週明けから一年のヒーロー科の生徒達は職場体験に赴いている。
私以外の教師たちは一般科目の授業もある為、学校に残っていたが私はその一般科目の受け持ちがないため
保須市でステインと
(
エンデヴァーが動いたという情報もないところを考えればステインも未だ雲隠れしているらしい。
当然ながら過度な先入観は目を曇らせると認識している。故にあくまでもフラットな思考に努めてはいるものの、ステインにせよ
更にいくつかビルの屋上へ場所を移しながら数時間調査を続けていたものの相も変わらず成果はなかった。
今日の調査も空振りに終わるかと思いながら単眼鏡を覗いていると、ふと今いるビルから直線距離で約二キロメートルほど離れたビルの屋上に設置してある貯水槽の上に黒い靄のようなものが中空に渦巻いている様子が映り込んだ。
(ようやくお出ましか)
視認できた時間は僅かな時間だったものの間違いなくあれは黒霧の個性。誰が転送されてきたかまでは確認できなかったが、十中八九死柄木弔と黒霧は同行している。そこにステインがいれば目下の目標を一網打尽にできる好機であった。
(距離は二千。ビルの屋上を飛び移って行っても約一分掛かる。急がなければ拙いな、迅速に動かれたら見失ってしまう時間だ)
すぐさま隣り合うビルへと飛び移り、黒霧らしき姿を視認した場所へ向かう。ビル群の屋上を足場に次々と飛び移っていく。
屋上の様子がはっきりと肉眼で視認できる距離まで近づいていくと、そこには黒霧の姿も死柄木弔の姿も無く、佇んでいたのは奇妙な仮面を被った長身の人物だった。
目標に接近するにつれて、私の中の警戒音が大音量で鳴り響いていく。ただ眼下の街並みを眺めているだけのように見えるその人物からは隠しようもない、そして途方もない悪意が漏れ出ていた。
腰に据えていた千景を抜刀しつつ、隣接するビルの貯水槽の上に到着すると最大限の警戒を保ったままにじりよる。頭顱をモチーフにしているであろう奇妙な仮面を被った人物はゆったりと緩慢な動きでこちらを向いた。その仮面からはデザインなのか機能なのか仰々しく幾多もの
仮面の人物は抜き身の刀を持つ私を仮面の奥から見据えると驚くわけでもなく、ただただ軽く肩を竦める。
「やあ、こんなところにまでお客さんとは、なかなかに稀有なこともあるものだね」
「……」
私は、千景の切先をその仮面の人物へ向けた。
今すぐに斬りかかりたい衝動を抑え、どうにか対峙する。
なんなのだ。こいつは。今まで出会ったどの
「おやおや、出会ってそんなにすぐに刃を向けられるなんて思わなかったな」
「まるで刃を向けられることが既定事項とでも言いたいようだな」
くつくつとその仮面の人物は笑いを漏らす。
「ああ、すまないね。少しばかり気が逸ったよ」
私からすれば、黒霧らしき個性の残影の跡に立っているとはいえ、まだ眼前の人物は何もしていない一般人にカテゴライズされる。その一般人に自らの姿を晒しあまつさえ刃を突き付けている。仮面が阻みその表情ないし素顔は窺えない。誰かもわからない。しかし、仮面の奥から滲む凶相は、私にそれは悪だという絶対的な確信を与え、奴をそのまま見過ごしていいわけがないと、狩人としての勘が私に刃を下ろさせなかった。
一挙手一投足、全てに警戒している私の気配をいなすかの如く、ゆるりと仮面の人物は諸手を広げる。
「僕は、君とやり合いたくないんだ。警戒を解いてほしいな」
私は答えずに、さらに警戒を高めた。先程から明らかに奴は私を知っている口ぶりで話している。かつて私の任務対象の残党なのかと頭の片隅にちらと浮かんだが残党に逃げられるほど甘い仕事はしてきてはいないし、何よりこれほどの者ならば覚えていないはずがない。
黒霧の仲間、つまり
となればあの襲撃後に新しく
思想に共感したという線も薄い。死柄木弔の子供じみた言動に感化され同志になるとも思えない。
そうなれば考えうる可能性は、三つ。
「
「ふふふ、たったあれだけの会話でそこまで行きつけるとは素晴らしい」
「否定しないのだな。『
「冗談はよしてくれ。君がそんなに甘いたまには見えないよ。それに、否定する必要がないだろう?」
仮面の人物は怖気立つ笑い声を漏らしつつ、手を顎に当てた。
