鳥類は人や犬と同様に1つの肺で呼吸するわけだが、鳥類には
この気嚢を持っているために、鳥類は人間では昏睡におちてしまう高度でも飛行が可能であるし、たとえ首を絞められてもこの体内酸素ボンベのおかげで数分は生きていける。
故にペットショップは
「伊月の旦那‼︎」
「ハイハイこちら伊月のオジさんです。ハハハ…」
見てみれば伊月は腹部から出血していて、身に付けていた白衣に血が滲み朱色が広がる。
(群体型スタンドの面倒な特徴は、スタンドがやられた時に何処にダメージが来るかわからない事なんだよね)
「ホル君逃げよう。勝てる気がしない……というか、攻撃が外だと届かない」
はるか上空から降り注ぐ氷柱を躱す事はできるが、敵はまだ伊月達に攻撃する手段がある。それに対して伊月 竹刀とホル・ホースの攻撃手段はたかが知れている。
ホル・ホースのスタンドですら射程距離外の高さに敵はいる。
そんな所まで注射器も毒針も飛ばせない……下手すれば重力に従って彼らに降り注ぐだけ。
スタンドでペットショップの周囲に鱗粉を既に何種類か撒いているが、鳥類にある気嚢のおかげでペットショップは毒を吸わずにいられる。皮膚から浸透させる事もできるが、羽毛に絡まり肌に浸透させるのには時間がはるかにかかる。
常に鱗粉を浴びせようと今日中に致死量まで与えられないだろう。
「逃げるって何処へ⁉︎ジョースターどもと組んだ以上、尻尾巻いて逃げるわけにはいかねぇだろ‼︎」
「そりゃそうだけど一旦さ、室内に入ろうぜ。室内なら高さの無い部屋もあるだろ」
伊月の提案に従いホル・ホースは引きの姿勢を見せる。しかしジョースター御一行が突入した入り口は既に崩れていた。
「伊月の旦那‼︎ 他の出入り口は⁉︎」
「裏に回れば扉があるけど、途中の窓からも入れる」
そう言い終わった頃には曲がり角を曲がっていて、置いてけぼりを食らう形になっているホル・ホースは慌てて追いかける。
そんな2人を追尾するように氷柱が降り注ぎ、着弾地点を中心に氷が枝分かれするように伸びる。
少し逃げ足が遅れたホル・ホースはそれに足を取られるが、すぐさま自身のスタンドの銃弾で氷を砕き難を逃れる。
だが逃れる際に体勢を崩し、ホル・ホースの足元を乱反射する光が照らす。見上げれば巨大な氷柱が進行形で落下していた。
「ホル君コッチ!」
その姿からは見合わない力でホル・ホースを伊月は引っ張る。そしてそのまま、背中から倒れるように窓から室内へ飛び込んだ。
「ダイナミックお邪魔しますッ‼︎」
ガラスは砕け室内のフローリングの上に散りばめられ、窓の外は巨大な氷で塞がれる。半透明な氷の奥では首を動かし、様々な角度からこちらを見つめるハヤブサがいた。
「あっぶねー」
上半身を起こした伊月はケラケラと笑う。敵に追い詰められようが、いかなる時でも笑顔と笑い声混じりで言葉を並べるのは伊月の癖なのだろう。
それを見たペットショップが挑発と受け取ったのかはわからない。 だがペットショップがその場を離れたのは確かだ。
「……初めて来たのに良く入れる場所がわかったな」
「オジさんのマッピング能力舐めないでよw乗り込むまでの間、この街一帯をオジさんのスタンドは網羅してたんだぜ?」
そう言って白衣のポケットから試験管を取り出し、その液体を腹部にかける。
「旦那の能力は相変わらず応用がきくな…」
「そうな褒めないでよ。オジさん照れちゃうぜ……あ、そうそう。これを見てくれる?」
そう言ってまた新しい試験管を取り出しホル・ホースに見せつける。もちろん見ただけではソレが何なのかはわからない。
「簡単に言えば液状の火薬だよ。スタンドと市販の薬物から作った。コレを使えば鳥ちゃんを倒せるはず………1つしかないけどホル・ホース、部屋が狭ければ隙とか作れる?」
「ぅ………自信は……ねぇ」
苦い顔で視線を向けるホル・ホースを気にも止めず、伊月は立ち上がって白衣を翻す。白衣に付着していたガラスの破片はパラパラと音を立てる。
「ペットショップは目的を変更すると思う?」
「……いや、ねぇな」
「じゃあまた襲われるね」
………その時だった。
「ケキョキョキョキョ‼︎」
