ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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61.白き炎と謝肉祭

「アレ……まだこんな所に居たの?」

 

「礼神!倒せたのか⁉︎」

 

「いんや。オッさんがバトンタッチしてくれた」

 

 あの後、僕はすぐにポルナレフ達を追いかけた。

 途中でホル・ホースが一言僕に謝って引き返したから、合流したのは僕だけ。

 ケルベロスの脚力のお陰でそう時間はかからなかった。

 

「アヴドゥルさん…普通に立ってるようだけど、大丈夫なの?」

 

「出血が止まらなくてな。少々手荒だが焼いて塞いだ………見ない方がいいぞ」

 

 傷の容体が気になった僕を察したのか、アヴドゥルさんは自らの服の裾を押さえる。きっとグロテスキーに仕上がっているんだろう。

 

「………………」

 

「礼神、何を探してんだ?」

 

「穴」

 

 周囲を入念に見渡すが、穴どころか戦闘の痕跡も無い。

 

「今は安全ポイね。イギー少し休んで、代わりにポルナレフが切っ先で砂を巻き上げて。今までの展開範囲が広過ぎて息が上がってる、体力温存だよ。それと攻撃手段としては相変わらずアヴドゥルさんの炎が頼りだけど、無理だけはしないでね」

 

「………礼神」

 

「ん?どうかした?」

 

 軽く指示を出してから僕は屈伸運動とかをしてストレッチを施す。するとアヴドゥルさんが重々しい表情で話しかけてくる。

 

「君は………少し甘過ぎるんじゃないか?」

 

「………え?」

 

「ヴァニラ・アイスの危険性は君から何度も聞かされた。だが伝えられたのは言葉だけ………実際に見てわかった。奴の異常性は想像以上だ。だから……」

 

「だから……何? バカな事は考えてないよね?」

 

 冷たく無表情で問う僕と目を合わせ、アヴドゥルさんは膝をつく。

 

「無理をせずに勝てるとは思えないんだ」

 

「………僕の努力は無駄だったって事?」

 

「そ、そんな事は言っていない。ただ……」

 

 

ー ガオンッ‼︎ ー

 

 僕らから少し離れた所の床が抉れる。

 傷1つ無く、下の階まで通じている綺麗な空洞だ。

 

「ポルナレフゥゥゥーーーーーーッ‼︎」

 

 天井付近を漂う様に浮遊する亜空間は、やがて収縮してその中心からスタンドが姿を現わす。

 そのスタンドの口の中からは、焦点の合わない瞳で僕らを睨み付けるヴァニラが顔を覗かせていた。

 

「ケッ、とうとう追い付きやがった!」

 

 会話を中断し、空中から見下ろすヴァニラに睨み返す。だが僕の事など気にも留めない………僕らを睨んでると思ったが、ポルナレフしか眼中に今はないようだ。

 

「来るぞッ!」

 

「……………」

 

 臨戦態勢に入ったアヴドゥルさんは魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)を出して炎を構える。

 

 ………変な気を起こさなければ良いけど。

 

「もう油断はしない……貴様らはこのヴァニラ・アイスが確実に仕留める………」

 

「ッ⁉︎」

 

「亜空間に頼ったが為に……タイミングを合わされ虚を突かれたのだ! 今度は逃さんぞッ‼︎」

 

 スタンドの口の中からズルリという効果音と共に、頭上から顔を覗かせるだけだったヴァニラが姿を現した。

 

 そして落下して着地すると共に、床にはヒビが入り僕らは地響きを感じる。

 亜空間の対策を僕らができていると判断し、その身体で挑んで来るって事⁉︎

 

「ケッ、今度は正々堂々と戦うつもりか?」

 

 ヴァニラはヒビ割れた床を蹴ってポルナレフに突進する……格好の的だと言わんばかりに、ポルナレフは銀の戦車(シルバーチャリオッツ)のレイピアを向けるが………

 

「ダメだ‼︎ 避けろポルナレフ‼︎」

 

 アヴドゥルさんの制止も聞かず、レイピアは見事ヴァニラの顔面を貫く。だがそれだけだった。

 

「グボァッ⁉︎」

 

「2度も言わせるな……これは処刑だ」

 

 鳩尾にヴァニラの剛腕が突き刺さる。銀の戦車(シルバーチャリオッツ)はヴァニラへの攻撃へ転じていたので防御に回れていない。

 ポルナレフは、また生身で重い一撃を受けてしまい後方へ吹き飛ぶ。

 

「俺は死なん……苦痛に意を介しているヒマもない。必ず貴様を始末する‼︎」

 

