ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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59.死して尚強く

「……どうした?もう終わりなのか?」

 

 両手を広げて周囲を見渡し、いるはずの誰かに向けてレオンは話しかける。

 そんな彼の足元には多種多様な肉片が転がっていて、見る限り死体に共通点はあまりない。

 

 現実離れした様々な殺害方法…デビルの異名は健在だった。

 

「まだ居るんだろう?出てきたらどうだ!片腕を失い、一対多で体力を消耗した今の私に休息の暇を与えて良いのか⁉︎」

 

 煌々と照らされた月面のような白髪が、風も無いのに不気味かつ不規則に揺れている。

 

 柱や瓦礫の影に隠れたゾンビ達は、人を辞め死への恐れすらも凍り付いた者達である。

 そんな彼らはDIOの為に、勝てやしないとわかっていながら襲いかかっていた…それは最初の話だが。

 

 レオンに同胞が殺されていくにつれ、凍り機能しなかった恐怖心が溶け、その場にいる全員は本能が警鐘をこの上なく鳴らされているのを感じていたのだ。

 

(何が体力を消耗してるだ‼︎ 汗1つ流さず爛々と笑いやがって)

 

 影からレオンを覗く1人のゾンビは、身体をガタガタと震わせながらも隙を窺っていた。

 

 その時…いや、もっと前からだ……()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 目を離さず見ていたというのに、レオンは忽然と姿を消していた。

 

「………()()()()()()()()()()()

 

「ッ⁉︎」

 

 気が付けばレオンはそのゾンビの背後に立っていた。

 すぐさま瓦礫から飛び出し、レオンの射程距離からゾンビは逃げ出そうとした。

 

 結果……()()()()()()()()()()()()()()

 

 首から上はその場に……空中に留まっていた。

 首にはレオンの白髪が一本巻き付いていたのだ。それによって距離を取ろうとしたゾンビの首が飛んだのだが、彼は死ぬ前にそれを理解する事はできなかっただろう。

 

波紋疾走(オーバードライブ)

 

 空中に置き去りにされた顔面を、波紋の込められた上段蹴りが霧の様に霧散させる。

 

 それを隙と見たのか、別のゾンビが剣を片手に突っ込んでくる。

 その剣をレオンに刺そうと突きを放つが、レオンはそれを片手で掴み止める。その手には手袋型のスタンドが嵌められており、傷1つつける事ができない。

 

銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)

 

 逆にゾンビは剣越しに波紋を流されて気化してしまう。

 

「今だ‼︎波紋を使えばすぐには素早く動けねぇ‼︎」

 

 それを合図にか、3人のゾンビが遠距離攻撃をしてくる。

 銃を撃ったり、短刀や槍を投げたりしている。

 

 それに対しレオンは「ヒュゥッ」と、鳴き声の様に短く言った。

 だが苦し紛れに言ったセリフではない…それは1つの呼吸法だった。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 呟く様に口を開いたレオンは、高速で回避と移動を繰り返し距離を詰める。

 驚きの声も上げれず、3人のゾンビは敢え無く波紋を流される。

 

「………中々便利だな。(アンチ)というのも」

 

『ム、我を褒めたのか』

 

「いや、呼吸法の事だ」

 

 波紋の呼吸をすれば吸血鬼としてのスペックは人並みに落ちる。そして波紋の呼吸を止めても、残留した波紋のせいで数秒ほど戻るのに時間がかかってしまう……今までなら。

 

反疾走(アンチドライブ)とでも呼ぶか?」

 

 先程の短い呼吸法は波紋とは真逆の呼吸……正の波紋、負の波紋といった区切りではなく、簡単に言って仕舞えば波紋()()()()を打ち消す呼吸法である。

 練り上げ体内に残留する波紋…それを無駄に消費させて消す事で、スペックを戻す時間を短縮しているのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()……レオンにとってはたったそれだけの些細な事だった。

 

(流石は主よ………だがおそらく、皆は主を見て多くの才能に恵まれていると勘違いするのだろう。それは違う…我にはわかる……主の才能はたったの2つだ………)

 

 レオンが持つ意思あるスタンド、アンラベルはふとそう思った。

 

