最終種目は順調に、しかし激しい闘いの連続で進んで行った。
緑谷出久の砕いたステージの破片を浮かせ浮遊する岩石の密林地帯を作り上げた麗日お茶子が、その中に身を隠しながら緑谷出久を翻弄するように奇襲攻撃を仕掛け続けていった。
緑谷出久は、麗日お茶子の個性で浮かせられてしまえば即詰みであることを警戒しすぎたせいか麗日お茶子の下段へ向けた足技を幾度となく喰らうことになる。
ただしその警戒は当然であり、安易に目の前の岩石を除去しようとすれば、その隙に麗日お茶子は一気に距離を詰め迫っていくだろう。今の彼女にはそれだけのポテンシャルがある。それ故に緑谷出久は防御主体という後手に回らざるをえなかった。
終始攻勢にでていた麗日お茶子だが、彼女の繰り出す攻撃では微弱とはいえワン・フォー・オールを纏った緑谷出久へダメージを与えることは叶わず、緑谷出久は蹴り技は回避することなくあえて喰らった後にカウンターとして下段へ拳打を打ち込んでいく。
その戦法を麗日お茶子も予測していたのか紙一重で回避しつつ、岩石の密林へとすぐさま姿を隠し再び攻撃の機を窺う戦法をとったのだった。
しかし、試合が五分を過ぎたあたりで、緑谷出久は異変に気付くことになる。
何度も砕いたはずの足下には、何一つ砕けたコンクリートが無くなっていたのである。
緑谷出久ははっと気づいたように上空を見上げると、大量の浮遊した岩石と共に空高く浮かんでいる麗日お茶子の姿を認めた。
直後に麗日お茶子は個性を解除し、コンクリート片の大雨が重力の任せるままに緑谷出久の立つステージへ向けて降り注いでいく。
降り注ぐコンクリート片を目の前にして緑谷出久は迎撃ではなく回避を選択し、ひたすらに避けることに徹していった。緑谷出久は数秒にも渡って落ちてくる大量のコンクリート片を避けていくが、その陰に紛れてすぐ背後には麗日お茶子が肉迫していた。
そして、麗日お茶子が今度こそ緑谷出久を両手で捉えたかのように思えた次の瞬間、緑谷出久はまさに超人的な反応速度で反対に床を蹴り、迫りくる麗日お茶子の頭上を超え背後を取り返し、そのまま麗日お茶子を背面から場外へと突飛ばしたのだった。
緑谷出久と麗日お茶子の対戦は、緑谷出久の勝利で終わったものの、会場の誰もが立ち上がり二人へ惜しみない称賛の拍手を送っていた。
その緑谷出久と麗日お茶子との試合に感化されるように後続の試合は次々と激しさを増していき、二回戦での轟焦凍と爆豪勝己の対戦では、とうとう私とセメントスが介入するほどに白熱していったのだった。
近接における体術は、どちらも互角。個性による行動もほぼ互角だったものの、轟焦凍がやや守勢に回っていたため、印象としては爆豪勝己が優勢なようにみえた。
氷と爆撃を激しく絶え間なく打ち合っていた二人だが、爆豪勝己の強烈な猛攻を前に轟焦凍は氷ではなく一瞬だけ炎を使い迎撃しそうになった。
しかし、一瞬ためらった後に炎の発動をやめてしまったのだった。
それを見てもなお爆豪勝己は勢いをそのままに止まることはなく、その後放たれるであろう極大威力の攻撃を相殺できず大事故につながると判断し私もセメントスも瞬時に轟焦凍を場外へと退避させるべく動いたのだった。
結果、爆豪勝己の判定勝ちとなったものの、納得のいかない爆豪勝己は轟焦凍へ食って掛かったのだった。
「ざッけんな、クソが! てめェ、アイツのとこで何をしてたんだよ! てめェの力、そんなもんじゃねぇって俺だって知ってんだよ!」
「……」
轟焦凍は、爆豪勝己と眼を合わせようとしない。
それでも、爆豪勝己は轟焦凍に対しての不満を隠すことなくぶつけ続ける。
「全力でこいや! 勝っても全力のてめェじゃなかったら意味ねェんだよ! それともなんだ? 俺をナメプで勝てる程度に思っとんのか!?」
「……」
「ただ全力でやるっつう、丸顔やクソナードにもできることをてめェはできねェのかよ!」
その一言で、轟焦凍の顔が曇る。
そして、ただ一言、
「……わりィ。少し、考える」
そういって、爆豪勝己に背を向け会場を後にしたのだった。
