月香の狩人、アカデミアに立つ   作:C.O.

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本当に書くための力になっています。


46.飛兎竜文、生徒対ミルコ

 雄英一年の仮免試験が目前に迫る中、私は雄英高校の廊下をA組へ向かう最中にも拘わらずミルコに纏わりつかれていた。

 

「なァ、勝負しようぜ、勝負。じゃなかった、訓練しようぜ」

「しません」

 

 書類を抱えている私を無視して、ミルコは肩に腕を回し私へ体重を預けてくる。

 二学期も始まり対(ヴィラン)学の授業資料を作ろうと職務に勤しんでいると来客があると知らされ応接室へいけば、そこにはミルコの姿があった。

 ナイトアイからミルコへあの日、秘密裏に依頼されていたというカバーストーリーに沿って事情を説明してもらうと、彼女は聞く気もなさそうにオフィスチェアの背もたれを抱きかかえつつ、気だるげに顎を乗せて適当な相槌を打っていた。

 一通り説明を終えると、ミルコは私の方へ椅子を回し「おっしゃ、わかった。ナイトアイがそーゆーならそうなんだろ。じゃあ、勝負しようぜ」と素っ頓狂なことをいいだしたのである。

 無意味な手合わせをする必要もないと思い、その場で断ったのだが、しつこく言い寄られついにこうして雄英にまで押し掛けてきたのであった。

 

「約束が違ェじゃねェかよォ」

「そもそも約束をした覚えがないのですが」

「訓練ならいいつったろ?」

「訓練でもないのに無意味な手合わせをする理由がないと申し上げたのです」

「ってことは訓練ならいいってことじゃねェかァ」

「なぜそうなるのですか」

 

 先程から、雄英生徒たちの奇異の視線が突き刺さってくる。トップヒーローのミルコがこんなところにいることもそうであるし、普段の勝ち気な彼女からは考えられない様子で私にしなだれかかって引きずられているのだから当然であった。

 ただ正直なところ、勝負がしたいというミルコの気持ちがわからないこともないのだ。

 フィジカルに関しては、たとえトップランカーであっても彼女と比肩するものはほとんどおらず、格闘戦に限っていえば彼女より明確に上の存在はオールマイトしかいない。つまるところ、彼女と真っ向から撃ち合うような訓練ができる者はほぼいないのである。

 それにオールマイトにしても多忙の如何を考慮しなかったところで、(彼女自身は知らないだろうが)肉体の活動限界的な意味で余裕を作ることができないのだから、断られてしまうであろうことを考えれば相手を務められるものが誰もいないのが現状だ。そこに私が現れ拳を交えた結果、それなりに撃ち合える相手だと分かったのだから、これ幸いと勇んできているのだろう。

 

「いいじゃねェか。狩人だってあの喧嘩、結構楽しかったろ?」

「楽しいわけないではないですか。生きた心地がしませんでしたよ」

「ウソを吐くな、ウソを。分かンだよ。蹴り交えりゃ、それくらい」

 

 ミルコは私の頬を人差し指でぐりぐりとつつきながら、一段と体重を預けてくる。

 

「確かに貴公の錬度の高さには驚かされましたし、素晴らしい戦闘技術に舌を巻くばかりでしたが、あんな命のやり取りは御免被ります」

「てコトは、訓練ならいいってことじゃねェかァ」

「ですから、なぜそうなるのですか」

 

 そんな愚にもつかないやり取りを繰り返しているうちに、いつの間にかA組の前までやってきてしまっていた。

 廊下の角から上鳴電気が現れた。

 

「ちーっす。狩人先生、どしたんすか。その肩のヒト……って、うおお!? ミルコォ!?」

「ああ、上鳴くん。そろそろ授業がはじまりますよ」

「そんな平熱なお答え!? いや、なんでミルコがここにいるんスか!?」

 

 私は上鳴電気のミーハーな性格からくる正常な反応に安堵を覚えるが、彼自身は混乱してるようだった。

 

「おう、ここの生徒か。お前からも言ってやってくれ。私との勝負に付き合えって」

「ミルコと狩人先生の勝負!? うわ、メッチャ観てぇー。するんスか?」

 

 しないと喰い気味に否定すると、またミルコは私の頬に人差し指を立ててきたのだった。

 

「な? やろうっつってもこんな風につれねぇンだよ」

「こんなミルコもそうスけど、狩人先生がされるがままにイジられてるとこみるの初めてッス……」

 

 上鳴電気の苦笑いが存外突き刺さる。以前オールマイトに生徒からの畏怖の念は大事にすべきと教えていただいたが、どうにも守れていそうになかったのだった。

 

「あのー、ところで……」

「あん? どうした」

「握手して、もらえないッスか? メッチャファンなんスよ!」

「あー……?」

 

