるだけで誰も答えない。逸れない範囲で迷路の中を見渡すが何処にもいない。

 もしかして置いてきた?逸れた?幻術にかかったのかも……

 すぐさま僕は引き返そうとしたが、そこには今来た通路は無く、代わりにと言わんばかりに冷たい壁がそこにはあった。

 

「これも……幻術か?」

 

「わかんない……原作ではイギーが瞬殺したか……らッ!」ドゴォン‼︎

 

 マイスタンドのケルベロスを操り前足で壁を砕いてみるが、壁の向こうには同じような迷路が広がっていた。

 

「今来た道はねぇ、進む道は………」

 

「………無限とも言えるな。むしろ一周回って出口が無いようにも思えてしまう」

 

 扉の付いていない似たような出入り口がいくつも並び、空中でいくつもの道が上下左右に交差している。

 この迷路の攻略法は流石に知らないよ………

 

「まずレオンさんと合流したいね。ゾンビの相手ならまだしも、ヴァニラ・アイスの相手を1人でやるのは流石にキツイでしょ。あの亜空間にはW-Refですら触れないみたいだし」

 

「だな」

 

 ポルナレフが同意しひとまず歩き出そうとすると……

 

「その心配はいらない」

 

 密室と違い隙間風さえ吹いている広大な迷路に、静かで重いその声は透き通るように消えた。

 

 と、言うよりは信じたくなかった。認識したくなかった……背後から聞こえたその声は初めて聞いたけど、もう察しがついた。

 

 振り向けばそこには、美形だが狂気染みた瞳を持った男が立っていた。腰と右胸、額……あと耳にハートのデザインを施した装飾品を付け、背後には同じようにハートを所々に付けた2mを優に超えるスタンドが立っていた。

 

 彼こそがヴァニラ・アイス。その背後にいるのが彼のスタンド「クリーム(だったかな?)」………亜空間に飲み込み粉微塵に粉砕するチートスタンド。ハートを付けてはいるが、その姿に可愛い要素は全く無い。むしろ悪魔や死神から連想できるような恐ろしい容姿をしている。

 

「…テメェがヴァニラ・アイスか。不意打ちせずに姿を現わしたな」

 

「最後に…聞かねばならん事があってな」

 

「聞く事………だと?」

 

「グルルル〜〜〜‼︎」

 

 僕を除いたみんながスタンドを出して戦闘態勢に入る。

 それを見て僕も普段よりは小さめのケルベロスを出す。犬で言えばゴールデンレトリバーくらいの大きさだ。

 無駄に大きくしても避けにくくなるだけだし。

 

 ヴァニラ・アイスはそう言ってから真っ直ぐ指差して僕の名前を呼び要件を述べた。

 

「これが最後だ。巫女よ………DIO様の配下に下れ‼︎」

 

 ほぼ命令口調で伝えられた内容……それに従うつもりは毛頭ない。その気持ちを汲んでくれたのか………

 

銀の戦車(シルバーチャリオッツ)‼︎」

魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)‼︎」

愚者(ザ・フール)‼︎』

 

 みんなが即座に反撃する。

  銀の戦車(シルバーチャリオッツ)が急接近してヴァニラ・アイスに斬りかかり、それに被弾しないように、十字架(アンク)を模した炎とインディアンヘッドの砂の獣が左右に弧を描いて襲いかかる。

 

 それらの攻撃により巻き起こった土煙の中には何もない。強いて言うなら()()()()()()()がそこには存在した。

 

「チッ、亜空間に逃げられたか」

 

 ポルナレフが舌打ちをした瞬間…土煙のお陰で視認できる亜空間は僕めがけて突っ込んできた。だから僕はケルベロスの背骨を掴み、ケルベロスがそのまま飛んで僕を引っ張るような形で回避行動をとる。

 もちろんその直線上にいたみんなも回避をしていた。

 

「いきなり突っ込んで来やがった‼︎礼神が死んでも御構い無しか⁉︎」

 

「御構い無しだね。だって「これが最後」って言ってたし。イギー‼︎砂展開して‼︎」

 

「アギッ‼︎」

 

「アヴドゥルさんは奴が顔だした瞬間、即座にダメージを与えられるように炎の準備を‼︎」

 

「あぁ、とっておきを食らわせてやる」

 

「礼神‼︎俺は⁉︎」

 

「避ける事を優先して‼︎僕らは足手纏い‼︎」

 

「マジかよ‼︎」

 

