ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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証呂
「ふぅー、女子高生のキャラも固まったし導入しますよ!」

レオン
「例のスタンド使いか………能力は?」

証呂
「それは次回かな」

それでは76話、グダグダっとどうぞ!


76.あの時に取り残された者

 それは吹雪の酷い日の夜の事だった。

 

「ダメだわ………近くの電話で救急車か誰か呼ばなくっちゃ…」

 

「じょうすけ!大丈夫だから……頑張れ………

うちも頑張る……から………!」

 

「貴女も病人よ!大人しくしてて………まさか夫婦揃って旅行中に、この子まで酷い風邪になるなんて…仗助の風邪が感染って何かあったらどのツラ下げれば………いや、今はそれどころじゃないわね」

 

 母親と思われる女性は雪道で車を走らせたがタイヤを取られ、冷静さを保とうとするが慌てていた。

 

 そんな車内の後部座席では、少女が隣で意識を朦朧とさせる少年を必死に元気付けていた。

 自分が同じ症状を患っているにも関わらず……本当はこの場にいる誰よりも絶望と恐怖を抱いているというのに。

 

 幼い頭でこのまま死んでしまうんじゃないか…初めてできた友達とも会えなくなってしまうんじゃないか、と嫌な想像をする。

 

 だが一番の恐怖は、このまま両親に会えないのでは? という可能性だった。

 

(お父さん…お母さん………………怖いよ)

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 ……俺はガキの頃から父親がいない事に対する疑問を口にしなかった。当時から居ないのが当たり前だったし、爺ちゃんがその代わりのように接してくれていた。

 

 いなくて清々するってわけじゃないが、俺はそれで納得している。なのに遺産の話を持ってこられてもなぁ〜。

 

(オマケに………)ピラッ

 

 下校中だが、俺はついさっき貰った数枚の写真に目を向ける。

 

「ったくよぉ〜。名前くらいは教えてくれても良かったんじゃねぇかな〜」

 

「仗助くん。それって………」

 

 俺の右隣を歩く低身長の学生…こいつと出会ったのもついさっきで、よく知らないんだが………

 

「ヒロセ コウイチ…だったか? 康一って呼ばせてもらうぜ。今更だが、俺の名前は東方 仗助。

よろしくな」

 

「う、うん。よろしく…それでそれって、さっき貰った写真だよね?」

 

 俺の持つ写真を指差し、康一がそう尋ねる。

 

「あぁ。お前はどう思う?」

 

「どう思うって……正直僕には、何が何だかわからないよ。危険な奴だってのはわかったから近づくつもりはないけどさ、警察も頼れないっていったいどういう事さ…」

 

「ま、そりゃそうだよな」

 

 俺がガキの頃に高熱にうなされた時期から少し経った頃…俺にだけ見える人型の何かが見え始めた。それをあの2人はスタンドっつってたな。

 

 そのスタンドの事を知らなきゃ、康一の反応はいたって普通だろう。

 

「いきなりきたと思ったらわけわかんない話2つも持ってこられて………こりゃグレートにヘビーだぜ……」

 

「なぁーに溜め息ついてんだよ」ペシッ

 

 突如として左から声が聞こえ、後頭部を軽く叩かれる。

 この自慢の頭を貶されたらムカっ腹が立つ事を知っていて俺の頭を叩く奴はそうそう居ない。

 

 だがセットした前の方ではなく後頭部を叩かれた場合は怒るに怒れない微妙なラインだ。

 

 それを()()()()()叩く奴といえば………

 

「っ!ヴィルナ………テメェ、先に帰ったんじゃねぇのかよ」

 

「んなわけ無いだろ、このスカタン」

 

 どうやら帰ったように見せかけて待ち伏せしていたらしい。

 

「………で、聞いても良いな?」

 

 親しげに俺の肩に腕を回し、体重をかけつつ左側から俺の顔を覗き込んでくる。

 女子高生にしては男勝りな口調と行動をするこの女……

 名前は鈴原(すずはら) ヴィルナ。ガキの頃から付き合いのある幼馴染………つぅか、腐れ縁だな。

 

「聞くって……何がだよ」

 

「そんなもの、あの2人が誰なのかに決まって………君は?」

 

「へ? あ、僕は広瀬 康一……高校1年生です」

 

「へぇー、同い年なんだ。うちは鈴原 ヴィルナ。これからよろしく………で、仗助…質問の続きだが………ん?」

 

 話が戻ると思いきや、帰路である進行方向を塞ぐように野次馬が群がっていた。

 