甲高い声と共に地面が抉れ、その亀裂からハヤブサが飛び出して来る。今まで天高く飛んでいた事もあって、地面を掘り進めて来るとは思わず完全に虚を突かれる。
ハヤブサの最大降下速度は時速300km。
その速さで狩りを行い、その速さの最中でナイフのような鉤爪の一撃で致命傷を与える生物である。つまりその速度を保ちながらも、その目は常に急所を捉えている。
「プギャッ⁉︎」
そんなハヤブサにとって、登場すると同時に狙いをつけるなど造作もない事だった。
(あ、危ねぇ〜〜ッ‼︎ 俺はハジキ使いであるが故に、遠距離攻撃の着弾地点の予想は人一倍敏感だッ!その直感が無ければ死んでいた‼︎)
代わりにカウボーイハットが宙に舞いタンコブができるが、それも気にせず拳銃のスタンドを構える。
「野郎ォ、俺のトレードマークをッ‼︎」
拳銃型のスタンド…
弾丸もスタンドであるが故にそれは直線には飛ばず、避ければターゲットを追尾するように曲げる事も可能である。
これを躱すのは至難の技………だが………
「キョーンッ‼︎」
鋭く空を切る音と共に、ペットショップはホル・ホースに向かって突っ込んで来た。
「こ、こんな狭い弾の間をすり抜け………ッ‼︎」
ナイフのように鋭利な鉤爪が、氷を纏い更に尖る。
直感でホル・ホースは感じ取った…頸動脈を裂かれると………
手でガードした所で、指は間違いなく削ぎ落とされるだろうと………そう感じ取った。これは避けれない。
しかしそんな直感は良い方向で外れる。
ペットショップはホル・ホースの数メートル先で急旋回して距離をとったのだ。
「………外しちゃった………アレには当てられないねー」
「旦那……助かったぜ」
右の掌をホル・ホースに向けて広げる伊月 竹刀。
おそらくその手で毒針を投げ、それに気付いたペットショップは旋回して回避したのだろう。それが結果的に、ホル・ホースを助ける事に繋がった。
「向かってくる弾を避けようともせずに逆に突っ込んでくるとは……ペットショップとやらやりおるぜっ!」
仕切り直しと言わんばかりに、ペットショップは距離を取って室内にあった椅子の背もたれに着地している。その目は相変わらず彼らを捉え続け、攻撃しても避けられる程に油断も隙もない。
ここで先に手を出したのは伊月だった。
「下がって、巻き込まれないでくれよ」
伊月が両手を広げると、そんな彼の前から百を超える蝶の群れが現れる。ペットショップを飲み込まんと直進するソレは、まるで横に伸びる黒い竜巻のようだ。
だがペットショップを飲み込む直前で、氷柱の弾幕が蝶の群れに放たれた。
複数の氷柱は数々の蝶を引き裂き、貫き、凍らせ、砕いた。それに呼応するように伊月は吐血するが、相変わらずケラケラと笑っている。
「ハハハ。20%殺されたかな?」
「何やってんだ旦那‼︎ 奴に鱗粉は効かない、外でやった事の二の舞だぜ⁉︎」
「鳥ちゃんの能力って、氷を放つ以外に凍らせる事もできるんだね」
「だからなんだよ‼︎」
ホル・ホースの言葉など聞いているのかもわからない様子で、伊月はそんな事を再確認する。
「もう一回聞くけど、ホル君は隙を作れる?」
「………………」
「……じゃあオジさんが作るね」
疑問文のニュアンスで聞いておいて、伊月は試験管を半ば無理やり押し付けるように渡す。先程見せた液状火薬というやつだ。
そして今度は注射器を取り出して自分に別の薬品を打ち込む。
「旦那……やんのか」
「コレで勝利の糸口が見つかるといいね〜。黒戦使用」
ー
ーー
ーーー
身体を循環する血流が乱れ始め、やがてソレは止まり硬化する。完全に固体化したわけではないが、コレで血管が内側から守る鎧となる。頑丈さは事前に確認済み………スタプラの一撃に耐えるほど強固で、屋上から飛び降りても無傷着地ができるほど柔軟……更に戦闘能力も高く、手刀で吸血鬼の腕を持っていける程だ。
でもこの薬物………強力だけど気持ち悪いんだよね………皮膚呼吸じゃ脳が完全に回らないから、ミカドでドバドバ薬物使わないといけないし………それでも少し頭がボーッとする。それに肌は黒く染まってゴキブリみたいでヤダ。まぁ要素は色だけ………あ、痛覚がほぼ無いのも似た点か。