 イギーを中心に砂が巻き上がり、デタラメに浮遊する亜空間が視認できるようになる。それは何かに触れるたびに「ガオン‼︎」と音を立てて物体を飲み込んでいく。

 

 やがて亜空間が縮み、その中心から球状に丸まったクリームが姿を現わす。そしてその口の中からヴァニラ・アイスが顔を出し、僕に狙いを付けてまた亜空間に消える。

 

 アヴドゥルさんはすかさず炎を飛ばすが、スピードが足らず間に合わない。

 

 そして僕らは最初の一撃でバラバラに飛んだから、同じ空間でもそれぞれが離れ離れになっているのだ。

 ショートカット以外の方法で、どうやって移動すれば同じ通路に辿り着けるかもわからない。

 

「礼神、避けろ‼︎」

 

「わかってるって‼︎」

 

 ケルベロスに捕まり同じように避ける。

 すると亜空間は僕が先程までいた位置に辿り着くと、急カーブして明後日の方向に飛んでいく。

 

「なんだあいつ、的外れの方向に飛んでったぞ!」

 

「亜空間に入ってる間は周囲を視認できない。だからある程度予想して動いてるんだよ。僕が今そっちに避けてたら死んでたね」

 

 考えるだけでゾッとする。一瞬で亜空間に飲み込まれるというのは苦しいのだろうか………

 

 そう思っていると、一瞬顔を出したヴァニラが今度はアヴドゥルさんに襲いかかる。

 

「こっちに来たな。私の射程範囲に……」

 

 砂のお陰で回避は容易い……亜空間を避けると大回りなUターンで戻ってくる。それも避けて次の一撃に備えるアヴドゥルさんだが、急に彼は体勢を崩す。

 

「な、床が傾い……ッ‼︎狙ったのは足場だったか‼︎」

 

 気付くのに遅れたが跳躍し、伸ばした手が別の通路に引っかかる。そこから腕力を使い這い上がると、アヴドゥルさんはコッチに振り向く。

 

「………だいぶ離れてしまったな」

 

「少しずつだが確実に分断させようとしてねぇかコレ⁉︎」

 

 先程僕が思ったように、ショートカット無しだと合流は難しいほど僕らのいる通路同士が離れている。

 というか、ショートカットできる足場も亜空間に少しずつ消え失せ始めている。

 

「このヴァニラ・アイスに…焦る必要は無い。確実に追いつめて倒す………確実に………」

 

 バラバラになった僕らの中心部の上方にヴァニラ・アイスが姿を現わす。相変わらずスタンドの口の中だが、今回は顔をのぞかせるのではなく上半身だけ外に出している。

 

「ヴァニラ・アイス……テメェ降りて来やがれ‼︎正々堂々と戦え‼︎」

 

「戦う?これは戦いなどではない……処刑だ。DIO様を倒そうなどと思い上がった考えは………正さねばならんからな」

 

 そう言い残してまた亜空間に消え、上の方で縦横無尽に動き回る。僕らは誰もそこにはいないが、壁や通路を円を描いて暗黒空間へと飲み込んでいた。するともちろん、くり抜かれた大量の瓦礫は僕らに降り注ぐ。

 

「野郎ッ‼︎」ガガガッ‼︎

 

 アヴドゥルさんは持ち前の炎でそれを溶解させ、ポルナレフは躱せる物は躱して無理な物にはレイピアの連撃で削るという荒技で身を守っていた。イギーは砂のドームで身を守り、僕も同じようにケルベロスの体内に隠れ身を守った。

 物理には強い。

 

「………やはり………貴様らは暗黒空間にばら撒くしかないなッ!」

 

 この程度の物理攻撃には強いと相手も思ったのか、顔を出して現状を確認してまた亜空間へ消える………

 

(アレだけ離れては俺の銀の戦車(シルバーチャリオッツ)は届かねぇ………このまま足手纏いになるくらいなら………)

「アヴドゥル‼︎俺に炎を飛ばせ‼︎」ガガガッ‼︎

 

 ポルナレフは落ちて来た際に削った瓦礫を更に削る。その姿はまるで木彫り職人が仕上げにかかるようだった。そしてその瓦礫もまさに木彫りのように容易く芸術作品と化していく………だがその作品は…

 

「何をする気だポルナレフ‼︎」

 

「このまま分断されて個々がタイマンはるのは分が悪い‼︎ だったら足手纏いの俺は、再集合する為に今ここで賭けに出るぜ‼︎」

 

