その未来にあるもの   作:spirits77

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七夕祭編
隠し事


「よし、行くか」

 

玄関で靴を履き制服のネクタイをチェックする。

 

「いってらっしゃい、竣さん」

 

「いってらっしゃーい!」

 

ラファエルとガブリエルがお迎えをしてくれている。

アヴァロンはまだ寝ているようだ。

 

「いってきまーす」

 

眠たい目を擦りながら、かなり久しぶりの学校へと歩んでいく。

 

 

学校はもうほとんど修復が完了していた。

しかしまだ少し崩壊している部分もあり、

プレハブで作られた臨時校舎で授業を受けている生徒もいるようだ。

 

竣が校門をくぐると、

前から数人のグループがやって来た。

雰囲気からして3年生らしい。

 

「おーい、お前!お前だろ?随分休んでよーうちの生徒会長さん困らせてるのはよー」

 

「そうです……迷惑をかけてすみません」

 

ぺこりと頭をさげる。

その反応が面白くなかったのか、まだ絡み続けてくる。

 

「おいおい、謝るだけで俺らの苦労とか?プレハブで授業受けてた気持ちが晴れるわけねーだろ?男ならよぉ、勝負して決めようぜ。なぁ?」

 

すると横にいた女子がその男をなだめる。

 

「ねぇねぇ、流石に3年と1年じゃ難しいんじゃなーい?」

 

「なぁに、手加減はしてやるさぁ」

 

するとその騒ぎを聞きつけた生徒たちが野次馬となり輪を作る。

 

「………良いですよ、戦いましょう」

 

それを聞いた3年生は大きく拍手をする。

 

「いやー素晴らしい!この3年上級クラスの俺様との勝負を受けるなんてよぉ」

 

すると校門の方から誰かが近づいてきた。

人混みがそこだけスッと割れ、誰が来たのか一瞬で分かった。

 

「ふん、会長さんのお出ましだぜ」

 

すると朝倉は竣に近寄る。

 

「竣、やめておけ。実力差がありすぎるぞ」

 

「まぁまぁー良いじゃないですか会長さん。こいつも俺との勝負したいようですし?」

 

すると朝倉ははぁっと息を吐き、呆れたように話す。

 

「まぁ良い、好きにやってくれ。くれぐれも校舎は壊すなよ」

 

そう言うと校舎の方へ入っていく。

 

「よーし、それじゃあ始めようかぁ」

 

「はい」

 

竣も戦う構えを取る。

 

「そうだ、1つ言っておきますよ。先程朝倉先輩が実力差がありすぎる、と言いましたけど。貴方の思っているのとは真逆の事だと思います」

 

「何?おまえよ、あんまなめんじゃめぇ!!」

 

右手から剣のようなものを作り出し、

こちらに投げつけてくる。

 

「はあぁぁぁぁぁ………!」

 

飛んできた剣をオーラで粉砕する。

 

「だあぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

貯めたオーラを爆発させる、あたりが一瞬真っ赤に染まる。

 

「ひっ……な、なんだよおまえ……」

 

「実力差。見せてあげますよ、先輩。」

 

「ま、ま………」

 

制止の声が届くよりもはるかに早く、

竣の拳は深く鳩尾にめり込んでいた。

 

「ぐ……が……」

 

その拳を高く突き上げる。

 

「がぁっ!!」

 

その衝撃で空中に吹き飛ばされる、

竣はそれよりも高く飛び上がり上から叩きつける動作を取る。

そしてそのまま地面に叩きつける、ボッコリと大きな穴があいてしまった。

 

「あちゃーやり過ぎたかな……」

 

オーラを解き、地面に埋まってしまった先輩を助けようとする。

しかし背後から嫌なオーラを感じる。

 

「おい、竣。ちょっとこっちに来い」

 

この声は朝倉先輩だ。

まずい!と思った時には既に手遅れ。

首根っこを掴まれそのまま生徒会室へ連行された。

 

生徒会室で言われたことはただ1つ。

修復作業を今日中に終わらせろという命令だった。

 

「無理だ……」

 

 

 

時刻は午前10時。

爽やかな風が吹く中、

竣は1人残った崩壊部分の修復作業をしていた。

思っていたほど修復作業は多くなく、

頑張れば確かに1日で終わりそうであった。

しかしまだ筋肉痛や関節痛が続く竣に取っては、

かなりの重荷である。

しかしこれも修行の1つ、そう思い頑張っていた。

監督役として橘が見張っている。

 

 

「ほら!頑張りなさい!!」

 

エールをしてくれるのは嬉しいが、

手伝って欲しいなぁと思う竣なのであった。

 

まだ季節的には暑くはないが、

重いものを何度も運んだり、いろいろ集中した作業をしていると汗も出てくる。

既に制服のブレザーを脱ぎネクタイも緩めている。

 

そして脱いだブレザーは、橘が二つ折りにして持っている。

こういう所は几帳面なのだ。

 

「ふぅ…まだまだかぁ、頑張るぞ」

 