 そうな事を思っているうちに、レオンは倒したゾンビの持っていた短刀をいくつか拝借する。

 手に持った複数の短刀に己の血を付着させると、レオンはそれに波紋を帯びさせて壁に投げ付ける。

 

濡羽色波紋疾走(レイヴンブラックオーバードライブ)

 

 レストランでホル・ホースにナイフを投げた様に、短刀の持ち手が壁にぶつかり刺さる事なく跳弾……レオンの視界に映っていない所で、血煙が舞い上がる。

 

(主が持つ才能の1つは観察力…もう1つは試作力といったところか……)

 

 レオンの目を通し見たものは、全てが情報源であり彼の力になりうる。そしてそれを体得する為に人は繰り返し練習するが、レオンはその繰り返しの工程を数段階 省略する技量があった。更にはアレンジを加えるという成長ぶり………

 

 合気道、ボクシング、ハルバード、吸血鬼の戦闘、鞭、スタンド…レオンが生きる内に身に付けたその全てに才能が有るのでは無い。

 その才能の正体こそが今の2つだと言っても過言では無いだろう。

 

「WRYYY………」

 

『主よ……まるでDIOのようだぞ」

 

「ムッ………」

 

 無意識だったようで一度口を手で押さえる。

 

 気を取り直し、レオンは新たな獲物を見定めるべく視線を張り巡らせる。そして視界の隅に映った獲物目掛けて飛び掛かり、レオンの人差し指が文字通り獲物の腹部に突き刺さる。

 

深紅色波紋疾走(クリムゾンオーバードライブ)

 

 突き刺した指から波紋を流し、そのまま殴り抜く事で敵を吹き飛ばす。しかし殴られた男はゾンビではないようで気化しなかった。

 

「貴様、人間か………そして触れてわかった。貴様が幻術の幽波紋使いだな?」

 

 館に入ってからずっと感じ取っていたスタンドエネルギー……レオンは殴って触れた事で、この男が同質のエネルギーを持っている事を知り、こいつこそが幻術の幽波紋使いと判断した。

 

 実際にその推測は当たっていた。

 

 この男の名はケニーG…DIOの館の構造を能力で組み換え構築する幽波紋使いである。

 ゾンビ達が思いの外に早く殲滅されそうなのを見て、安置から様子を見ていたのだ。隙あらば幻術でまた時間稼ぎの補助をしようとしたのだ。

 しかし身を潜めた場所は安置などではなく、レオンの血牙にかかってしまったようだ。

 

「グオォォッ⁉︎」

 

 腹部に受けた強い痛みにより蹲るが、ゾンビと違いレオンを真っ直ぐ睨みつけている。実力の強い弱いはともかく、恐怖に屈しない精神が確かにあった。

 

「ほう………」

 

 不死に近いゾンビすら恐怖していたにも関わらず、ケニーGはレオンに気圧されたりはしない。

 そこに少し驚いたレオンだが、敵である以上 殺さないという選択肢は無かった。

 

「俺は……まだここじゃ死ねねぇんだよ‼︎」

 

 そう捨て台詞を吐いたケニーGは、景色に溶け込むように姿を消した。レオンのW-Refの探知能力を今は使う事ができない……故にもう一度探し出すのは骨が折れるだろう。

 

「この俺様にテメェを殺す力はねぇ‼︎ だが重大な役割を負ってんだよ‼︎ 死ねねぇ‼︎」

 

 仲間にとって有利なステージを用意し、敵は程よく分断させる。

 直接的な力は無いが、確かに厄介な力を彼は持っていた。

 

「レオン‼︎ テメェに俺様の位置がわかるか? どれだけ強くてもなぁ…攻撃が当たらねぇ事には問題ねぇんだよ‼︎」

 

 どこから話しかけてきているのかわからないが、反響するその声にレオンは返事を返す。

 

「そうだな。当たらなければどうと言う事は無い。逆に言えば………当たってしまったのだから大問題だろ?」

 

「何を言って………うっ……グォッ⁉︎」

 

 姿は見えないが、ケニーは突如として苦しみだす。

 

