月香の狩人、アカデミアに立つ   作:C.O.

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なんか、こう、すみませんでした。


40.静謐、再会

 救急消防、および警察の到着が今回の襲撃の終焉を知らせるように非日常的な静寂を破り、囂然たる動揺が怒涛の如く押し寄せていた。

 その場は駆けつけた警察に後を任せ、怪我を負ったプロヒーローたちは救急搬送されたのであった。

 プッシーキャッツの虎とピクシーボブは軽傷で済んでいたため簡単な治療を施され既に解放されている。頭部に不意打ちを受けたマンダレイとラグドールは一時意識不明だったものの意識を取り戻し受け答えも正常であったし何らかの後遺症も今のところを見られていない。頭部等の精密検査を行うため彼女達も手厚く搬送され、虎とピクシーボブは付き添うため彼女たちは一緒に病院へ向かっていった。

 イレイザーヘッド、ブラドキングの両名も骨折や裂傷といった大きな怪我も数か所あったものの命に別状はない。リカバリーガールに依頼すれば完治まで容易くもっていくことができるはずだ。

 私も、怪我は負っていたもののひっそりと人目を盗み自死をすることで全てを無にしたのであった。

 あのときの私の状態を知っている者が、あの場にいれば突然の快復を不可解に思ったであろうが、雄英教師を含めたプロヒーローたちは搬送されていたし、生徒たちもまたすぐさま警察の保護のもと、現場を離脱させられていたため不審に思う者がいないことを確認した上で、迅速に命を絶ったのだった。

 そしてなによりも、生徒達と少年の被害がほとんどなかったことは不幸中の幸いと言えよう。緑谷出久が洸汰少年を守るために折った腕以外には誰も目立った怪我はしていなかった。生徒達も各々が出来るとこをしていたようで、轟焦凍や八百万百を中心として、防壁を築き施設の崩落から身を守っていたようだった。

 周囲の森林もかなり焼け落ちてしまっていた。消防が忙しなく消火活動に当たっており、現場から火の手が消え落ち着きを取り戻したのはかなりの時間が経ってからであった。

 警察も同じく忙しなく現場検証を行っていた。

 私は唯一搬送、もしくは保護される必要がなかったため、警察の要請を受けて実況検分に付き合うことになった。

 しかし(ヴィラン)と脳無たちの大半はオール・フォー・ワンに回収されてしまい、結局確保ができたのは、爬虫類の異形型個性であるスピナー、そしてマグネこと引石健磁の二名である。

 オール・フォー・ワンはバラバラになった脳無ごと回収していったため、結局警察に引き渡された者は先に挙げた二名のみであった。

 その際に、スピナーとマグネは毒が想像よりも酷く作用したらしく必死に私へ解毒を懇願してきたため、白い丸薬を口腔内へ押し込んでやると解毒が叶った安心感と極端な緊張の解放から気を失うように眠りに落ちていったのだった。

 オール・フォー・ワンの遺体回収のせいかおかげか、私が手を下した脳無の殺害に対しての物的証拠の全てが消え失せてしまったため、私がした脳無の殺害(こと)は過剰防衛の疑惑に留まり、脳無自体の痕跡も血痕のみという状況であったため検証は困難を極めていた。

 脳無の特異性から出血量から死に至ったかも判断はできず、さらにイレイザーヘッド以外のあの場にいたヒーローたちもあの混乱した現場状況からでは詳細な証言ができなかったと予想がつく。

 そして唯一はっきりと視ていたイレイザーヘッドも雄英のためか、私を庇ってか、警察にはっきりとした証言をしなかったのだろう。そのおかげで追及もほとんどされることはなかったのであった。

 公安調査庁特務局も警察の現場検証の始まる前に恙なく遺体回収は終えたようで、殺害したマスキュラー、ムーンフィッシュ、脳無の内の一体を引き上げ誰とも接触することなく去っていったのだった。

 私は、本来の任務の報告の前に雄英職員の一人として警察へ召集された。調書を取られ、おおよそ六時間程度の聴取の後、解放されたのであった。

 直後に、特務局本部へ呼び出しを受け、口頭による詳細報告を済ませると追撃命令が出るまで待機せよとの指示を受け、雄英高校へと戻っていったのだった。

 特務局への報告が終わると同時に雄英高校からも招集命令が掛かる。既に日が傾きかけているがこの短時間の間に三つの組織を行き来することになったのは、各組織の状況を把握するうえで幸いであった。