 邪悪に淀んだ瞳でポルナレフを睨み、ヴァニラは額に空いた穴を指でさする。

 

「ウォォーーー!魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)‼︎」

 

「貫いたのはポルナレフだが、その腕が剣に熱を与えた悪い腕かッ!」

 

 ムーンサルトの様に飛んで躱すがアヴドゥルさんの炎を避けきれない。だがモロに受けなかったからか、アヴドゥルさんに接近するヴァニラを止める事は出来なかった。

 

 飛来する炎を意にも返さず、ヴァニラのスタンド…クリームが魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)の腕を掴む。

 

「フンッ‼︎」ゴキリッ

 

「グオォォッ⁉︎」

 

 生々しい音と共に、魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)の右腕にクリームの手刀が振り下ろされる。

 そしてスタンドの持ち主であるアヴドゥルさんの腕も、あらぬ方向へと曲がる。

 

「ケルベロス‼︎」

 

「アギッ‼︎」

 

 2発目の手刀が振り下ろされた所で、骨の獣と砂の獣がヴァニラとクリームを突き飛ばす。

 

 壁に叩きつけられたヴァニラは重力に従って落ちると、何もなかったかの様に立ち上がり、手で首をさすってから傾げソコの骨を鳴らす。

 

 アヴドゥルさんの右腕は完全に折られ、殴り飛ばされたポルナレフもおそらく肋を何本か砕かれている。

 

「ポルナレフッ‼︎」

 

 先に殴られたポルナレフの元へ僕は駆け寄ってみると、ポルナレフは僕の手を振り払い追い払う様な素振りをする。

 

「礼神………逃げろ。そしてコイツの事をジョースターさん達に教えろ!アヴドゥルの言う通りテメェは甘過ぎた」

 

「何言ってんの!みんなで勝って帰んだよ‼︎」

 

「貴様らは、誰も逃さんッ‼︎」

 

 ヴァニラが僕の方へ突っ込んで来る。

 僕はポルナレフをなけなしのパワーで抱え、ケルベロスに背負わせて共に避ける。

 

 だが亜空間による攻撃と違い、ヴァニラは避けた僕らを執拗に追いかける。そしてそのヴァニラの前方…逃げる僕らの後方にクリームが現れ、ケルベロスの後ろ足を掴んだ。

 

 咄嗟に避けたが為に走り始めは遅い…そこで掴まれてしまったようだ。拘束される事を避ける為に、僕はケルベロスを消す。

 

「ポルナレフゥーーーッ‼︎」

 

「伏せ…デッ⁉︎」

 

「礼神ァーーーッ‼︎」

 

 ヴァニラの剛腕が、ポルナレフを庇った僕に直撃する。パンチのつもりだったんだろうが、間に入って距離が縮まった為ラリアットを受ける形になった。

 

 崩れた床の穴の手前で僕の身体は床に着いたが、勢い余ってそのまま転がり浮遊感に襲われた。

 

 穴に落ちてしまいこのまま落下死してしまう所で走馬灯が発動……咄嗟に穴の縁を掴んでぶら下がる形になる。

 

「うぅ……」

 

 右手の指先に力を込める。ラリアット食らって脳が揺れ、ふとした拍子に手を離してしまいそうだ。

 

「礼神!大丈夫か⁉︎」

 

「なんとか………」

 

「ガウバウッ!」

 

 右腕を抑えながらアヴドゥルが駆け寄ってきて、遅れてイギーもやって来る。更に………

 

「ウゲァッ‼︎」

 

「ポル…ナレフ……」

 

 蹴り飛ばされたのか殴り飛ばされたのか、ポルナレフも僕がしがみついてる穴の所までやって来る。

 

「ウグッ……礼神……無事か?」

 

「ポルナレフ……よりはマシ」

 

 左手を伸ばして穴の縁を掴み、僕は這い上がろうと力を込める。しかし腕力はそこまで無いので少し苦戦する。

 

「誰か……引き上げてくれない?」

 

「………………」

 

「………え?」

 

 申し訳なさげにそう言うと、神妙なツラしてポルナレフとアヴドゥルが顔を見合わせる。そして立ち上がり僕から背を向ける。

 

 ………え?見捨てられた?

 

「アヴドゥル……奴が今狙っているのは俺たちだよな」

 

「だな………なぁポルナレフ。

 

 

命を賭ける気はないか?

 

 

「………は?アヴドゥルさん……何言ってんの?」

 

「気が合うなアヴドゥル……丁度今、俺も似た事を考えてた」

 

「ちょ、ポルナレフまで何を……」

 

 本当に何を言ってるのこの2人は……何諦めちゃってんの?