深紅色波紋疾走(クリムゾンオーバードライブ)………それは血流を加速させる波紋だ。加減をすれば全身が痺れる程度で済むが、本気でやれば更に加速し発熱……および血管が血流に耐えられなくなる」

 

 

ー パァンッ ー

 

「すなわち血管が破裂する。もっとも血流の強く脆い大動脈がな……そしてその裂け目は血流で更に広がり、やがて心臓も破裂する」

 

 破裂音の聞こえた後にそう言うレオン………そして間も無く、周辺の景色に変化が現れる。

 

「………戻ったな」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「なんじゃ? ゲームをしていた幻覚世界から出たと思ったら、外の幻覚風景も消えおったぞ」

 

「おそらく葎崎さんの言っていた幻術使いが誰かにやられたのでしょう」

 

「時折轟く爆発音や地響き………やれやれだぜ。早く合流してやらねぇと………」

 

 レオンがケニーGを始末したのと同時刻。

 承太郎達はテレンス・T・ダービーを倒し、鈴原 アルシアの魂を解放し上への階段を探していた。

 

「承太郎……わかっているな? このままワシらはDIOの元へ駆け上がるぞ」

 

「………………」

 

 ジョセフの指示には返事をせず、承太郎は学帽を被り直した。そして歩みを進めていると、承太郎が口を開く。

 

「……ジジイ、花京院。わかってる。俺の相手はDIOだ……だから頼みがある」

 

「なんだこんな時に………」

 

「俺がDIOと接触したら、テメェらは葎崎の援護に向かってくれ」

 

 その言葉に、ジョセフと花京院は顔を見合わせる。

 

「……伊月の言葉を真に受けているのか?」

 

 ホテルの屋上で伊月と接触した承太郎は、屋上から飛び降りる前に言った伊月の警告を思い出していた。

 

 

ー あのままじゃ彼女…君らの為に自殺するぜ? ー

 

 

「真に受けた訳じゃねぇが………………」

 

「………わかった。どの道、僕らではDIOに太刀打ちできないんだ。聞き入れるよ」

 

「悪い……」

 

 口籠もった承太郎に、花京院は自分が承諾した事を伝える。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「周りを見ろ……何か変じゃないか?」

 

「変じゃないよ。たぶん戻ったんだよ」

 

 その頃の二階ギャラリーでは、礼神達がヴァニラ・アイスを巻いて体制を立て直す為に一時撤退していた。

 礼神は自身のスタンドを足代わりに乗っており、イギーとアヴドゥルは自分の足で走っていたが、ポルナレフは礼神の後ろに乗っていた。

 

 ヴァニラの蹴りをモロに受けた時に肋を痛めたようだ。戦闘に支障はないと彼は言うが、無理に走らせる理由も無くスペースもあるので乗せているようだ。

 

「待て!止まるんだ‼︎」

 

 アヴドゥルのその声で皆は足を止める。見てみれば、正面の暗い廊下を誰かが歩いて来る。

 カツン、カツンと心地良い音を立てながら誰かが歩いて来る。

 

「イギー、砂展開。ポルナレフ、立てる?」

 

 ポルナレフを下ろした礼神は、戦闘用に小柄なサイズにケルベロスを変化させる。

 やがて進行方向の安全確認の為だけに舞っていた砂は、2階ギャラリーの隅々まで行き届く。

 

「広くて迷路ではない……ここで迎え撃つぜ………」

 

 銀の戦車(シルバーチャリオッツ)を出したポルナレフは警戒心を高める。

 ヴァニラ・アイスに先回りされたかと警戒する一行だが、廊下の影から姿を現した人物はヴァニラではなかった。

 

「だ、誰だ‼︎」

 

 ポルナレフがそう叫ぶと、現れた人物は足を止めて長い髪を一度搔き上げるが無言を貫く。

 

 現れたのは動きやすいパンツにスポーツウェアを着た女性だった。服装に不審な点は無く、見た所日本でも揃えられそうな運動向きの私服……しかし、その腰には鞘に収まった刀がぶら下がっている。

 髪は抑えめの金髪で、顔付きは美人な部類の女性だ。

 

「…敵か………だとしたら心苦しいが、再起不能になっていただこうか。お嬢さん」

 