 雄英高校に着くと正門前には多くの人だかりができていた。その大半はマスコミであったが、中には一般人も多く紛れ雄英に対しての非難の声をあげているものも少なくなく、集団には殺気にも似た空気が醸成されていた。

 生徒達に大きな被害を出さなかったことよりも襲撃された事実そのものを非難しているようで、明確な先導者がいるわけではなさそうだったがその様相はさながら組織だったシュプレヒコールであった。

 私は踵を返し一般には公開されていない非常用の出入り口から人目に付かないよう雄英の敷地内へ入ると、そこにはミッドナイトが待ち構えていた。

 

「狩人、お疲れ様。さっそくで悪いけど、緊急の職員会議よ」

「なぜ私がここから来ると?」

「ここからくらいしか入ってこられるところないもの。正面はもとより裏門もすごいわよ」

 

 なるほど、と納得すると早速ミッドナイトは前を歩きだす。

 

「私で最後なのですか?」

「ええ。まだ治療が必要な二人を無理やり引っ張ってくるわけにはいかないでしょう?」

 

 生徒の姿の無い閑散とした校舎を歩き、会議室の扉をあけるとそこには教員が多く詰めていた。だがその顔つきは、教師ではなくプロヒーローとしてのそれだった。

 そこにはトゥルーフォームの痩せ細ったオールマイトの姿もあり神妙な顔つきで目を伏せていたが、そこから立ち昇る怒気は隠しようもなく身震いを覚えるほどに畏怖せざるをえないものだった。

 私が最後に席に着くと同時に、校長がおもむろに口を開きだす。

 

「さて、前置きは止しておこう。我々は認識を改めなければならない。(ヴィラン)活性化、などという時期は疾うに過ぎていた。奴らは既に戦争を仕掛けてきていた。このヒーロー社会を壊すための戦争の渦中に我々は身を置いていると認識しなければならないのさ」

 

 各々が、その言葉を聴いて思いを口にする。怒りを滲ませるもの、悲観的観測を隠さないもの、様々であったが(ヴィラン)に屈する精神は誰一人持ち合わせていないようだった。

 

「マスコミや世間に対しての対策も必須だが、それは私のほうで何とかするよ。それ以上に(ヴィラン)に対しての対策を早急に整えなければならない」

 

 そこで、といいながら校長が私へと視線を向ける。

 

「実際に交戦した君から、端的に(ヴィラン)たちについて所感を訊きたいんだ」

 

 校長の言葉を合図に他のヒーローからも視線を向けられる。

 いま最も必要なものは現実的な対策のための情報であろう。

 

「わかりました。率直にお話しさせていただきます」

 

 俄かに緊張感が会議室に張りつめる。

 

(ヴィラン)連合の構成員は前回の襲撃時よりも間違いなく戦闘能力については強力になっています。単独で真正面からぶつかり合えば確実に勝てるという保証はないでしょう。特に敵方が数的有利な状況、もしくは多対一の状況では撤退が望ましいかと思います」

 

 何名かの表情が曇る。

 それは、驕りやプライドといったものではなく(ヴィラン)に対しての見積もりを甘くみていた自身を諌めるものであると視て取れた。

 

「とはいいましたが、反対に雄英教師クラスのプロヒーローが連携して挑めば不意を打たれない限り特段苦も無く対応できるかと思います。戦闘能力は決して低くない(ヴィラン)たちですが、連携し戦闘するというレベルはあまり高いとは言えないでしょう。あくまでも個々に強力な力をもった者がいるという認識です」

 

 私が確認した範囲で(ヴィラン)たちの個性を話していくと険しい表情は変わらないものの、ヒーローとして自身が戦うためになにができるのか考えているようだった。

 

「ただし、一つ例外があります。襲撃時にもいた脳無と呼ばれている改造された者たちです。個体によってかなり戦闘能力、個性は差がありますが、今回私が闘ったハイエンドと呼ばれていた脳無は別格でした。反射神経、膂力、個性、持久力、体力、どれもが人の域を超えていました」

 

 さらに具体的に戦闘時の様子を伝えると、さらに厳しい顔つきへと変わっていった。

 

