その未来にあるもの   作:spirits77

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天界編
発端


その歌声に惹かれ、

本堂に沿ってどんどん奥の方へ進んでいく、

すると光が当たらず少し暗い場所へ出た。

 

ここは、本堂とは違って少し建物が小さい。

簡単に言えば別館みたいなものだ。

 

そしてその美しい歌声の主はすぐに分かった。

 

 

彼女は少し苔生えた石段の上。

少し踊り場になって居る場所に立っていた。

目の前にある小さな石の柵に右手を軽く置き、祈るように両目を瞑り

なんと言っているかは分からないが、歌を歌っていた。

 

竣は無意識に近づいていた。

 

ガサッ____

 

石段へ近づいたところで、

枯れ葉を踏んでしまい音が出てしまった。

 

そしてその子はビックリして、

音のなった方を見る。

 

「あ…………」

 

何か言おうとしたが、

何を言えばいいのか分からなかった。

 

すると女の子の方が口を開いて。

 

「き、聞いていたんですか…?」

 

柔らかい口調だったが、緊張と警戒心が含まれていた。

 

「え、えっと!俺は怪しいものじゃなくて!それから……あのー…!」

 

竣はまず怪しいものじゃない事を伝える、

しかし次に言うことが無くなってしまったので、

慌てて歌の感想を言ってみた。

 

「い、今の歌凄い綺麗だったよ!」

 

「っ!……そ、そうですか?あ、ありがとうございます…」

 

少し照れ臭そうにお礼を言う彼女。

 

「でも………悲しそうだった…歌も…君も…」

 

しかし竣は感想にそう付け加えると、

彼女は目を見開いて驚いた。

まるで、どうして分かったのか。

こう思っているのだろう。

 

「でも………貴方には関係ないです………」

 

悲しく笑うと彼女は目を伏せて、

スタスタと石段を降り、この場から去ろうとした。

 

竣はその腕を掴む。

 

「っ!」

 

「………もっと聞きたい……」

 

「えっ?」

 

「君の歌…今度は、楽しい歌も…嬉しい歌も…幸せな歌も!」

 

「…!!………」

 

暫く彼女は何か考えるように黙っていたが、

やっと重い口を開く

 

「………あ、貴方は…変な人です…初対面の私になんか…気を使って…」

 

そう言うと彼女はクスクスと笑い始めた。

 

竣は至って真面目であった。

ただ純粋に彼女の歌声が聴きたくて、

彼女の楽しそうにした表情で歌って欲しくて。

 

そして彼女は改めて、竣の手を取った。

 

「私は…ラファエル…天使です」

 

そう言って柔らかい笑顔で自己紹介。

慌てて竣も自己紹介をする。

 

「お、俺は竣、人間です!」

 

するとまた彼女は驚く、

 

「に、人間?どうしてここに?」

 

本来ここは天使の場所なのだ、

人間等、違う種族が来訪するなんてとても珍しい事なのだろう。

 

竣がその理由を説明しようとした時、

向こうの方でルシファーが名前を呼んでいるのが聞こえた。

 

「説明は後でするよ、今は付いて来て!」

 

そう言って、ラファエルの手を握ってルシファーの元へと駆け出した。

 

後ろでラファエルがあっ…と言ったのは知る由もない。

 

ラファエルと共にルシファーの元へ行く

するとルシファーを見たラファエルが駆け寄って

 

「ルシファーさん、お久し振りですね」

 

と、にこやかな笑顔を見せた

ルシファーも少し表情を綻ばせる

 

「そうね、最後に出会ったのは…1年以上前だものね」

 

「い、1年以上前?」

 

竣は、それほど長くこの世界に来ていなかったのかと、

ビックリしていた。

 

「ふん、理由はいつか話すわ。今は付いて来て、貴方を紹介しないとね」

 

「紹介?誰に?」

 

「それはもちろん、天使たちによ」

 

 

 

ルシファーが扉を開ける、

するとそこはとても長い机が置いてあった、

そしてそこに沢山の天使達が座っていた。

皆んなそれぞれ興味津々であったり、警戒心であったり。様々な表情で竣を見ている。

 

「こ、こんなに居るの?」

 

前の歩くルシファーに小声で話しかける

 

「ええ、ざっと150人位かしら。もちろん、今いない天使も居るわ」

 

そしてルシファーはみんなの視線を集めつつ、

少し高くなった段に登る。

 

そして少し挨拶をした後、

竣の名前を呼び、何か一言言うように言った。

竣は、段に登ると少し緊張気味で、

 