 スタンドを出して指先に炎を灯すアヴドゥルが警告するが、女性は相変わらず無言でそこに立っている。

 腰に刀をぶら下げているにも関わらず、それに手を掛ける素振りすらない。だが降伏する素振りも無い………その目は興味無さそうに見えて、アヴドゥルの事を敵として見据えていた。

 

 

ー プンッ ー

 

「なッ⁉︎」

 

 突如としてその女性は、奇妙な音を発して姿を消した。

 

 そんな現象に注目して何処へ消えたのか周囲を警戒するが、それでもアヴドゥルは背後からの奇襲に反応が遅れてしまった。

 

「後ろッ‼︎」

 

「ハッ⁉︎」

 

 ー ギンッ‼︎ ー

 

 アヴドゥルを背後から襲ったのは、今さっき姿を消した女性だった。今まさにアヴドゥルの腹部を突き刺そうとしていたところを、銀の戦車(シルバーチャリオッツ)のレイピアが刀を弾き飛ばす。

 

 するとすぐさま姿勢を下げ、アヴドゥルに抱き着く形でそのまま腕を掴み拘束してしまう。もちろんアヴドゥルは抵抗を見せる。

 

魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)‼︎」

 

 心苦しいが、自身のスタンドを出して自分を背後から押さえる女性を焼き払おうとする。が………

 

 

ー プンッ ー

 

「………へ?」

 

 次の瞬間……女性は()()()()()()()()姿を消した。まるでそこに初めから居なかったかのように………

 

「アヴドゥル………さん?」

(え………嘘でしょ。ヴァニラの亜空間………いや、それはない。ヴァニラ・アイスが現れた形跡は無い………それに今の音は何?)

 

 悪寒を感じた礼神は、即座に抱いた疑問を解決しようと脳を動かす。が、結論に至る前に消えた彼の悲鳴が耳に届いた。

 

「グアァァァーーーーッ‼︎」

 

 少し離れた場所に飾ってあった聖騎士の鎧……その鎧が手にする槍に、アヴドゥルは深々と刺さっていた。

 背中から貫く様に槍に刺さったアヴドゥル…踠き宙吊りの身体を動かすと、揺れで聖騎士の鎧が槍を手放す。そうなれば必然的に、アヴドゥルは槍に貫かれたまま地面に転がる事になる。

 

 そんな状態を作ったであろう女性は、アヴドゥルの顔面を靴底で踏み付け始めた。

 

「アヴドゥルーーーーーーッ⁉︎ テメェ、その足を退かしやがれッ‼︎」

 

 ポルナレフは床を蹴って駆け寄り、彼のスタンドがレイピアを振り上げ切り掛かる。

 すると女性は右手を礼神に向け、一瞬間を開けてから女性の前に礼神が現れる。

 

「いッ⁉︎」

「なッ‼︎」

 

 ー ガギン‼︎ ー

 

 振り下ろした腕を止めようとしたが、勢い余ってポルナレフは礼神に切り掛かってしまう。だが礼神が尾骨で受け止めた事で無傷で済んだ。

 

「イタッ‼︎」

 

 女性は突如として現れた礼神をポルナレフに向けて蹴飛ばす。ポルナレフはそれを受け止める事で、追撃の手を出す事ができなかった。

 

「ガウバウッ‼︎」

 

 代わりにイギーが動く。

 波の様に襲い掛かる砂の獣は、女性を吹き飛ばそうと突進して来る。だがそれが触れる前に、女性はアヴドゥルに刺さった槍に触れると また姿を消してしまう。

 

「グ……ゥ……」

 

「アヴドゥルさん大丈夫⁉︎」

 

 蹴飛ばされポルナレフに受け止められた礼神は、アヴドゥルの元で膝をつく。

 女性が消えたと同時に刺さっていた槍も消え、空洞となった腹部の穴からは噴水の様に血が溢れる。

 

「しっかりしてアヴドゥルさん‼︎」

 

「れ……ゴホッ……ウ………オ……ッ‼︎」

(れ、礼神‼︎ 私の事は気にせず………ッ‼︎ 上だ礼神‼︎ 逃げろ‼︎)

 