 ミルコは乗り気ではなさそうに頬を掻いたが、ぶっきらぼうに左手を付き出していた。

 おそらく上鳴電気を味方に付けて私を説得させようという魂胆だろう。内心で嘆息せざるをえなかった。

 

「あざッス!」

「バカ野郎おおおっ!!」

「ぶほぁっ!?」

 

 上鳴電気がミルコに近づいた瞬間、小さな影が彼の脇腹に突撃し上鳴電気の体は吹き飛んでいった。

 

「そこになおれぃ、上鳴電気ィ! 再教育してやるゥ!」

「ななな、何すんだ峰田ァ!」

 

 峰田実が突然いきり立って上鳴電気の前に立ちはだかっていた。

 

「貴様ァ、花は遠くから愛でるものであって挟まりにいくなど言語道断! 過激派なら今ので殺されててもおかしくないんだぞォ!」

「いつにも増して何いってるか全ッ然意味わかんねーんだけど!?」

「オイラだって挟まりたい願望をぐっと堪えてるのに……よく見ろ上鳴ィ!」

「な、なにをだよ」

「美人通り越してカッコよすぎる女性ヒーローランキング一位とミステリアスすぎて美人なこと以外全然わからん女性ヒーローランキング一位が肩を組んで顔を寄せて並んでるんだぞ! こんな激レアな瞬間に貴様のようなノイズが混じることは許さんっ!」

「ああそのランキングは納得……いや、そんなランキング初めて聞いたんだけど?」

「フッ、信頼と実績のオイラ調べだ。信憑性はお墨付き、だぜ」

「信頼と信憑性って言葉を辞書で百万回ずつ調べた方がいいと思うぞ」

「考えるな、感じるんだよォ! ファンサが極端に少ない二人、てゆーか片方はメディア露出がほぼインタビューだけ、片方はあらゆるメディア露出絶無! その二人のプライベートな絡みなんて滅多に視られるもんじゃねぇんだ! そんな聖域に土足で踏み入ろうなんざあっちゃイケねェだろう!?」

「お、おう……」

「それに、時には遠くから眺めているだけの方がいいこともある。オイラはそれを職場体験で痛感したのさ……」

 

 突如始まった二人のやり取りに対して、ミルコが呆れながら私へ問う。

 

「何言ってるか全然わかんねェぞ、あいつら。今時の学生ってあんな感じなのか」

「安心してください。私にもさっぱりです」

 

 興奮した様子で峰田実は上鳴電気に説教のようなものを続けている。しかし二人とも唐突にこちらへ向けて両の人差し指と親指で額縁を型どるように構えて眇めた。

 

「だから、眼に焼き付けとこうぜ。このかけがえのない世界にたった一枚のオイラたちだけの絵をよ」

「ああ、峰田の言うとおりだ……」

「たっぷりとした銀髪とブロンドのコントラストは、さながら朧月だぜ……」

 

 本格的にわけのわからない様相を呈してきていた。

 そんなことをしている内に、予鈴が鳴り響く。

 私が教室に入るように促すと、冗談もほどほどに二人は大人しく教室へと戻っていく。

 だが、ミルコは一向に離れようとはしない。

 

「貴公も、そろそろ諦めたらどうですか?」

「諦めるわきゃねェだろうが」

「私に構うほど貴公も暇ではないでしょうに」

「暇じゃねェから、こうして針の穴みてェな隙間時間使ってわざわざきてんだろォ」

 

 個人的にミルコは竹を割ったようなさっぱりとした性格だと思っていたこともあり、ここまで粘るのは予想外だった。

 

「なぜ私に拘るのですか」

「理由? 一つは面白れェから。もう一つは私の修業に付き合える珍しい奴だから」

「やはりそうですか」

「でもまんざら私のためだけってわけでもねェんだぜ?」

「どういう意味でしょう」

「狩人。お前実力が拮抗してる相手と戦い慣れてねェだろ。あんなんじゃ、いつか本当に人殺しちまうぞ」

 

 瞳に剣呑な光が宿っていた。ミルコは言葉を続ける。

 

「狩人の実力にケチはつけるつもりねェし、つけられねェよ。けど、私の背中に叩き込んだあのパンチ。私じゃなけりゃ死んでてもおかしくねェんだ。てゆーか、壁に激突する間際に脚で威力相殺してどうにかあの程度で済んだからいいモンだが、他の奴なら死んでンぞ」

「……それは、貴公だからこそ無事でいられると思って撃ったのですよ。そうでなけれはそれ相応の対応をしました」

「ンなら、例えばあそこにいたのがエッジショットやらベストジーニストならどうする? 生半可なことじゃあいつらも止まらねェし、温りィことして舐めて掛かれる相手でもねェ。かといって鍛えているとは言っても私ほどタフなワケじゃあない相手だ」

 

 『狩人』という職務上、拮抗した相手イコール殺害相手なのだから本当に殺してしまうも何もないのだが、今回の任務のような突発事故に対応する必要も確かに出てくるかもしれない。