 瓦礫から作られた彫刻は今丁度完成し、ポルナレフはそれを抱えてヴァニラ・アイスが出現する場所を見極めた。

 今亜空間はイギーに襲いかかっている。分断が目的なのだから順番に襲われる確率は高い………となると次は……

 

「俺を襲う為に顔を出した時、テメェの大好きなもんを見せつけてやるぜ。イギーは今のうちに、俺らを合流させる道を砂で作成しろ‼︎」

 

『テメェが俺に命令すんじゃねぇよッ!愚者(ザ・フール)‼︎』

 

 彫刻を担ぎ、亜空間から姿を現した敵目掛けてソレを投げ付けた。今まで見た動きから推測するに、ヴァニラ・アイスの反射神経なら亜空間に逃げる事も可能だろう。投げられた2m足らずの彫刻など、アヴドゥルさんの炎より遅いのだから………

 

 しかしその彫刻を見たヴァニラ・アイスは目を見開き一瞬硬直する。そして亜空間に逃げる時間が無くなり、止むを得ずにスタンドの腕を振るう事で彫刻を砕く。

 

 彫刻はぶつからずダメージは無い。だがこれでいいのだろう………ポルナレフの狙いはソレをヴァニラに()()()()ことにあった。

 

「上手いもんだろ、チャリオッツで彫ったD()I()O()()()()だ。出口を見つけられず力尽きたその姿……この広大な迷路に見事にマッチしてるぜ」

 

 両手のジェスチャーでカメラを作り、地面にひれ伏したように壊れたDIOの彫像にピントを合わせる動きをする。

 僕は少し離れた所から見ていたが、ヴァニラ・アイスがワナワナと震える姿がよく見えた。それ程に気が動転しているようだ。

 

「よくも…よくもッ‼︎このクソ野郎がッ!()()()()D()I()O()()()()姿()()()()()()()()なァァァァァァアッーーーー‼︎」

 

 激情したその表情を僕らに晒してから亜空間に消え、ポルナレフ目掛けてその空間が突進する。ポルナレフは跳んで避けるが亜空間はポルナレフの目の前で止まり、姿を現したスタンドの口の中からヴァニラ・アイスが飛び出てくる。

 

「蹴り殺してやるッ!このド畜生がァーーーーッ‼︎ 暗黒空間に飲み込むのは一瞬ッ!()()()()()()()()()()()()()()ッ‼︎」

 

「ッグァ……ァ、アヴドゥルッ‼︎」

 

 ポルナレフのスタンド、チャリオッツはヴァニラ・アイスのスタンド、クリームが押さえつける。そして生身のポルナレフの鳩尾に、ヴァニラ・アイスの蹴りが振り抜かれる。

 もろに食らったポルナレフは嗚咽しながら吹き飛びアヴドゥルさんの名を呼ぶ。だが呼んで合図をするまでもなく、ヴァニラ・アイスが蹴りを放った時には十字架(アンク)型の炎が迫っていた。

 

「グゥゥッ‼︎」バッ‼︎

 

「スタンド能力で逃げたぞ‼︎その場を離れろポルナレフ、暗黒空間が発生するぞ‼︎」

 

「わかってるがちょっと待ちやがれ‼︎」

 

 空中をレイピアでかき混ぜる様に動かしていると、その近くで捲き上る砂を飲み込む亜空間が現れる。

 それを見てからその場を離れるポルナレフを尻目に、僕らはその間にイギーが作った新たな階段で一ヶ所に集まる。後はポルナレフがコッチに来れば良い。

 

「で、再集合したけどどうすんの⁉︎また分断されない⁉︎」

 

「だから逃げんだよ‼︎たとえ迷路だとしても、ここと違って足場の良い場所に移るべきだ!」

 

 最後にポルナレフが通路をショートカットして僕らと合流し、そう言いながらも急かすように数ある通路の中で1番近い通路に向けて走り出す。

 

「ポルナレフ‼︎このわたしがそれを許すと思うかァーーーッ‼︎」

 

「いいや、思ってないぜ?」ドンッ

 

 背後から声が聞こえてくるや否や、ポルナレフは振り向いて右手の人差し指をヴァニラ・アイスに向ける。

 それと同時に放たれたのは、銀の戦車(シルバーチャリオッツ)の構えるレイピアの刀身だ。一発しか撃てない代わりに、そのレイピアはアヴドゥルさんの炎よりも早い。

 結果、叫び大口開けていたヴァニラ・アイスの口内へ刺さり、見事に脳幹を貫き後頭部から切っ先を見せた。

 