 仰向けに倒れたアヴドゥルは、上から槍を向けて落下して来る女性を見た。このまま降ってくれば、礼神ごと自分は貫かれてしまうだろう。

 礼神だけでも助けようと声を荒げたいが、息が乱れて上手く声が出せない。ポルナレフも床に転がるアヴドゥルに視線を下ろしているので気付いていないだろう。

 

 アヴドゥルは、見る世界がスローモーションに見えた……走馬灯というやつだろう………その世界でアヴドゥルは、驚くべきものを見た。

 

「大丈夫。僕が守るから」

 

 落下を察知していたのか…それともたった今気付いたのか………もし後者だとすれば、あり得ない程の反射神経だろう。

 

「ッ!」

 

 槍の先端を下に向け、突き刺す勢いで落下して来る女性……それを礼神が見た瞬間、今度は礼神の手に槍が突如現れる。

 

「ッ……無刀取り?」

 

 女性が初めて声を出したが誰も聞こえなかっただろう。礼神は槍を奪い取り、そのまま身体を回転させてフルスイングする。

 振るわれた槍は女性の顔面を捉えると思われたが、また「プンッ」という音と共に女性が消える。

 

「………貴女、凄いじゃない。見くびってたわ」

 

 女性は少し離れた所に現れ、礼神に初めて話しかけて来た。

 その声は凛としており、少し冷たい雰囲気がある。

 

「イギー、アヴドゥルさんを端に運んで。そしてポルナレフはイギーと一緒に、アヴドゥルさんを守って休んでて」

 

「お、おい!礼神‼︎」

 

 3人の元を離れ、礼神は女性の元へ歩き出す。

 それを止めようと腕を掴もうとするポルナレフだが、その掌を礼神は容易く避ける。

 

「ッ⁉︎」

(き…気の所為………か? 今、礼神が一瞬だけ加速したような………)

 

「ポルナレフ、あんたは今ヴァニラに狙われてんだよ? この人とポルナレフが戦ってる最中にヴァニラ来たら、組んず解れつ戦況は最悪でしょ? 忠誠心に関する怒りを優先するヴァニラなら、「ポルナレフが居ない」&「DIO側の誰かと戦ってる」の状態があれば、僕を無視してポルナレフを追うと思うんだ。だから………」

 

「………ここは任せろってか?ケッ、ガキが意気がりやがって」

 

「まぁーたココでガキ扱いすんの? そのガキに助けられたアンポンタンはどこのどいつだよ!」

 

「わーった。わかったよ………任せて良いんだな?」

 

「うん。むしろ、僕の役立つ場面はまさにここじゃ無い?逆にヴァニラが来たら相手を任せたよ」

 

「おう。任された」

 

 そう言ってポルナレフは下がり、アヴドゥルの止血に神経を注ぐ。

 すると、そんな彼らの元へ女性が一瞬で移動する。その手にはいつ拾ったのか、弾き飛ばされた刀が握られていた。

 

 その刀がポルナレフの首目掛けて振り下ろされるその瞬間、横から亜音速で飛んで来た槍が、またもや刀を弾き飛ばす。

 

 飛ばした本人の礼神は、ビリヤードで球を打った瞬間の様に尾骨を両手で構えている。尾骨の先端に槍を添えて、サイズを元に戻したのだろう。

 

「僕の仲間に手を出すなよ。貴女の相手は僕だよ………()()()()()()

 

「!………私を知ってたのね」

 

「女性で、原作に出てなくて、DIO陣営……その情報からは貴女しか連想できなくて………幽波紋使いだったのは予想外ですけど」

 

 少し驚いた顔を浮かべ、アルシアは礼神に歩み寄る。その手にはまた、弾き飛ばされたはずの刀が握られていた。

 

 次の瞬間…またアルシアは姿を消して背後に回り、礼神の頭目掛けて刀を振り下ろす。が、礼神は尾骨を頭の上に掲げてそれを防いだ。

 

「へぇ、 強いのね……」

 

「レオンさんがいるからアレだけど、転生者で承太郎の幼馴染ポジションとか、この世界の主人公枠に入ってそうな存在が僕だよ?んで主人公はラストで急激にパワーアップするシステムなんだよ♪」