「は、初めまして…人間界から来ました、竣と言います。よろしくお願いします」

 

と、ペコリとお辞儀する

 

「この世界は面白い事とか、まだ何も知りません。だから、これからそれを少しずつ知って行こうかなと思ってます」

 

ずっとこの世界にいる訳ではないが、

きっと数日間は解放されない気がしたので、そういう事にした。

 

挨拶が終わると、ホールに響く大きな拍手の音。

そして今度は、煌びやかな装飾をつけた天使が段に登り

 

「では。彼と一緒にご飯を食べたい人!」

 

はっ?と思うのも束の間。

竣に興味があった天使全員が手を挙げた。

 

「え?もしかして、ご飯食べるの?」

 

横にいるルシファーに話しかける。

 

「ええ、そうよ。貴方もお腹空いてきたでしょう?」

 

「ま、まぁ…空いてるけど」

 

そう話している間に、

竣の座る場所が決まったらしい、

示された場所に行く。

 

 

端っこに座る事になったのだが、

竣の横に居たのは、いかにも元気たっぷりと言った天使だった。

 

「よろしくね!」

 

そう言うと彼女は白い手袋を付けた手を差し出す

 

「う、うん…!」

 

少し戸惑いながらも、握手に応じた。

 

そして少し早い晩飯の時間が始まった…

 

目の前にある料理はどれも美味しそうで、

人間界では見たこともないような料理もあった。

 

「どれ食べたいの?」

 

横に居た元気っ子天使が聞いてきた。

 

「んー…一番美味しいものをお願い」

 

どれが美味しいのか、どれがどんな味なのか分からないものが多かったので、

取り敢えず彼女のオススメに頼る事にした。

すると彼女は、1つの料理をお皿によそうと

 

「はい、どうぞ!」

 

竣の前に皿を置いた。

何やらお肉を焼いたステーキらしい、

とても美味しい匂いがしている。

そして一口食べてみる。

 

「ん……お、美味しい!」

 

人間界で言えば、高級なステーキなのではないか?

と疑ってもおかしくないレベルで、とても絶品美味だった。

すると、その様子を見ていた彼女はケラケラと笑いつつ、

 

「そんな、美味しいそうに食べる人久し振りに見たよ!」

 

「これ、こんなに美味しいのに?」

 

「だって、皆んな普段から食べてるから慣れちゃって」

 

こんな料理を毎日……

天使界羨ましい!そう思った瞬間であった。

 

 

そして美味しいご飯の時間も終わり______

 

お風呂の時間となった。

しかし、竣は男。

女性ばかりの天使界では、非常に対応に困るのであった。

なので、特別に貸切の時間を設けてもらった。

 

竣は服を脱ぎ、タオルを持って風呂に入る

 

「ひ、広い!」

 

普段は何十人も風呂に一緒に入ることがあるのだ、

かなりの広さを誇っていた。

 

体や髪、顔を洗い終わり。

 

石で囲まれた、とても広い風呂に入ろうとした。

 

 

すると、近くまで湯気で見えていなかったのだが、

どうやら何か黒い影を見つける。

 

お湯の中に入り、その影の方へ近づいてみる。

するとその影が姿を現した。

 

「…!!あ……あの…!」

 

振り返った影は、人だった。

体を長いタオルで隠しているものの、

浮き出た体のラインは非常に綺麗で、美しかった。

 

「ふふ、ごめんね。貸切の時間、忘れてたの」

 

そう言って、その人は竣にニコリと笑いかけた後、

お湯から上がりスタスタと歩いて、脱衣所に繋がるドアを開けて中に入っていった。

 

パタン____

 

「はぁぁ………」

 

扉が閉まる音とともに張り詰めた緊張が解けるのを感じた。

それにしても、恥ずかしすぎて顔すら見れなかった。

そんな竣の頭に残っているのは、美しい体のラインだけであった。

 

 

 

 

その夜。

 

竣は1人部屋を用意してもらい、

疲れも溜まっていたので、今日のところは早めに寝ることにした。

 

「それじゃ…寝るか」

 

時刻は午後10時、

竣は眠りについた。

 

 

 

暫く経って、

暑いと思い、竣は目を覚ます。

ふと外を見るが、まだ明るくなっていなかった。

 

また眠りにつこうとしたのだが、

何やら自分の体が重いことに気付く。

寝返りを打とうとしても、体に重りが乗っかっているのか中々動かせない。

 

これって…金縛り!?_____

 