「押すなよ嬢ちゃんッ!人の足ふんでんじゃあねーよボゲェッ!」

 

「………すみません」

 

 野次馬のオッさんにそう言われて、ヴィルナは不機嫌にだが謝罪する。

 

「これじゃあ通れないなあ。なんの騒ぎだろ?」

 

「コンビニ強盗が女子店員を人質にとって 立て籠もってんだとよ。ヒヒ」

 

 康一の疑問に答えた見知らぬお婆ちゃんが言う通り、道の脇に停めてあった車の影から覗いてみると、1人の男がコンビニ店員の女性を捕まえてナイフを突き立てている。

 

「あ…あの女の人から僕買い物したことがある」

 

「あぁ、うちもだ」

 

「車にのんだからよ、てめーらさがってろッ!」

 

 そう叫ぶナイフを持った男…そしてその車は、俺達が影にして覗いていた車だったらしくコッチに足を踏み出した。

 

 ここは警察に任せて、逆上させねぇーように下がるか………

 

「そこの変な頭してるガギィ! 車から離れろっていってるだろッ! 殺すぞ ボゲッ!」

 

 ………………

 

 「……あ?」

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「仗助くんッ! や、やばい出たァ〜〜っ! こんな時…こんな状況で…承太郎さんがあれほどカッとするなと言っていたのにッ!」

 

「まったく、あいつの沸点の低さには相変わらずウンザリする……仗助 待てって……あ、ちょっとお巡りさん?」

 

「君の友人か? 下がって下がって! 君まで前に出るな!」

 

 康一は慌て、仗助を止めようとしたヴィルナという女子高生も警察に止められる。

 他の警察は仗助を止めようと制止の声をかけるが、頭を貶されて怒りに沸騰しているのか一切聞く耳を持たない。

 

「なんだてめーはーーッ! 近づくなーーーッ!」

 

「ひィィィーーーッ!」

 

 男が警告し、人質の女性が悲鳴をあげる。しかしそれでも、仗助は歩み寄る足を止めない。そしてついに………

 

「チクショーーーッ! 頭きたッ! この女にナイフ ブチ込むことに決めたぜッ!」

 

 そう激昂し、持っていたナイフを女に突き刺そうとする。

 

 だが仗助はそれよりも早くスタンドを出し、その手で男の持つナイフを奪って()()()()()()()強盗の男を殴った。

 

 ナイフを持ったスタンドの拳は女性の腹部を貫通し、更にその後ろに立っていた強盗の腹も貫通した。

 一見致命傷に見える光景で、犯人を仕留めつつも人質にも同様のダメージを与えたという狂った行為だった。

 

 しかし…スタンドのその腕を引き抜くと、驚くべきことに女性の腹に空いた穴は塞がっていた。傷1つ無いどころか、着ていた衣類にさえ穴はない。

 

 そして犯人の男も同じように腹部の穴が消えていた。ただ1つだけ違う点があった。

 

「うあああああっ!アッアッアッアーミーナイフが! はっはっ腹の中にーーーッ⁉︎ なっなんでぇーー‼︎⁉︎」

 

 スタンドが奪ったナイフは、男の腹の中に取り残されていた。正常に覆われた皮膚の上からでも、そのナイフの原型がクッキリと確認できたのだ。

 

「わざわざ目立つやり方しやがって……知らんぷりしとこ」

 

「外科医に取り出してもらうんだな。刑務所病院で」

 

「ヴィ、ヴィルナさん? 今、いったい何が……」

 

 騒めく周囲の人間達の中で、動揺を唯一見せなかったのはヴィルナだけだった。仗助のこと、仗助のやったことを十分に理解している様子だった。

 

 彼女は仗助のスタンド能力を知っていた。それはスピードとパワーを持ち合わせていながら、"治す"という力を持ったスタンド。

 壊れた物を好きな形で治す事ができる。今回のようにナイフを体内に置いてきて治すなど、仗助のスタンドでは容易い行為だった。

 

 そんな事を知る彼女に康一は何が起きたか説明を求めるが、ヴィルナはダンマリを決め込む。

 

 すると………

 

「お、オロ…オゲェ!………………ギャース‼︎』

 

「ッ⁉︎」

 

 ナイフを腹に埋め込まれた強盗の男が突如嗚咽。しかも後半に聞こえた奇声は人の声では無い。

 その奇声は強盗の口元からではなく、強盗が今しがた吐き出した液体から聞こえた。

 

