一つ一つが励みになります。
ナイトアイが私の予知を開始して数分後、やや青ざめた顔をして頭を振った。
「……凄惨な
「すみません。気味が悪いとは思いますが今だけ耐えてください」
「『狩人』というものを……わかってはいるつもりだったのだがな。認識が甘かった」
「お好きなだけ責めて、罵ってくださって結構ですよ。誰も咎めないでしょう」
エンデヴァーがかつて言っていた『法に依らない殺しがあってたまるか』は正論に他ならない。私のしていることは粉うことなき殺人であり『狩人』はこの国の、現代社会の暗部の象徴。それに私の活動を知り、視たのなら軽蔑し侮蔑するのが普通の感覚だ。
個性社会、それは即ち重火器以上の武力を国民が保持している可能性があることと同意なのである。
銃や刃物、劇物ならば法で所持や生産から規制すればいい。だが、個性は生まれ持った身体機能だ。当然、それを消し去ることはできない。
かつてスポーツで画一的なルールが作られなかったことと同様に、現代の法も個性に対して完全に平等な適応を与えることができていない。『原則的に個性の使用を禁ずる』といったオリンピックと同じ画一的な不平等を与えているにすぎないのだ。
だからこそ個性の存在する社会の仕組みには、明確な限界が存在してしまう。法治国家という法に依る秩序を重んじる以上、ヒーローたちも警察も法に依らざるをえない。
たとえ、相手が戦車並みの戦力を保有する個性の持ち主であっても、極端に例えればオールマイト並みの個性の持ち主であっても警察は最大の武力を拳銃で、ヒーローはその個性で逮捕を前提に対抗しなければならない。
どんな悪意を持った者であろうとも、個性を理由に逮捕拘束はできない。戦略級の個性であってもそれ自体を身に宿していることを咎めることはできないのだ。
被害が発生し
その選択肢が生まれたあとも、当然殺害以外の手段を模索する。模索している最中に更なる被害が出る可能性があっても殺害という選択肢は最後の最後まで判断されることはない。
これだけの時間が経過することが正規の手続きでは普通なのである。
それだけでなくまだ壁はある。
その条理の外から限界を超えて最短で被害拡散の可能性を排除するのが狩人の役目なのである。そこに躊躇は入らない。そして秘密裏に行われなければならないのなら鏖殺は必然。現場には凄惨な光景が多くなるというわけだ。
「いや、責められん。現代社会のどうにもできない欠陥、その尻拭いをさせてしまっているのだからな」
「お優しいのですね」
「優しくなどあるものか。私は、惨状を知って尚、止めることも辞めさせることもできない無力というだけだ。綺麗事を吐いても何の解決にもならん」
「……仕方がありません。法という人類の叡智をもってしても『個性』というイレギュラーは人の手に余ります。この役目を誰かがやらなければ社会という器は簡単に綻んでしまう。社会が崩壊すれば、人類の積み重ねてきた全てが灰塵へと帰してしまうことは自明です。その後に残るものは暴力だけ。故に『狩人』の存在は個性が生まれた、その瞬間からの宿業なのでしょう」
ナイトアイは深く息を吐くと再び予知に戻ったようだった。
しばらくの間沈黙が続く。
「む…………」
「なにかありましたか」
「いや、関係ない。また凄惨な光景がみえた、それだけだ」
ナイトアイは、依頼した内容以外は話す気はないらしい。
だが、それでいい。運命に示された道を歩かされるなど屈辱でしかないのだ。私の知りたいことは未来などではなく、今の状況を打開する手掛かり。それ以外はノイズでしかない。
また静寂が訪れ、部屋は衣擦れの音ひとつなくなっていた。
「ようやく見つけたぞ。それらしきものを」
「らしきもの?」
やや歯切れの悪いものいいをしつつも、ナイトアイは私へ向き直る。
「まず、ひとつ前提を話しておこう。貴様……いや、狩人の未来を読み取ろうとすると、全ての場面が霧に覆われたように不鮮明な映像が浮かび上がってくる。これは他の者のにはない初めての経験だ」
「個性の影響でしょうか」
「わからん。だが無関係ではないだろう」
