ジョースター家と吸血鬼   作:黝 証呂

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8.非情なる別れ

 あの後私はまず隠れ家を訪れた。スピードがうちで匿うと言ってくれたが、ジョジョが隠れ家へ向かって欲しいと言うので遠慮した。何かサプライズでもあるのか?

 ただ昼でも動ける様にと、日光を遮れる長めのコート服等を用意してくれた。更に貴族がつける白手袋とブーツ…この時点ではまだ良い。更に受け取ったのは唾が異様に広いシルクハットと仮面とスカーフ…帽子はツェペリの物よりツバが広いし、仮面まで付けたら奇妙過ぎる。そして何故か首に巻くスカーフだけはトンペティからのプレゼントだった。

 サッポロビールとかいう酒の名前みたいな虫の腸を編んで作った物で、波紋伝導率が高く拡散させてくれるらしい。対波紋物質のスカーフをくれた理由は、敵ではないと心からの証明の証として受け取って欲しいとのことだ。

 

 エリナがデザインしてくれたのが不幸中の幸いだな…パッとみは酷かったが、いざ着てみると異様に似合う。

 そんな訳で私はこの服装で隠れ家に足を運んだのだが、そこに違和感を感じた。

 

「……随分と歩きやすくなったな」

 

 空き家までの道が整備され、花壇に花が生けてある。まるで人が住んでいるようだ…それだけなら誰かが買い取って住んでいると考えているが、一番の問題はこの家の変わり具合だ。

 

「何だこれは……」

 

 ココらでよく見る木が空き家の直ぐ近くに数本聳え立ち、屋根の幅が異様に広い。まるで枝と屋根が日光を遮るために存在するかのようだ。

 

「まるで吸血鬼の為の家のようだ」

 

「当たり前ですよ。貴方様のための家ですから」

 

 空き家の中から壁越しに話しかけられる。気配には気付いていたが……

 そして彼女は扉を押し開けて現れる。

 

「…リリー……これは全部君がやったのか?」

 

「私だけではありません。ジョナサン様や他の使用人達の置き土産でもあります」

 

 話を聞く限り、ジョースター家の遺産で改装したらしい。

 

「成熟した木を植える理由は、私の為に今すぐ日陰が必要だからか」

 

「その通りですレオン様」

 

「様は止めてくれ」

 

 まったく…遺産も無限ではないのに、木を植えたりと無茶な改装工事をしたものだ。

 しかしデザインといい設計といい、中々私の欲する物の的を射ているな………

 

「どうだいレオン。気に入ってくれたかい?」

 

 心の中で感想を述べていると、背後からジョジョが現れる。

 

「見せたかったのはコレで良いんだな?」

 

「うん。僕からの感謝の気持ちさ」

 

「………これを用意して尚、君は馬車の中で恩返しを願い出ていたのか?」

 

「僕は君に助けられてばかりだからね。まだ君に借りを返しきったとは思っていないよ?」

 

「何ッ⁉︎勘弁してくれ……罪悪感が(まさ)ってしまうだろう?」

 

「アハハッ、楽しみに覚悟しといてくれ」

 

「フンッ……クッ…ハハハ!」

 

 あまりにもストレートに言うもんだから、私は思わず大口で笑う。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 あれから二ヶ月近くの時が流れた。その間を私はあの家で静かに暮らしていた。

 そして昨日…ジョジョはエリナと正式に結婚して式を挙げた。もちろん私は出席したのだが、それは日が暮れてからだ…ちゃんとした正装で赴きたかったので、日が沈んだ安全な時間帯じゃないといけなかったのだ。

 

「ついに結婚しちゃいましたね」

 

「当たり前だ。ジョジョは昔から彼女にゾッコンだったからな」

 

 そしてその翌日…つまり今日。私は彼らを見送るべく港へ来ていた。

 

 今日彼らは、新婚旅行でアメリカに行く……そして約束の日でもあるため、私は日傘を差して何が何でもここで立ち待たねばならない。

 ちなみに言うが、リリー以外のメンバーもちゃんと揃っている。

 

「お、来たぞ!」

 

 スピードがそう言うので、私は彼の指差す方向に目を向ける。その先から二人は、仲良く腕を組んでこちらに歩いてきた。

 

「みんな、見送りに来てくれたのかい?」

 

「このワシが弟子のお前の見送りに来ないはずがなかろう。この後私は家族の元に帰るよ……あぁ、きっと嫁さんに怒鳴り散らされるだろうな」

 

 ツェペリはそう言っておどける。あの時死ぬ運命にあった男とはとても思えない。

 

「さてとジョジョ。約束の品を約束通り……君の手で私に手渡してくれ」

 

「あぁ」

 

 ウインドナイツロットの帰りの馬車で頼んだ些細な願いの品……たかがプレゼントだというのに受け取ろうとする私の手も、渡そうとするジョジョの手も震えている。

 

「レオン…」

 

「幸せになれよ…ジョジョ」

 

 品を受け取る……というよりは、品を手と手の間に挟んで握手を交わす。

 やがて手を離すと、二人はそのまま船に乗った。私は受け取った品に視線を落とした。

 