 想像を巡らせてみる。証拠を確保し、ヒーローたちに必要以上に負傷させず脱出する方法。言われたとおり、少なくともミルコ以上の怪我、下手をすれば今後のヒーロー活動に支障をきたすかもしれない程度のダメージを負わせなければ無力化は難しかっただろう。

 何を優先すべきか、ということもあるが、そもそも『狩人』という存在は役割から考えれば(ヴィラン)に特攻させる捨て駒的な意味合いが大きいとはいえ、ヒーローたちを無闇に損耗させないための存在という一面も少なからずある。だというのに、その任についている私がいくらイレギュラーな状況であったとしてもヒーローを負傷させているようなことは本来ならばあってはならないのだ。

 その事実に行き当たってしまうと手加減を覚えてきたなどと以前に自画自賛していた自分が恥ずかしくなり、自己嫌悪に陥っていた。

 

「……少なくとも無傷は不可能ですね」

「だろ? つか、私も無傷じゃなかったっつの。実力差が離れてる相手なら十分加減できてンのかもしれねーけど、割りと本気でやらなきゃならねー状況じゃ調整が途端にヘタクソになる」

「ヘタクソ……」

 

 私が執行するということは、つまるところ必然的に相手はヒーローに重篤な被害が及ぶ可能性のある強力で凶悪な者が多いということでもあり、尚且つそこに躊躇をいれようものならばこちらが殺されてしまうため今までブレーキを掛けるようなシーンなどほとんど存在していなかった。それどころかアクセルを全開にして、なんならさらに踏み込むようなことしかしてこなかったのだ。

 それを今さらヘタクソと言われても心外である、と反論をするわけにもいかず、つい視線を逸らしてしまった。

 

「それによ。生徒たちが今後メキメキと力つけてきたらどうするつもりだ。いきなり狩人レベルに行くことはないにしても、雄英生に限らずこの年齢の奴らは爆発的に伸びる。それを同じように対応して大怪我させるつもりかよ?」

「それは困りますね」

「だろ?」

「……ええ」

 

 反射的に口を突いた言葉に私自身が困惑し唇に指を当てていた。

 その困惑にミルコは気づかないのか気にしていないのか、言葉を続ける。

 

「てことで、私は楽しく喧嘩ができる。狩人は手加減の訓練ができる。最高だろ?」

「喧嘩と言ってしまってるではないですか。ですが、それはそれ、これはこれ。つまりやりません」

「なんでだァ!」

 

 戯れのような会話を続けていると、もう本鈴の直前になってしまっていた。

 

「本当に授業が始まってしまいます」

 

 今日は仮免試験前の最後の対(ヴィラン)学だ。敵対する際に考えうる状況を浚い直すつもりである。

 

「ンなら、授業の後にもっかいくるからなァ」

「来られても結果は一緒だと思いますが」

 

 私の言葉を聞いたのか聞いてないのかわからないようなスピードで一瞬にしてミルコは立ち去ってしまった。

 この分だと、間違いなくまた来るのであろう。嘆息しようと思ったが、最近多くなっていることに気づき何とか飲み込んだのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 放課後になり、いつものように訓練を始めようと体育館γに向かうと何故か生徒に紛れてミルコがいるのだった。

 どうやら、今は上鳴電気と一対一の組み手をしているらしい。それを離れたところで他の生徒たちがみていた。

 

「ここでッ!」

「甘ェッ!」

 

 懐に飛び込んできた上鳴電気の繰り出した拳打をミルコは脚の裏で受け止める。

 バチバチと上鳴電気の拳に纏っていた電気が弾けた。

 

「ウェッ!? なんで効いてな――」

「残念だったな。絶縁してンだよ」

 

 上鳴電気を弾き飛ばしつつ、ミルコはその反動を身体の回転に加えバックスピンキックへと繋げ、そして上鳴電気の顔面横で寸止めする。

 

「私の勝ち、だな!」

「ありがとうございました! って、なんで絶縁体仕込んでるんスか! 完全に俺メタられたんだけど!?」

「前に電気扱うタイプ蹴っ飛ばしたときに痛い目みてッからな。だから私のスーツは絶縁仕様、ついでに耐炎繊維だ。これでも動きやすいだけじゃなくて、いろいろと拘ってんだぜ」

「マジかぁ~……じゃあフツーにやられたってワケね……」

 

 互いに礼を終えるとがっくりと肩を落とす上鳴電気だが、ミルコ相手に増強系でもない個性であれだけやりあえれば十分すぎると言えた。

 ただミルコもミルコで、どうにも今のバックスピンキックは、私がミルコと対峙した際にやったことを実験的に真似ているようにも思えた。とはいっても、既に模倣の域ではなく彼女自身の技として昇華されているのだから、凄まじい戦闘センスであると驚嘆せざるをえない。