さらに掴み掛かろうとする爆豪勝己だったが、私が制止する。
「そこまでにしておきなさい」
「うるっせぇ! まだ勝負は決してねぇんだよッ!」
吼える爆豪勝己に対し、私は中指を弾き顎にデコピンを喰らわせ意識を刈り取った。
かくり、と身体を預ける彼を肩に担ぎミッドナイトに爆豪勝己を控室へ戻す旨を伝え、私も一旦会場を後にしたのだった。
その後も最終種目は、つつがなく進行していった。
続く八百万百と物間寧人の試合は、多彩な個性による互いに手の内を読ませない心理戦になったものの、最終的には時間切れにより物間寧人の個性が使用不可になり、それを狙ってつめた八百万百が勝利を収めたのだった。
物間寧人も時間制限がある以上、速攻を仕掛けるべきだったのだが八百万百の個性を半ば知っているせいで攻め手に欠けた。反対に八百万百は拙いながらも、速攻を仕掛け先手先手を打ち続けた。
結果だけ見れば僅差のように思えるが、実際のところは百回やっても百回とも八百万百が勝つだろう。
さらに、緑谷出久対飯田天哉の試合へ移ったのだが、終始飯田天哉は精彩を欠き緑谷出久へ圧倒されていたのだった。
飯田天哉が決め手にしていたレシプロバーストという技も、明らかに使いどころが適したものと言えるものではなく、不発に終わった。
常闇踏陰と蛙吹梅雨の試合は、二回戦の中でもっとも激しい肉弾戦になった。
お互いに異形系個性の二人であるが、その戦闘スタイルはかなり異なる。
常闇踏陰は個性である『
双方が中距離での戦いが決め手にならないと分かるや否や、両手を組みあっての超至近距離での足技が炸裂したのだった。
冷静に戦局をみる二人であるが故に、近距離でのフィジカルを用いた闘いになった。
最後の決着は『
そうして勝ち上がった者たちも、準決勝では八百万百が彼女自身の速攻を超える速攻を爆豪勝己から喰らい一気に形勢が傾くとそのまま押し切られ、常闇踏陰も緑谷出久に対していい勝負をしていたものの、中距離牽制をしているところに懐へもぐりこまれ大きなダメージを負い、それが決定打となって敗北したのだった。
そして、今。決勝の舞台に駒を進めた両雄が対峙し、立っているのである。
『さァいよいよラスト! 雄英一年の頂点がここで決まる!』
プレゼント・マイクのアナウンスと同時に客席が一気に盛り上がりを見せる。
『決勝戦! 爆豪勝己 VS 緑谷出久!』
私も、舞台傍にスタンバイをし、二人を見やる。
爆豪勝己と緑谷出久。この二人の戦いは、戦闘訓練以来になる。
かつて行った戦闘訓練では、結果こそ緑谷出久が勝利したものの内容は爆豪勝己が一方的に緑谷出久を捻じ伏せていた。
だが、それももはや昔の様に遠い話となり、お互いに力を伸ばした二人がぶつかり合えばどうなるかは、ここにいる誰も予測しえない。
「よぉ、クソナード。ここまでこられてゴキゲンか? もう満足しただろ?」
「かっちゃん……」
「って、少し前までの俺ならそう思ってただろうなァ……」
「どういう……?」
「てめェが何をして個性をもったのかはこの際どーでもいい。今はただ、俺の力で全力のてめェを捻じ伏せて、俺が優勝する」
「……! 僕も、簡単に負けるつもりはないッ!」
二人のやり取りに、感情的なものはなく、ただただ静かに言葉を交わしていた。
その静かな言葉とは裏腹に、二人の闘志の高まりは隠しようもなく、周囲の空気をひりつかせていた。
『レディ……スタートォ!』
プレゼント・マイクの合図と共に二人が突進をし間合いを詰めていく。
お互いの間合いにはいる一歩手前で、爆豪勝己は爆破により上空へと飛び上がった。
緑谷出久がその姿を追いかけ顔を上へ向けたのとほぼ同時に、爆豪勝己は爆破により急降下し緑谷出久へと迫っていく。
爆豪勝己が前後に腕を広げ外側に腕を捩じるように向けると、急降下のための爆破よりもさらに激しい爆破を巻き起こしながら錐もみ回転を始めたのだった。
「
爆破に高速回転を乗せることによる威力の増大した特大火力を緑谷出久目がけて叩き付ける。