「僕は君に話があってわざわざ出向いたんだから。なあ、
そのニュアンスは明らかに私を、ひいては狩人という存在を知っているものだった。いよいよ私の警戒は限界を超え、臨戦態勢を無意識のうちにとっていた。
「僕を救けてくれないか。とてもとても困っているんだ」
「お前こそ、つまらない冗談をいうじゃあないか。論外だ」
「じゃあ、僕の仲間になってくれないか? 僕には君が必要なんだよ」
「同じことを言わせるつもりか? どこの馬の骨とも知らぬ相手に手を貸す馬鹿がいるわけがないだろう」
私がそういうとなにがおかしいのか肩を震わせながら笑い、さらに仮面の人物からは笑い声以上に不吉な悪意が立ち上ってきている。
「そうだね、自己紹介がまだだった。僕の名前は――いや、名前よりもこっちのほうがいいかな。オール・フォー・ワン、そう呼ばれているよ」
その名前を聴いた次の瞬間には、私はビルの間を一足跳びで渡ると目の前の人物目がけていきり立って斬りかかっていた。
音速に至る銀閃は頸動脈を寸分違わず断ち、胴体から頭部を完全に斬り飛ばすはずだったが、奴の硬質化した腕は悠々と首と千景の間に割って入り渾身の斬撃は阻まれてしまう。スーツが破れただけで腕にはほとんど刃は通っていない。ぎちぎちと皮膚と金属がぶつかり合っているとは到底思えない鈍い音が響き渡った。
「今度の狩人はなんて気が早いんだ。以前のはもう少し話を聞いてくれたよ」
その仮面の男――オール・フォー・ワンと名乗った男は余裕たっぷりにそういうと、力任せに千景を振り払い、反対の手で
私は空中で体勢を整えつつ、着地すると千景を鞘に納め、抜刀の構えを取る。
「その様子だと僕を知ってくれているみたいだね。光栄だ。会えて嬉しいよ。わざわざここまで出向いた甲斐があるってものさ」
まるで私を待ち構えていたかのような発言に思わず眉をひそめる。私自身が監視や尾行には過剰なほど用心していることはもちろん、上からの私への向けられた監視網を掻い潜ることはほぼ不可能といってもいい。しかし奴は私にも上にも気づかれず、私がここへ来ることを予見しているようだった。
(不可解だが、今は目の前の現実に集中する他ない)
オール・フォー・ワン。超常黎明期から生きる闇の世界の伝説。個性を奪い、個性を与える個性をもって裏社会に君臨し支配をしていた者。ワン・フォー・オールを生み出し、オールマイトに殺されたはずの者。そして、オールマイトに不治の怪我を負わせた者。
私は、目の前の光景がまだ俄かには信じられていなかった。
オール・フォー・ワンは、その場で足踏みをするように中空を蹴ると、自身の身体がふわりと宙へ浮かび上がっていく。
エヴェリンをすかさず構えオール・フォー・ワンへ向けてトリガーを数度引くが全て硬化した両腕で弾かれてしまう。
(飛び上がり斬りかかることは可能だが、奴に刃が届く前にこちらが狙い撃ちされてしまう)
内心で舌打ちをしつつも私の思考は、オール・フォー・ワンを殺すことだけに染め上げられていった。狩人としての
「穏やかじゃあないね。これじゃあ話し合いにはならなさそうだ。狩人は本当に苛烈で刹那的な生き方を選択する」
言葉とは裏腹に、特に感慨も失望の色もなく気味の悪い声をそのままに、オール・フォー・ワンはただ平坦に述べる。
「ひやりとしたよ。流石だね。話に訊いている以上だ。僅かに個性の発動が遅れていたら僕の頭と身体は泣き別れていただろう。だけど、それでこそ狩人だ。やっぱり僕の眼に狂いはなかったみたいだね」
不意に、オール・フォー・ワンは私の背後へ向けて指を指した。
「それより僕に構っていていいのかい? ほら」
突然、大爆音と共に熱風が背後から押し寄せてくる。その熱風に乗ってなにかが焼けた臭いが鼻をついた。その爆音は断続的に複数個所で起こっていき、爆音に紛れて市井の人々の悲鳴が上がっていったのだった。
「さあ、大変だ。脳無が暴れ出した。市井の人々を救けなきゃ」
「私には関係ない」
「……へぇ」
即断で切って捨てると対峙してから初めて、オール・フォー・ワンの声色が変わった。だが、次の瞬間には拍手を打ちながら滔滔と語りだした。
「いいね。狩人としてとても模範的だ。