 

「言っただろ礼神……君は甘過ぎる。優しいが故に、犠牲を払えずにいる。だが無駄死にするつもりは無い……勝つ為に命を使うのだ!」

 

「恨むなよ礼神……ボス戦前に消耗させちまうのは申し訳ないが、テメェは承太郎かレオンと合流しろ。コイツを倒す事が大切なんだッ!DIOを倒す事が大切なんだッ‼︎ みんな死んじまったらお終いだからな………イギー、礼神を頼むぜ」

 

「………アギッ」

 

(やめてよ……諦めないでよ………ぅ……もう指が………)

 

 やがて指先が痙攣し、少し粘ったが指が外れ転落してしまう。それに合わせてイギーも穴に飛び降りる。その最中、僕の視界に映ったのは遠退く2人の男性の背中……覇気のある背中だ………だがその背中は力がない………強いけど()()()()()()()()()()。諦めた背中だ……死ぬ気で挑む力強さだ。

 

「………ざけるな………」

 

 落下してるのが僕なので、目尻に現れた雫は頬を伝わず上へと風で持ち上げられる。

 

 「ふざけるなァァァア‼︎」

 

 僕の言葉が聞こえたのか、2人の肩は僅かに動いた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ふざけるな………ふざけるな…ふざけるな‼︎」

 

 イギーの砂のスタンド、愚者(ザ・フール)をクッションにして一階の廊下に降り立つ礼神とイギー………

 

 礼神は立ち上がって数秒呆然としてから、蹲って壊れた様に同じ事を呟き始めた。

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」

 

『れ、礼神、しっかりしやがれ‼︎ 男どもが腹括ったんだ! 俺たちは俺たちにできる事をしようぜ? な?』

 

 礼神の壊れ具合にイギーもタジタジで辺りを彷徨く。

 蹲る礼神を鼻先で突いたり、前足でテシテシと触れて礼神の気を引こうとする。それでも礼神は呟き続ける。

 

 暫くしてようやく落ち着いたのか、顔を上げて周囲を見渡す。

 

「戻らないと…………他の誰がどこに居るかなんてわからない。でもポルナレフ達はこの真上。すぐ戻ってやる」

 

『礼神ッ⁉︎ それじゃ状況は好転しねぇだろ⁉︎』

 

「……何、イギー。文句あるの? そうだよね……僕じゃ力不足だよね。ゴメン、でも僕の目的だから……僕は転生者だ。

 

 バタフライ効果があろうと僕は未来を知っている。ソレを変える最も強い力が僕にはある!それで助けられなかった時の罪の意識だってある‼︎

 

 みんなで帰るのが目標だったのに………でも、ポルナレフとアヴドゥルがその気なら仕方ないでしょ」

 

「キシャァァァーーーッ!」

 

 ゆらりと揺れる様に足を動かし、上へと続く階段を探し始める。すると影に潜んでいたのか、ゾンビが礼神目掛けて飛びかかってくる。

 2mを優に超える巨大な男のゾンビだ。

 

『不味いッ⁉︎ なんか死臭クセェと思ったらゾンビの匂いかよ‼︎ ヤベェ! 反応が遅れた‼︎』

 

「邪魔」

 

 ー ドゴォン‼︎ ー

 

 イギーの焦りなど つゆ知らず、礼神の一声と共に背後から半透明で赤黒い生物の腕が伸びる。その腕はゾンビの胴を捉え、そのまま壁に叩きつけ石壁ごと粉砕する。

 

『な、なんだこの腕……礼神のケルベロスか⁉︎ で、デケェ……片腕だけで2m以上はあるぞ‼︎ 』

 

 旅を始めた当初のケルベロスの全長は2m半である。全体像を見てはいないが、イギーは片腕の長さから、全長の巨大さを予想する。

 

「……また大きくなったね」

 

『まさか……まだ成長してんのか⁉︎』

 

 スタンドは持ち主の心構えや精神的成長で進化する。そして人間は、何かを拍子に階段状に段階を分けて成長する。ゲームで経験値が溜まり、一定数たまるとレベルが1つ上がる………それと同じ段階分けのシステムだ。

 礼神はヒーローでは無い。しかし今までの事から、彼女はピンチや絶望から大量の経験値を得るタイプなのかもしれない。

 

 彼女の感情の変化でケルベロスは大きく変化した。

 

 保護欲の塊だった礼神の感情は、形容し難い感情へと形を変わり、ケルベロスもまた異形な姿へと変わる。

 

 その進化に礼神も気付いているかもしれないが、それでも自分は実力不足だと感じる。

 

 ー キラン ー

 

『ん?……何だ。今 何かが光った様な………」

 