大爆風が起こり、舞台の床石は砕け散り粉塵が舞い上がる。視界は全くと言っていいほど利いていなかったが、私が視る限りは緑谷出久も直前で回避し、煙の揺らぎから見るに今もなお、この粉塵の中で二人は攻防を繰り広げているようだった。
一際大きな爆音と共に粉塵が晴れていくと、緑谷出久へ迫っていく爆豪勝己の烈火のごとき猛攻が舞台上で繰り広げられていた。
緑谷出久が飛び上がり、距離を取ろうとするところをすかさず間合いを詰め緑谷出久が体勢を整えさせる暇を与えようとしていない。
緑谷出久が空中へ逃れた一瞬の隙を待っていたかのように爆豪勝己は爆風で迫り、右のレバーブローを繰り出し直撃させたのだった。
だが、次の瞬間には、双方が弾き飛ぶように舞台へと叩きつけられていた。
「ごほっ……さすがかっちゃん……攻撃をもらう前にこっちが攻撃するつもりだったのに結局直撃だ……」
「てめェ……! なにわらっとんだ、クソが! カウンター決まって満足か、アァ!?」
緑谷出久は、爆豪勝己の攻撃に合わせて左の蹴りを放ち迎撃をしていたのだった。
リーチの長い脚技を繰り出したものの、結果は相打ちであることを鑑みれば、身体能力自体は緑谷出久の方が上だが、それを補って余りあるほどの反射神経を爆豪勝己が持っているということの証左であった。
「デク、てめぇ……うっぜぇんだよ! 何度ぶっ叩いても張り付いてきやがって! なにもできねぇくせにうろちょろしやがって! 終いには、俺を追い抜くってか、えぇ!?」
「かっちゃん、そんなこと、思ってたのか……?」
試合の最中に感情が高ぶったのか、苦々しい心情を発散するかのように爆豪勝己は吐露していく。
見下していたものが背後に迫る焦り、相手の成長速度と自身の成長速度の差異、実力が埋まっていくどうしようもない苛立ち。
それらすべてを吐き出すように、爆豪勝己は緑谷出久へぶつけていく。
「てめェは決勝に来られたことで満足してるのかもしれねェけどよォ! 俺はここに勝ちに来てんだ! 勝つ気がねェなら今すぐ舞台から降りろやクソカスが!」
「……違うよ」
静かに、だが力のこもった声で爆豪勝己へ緑谷出久は反論をする。
「確かに、僕は笑った。だけどそれは、僕の理想としている人からそう言われたんだ。怖いとき、不安なときこそ笑っちまって臨むんだって!」
「あァ!?」
「それに、
「だから、うっぜぇんだよ!」
二人の咆哮に近い絶叫と同時に緑谷出久が、腰を深く落し構えた。
あの構えは、
(まったく、切り札はこんなカメラの入っている場所でみせるものではないというのに)
彼の現在の技である自身の身体の一部のみを強化する『
「
「なッ!?」
緑谷出久の閃光が迸るかのような突撃に、爆豪勝己は反応できずに左頬に拳打の直撃を受け、舞台上を転がった。
かつて私は、緑谷出久を凡夫であると評した。だが、彼は一つの天賦の才を秘めていた。それが『感覚』である。
緑谷出久は、自身の身体で感じたことを正確に思い出し、再現することにかけては、他の誰よりも優秀であり、それは常人の何倍もの精度を持っていた。
そのおかげで、私の予測よりもずっと早く不完全ながらも力の受け流しを修得できただけでなく、その先へと進むことが出来たのである。
その形が、神経系のみを強化するあの技だ。
本来のワン・フォー・オールならば、発動と同じくして肉体だけでなく神経系にも能力向上が起こる。そうでなければ、肉体のスピードに意識がついていくことが出来ずに今以上に個性に振り回されることになってしまうからだ。
それに気付いた緑谷出久は、神経系のみを強化する方法を見いだし、この体育祭までの訓練期間のほとんどを切り札としてのコレに費やしたのだった。
この技の大きなメリットは、身体の一部を接地していなくとも発動できるという点と、肉体の一時限界突破よりも大きく能力向上ができるという点だ。
『
ただし、この技には欠点が二つあった。
一つは、神経系へほぼワン・フォー・オールの意識を集中させるため、肉体強化をほとんど行えないという点だ。
