「ゲホッ‼︎ ゴホッ‼︎」
高速で移動するトラックの荷台……そこには日本をスタート地とした旅人達が乗っている。
そんな旅人達の中の唯一の少女……葎崎 礼神は、鉄でできた荷台の床に夥しい量の血液を吐き出した。
「ーーーッ⁉︎ 礼神ァ‼︎」
「葎崎テメェ‼︎ 何を無茶しやがった⁉︎」
何の前触れもなく吐き出された血液を気にする素振りも見せず、承太郎は学ランを彼女の血で汚しながらも、座った体勢のまま抱き抱える。
「ゲホッ……」
溢れる量は治まりつつあるが、それでも少量の血液が喉を通って口から排出されていた。
苦しそうに蹲り、承太郎の腕の中で身を丸め自身の胸を押さえている。
「葎崎‼︎ おい‼︎ 何をやったかは知らんが何でもいい! もう止めろ‼︎」
「ゴホッ……ダメ、まだ……守れて……な………」
血を流しながら掠れた声でそう答え、充血した目にはまた涙が溜まりそれに血が混じり頬を伝う。
「ジジイ‼︎」
「ま、待て‼︎ 何処をどう損傷したのかがわからん‼︎ 波紋を流せば済むわけではない……むしろ血流が良くなり出血を酷くしてしまう可能性もある‼︎」
骨折なら兎も角、出血を波紋で治療するには傷口を圧迫する必要がある。その傷口が体内にあるなら、出血を悪化しない程度の匙加減……波紋の精密な操作が必要とされる。
才能に恵まれ柱の男の1人を倒した事もある波紋戦士だが、老いて不要と感じ波紋の力は弱まり精密な操作もできない。
それをジョセフは激しく後悔した。
(承太郎の腕もまだ治ってはおらん‼︎ しかしこのままでは礼神が……ワシに2人同時に治療する力なぞ………)
「ジョセフの爺さん、あんたは承太郎の治療に専念しろ! 礼神ちゃんはオジさんがなんとかする」
運転席の窓を開け伊月が叫ぶと、前から5匹のミカドアゲハが飛んでくる。そしてその蝶達は礼神の口元付近を彷徨っている。
「伊月、何をしている⁉︎」
「治癒促進の鱗粉! 液体と違い効果も薄いし、いっぺんに量も出せない。承太郎! せめて
言われた通りに承太郎は礼神の呼吸をサポートする。
「コレで良いのか⁉︎」
「あぁ! だが期待はすんなよ⁉︎ オジさんだって7,8割死にかけてんだぜ⁉︎」
ー
ーー
ーーー
「死ねィ! 花京院ッ‼︎」
世界を支配するスタンド…
「………なんだと?」
その時だった……DIOが異変に気付き始めたのは。
彼は花京院の腹に風穴を開けるつもりで、
………だがその腕は貫通する事なく、何か硬いものに遮られてしまう。
そして時は動き出す。
「ウグッ⁉︎」
時が再始動すると同時に、花京院は身体をくの字に曲げて吹っ飛ぶ。そして貯水タンクに背中から叩きつけられ減り込む。
そんな彼の緑色の学ランは破れ、その下から人の物とは違う骨が見え隠れしていた。
その骨は学ランの下に隠れていたがシャツの上に存在する為、花京院の物では無い事がわかる。
「なるほど。命拾いしたか……だがたかが数秒の事‼︎」
荷台から飛び降りようとする花京院に礼神が抱きついた時……おそらくその時に彼女は、自身のスタンドであるケルベロスを彼に纏わせたのだろう。
タネがわかったDIOはそう言って追撃をしようとするが……
「フ……フフフッ………」
花京院の少しつり上がった口角を見て動きを止めた。
「……笑っている………のか?」
(ただの………呆れ笑いさ)
ー ドドドンッ‼︎ ー
「ッ⁉︎」
そのまま追撃していれば被弾したであろう場所にエメラルドが降り注いだ。
そしてそれも束の間……DIOは既にエメラルドスプラッシュの雨の中に居た。
(まさか、花京院貴様ッ‼︎ このDIOではなく、
時が止まる前……花京院は半径20mに張り巡らされた
だがそれは適当では無かった。
DIOに向けた弾幕こそがダミー! 自分に向けて射出していた物が本命だったのだ……そこへDIOが踏み込めば勿論……
「
背後にスタンドを出し、背中合わせになってDIOはエメラルドを捌く。しかし幾つかのエメラルドが、未だに残っていた
「ウゲェァ⁉︎」
捌き切れなかったエメラルドの弾幕が、ついにDIOの脇腹に複数被弾する。
それを食らったDIOは吹き飛ばされ、屋根の下へと落ちていった。
「……………」
(結局僕はどこまで行っても、葎崎さんの加護下にいたらしい)
朦朧とする意識の中で、花京院は新たにヒビを作ってしまったケルベロスを撫でる。
(………DIOの言う通りたかが数秒だ。ですが僕は信じています)
僅かに身体を動かそうとすると、それよりも早く貯水タンクが重みに耐えれず傾く。それが原因で減り込んでいた花京院は宙へ投げ出され、次第に地面が近付いてくる。
満身創痍の花京院は
しかしそれより早く動いた人物がいた。
「ヌゥゥェエエンッ‼︎」
小柄な男に抱きとめられた花京院は一瞬思考が停止した。
そして停止している間に、小柄な男は花京院を車へ詰め込み運転手に車を出すように指示した。
「よ、よろしいのですか? 見ず知らずの学生を……関わらない方がいいのでは………」
「わしの命令が聞けんのか! わしはウィルソン・フィリップス上院議員だぞーーーッ!」
誰だこのオッさん!