関係があるとすれば、月光の聖剣だろうか。形而上と形而下をも自由に往き来できるのならば、未来と過去といった時間の概念に縛られずに存在できるのも道理だ。
月光の聖剣は人智では理解が及ばないが故に、情報を汲み取るという見地からすると認識阻害を起こしてしまうのだろう。
「私の個性は一時間しか発動していられない。つまり一年を連続して予知しようとすると一日当たりは六秒程度しか映し出されないことになり、その六秒に二十四時間が圧縮され映し出されるのだ」
「なるほど。場合によっては、なぜそうなったのかという原因の部分がわからないことも多そうですね」
ナイトアイは首肯する。
「起こった結果の原因部分が予知した場面よりも遥かに遠い時間軸にある場合、即座に原因を探るのは難しい。それを踏まえて聞いてほしい」
「わかりました」
一つ息を吐き、ナイトアイは喋り出す。
「おおよそ四か月後だ。予知は現在から時間が遠いほど時期にずれが生じるため、あくまでも参考程度に考えろ」
「時期は構いません。場所などに繋がる情報がほしいのです」
「場所は、詳しい場所は分からないがおそらく閑静な住宅街だ。塀やぼんやりとだが民家が視える。一般的なもの過ぎて特徴と言える特徴もない」
「ヒントにはなりませんか……なにか住所表示などがあればいいのですが」
「仕方あるまい。ただでさえ見えづらいのだ」
「しかし、基本的にはとは?」
「そこで、狩人は脳無と呼ばれているものと白髪の若者と対峙している。さらにそれを取り囲むように民衆がみている、というわけだ」
「……それは、戦闘するために対峙をしていると取っていいのですか?」
「ああ。武器も携えているし、そのあとすぐに脳無と戦闘に入っている」
「馬鹿な」
思わず言葉が口に吐いて出ていた。白髪の若者はおそらく死柄木弔だろう。そこまではいい。
だが、私が民衆の前に姿を晒し戦闘しているなどというあり得ない状況が不可解すぎたのだった。
「そして、脳無との戦闘が終わると、また別の人間と話を始めている」
「それは、先ほど言っていた白髪の若者ですか?」
「いや、黒いスーツに身を包んだ者だ」
「顔は?」
「……わからない。なにか黒いものに覆われているが、話し終わると後退していく」
「それを私はただ見送ったと?」
「そうではない。見送るしかなかったのだ」
言っている意味が解らない。
どうにも私の想像力を上回る事態が起きるようだった。
「
「どういう意味ですか?」
「私にもわからん。
「洗脳系の個性でしょうか」
「それもわからないが、黒スーツの男が合図になっているのは間違いないようだ。しかし、
「それは、おそらく
「なるほど。得心いった。そして狩人は……」
ナイトアイはその後を躊躇うように言いよどむ。
「負けましたか?」
「……いいや、逆だ。理不尽にも思える圧倒的な暴力が、殺戮がそこにあった。狩人は
視線を合わせることなく、ナイトアイは言い切った。困惑を隠しきれておらず、若干彼の手は震えていた。
だが、反対に私の頭は冷静さを保ったままだった。
そこまでの異常な状況ならば
(私が市民に襲われなければならない状況ならば、私はおとなしく殺されるだろう)
そう。私が一般市民と争う理由などない。死して
わざわざ抵抗し殺すことなど全く完全に無意味であると断ずることが出来るのだ。死体が衆目の前から消えるといった不可解なことは起こるが、それだけだ。
それをナイトアイに伝えると、雲っていた表情に鋭さが戻ってくる。
「……言われてみれば、その通りだが」
「市民が洗脳されていたり操られている程度であれば、私は手を出しません。これは断定して言えます」
「しかし、『予知』でみたものは、絶対……いやかなりの高確率で起こるぞ」
「起こりえる未来であるならば、可能性は三つでしょう。一つは、市民であろうと狩人の矜持を全て投げ捨て手を出さざるを得ない状況にあった。あまり思い当たりませんけどね」
「二つ目は狩人自身が操られていたり幻覚を見せられている場合か」
「ええ、その通りです」
「三つ目は?」
「三つ目は、その一般市民が一般市民でない場合です」
私の言葉に、ナイトアイは首を傾げる。
「どういうことだ」
「先程も少しお話ししましたが、