 

「落ち込むなって。いいセンスしてると思うぜ」

「マジスか!」

「ああ、ちょいとビビッてんのと素直すぎるところがあるがな。自分(テメェ)の間合いでなにをやれるかをよく理解してる。その歳でありがちな個性ブッパしかできねぇような戦い方とは明確に一線を画してっから自信持ちな。そのまま訓練重ねていきゃあ、プロでも活躍できるようになる」

「あざッス!」

 

 私がくるまでに生徒たちとミルコはすっかり打ち解けてしまっているようだった。

 ミルコは私を見つけると、こちらへとやってきた。

 

「よォ、遅かったじゃねェか」

「本当にまたいらっしゃったのですね」

「あたりめーだろォ」

「ですが、今からは生徒たちとの訓練があるので貴公のお相手はできませんよ」

「フッフッフッ」

 

 唐突に悪戯を思い付いたような子供じみた笑みを浮かべ、ミルコはにじりよってくる。

 

「あいつら、仮免試験に挑むんだってな」

「ええ」

「最近やったモンを軽く話を聞かせてもらったが、足りてねーことがあるんじゃねェか?」

「足りていないこと?」

 

 厳密に言えば足りていないことだらけだが、それでもある程度なら仮免試験をカバーできているはずだ。

 だがミルコの言い方からすれば明確に欠落している部分がありそうな言い回しであった。

 

「プロとの随伴行動。仮免つっても市街に出て単独行動することのほうが少ねェんだ。プロと一緒に行動し、その指示を仰いで動くのが一般的だろ。けど大体のヤツは、いざ外に出てもプロのスピードに付いていけずに追いてかれて泣き言を言いやがる。速すぎるだのなんだのってな」

「やってはいませんが、それは取得した後に予定しています。とはいえ、現時点でかなり前倒しでカリキュラムが組まれているので手が回っていないというのも事実ではありますし、事前にやっておいた方がいいというのは確かでしょうけれど」

「だろ? そこで私が一肌脱いでやろうってワケだ」

「貴公が?」

「私が(ヴィラン)役をやってやっから、狩人があいつらを引き連れて市街捜索。広域(ヴィラン)被害の想定でな。それなら、どうよ?」

「どうよ、と言われましても」

「私は狩人と戦える。あいつらは仮免対策と仮免取得後の訓練になる。Win-Winだろ?」

「私にWinの部分がないのですが」

「細けェことは気にすんなって!」

 

 ミルコの言うことにも一理あるが、その場合致命的な問題が生じてしまう。それは、私が随伴行動をとったことがほぼないということだ。それどころか誰かに指示を飛ばして、指揮を執るなどという経験がない。

 生徒たちに十全な経験を与えられるかは甚だ疑問であった。

 ただ、せっかくミルコが妥協してまで申し出てくれている。学内の教師陣だけでなく、学外のヒーローと交流し経験を積めるまたとない機会でもあるのだ。私の事情だけで、その機会を不意にすることも不合理であろう。

 

「わかりました。そこまで申し出てくださったのでしたら、ご指導ご鞭撻いただきましょう」

「よォしっ!」

「報酬は、後日雄英からお送りするように手配しておきますので」

「イラネって。そんなんのために言ってるワケじゃねェし」

「ダメです。お受け取りください」

 

 外部講師招請の扱いでいいだろうか。あとでイレイザーヘッドに相談しておく必要がありそうだ。

 さらに念のため釘を刺しておくことにする。

 

「ただし、やるにあたって条件があります」

「あン?」

「一つは、あくまで生徒たちのためにやることを約束してください」

「わーってるよ。そこまで私だってガキじゃねェ」

「二つ目は、私を含めて五人一組で、一回。計五回試行させてください。多人数がすぎますとあまりリアリティもありませんので」

「あァ。むしろ五回もやれんなら歓迎だ」

「もう一つ。やるのでしたらヒーロー役と(ヴィラン)役を一回ずつ交互に交代してください」

「いいけどよ、なんでまた」

「……正直、単独行動ばかりであまり連携してきた経験がないので貴公のほうが上手くみなさんに経験を積ませられるのではと思っています。それに私は(ヴィラン)役のほうが性に合ってますので」

 

 私がそういうと、ミルコはきょとんとして次の瞬間には大笑いを始めた。

「私だって誰かとチーム組んでやってるワケじゃねェんだから、多分似たようなもんだぞ。現場ごとのチームアップでも割りと好き勝手動いてっから指示なんざほとんど出すことねェし。そんなに卑下すんな」

「それでもです。指揮をするのは私より貴公の方が適任かと思います」

「ま、でもそれくらいなら構わねェよ」

「では、最後に一つ」

「まだあんのかよ」

「一番大事なことです。彼らに同意を得ませんと」

 