彼が現在フルカウルとして纏っている肉体強化は三%程度でしかない。この強化の弱体化は決定打を繰り出す機会が大きく減ることを意味しており、効果的に使わなければ制圧までの時間がよりかかってしまう。さらにそれに気付かれてしまえば負傷覚悟でのカウンターをもらう可能性が大きくなってしまうのである。
そして、二つ目の欠点は、決して反動が無くなるわけではないという点だ。
神経系のみとは言え、自身の肉体が耐え得る反動を大きく超えて強化をすることに違いはない。
つまり、彼は反動を今現在も受け流し続けているわけだが、その矛先は彼自身の肉体なのである。
緑谷出久の行っている三%程度の肉体強化は決して、攻撃力を高めるためだけでなく、むしろあの技を繰り出すために必要不可欠な強化なのであった。
当然、繰り返し発動をすれば肉体は損傷をしていき、過剰強化と同じように負傷するか、そうでなくとも小さく反動が蓄積していきいずれ行動不能に陥ってしまうだろう。
それは、緑谷出久も当然承知している。
だから、彼は今まさに、勝負を決めようと賭けにでたのである。
「ああぁああぁあぁッ!!」
「くっそがぁッ!」
爆豪勝己に一切の反撃を許さず、緑谷出久は咆哮のまま攻撃を重ねていった。
時折爆豪勝己もカウンターを狙い、拳や爆破を試みるが、その出端を完全に緑谷出久に封じられてしまう。
拳を振るおうとすれば、手首を打ち抜かれ、爆破をしようと構えれば蹴りをうけ舞台上を転がりまわる。どうにかふるった拳でさえ、虚しく空をきるだけなのであった。
二十%を超えた先のワン・フォー・オールは、おおよそ常人では反応することも難しい。
爆豪勝己は、むしろよく的確に緑谷出久の動きに反応しているほうだ。
それでも、反射レベルで反応してようやく捉えられるその動きに攻撃を合わせるとなると、いくら爆豪勝己とはいえ十全な体勢で繰り出せるはずもなく空ぶってしまう。
だが緑谷出久の猛攻を受けながらも、爆豪勝己は全く倒れる気配もなくただただ反撃を繰り出していく。
「ハァッ、ハァッ。タフすぎる……これで、倒せないなんて……!」
「ハハァ……もう終わりか、デクァ!」
口角は切れ、頬は張れ上がり、鼻血を垂れ流しながらも爆豪勝己の闘志に些かの衰えもみえない。
そして、とうとう緑谷出久の脚が先にとまったのだった。緑谷出久は、全身から尋常でない発汗をしながら力なく両手を下げている。
「っ……! まだだ、僕だってまだ動けるッ」
おそらく緑谷出久の全身には鋭い痛みが襲い掛かってきているはずだ。
彼が訓練の中で発動していたのはおよそ一分弱のみであり、今の戦闘で彼は三分以上も発動している。
訓練中の一分弱であっても、全身筋肉痛と同じような痛みだと彼は言っていたが、今の彼は全身を針で突き刺されているような痛みに包まれているはずだった。
「こっちだってな、ただ無様に舞台の上を転げまわっていただけじゃねぇんだよ……」
爆豪勝己が両の掌を前へと突き出す。
まさか、爆豪勝己は以前私へ繰り出したあの切り札をつかうつもりなのか。
あれは私だからなんとかなったものの、今の緑谷出久が受ければ大怪我に繋がりかねない。
「かっちゃん……」
「認めてやるよ、てめェは強くなった……だがな、勝負に勝つのは俺だッ!」
「いいや、勝つのは、僕だッ!」
私は、セメントスへ視線を送り、備えるように合図をする。セメントスが頷いたのとほぼ同時に舞台上の二人は動き出した。
「そこはもう、
「
緑谷出久が猛進していくが、それよりわずかに早く爆豪勝己の両腕が地面に叩き付けられる。
それと同時に、舞台上が轟音と共に大きな閃光で包まれ、爆炎を立ち昇らせながら大爆風を引き起こしたのだった。
爆豪勝己の切り札、それは自身の掌からでる汗を設置していき起爆地点を爆破することによって誘爆を引き起こし広範囲に渡って大爆破を起こす技であった。
彼の個性は、大別してニトロのような汗を掌から出すこととそれを爆破することの二つである。
彼のコスチュームも、彼の汗を溜める機構がついておりそれを利用することで肉体へ負荷をかけずに最大火力を放つことが出来るのだが、つまり彼はそれをこのフィールド一帯で行ったというわけなのである。