「ヌゥ〜………」
左側の脇腹に第一関節まで埋まる程の5つの穴………DIOはその穴の治癒速度を見て苛立ちを覚える。
「花京院………策士だな。抜け目のない餓鬼め…」
DIOは未だに身体が……ジョナサン・ジョースターから奪った身体が馴染んでいなかった。
故に左半身の回復が遅かった。
「しかし依然問題は無い。余命が数秒長引いただけの事に、未だ変わりはない‼︎」
花京院にトドメを刺そうと屋根の上を見上げると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「しまっーーーッ!」
「その数秒が起こした結果を見せてやろう」
背後に立っていたのはレオンだった。
W-Refを嵌め、DIOの肩を力強く握りしめている。
「ザ・ワール………クッ⁉︎」
「波紋疾走ッ‼︎」
「WRYYYYYY‼︎」
波紋を纏ったレオンの拳がDIOの顔面に迫る。
DIOはそれを片腕を盾にしてガードする。
「………チッ、遅かったか」
「……フゥ………チョイとばかしだが冷や汗を掻いたぞ」
ー ピキキッ ー
レオンの左手はDIOの右肩を掴み、右手は気化冷凍法を使ったDIOの左手に受け止められていた。
「フフフ……そんなにこのDIOが恋しいか? 最後まで待てんのか」
「あぁ待てんな。花京院が生み出した数秒を無駄にはできん。第一、100年待たされた此方の気持ちを考えた事は無いのか?
W-Refで触れられているDIOはスタンドを使えない。しかし波紋は気化冷凍法によって防いでいた。
対してレオンは凍らされた状態で右腕を掴まれ動けない。しかしW-Refによってスタンドを封ずる事に成功していた。
「無d「無駄ッ!」ダンッ!
蹴りを放とうとしたDIOの足を、W-Refを嵌めた足で踏みつける。
そうしてから左腕を離し攻撃を仕掛ける。
「昔のように行くと思うなよッ‼︎」
「なッ!」
凍らせていた手を離し、DIOは両手をフリーにして腕に組み付くとレオンを組み伏せた。
そして体重をかけてレオンの腕をへし折る。
そうやってDIOはW-Refから逃れ、壁を蹴り屋上へ向かう。
「ヒュゥッ……ディオの奴、私に合気道でやられた事を根に持っているな?」
その場にいた一般人の目もあるが一切気にせず、残留する体内の波紋を
「………既に花京院を逃したか………」
「丁度そこで知り合いに会ってな。途中まで送ってもらい、少し助けを借りた……残念だったな。ディオ」
「チッ、承太郎達もだいぶ離れてしまった。もう一度貴様を撒くのは、
「…ようやく相手をする気になったか。いい加減に私は、ディオとの兄弟喧嘩に一区切り付けたいのだが?」
「………だな。けりをつけようじゃないか……
「ハアァァァァア‼︎」
時を止めようとするDIOより先に、レオンは血流を加速させてステータスを向上させる。そして懐へ飛び込み手を伸ばす。
「フンッ懐かしい技だな」
そのレオンの手には触れず、DIOはレオンの手首を掴みまた組み伏せようとする。
しかしレオンはその腕を捻り、あり得ない方向へ曲げる事でDIOの腕に逆に組みつく。
「
「ッ!」
腕の関節を決められたDIOだが、その腕力で自身の頭上を越えさせて地面に叩きつけた。
咄嗟に受け身を取り離れたレオンは、壊れた腕を即座に回復させる。
「驚いたな。てっきり完治したと思ったが、あえて折ったままの腕で突っ込み柔軟に動くとは」
「こちらも驚かされたよ。腕挫十字固なんて言葉をよく知っていたな…勉強したのか?」
「このDIOが敗北を許したまま放置すると思うか? ……と、言いたいところだが、貴様相手にはそうも言っていられん。
世界から色は抜け落ち、DIOは独り言を呟きながらレオンに近付く。
レオンは寸前で止めようとしたのか、駆け出した体勢のまま動きを止めている。
「どうだレオンよ。どれだけの才能に恵まれようと、私がチョイと本気を出すだけでこの様だ………
そう言って自分の右腕を振り上げて手刀を落とす準備をする。
狙うは首……レオン程の生物となれば、頭を跳ねたところで死にはしない。
「暫く休んでいろ、レオンッ!」
ー ピクッ ー
「ーーーッ⁉︎」
咄嗟にDIOは距離を取る。
理由は一瞬レオンが動いた気がしたからだ。
無論……レオンは時を止める能力など持ってはいない。
………………なら何故?