 私がミルコの背後に手を向ける。

 だが、答えを訊く必要はなさそうだった。

 

「いいねェ。ギラついた眼ェしてンじゃねェか。狩人以外でも楽しめそうだ」

 

 活気づく生徒たちは、気合いも闘志も十分のようであった。

 

「ああ、それと」

「またかよ。さっき最後って言ったばっかじゃねェか」

 

 他の生徒に聴こえないように、ミルコの耳元に顔を近づける。

 

「この訓練のあとでよろしければ、一対一でお相手します」

 

 私がそういうと、ミルコは口角を吊り上げた。

 

「言ったな?」

「二言はありません」

 

 流石にここまでやってもらうのなら、ミルコの意図を汲んでやらねば不義理がすぎるというものだ。

 ミルコはバシバシと私の背中を叩き、肩に肘を乗せてきた。

 

「やっぱ、お前イイ奴じゃねェか!」

「別にイイ奴ではありません」

「照れんな、照れんな!」

「照れてもいません」

 

 上機嫌になったミルコにまたしても頬をつつかれつつ、バスと会場利用の手配のための申請を行うべく、携帯端末を取り出したのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 夕闇が迫る中、運動場γ――工場地帯を模した訓練場に移動しチーム編成をしていた。

 ミルコは組み合わせを決めている間、適当に時間が経ってから合図をするから軽く下見をしてくるといって跳んでいってしまった。

 その間に、生徒たちに詳しい訓練方法を説明も同時に行っていく。

 ヒーロー側の勝利条件は、全員の要救助者の避難を完了させること。そして(ヴィラン)役を拘束、捕縛することである。

 (ヴィラン)役の勝利条件は、拘束、気絶、戦闘不能等でヒーロー役を全滅させることだ。

 ただし、時間制限として一チームに割り当てられた時間は二十分となっている。互いに勝利条件を満たせずに時間が過ぎれば、強制的にドローとなるというルールだ。

 実際に行動するのは、生徒四人に加えて私である。その他の十六人の生徒たちには、被災者役をやってもらうことにし、訓練場のあちこちに散ってもらうつもりだ。被災者といっても、怪我をしているだけでなくたまたま居合わせた等、どんな様子なのかは各自に任せランダム性を持たせるようにしてほしいと要望を伝えておいてある。

 生徒同士の組み合わせと順番はくじ引きで行い決定し、その結果最初に私と組むことになったのは轟焦凍、砂藤力道、蛙吹梅雨、常闇踏陰の四人となったのだった。

 

「さて、一応おおまかな作戦行動だけ決めておきましょう」

「先生、ちょっといいですか」

 

 私が四人へ向けて話しかけると、轟焦凍が神妙な面持ちをしていた。

 

「俺、単独で動いたほうがいいかもしれません」

「どうしてでしょう」

「砂藤はともかく俺の氷は蛙吹の個性と相性が悪い。かといって炎は常闇の個性と相性が悪い。俺自身もそうですけど、俺がいると二人が全力を出せないと思うんで」

 

 確かに相性は悪いだろう。しかし、それだけで単独行動させる理由にはならない。というよりも、単独行動をさせては意味がないのだ。

 

「でしたら、その相性の悪い相手とどうすれば連携が取れるかを考える場にしてください。それが轟くんの課題です」

「……足を引っ張りたくないんです」

「逆ですよ。足を引っ張るなら、今の内です。訓練なのですから。それに今回の場合、皆さんには戦闘よりも救助を主眼に動いてもらうつもりです」

「それは、俺たちは戦力外ってことですか」

「いいえ――」

 

 会話を遮るように、遠方から、しかし大音量で建物の崩壊する音が響いた。準備完了の合図だ。「ケロ。すごい音ね」と蛙吹梅雨が言葉をこぼすと同時に、全員が臨戦態勢をとった。作戦を決める前に、時間がきてしまったようだ。

 

「狂乱の宴の始まり……」

 

 常闇踏陰が黒影(ダークシャドウ)を纏う。

 

「せめて置いていかれないようにしねぇとなぁ」

 

 砂藤力道も個性であるシュガードープを発動させた。自信なさげに独り言を溢しているが、今回のキーマンは砂藤力道になるだろう。

 

「私が先頭を行きます。蛙水さんは左方を、常闇くんは右方の警戒をお願いします。轟くんは殿を担当してもらいます。砂藤くんは、私の後方に付いてください。あとは向かいながら作戦はお伝えします」

 

 私が先程の音の方向へ向かって走り出すと、それに応じて生徒たちも追従を開始した。

 距離はおおよそ千前後といったところだろう。この短い中でどれだけどれだけ作戦を伝えられるか、私の力量も問われることになりそうだった。

 速度をやや緩め、砂藤力道と並走する。

 

「砂藤くん、走りながら聞いてください」

 