「それと同タイプの個性の持ち主がいるということか?」
「ええ、コピーでなくとも人形を操るタイプの個性はよくありますから。その場合は一切の躊躇はしないでしょうね」
「だが、あの光景はとても……」
確かに、トゥワイスの作り出したコピーも人形を操るタイプの個性も血は噴出さない。基本的には外見を真似る程度に留まるのが一般的な個性だからだ。
内部まで精緻に作り出す個性ならば、それだけで
「言葉にすると悍ましいですが、人形といっても無機物だけとは限らないでしょう」
「まさか……
「極めて希少な個性ではありますが、既に確認はされていますから候補から除外はできないと存じますね」
「わかっている。所謂サイコキネシスタイプの個性と無生物に命令を与えることのできる個性の複合個性であって、死体を生物と判定しなかっただけの話だが、一部界隈で騒然となった」
「ですが、類例があるのならば予想を立てるには十分な根拠かと思います」
「言っておくが、市民の数は十や二十じゃないんだ。それだけの死体をどうやって集める。我が国の葬送は土葬ではなく火葬だ。肉体を保存しておくことすら難しいぞ」
ナイトアイが呆れた様子を隠すことなく頬杖を突いた。
「例として申し上げただけです。他にも実は市民ではなく、実は
「さっきも言ったが、数は十や二十でないんだ。『狩人』がその力を行使する相手がそこまで集まるとは思えん」
「あくまで、可能性です」
「
頭を振っているナイトアイだが、その可能性を完全には否定しなかった。
「今は、その状況の予測を立てる意味はあまりありません。続きをお話し下さい。なにか少しでもヒントになるものを得なければここにいる意味がないのですから」
「……ああ、そうだな。そうして、目の前にいる者たちをあらかた斃すと再び黒スーツの者が現れる。そうして狩人と戦闘を始め、しばらくすると突如倒れ伏す」
「私が勝ったのですか?」
「わからない。言った通りだ。その黒スーツの男は突然、倒れた。狩人は、その瞬間は何もしていないにも拘わらずだ」
「よくわかりませんね。その後どうなるのですか?」
「……それも、わからない」
「どういうことでしょう」
ナイトアイは言うべきか言わぬべきか、しばし逡巡していたが再び口を開く。
「……真っ暗な画が拡がっている」
「それはつまり、私は死んだのですか?」
「普通ならば、な。だが、死だとしたらその要因すらわからないのは初めてのことだ」
再び考え込むナイトアイだが、どうやら明確な回答は得られないようだった。
「ダメだ。何度見ても、原因は全く分からない。なぜかここで画が途切れてしまう」
「そのときが来れば自ずと答えは分かるでしょうし、待てばいいだけです」
「随分と淡泊だな」
「わからないことをわからないまま無駄に足掻いても意味がないですから」
「自らの生死が関わっているとは思えん反応だ……」
予知を続けていたナイトアイが何かに気付いたようで、改めて私を見やった。
「ヒントになるかわからんが、一つ街並みに特徴をみつけたぞ」
「ほう」
「住宅街からやや離れた場所に他の家屋よりも頭一つ抜けたビルディングが視える」
「手掛かりとしては、あまり強くはないですね。住宅とビルが一緒に見える場所……それだけでは、かなりの場所が当てはまります。せめて建造物に特徴があればいいのですが」
「仕方あるまい。予知はあくまで狩人の周辺を視るだけだ。そのビルディングの全景が視えているわけでもないのだ」
「そうですね。ありがとうございます。とりあえず、本局に持ち帰って報告しておきます」
ナイトアイから得られる情報はここが限度だろう。
この報告を受けた本局は、即座に地図を睨み付けることになるに違いない。それで万に一つでも
「なにか、予知の返礼をしなければなりませんね。私にできることがあれば仰って下さい」
「必要ない」
ぶっきらぼうにナイトアイは言い放つと肩を竦めた。
しかし、その直後に顎に手をあて何かを逡巡すると再度私を見やった。
「いや、あるな。公安調査庁から調査してもらいたいものがあるのだが、それは可能か?」
