…アイツはどちらを見ただろうか。君はどう思う?
「さぁ…どちらでも無いかもしれないよ?………でも」
でも?
「これからは星を見るんじゃないかな?」
吹き抜けの良くなった廃墟の奥で、DIOは玉座に腰をかけていた。
肘を立てた片腕で頭を支え頬杖をつき、組んだ足が何かを待つように僅かに揺れている。
(……あぁ……やはり恐怖しているのか)
男は金髪をなびかせ、張り付いた嘘の笑みを薄く浮かべている。
不規則に揺れていた片足はやがて止まり、彼の目線の先に日本の男子学生が姿を現わす。
身を焦がす程の闘気を感じ、DIOは自身の肌が焼かれているのではないかと錯覚する。
(………これが………死……か……)
玉座から腰を上げ、形だけは優雅に……そして妖艶に仁王立ちをきめ、腕を組み見下す様に視線を投げかけた。
「ようやく来たか……承太郎…」
「DIO………レオンをどうした?」
「さぁな………」
そう言って怒りを煽る。
死ぬ間際を見せつけられたわけでもあるまいし、承太郎が怒り狂う事はない。しかし多少は癇に障ったのか、歯を食いしばりスタンドを出して臨戦態勢にはいった。
「来い、承太郎………最終ラウンドだ‼︎」
「野郎ォ………‼︎」
(……やはり…今更、我儘を言う事は許されん。ならば……このまま悪党として葬られるのが、せめてもの礼儀というもの………)
DIOも承太郎のように
その表情は何処と無く、レオンの自嘲気味な笑みに似ていた。
ー
ーー
ーーー
「………ハァ…」
結局……勝てなかったな。
深い闇の中………ロクに動かそうとしない思考に擬音を与えるなら、まさに「ボー」というのがピッタリだろう。
ディオに氷漬けにされ彼がその場を離れた後、私はそう時間をかけずに意識を手放した。
身体が芯まで冷えた私は満身創痍ということもあり、強烈な睡魔に似たものに襲われ限界に達したようだ。
そして凍り、麻痺していたはずの神経が心地良い風の流れを感じる。
誰かが私を解凍したのかと思い目を開けるが、そこは今さっきまでディオと戦っていた場所では無い。
そこは冷たい夜風が流れるコロシアムのような場所だった。
中央には大きな穴が空いており、中から轟々と炎の柱が天に伸びている。その穴を中心に広がる円型のスペース……何処かで見た事のある場所だが………?
「………まぁ三途の川ではないのだ。ここは精神世界で、風景は記憶の片鱗のナニカだろう」
『うむ。ここはかつて、ジョセフ・ジョースターの正念場を見せた場……「骸骨の踵石」とも呼ばれる名所だ』
あぁ……ここはワムウとジョセフが戦車戦を行った場所か。思い出した。
「………ん? アンラベル、何処にいる?」
『我はココだ』ドドドドッ
疑問を浮かべた私の目の前を、吸血馬が引く戦車が猛スピードで横切る。見間違えでなければ、戦車には浴衣を身に纏った狐妖怪風のスタンドが乗っていた気が………
相変わらず顔は塗り潰されたように黒く、表情は影に埋もれて見えない。
「……現実は今、どうなってる?」
『変化無し………DIOが姿を消したままだ」
「お前は何をしようとしている?」
『現実にて主の解凍を試みている。主の現体温は
「無理矢理起こす事は可能か?」
『可能だ………が、推奨はしない。また無理をするのだろう』
「いいから起こせ。お前が反比例覚醒してないという事は、覚醒する程に私の肉体のダメージは深刻ではないのだろう。だったら私が目覚めた方が早い」
『………』
「………冷たッ!」
目を覚ますや否や、皮膚が凍り付いた事実を神経に訴えかけてくる。
「私は……どれくらいの時間を眠っていた?」
相変わらず夜空には星が見え、身体の解凍具合からして時間はあまり経っていない。
「辺りに人はいない………か」
私は全身に力を込めて起き上がろうと奮闘する。
すると「バキッ!」という音と共に上半身を起こす事に成功。
その要領で立ち上がり、動かせる筋肉のみで振動熱を生み出し少しずつ解凍を始める。
ただ完全に凍り付いた部位にはヒビが入ってしまい、多少苦しい。
半分程解凍が終わったあたりで、懐から振動音が聞こえてくる。発信源に手を伸ばし取り出せば、画面の明るい携帯機器が着信を伝えていた。
『レオン!』
「ん、ジョセフか」
通話を始めてみれば、相手は真っ先に私の名を呼んだ。聞き慣れた少し老いた声だった。