(レオンのスタンドは
「……貴様の事だ、なんらかのトリックだろう……一体どんな小細工を使った?」
一度手を引いた手をゆっくりとまた近付ける。
ー ピクピクッ ー
「………フンッ、成る程 磁石か…差し詰め、腕に組み付いた時に付けたのだろう」
袖にいつの間にか付いていた磁石を外しレオンに投げると、服越しに磁石がレオンの身に付けているロケットに張り付く。
「わかりきっていた事だが、やはり動けんのだな……貴様なら動けないなら動けないなりに、磁石程度の小細工とは別の打開策を練ると………少し、期待したのだが………否、時間稼ぎが目的の貴様にとっては、バレる程度のトリックに思考を使わせる事自体が成功か………時間だ」
「……………ムッ、こんな所に磁石が……」
時が元に戻り、今気付いたかのようにレオンは服に付いた磁石を手に取る。
「フン! おめでとうレオン、まんまと騙されたよ。貴様のイカサマのトリックは見事、勝敗が決するまでの時間を数秒引き伸ばしたぞ」
「そうかバレたか。予定通りだ」
「……全ては思い通りだとでも思っているのか? 相変わらず貴様の言動は鼻に付く」
「ではもう時を止められぬよう、気を付けねばな」
「できるものかッ!
この距離でやろうものなら止められる事を察し、スタンドで牽制して隙を伺う。
それに対しレオンは構え方を変えて集中する。
レオンが脱力する事で集中する状態……主にゾーンと呼ばれるものだが、それで
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
(スピードを上げろ、力量は気にするな、W-Refが補ってくれる)
ゾーンの状態で血流を加速させ酸素の消費量を高め更に身体能力を上げる。それでもスピードは付いていけない。
………普通ならば。
「ーーーッ⁉︎」
「グッ‼︎…ガッ……3発に1発は貰ってしまうか」
レオンには2つの才能がある。
アンラベルの言う、観察力と試作力だ。
(私の青春はDIO、ジョジョとの青春……身体が変わろうと、DIOの癖や予備動作は僅かながら
最初に何発も貰ったが、残っている癖を見抜き1/3にまで被弾数を抑える。足りないスピードは、動きを最小限にする事で補う。
そして三回に一回食らう事は敢えて了承する……そうする事で次の一撃を確実に抑えていた。
………だがそれでも勝てるわけではない。
「無駄ァ‼︎」ゴッ‼︎
鈍い音と共に顎の骨が砕け、
(………また………勝てないのだな。だがそれで良い……削ったぞ、貴様のエネルギー!)