「特務局ではなく本隊ということですか。上に掛け合うことは可能ですが確約まではできかねますよ」
「掛け合ってもらうだけで構わない。指定
「
昨今の指定
超人社会が形成されていく過程で、大半の大型組織がその社会制度に反発し蜂起したが、その結果ほとんどの組織はヒーローたちによって衰退、もしくは解体をされていった。
現在に残っている指定
だが、犯罪組織のネットワークとしては今もなお運用されており、
「まだ実態は掴めていないがここ一年の間に、薬物売買の動きが活発になっている。その中で奇妙な噂が実しやかに囁かれているのだ」
「それは、どのような?」
「個性を強める薬物と個性を破壊する薬物だ。今はまだ噂の段階で実物は確認できていないが、噂の広まり方が全国に至っているため調査が必要だと判断した」
「それはまた、穏やかではないですね」
数年前、
トリガーという向精神薬と同じような働きと個性を強める効果をもたらし、場合によっては肉体までも変質させる効果を持った薬物である。
当時こそ、指定薬物ではなかったものの現在では違法薬物と認められており、当時は指定
そのためトリガー事件以降、政府は事態を重く見て個性に影響する薬物の取り扱い自体を厳格化し、違法薬物に至っては今まで以上に厳しく取り締まられることとなったのである。その結果として、裏稼業であっても市場はかなり狭まっているはずだった。
「なるほど。では、ここ一年の間で急速に活動が活発化した組織を重点的に洗ってみるよう進言しておきます。個性テロ団体の資金源になっている可能性がある以上即断で動く案件になるかと思いますし、場合によってはこちらから貴公らへ本隊が協力を要請するかもしれません」
「ああ、僅かな手掛かりでも教えてほしい。相手が個性テロ団体だった際には、公安調査庁が動くかもしれんがそれ以外では
「わかりました。私による強行調査も選択肢に入るかもしれないので、そのときは根回ししておきます。上手くいき一旦私が相手に殺されれば油断と情報が一挙に手に入りますからね」
「……物騒な手段だ」
「しかし確実です。では、早速持ち帰って判断を仰ぎたいと思います」
礼を告げ、その場を辞そうと踵を返すと、ナイトアイに呼び止められた。
「狩人。帰る前に、一つだけ訊かせてくれないか」
振り返ると、そこにはなぜか憂いを帯びた双眸があった。
「どうして、そこまで死を受け入れられる?」
「また妙なご質問をしますね」
「答えてくれ。『死んでも復活できる』と自らの死を軽く考えているわけではないことくらいは、
「……」
「私は、怖い。予知によって、他人の死を知ってしまうだけでも怖いのだ」
ナイトアイのあまりの真剣な眼差しに、思わず答えに窮してしまった。
おそらく、彼が考えているような高潔な答えは持ち合わせていない。
だが、偽らずに伝えることが最も誠実でナイトアイの予知に対する礼になるのだろう。
「私も死の恐怖がないわけではないのですよ」
「そうなのか?」
「ええ。私が死してしまうことで周囲に予想外の悲劇を起こしてしまうかもしれない。人事を尽くせず死すれば、私以外に災禍が降りかかるかもしれない。それは空恐ろしいことですから」
「それは自身の生命としての死に対する恐怖ではないだろう? この命が消えてしまう恐怖……それを払拭しきれないのだ。美辞麗句をいくら並べてもヒーローとしてあるまじき自分が内側にいることを認めてしまっている。教えてくれ、どうしたら克服できる?」
ナイトアイはどこか自身を責めているような口調で問いかけてくる。
「そうだとすれば、私の話は参考にならないと思いますよ」
「それでも構わない」
「……私の生命としての、生物としての死は十五のあの満月の夜にもう終わっています。なにかの気まぐれで与えられたそれを惜しむのは少々贅が過ぎる。そして、この世の条理から外れたが故に、私には死を繰り返し血に塗れてまでしなければならない役目が課されているのでしょう。それは眼に視えるものかもしれないし、視えないものかもしれない。理解できるものかもしれないし、理解できないものかもしれない。しかしこの身が死するときは、その役目を全うしきったときだと確信している。それだけです」