「闇の帝王を名乗る者がそれほど饒舌だとは知らなかったな」
「ふふふ、弁舌は僕の個性以上の武器だからね。それよりも少しは動揺を見せてほしいな。喋り甲斐がない」
「笑止」
千景を鞘に納めたまま手を離しつつエヴェリンを腰に据え直し、もう一つ背に帯びていた武器へ持ちかえる。取り出した武器は、歪な曲刀ともいえる銀の刀身を持つ剣だ。
「その剣に持ちかえてどうするんだい? 予備の武器を投げつけてでもみるのかな?」
オール・フォー・ワンの挑発を無視し私は剣をその場で振るう。がしゃりと音を立てた剣は、その次の瞬間には剣でなくなっていた。
私が手にしたものは、弓剣と呼ばれる仕掛け武器である。慈悲の刃のように重なり合った二つの剣が柄頭を起点に展開し銀翼の如き姿へと変形した。絹のような銀糸を縒って張られた弦が両翼の端を繋ぎ煌めく。
変形前は剣として。変形後は弓として。対峙する相手によってその姿を全く別の物へと変える私の持つ仕掛け武器の中でも殊更に特殊なものだった。
ブーツに仕込んだ銀矢を取り出し、番え、引き絞る。
放った銀矢は風を切り裂きながら、エヴェリンから放たれる水銀弾と変わらぬ速度でオール・フォー・ワンへと迫りゆく。
「弓とは意外だけど、意味は――むっ」
オール・フォー・ワンから苦痛の声が漏れ出る。水銀弾と同じように銀矢も鈍い音を響かせながら腕で防御をされたが、弾かれることこそ目的であった。
硬化した腕を貫くまでは行かなかったものの、大きな痣が出来上がり僅かながら出血が見受けられる。
この弓剣で放つ矢には水銀弾と同じく私の血が混ぜ込んであり、硬度強度共に通常の矢を遥かに超える。更に銃と違い、私の膂力を直接伝え放つため素早く連続の射撃は出来なくとも威力の面ではこの弓剣が勝っていた。
エヴェリンでの銃撃、千景での斬撃。双方の感触から得た答えはオール・フォー・ワンの身体を思惑通りにダメージを与えることに成功したのだった。
私に致命打を与える手段が限られている以上、奴の行動を制限するように立ち回らなければならなかった。しかしこの一手で私が余裕を見せている内は、奴は空中に浮かんでいようと私には対応策があることを認識し警戒せざるを得ず、迂闊な行動は起こせなくなったはずだ。
「そんな奥の手を持っていたとは。弓が銃よりも威力が高いなんて前代未聞だよ」
「お前も空中ではそれほど素早く動けないのだろう?」
「本当に優秀な狩人だ。こんな一瞬で見破られるとはね。確かにエアウォークもそんなに楽じゃないんだよ」
相手も百戦錬磨。弁舌が武器というだけはある。ダメージを受けたことは間違いなく予想外の出来事のはずだ。しかし言葉からは微塵も焦躁も揺らぎも感じない。実際に余裕があるのか、ただのはったりなのか。全く読み取れないことは狩人として身を挺してから初めての経験だった。
私も悟られぬよう余裕をみせているが、実際空中に浮かばれ続ければ分が悪いのは私の方である。矢には限りがあることはもちろん、射当て続ければダメージは見込めるものの第二射からは防御ではなく回避に徹せられてしまうであろうことを考慮すれば期待は薄い。そうなれば掠めることはできても致命打を与えることはかなわない。矢が尽きれば、一方的に攻撃を受けてしまうことになる。それだけは避けなければならない。
「可愛げがないくらい全く隙がないね。少しは『訊きたいことがある』だの『何者だ』だの『随分と狩人を知っているじゃないか』みたいなやり取りを期待していたんだけどな」
「訊いたところで真実であるという保証も真実を確かめる術もあるまい。重要なのはお前が複数の個性を用い、尚且つオール・フォー・ワンを名乗ったという事実のみだ。虚妄分別に陥る問答をする時間など毛ほども持ち合わせていない」
「ふふふ、そう。それでこそ素敵というものだ」
不気味な笑いは、私の平常心をひどく奪っていく。
「でも、今日の相手は僕じゃない。今日は顔合わせだけのつもりさ」
「逃がすと思うのか?」
「逃がすさ。逃がさざるをえない」
オール・フォー・ワンが指を鳴らすと先程まで奴が立っていた場所にごぼとタールのような黒い粘性の液体が中空から溢れだした。
(これは、死柄木弔たちを逃がした個性……!)