『………声からして比較的、無事のようじゃな?』
「あぁ……そっちは?」
「礼神、ポルナレフ、アヴドゥル、伊月は限界じゃ………承太郎は治るや否や飛んで行ったわい。そっちにいないか?」
「見てないな。既にDIOと何処かで接触しているのかもな………ジョセフ、お前達は限界だろう。そのまま財団の経営する病院に駆け込んでくれ。それと"ウィル"という男に花京院の保護を任せ、携帯機器を1つ預かってもらっている。そっちで連絡して適当に合流してくれ。花京院もGPSの見方はわかるはずだ」
『わかった………レオン。お前さんはどうするんじゃ?』
一度口を紡いで立ち上がり、DIOが歩き去った方向へ目を向ける。
「………結末を見届けてくる」
短く答えるとジョセフは呆れたような溜め息をつき、何も言わずに通話は切られた。
「………さて」
解凍したての冷たい手で、コンクリートの大地を撫でる。
「………こっちか」
スタンドエネルギーの
この地の上を幽波紋使いの誰かが歩いたようだ………もっとも、誰かと言っても答えはアイツ1人しかいないが。
数カ所で戦闘の痕跡があるが警察などの動きはまだない。だがいずれは動き事件になるだろう。
もしもの時は適当な嘘を並べないといけないな。
そんな事を考えて歩いていたが、目的地を前にし足を止める。
「………………」
ディオは私との戦闘後に、自らの根城へと帰ったようだ。
まだ半日も経っていないにも関わらず、館は半壊していて建物として残ってはいない。
住民の声により撤去作業がすぐにでも始まってしまいそうだ。
「ん………あれは」
半壊した館の塔の更に上空……そこには飛ぶように動き回り、時折交差する2つの影があった。
「ディオ……それに承太郎………」
2人はその場では収まらず、上空での空中戦を繰り広げていた。
………文字通り2人は"空を飛んでいた"。
空中での近距離パワー型による殴り合いは互角のようにも見えるが、僅かに承太郎が押している。
そして2人が時を止められる時間は、今となってはほぼ同時間なのだろう……つまり先に止めた方が先に動けなくなる。
それを危惧してか2人とも時を止めたりはしない。
そんな能力無しのステータスによる勝負は、そう長くかからずに決着がつきそうだ。
ー
ーー
ーーー
不相応な程に満天の星空の下。
そこで交差する2人の拳は互いの命を削りあっている。
1人の男は闘志を剥き出しに、己の宿命に終止符を打つべく拳を振り下ろした。
もう1人の男はそれを力で跳ね除けようとするが、完全にパワー負けしており、拳が胸を貫く。
同等のパワーを持っていながらここまで差があるのは明確な意思の欠如だった。
不老不死の吸血鬼とて、戦う意思無くして強者として立ちはだかれるわけがない。
そのままDIOは大地へ背中から落下した。
「グゥッ!……ハァ……ハァ………」
DIOは精々、「最後くらい花を持たせてやろう」程度に考えていた。
しかし彼は、何かを忘れている気がして集中力まで欠けてしまっている。
満身創痍……後は承太郎に向けて「殺せ……」と言葉を吐き、潔く目を瞑るだけだった。
「…ディオ………」
そんな吸血鬼の耳に届いたのは、小さく……そして、とうの昔に聞き慣れた心地良い声だった。
(レオン………)
いつからいたのか、崩壊した館の外にレオンの姿を見つける。
「レ……オン………」
(そうだ。まだ伝えていない。言わねば………伝えねば……)
殴り落とされたDIOは立ち上がり、ふらつく足に鞭を打ち歩み寄る。
その歩み寄る先にいるレオンはそれを見て微動だにしない。
「そいつから離れろ!レオンッ‼︎」
レオンの身の危険を案じ、承太郎は空を蹴って下降……そんな彼の
「……レオ………グッ………」
「
DIOがレオンの元へたどり着くより早く、
………が、それはレオンの手により止められる。
「ッ⁉︎」
「承太郎…もういい」
承太郎はDIOの異変に気付いてはいたが、戦闘中や宿敵だという事もあり深くは考えていなかった。故に一瞬脳がフリーズする。
それに対しレオンは拳を防いだW-Refの嵌めた左手を引っ込め、反対の手は腕にDIOの脇腹を通して身体を支えていた。
まるで割れ物を扱うように…それでいて戦友を抱きしめるように腕を回していた。
その表情には薄く笑みが浮かんでいる。