「そんなもの……呪いではないか。狩人自身の幸せはどこにある」
「生まれてくるべきではなかったと罵られた私にとっては、これこそが福音なのですよ」
「そうか……その感覚だけは、一生理解できないだろうな」
「理解できない方がいいと思います。おそらくきっと、最初に死したときに私の死生観も人生観も、壊れてしまっているのでしょうから」
今も思い出せる。あの恐怖に染まった美しい夜のことは、鮮やかに脳裏に焼き付いていた。
そして、その私にとっての死の象徴もこの手で摘むことで全てを過去にし、死の経験すらも殺したのである。
だが、それは私にしかできないことだ。
「あくまで私見ですが。死の恐怖など克服しなくてもいいのではないでしょうか。死の恐怖を直視し続けていられるというのはとても強いことだと私は思っています」
「恐怖が、強い?」
「恐れを知るからこそ、他人の恐怖を理解することが出来る。他人の恐怖を理解できるからこそ、その恐怖を取り除くべく行動に移せる。他者に寄り添うヒーローには、なくてはならない大切な能力です」
死という最も根源的な恐怖。それに寄り添えないものは、ヒーローという職業を完遂することはできない。
自己犠牲や命を賭すという行動は、その命の価値を知らなければできないことなのだ。
「ですから、恐怖を消してしまうというのはヒーローであることを、他人に寄り添い理解しようとすることを放棄することと等しいのではないでしょうか。打ち克つのではなく恐怖を知って尚、その先へさらに一歩踏み出す意志と力をもつ者。それがヒーローなのだと私は思います」
我ながらヒーローの如何を語るのは噴飯ものだ。
だが、今のナイトアイにはヒーローから最も遠く、しかして同じ因果を背負った者の言葉が響くのだろう。だからこそ、ナイトアイともあろうものが私へ問うてきたのだ。
溺れるものの藁にもなれはしまいが、この言葉程度が彼に安息をもたらすならば歯の浮く台詞も吐いてやるのが、彼の予知に対する礼になる。
「それに案外、ヒトというものは一度死を経験してしまえば、私に限らずに生物的本能としての死の恐怖は克服できてしまうのかもしれませんよ。問題はほぼ全員一度しか死ねないということですが」
「……笑えん冗句だ」
「そうですね。私にユーモアのセンスはありませんから」
逆説的に、生命としての死の恐怖を感じることこそがヒトである定義なのかもしれない。
そう思ったが、それは口にしないでおいた。
「……すまないな。下らぬことを訊いた。忘れてくれ」
「ええ、ナイトアイがそれを望むのでしたら聞かなかったことにします」
「我ながら、血迷ったことをした。つまらん喜劇のほうが幾分かマシだな」
ナイトアイはいつもの口調に戻り、先程までの悄然とした様子は消え失せていた。
「他に何も無いようでしたら、私は失礼しますが」
「ああ」
ドアノブに手を掛けたところで、再びナイトアイに呼び止められた。
「狩人」
「どうしました?」
「運命というものを信じるか?」
「信じていませんね」
「断言するのだな」
「私は、運命の操り人形ではありません。進む道は私が決める、私だけのものです。そこに運命如きが介入する余地を与えるつもりは毛頭ないのですよ」
「……そうか」
「本当にどうしましたか?」
「私も狩人を見習って予知の結果にまた抗ってみようと思っただけだ。……ではミリオと緑谷出久を頼んだぞ」
「雄英の教師として、当然生徒には最大限配慮しますよ」
「ああ、それで構わない」
今度こそ、部屋を辞した。
木漏れ日が揺れる。盛夏の日差しがやけに眩しく感じる。
事務所から退出し、改めて事務所を振り返った。
(あのナイトアイが、不器用に笑っていた。一体私の未来に何を視たのだろうか)
運命など信じないと断言したが、不吉の影を感じざるを得ないまま帰路に着いたのだった。
【ガトリング銃】
古狩人がとある旧市街で用いた設置型機関砲。
これを手持ちできるように無理矢理に改造したものであり
古狩人の三人の仲間、最も若い一人が用いたという。
極めて高い連射性能を持つが
ごく重く、また水銀弾を急激に消費する。
扱いの難しい武器と言えるだろう。