「チャリオッツの奥の手だぜ」

 

「こんな物ッ!………こんな…もっ⁉︎」

 

 今の彼はゾンビとなっている。人間にとっては致命傷だが、ゾンビは脳幹が多少傷ついただけでは特に問題ない。

 それにしてはヴァニラ・アイスの様子がおかしい…よく見れば刺さった刀身を中心に少し溶けている。

 

「まさか………ポルナレフ!波紋習ったの⁉︎ この旅の道中で⁉︎」

 

「それも考えたが、俺が教わったのはゾンビについてだけだ。この程度では死なねえが時間稼ぎにはなんだろ。レオンに詳しく聞いといてよかった」

 

 ヴァニラ・アイスは刺さったレイピアを抜こうと右手で掴むが、その手にも煙が上がり酷い火傷痕を作り出す。そしてそのレイピアは赤く発光し、僅かに炎を帯びている事に気付く。

 そんな敵に背を向けて僕らは走り出し、ポルナレフは決め台詞の様にヴァニラ・アイスに一言吐き捨てた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「スゥ………HAAA………」

 

 辺りを充満する血煙を肺いっぱいに吸い込み、間を開けて一気に吐き出す。そんな呼吸をする度に全身に思いもよらぬ快感と三大欲求とは別の欲求が満たされ…また刺激される。

 

『……戦闘狂…………という奴だな。主よ』

 

「フフッ……否定はしない。久しぶりの感覚だ」

 

 仰け反り天井を仰ぐように顔を上げ、見下す様に周囲の肉片に目を向ける。人に良く似た肉の塊……動く物と動かなくなってしまったもの………中には人型を留めない物もあった。

 

『………主よ………食してはならんぞ』

 

「わかっている。貴様の能力もあいまって回復してしまうのだろう?」

 

 ジョセフを庇った拍子に右腕をヴァニラ・アイスに飲み込まれた時……何故かアンラベルの発作は全くなかった。その原因を聞けば、アンラベルはすぐに答えてくれた。

 

 万全の状態の私では勝算が五分五分。そして右腕を失った今では更に低い……ならば反比例の能力を使い、アンラベルに肉体の所有権を渡せばと思った。だが勝てる見込みが無いらしい。

 

 私が死に近づくほど、アンラベルは強くなる。

 だが右腕を失った程度では、ヴァニラを倒す程の力が出せないらしい。

 

『葎崎 礼神。ジャン・P(ピエール)・ポルナレフ。モハメド・アヴドゥル。イギー………彼らにはスピードが足りない。唯一足りるポルナレフは距離が足りない』

 

「だから私は合流しなければならない」

 

『だが今の主では勝てない。我でも勝てない』

 

 ならばどうすればいい?

 そして行き着いた答えては、自身によりダメージを与える事。

 ベストとしてはヴァニラと戦う最中に、致命傷を避けながら攻撃を貰う事………

 その為、今すぐに回復する事は許されない。

 

「主を守るのが我の役目と言っておいて、回復するなと言われるとはな………」

 

『確かに主を守るのが我の役目だ。ただ、結果的に主を生存させる為に危険な橋を渡らねばならんだけだ』

 

 故に右腕を失った時には発作が起こらなかったらしい。今起こしたところで何の解決にもならないと()()したのだろう。

 

「前までは見境なく暴れたくせに………」

 

『成長したのだ。褒めても良いのだぞ』

 

「それは後だ。見てみろ、まだ動く肉片がチラホラ………」

 

『………嬉しそうだな。主よ』

 

「そうか?………そうかもな」

 

 自然と口角が釣り上がる……仲間がこの場にいないから視線を気にする事も無い。それが原因だろう。

 久しぶりの一対多数戦の無双戦闘というのも理由の1つだが……

 

「何を怯えている……私を殺さないのか?」

 

 ならばこちらから襲いかかろう。

 

 悲鳴と嬌声が混じり合う

 

辺りに撒かれる鮮血が私を更に喜ばせる

 

文字通り血湧き肉躍る感覚

右腕の細胞が今にも再生したいと訴え

鮮血に反応して蠢いている

 

 普段は出さないでいるこの感情

 

日常生活には持ち込まないさ

 

だが………

 

 

今は溺れたって構わないだろう?

 

 

「私を楽しませてくれたまえ‼︎」

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