「今のところ、単独でヒーロー全体の、ひいては社会の脅威になりえる存在はその脳無だけですが、今回の件で連携を深めるようなことがあれば、その限りではありません。先ほども述べましたが、個々の個性は非常に攻撃的で強力なものばかりです。今はまだバラバラで個々がただ単にチカラを振るっているにすぎませんが組織的な連携を覚えてしまえば、その力は何倍にも膨れ上がってしまう。つまり、連携することを覚える前に叩く必要があると存じます」

 

 話を終えると、誰一人言葉を発することなく沈黙が下りてきていた。

 

「君からみてで構わない。私がその脳無と対峙した場合、どうなったと思う?」

 

 重苦しい沈黙を破ったのはオールマイトだった。

 

「初見であったとしても五分も戦闘したのでしたら対応策は十分に思いつくかと思います。脳無の攻撃も視てから反応できるでしょうから。ですが、これは捕獲を前提としない場合に限ります」

「では捕まえることを前提とすると、どうかな?」

「難しいでしょうね。脳無は身体強化の個性によって尋常ではない膂力をもっています。並みの捕縛武器では破壊されてしまうでしょうし、オールマイトは捕縛できる個性ではありませんから。それになにより脳無の体力を鑑みた場合、捕獲を試行錯誤している内にオールマイトの戦闘可能時間を超過してしまうでしょう」

「……はは。手厳しいね」

「オールマイトでしたら戦闘不能に追い込むのは苦もないでしょう。ですが現実的に単独での捕獲は不可能かと思います」

 

 だからこそ、(ヴィラン)連合を追う場合は、どのヒーローであっても単独では難しいと念押しをする。

 

「今のところ、対峙した脳無の内強力な力を持ったものは、何れも黒い肌をしていました。黒いといってもヒトの皮膚にはおよそ発現しないような、かなり人工的な黒です。指標としては心許ないかもしれませんが、一つの警戒のための判断材料になればと思います」

 

 私が脳無についての情報を伝え終ると、ほぼ同時にどこか間の抜けた携帯電話の着信音が会議室に響いた。

 

「すみません、電話が」

「そこは切っておきましょーよ!」

 

 プレゼント・マイクに詰られつつオールマイトが申し訳なさそうに席を外すと、会議室に張りつめていた空気がやや弛緩したのだった。

 

「この際だから、あえて言うけどよ」

 

 プレゼント・マイクが口を開く。

 

「いるだろ、内通者」

 

 弛緩した空気が再び張りつめる。

 プレゼント・マイクが内通者を洗い出すための調査をすべきと主張を始めた。だが、それもスナイプの誰もが自分自身の潔白を証明できない以上無駄であると一蹴されてしまったのだった。

 だがこれで、内通者が存在するかもしれないという意識を共有できたということはある意味で大きい。この場に本当に内通者がいるのならば、なにか動向に変化があるだろうし牽制にもなる。

 ただ、教師という立場からすれば生徒まで疑わなければならなくなってしまうのは辛いものがあるだろうとも思う。

 

「内通者の件も含めて考えていることがあるのさ。そこは私に任せてほしい。だけど今は、生徒達を守ることが最優先だね」

 

 校長が、寮制のことを簡単に説明し終わる頃にオールマイトが戻ってきた。

 

「さて、オールマイトも戻ってきたところで、そろそろ会議は解散しよう」

 

 校長が解散を促したことで各々が席を立ち会議室を後にしていく。私も出ていこうとしたところでオールマイトに呼び止められた。

 

「すまないね。少し、相談があるんだ」

「相談ですか?」

「校長も一緒にお聴きください。今、警察の友人から連絡が入ってね。(ヴィラン)連合のアジトの一つを見つけたかもしれないんだ」

「本当ですか?」

 

 まさかの言葉に思わずオールマイトへ詰めていた。

 

「ち、近いね」

「ああ、すみません」

 

 オールマイトが言うには、今回の襲撃の内の一人の人相と以前調査していた際に挙がった人物と特徴が一致したため、現在同定を急いでいるとのことだった。

 

「本来ならば、すぐにでも奇襲を掛けたいところだが、万が一『間違っていました』では話にならない。今回の襲撃を受けた件でヒーローは著しく信頼を欠いてしまった。だから間違いなく一致したと警察から連絡があった場合、即座に乗り込むためのメンバーとして君に協力を要請したいんだ。脳無と実際に相対した君がいれば奇襲時の成功確率はぐっとあがるし、なによりも信頼のできる実力あるメンバーがほしいからね」