奇襲を警戒し、その粘性の液体から距離をとる。粘性の液体を掻き分けて現れたものは、またしても脳無であった。
「
現れた脳無は自然体のまま脱力し不気味なほどに静かに佇んでいる。二メートルほどの体躯。所々発達した筋肉に押し破られ筋繊維が露出した浅黒い皮膚が全身を包み込んでいる。脳無の特徴である剥き出しの脳はそのままだが、どこか今までの脳無とは違いただのもの言わぬ生体兵器とは一線を画す印象を受けた。
脳無が一歩踏み出すと同時にオール・フォー・ワンはさらに高度を挙げ浮かび上がっていく。
逃がすまいと銀矢を数発放つが回避されてしまう。
「僕もこの後予定があってね。挨拶だけしてすぐに去ろうと思ったけどあまりにも楽しくてしばし時間を忘れてしまったよ。だけどあまりここで構っていられない。一旦さようならだ、狩人。
空中浮遊をしたままオール・フォー・ワンがその場を離脱していく。
(空中を移動していく? 奴は移動系の個性を持っていないのか? ならば、あの粘性の液体の個性は手元に引き寄せるだけ? いや、今はそれよりも――)
擡げた疑問を振り払い、追おうとするが、現れた脳無が猛進してきていた。
(――! 疾い!)
脳無が繰り出した拳を剣を立て受け止める。しかし、あまりのパワーに押し込まれてしまい後退を余儀なくされ、モルタルの床に二本線が引かれた。
受け止めた腕が痺れる。スペリオールと呼ばれた脳無のパワーは雄英を襲撃してきたショック吸収を持った脳無にも匹敵するものだった。追い打ちをかけるかのように脳無は両拳によるラッシュを叩きこんでくる。どうにか弓剣で受け体捌きで回避し対処しているものの、このままではジリ貧だ。これだけのパワーを連続して受け止めていれば、いずれ弓剣は破壊されてしまう。
しかし、それ以上に厄介だったのは脳無の疾さである。
(ラッシュのスピードもそうだが、この圧倒的な反応速度は……!)