そう思っていたのだが、

その疑いはすぐ晴れた。胸の上までかけていた毛布がモゾモゾ動いたかと思うと、

そこからヒョイと女の子の顔が出てきた。

 

「………ゆ、幽霊……?」

 

思わずその子に向かってそう言った。

するとその子はぷっと吹き出して笑った。

 

「あははっ!違う違う、私よ。覚えてない?」

 

その子の顔をじぃーっと観察するが、

全く見覚えが無かった。

 

「仕方ないなぁ…お風呂場で会ったでしょ?」

 

「お風呂場?……………あ」

 

頭に浮かんできたのは、

あのスラっとした美しい体のライン。

 

「あ、あの時の…?」

 

「そうそう、あの時の!あ、名前言ってなかったね、私はミカエル。大聖天使よ」

 

「大聖天使?」

 

そう聞き返すと、

彼女はこの天使界における階級について説明しだした。

 

「この天使界にはね、人間でいうところの……社長とか?部長みたいな階級があるの。下から、天使、大天使、聖天使、そして大聖天使」

 

「じゃあ、ミカエルは一番上?」

 

「そーいうことっ!」

 

そのあと聞いたことによると、

大聖天使は3.4人しかおらず、聖天使は20人位、

大天使が100人、その他が天使らしい。

そしてその中でもランク分けされており、

大聖天使のSランクが一番トップらしいのだ。

ランクはS→A→B→Cとなっている。

 

「ミカエルは、ランクは何なの?」

 

「私はこないだ大聖天使になったばっかりなの、だからまだCランクよ」

 

そして話がひと段落したところで、

竣はずっと気になっていたことを言う。

 

「あのさ」

 

「なーに?」

 

「そろそろ、どいてくれない?」

 

ミカエルはまだ毛布の中で、

俺の体の上に乗っかっているのだった。

 

「んーもう少し待ってて」

 

そう言うとミカエルは少し真剣な表情になる

 

「わ、分かったよ…」

 

顔が近いのが恥ずかしいのだが、

何やら大事な話をしそうだったので、

我慢することにする。

 

「この天使界、昔は沢山来客があったの。それこそ1日に100人来ていた時期もあったらしい、でも……少しずつ人が減ってきて…今では1年で10人来るか来ないかって程になってしまったの」

 

「どうして?」

 

「来客が減った原因は分からないわ…でも、確実に言えることは男性の客が最も多く減った、そしてその理由も分かる」

 

「理由はなんだったの?」

 

「理由は……」

 

少しの間を置いた後、ミカエルは話を続けた。

 

「天使はね、生きている間に必ず一度は契約をしないといけないの。契約は人間で言えば結婚と似たもので、契約をする事によって力を解放しより強くなる。もちろん、契約をしなくても良いけれど、契約をしない天使はどんどん弱体化して行って、最終的には死ぬわ。寿命よりかなり短くしてね」

 

竣は真剣にその話に聞き入っていた。

 

「契約は1度したものを無くすことは基本的に出来ない、要は離婚というものが出来ないの。そして1人の人が何人もの天使と契約することは可能、でもそれはとても力の強い人じゃないと不可能。今まで見た中だと、4人が限界だったわ」

 

「見てきたって言うけど、ミカエルは誰かと契約したの?」

 

竣がそう聞き返すと、

少し表情を曇らせつつ、ミカエルはそれに答えた。

 

「したよ、何度も…」

 

「な、何度も!?でも、契約って1回だけなんじゃ…?」

 

「例外があってね、簡単に言うと契約相手の死。これだけは契約が無効になるの」

 

「じゃあ、ミカエルの契約相手は皆んな?」

 

「うん、死んじゃった…私が力を取りすぎたの」

 

「力を?」

 

「ええ、私はその相手と力を共有して強さを発揮できるタイプ、だから一時的に相手の力を貰ったのだけど…貰いすぎたみたいで、相手の体が壊れてしまったの………それ以来、そんな事が他の天使でも何度かあった後から、男性はここを訪れなくなった……」

 

そこでミカエルは話を区切る。

 

「そんな事が……」

 

天使界のイメージとは掛け離れていた事実に、

暫く唖然としていた竣。

そしてそれに追い打ちをかけるようにミカエルが言う。

 

「だから……今はチャンスなの」

 

そう言うと、ススッと胸の辺りから竣の顔の前まで這い上がるミカエル。

 

「み、ミカエル…?」

 

 

 

「私と…………契約して」

 

 

 

ミカエルから言われた言葉に、

更に唖然とし固まってしまった竣。

そんな事は気にせず、ミカエルは更に顔を近付ける。

 