「是非もありません。すぐに上に連絡をします。相手も今なら戦力が整っていない。奇襲にはこの上ない機会です」

「うん。それは間違いない」

 

 だが、オールマイトは「ただね」と付け加える。

 

「これは警察の予想ではあるんだけど、その場所がアジトの一つだとしてもそこにいない可能性の方が高いとみている」

「なぜでしょう」

「あくまでも複数個所に拠点を持っているという前提の元なんだけど、今回の襲撃で(ヴィラン)たちが受けた被害は決して軽いものではない。それは君が一番よくわかっているはずだ」

「ええ。少なくともあの場にいた(ヴィラン)たちは回復系の個性の持ち主がいない限り、数日で戦線復帰はできないでしょう。それが、どうしましたか」

「現在同定を急いでいる目撃者の出現したその場所は、表向きにはいわゆるバーでね。間取りやビルの構造から判断しても、とても治療ができる環境じゃないんだ。いや、治療どころか休息もろくに取れないだろう」

 

 オールマイトは腕を組みながら唸っていた。

 

「もちろん、オールフォーワンが治癒系の個性を持っている可能性もあるから一概には否定できないんだけど」

「つまり、治癒のために別所にいる可能性が高いということですね」

「そういうこと。オール・フォー・ワンは狡猾でそれでいてとても慎重な男だ。だから、その教えを受けている、ないし庇護下に置かれている死柄木が、たとえ場所が割れていなかったとしてもあの場所に留まっているとは思えなくてね」

 

 オールマイトと警察の予想はおそらくは正しいだろう。

 だからといって、その場所を調べない理由にはならないし、むしろいなかったのならば徹底的に洗い出すべきであった。 

 

「私からも特務局を通して公安本部が動くよう働きかけてみます」

「ありがたい。なにせ、相手はあのオール・フォー・ワンだからね。情報調査のプロフェッショナルに動いてもらえるなら百人力だ」

 

 それを黙って聞いていた校長が口を開く。

 

「なら、私は記者会見でブラフをはろうか。いかにもまだ調査中でまだ見当がついていないかのような口ぶりでマスコミに喧伝するよ。少しでも油断をしてくれれば儲けものだね」

「ご協力感謝します、校長」

「なににせよ、雄英に対しての非難は免れないからね。それなら最大限それを利用してやろうと思うのさ」

 

 可愛らしいネズミの姿とは裏腹に校長は、強かにそして自信たっぷりにそう言い切った。

 

「では、情報が確定次第、君には改めて連絡をする」

 

 本局へもう一度戻るべく、オールマイトから背を押してもらいつつ足早に会議室を後にしたのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 翌々日までには証言はすぐに取れたものの、突入するための証拠が乏しく警察は強制捜査に踏み切れないでいた。

 実際、雄英が襲撃されたという事実があるものの、被害状況等から特段の緊急性を要する事態に陥っていないと判断され、確実な物的証拠の確保を優先したようであった。

 しかし、多くのヒーローが現在、そのアジトと思われる場所がある地区――神野市に集まっていた。神野市は表向きには日常を崩していなかったが、水面下では着々と突入のための準備が整えられていった。

 公安調査庁特務局も(ヴィラン)連合の本拠地ならば、潜入調査をしようにも施設から予測される間取りから対峙せずに侵入は不可能であり、そして対峙してしまえば即全面的な対立になる、すなわち総力をもっての戦闘になると判断し、立地が人口や施設の密集した市街地であるが故に周囲へ起こり得る被害を考慮しすぐさまの出撃命令を出せないでいたのであった。

 その時間を利用し、私とオールマイトはとある人物と貸し会議室の一室で面会していた。

 

「よう、娘。久方ぶりだな」

「お久しぶりです、グラントリノ」

「おうおう、妙ちきりんな喋り方覚えやがって。ガキんちょが成長するのは早いもんだな」

「ええ。貴公はしっかりと御健在ですね」

「まだお前さんに心配されるような歳でもねぇわな」

 

 カラカラと笑いながら床にマントを引きづりつつ杖をついた小柄な老人はたい焼きを頬張っていた。

 反面、オールマイトはどこかぎこちなく、震える脚を止めるために会議室の片隅で腿を拳で叩いていた。

 