 礼神の変貌を眺めていたイギーは、ゾンビと共に崩れた壁の向こうを眺める。壁の向こうが何の部屋なのかはわからないが、そこの床に貴金属らしき物が光っていた。

 別にどうでもいい物だと思うのだが、イギーはそれから目を離せなかった。

 

 ー カタッ………カタ ー

 

『動いて………気味ワリィ………』

 

 そう思いながらも目を離せない。付近の照明の光を反射させていて、それ自体が何なのかはまだわからない。

 

「ひとまず上がらないと……その道中に承太郎やレオンさんと合流できるとは限らない………どうにかして僕が」

 

 ー カタカタ……カタ ー

 

『お、おい礼神……コレ………』

 

 言葉は通じないが、イギーは礼神に音を立てる貴金属の存在を知らせようとする。

 

「あの狂信者の魂を剥ぎ取れるかな……でも思いの形はどうであれ、強い信仰心……多分無理かも………」

 

 ー カタカタカタ ー

 

『れ、礼神?』

 

「僕に……もっと明確な力があれば………」

 

 ー カタカタカタカタ…ドキュンッ‼︎ ー

 

『なっ⁉︎』

 

「痛ッ……な、何これ⁉︎ なにか、登って来ているッ⁉︎」

 

 カタカタと音を立てるだけだったソレは、その音以外には何の前触れもなく、射出させたように飛び出して来た。

 それは礼神の背に突き刺さり、自ら礼神を求めるように血肉を掻き分けて脊髄を這い上がってくる。

 やがてソレは礼神の首から飛び出し、後頭部を掠めるように貫通した。

 

『礼神ッ‼︎』

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………礼神の奴…男がカッコつけてんのにそりゃねぇだろ」

 

「フフッ、全くだな」

 

 スタンドを出して構える2人の前方には、慎重に歩み寄るヴァニラ・アイスが居た。

 落ちていった礼神とイギーなど気にせず、現在怒りを覚えている2人(主にポルナレフ)を睨みつけている。

 

「巫女とクソ犬は貴様らの後で殺してやる」

 

「一か八か……コレに賭けるぞッ‼︎」

 

 アヴドゥルがそう意気込むが、そこからはヴァニラ・アイスの猛撃が続いた。

 亜空間を使い、体術を使い…時には飾ってある模造刀等を利用してくる。

 己の危険は最低限に……それであって、有効攻撃で無いにも関わらず様々なアクションを見せる。そうやって脳を使わせ、体力と共に精神力を削り取っていく。

 

 銀の戦車(シルバーチャリオッツ)魔導師の赤(マジシャンズ・レッド)の剣さばきと炎でそれを捌いているが、ヴァニラの狙い通り2人は確実に消耗していく。しかも亜空間による攻撃だけはやはり避けるしかない。

 

(反撃の余地を与えてしまう体術による攻めはもうしない……だが、一度は体術で攻めた。また来るかもしれないと、貴様らは集中を欠かせられないはず……)

 

 そう考えるヴァニラの思惑通り、唯一の反撃チャンスである体術を2人は待っていた。

 2人共「流石に反撃される恐れがあるから体術は無い」と頭では理解していたが、一度ソレで攻めてきたせいでその可能性を完全には捨てきれずにいた。

 

(チクショウッ! 刺し違えても勝利に導きたい………故に俺は浅い希望を待ち望んでやがる‼︎ 別の策を考えられねぇ‼︎)

 

 ポルナレフは肋が砕けており、アヴドゥルは右腕が折れている。避けるだけで体力はどんどん消耗していく。

 それによって意識はあっても、新たな戦術を思いつくような思考力は残されていない。油断すればどの道やられる状況だ。

 

 体力の疲弊に気付いたのか、ヴァニラはもう亜空間でしか攻めて来ない。

 

「ハァ…ハァ……ポルナレフ!まだ生きてるか⁉︎」

 

「ゼェ…ゼェ…オウッ!まだまだ余裕だぜ‼︎

 

 そんな強がりを口にするが、2人がジリ貧なのは目に見えている。新たな戦略は無い……あるのは時間稼ぎという目的だけ。

 そこに自分の安全などは考慮していない。同じ状況下の常人ならば、既に命はないだろう……体力、精神力が共に少ない2人が未だ生きてられるのは、仲間のためという僅かな信念のお陰だろう。

 

「……ガハッ……ハァ……ハハ…礼神には本当……ワリィ事しちまったな」

 

「ポルナレフ……お前はまだ生きたいか?」

 

「……テメェは死にてぇのか?」

 

「フッ、まさか」

 

 血反吐を吐くポルナレフの言葉に、アヴドゥルは鼻で笑い答えを返す。

 