『グググググ〜〜ッ。こんな所に! オレの他にスタンド使いがいるとは……! この男にとりついて気分よく強盗をしてたのに…よくも! 邪魔してくれたな……!』

 

 強盗の口から吐き出された液体は、液状から最低限の輪郭を得て人型になる。それには顔があり言葉を話し、スタンドの知識があるものが見れば「スタンドだ!」と決めつけるだろう。

 

「! こいつッ、あの写真の!」

 

(スタンド使い?………あの白コートもスタンドと呼んでいたな。仗助はこの液体を知ってる様子だが……)

 

 液状のスタンドはアスファルトの上を素早く這い、道路脇の排水路へと逃げ込んで顔だけこちらに……正確には仗助に向けた。

 

『これからはおめーを見てることにするぜ。おれはいつだって どこからか おめーを見てるからな…ククク いいな!』

 

「なんだと、この野郎ッ!」

 

「このバカを取り押さえろーッ」

 

「わっ、お…お巡りさんちょっ…ちょっと待って!」

 

 その流れで仗助は強盗を取り押さえた英雄としてでなく、急に前にしゃしゃり出た一学生と扱われ、強盗と同じように身柄を確保される。

 

 強盗はパトカーに乗せられ、仗助は逃げる事もできず2人の警官に事情聴取されている。スタンドの事を言うわけにもいかず、浮ついた言葉を使っているため長くもなるだろう。

 

「わわ、ヴィルナさんどうしよう!」

 

「どうもしないよ。知らんぷりして家に帰ればいいさ…先に帰ろうぜ、康一」

 

「え、えぇ〜〜〜⁉︎」

 

 事情聴取される仗助の方には一切目もくれず、ヴィルナは康一を連れて帰路に戻った。

 

(わ、悪い人には見えないんだけど、サバサバした人だなぁ……)

 

 広瀬 康一のヴィルナに対する第一印象はソレだった。

 同時に…一切の迷いなく足を進めるその姿に、彼は妙な高揚感を感じた。

 だがその正体が、彼女の持つ"気高き魂'である事に気付くのは まだ先の事である。

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「お、帰ってきた。仗助! アンタにお客さん! 部屋で待たせてるから早くしな!」

 

 警察による事情聴取を終え、仗助は心身共に疲れた状態で帰宅した。しかし母親である東方 朋子からそれを聞いて肩を落とす。

 

「ゲェー、アイツ来てんのかよ……」

 

「アイツとか言わない。ったく、あんな可愛い子を部屋に待たせるなんて……やるな! このこの〜!」

 

「ちょ、だからヴィルナとはそういうのじゃねぇよ! 部屋に上げたのも おふくろだろ?」

 

 そう文句を言いながら、仗助は自室へと向かった。

 扉を押し開けて中に入ると、毎晩自分が使っているベッドに腰を掛ける女子高生の姿があった。

 

 学校の物を少しアレンジした学生服を着た、薄い金髪をした血色の良い人形のような少女………脇には彼女の物と思われる鞄と、布に包まれた長い棒状の物が置いてあった。

 

「………遅い」

 

「理由はわかんだろ。あの場にテメェもいたんだからよ」

 

 自分の鞄を勉強机に立てかける様に置き、仗助はヴィルナの隣ではなく椅子に座って身体を向ける。

 

「……で、何の話だっけ?」

 

「何度も言わせるな、あの2人の事だ。3人の子供を連れた……誰なんだ? うちらの持つコイツらを、"スタンド"と呼んでいたな」

 

 そういうや否や、彼女の隣に同じ体勢をした妙な男が現れる。

 紫色の宝石が縦に並んで付いた鉄仮面を被り、胸元が大きく破れた緑のつなぎ服のような布切れを羽織っていた。その下には灰色の肌と胸の右寄りで絡まった鎖が露出している。

 

 流れから聞くに、どうやらそれが彼女のスタンドのようだ。

 

「あの人達は俺の親戚だよ。父親の息子と孫……腹違いの兄と甥って事になるな。2人とも年上で奇妙な事だがよぉ〜」

 

「……ジョセフ・ジョースターの子息か?」

 

 仗助の母親、東方 朋子は未だにジョセフの事を愛しており思い出すと泣くレベルである。それを知っていたヴィルナは小声で仗助に尋ねる。

 それを仗助が肯定すれば、ヴィルナは途端に不機嫌になる。

 

「…()()()()()が今更……どのツラ下げて! 何の用で来たッ⁉︎」

 