「俊典、おめぇそんな部屋の隅で何やってんだ」

「いえ! なんでもありません! ただ私の意志に関係なく脚が震えてしまっただけで!」

 

 冷や汗をだらだらと流しながら目の泳ぐトゥルーフォームのオールマイトという珍しいものを眼にしている。

 基本的に公開していないオールマイトの個人情報だが、グラントリノはオールマイトの体術や技術の師でもあるためヒーロー名ではなく本名を呼ぶ数少ない者のうちの一人であった。

 同時に私の全てを知る人物でもあった。グラントリノとは、オールマイトが後見人になっていただいた後、オールマイトが仕事で私に眼を掛けられない間、彼の元で世話になっていたのである。

 グラントリノはオールマイトと対面になるように座ると、一通りオールマイトと世間話をした後、再び私を見据えてきた。ほんの一瞬逡巡したようだったが、その声色に迷いはなく尋ねてきた。

 

「娘、仕事はどうだ?」

「今ではすっかり慣れました」

「慣れた、ね。お前さんの選んだ道だ。俺からどうしろとは言わんがな。ちゃんと自分を労わっているか?」

「十分労わっていますよ」

 

 私がオールマイトの真似をして戦闘技術を磨いていたとき、動きが合っていないと助言をくれたのがグラントリノであり、今の戦型の基礎を培ってくださった人物だった。

 そしてグラントリノは、私に狩人として生きるにはあっていないと助言をもらった一人でもあった。

 

「ま、もう俺が心配するような歳でもねーわな」

「そうでありたいものですね」

「ところで俺を呼び出したってこたぁ、なんかあるんだろ?」

 

 グラントリノは、その小柄な身体には似つかわしくない厳格な声色で私を見やった。

 

「ええ。オールマイトとグラントリノのお二人には議論を出来るうちにお話ししておくべきかと思いまして」

「私にもかい?」

「はい。一連の(ヴィラン)連合とオール・フォー・ワンに対峙した件についての私なりの推察です」

「……聴こうか」

 

 二人は眼の色を変え眼差しが真剣なものになる。

 最盛期のオール・フォー・ワンを知る希少な方々だ。予想であったとしても、思い当たったことがあったのならばできる限りのことはしておくべきだと判断し、お呼び立てをしたのである。

 私は、まず緑谷出久の個性(ワン・フォー・オール)に何かが仕込まれているのではないかということを二人に伝えた。

 ワン・フォー・オールという個性の成り立ちとオール・フォー・ワンの行動原理から考えうる可能性とその根拠を一通り話す。

 オールマイトは、一つ頷くと厳しい声で話し出した。

 

「君は緑谷少年が悉く巻き込まれたのは決して偶然じゃないと?」

「私はそう考えています。一つだけならば偶然で済ませられたでしょう。しかし偶然とは一度きりだからこそ偶然なのです。二度三度続くのであれば、それは必然と考えるべきかと」

 

 オールマイトは苦渋に満ちた表情を浮かべていた。

 当然である。師匠の形見ともいえる個性、そしてオールマイトが希望の下に後世へと託したものが原因だと私は言い放ったのだ。不快に思って然るべきである。

 しかし、だからこそ思い入れのある者では考慮したくないことを私が言わなければならないのだ。

 

「もちろんこれは、状況から推測したものにすぎませんし一切の確定したことはありません。ですが、これを考慮の外にするには幾分か無理があるかと思います」

「……そりゃそうだな。オール・フォー・ワンとある意味で最も関わりが深い上に否定する証拠がない以上、完全にワン・フォー・オールがシロと判断はできねぇ。娘っこの言うとおりだ」

 

 グラントリノにとってもワン・フォー・オールは亡き盟友の形見である。それを否定されるのは決して気分がいいものではないだろう。

 だが、それでもつとめて冷静にグラントリノは言葉を発した。

 

「確かに、奴の印象からはたとえ血を分けた兄弟であっても、奴自身の利がなければ施しを行うとは思えんからな。俊典も、そこはそう思うだろ?」

「……そうですね。全てを損得で考える人間でしょう。弟に個性を与えることが、奴にとってなんらかの益に繋がると判断できる要素があった、と考えるべきです」

「弟は当初から反発をしていたと聞く。それに、奴自身は狡猾で狡賢い。となりゃあ、当然のように裏切りやなまじ従順だったとしても翻意を考慮するだろうし、それに対しての保険をかけるのはごく自然なことだと俺は思うがな」