 勝利の為に命を使うのであって、2人は死にたがりではない。悔いだってある……礼神の願いを聞けなかった事だ。

 ここまで旅をサポートしてくれたというのに、彼女の目的から目を背けたのが多少の罪悪感を覚えさせる。

 

「アヴドゥル…テメェの言う()()ってのは何だ? 秘策かなんかを期待したいんだが………もしかして何も無いのか?」

 

「いや、秘策は有る。命は保証できないがな……だからお前に死ぬ覚悟があるかを問いた。味方諸共…全てを焼き尽くす炎だ。礼神とイギーのいない今、隙さえあればいつでも放てる」

 

 折れた腕はダラリと下がっているが、アヴドゥルは疲弊しつつも力強く片腕を構えている。

 

「もう一度言うが、この炎は全てを焼き尽くす。無論お前もだポルナレフ…放ったら()()()()()()()()()()()()()。甲冑を持つ銀の戦車(シルバーチャリオッツ)なら、辛うじて耐えられるやもしれん」

 

「……わかった……俺が隙を作ってやる………上手くやれよッ‼︎」

 

「お前もなッ‼︎」

 

 縦横無尽に襲い掛かる亜空間を避け、アヴドゥルとポルナレフは互いに距離を取る。

 

(範囲は狭いが、イギーが居なくても砂は巻き上げられる‼︎ 見えるぜ、亜空間の軌跡がよぉ!そして今までの動きから先読みも容易いッ‼︎)

 

 肋に悲鳴を上げさせる事で、ポルナレフは素早く移動する。最低限の動きで今まで避けていた事もあり、先程とのスピードの差でヴァニラの虚を突くことができた。

 

 そして今回ヴァニラ・アイスは、警戒しながらも見渡しも良く接近し辛い高所で亜空間から顔を出している。

 毎度天井付近から周囲を見渡しているのをポルナレフは知っていた。

 

銀の戦車(シルバーチャリオッツ)‼︎」

 

 天井にレイピアを突き刺し、ヴァニラが亜空間から顔を出すより早くぶら下がる。少し場所はずれたが、この瞬間だけはポルナレフがヴァニラの頭上に陣取る事に成功した。

 

「……ムッ⁉︎」

 

「上だぜ、ヴァニラ・アイスッ‼︎」

 

 やがて顔を亜空間から覗かせたヴァニラは、ポルナレフが下にいない事にスグに気付く。

 

 それに合わせポルナレフは頭上から奇襲を仕掛ける。

 辛うじてヴァニラはそれに気付き亜空間へ逃れようとする。が………

 

「DIOを守る執念が有ると言っといて、肝心な所で逃げんのかテメェ‼︎ その様子じゃDIOへの忠誠心とやらも大した事ねぇなァ‼︎ あ⁉︎」

 

「何ッ⁉︎」

 

 その言葉にヴァニラは一瞬硬直する。

 

 ポルナレフは気付いていた。

 

 ヴァニラが亜空間による攻撃で手足を狙っていた事に……文字通りの必殺攻撃………ヴァニラは予告通り「一瞬で亜空間で飲み込んでは腹の虫が収まらない」のだ。更に何よりも大切な忠誠心を侮辱されれば黙ってはいられない。

 

 迷宮で放った灼熱のレイピアが脳組織の一部を焼いた事もあり、冷静さが欠けやすくなっていた。

 

 

ー プツンッ ー

 

 故にヴァニラ・アイスは、簡単にキレた。

 

「キサマなああんぞにィィィーーーッ‼︎ このヴァニラ・アイスはDIO様に信頼されている‼︎ よりによってその私にィィィーーーッ⁉︎」

 

 般若も可愛く見えるその鬼の形相に、銀の戦車(シルバーチャリオッツ)のレイピアが突き刺さる。しかし今更そんな事を機にするヴァニラではなく、クリームの剛腕が銀の戦車(シルバーチャリオッツ)のレイピアを持つ右腕と首を捉えた。

 

「ガッ……カッ………」

 

「もう逃さんッ‼︎ このまま四肢を捥ぎ‼︎ 首をへし折ってから暗黒空間にばら撒いてやる‼︎‼︎………ッ!」

 

「に……がさね…ぇ………」

 

 拘束されていなかった銀の戦車(シルバーチャリオッツ)の左手が、右腕を万力の様に締めるクリームの腕を掴む。

 

(ッ⁉︎ 体力も底を尽き欠けていると言うのにこの力………確かにDIO様の言った通りだ…ポルナレフは自分の生命危機や恐怖を克服した精神力を持っている)