「お願い………貴方からは、とても強い力を感じるの……絶対死なせないから…!」

 

竣はいきなりの事に戸惑っている、

ミカエルの吐息がかかるほどに2人は近付いていた。

 

「大丈夫、契約の方法は簡単………キスをするだけ…」

 

 

契約______キス________

 

竣の記憶の片隅に何かが引っかかる。

前にもあったような………

 

 

そう思う竣の顔が渋っているように見えたのか、

ミカエルはスッと離れると、こちらを見つめながら言う。

 

「ふふ……契約するにはそれなりの見返りが必要よね…」

 

「え……?」

 

すると、かけていた毛布を取り、

ミカエルは膝立ちをした。

 

月明かりに照らされた彼女の顔は赤く染まっていた。

 

しかし竣はそんなのを見ている暇は無かった。

顔以上に見てしまうものがあった。

 

「ど、どうして…は、裸!?」

 

月明かりなので、ハッキリとは見えないが、

お風呂場で見たようなスラっとしたラインが見えていた。

 

「どうかな?……今までこれで渋っていた人も、契約してくれたんだけど…」

 

ようは、契約をしてくれたら私の体をあげる。

そう言うことなのだろう。

 

そう思うと途端に冷静になっていくのを感じた。

 

「ミカエル…」

 

「………?」

 

「悪いけど、契約はしない」

 

ミカエルの息を呑む声が聞こえた

 

「ど、どうして?私の体、魅力ないから?なんなら…明かりをつけて…」

 

「そう言うことじゃない…!」

 

少し語気を強めると、ミカエルはビクッとして固まる。

 

「俺は、本当に好きな人になら…体を捧げるのも心を捧げるのも良いと思う。でも、好きでもない人に体を捧げるような人は嫌だ」

 

「…………好き……貴方のことは好き!」

 

必死に食らいついてくるミカエル。

再びグイッと顔と顔の距離を縮める。

 

「私は……今契約しなきゃダメなの……死んじゃう…!」

 

「……それでも…俺は嫌だ…!」

 

「どうして………どうして!」

 

「嫌なものは嫌なんだ!」

 

語気を強めて言うと、ミカエルはふっと息を吐くとしばらく黙ってから。

 

「…………ふふ…そう」

 

そう言って竣の頬を撫でるミカエル。

すると竣は本当に金縛りにあったかのように、

身動きが取れなくなっていた。

 

「………………!!」

 

「ごめんなさい………でも…私は貴方が欲しいの…」

 

そう言って唇を近付ける

竣は身動きが取れず、グッと目を瞑る。

そして…このまま……

 

キスされてない_______?

 

異変を感じ、

目を開けてみる。

すると目の前にミカエルは居なかった、

ミカエルは部屋の壁に吹き飛ばされていた。

 

「…??」

 

全く状況が掴めずにいると、

ドアの方から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「何をするつもりかしら?この男に」

 

「る、ルシファー?」

 

いつの間にか金縛りも解けていたので、

ベッドから起き上がり、ルシファーの方を見る。

 

「竣、後で話があるわ」

 

ギロッとルシファーに睨まれ、

コクリとうなづくだけの竣。

 

すると、壁からミカエルが出て来て、

 

「何をするって…契約よ。ね?」

 

さっきの必死さとは一変。

とても軽い感じで聞いてきた。

 

「契約………そう…それは残念ね」

 

「残念?」

 

ルシファーの言っている意味が分からず、

ミカエルは聞き返した。

 

「ええ、残念。さっさと服を着て出て行ってくれるかしら?」

 

「な、何が残念なのよ?それに、ルシファー。貴女は私に命令出来る立場?」

 

「………………」

 

「それもそうよね、貴女は堕天使だものね?」

 

ニヤニヤとルシファーを見る

ルシファーはミカエルを睨みつけつつ

 

「出て行けと言ったのが、聞こえないのかしら?」

 

竣はその時、

もし次にミカエルが口答えをしたら容赦なく殺す。

そんな殺気を感じ取った。

 

「み、ミカエル。今は出て行ってくれないかな?また後で、話は聞くからさ」

 

竣がそう言うとミカエルは途端にニコニコして、

 

「貴方がそう言うなら出て行くよ、またね!」

 

そう言ってミカエルは出て行った。

 

 

「………ふぅ…取り敢えず、竣。正座」

 

「え?」

 

「正座よ、正座しなさい」

 

蛇に睨まれた蛙とはこの事だ、

有無を言わせず、正座させられてしまった。

 