 今回私が考えていることの概略を伝えると、砂藤力道は焦りの色を浮かべた。

 

「え、えぇ? それ、俺に務まるんですかね? フロッピーとかのほうが適任なんじゃ……」

「務まるのか、ではなく務めるのです。轟くんが個性の相性の件で心配していたことも事実ではありますからね。つまり砂藤くん以外にはできない役目であると同時に、集中の持続は砂藤くんの課題でもあります。いい訓練になると思いますよ」

 

 どうにか最低限を伝え終わる頃には、建物が崩落した現場にたどり着く直前だった。

 

「では、頼みました。砂藤くん」

「わ、わかりました」

 

 崩落した建物のすぐそばの大通りには、ミルコが腕を組んで仁王立ちしてしていた。

 

「よォこそ、ヒーロー諸君」

 

 ふてぶてしい笑みを張り付けたミルコは、おもむろに腕組みを解くと、一足跳びで私へと躍り掛かってくる。

 私も迎え討つために加速し、空中で両手で組み合い膝蹴りを繰り出しあった。直後にミルコは顔面を狙って突き上げるように蹴り上げてきた。反射的に上体を反らすも鼻先を掠る。さらに、その蹴り上げた脚を即座に脳天目掛けて叩き付けようと振り下ろしてきた。

 カウンターとしてミドルキックをミルコの右脇腹にねじ込み、さらに両腕で押し込むことでミルコの体勢を崩しにかかる。だがそれでも振り下ろされた踵落としの軌道はズレたものの右肩に直撃した。

 互いに技を繰り出すことで本来の技の破壊力から大きく減衰させ相殺させたが、なお威力は甚大であった。腕力では私が上、しかし脚力ではミルコが上。

 相互に弾き飛ぶように間合いを取り、再度構え直しミルコを牽制する。

 ミルコもダメージは小さくないであろうにも拘らず、笑みを絶やしていなかった。

 

「ショート! 先生の背後を塞ぐよう氷の壁を張ってくれ! 俺たちと先生を分断するように! 先生がミルコを止めてくれる間に周辺の救助をするぞ!」

「あ、ああ」

 

 砂藤力道の指示に轟焦凍は一瞬戸惑いを見せたが、程なく大通りを塞ぐ巨大な氷の壁――穿天氷壁が放たれた。

 

「援護はいらない、ってかァ!」とミルコは高笑いとともに突撃をしてくる。

「ぶつからざるをえないのであれば、無駄な消耗は避けるべき。故に鬼札(ジョーカー)に対しての基本戦略をとったまでです」

 

 実際、今の私は武器を持っていない丸腰でありミルコ相手に周囲へ気を配ることはできるほど余裕はない。

 眼前に集中できるようにしたかったというのはあるが、それ以上にミルコの選択肢を一つ奪っておきたかったのだ。

 

「凍結すれば立体的な高速機動はしづらいでしょう?」

「まァ、なッ!!」

 

 ミルコの放つ矢のような跳び蹴りをガードしつつ、再び間合いをとった。

 轟焦凍の穿天氷壁から放たれる冷気が周囲を徐々に凍らせ、霜が伝い覆っていく。

 私の役目は、ひとつはミルコを釘付けにすること。ミルコがその気になれば、この氷壁を破壊することもワケはないだろうが、私と戦闘をしながらではその機会は限られてくるだろう。であるならば、 私が対峙する限り、生徒たちはミルコの警戒よりも救助を優先することができる。無理に攻めずとも時間を掛けるだけ私たちが有利をとれる状況なのだ。

 

「流石に、このまま五対一になったら分が悪ィか」

 

 ミルコはポツリと洩らしたが、声色には余裕が感じられた。まだ十分勝算があると踏んでいるのだろう。

 先日の潜入の際もそうであったように、純粋な近接格闘は確かにミルコのほうが上。相手の土俵で戦うのは愚策も愚策である。

 だが総合的な戦闘ならば、その限りではない。伊達に私もヒーロー達以上の修羅場を潜り抜けてきたわけではないのだ。

 決定打を喰らわぬようカウンターとパリィング(いなし)を中心に組み立てつつ、受け身になりすぎない程度にはこちらからも攻めていく。私の攻撃に合わせてミルコも迎撃をしてくるが、基本の戦型は先の先を取りに行く息も吐かせない乱撃であった。

 攻撃を捌く中で視界の端に常闇踏陰が被災者役の生徒を抱えて、避難ポイントへと屋上を伝っていく様子を捉えた。

 

(頃合いだな)

 

 そう思ったのと同時に、遠方で火柱が上がった。

 

「増援が来る前にカタつけさせてもらうぜ」

 

 どうやらミルコも生徒の影を察知していたらしく、ミルコの攻撃が一層激しく真剣味が増していった。

 だが、その本気で仕留めに掛かってくる態勢こそ、私が待ち望んだ状況なのである。

 攻防の最中、狩道具『獣の咆哮』を発動させ、すれ違いざまにミルコの耳殻に向けて絶叫を叩き込んだ。

 