「少なくとも、考えなしに何かをする男ではないことは確かですね」

「あァ」

 

 オールマイトとグラントリノはいくらか言葉を交わし議論していたが、現状では判断に至るまでの材料が多くなく、すぐに詰まってしまっていた。

 おそらくこれ以上話を進めるには現時点では見当がついていない別の視点が必要になってくることになるだろう。

 

「今は、考えを共有できただけで十分かと思います」

「そうだね。無視はできないし、警戒しておくべきことだとも思う」

 

 私が言葉を挟むとお二人は頷き返す。

 

「今の件以外に、もう二つ議論しておきたいモノがあります。脳無と呼ばれる者と死柄木弔についてです」

「改人と(ヴィラン)連合の首魁かい?」

「ええ。まずは脳無と呼ばれる改人ですが、なぜオール・フォー・ワンは脳無をつくったのでしょうか」

 

 提示した疑問に、オールマイトとグラントリノは顔を見合わせていた。

 

「なぜって、そりゃあ(ヴィラン)連合の戦力のためだろう? 死柄木もいってたそうじゃねぇか。オールマイトを殺すために造ったと」

「ですが、グラントリノ。個性を持っているということは、オール・フォー・ワンが個性を減らしてまで渡したということです。つまりそれは、オール・フォー・ワン自身の弱体化と等しい」

「さっきも言ったが、奴は狡猾で狡賢い。極力前線にでないためだろう」 

「それが少数精鋭ならばわかるのです。ですが、実際には強力な個体だけでなく、一般人には厳しくともヒーローであるならばそれほど苦も無く捕縛できる個体まで存在しているのは些か妙だと感じるのです。ただの攪乱の為ならば、複数の個性を付与する意味がない。社会に混乱をもたらすことが動機というのは少々弱い気もします」

「……強力な個体を造る過程でできた失敗作ってことじゃねぇのかい?」

「失敗作ならば、個性を回収するのではないでしょうか。自身の個性の数を減らしたまま失敗作を野放しにするとは思えません」

「てことは、失敗作というわけでもなく、意図的に造っていると?」

「オール・フォー・ワンには一度渡した個性は回収できないなどの制約(ルール)がある可能性は否めませんが、私にはなにか脳無を使って実験しているようにしか思えないのです。特に、今回ハイエンドという個体と戦ったのですが、あの個体から別の脳無が複数出現しました。しかし、その脳無はハイエンドと比べればかなり貧弱なもので、ハイエンドにその脳無たちが持っていた個性を集約する、もしくはもう一体その個性を集約して別のハイエンドを造った方が余程効率的に思えるのです」

 

 当然ながら、高性能であるが故に量産が難しいということもあるのかもしれない。

 だが、量産する意味があるのかとも思うのだ。十体の通常の脳無よりも、一体のハイエンドの方が効率も性能もいいことは、奴らも十分理解をしているはずだ。

 にも関わらず、通常の脳無がいるというのは、なんらかの理由があるとみるべきだろう。

 

「そうなると、この脳無を使って死柄木弔を支援するのかという疑問も擡げてきます。脳無を自らの為だけに動かすならばわかります。ですが、自らの個性を削って創り上げた脳無は死柄木弔が主立って使っている。そして、なによりもただただ目的を成せずに浪費をしているという印象が強い。それはつまり、自らの個性を浪費させてでもオール・フォー・ワンが死柄木弔を手助けすることで大きなメリットがあることと同意であると考えていいと思うのです」

 

 さらに言葉を続ける。

 

「死柄木弔とは、いったいどんなメリットをオール・フォー・ワンにもたらしているのか。そして一体何者なのか、という疑問が次には沸いてくるわけです」

 

 あの死柄木弔が、オール・フォー・ワンに対してなんらかのメリットをもたらすとはとても思えない。

 感情的で、ガキっぽく、自分の思い通りにならなければ癇癪を起す。オール・フォー・ワンとは正反対にしか思えない人物、ひいてはオール・フォー・ワンが最も嫌いそうな計画を狂わせるタイプの人物であることが腑に落ちないのである。

 そんな人物に、自身の個性を削ってまで支援をする理由が全く見当たらないのであった。

 

「死柄木の正体か……」

「それがわかれば、オール・フォー・ワンの具体的な目的もわかるように思えるのです」

 