「まっ、ミカエルの誘惑を我慢したのは評価するわ」

 

「あ、ありがとう?」

 

「それより、ミカエルから色々ここの事聞いたみたいね。もう隠すのもやめて貴方に話すわ」

 

「何を?」

 

「私が何故、堕天使になったか。それについてよ」

 

そしてルシファーもベッドの脇に腰掛け、

静かに話し始める。

 

「私は昔、大聖天使のSランクだったわ。そして、この天使界のリーダーでもあった」

 

「そ、そうなんだ…!凄い…」

 

「私の他に大聖天使は3人、その内の1人は私とほぼ僅差の実力を持っていたわ。しかし彼女はリーダーにはなれなかった。彼女は第2リーダーとして、普段は私とは違う部屋で書類などに目を通していた」

 

「ルシファーは何を?」

 

「私はノンビリしていたわ、音楽を奏でたりしてね。そしてある時、そんな彼女から1人のメイドが寄越せられた、彼女曰くとても良く働くメイドだから、是非そこで勤めさせて欲しいと。もちろん、私は了承した。実際、そのメイドはよく働いて食事、掃除、洗濯、他にも何でもこなしたし出来も素晴らしかった。私はそんなメイドを信用しきっていたわ、そんな時に事件は起こった」

 

「事件?」

 

「私はそのメイドがリーダーになれなかった彼女から送られたもの。という事を忘れていた。彼女は1位になれない悔しさ、2位なのに雑務をする辛さに、きっと私に対して相当恨んでいたと思うわ。そして彼女はそのメイドにある事を仕込んでいた。それは、毎日極微量の毒薬を私の食事に混ぜる事」

 

「毒薬を!?で、でも…ルシファー生きてるじゃん!」

 

「毒薬と言っても死ぬわけじゃなくて、天使に必要な魔力が弱くなるような薬よ。そしてその薬入りの食事を食べ続けて3年。ある日の夜、彼女は私の寝床を襲った。もちろん、私は彼女とは僅差の差でも勝てると思っていたし、特段力を落としたわけでも無いと思っていた。しかしその毒のせいで、本来の半分程度しか力を出せなかった…そして私は彼女に負けた。当時は毒を盛られていたことに気付けなかった鈍感な自分が悔しかったわ」

 

「そ、それで?それで、どうなったの?」

 

「リーダーが2番目に負けた、もちろん歳をとったり怪我を負ってリーダー交代はごく普通だった、でも表向きでは万全の状態で負けた。しかしボロ負け。全くの異例だった、そして新リーダーの彼女は言った、私を天使界から追放すると……………そして私は追放された、色んな場所を転々としたわ、でもどこに行っても面白くなかった。つまらなく写ってしまった。そして、ある時訪れた地球で、貴方と会ったのよ。あの時は追放された2年になるかしらね」

 

「でも、追放されたのに、どうして天使界に入れるの?」

 

聞きづらかったが、

今聞いておかないともう聞けないような気がして、

思い切って聞いてみた。

 

「それは、彼女のズルが発覚したからよ」

 

 

「どうやって、分かったの?」

 

案外スラっとルシファーが答えてくれたので、

遠慮なく次の質問をする。

 

「簡単な事よ、そのメイドが私が追放されて1年経ちそうな時に、当時2番目のリーダーだった人に打ち明けたのよ。3年間、毎日極々微量の毒を盛ってました。それで彼女は弱体化してリーダーに負けたのだと。そしてその事実はすぐに天使界を駆け巡った、元々私が負けた事に違和感を感じていた天使たちはすぐにその事を信じ、リーダーを責め立てた。そして、責めていくとどんどん彼女が昔していたズルや、書類の不備とか、様々な汚点が見つかった。そして更に半年、遂に彼女はリーダーの座を降ろされた。そして彼女は追放ではなく死罪。こうして私の追放という事も無効となり、ここに出入り出来るようになったのよ」

 

「それが半年前って事は……ミカエルはそのリーダーが死んだから空いた大聖天使枠を埋めるために?」

 

「そういう事ね、そしてそのミカエルもずる賢く力を付けてきたわ。ああやって色仕掛けで男を誘惑し、無理矢理に契約。力を吸い取って自分のものにして、相手が死んだら他の相手とまた契約。そういう奴よ」

 

多少の嫌悪感が混じった声で言うルシファー

しかし竣は少し違和感を感じていた。

 

 

確かに、色仕掛けで男を誘惑したのは事実だろう。

でも、あんなに必死で契約をしようとするだろうか_____

 

力なら今までに吸い取ってきた人ので十分なはずだ。

他の天使は1人の人と契約するだけで良いらしいのだから。

 

ミカエルの契約相手が相次いで死んだのには、力を吸い取られ過ぎた__

というより、彼女の力に対応できる人が居なかったんじゃないか?