「だが所詮はその程度‼︎ 貴様はこのヴァニラ・アイスの前では無力………これが狙いカッ⁉︎」

 

 背後からは跳んで来るアヴドゥルがスグそこまで迫っていた。炎はモロに食らう訳にはいかないと考えたヴァニラは、回避か迎撃を試みる。

 

「なッ⁉︎」

 

「離……さね………ぇ………」

 

 銀の戦車(シルバーチャリオッツ)の右腕を掴む左腕は、今尚銀の戦車(シルバーチャリオッツ)に掴まれ動かせなかった。止むを得ず首を掴んでいた手を離し、その手でポルナレフを殴り飛ばす。

 

「ーーッ⁉︎」

 

 必死に(りき)んで腕を掴んでいたポルナレフは、もはや吐く空気すら肺には残されておらず嗚咽する声すら出ない。

 

 だがその決死の努力が実り、アヴドゥルは炎を放つ事ができた。

 

「キサマァァァーーーッ⁉︎」

 

「食らわせてやろう‼︎ C(クロス)F(ファイア)H(ハリケーン)の新たなバリエーションをッ‼︎」

 

(シルバー…チャリオッ………ツ………)

 

 次の瞬間………接近したアヴドゥルとヴァニラ・アイスの間で、太陽を彷彿させる光源が放たれた。

 一瞬で部屋の温度は急上昇……瞼を閉じた所で、瞼の裏側が白く塗り潰される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グゥ………ガハッ⁉︎…ヒューッ! ヒューッ⁉︎」

 

 急上昇した温度は上昇時と同じ様に急低下する。ここがエジプトであるにも関わらず、狂った体感温度がアヴドゥルの全身に鳥肌を立てる。

 

 起きて見渡してみれば存在する者全てが、消し炭になるか爆風で消し飛ぶかの二択で何も無かった。

 無論、ヴァニラ・アイスの死体すら残っておらず、石でできた壁も溶解している。

 

「……何故………だ?」

 

 だがアヴドゥルは()()()()()()()()()()()

 酷い火傷を負っていたが、辺り一帯の景色と比べればかなりの軽症だ。

 

「入院し伊月と出会い放ったあの時……咄嗟に加減をしたにも関わらず私は全身を火傷した………それを全力でやったというのに何故………まさかッ⁉︎」

 

 アヴドゥルは身体に鞭を打ち辺りを見渡し、ある人物を探した。共に戦った戦友を………命を賭けたあの騎士を………

 

「ポルナレフ‼︎ 何処だ‼︎ ポルナレフゥーーーッ‼︎」

 

 折れた右腕に響く振動も無視して走る。するとそこで、アヴドゥルは奇妙な物を見つけた。

 

「ポルナレフッ‼︎」

 

 それは爆風の発生源から離れていたが為に辛うじて原型を留めていたソファー…そしてそこに横たわっていたポルナレフだった。

 

「ポルナレフ‼︎ おい、ポルナレフッ‼︎」

 

 ヴァニラに殴り飛ばされた直後の爆風で、勢いあまり扉を2つ潜った先のソファーまで吹き飛んでいたらしい。おかげで燃えなかったのか、服は多少焦げているが原型を留めている。しかし服の下はえらく酷い火傷痕がビッシリと広がっていた。

 

「ポルナレフ………大馬鹿者が…………やはりあの時ッ! 私と爆風の間をチャリオッツで遮ったなッ⁉︎ 自分の身を守れとあれ程言ったというのに………」

 

 握り拳を作り彼が俯くと、ポルナレフの焦げた服に涙がシミを作る。

 

「クソゥ……まさか、助けるつもりだったお前に助けられるなんて………」

 

『……俺に助けられちゃ不満か?』

 

「ハッ⁉︎」

 

 彼の声が聞こえ顔を上げる。

 しかしポルナレフは先程と同じ体勢で動かない。周囲を見回しても誰もいない。

 

「幻…聴……? やはり………ポルナレフは死ん………」

 

『死んでねぇよ! つうかアヴドゥル テメェ………やっぱり死ぬつもりだったな⁉︎』

 

「ッ‼︎ ポルナレフ‼︎」

 

 今度は聞き間違いではない。確かにポルナレフの声が聞こえた。

 よく見てみれば、死んだと思っていたポルナレフは僅かに右目の瞼を僅かに持ち上げている。

 

『驚かせたか…悪いな。話すどころか、瞼を持ち上げるのもやっとなんでな』

 

「幽波紋使い同士の会話か………ったく! お前という奴は‼︎ なんて無謀な事をしたんだ‼︎」

 

『仕方ねぇだろ。俺だけ生き残っても仕方がねぇし」

 

「………は?」

 