「伊月の旦那‼︎」
「ハイハイ………大丈夫だって。うん。ちゃんと理性あるよー」
そう返事をすると何か飛んで来る。無論、鳥ちゃんの氷柱だけどね。
それを殴って砕くと、オジさんの拳にもヒビが入り血が滲む。
しかしその血はスグに固まり岩石のように硬くなる。
そしてまた氷柱が飛んでくる。また拳で砕く………
再び拳にヒビが入るが先程より傷は浅く、氷柱はもちろん粉砕された。
出血量に応じて防御力は上がるってのは便利だね。
「行くぜホル君。隙ができたら
「………旦那、本気だな?」
そう言ってニヤついて、ホル君は試験管片手に持ち反対の手でスタンドを構える。
頭ボーッとしたりすると、つい「俺」って言っちゃうな。
俺じゃなくてオジさんなのに………今はどうでもいっか。
迫り来る氷柱を破壊して接近するが、接近戦にメリットの無い鳥ちゃんは飛んで距離を取る。けども………
「ッ⁉︎」
「逃がさないぜよ‼︎」
今のオジさんは人間を超越してると言っても過言ではない。
攻めるための肉体…戦うための力……普段の効率的な暗殺タイプとは訳が違う。
強いて言うならスーパーゴリ押しタイプ‼︎
ここは室内…天井がある。壁を足場のように容易く駆け上がれるから逃げられたりはしない。
それでも速さはまだ足りず、オジさんの拳は空を切る。
その時一瞬だけ、鳥ちゃん…ペットショップと目が合った。目が合ったのはその一瞬だけで、次の瞬間 眼前には氷柱が現れた。
空中で近すぎた事もあって避けれず、氷柱はオジさんの腹部に向けて放たれる。硬化してた為、刺さりはしなかったが氷柱と共に吹き飛ばされた。
「旦那ァ‼︎」
「大……丈夫………」
(なんだよもぉ〜。黒戦使ってカッコつけたのに……このままじゃ噛ませ犬じゃねぇか!)
腹部に乗っている氷柱を退け、すぐさま壁を走り天井に向かう。
だが単調に攻めても攻撃は当たら無い。目眩しとばかりにミカドアゲハを存分に羽ばたかせる。
様々な角度から覆うように飛来するミカドアゲハ……ペットショップの攻撃で散らされながらも、確実に死角を増やしていく。
だが鋭いその目はしっかりとオジさんを捉えていて、飛び掛かっても結局は躱される。
その時、突如として右翼から出血するペットショップ…気付けばその身体を、3発の銃弾が通過していた。
「キケョッ⁉︎」
「旦那、俺ごとで良いってこういう事だろ?」
流石ホル君だね〜、オジさん助かるぜ。
ミカドアゲハの向こうから飛んできた
それを避ける為、ペットショップはミカドアゲハの群れを掻き分けるように飛行する。
オジさんのスタンドはパワーが無いから障害物にはならない。
「チッ……飛び回られちゃ当たんねえぜ」
「どいてホル君」
ターゲットを変えたペットショップはホル君を狙う。それで撃ち出された氷柱弾幕は、オジさんが盾となり防ぐ。
………だけど。
ー
ーー
ーーー
ペットショップは焦りを感じていた。
ー まさかここまで苦戦するとは ー
ー コイツらを逃しては不味い! ー
ペットショップは天井付近を旋回しながら、右翼の出血具合を見る。当たりどころが悪ければ飛行困難であるが、運良く傷口の位置に問題は無い。軽く凍らせて止血しても、氷の質量で傾く事は無いだろう。
「キョーーーーンッ‼︎」
また甲高い声を上げると、手頃な氷柱を複数作り出しすぐさまホル・ホースへと放つ。
ー 確実に……1人ずつ……… ー
氷すらも粉砕する伊月と違い、ホル・ホースは避ける一方……消せる者から消そうとペットショップは考える。
しかしその弾幕は伊月によって防がれてしまう。
ペットショップは思案する……そこで1つの変化に気付く。
「………………」
その変化が正しいのか判断する為、ペットショップは能力で冷気を辺り一帯に振りまく。部屋の中は急激に冷え込み、エジプトとは思え無い程の室温だ。
やがて激戦の被害が見られる室内に、ペットショップは着陸する。
「………………キュイ…」
「な、何だこの鳥公…硬そうな口角がキューッと……笑ってやがるのか?」
「………ホル君………不味いよ」
焦っている様子では無いが、少なくとも笑顔の消えた伊月 竹刀が無表情で呟く。
「ケキョキョキョキョ‼︎」