「レオン様…それはなんですか?」

 

「ロケットだよ…家族の写真の入った」

 

 私がジョジョに頼んだ品は無着色の錆びにくい鋼でできた六角形のロケットだ。中にはジョースター卿とジョジョと私…そしてディオと撮った家族写真が収まっていた。ロケットの裏側にはトンペティが予言した事を彫ってもらっている。そして何よりも特徴的なのはこの窪み……これはディオの最後の攻撃を弾いたハルバートの残骸で、戦利品として持ち帰り形を保ったまま加工してもらったのだ。

 

「じゃあレオンの宝物ってわけだ!」

 

「それは違うな」

 

 その場を離れながら私はスピードに教えてやった。

 

「これは宝物じゃない……宝物を思い出すための道具だ。この先百年以上生きるとしたら、私には必要な品だ」

 

 それだけ言って私は笑顔でその場を去ろうとした。

 

 ………しかし私は胸の奥底に突っかかるような違和感を感じ、一度振り返ってみる。

 そこには船に向かって手を振るスピードや波紋使い達の姿…船から彼らに手を振る二人の姿が見える。

 

「………気のせいか」

 

 ………この時用心するべきだったと私は強く思う………この時の私は、ジョジョがこれから死ぬなどと微塵も思っていなかった。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「………今何と言った…」

 

「……ジョナサン様が……お亡くなりになったと……」

 

 ある日、前触れもなくリリーとストレイツォがうちにやってくる。

 

「……何の冗談だ?」

 

「落ち着けレオン。私も詳しくは知らんのだ」

 

 そう前置きを挟むと、ストレイツォは知ってる事を私に話してくれた。

 どうやら船が爆破し、エリナとエリナが助けた赤子以外が行方不明らしい。

 

「それだけではよくわからないな。エリナは何処に?」

 

「ジョジョと住む予定だった新居……おい、待てレオン!」

 

 それだけ聞くと、私は足元まで垂れる長めのコートを着て日傘を持って飛び出した。

 行き先はもちろんエリナのところだ。最初は急いでいたが、私は徐々にスピードを緩める……同時にある記憶を思い出したのだ。

 

「……まさか…ディオが生きて…」

 

 原作ではディオは生きている。まだ戦いは終わっていないのか?

 

「いや…そんなはずはない」

 

 自ら確信の持てる答えを導き出しておいて、私は絶望を噛み締めながらエリナの元へ行った。

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

「ディオは生きていたわ……そしてスピードワゴンさんから全て聞いた」

 

 ……やはりか…

 部屋の中にいたエリナはディオの生存を教えてくれた。今は一人でいたかったらしく、スピードはいない。

 

「私のせいだ……」

 

「それは違うわレオン!」

 

 原作ではワンチェンがディオの首から上を回収してジョジョを襲った……そのワンチェンがいなければ問題無いなどという甘い考えに至ってしまった。

 いくら悔やんでも埋まらない罪悪感は心の中でどんどん膨れ上がる。

 

「助ける力が私にはあった……にも関わらず……私は…」

 

 原作を知っていた。ワンチェンの代わりが現れる可能性だって十分あったじゃないか!

 頭を抱える私は膝から泣き崩れ、頭から血が滲むほどに爪が食い込む。今の私はとても目なんて当てられないほどに無様な様子だろう。

 

「落ち着いて。気高かった貴方がそれでは頼りないわ」

 

 そう言ってエリナは、赤子を抱えながらしゃがみ込んで私の腕を掴んで揺する。

 

「ジョナサンは私に言いました……必要な時はレオンに助けてもらえ。と…貴方はジョナサンに信頼され必要とされているのよ!」

 

 彼女の言葉が私の心に……正確には罪悪感に突き刺さる。

 ジョジョ……お前はこんな私を、死んでなお信頼してくれるのか?

 ディオと同じ血を引くこの私を…

 

「君は……強い女性なんだな。わかった…君がそう言ってくれると、心が救われるよ」

 

 まったく……早速貴様は私に面倒事を押し付けるのだな、ジョジョ。

 

「必要な時は遠慮無く頼ってくれ…それでは…」

 

「ならこの子をお願いできる?」

 

 部屋を出ようとしたその瞬間…エリナはあろう事か、自分が抱いている赤子を私に押し付けてくる。

 

「な、私は吸血鬼だぞ?」

 

「あら…こんな小さな子の血を吸うの?」

 

「違う!力加減を誤ったら…あ、う…」

 

 無理やり赤子を抱かせられる。あまりに唐突なことで、私は緊張と焦りで腕が硬くなる。

 

「あぁそんなんじゃダメよ。もっと腕を……」

 

「抱き方はわかってる。君が急に押し付けるからだろ」

 

 大声を出してはこの子が泣いてしまう。私が腕の面を使うように抱き直すと、最初は不機嫌そうな顔をしていたがやがて安定し、安らかに寝息を立てている。

 腕だけで抱き上げるのは少しコツがいるな……手を使わない理由?たった今自分で頭に爪を立てたから割と血が付いているんだ。

 