『俺って礼神にそこそこ嫌われててよ。俺1人が謝ったって許して貰えるわけがねぇ………だからテメェも一緒に頭下げてもらうぜ?」

 

「クッ…ククッ………ワッハッハッハ‼︎ わかった、共に生き残れたが怒ってるだろうしな! 一緒に謝ろう。日本式の最大級の謝罪方法を知ってるんだ」

 

『ジャパニーズ土下座ってやつか?』

 

 目尻に涙を浮かべながらも安堵の表情でアヴドゥルが笑い声を上げ、重症で動けないポルナレフも僅かに口角を釣り上げた。

 

 

 

ヴァニラ・アイス:死…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モハメド・アヴドゥルゥゥゥーーーッ‼︎」

 

 

『「ッ‼︎」』

 

「アヴドゥル……この火傷はお前の手柄ではない………巫女の手柄だ」

 

 殆どが消し炭になった部屋に現れた亜空間からヴァニラ・アイスが姿を現わす………遅れはしたが亜空間に逃げ生き延びたようだ。しかしかなりの重症で、身に付けていた衣類は蒸発し、長かった長髪が燃えて無くなるどころか、肉面が焼け爛れ白骨が外気に晒されていた。

 

「貴様の白い炎は巫女の入れ知恵だと知っている…ポルナレフも巫女が庇わなければ既に此処にはいない…あの決死の抵抗も……それが招いた手柄だ………しかし傷は負ったが私が死ぬにはまだ時間がある」

 

 足を進める度に拗ねや膝の肉が蒸れ崩れるが、意にも返さずに歩み寄ってくる。

 

「ヴァニラ・アイス……………クッ!」

 

『………行けアヴドゥル。おい、よせ……無茶はするな!共倒れだぞ⁉︎』

 

 折れた右腕を無理して酷使し、ポルナレフに肩を貸して逃げようとするアヴドゥル。だが逃げ切れる訳もなく、距離が着実に短くなっていく。

 

「ここまで来て……見捨てられるわけがなかろう」

 

『俺は置いて行け‼︎ 俺もテメェも、ロクにスタンドも使えねぇだろ‼︎』

 

「2人とも逃さん………まとめて暗黒空間にばら撒いてやる」

 

 ゆっくりとクリームの口の中へヴァニラ・アイスが吸い込まれるように消える。やがて亜空間が発生……2人の周りをグルグルと回り始めた。

 

『デタラメに…いや、コレは円の軌跡を描いて動いている⁉︎』

 

「その円は…我々を中心に次第に小さくなってきているぞッ‼︎」

 

『アヴドゥル!早く俺を置いて逃げろ‼︎ さもなくばいずれぶち当たっちまう‼︎』

 

「……いや………もう………」

 

 アヴドゥルは膝から崩れ落ち、両手で上半身を起こそうと這いつくばる姿勢でいる。アヴドゥルが崩れた事でポルナレフも地面に転がる。腹部の火傷痕に激痛が走るが、今はそれどころではない。

 

 2人とも限界に達したようだ。

 

 ー ガオン…ガオン…ガオン…ガオン ー

 

 蚊取り線香のようにグルグルと円を描き、亜空間は2人に少しずつ近付いてくる。

 

「………ここまで………か………」

 

『………………』

 

 2人の頭に最後に浮かんだ言葉は謝罪文………礼神へ向けてのメッセージだった。

 

「………もしそんなくだらない事を考えているなら、直接会って伝えたらどうだ?」

 

「グッ⁉︎」

 

「カハッ‼︎」

 

 突如として2人に誰かが攻撃の手を加える。そして片手で2人を持ち上げると、亜空間を避けるように円の外へ放り投げた。

 

 無事に円の外へ出れたものの、酷い仕打ちを受けた2人は現れた人物に目を向ける。

 

 

 

 

 

 現れ2人を投げたのは白髪の人外だった。

 

 

 

 

 

「れ、レオンさんッ⁉︎」

 

「無事で何よりだ。2人とも良くやってくれた。下がっていいぞ」

 

『レオン‼︎ んな事よりこっちに来い‼︎ そこにいたら…』

 

「削り取られるんだろう? こんな風に」

 

 

ー ガオン‼︎ ー

 

 レオンはW-Refを嵌めた左手を自ら亜空間に突っ込む。

 すると左手のスタンドを失った所為で、左肩から先が消滅する。館突入時から右腕を失ったままなので、レオンは既に両腕が無くなった。

 

「い……一体何を?」

 