 

「………? その自論はよく分からないけど………只者じゃ無いのよね?」

 

 微妙に困った顔をしたアルシアは、刀を鞘に収め居合斬りの構えを取る。そんなアルシアに対し、礼神は無意識に中段の構えで尾骨を構える。

 

「パワーアップしてるのは確か……現に分かっちゃった!アルシアさんのスタンド能力………そして

 

 

 

ケルベロスの意外な力をね

 

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 初めはただの思い違いとか、余りにも焦ってたから見えた偶然だと思ってた。でも今は違うと……僕の力の1つだと断言できる。

 

 最初に体感したのは小さい頃にトラックに轢かれた時だ………その次はホル・ホースの銃弾からポルナレフを守った時で、その次はアヴドゥルさんがゲプ神に胸を掴まれた時。その次はアレッシーが承太郎に銃を撃った時。その次はさっきの、アルシアさんが槍持って落ちて来た時………

 

骸鎧(スカルメイル)

 

「そのスタンド……鎧にもなるのね」

 

 僕のスタンド、ケルベロスの能力は魂の剥ぎ取り。声で気絶させればスタンドと共に回収でき、死んで間も無ければ一応回収できる。

 

 そんな魂を剥ぎ取る僕のスタンドは()()()()

 

 そして魂には、活発になる瞬間が存在する。

 

 それは()()()()()()()だ。その魂の状態を恐らく、一般的には走馬灯と呼ぶ。

 生きる為に意識が暴走し、身体や世界を置き去りにして魂が思考する状態。

 

 走馬灯を体験すると人は多くの経験や思い出を振り返り、スローモーションに見える視界を隅々まで凝視する。そうやって生きる為の糸口を探すのだ。

 

 その間、人は水中を動くかの様に体感するので震え1つ起こさずゆっくりと正確に動ける。認識する動きはゆっくりだが、実際の速度は普段よりやや速い……それは同時に、火事場の馬鹿力なるものが働くからだ。

 

 この旅で仲間と共に死に掛けた僕のケルベロスは、魂を操り容易く()()()発動できる。

 

 簡単に言えば「数秒だけステータスが向上する」能力だ。

 

 一言にすれば地味だが、それが今までの旅で密かに活躍していた意外な力だ。

 

「凄い…貴女本当に凄いわ。生きて帰れたら父さんかレオンさんの元で修行すると良いわ」

 

「………じゃあアルシアさん、敵対するのを辞めてください」

 

「それは無理」

 

 一見地味なその能力は、瞬間移動を繰り返して刀を振るうアルシアさんと張り合うのに十分な力だった。

 

「そこッ‼︎」

 

「あら……また取られちゃったわね」

 

 ー プンッ ー

 

「………また取り返されちゃったな」

 

 ここまでの剣撃のやり取りで、何度か無刀取りで刀を奪ってみるがスグに奪い返されてしまう。恐らくそういう能力なのだろう。

 

 一旦距離を置いて息を整えようとすると、アルシアさんが僕の目の前に突如として現れる。

 

 ………やばい……死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………って思うたびに走馬灯が自動で発生するから便利だね。僕にとって走馬灯はこうやって活躍する。

 

 ー ギンッ‼︎ ー

 

 完全に不意を突かれたが対応できた僕は、心の中で謝りながらアルシアさんの腹部に切っ先を向ける。

 

「戻れ‼︎」

 

 ケルベロスの尾骨のサイズを戻す事で、亜音速を超える突きを放つ。すると僕の目の前にポルナレフが急に現れる。

 

「どわっ⁉︎」

「危ねッ‼︎」

 

 ポルナレフの顔面から切っ先をズラし、ポルナレフは逆の方向に顔を傾ける事で何とかヒットを避ける。

 

「仲間を盾にしないでよ‼︎」

 

「その願いを聞く理由はある?」

 

 そう言ってポルナレフを僕に向けて蹴飛ばし、ポルナレフごと僕に切り掛かる。

 

「ゴメン!」

 

「グヘァッ⁉︎」

 

 そのポルナレフを蹴って横に退け、アルシアさんの剣撃を受け止める。

 僕にポルナレフを抱き止める力なんてあるわけないでしょ………

 