そう思った。

 

しかしそれを今のルシファーに意見するわけもなく、

心の内に閉まっておく事にした。

 

 

そして話が終わると、

ルシファーはスッと立ち上がって

 

「話は以上よ。もう朝ね、今から早朝組のところに行くわ」

 

「え?」

 

気がつくと少し部屋が明るくなっている気がした。

ふと時計を見ると午前4時半

 

「い、いや…早くない?」

 

中々動かない竣を見たルシファー、

グイッと服を掴むとそのまま引きずっていく

 

「いてっ…ケツ痛い!」

 

「なら立って歩きなさい」

 

渋々立ち上がって歩き出す竣。

一体何時から話していたのか、

そう考えながらルシファーの後をついて行った。

 

ルシファーに付いていくと、

階段を登り、ベランダのような少し開けた場所に出た。

するととこには、10人程度の天使が集まっていて、それぞれ何かを話し合っているようだった。

 

「……ん?ルシファーさん!」

 

その中の1人がこちらに気付き声を掛ける。

 

「朝からご苦労様」

 

ルシファーは労いの言葉で返した。

 

「なぁルシファー、みんな何やってるの?」

 

竣はこんな朝早くに集まっているのが気になった。

ルシファーはこちらには背を向けたまま説明した。

 

「早朝組よ、この天使達が暮らす建物も、完璧ってわけじゃないわ。どこかに欠陥が出るかもしれない、敵によって何か罠が仕掛けられるかもしれない。それを事前に発見して、被害を防ぐ。その為に作られた当番制の見回りグループよ」

 

竣はへぇ~っと感嘆の声をあげつつ、

その面々を見回す、すると知った顔がチラホラいて。

 

「あれ、君って確か…昨日ご飯よそってくれた?」

 

「うん!そうだよ!」

 

「そうだよね!あ、君の名前、なんて言うの?」

 

まだ名前を聞いていなかったことに気づいた。

 

「私はガブリエル!君は…竣でしょ?」

 

ガブリエルは昨日の自己紹介を覚えていてくれたらしい

そうそう、と竣は返事をする。

すると横からさらに声がかかる。

 

「へぇ…君が人間の…」

 

声のした方を振り向くと、

早朝組の中でもリーダーっぽい天使がこちらを見ていた。

 

「あなたが、早朝組のリーダーなんですか?」

 

「良く分かったわね、そうよ」

 

そして皆んなの方を向くと、真剣な面持ちになって話を始めた。

ルシファーも一緒になって、その事について話し合っていた。

 

「続きだけど、先程の破損箇所は治してもらうように言うわ……それと………」

 

真面目な話だったので、

竣は輪の中から一歩外に出て、早朝組がどんなものなのか見学することにした。

 

すると自分と同じように一歩外に出ている天使を見つける。

竣はその天使の方に寄って行って。

 

「ラファエル…?」

 

名前を呼ばれた天使はビクッとして俯いていた顔を上げる

しかし竣の顔を見た途端、フワッとした笑みを浮かべて

 

「竣さん、おはようございます」

 

「うん、おはよう」

 

竣は更に気になっていることを聞く

 

「どうして、皆んなの方に行かないの?」

 

「え、それは……」

 

「?」

 

なんでだろう、

そう考えていた時。

 

輪の中心から、少し怒ったような声が聞こえた。

 

リーダー格の天使が、

ラファエルに向かって怒っていた。

 

「あなた、どうしてそんな所にいるの?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

竣の横で表情を曇らすラファエル。

一瞬にして事情を把握した、そして彼女を庇うためにリーダー天使に言い返す。

 

「違うんだ、今のは俺が…」

 

「人間は黙っていて?今はこの子と話をしているの」

 

竣の言い分に聞く耳も持たず、

一方的にラファエルを責め立てる。

 

周囲にいた天使も、少し同情の目を向けていた。

きっとこの人は、リーダーだから下に威張っている典型的なタイプなのだろう。

そしてその対象はラファエル。

 

ラファエルは彼女からだけじゃない、他の天使からも同じ扱いを受けている。

彼女が内気で自分の意見を表に出せないのを利用している。

竣はそう感じた。そして少しずつ怒りがふつふつと沸いてきた。

 

 

「良いかしら?私は今、大切な話をしていたのよ?それを聞かないってどういうことかしら?」

 