そしてディオも承太郎の最後の攻撃によって心臓を失ったが、その表情は安らいだものとしか言えなかった。
「………レオン…」
「…なんだ」
「………………………」
「………………吐くセリフも考えてなかったのか?フンッ……ディオも衝動的に動く事があったんだな」
友と話すようにレオンは鼻で笑うが、DIOは正面からレオンの肩に顎を乗せてもたれているため見えない。
「………………」
「………レオン」
「………なんだ……」
「………………………疲れた」
「………だろうな」
「悪いが………レオン…………お前の手で…眠らせてくれないか?」
心臓を失い、吸血鬼の身体は生きようともがく。
だが筋肉が代わりにポンプのように血を巡らせようと、胸に空いたデカイ穴から全て排出されてしまう。
結果血液だけが流れ出て、元々冷たい身体が更に冷たくなっていく。
何もしなくとも死ぬ………誰かの血を摂取すればまだしも、このままでは吸血鬼でありながら失血死するだろう。
そもそも今のディオは、血を差し出したところで拒む気がした。
レオンはそう感じたし、それは当たりだった。
「………ディオを悪党にしないためとはいえ、お前の願いを聞いた事は無かったな………わかった。最後くらいは聞いてやる」
左手でDIOの頭を抱きしめ、掌から微量な波紋を内側へ流し始める。レオンは身体を極力気化しないように注意を払った。
「………レオン」
「なんだ?」
「……………何に対してだ?」
そう聞くが返事は無い。
「………また衝動的に言ったのか?」
返事は無い。
「………なんとか言ったらどうだ?」
返事は無い。
「言い逃げか」
返事は無い。
「どうせ意識あっても答えないんだろ?」
返事は無い。
「まったくずるいな…」
返事は無い。
「………………………」
………………………
「………おやすみ。ディオ」
………………返事は無い。
「………レオン……帰るぜ」
「……あぁ」
かけがえのない人の"なれそこない"と出会った
今となっては彼の存在が
生きる上で必要な存在かはわからない
しかしそれは大きく大切なナニカだった
それをその場で彼は失った
ー
ーー
ーーー
ーーーー
ーーーーー
ーーーーーー
「……………変な夢を見た気がする」
ふと目覚めた僕の最初のセリフはそれだった。
誰かと会話していた気がするけど、内容と相手がうろ覚えだ。
「礼神。起こしてしまったか」
そして目覚めると、レオンさんがうつ伏せの僕の背中を抑えていた事に気付く。
何してんの?………と、普通思うだろうけど波紋を流して治療してくれているのがわかる。もう慣れたよ、流石にね。
「………ここは? あの後どうなったの?」
「その前に腹が減ってるんじゃないか? 時間的に夜食に近いが、適当に食べておけ」
そう言われて時計を見ると、短針は11と12の間を指していた。外は暗く、真夜中だ。
僕はレオンさんが投げてよこす菓子パンをキャッチする。
「まずは皆の安否から。結果から言えば全員生存している。伊月とホル・ホースを含めてな………そしてディオは死んだ。旅は無事に終了だ」
「そっか………ん? 外が騒がしくない?」
「マスコミだ。ウィル………私の知り合いと隠蔽工作をして、世間ではテロ事件として扱ってもらっている。私達の事は"素顔を明かさぬ正義の秘密結社"とでも扱われるかもしれないな」
「あー。館は半壊、大量のゾンビの死体、街をかける吸血鬼………そりゃニュースになるか」
「………そういえば礼神。承太郎とディオが空を飛ぶなんて予言は聞いてないぞ?」
「えっ!飛んだのッ⁉︎ クッソ〜〜〜気絶して見逃した‼︎ ってか本当に飛んだんだ………漫画やアニメの演出だと思ってた」
「そうか……そういう認識だったから言わなかったのか」
「だって空飛んだ事、漫画の中では誰もそれについては全く触れなかったんだよ?」
そう話していると、ココでノックの音が飛び込んできた。
「鍵は開いてる」
首だけ向けてレオンさんが答えると、扉はゆっくりと開かれた。
「ふぃー…やっと帰りましたよ。あのマスコミ達」
入ってきたのは小柄な男性。
身なりは良く、失礼な言い方だけどお金持ってそうな人だ。
「お疲れ様だ、ウィル」
「いえいえ、私は昔の恩をこうやって返してるだけですよ」
温和な笑顔を向けてくれる男性と目が合い軽く会釈をする。この人がウィルさん?