速いのではなく、疾い。次の手を繰り出すまでが異様なほど疾いのだ。一手一手が致命必至の威力を持ち、それでいて最も対処の難しい角度で正確無比な攻撃をねじ込んでくる。完全に喰らうことはないものの、僅かずつ拳は掠り私にダメージを蓄積していく。
僅かでも逡巡し防御手、回避手を間違えれば、即詰みの状況に追い込まれていた。
一度あえて死して、月光の聖剣を持ちだすことも一考したが、私が死している僅かな時間であってもこの
ただ、さらに事態を窮させていることがある。ラッシュを弓剣の刃の部分で受けているにも拘らず、脳無の拳が裂かれる様子が一切ないことであった。やや食い込む様子は確認できたものの切り裂くまでには至らない。
雄英に現れた脳無がショック吸収であったように、この脳無は斬撃吸収ないし斬撃無効の個性を持っているとみて間違いはなさそうだ。
(なんともありがたい私専用の改造だ。食い込む当たり、無効よりも吸収の線のほうが濃厚か。どちらにせよ鬱陶しい)
内心で呪詛を吐きつつも、頭は次第に冷静になっていく。
(諦観することは易い。だが、この程度の困難を覆せぬほど浅い経験でもない。打開してみせよう、狩人として)
自ら弾き飛ばされるように間合いを取ると、弓剣を放る。同時に、頬から流れる血を拭い、『狩人の遺骨』を発動させ、千景に手を掛ける。
迫りくる脳無を前に、今から行おうとしていることは完全に初めてであるにも拘らず、不思議なほど落ち着いて抜刀の構えを取ることができた。
眼前に拳が迫る。
(これが、千景を持つまでできなかった
遺骨による『加速』と最速の抜刀により抜き払った千景は、音を置き去りにして血刃を形成し深紅の剣閃となって
脳無は迫る勢いのまま下半身から切り離された上半身がフェンスに衝突し、べちゃりと夥しい出血を伴いながら力なくモルタルの床に転がった。
千景を納刀しつつ、転がっている下半身を蹴とばし上半身へと近づいていく。
「丁度良い実験だった。存外有意義だったよ」
おそらくこの脳無を通じて監視しているであろうオール・フォー・ワンたちに向かって吐き捨てる。
すると、突如脳無が奇声を発し空へ向かって咆哮した。直後に切り口から筋繊維がうねり切り捨てたはずの下半身を形成してゆく。
「やはり再生の個性持ちか」
だが、もう既に勝敗は決している。もうなにもかも手遅れなのだ。完全に再生が終わると、再び脳無は私へと向かおうと歩を進めた。
だが数歩進むと、歩みを止める。がくがくと下顎が震え、口から血泡を吹きだす。
「私の血は劇毒。血刃で斬り裂いたときには既に体内に侵入している。その後にあるものはただ死のみだ」
先ほど以上の大咆哮をした直後、多量の吐血と全身――文字通り頭の先からつま先まで――から大出血を起こし倒れ伏したのだった。痙攣するかのようにびくびくと全身が震えているが既に絶命している。
「せめて安らかな死を。これ以上命が弄ばれないように」
急いて空に眼を向けるが、やはりそこにオール・フォー・ワンの姿を認めることはできなかった。逃がしたという事実に、ぎりと歯噛みする。
死体回収を依頼するスイッチを押し、ビルから眼下の街を見下ろす。どうやら無事に街の脳無も鎮圧できたようだった。被害はないとは言えないが、ヒーローたちが迅速に行動をしてくれたおかげで最小限の被害に止まったように思う。救急を報せるサイレンがけたたましく保須市中に鳴り響く。
通信端末を使い、上に重要な単語は伏せ簡易的に報告をする。報告を終えると別所でも脳無が現れ、そして同時にステインも出現し逮捕されたことを知らされた。その逮捕の貢献に、緑谷出久、飯田天哉、轟焦凍が関係していたのだという。
無茶をするな、と叱り飛ばしたいという気持ちが一番に湧き上がってきたことに気づき、苦笑いを浮かべた。
「オール・フォー・ワン……」
通信端末を切り、奴の名を口にする。生きていたという実感が去来するとともに憎悪の炎が心内に燃え盛る。
必ずこの手で葬り去らねばならない。
私が、必ず。
同時に、私は安堵を覚えていた。
「オールマイト。私は貴方を殺人者にさせない。絶対に」
手を穢すのは私だけで十分だ。
その場を遺体回収係に任せ後にする。
(オールマイトには、報せないわけにはいかないな)
オールマイトにオール・フォー・ワンの生存を報せたら、どんな思いをさせてしまうのだろう。
悲しみと怒りに満ちた顔をするに違いない。
その顔を視ることが、今からもう心苦しく私の足取りを重くするのだった。
【ある狩人の弓剣】
最初期の狩人として知られる、とある狩人の狩り武器。
銃器を忌み嫌った彼のために、工房が誂えた特注品であり
曲がった剣の大きな刃は、仕掛けにより弓に転じる。
だが僅かばかりの友の他は、皆、その狩人を嘲った。
弓で厄災に挑むなどと。