「ッッ!?」

 

 聴覚に優れた者でなくとも、爆豪勝己の爆撃を弾くほどの音撃に中てられれば少なくとも数瞬の間は怯むことは必至であり、至近距離で放つ分それなりに加減したとはいえミルコクラスに聴覚が鋭い者に直撃すればその効果は推して知るべしである。反射的に両耳を防ぎ硬直したミルコに間髪いれずにミドルキックを打ち込んだ。

 それでもミルコは超人的な反応で脚を使いガードを試みてくる。しかしやはり体勢は不十分で、蹴りの衝撃を受けきれずにミルコの身体は大きく弾き飛ばされていった。

 その隙に、私はあえて身を翻し工場と工場の間にある路地へと身を隠した。だが、ミルコには私の居場所は眼で追われている。このままでは体勢を立て直しすぐに追撃されてしまい、奇襲をすることもままならないだろう。

 所詮、今の攻撃は一発限りの芸にしかならないし、ミルコに二度目は通用しない。

 それでもこの一瞬の隙が必要だった。

 そして今からやることもまた、一度限りにはなるがミルコを十分に揺さぶることはできるはずだ。

 私は懐から、一本の薬品の入った十cmほどの高さの円柱形の小瓶を取り出した。その小瓶の中には薄青い液体が満たされていた。

 青い秘薬、と称されてはいるが中身自体はなんてことはないただの麻酔薬。ただし、私の神秘に反応を示すものだ。その蓋を開け、一気に飲み干した。嚥下した直後から、くらりと遠い記憶の中にある微睡みのような甘い感覚に襲われる。

 当然ながら、常人がこんなものを多量に経口摂取しようものなら卒倒し即座に絶命に至るだろうが、生憎私は眠ることがない。

 では麻酔が私の体内で神秘と反応するとどうなるか。気配を絶つよりも先へ、極端に私という存在感を薄めることができるようになるのである。まるで、透明になったかの如くだ。

 もちろん、それは単なる比喩表現であり葉隠透のように透過するわけでもない。

 だが、視界に入れられても凝視でもされなければ見つけることはできず、気配を探ることもできない程度には希薄な存在へと成り代わることができる。

 ただし動き回っていては効果を発揮しづらい。虚ろな存在にはなるものの、一度視認されれば難なくとらえられ続けてしまう。動き続ける戦闘ともなれば、ほぼ無意味な代物である。そのため、潜伏する必要があり一度対峙してしまったあとの実戦では使いづらいものではあるが、一度きりの奇襲ならば絶大な効果を発揮する。

 外壁に張り付き、息を潜めた。

 

「いねェ……!?」

 

 ものの数秒で追い付いてくるミルコだったが、ほんの数メートル先にいる私に気付かずに困惑に囚われ視線を泳がせた一瞬の間隙に、ミルコへ突撃した。流石にミルコも気付いたものの案の定反応は遅れ、そこまま水月に拳を叩き込むことに成功したのだった。

 

「ぐっ……どこから現れやがったッ!」

「最初から目の前に」

 

 ミルコからすれば虚空から唐突に現れたようにもみえたかもしれない。それでも反応し後ろに跳ぶことで攻撃の威力を減衰させたのは流石としかいいようがない。

 追撃を仕掛けてみたものの、ミルコは大崩れすることもなく対処してきていた。

 

「これ以上ビックリ芸はねェのかよ?」

「さて、どうでしょう」

「あってもさせねェけど、なッ!」

 

 再度、大通りへと戦場を戻した直後だった。

 

「シュガーラッシュッ!」

「宵闇より穿つ爪!」

 

 砂藤力道と常闇踏陰がミルコを挟撃してきたのである。砂藤力道の近距離の連打、そして常闇踏陰の中距離からの突き。いくらミルコとはいえ、対応は難しいように思えた。

 

「甘ェッ!」

 

 しかしミルコは冷静に、砂藤力道の連打を蹴りで迎撃しつつ、さらに襲い来る常闇踏陰の攻撃を軸足のみで地面を蹴り空中へと逃れたのであった。

 

「マッジかよ……!」

「驚異……!」

 

 ミルコは空中から工場の屋根へ着地しようとしていたが、そこを狙い撃つかのように炎が向かっていった。炎の先には轟焦凍がいた。

 

「その貪欲な攻撃姿勢いいねェ!」

 

 それでもミルコは余裕を崩さない。空中で向かってくる炎に対して旋風脚のように脚を大きく振るう。その蹴りに伴って生み出された暴風によって放射された火炎が真っ二つに割れたのであった。

 

「ワリィな。お前ほどじゃないにしても火炎使いとは前に一度戦ってんのさ」

「ただの蹴りで逸らしやがった……!」

 