「そう、彼がウィルだ。ウィルソン・フィリップス……今は上院議員をしていて、昔プロレスをしていた時に知り合った。それと、彼は私の正体も知っている数少ない友人だ」
………あぁ‼︎ あの上院議員さん⁉︎ この世界では生きてるんだね!
原作ではジョセフさんと花京院目掛けてDIOに投げられてたけど………
「そうだ!みんなは無事なの⁉︎」
2人の話の腰を折る形になってしまったが、堪らず僕は質問した。さっき全員無事だと聞いたけど、良くて重症な人もいるはず。
ポルナレフとか全身バキバキでアヴドゥルさんも花京院も………それに………
………アレ?僕は?
「………気付いたか礼神。君はもう完治しているよ」
ベッドから降りて身体を捻ってみる。
オカシイ………こんな早く治るわけ………あるか。
どうせレオンさんのスペシャルコースでしょうね。お世話になります。
………ん? ってことは他人の骨の接合までできんの? どこまで有能なんだよこの人。
「外傷は骨折だけだったが、精神的疲労が凄まじかったのだろう………目覚めたのは君が最後だ。皆に目覚めた事を伝えるのは明日にしようか」
「………といっても起きたばかりで寝れない」
「それもそうか…実は私もあまり眠くない。散歩は出来そうにないし、少し屋上に出るつもりだが来るか?」
「うん」
「………そういえば今日っていつ?」
「館に突入した翌日だ」
僕はどうも24時間近く寝ていたようだ。
そしてどうやらここは、SPW財団の保有している病院の1つらしい。
他の患者がいて貸し切り状態にこそできなかったが一角を封鎖して、僕とレオンさん以外はみんな同じ病室にいるようだ。怪我が比較的少ない人は怪我人の様子を見るついでに、ホテル感覚でその病室に泊まっているのだろう。
「ついた。雲ひとつない夜空だ」
「おぉー。月が綺麗だね」
大きな病院の屋上という事もあり夜空を遮るものは何も無い。そこでレオンさんは腰を下ろし、首だけ動かして天を見上げる。
「……ねぇレオンさん。ホテルのレストランでの話し合い、覚えてる?」
「ん?いつの話だ?」
「ラバーソウル保護して、レオンさんが秘密を打ち明けた時の……」
「多数決の話し合いの事か?」
「うん………僕はあの時、本当は みんなで帰りたかった………というか、DIOと敵対するのを止める案を出したかった」
「………」
「僕の能力と、DIOにその気があれば全てが丸く収められると思って………やっぱり僕って甘い?」
「………甘いな。だが私も人の事は言えない………私の甘い考えが今を作ったのだからな………」
日が沈めば冷え込む外気に包まれ、レオンさんの隣に座ると自分のコートを掛けてくれた。
「礼神。人が死んだら星になるって説もあるが、あのどれかがDIOだったりするのか?」
「かもね。だとしたらどれだろう」
ただ見上げていただけのレオンさんの瞳は、目的を持って視線を彷徨わせる。
そこでさっき見た夢の事を少し思い出す。
「…二人の囚人が同じ鉄格子の窓から外を眺めたとさ………1人は泥を………1人は星を…………」
「……聞いたことがある言葉だな」
「レオンさんはどっち? やっぱり星を見る?」
「そうだな…悩んだ時だったり寝付けない夜は良く星を見るが、誰かと共に狭い鉄格子から眺めるとしたら、眺める気すら起きないだろうな。
だが、これだけ綺麗だと……もしかしたらこの先、空を見上げる機会が増えそうだ」
「そっか…旅の目的は果たしたけど、これからどうするの?」
「まずはアルシアをシーザー達の元へ届けないとな。それからジョジョとディオの墓も作ってやりたい……が、隠蔽やら何やらで明日からも大変だ。ディオは面倒ごとと罪ばかり生み出すダメな兄だったよ、まったく」
「…でも最後は…DIOも最後は星を見たと思うよ」
「そうか…ん、礼神。くすぐったいぞ」
首筋の痣にそっと触れると、レオンさんはピクリと動いた。