好機と見たペットショップは何発もの弾幕を伊月に放つ。
すると伊月は先程とは違い、ガードもせずに正面から受け止めた……と、言うよりも
背後にいるホル・ホースを庇ったわけではない。確かに庇いはするが、その際は拳で氷柱を砕くだろう。
「どうした旦那ァ‼︎」
「鳥頭って言葉は虚言なの?あの子 頭良いぞ!」
ゆっくりと立ち上がるその姿は実に遅く格好の的だった。
今度こそ息の根を止めようと、ペットショップは巨大な氷柱を頭上に出現させる。
「キョーーーーンッ‼︎……ッ⁉︎」
あと少しというところで、ホル・ホースの
ペットショップは今作っている氷柱を盾にして弾丸を躱し、蝶の群れは無視して伊月達に氷柱を放った。
ミカドアゲハの群れの所為で見え無いが、激しい音を立てて氷柱が床に突き刺さる。
「………!」
やがてミカドアゲハは散り散りに消え、氷柱が着弾したそこを見てみれば抉れた床と落ちた氷柱がそこにあるだけだった。
伊月 竹刀とホル・ホースは消えていた。
それを確認したペットショップは、散るように別々の方向へ逃げたミカドアゲハに視線を向けた………
「………危なかった。流石に………」
「ゼェ…ゼェ………パートナー殺しの異名は伊達じゃないって事か?」
少し離れた場所に2人は居た。
先程まで戦っていた部屋の2つ隣………そこに今まさに、ホル・ホースが伊月を引きずる形で逃げて来たのだ。
「ミカドを目眩しにし、オジさんは数体の蝶を爆破させて緊急回避………半分……いや、それ以上の蝶が散ったね」
吐血した伊月は、口から流れる血を拭おうと腕をゆっくりと動かす。
「………そいつは何の冗談だい?」
「………何が?」
「動きだよ、動き。普段と比べ物にならんくらいにトロイじゃねぇか」
「………黒戦は血液を硬化させる。そして肉は熱を持ち柔軟性を与える。それが冷やされたら………ねぇ?」
「………ハァ………」
トレードマークの帽子は失ったまま………そんなホル・ホースは自分の頭に両手を当ててうずくまる。
「俺の人生も………ここまでか………」
「諦めるなよホル君。まだ勝算はある」
「ハッ!次はどうしろってんだい⁉︎ 裏切り、寝返り、戦って、逃げて‼︎ 俺はあんたの部下じゃねぇ……あくまで協力関係だ。DIOを裏切ったのも利益があると思ったからよ………それがなんてザマだ………」
ホル・ホースはろくに動く事もできない伊月の前に立って右手を差し出す。だがそれは握手等を求めているわけではない……
一瞬遅れ、手の中に拳銃型のスタンドが現れる。
「ここまであんたに従ってみたがロクな事がねぇ………そこでこんなのはどうだ?ここまで来て……また裏切る………」
「………目眩しに使った蝶……オジさんの所に集めたら辿られるから、バラバラに散らしたんだけど………ペットショップはそれを始末して回ってるみたいだね」
「おぉ、おぉそれは辛いな。今楽にしてやるぜ?」
ーーードォン‼︎ーーー
スタンドの銃弾が放たれると、伊月は額から血を流す………だがやがてそれも固まり硬度が増す。傷口は浅いようだ。
「………ホル・ホース………まだ勝算はあるって。なのに………オジさんを撃つんだね」
「あぁ、もうウンザリなもんでな………にしても硬いな。撃つなら目か耳だな」
「……殺したその後どうすんの?オジさんの首持ってDIOに土下座する?」
「生きる為にならな………このまま見捨てて逃げるってのもいいな」
「………ホル・ホース、君から見て9時の方向………そこにある通路の先にペットショップはいる。君は逃げれる?そもそもDIOがまた君を雇うと思う?ペットショップにその前に始末されそうだけど………」
伊月がそう言うと、ホル・ホースはチラッと左手の廊下を確認する。暗いが壁に蝋燭台が張り付いており、辛うじて奥を確認できる。
「………なら聞くが旦那………
口調を強めて尋ねてみると、ゆっくりとした動作でホル・ホースのスタンドを構えている方と逆の手を指差す。
その手に握られているのは伊月が押し付けた液状火薬の入った試験管だった。チャチな蓋が付いていて、一応溢れてはいないようだ。
「その蓋を開けてペットショップに投げる………それだけ…」