「あら、子守の才能あるんじゃない?」

 

「才能どうこうは置いといて…何故この子を?」

 

 するとエリナは、自分が今妊婦であることを告げる。つまりジョジョの子が今腹の中にいるのだ。

 

「それでか……」

 

 トンペティの予言からジョースターの血統が途絶えないことは知っていたので、当たり前といえば当たり前か…

 

「しかし私が育てるには無理がある」

 

「レオン様、やっと追いついた」

 

 このタイミングでストレイツォとリリーがやってくる。そうだ、丁度いい。

 

「ちょうどいいところに来た。ストレイツォ、君がこの子を育ててくれ」

 

「……は?」

 

「何か困る事があればリリーの助けを借りてくれ」

 

「へ…?」

 

 リリーは急に自分の名が出てきて驚き、ストレイツォは珍しくマヌケな顔を晒している。

 

「急に言われても驚くだけか」

 

 私はエリナの事情と私の手では育てられないことを二人に伝えた。

 

「ですが…何故私達に?」

 

「信頼して頼める知り合いが君達くらいしかいないのだ。ツェペリは家庭を持っているし、スピードは私の勘だが不向きだ」

 

「ならばダイアーがおるだろう」

 

「彼もそう言うのは不向きそうだ。それに………君になら任せられる」

 

 そう言いながら赤子をストレイツォに手渡す。それを優しく抱き抱えるストレイツォだが、「本当に私で良いのか?」と目で訴えかけている。

 

 …彼に任せる決定打は原作知識だが………

 

 ー

 ーー

 ーーー

 

 アレから数年の年月が過ぎた……そんなある日、私は一冊のノートと向き合っている。

 極普通の何処にでも売ってるノートだが、これに記されているのは私が今覚えている原作知識の全てと推測だ。

 簡単には読めぬよう日本語でここに書き綴っておいたのだ。ロンドンで長い間育ったが、前世の母国語は忘れたりしない…漢字は幾つか忘れたが……

 

「私が知っているのは第二部の終わりと第三部の始まりまでだ」

 

 星の血族の第二の孫……孫の孫の事だろう。確か名前は空条 承太郎…彼と共に戦う事になるだろうな。

 

「レオン…邪魔するぞ」

 

「むっ…」

 

 ノックぐらいして欲しいものだ。ノートを閉じると、私は客人に目を向ける。

 

「三人してきたのか……いや、五人だな」

 

 扉を開けたストレイツォがいち早く中に入り、その後ろから子供を抱いたエリナとリリーが入ってくる。

 リリー達が改築してくれた住まいだが、大人四人と赤子二人が客として入ってくるには少し狭い部屋だ。

 

「それで…何の用だ?」

 

「遊びに来たのよ。そこらの公園より、ここの方が幻想的で素敵じゃない?」

 

 エリナがそう言ってリリーも賛同する。だがストレイツォだけは乗り気とは思えない表情だ。

 完全に巻き込まれた人間の顔だ。

 

「では、お前達は表で遊ばせてなさい。私はレオンと話がある」

 

「はーい。レオン様、主人をお願いしますね」

 

 ストレイツォもすっかり父親だな。

 子を任せ協力するうちに芽生えたのか、2人はトントン拍子で距離が縮まっていったらしい。

 子を任せ協力するうちにリリーが病気で二人の間に子供は産まれないと聞いた時は残念そうに思ったが、二人は気にせず幸せに過ごしている。

 

「珈琲でも淹れよう。どうせ話があるというのは、子供と遊ばぬ口実だろう」

 

「あぁ」

 

 二人分の珈琲を運び、私は一階の出窓から外で遊ぶ子供達に目を向ける。

 もちろん室内は全箇所安置で、ココにも絶対に日差しは入らない。

 

「もう走れるのか…早いものだな」

 

「そうだな。吸血鬼の貴様からすれば瞬く間の出来事じゃないのか?」

 

 ジョジョとエリナの息子、ジョージ…ストレイツォとリリーが育てている娘、エリザベス……この二人は既に七歳だ。確かにエリナがジョージを出産したのが、つい昨日の出来事のように感じる。

 

「そういえばレオン…貴様の生活費は何処から出ているのだ?」

 

「情けない話、ほとんどがスピードワゴン財団のお零れだ」

 

 スピードは数年前に、テキサスで私と石油を掘り当てて見事石油王になったのだ。

 案外掘りあてるのは簡単だった。石油の匂いを嗅いだ事はなかったが、独特なその匂いを頼りに私は発信源まで掘り進んだ。そして簡単に見つけられたのだ。

 

「そっちはどうだ?エリザベスの纏っているローブ……記憶が正しければ、波紋使いの修行僧の物だろう?」

 

「そうだ。エリザベスの今の波紋は、十分に貴様を昇天させられる」

 

「やめてくれ」

 

 何気ない世間話を静かに弾ませる。

 こんな幸せな時間を過ごし、大切な家族を得たストレイツォも、数十年後には老いを感じて狂気に走るのだろうか?

 

「…そんな訳ないか」

 

「ん?…何か言ったか?」

 

「なんでもないさ」

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