「待て、落ち着けよ!」

 

 言葉にあからさまな怒気を含めている彼女を仗助は宥め、順を追って説明する。

 

「ふん………遺産の話か。朋子さんには言ったのか?」

 

「いやまだ……爺ちゃんには話そうと思うけど、おふくろには伝えずに済ませたいのが正直なところだな」

 

「そうだな………くっ!ジョセフ・ジョースターめ……どこまで朋子さんを傷付ければ気が済むんだ‼︎」

 

「だから落ち着……って! まずそれを消せよ‼︎ 俺のベッドが粉々になるじゃねぇか‼︎」

 

「ん?あぁ、すまない…」

 

 ずっと出していたスタンドが彼女の怒気に当てられ、能力が暴発しようとしたのか小刻みに振動し始める。それを見て仗助が止め、ヴィルナはスタンドの像を消した。

 

 何故ヴィルナがそこまで怒りを露わにするのか………それは東方 朋子の事が半分……私的な恨みが半分あっての事だった。

 

 彼女の母親の名前は鈴原(すずはら) アルシア…

 旧姓 アルシア・アントニオ・ツェペリ。11年前…邪神DIOに利用され命を絶った1人の女性である。

 

 当時のヴィルナは、何故 母が死んだのか理解できなかった。それはヴィルナの父……鈴原 海斗(かいと)の配慮が原因だった。

 

 海斗はSPW財団の有能な社員で、レオンとも良い付き合いをしている。彼はレオンの紹介でアルシアと知り合い、性格に難のある自分の弟…鈴原 空夜(からや)を雇ってくれたという恩があった。

 海斗は大のつくお人好しで、そんなレオンの兄であるDIOの事を強く言えなかった……言ったとしても信じられない話であるため、海斗はヴィルナに何も言えなかった。

 

 当時のその様子が誤解を生んだのだろう……ヴィルナは「自分の母が死んだのはジョースターのせいだ」と結論付けた。

 

 仗助が高熱を出した時期の最中に、ヴィルナも遅れて同じ病を患った。

 彼女の両親はアルシアの兄…ワルターに連れられて旅行に行っていて東方家に預けられていたのだが、その時にいつも元気付けてくれた両親が居ないというのは、当時4歳の子供にとってどれほどの地獄だろう。

 

 別に復讐をしたいと言うような大層な悪を抱えてはいない……だが彼女はジョースターを嫌い、ジョセフに関しては「出会ったら必ずブン殴る」と心に決めていたのだ。

 

「………で、奴らが来た理由は遺産の話だけか? 頭貶されて戦闘になったのは見たが、その後も何か話してただろ」

 

「そんな気になるんなら帰らずに居れば良かったんじゃねぇか? 俺が承太郎さんに殴られた時も、一切反応しなかったしよぉ」

 

「アレは沸点の低い仗助の自業自得だ。それに…悪い気配は聞こえなかった」

 

 気配は聞こえないという独特の表現をし、ヴィルナは「で?」と質問の回答を待つ。

 ヴィルナも無関係ではないから、と仗助は写真を取り出して彼女に見せる。

 

「………? 誰だこの男………後ろに写ってるのはスタンドか。しかもコンビニで見た奴じゃないか」

 

「ジョセフ・ジョースターが念写した写真つってたな。俺を念写しようとしたら、どういうわけかコイツが写ったと…お前もコイツには用心しろよ」

 

「何故だ?……いや、それが異常だからか。仗助を写すはずが、コイツが写った。普通じゃない、何かある。そういう事か?」

 

 写真を手に取り眺めるヴィルナを前に、仗助は回転椅子に座ったまま時計回りに回転する。

 

「ジョースターどもには言わなくて良いのか?」

 

「知らせようにも手段がねえんだよ。この町のホテルに泊まってるって言ってたが、今から走り回って探すわけにはいかねぇし」

 

「ならどうする?」

 

「明日また会う約束してんだよ。だからその時に………」

 

「………明日か」

 

「…あ………ヴ、ヴィルナ? まさか、変な事考えてねぇよな?」

 

 嫌な予感がしたのか、仗助は慎重にそう尋ねる。

 それを無視したヴィルナは仗助の部屋のドアを開け、廊下へ身を乗り出し声を上げる。

 

「朋子さん! 今日うち、泊まっても良いですか?」

 

「いいわよー」

 

 

 

 

 

「おはようございます。朋子さん」

 

「おはよ、どうだった? さ く ば ん は♡」

 