勿論、彼自身がその場にいるため常に大爆風に巻き込まれる可能性を多分に孕んだものであるが、あの技は相手の立ち位置によっては回避不能にもなる非常に危ういながらも優秀な技なのであった。
「と、いうわけです。わかりましたか、緑谷くん」
「うっ……あ、あれ? ここは……」
舞台の外で私の脇に抱えられた緑谷出久はなにが起こったのかわからないといった表情をしていた。
舞台はセメントスが遮ったはずの幾重ものコンクリートの塗り壁が粉々に砕け無残な残骸を晒していた。
そして、爆豪勝己もまた何が起こったのかわからないといった様子で立ち尽くしていたのだった。
「なんて威力……まァなんとかなったからよかったけどさ……」
セメントスが苦々しげにそうつぶやくと、ミッドナイトが舞台上へと降り立った。
「えー、状況を説明いたします! ただ今の攻防の際、そのまま続行されていた場合、緑谷選手が爆豪選手の攻撃を回避しきれずに直撃をしてしまうと判断したため、我々審判が介入をいたしました。もし、先ほどの攻撃が成立していた場合、爆破の規模からしても緑谷選手が戦闘不能に陥っていた可能性が非常に高いと言わざるを得ません。また、爆豪勝己選手の攻撃は、悪意を持って直撃をさせるためのものではないことは、攻撃成立前の緑谷選手の立ち位置の周囲が直接爆破されていないことをみても明らかです。よって、そこに反則性はないものと判断。緑谷選手をテクニカル・ノックアウトとし、爆豪選手の勝利となります!」
ミッドナイトによって勝利宣言がされると、数瞬の間の後に大きな拍手がスタジアムを満たし、当事者二人を置いてきぼりにしたまま決着したのであった。
◇◆◇
全ての競技が終わり、残るは表彰式を残すのみとなった。
プログラムとしては、本来の表彰式の時間よりもかなり時間を巻いて進んだらしく随分と時間に余裕があるようだった。
私もすべての役割を終え、職員控室に戻ると、そこにイレイザーヘッドがいたのだった。
「とりあえず、お疲れさん」
「ありがとうございます。相澤先生も解説役お疲れ様でした」
「あァ……できれば二度とやりたくないな。不適格にもほどがある」
不満そうにそっぽを向くイレイザーヘッドだったが、会場で聞いている限りでは十二分に役割を果たしていた様に思う。
「……そういえば、この体育祭が始まる前に校長がいっていたことがあったが、こんなことをするなんて前代未聞だ」
「どういう意味でしょうか」
「……うん? 言ってただろ、『雄英の危機管理体制が盤石だと示す』って」
「それが、どうしたのですか?」
私の反応が芳しくなかったのか、イレイザーヘッドは怪訝な顔をしたのだった。
「まさか。聞いていないのか?」
「聞いていないも何も、私達が警備に参加してそれで終わりなのでは」
私がそういうと、イレイザーヘッドは大きく溜息をついた。
「オールマイトさん……言い忘れたな」
「先程から、なにをいいたいのかわからないのですが」
「仕方ない。ついてこい」
そういうとイレイザーヘッドは職員控室から出ていってしまった。
イレイザーヘッドの後を追っていくと、再び競技場へ向かっていることがわかった。
意図がつかめず、そのままついていくと表彰式がはじまったわけでもないのに、会場は大歓声に包まれている。
私が会場へ戻ると、プレゼント・マイクの実況から全く予想していなかった言葉が飛び込んできたのだった。
『レディース&ジェントルメン! ボーイズ&ガールズ!
それをきいてイレイザーヘッドに視線を向けると、頭をかきながら気だるげに口を開いた。
「ま、そういうことだ。俺も面倒だがでるから諦めろ」
「……どうしても出ないとダメなのですか?」
「一応、仕事だからな」
イレイザーヘッドは再び大きく溜息をついた。
どうやら、本日最後の仕事が行われることになるようだった。
【スローイングナイフ】
細かいギザ刃のついた投げナイフ。
大きなダメージが期待できるものではないが
うまく使えば、けん制と翻弄に威力を発揮するだろう。