「っ……ご、ごめんなさい!」

 

「謝って済むの?貴女、いつも何もしないし………本当は敵のスパイだったりして?」

 

「それは言い過ぎよ」

 

ルシファーが手で制しつつ止めに入る。

リーダー天使はチラッとルシファーを見るが、構わず続けた。

 

「ルシファー…貴女に権限はないの。今は指導の時間よ、口を挟まないでくれるかしら」

 

少しムッとしたが、ルシファーはそれ以上何も言わず一歩下がった。

 

 

 

鼓動が早くなる______

 

目の前で威張り、1人のか弱き天使を虐める天使が憎くなる______

 

それを守らない他の天使共も______

 

 

 

「…………どうして………誰も彼女を守らないんだ………」

 

 

そんな竣の呟きは、

近くにいたガブリエルにしか聞こえていなかった。

 

「竣……?」

 

まだリーダー天使のお説教は終わらない。

ラファエルも謝る気力もなく、ただ俯いているだけになった。

そんな彼女を見て、リーダー天使はイライラが爆発したようだ。

 

「くっ……貴女は………一々私の事を………イラつかせるわね!!」

 

ラファエルの胸ぐらを掴むと、

柱に叩きつける。

 

「痛いっ…」

 

 

ラファエルの悲痛な声が聞こえた_______

 

我慢の限界だ、ここが天使界だろうが関係ない。

 

助けたい人が居るのなら______

 

 

「やめろ」

 

 

気付いた時には、リーダー天使をラファエルから引き剥がしていた。

 

 

「邪魔よ!」

 

しかしリーダー天使も反発する。

竣を振りほどくと、よろよろとしているラファエルに向かって拳を振りかざした。

 

 

ガシッ…!

 

 

しかしその拳は届かない。

リーダー天使とラファエルの間には竣が拳を受け止めていた。

 

「竣……やめなさい」

 

ルシファーが止めに入る。

しかし竣はルシファーをキッと睨みつける。

 

「悪いな…今はルシファーの言う事も聞かないよ。俺は、ラファエルを守る」

 

「し、竣さん…っ!」

 

そして竣は掴んでいた拳を握り締める。

 

「くっ……なんて力……離せっ…!」

 

 

その様子を息を呑んで見ていたガブリエルは、

竣の潜在能力に気付いた。

 

「す、凄い…力…」

 

周りにいた天使も次第に竣の潜在能力に驚いている。

 

 

「離すものか…」

 

さらに力を込める。

 

「ぐぅ……はぁっ!!」

 

リーダー天使は羽を大きく広げ、突風を巻き起こす。

その場の空気が乱れ、物が飛び散らかる。

竣は後ろにいたラファエルの手を握る。

 

「君は、俺が守る」

 

握った手は優しく。

反対に彼女を守る手は強く強く握り締めた。

 

「離せ!!人間如きが!!」

 

完全に怒りモードになったリーダー天使。

強烈な蹴りを竣の体に叩き込む。

 

避けようと思えば避けれた、

しかし竣は敢えてそれを受け、握り締めていた拳を離した。

ラファエルを握る手は離さずに。

 

そして竣は後ろ向いてラファエルに言う。

 

「……少し待っててね」

 

「竣さん……私の為なんかに………こんなっ…」

 

彼女から涙がこぼれる。

それほどに嬉しかった、こんなに自分のことを想ってくれる人がいて。

だから今はその人に身を委ねてみようと思った。

 

「……ふふっ、今回だけは……竣さんの好きになさって下さい……待っていますから…」

 

ニコッと笑いかける。

竣もニッと笑い返すと、リーダー天使の方に向き直る。

 

 

「覚えていろよ………ラファエル!!」

 

「覚えるのはお前だ。痛みを、覚えろ」

 

リーダー天使が声のした方を振り向くと、

既に拳は自分の顔面に。

 

避ける事も出来ず、その強烈な勢いとともに地面へ激突する。

 

 

 

「ル、ルシファーさん!彼を止めてくださいっ!」

 

1人の天使がルシファーにお願いした。

しかしルシファーは竣の方を向きながら言う。

 

「無理ね、あんな目をした彼を止められないわ。それに……彼の力を侮ると死ぬ…」

 

「えっ…?」

 

「彼、どんどん力を増すタイプよ。よく見ておくことね」

 

 

その話を聞いていたガブリエルも竣の様子を観察する。

すると少しずつではあるが、赤いオーラが出てくるのを感じ取る。

 

「あ、あれって…!?」

 