 完璧なタイミングの奇襲すらも難なく対応するミルコには驚嘆するばかりであるが、生徒たちの攻撃を捌くことに意識を向けていたこともあり、隙が生まれていた。

 

(なるほど。そういう作戦か。だが、ミルコを相手にするならばもうワンテンポ分、隙が必要になるだろうな)

 

 ならばと私がステップで間合いをつめ、ミルコが降りようとしている屋根の下まで向かう。

 ミルコは明確に私を意識して迎撃の体勢を取ろうとしていた。

 

「さあ、続きと行こうかァ!」

「いえ、もう終わりです」

 

 ミルコが困惑から眉根を寄せた瞬間、その胴体にぐるりと舌が巻き付き拘束したのだった。

 

「ケロ、砂藤ちゃんの作戦通りね」

「んなッ!?」

 

 雨吹梅雨が屋根上で体色を変化させ風景に溶け込ませる技――保護色で身を隠しつつ潜伏していたのである。さらによく見れば雨吹梅雨の舌にはカエル特有の毒液が纏わりついておりほんの一瞬だが、ミルコの動きを鈍らせていた。間髪を置かず追い打ちをかけるように下から黒影(ダークシャドウ)の腕が伸び、ミルコを鷲掴みにする。

 その間に砂藤力道も屋根へと飛び上がりミルコの取り押さえに加わったのであった。本来ならば、このまま昏倒させられるか、轟焦凍によって氷付けにされるであろう状況だ。そしてこうなってしまえば、いくらミルコとはいえ抜け出すことは不可能だった。

 

「あとは轟くんが残りの救助者を連れ出せば勝負あり、ですね」

「クッソォ……!」

「私に気を取られて、彼らの力量を見誤りましたね」

 

 私さえ視界に収めていればいい、と判断したのが明暗を分けたのといっても差し支えないだろう。ミルコが私との勝負に執着していたことも影響していただろう。事前の簡易的な手合わせから生徒たちの行動は戦闘中であっても気取れると慢心というには乏しいが、その類いの予測をミルコがしたことも要因だろう。

 だが、それ以上に作戦と連携がもたらした勝利と言えた。

 

 

 数分後、轟焦凍が全ての生徒を救助し終わり、生徒たちのハイタッチをもってこのターンの訓練は終了したのだった。

 

 

 終了後に簡易的な講評を行っていると、ミルコから驚きの声が上がっていた。 

 

「あ? 狩人の指示じゃねェのか?」

「私は最初に貴公を私が相手どるので彼らの元へ向かわせないようにすると伝えたことと、彼らの中で準備が整ったら合図を送るようにお願いしただけです。作戦は生徒たちで考えたものですよ」

 

 そう伝えるとミルコは大きくため息をついていた。

 

「私もヤキが回ったもんだな」

「実際私も驚いています」

「なんで狩人が驚くんだよ」

「複数人とはいえ、貴公を相手取るにはまだまだ経験が足りないと思っていましたから」

 

 実際、私との立ち合いに気を取られていた部分は否めないがそれでも集中力を欠いたミルコを捕縛しきったという事実は成長したなによりの証明だった。

 その立役者は間違いなく彼であろう。

 

「素晴らしい作戦でした。砂藤くん」

 

 私がそう褒めそやすと、砂藤力道は照れ臭そうに笑みをこぼしていた。

 今回の編成の関係上、もっともバランスをとれると踏んで託したが期待以上の成果であった。

 轟焦凍を指揮官にした場合、彼が単独行動をとれるような作戦になっていたであろう。しかしそれではミルコ相手では決定的な場面を作るには至れなかったはずだ。雨吹梅雨と常闇踏陰では、タイプは違えど轟焦凍を主軸に据えた『自分を気にせず個性を使ってほしい』という自己犠牲気味の作戦になっていたかもしれない。それほど轟焦凍というカードは魅力的であり、強力なものだ。

 だがミルコという屈強な相手では、誰一人欠けても渡り合えることはない。だからこそ、轟焦凍の個性に大きく影響を受けない砂藤力道こそ一歩引いた視点で作戦を練り対抗できうると考え、託したのだが想定以上の成果だった。

 

「さて、時間も差し迫っていますし、次にいきましょうか」

「おォ、次はぜってー負かしてやるから覚悟しとけよ」

 

 その後の訓練でミルコの言葉通り苛烈な攻撃に苦戦を強いられ、ミルコの力量に改めて驚嘆すると同時に生徒たちの大きな成長を肌で感じることになるのであった。




【青い秘薬】

ある教会の上位医療者が、怪しげな実験に用いる飲み薬。
それは脳を麻痺させる、精神麻酔の類である。
だが狩人は、遺志により意識を保ち、その副作用だけを利用する。
すなわち、動きを止め、己が存在そのものを薄れさせるのだ。

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