「………それで爆発してハッピーエンドか?ケッ‼︎ んな賭け事はもうウンザリだって言ってんだろ‼︎」
「そうこうしてるうちに来るぜ?さっきの発砲音………きっとペットショップも聞こえてる」
そう言われまた目を向ける。
「キョォォォンッ‼︎」
………その奥には、こちら目掛けて廊下を低空飛行するペットショップが確かにいた。
「………こ………このクソ野郎がァァァア‼︎」
半分ヤケになっていたが、ホル・ホースは言われた通りに試験管を投げ付けた。
蓋は開けられていて、液状火薬が光を反射させながら弧を描き飛ぶ。
しかし、それは呆気なく凍らされてしまう。
「………見ろ………見てみろよ‼︎ やっぱりダメじゃねぇか‼︎ 避けるどころか、簡単に凍らされちまった‼︎」
「それで良いんだよ………説明不足でゴメンね。スタンドで作った擬似火薬………鱗粉や水に溶かした液状火薬は火をつければ爆発するけど……」
凍らされた液状火薬は描いていた弧を乱して落下……今まさに床に落ち割れるところで、ペットショップはその上を通過する。
「液状火薬は凍らすと性質が変わるんだよね………強いて言うなら」
「………ニトログリセリンに性質は近いかな?」
ニトログリセリン………火薬等と違い、火を付けずとも衝撃などで爆発を起こす危険物質。ダイナマイトの材料としても使われる程である。
「それをこの距離でくらったらホル君危なかったねぇ〜」
「………ゴホッ」
爆破の煙で咳込むホル・ホース…その前には盾となり爆破から守った伊月が立っている。
「爆破の熱でまた身体も動くよ〜♪……つっても、1分も経たずに黒戦の効力が切れるだろうけどね」
「………発言は取り消さねぇ……あんたにはウンザリだ」
皮肉交じりにホル・ホースがそう言うと、伊月は苦笑いを浮かべながらもケラケラと笑い出した。
既に7割の蝶が散り気絶寸前だというのに、その笑顔は相変わらずだった。
「ケ………キュ………」
「ッ⁉︎……鳥公‼︎ まだ動けんのかよ⁉︎」
「あら……本当だ」
おそらく自分の周囲に氷壁を築き身を守ったのだろう。だがそれでもニトログリセリンの低速爆轟は防ぎ切れなかったようで、ペットショップは廊下の奥まで爆発の勢いで戻されていた。
そんなペットショップの羽毛は剥げ、翼は所々出血して火傷も酷かった。
「なッ‼︎ あの火傷で飛ぶ気か⁉︎」
「でもトドメはいらなそうだね」
そう言って伊月 竹刀はその場を後にするように、ペットショップに背を向けて歩き出した。
それを見たペットショップに怒りが込み上げて来たのか、伊月に向けて低空飛行して接近する。
「ゴメン………やっぱり鳥頭だったね」
廊下は爆発の影響で所々引火し燃えているが、今更関係ないと言わんばかりに炎の中を潜り抜けて飛んで来る。
「………
2度目の爆発音が響き、耐え切れずに廊下が崩れ落ちる。
酷い土煙と爆煙が視界を包み、視界が開けた時には廊下が1つ瓦礫で塞がれていた。
その隙間からは僅かだが、鳥の足のようなものがはみ出していた。もう動く気配は無い。
「………ミカドアゲハの中を飛んでいた事を忘れてたみたいだね。タップリ羽毛に絡まってるはずだぜ?」
「へぇ……毒が効かないと分かってからは、ずっと火薬の鱗粉を巻いてたのか?その為に無意味に思えた蝶の特攻を?」
「うん………ところでコンビは解消?」
「……当たり前だ。旦那とのコンビにウンザリってのは変わらねえし、もう俺らの役目も終わりだろ………」
「そだねー。もう戦えない…ペットショップ倒したし良いよね?」
「だな………」
「じゃあ正式にコンビ解散って事で………」
「あぁ………」
「じゃあアフターケアも無しで良いね」
「おう………」
そこでホル・ホースは焦って伊月の方へ顔を向け、その場を去ろうとする破けた白衣の背中を追い掛ける。
「いや‼︎ 治療はしてくれよ‼︎」
「やだ……パートナーじゃないし………オジさんもう疲れた」
「オイオイ、そりゃねぇぜ……」
「ホル・ホースさっき、本当にオジさん殺す気だったよね……………ショックだったなぁ〜〜〜。だからヤダ」
「わかった謝るよ………え?マジでケア無しなのか?チョ、旦那ァ〜〜〜‼︎」