ルシファーが答えた。

 

「ええ、彼は……聖杯の力を手に入れてるわ」

 

聖杯の力を解放した彼は強かった。

 

「行くぞ……はあっ!」

 

構えたかと思うと、

ヨロヨロと起き上がったリーダー天使に向かって超スピードで突っ込む

 

「っ!?」

 

そしてそのまま強烈な肘打ちを喉に叩き込む

リーダー天使は勢いよく吹き飛ばされ地面を削っていく

 

「くっ…げほっぇほっ…!」

 

息が出来なくなるほど喉の衝撃が強かった。

立ち上がりつつ咳をする、

しかしその時間でまたしても竣の攻撃が彼女に炸裂した。

足払いからの鳩尾に膝蹴り。

リーダー天使は鳩尾を押さえ、何度もえづきながら後ろへ退がる。

 

「思い知ったか?痛みを。」

 

竣は攻撃を止めそう問いかける。

 

「…げほっ……ぅ……ぃ…………うるさい……」

 

「ん?」

 

「うるさい…うるさいうるさい!!!」

 

力の差を認めたくないのか、彼女は聞く耳を持たない。

そして翼を大きく広げる。

 

「人間………殺してやる!!」

 

彼女も力をめいいっぱい入れてきた。

 

 

 

「ル、ルシファーさん…」

 

再び話しかけようとした天使をガブリエルが止める。

 

 

ルシファーは黙って戦況を見ていた。

 

確かに、あのリーダー天使はフルパワーになれば中々の強さ。

しかし、彼の聖杯の力はどんどん上がっている、

きっと彼女の力が追いつけなくなる次元までに。

 

 

「…………………」

 

そしてラファエルもまた黙って戦いの行方を見ていた。

 

彼女の心に差し込んだ一閃の光。

それが竣。

今の彼女には、竣しか映っていない。

 

 

 

「殺す……殺す!!」

 

そう言いつつ大空へ飛び上がる、

そして空中で力をどんどん貯めていく。

 

「もうどうなっても良い!!貴様さえ死ねば良い!!」

 

そう言って、

彼女は両手を腹の前に。

するとそこに高圧のエネルギーが凝縮されていく。

 

「天使界へのダメージを考えないのか」

 

「そんなのどうでも良い!!!死ねえぇぇぇ!!!」

 

両手で生み出したエネルギーを振りかぶると、

思いっきり下にいる竣に向かって投げつける。

 

「聖杯……もっともっと強く……」

 

エネルギーが竣の元へ行く数秒前。

彼の発したその言葉が、この勝負を終わらせる事となる。

 

降りかかったエネルギー弾は、

竣に触れた途端に爆発した。

 

辺りには爆発の突風が吹き荒れる。

 

 

「うわぁっ!」

「きゃっ!」

 

近くにあった柱や柵にしがみつく天使達。

 

「強いわぁ…本当にね…」

 

そう感嘆するルシファーを除いて。

 

 

爆風も落ち着き、

竣の近くに渦巻く煙もそろそろ晴れてきた。

 

「ふふふ……あははは!!!」

 

上空ではリーダー天使が勝利を確信して高笑いしている。

 

 

そんな天使にルシファーが一言。

 

「バカね…あの天使」

 

 

しかしそんな事は聞こえず、

勝利の余韻に浸っているリーダー天使。

 

その後ろに、竣が居るとも知らずに。

 

 

「あーあ!馬鹿な人間だったわ!!」

 

そう言って地上に降りようとした天使に、

背後から声がかかる。

 

「それは、俺の事か?」

 

 

「!!」

 

目を見開き、あり得ないと言った表情でゆっくりと振り向くリーダー天使。

 

「う………う、嘘……」

 

振り向いた時、既に竣の拳は振りかぶられていた。

 

「ラファエルに……謝れえぇぇっ!!」

 

そのまま強烈過ぎる右からのフック。

顔面にもろに食らったリーダー天使は、

その衝撃で一瞬にして地面に叩きつけられた。

 

 

煙が巻き上がる。

一向に起き上がる様子はない。

 

その様子を見て、ルシファーは竣の元に飛ぶ。

 

「そこまでよ」

 

そうルシファーが竣を宥めた。

 

 

最後に彼が彼女を殴った時。

瞬間的なエネルギーは未知数、

即ちその場に居た全員を越えていたという。

もちろん、最強と謳われたルシファーでさえ驚かざるを得ないまでに。

 

これが竣がアヴァロンの助けなしで聖杯を使った初めての戦いとなった。

 

 

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