 かつてのオール・フォー・ワンは支配者として社会に君臨しようとしていた。それも、政府を転覆させるといったテロリズムの類ではなく、徐々に徐々に信奉者を増やし既存の社会システムをそのまま利用しつつも、自身の思い通りにさせるための構造を作り上げていったらしい。

 

「公安でも、死柄木の正体は掴んでねぇのかい?」

 

 グラントリノが鋭い目で問う。

 

「残念ながら。我々特務局と言えども、存在しないデータは閲覧できませんからね。死柄木弔は、偽名ですし個性登録もされておりません。以前になんらかの犯罪を起こしているわけでもありませんから、現時点での特定は困難ですね」

「なら、個性登録前のガキの失踪事件から探すことはできねぇのかい? 奴ァ、せいぜい二十前後の若造だろ? さしあたり十五年前後の記録を調べりゃ出てきそうだが。ガキの事件なら件数もそこまで多いわけじゃねぇだろう?」

「一応、本部では調べているようですが収穫が得られるかは疑問ですね」

「どうしてだ」

「少ないと言っても幼児ないし小児の行方不明事件でさえも毎年平均で千件を超えるということがまず一点。それに加えて、個性登録前の児童の件数がその内三十%あるというのが二点目。そして未発覚の失踪事件の場合、手の打ちようがないというのが三点目です」

「なるほどな……期待するほうが間違ってるな」

「そういうことです。なにより失踪事件の調査は一件ごとに膨大な時間がかかりますから」

 

 ということであれば、死柄木弔の正体からオール・フォー・ワンの目的を推理するのは不可能であると言っていい。

 さらにこれまで取ったオール・フォー・ワンの行動から目的を推理するには些か材料が不足していた。

 

「奴が、死柄木を援助する理由、か。今は判断材料がなくて暗礁に乗り上げてしまったけど考えてみる価値はありそうだね。確かに、言われてみればここまで手の込んだことをするのは不自然だ」

「あァ、今の奴の目的が分かりゃ、対策も立てられるようになる」

「ええ」

「俊典、今度こそ奴を捕まえるぞ」

 

 オールマイトも真剣な口調で、顎に手をあて考え込んでいる。グラントリノも長机の一点を見つめて考えに耽っているようだった。

 思考を続けるうちに、ふと一つの疑問を思い出したのだった。

 

「……オール・フォー・ワンの目的に直接関係はないのですが、不自然と言えばどうして脳無は脳を露出させているのでしょうか」

「どういうことだい?」

「オールマイトも闘ったことがあるのでお分かりかと思うのですが、脳無は様々な個性を有していますが結局人がベースである以上、頭部は明確な弱点です。にも拘わらず、どの脳無であってもその脳は露出している。普通、弱点ならば厚く覆うことをしませんか? 改人というだけあって、『製造』しているのならば尚更弱点部分には配慮するのが人心であると思うのですが」

「まァ、確かにそうだね」

 

 再生の個性を持った脳無など顕著であり、心臓を潰されても脳さえあれば再生することが出来る。つまり、脳を守ることが脳無が最も効力を最大化することに繋がるということでもある。

 しかし、実際にはそうなっていない。なっていないのであれば、そこには理由があるはずであった。

 

「脳を出していると機能的にメリットでもあるのかな」

「もしくは、脳を出さざるを得ない理由があるかですね」

 

 いずれにしても、こちらも何かを判断するには材料が不足していた。

 だが、私にはこの一連の違和感たちは、どこか根底で繋がっているように思えて仕方がないのである。それ以上、オールマイトもグラントリノも思い当たるフシはないらしく考え込んでしまっていた。

 数瞬の沈黙が下りたが、その沈黙は二つの電子音で破られることとなった。

 

「かかってきたよ、塚内君からだ。きっとアジトの様子が割れたんだろう」

「私も本部からかかってきました。なにか手掛かりを得たようです」

 

 端末に耳を当て、特務局からの指示を聞く。

 どうやら、突入の時間はすぐそこまで迫ってきているようだった。




【呪詛溜まり】

蹂躙されたある村の住人、その頭蓋骨。
おそらくは、頭蓋の内に真理を探したのだろう。
過酷な仕打ちの跡が、無数に存在する。

だからこそ、この頭蓋は呪詛の溜まりとなった。
呪う者、呪う者。彼らと共に哭いておくれ。

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