 翌日の朝、東方家のリビングに3人が集まる。朋子は寝起きのヴィルナにいやらしい笑みでそう尋ねる。

 

「だから何度も言ってんだろ! コイツとはそんなんじゃねぇって!」

 

「そうー?本当にー? ざんねーん」

 

「いえ、残念ではなく幸運ですよ」

 

「確かに仗助が夫じゃ、ヴィルナには苦労させちゃうわね」

 

 口に手を当てて笑う朋子と、控えめにだがヴィルナがクスクスとつられて笑う。それを傍から見ていた仗助は洗面台に移動して顔を洗う。

 

(こりゃグレートに…ヘビーだぜ………)

 

「朋子さん。朝食はうちがやりますよ」

 

「どうも。じゃあ珈琲入れとくわね」

 

 その時だった。

 この家の電話が着信音を鳴らしたのは。

 

「誰よ、こんな朝早くから……」

 

(承太郎さん達かな……)

「俺出るよ」

 

 そう思って仗助が子機をとって耳に当て、髪をセットしようとそのまま洗面台へ向かった。

 昨日の2人だと思ったのはヴィルナも同じなのか、トーストを焼きながらヴィルナは聞き耳をたてる。

 

「はい、東方です」

 

『仗助か? レオンだ。朝早くに………悪い』

 

 相手は眠いのか、言葉の間に欠伸を挟んだのが受話器の向こうから聞こえた。

 

「いえ、ちょうど良かったです。伝えたい事がありまして。実は………」

 

 仗助は口頭で昨日、コンビニで何があったのかを事細かく伝えた。

 

「……だからですね、そのスタンドはその男に取り憑いていたっつーか、ただ体の中に入ってただけで俺に攻撃はしてこなかったんスよ」

 

『近くにアンジェロはいたか?』

 

「え?誰ですって?」

 

『伝え忘れたな。写真の男だ』

 

「いや…少なくとも俺の視界には……」

(くそーいまいち髪型が決まんねーなあ)

 

『いいか? そのスタンドはパワーの弱い遠隔操作型だと思う。何らかの方法で体内に入ってくるタイプだ。これから君の家に行く。私が行くまで水を使う物には近づくな。水道の水はもちろん…シャワーやトイレもだ』

 

「え? これからスか? 実はまだアンタらのことおふくろに話してないんですよ」

 

『………』

 

「うちのおふくろ気が強い女なんだけど…ジョセフ・ジョースターのことまだ愛してるみたいで……思い出すと泣くんすよ。会ったことあるレオン見たら、おそらく………」

 

『………………』

 

 電話の向こうで何か考えているのか、レオンは少しの間黙り込んだ。だがその静寂は、第三者の言葉で終わることになる。

 

「仗助…この写真どうしたの?」

 

 そう聞かれて振り向くと、リビングで珈琲を飲む朋子がテーブルに無造作に置かれた写真を見ていた。

 仗助がふとした拍子に、無意識に置いたアンジェロの写真だ。

 

「さっき会った。牛乳屋さんだわ…知り合いなの?」

 

「………………」

 

 仗助の目付きは険しくなり、朋子の口元をジッと目視する。

 

「やばい………遅かった。今…コーヒーからおふくろの口の中に入っていくのが見えた」

 

『何だと?………おい、仗助⁉︎』

 

 子機を一度置いて、使っていたワックスのボトルを洗面台の上でひっくり返す。

 中身はまだまだあったが外へ流れ出て空になる。

 

「ヴィルナは無糖よね」

 

「はい」

 

「仗助、アンタもコーヒー飲む?」

 

「ン…そうだな、ミルクと砂糖もいれてくんない…」

 

「ミルクと砂糖ね………」

 

 空になったボトルを持って歩み寄り……

 仗助は昨日の下校時のように、自分の母親の腹をスタンドで殴り抜いた。スタンドの手には先程空にしたボトルが握られていたが、殴り抜いた朋子の向こう側で握力で割れる。

 

 そしてその腕を引き抜くと同時に、"治す"能力は発動された。

 朋子の腹部に空いた穴は消え、割れたボトルも元どおり……今回は体内にボトルを取り残す事はせず、逆に()()()()()()()()をボトルの中に取り残した。

 

「………仗助? ミルクと砂糖だっけ?」

 

「あぁ……ミルクと砂糖入れてくんない…もしもしレオンさんスか? スタンド…捕まえたんすけどォ………」

 