殴り抜かれ屋上から殴り飛ばされる最中、レオンは柱の男達との戦いを思い出す。そして思う。
結局私は勝てないのか………と、
また心配をかけてしまう………と、
罪は清算できないのか………と。
「クッ、手こずらせおって……時間稼ぎとしては最も厄介な存在よ……だがレオン、それも無駄に終わるのだ! 貴様が削った体力………貴様の血で癒させて貰うぞ‼︎」
スタンドに触れれば体力を奪うW-Ref……それと何発も拳を交わしたDIOは確かに消耗していた。
殴り飛ばされた先はビル街を少し離れた工事中の川沿いだった。空を遮る建物はまだ無く夜空がよく見える。
「アンラベルの暴走もある……匙加減を間違えぬようにしなくてはなぁ」
DIOが吹き飛んだレオンの元へ飛んできて爪を突き立てた………
脳震盪を起こし満身創痍のレオンに抵抗する気はなかった。十分に時間は稼いだ………もう承太郎も十分に回復したと思っていた。
更に今のレオンの血をDIOが吸えば、サンタナやワムウの片腕を吸収した時のように拒否反応が現れる可能性もある。
もう良いだろうと思った。
しかし………
「……ジョ…………ジョ?」
懐かしい気配を感じ瞼を持ち上げる。
するとそこには、腕に荊を巻き付けたDIOが動けずに静止していた。
「……な、………この後に及んで抵抗する気か、ジョジョォ‼︎」
荊のスタンドといえばジョセフだが、DIOの腕に絡まる荊の先にはガードレールしかない。そのガードレールに絡みつきDIOを荊は拘束するが、DIOの腕力はソレごと引き抜いてしまいそうだ。
「………諦めるのは………らしくないか?」
「チィ……」
フラつきながらも立ち上がるレオンを見て、DIOは何度目かの舌打ちをする。
「お前を前に諦めるのは、このレオン・ジョースターが取るべき行動ではない。貴様の体力を削り此方が既に、圧倒的に有利だったとしてもだ!」
「小癪な………これ以上貴様に時間をかける事はできん‼︎
止まった時の中でDIOは、道脇に止めてあった大型車を持ち上げるて跳躍する。
DIOはそのままレオンに大型車を振り下ろすつもりなのだろう。跳躍して高さをつけ、重力に従い落下してくる。
一度轟いた轟音と共に、アスファルトには巨大なヒビが入る。
レオンならば生きているだろうが、流石にリタイアだろう。
「反比例のアンラベル……主の回復を優先するスタンドならば、速やかに場を離れれば問題ない」
(全てが片付いた時に迎えにきてやるか……その時ならこの街の人口が自ら食したせいで減ってしまえば、良心を痛めこのDIOに対する戦意も消えておるだろう)
止まった時の中…DIOはレオンに背を向けて歩き出した。
そして時が再始動するその瞬間に、DIOは背後からおもむろに殴られた。
『………フンッ』
「グッ……ァァ………」
アスファルトの上を軽くバウンドし、空中で体勢を立て直してから地に足をつけ踏みとどまる。
「………ジョースター家の血統というのは我が運命という路上に転がる犬のクソのように邪魔なもんだったが………」
「………これに関しては私も驚きだ」
「貴様に関してはソレをも上回る。しつこ過ぎるんじゃあないか………レオンッ‼︎」
「………ふむ、流石に怒るか。しつこ過ぎるか。確かにそうだな。私もそう思う」
コートを翻し、手で汚れを叩く動作をしてからレオンはDIOと向き直る。
「貴様………
「フフッ……
余裕ぶった様子でそう言うレオンを前に、歯を食いしばりDIOは懐から大量のナイフを取り出す。
「
これで何度目になるだろうか。
世界はまた動くのをやめ、DIOはナイフを投げつけようとする。
するとそれよりも早く着物を着た妖のスタンドが攻撃を仕掛けてくる。
『主を守るのが我の役目だ』
「アンラベル……だと?」
アンラベルはDIOを射程範囲に入れたところで動きを止める。
「……フ……フフフ……フハハハハハ‼︎ なんだレオン⁉︎ 動けるのはそんな短い時間なのか⁉︎」
『否、力を溜めていただけだ』
次の瞬間、9本の尾がDIOに伸びる。その咄嗟の攻撃に反応し、
『貧弱、貧弱………』
「馬鹿なっ⁉︎」
そして
「WRYYYYYYYYY⁉︎」
後方へまた吹き飛ぶDIOと、それを追うアンラベル………
「ま、不味い‼︎ このパワー……やられる‼︎」
その時、世界は時の流れを取り戻した。それと同時にアンラベルは姿を消した。
「ハァ………ハァ………?」
「どうやら私も、
「………………」
レオンの言葉を聞いて少し考える。
「………レオン。貴様………まさかッ⁉︎」
「………………なんだ、気付いたか? そうだ。時を止めれるのも、動けるのも真っ赤な嘘だ」
そもそもアンラベルは反比例のスタンド。レオンがダメージを受けなければ、スタンド体で攻撃する事はできない。
DIOは先ほど言った。
『ついさっきだと⁉︎ 馬鹿な……そう安安と入れる世界ではない………しかしレオンがロードローラーを止まった世界で回避したのは事実。無力であるなら回避はできん……ならばレオン! 貴様は何秒動ける⁉︎ 動けるのはほんの一瞬から数秒なんじゃないか? 試してやろう‼︎』
………と。
「アンラベルは………」
無力であるなら回避はできん
「反比例の………スタンド………」
「そして止まった時の中での貴様は………」
「貴様はこのDIOの………
『如何にも……止まった時の中でなら、我の覚醒率は100%だ』