「あぁ、さっき君達には波紋を流した。象牙色波紋疾走(アイボリーホワイトオーバードライブ)……滞在する波紋はかなり痛いが、それで波紋以外の苦痛は遮断している。上手く流せなかったからすぐ切れるかもな、痛み無く動けるうちに離れろ」

 

『聞いたのは俺らに何をしたかじゃねぇよ‼︎ なんで自ら』

 

「何故って………勝つためさ」ズズッ

 

 レオンの腰から青く黒い尾が生える。そして眼が黒一色に染まっていく。

 

「ハァ……ゼェ………き、貴様………は………」

 

 ここで亜空間からヴァニラが姿を現わす。

 いつの間にかそこにいたレオンを見てワナワナと身体を震わせる。

 

『……さて………始めるか。謝肉祭(カルナヴァル)

 

「レオン・ブランドォォォーーーッ‼︎ 実弟でありながらDIO様に歯向かうとは………貴様は、もっとも正さねばならん存在だッ‼︎」

 

  『……食ってみろ』

 

 ヴァニラがレオンを指差しそう言い切る前に、レオンは既にアンラベルに身体を受け渡していた。そのアンラベルはヴァニラを見ると、短くそう呟いた。

 

 そして……

 

 

ー バツン ー

 

 アンラベルはヴァニラの前から姿を消した。気がつくとヴァニラの背後に回り込み、背を向けている。

 

「貴様ッ………」

 

 ヴァニラが振り返り……そして気付く………

 レオンの口が、焦げた右腕に齧り付いている事に………

 そしてまた気付く………自分の右腕が無くなっている事に。

 

『………不味いな』

 

「なッ!わ、私を………食った………⁉︎」

 

『まるで消費期限すら過ぎた豚の肝臓を煮詰めたような味だ』

 

「クリームッ‼︎」

 

 ヴァニラはスタンドの左手を使いレオンの……アンラベルの肩を掴む。そして口を開けて直接、暗黒空間に飲み込もうとする。

 掴んだ肩はメキメキと音を立てる。それだけ強く掴んでいたが、アンラベルが尾をクリームの二の腕に打ち付けると簡単に外れる。

 

『我が痛がると思ったか………』

 

「ヌゥゥゥ……殺す…必ず仕留めてやる‼︎ ブチ殺してバラバラに暗黒空間にばら撒いてやるッ‼︎」

 

 ヴァニラは亜空間へ入ろうと、自身のスタンドの口内へ身体を滑り込ませる。

 しかし、口内に腰まで入った所でアンラベルの尾がヴァニラを捉える。一本の尾がしなる槍となり頭を貫き、無理やり外へ引き摺り出される。

 

『次は……我の番だ』

 

「ルゥ………ルエェオォォォンッ‼︎」

 

『主を飲み込む(喰おう)としたのだ。我に捕食され(喰われ)ても………仕方ないよな』

 

 9本の尾のうちの3つがヴァニラの右足、胸、左腕を貫き、残りが2人を包むようにグルグルと螺旋を巻く。

 やがて1つの青黒い繭のような球体ができる。中にはレオンとヴァニラ…そしてヴァニラのスタンド………クリームは繭の外へ隔離されてしまう。

 

「グアァァァーーーッ‼︎ ヤメッ……私はDIO様にィィィッ⁉︎ ディ……DIOザバァァァーーーッ‼︎」

 

 

ーグチュ ガリュ ブチッ グリュ ー

 

 生々しい音と共に悲鳴が繭の中から聞こえ、外で隔離されていたクリームは苦しみ出し、まるで消滅するように身体の部位を失っていく。

 

『れ…レオンの奴……ヴァニラを………』

 

「………喰っている」

 

 繭で閉ざされヴァニラが喰らわれる姿は見えないが、隔離されたクリームを見れば、どこをどう喰われているのかが分かってしまう。

 

「グァッ、メダ…マッ……返し……「バツン‼︎」

 

 一際大きな音を最後に悲鳴は途絶える。そして隔離されていたクリームは、バツンという音と共に首から上を失った。

 それから数十秒は咀嚼音だけが流れ、気が付けば何もなくなっていた。

 

 アヴドゥルとポルナレフの2人は途中から目を背け見ていなかった。

 

 やがて繭は解けるように9本の尾へと戻り、中からレオンだけが姿を現した。両腕は元どおりに生えており、目は赤く僅かに光っている。

 それから遅れて尾が引っ込み、レオンの肩から覗くようにアンラベルが姿を現した。

 

「…気持ちはわかるが、そんな目で私を見ないでくれないか?」

 

 

ヴァニラ・アイス:死亡

 

 

モハメド・アヴドゥル/

 J(ジャン)P(ピエール)・ポルナレフ

 :重症により再起不能(リタイア)

 

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