 朋子は自分の身に起きた事を認識せず、仗助は何事もなかったかのように受け答えする。そんな彼の手に握られたボトルの中には、朋子の体内に入ったはずのスタンドの姿があった。

 

『ゲェッ⁉︎』

 

(流石だな…)

 

 一連の流れを見ていたヴィルナだが慌てる様子もなく朝食に手を付け、当たり前のように心の中で賞賛していた。

 

「……こいつ、どうします?」

 

『………よく当たる予言だな』

 

「え?何です?」

 

『何でもない。実はもう家のすぐ近くまで来てるんだ………窓を開けて、そこに置いといてくれれば良い。そうすれば会わずに済む』

 

「ウィッス」

 

 仗助は言われた通りに窓を開け、スタンドの入ったボトルは窓枠に置いた。すると間もなく、レオンが平然とやってきて流れるようにボトルを回収した。その足運びに違和感はない。

 

(……なんかヤクザのブツの引き渡しみたいだな)

 

 家からリダイヤルすればもう連絡も取れるので、仗助は「話はまた今度かな」などと呑気な様子で朝食に手を付け始めた。

 

「………アレ? アイツは?」

 

「あぁ、ヴィルナ? なんか急用を思い出したとかで、もう学校に向かったわよ。何もトースト頬張ってコーヒー一気飲みしなくても良いのにね……ま、出されたものは平らげるっていう礼儀を重んじるところが、彼女の良い所だけどね〜」

 

 コーヒーを飲んでホッと一息つく朋子をよそに、仗助は嫌な予感を感じとり冷や汗を浮かべた。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「さて………どうしたものか」

 

『誰だテメェ‼︎ 調子のってんな⁉︎』

 

 仗助から受け渡しされたボトルの中には、アンジェロの物と思われるスタンドが入っていた。

 何をしたのかは見ていないが、通話が途絶えた数秒の間に捕獲したあたり只者ではないようだ。

 

「礼神の予言は今回……別にいらなかったんじゃ?」

 

 時が経って彼女も大人になった。年老いてモノボケが始まるのはまだまだ先の事だが、彼女はエジプトでの旅を終えてひと段落した結果、その先の原作(予言)を忘れ始めてしまった。

 今回の彼女の予言は「主人公が捕獲したらすぐに回収する事」という命令じみたもの………

 今回彼女は、原作を読んだ時に「あと少し早ければ……」というような感想を抱いた事だけ。それだけを朧げに覚えている状態だったのだ。それも念写の写真を見てようやくそこまで思い出してだ。

 すぐに回収しなかったらどうなっていたのだろうか……

 

「彼女は私と違ってノートに書き残した訳でもない………過ぎたことだし仕方ないか………」

 

 今回の事が終わって、彼女が残した残りの予言は「虹村の兄が危ない」というのと「ムカデ」………

 

「前者はわかる……いつ、何処で、何が起こるか分からないし、頼りない予言ではあるが………」

 

 だが後者に比べればマシだ。ムカデが何だ?

 覚えていたのはそれだけ……逆に最後まで残っていた記憶だから重要だと思うんだが………

 

「………ん?」

 

「………………」

 

 気が付けば私の進路を阻むように1人の女子高生が立っていた。

 彼女からは闘気が……そして怒気が溢れんばかりに漂っている。それを前にするまで気付かないあたり、やはり私は考え事をすると周りが見えなくなるのだな……昔から度々あった。

 

 現れた女子高生は昨日発見した女子高生だ。あの仗助に群がっている女子高生に紛れていたスタンド使い。

 その手には、布が巻かれた長い棒状の物が握られている。

 

 仗助の友人である事は恐らく間違いではない。

 一体何の用があって、その闘気と怒気を向けられているのかはわからない。

 

「……君は誰だ。何の用があってそこに居る」

 

 重い口を開いて聞いてみると、彼女は紐を解いて巻かれていた布を取り外す。彼女は剣道部に所属しているのか、中からは一本の竹刀が姿を見せた。

 

「そんな事より………まずは殴らせてくれませんか?」

 

「…………場所を変えようか」




証呂
「久しぶりの挿絵。鈴原 ヴィルナとスタンドのイメージです」


【挿絵表示】


礼神
「ヴィルナ…ヴィルナちゃん………んー?
誰だっけ?」

伊月
「………タラちゃん」ボソッ

礼神
「あ! 思い出した‼︎
ナミヘイ・アントニオ・ツェペリのお孫さん………あれ?」

ヴィルナ
「……うちの祖父がゴッチャになってます」
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