と、竣が自分に喝を入れると。

 

「おー!!」

 

と、後ろから呑気な橘の声が響いた。

 

 

時間は夕方に差し掛かった頃。

やっと修復作業が終わった。

 

「お疲れ様!よく頑張ったわね!」

 

橘が駆け寄ってくる。

 

竣は座り込み仰向けになる、

はぁはぁと疲れた息をしている。

 

「今日中に終わって良かったじゃない!」

 

そう言ってタオルを差し出してくれる橘。

その心遣いに感謝しつつ汗まみれの顔を拭く。

 

「それじゃあ、朝倉先輩に伝えに行かないと……」

 

ふらふらっと立ち上がる。

慌てて橘が支えに入ろうとするが、

竣は大丈夫と言って、今度はしっかりと立ち上がった。

 

時刻は5時もう暗くなってきていた。

2人は生徒会室へ向けて歩いて行き、生徒会室で待っている朝倉に報告する。

 

「そう、良くやったじゃないか。夜までかかると思ったんだけどな」

 

「先輩……今日は帰って良いですか…?疲れました……」

 

階段を上るのも辛いほど足が疲れていた。

腕ももう椅子1つ持てやしない。

 

「ああ、今日は帰って良いぞ、お疲れ様」

 

先輩の労いの言葉が嬉しいが、

今は一刻も早く帰りたかった。

2人はまだ仕事があるらしいので1人で帰途につこうとした。

しかし、まだトイレに行っていないことに気づいた。

気づいてしまうと行きたくなってしまうもの、学校のトイレで用を足すことにした。

 

用を足し、洗面所で手を洗っている時。

ふと、前の鏡を見る。

 

すると自分の後ろに不敵な笑みを浮かべた女が立っていた。

 

「………………………」

 

竣は驚きはしたが、

それはいた事に驚いたというより、存在していることに驚いた。

 

「なんでお前が……」

 

「ふふ、だって私死んでないし?」

 

そいつは羽が生えている。

 

「だとしても……なぜこっちの世界にいる……!」

 

「ゲートを開いてそこに入ったら、貴方のいる世界に来れたんだもん」

 

そいつは前に夜這いをしてきた。

 

 

「……………ミカエル…」

 

「ふふっ、覚えててくれたんだね」

 

 

「何をしに来た……」

 

警戒の色を強める。

いつでも戦えるように準備もする。

 

「そんなに警戒しないでよ、別に攻撃しないよ?」

 

「…………………」

 

「お願いがあるの」

 

怪訝な表情の竣。

とにかく話せと先を促す。

 

「私と契約して……お願い」

 

「またその話か…前にも言ったけどお断りだよ」

 

「………まっ、そう言うよね。じゃあさ、契約しなくて良いよ」

 

あっさりと引き下がるミカエル。

それが逆に不信感を募らせる。

 

その代わりにさ________

 

 

ガラッ

 

「トイレトイレ~っと」

 

見知らぬ男子生徒が入ってきた、格好からして部活の途中であろう。

竣はその横を通り過ぎトイレから出た。

 

内心落ち着いていない。

 

「まさか、ミカエルがなぁ……」

 

廊下を歩いていると後ろから駆けてくる音が聞こえた。

 

「ん?」

 

後ろを振り返ると橘が走ってきていた。

後ろには朝倉の姿もある。

 

「まだ帰ってなかったの!?」

 

「え、ええ…まぁ。ちょっとトイレに」

 

「トイレって……あれから20分は経ってるわよ?」

 

「いや、お腹が痛くて…」

 

「そう?もう平気なの?」

 

「はい、もう大丈夫です」

 

「そ!なら良かったわ!それじゃ、帰りましょ!」

 

橘と並んで歩く、

一瞬ではあるが後ろにいた朝倉が怪訝な顔をしたのは誰も知らない。

 

分かれ道へ差し掛かったところで、

朝倉が口を開いた。

 

「竣、そろそろ七夕祭がある。また手伝ってもらうからな」

 

7月7日に何かお祭りらしきものがあるらしい。

もう竣も生徒会の一員と言っても良いほどである、

断る理由もないので頷いて了承する。

 

「それじゃあな」

 

「また明日!」

 

橘とも別れ、帰途に着く。

 

「そう言えば、今日はルシファーが一度戻ってくるって言ってたな。何か買って帰ろうかな」

 

少し寄り道をして家に帰る。

未だ心の中はざわついていた。

 

 

 

今日から7月、今日は3日の月曜日。

それと同時に七夕祭へ向けて本格的な準備が始まった。

 

しかし、ここで意見が真っ二つに割れてしまう。

 

ある女子生徒がメイド喫茶をやりたいと言い出したのだ。

 

どの学校にも、クラスのカーストは存在する。

竣は様々な戦いで不在だったので、どこに属するかは不明だが

他のクラスメイトはもう立派なカーストによって動いていた。

この学校は能力が強い人が頂点だ。

 