「ポルナレフ‼︎ どっか遠くへ‼︎」

 

「………名前」

 

「……ん?」

 

 ここに居座るのは駄作と判断したのか、ポルナレフ達は大人しく目の届かない場所へ移動する。

 そしてアルシアさんの刀を受け止めたまま硬直状態でいると、彼女は短く口を開いた。

 

「貴女が死ぬ前に聞いても良いかしら」

 

「………葎崎(むくらざき) 礼神(れいか)

 

「…良い名前ね」

 

「ーーーッ⁉︎」

 

 一瞬だけ笑みを浮かべると、瞬間移動して僕の背後に回り刀を振り抜いて来る。それを尾骨で受ける。しかし同時に僕の鳩尾には美脚が突き刺さり、咳き込みながら後ろへ倒れ転がる。纏っていたスタンドのお陰でダメージはそこまで無い。

正面→背後→正面への移動に1秒もかからないとか反則。

 

「………貴女、一撃死や大ダメージの攻撃には敏感だけど、それ以外には疎いのね」

 

 確かに僕のこの能力は、致命傷を受ける寸前でないと自動で発動しない。

 僕が認識できない不意打ちの一撃必殺では発動するけど、不意打ちの様子見の一撃は防げないのだ。

 

「そう言うアルシアさんの能力は、テレポートだよね。自分が移動するか、範囲内の物を手元に移動させる能力。オマケに瞬間移動する事で、体勢を好きに変えれる……つまりモーションの手間を省き、1コンマ早く動ける」

(………それを捌ける僕って強くね?)

 

「さぁ………どうかしらね」

 

「え……あ、うん」

(心の声に返答したのかと思った………)

 

 瞬間移動せずに歩み寄って来るアルシアさん。

 その表情は影が差して見えず、虚な瞳だけが光っていた。静かに殺意を滾らせるその姿に、思わず恐怖心を抱いてしまう。

 

「礼神ちゃん………これから私は貴女を刀の鞘でボコボコにする。そうやって体力を少しずつ削って、動けなくなってから首を刎ねるわ………とても痛いし苦しいでしょうね」

 

「………」

 

 想像して鳥肌が立つ。

 骸鎧で防御出来ているのは胴体だけだし、骨の隙間を見極められてしまえば、その隙間を叩かれてしまうかもしれない。

 

「それが嫌なら………大人しく今、死んでちょうだい。大丈夫……居合斬りには自信あるの。そこまで苦しみはしないわ」

 

 鞘に刀を収めて腰を落とし、力強く刀を掴んでいる。

 楽に死ぬチャンスをくれた所悪いけど、死ぬつもりは毛頭無い。

 

 そんな心持ちで挑もうとしていると、僕の背後から何か鋭い反射物が飛んで来る。ポルナレフの奥の手?

 

 飛んで来たそれにアルシアさんも気付き、居合でそれを叩き斬るとソレは音を立てて割れる。飛んで来たのは注射器だった……

 

 中身の薬品は誰にもかからずに床を濡らす。

 

「………今度は誰かしら」

 

「………どうも。通りすがりのオジさんです…」

 

 神妙な面持ちをした伊月のオッさんが歩いて来る。その後ろには………ホル・ホースが歩いて来る。帽子無いから、一瞬誰だと思っちゃった。

 

「礼神ちゃん。悪いけど、オジさんと代わってくれる?」

 

「………いいけど」

 

「ホル君。君の新しいパートナーだよ。礼神ちゃん、彼を好きに使ってくれ」

 

「かって言うなよ旦那………まぁ、良いけどよ」

 

 舌打ちするホル・ホースの隣まで、僕はアルシアさんを警戒しながら退がる。

 だがそのアルシアさんはオッさんを不思議そうに見つめ、見つめられているオッさんはアルシアさんを鋭く睨みつけている。

 

「貴方が………伊月 竹刀?私に用があるとかDIO様は言ってたけど………何処かで会ったことある?」

 

「………………」

 

 オッさんは無言で構えるが、少し哀しそうな雰囲気を醸し出している。

 

「………無事に成仏しろよ……輝楽」

 

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