そしてこのクラスで竣を除き、一番強い能力を持つもの。

それは、高坂綾音。

一年生にして上級クラスの魔術を操る。

彼女の家は名の知れた事業者で、その娘らしい。

彼女が賛成派の筆頭である。

 

一方で反対派にも強い能力を持つものはいる。

高坂に次いで能力の強い、西蓮小毬。

彼女は茶道や花道の道で有名な家である。

 

今も教室で2つの勢力が睨み合いをしている。

生徒会長の指名で、実行委員は選ばれる。

朝倉はもちろん竣を指名した。

しかしこれもまた、クラスで波紋を呼んでいた。

 

「そろそろ諦めてくださる?西蓮さん」

 

「それは無理です、どうしてあの様な端ない格好をしなくてはいけないのですか?」

 

「あら?そうは言っても、ただ恥ずかしいだけではなくて?」

 

「ふふ、そんな事ありませんわ」

 

「あ、あの……2人とも落ち着いて…」

 

竣が間に入る。

すると今度は竣に火花が飛び移る。

 

「第一、どうして貴方が実行委員なのですか?」

 

「御尤もですわ。出席率の異常に低いこんな生徒をどうして朝倉会長は選んだのかしらね」

 

すると見ていた男子たちもチャチャを入れ始める。

 

「裏で会長と繋がってるんじゃないのかー?」

 

「会長って裏で色々やってそうだよなー」

 

「確かに!枕営業とかしてお金稼いでいたりして!」

 

ゲラゲラ笑っている女子生徒の前に向かう竣

その姿を視界に捉えると嘲笑うかのように付け加える。

 

「あれ?図星?あ!貴方がお金払ってるのね?あはははは!!」

 

「何円払ってんだ?」

 

「あー面白いわ!この噂広めようかしらぁ?」

 

彼、彼女らはカーストで言えば真ん中。

噂を流したり噂の的になったり、普通の学生のレベルだ。

 

「ふふふふ」

 

すると、ゲラゲラ笑っている彼女らに釣られたのか竣も突然笑い出す。

 

「あはは……って、何笑ってんのよ。気に入らないわね」

 

「もう噂流そうぜー会長もなーんか気にいらねーし」

 

「あはははははは」

 

まだ笑っている。

その様子を見ていた高坂と西蓮は取り巻きたちと共に部屋の隅に移動する。

何かを察知したようだ。

 

「うるせぇ!良い加減黙れ!」

 

1人がイラついたように竣に言う。

 

「あーあ、面白いね。こんな事が楽しいのか、笑わせてくれる」

 

「あ?」

 

「この学校は、能力が全てなんだろう?なら噂なんて関係ないさ」

 

「はっはっは!馬鹿かお前?能力って……お前にはそれがねーだろ!」

 

「…………言ってくれるね。挑戦状と受け取った、良いよ。俺の能力見せてあげる」

 

 

 

 

 

教室が見える位置の木に腰掛けている天使が1人。

ミカエルは竣の事が気になって今朝からずーーーっと観察していた。

 

「それにしても、ほんっと自分勝手な人たちばっかだなぁ…竣君大丈夫かな…?」

 

その不安は的中した。

 

 

 

 

時刻は午後5時。少しずつ夕方の雰囲気が出てきた。

 

「悪いけど、手加減出来ないから」

 

そう言うと、竣はノーモーションで男子生徒の背後に回り込む

 

「!?い、いつの間にっ!くそっ!」

 

男子生徒もくるっと後ろを向き、攻撃を出す。

彼もまた魔術を使うようであった。

 

「き、効いてねぇのか!?」

 

「効いてるよ、ほんのちょびっとね」

 

男子生徒が目を見開く

気づいた時には自分の真横から回し蹴りが飛んでくるのが見えた。

そして一瞬。目の前は真っ暗になった。

 

 

それを見ていた高坂は何かを考え込んでいた。

対照的に西蓮はうっすらと笑みを浮かべていた。

 

 

クラスが静まり返る。

多くの生徒が竣の実力に気づいたようだ。

もう文句を言うものも、からかう者も居ない。

 

「今日の所はお開きにしよう。お疲れ様」

 

竣は最後にそう言うと、スタスタと教室を出て行った。

 

 

 

学校から出て暫く歩いていると木々に囲まれた公園が目に入った。

 

「少し休もうかな」

 

そう言って公園の中に入って行く。

そしてどんどん奥へ進み、少し階段を登りちょっとした広場に。

子供達が帰り支度をしている所だった。

 

子供達が帰ると竣は1人ベンチに腰かける。

周りには誰1人としていない。

 

「出てこいよ」

 

虚空に向かって話しかける。

すると後ろに生えていた木がガサガサと揺れ、

上から何者かが降りてきた。

 

「修行つけてくれるの?」

 

「ああ、約束したからな。ミカエルと」

 

それはあのトイレで再会を果たしたとき。

 

ミカエルは竣に修行してほしいと頼んだのだ。

 

理由は簡単

 

強くなりたい_____

 

いつの日かまた脅威になるかも知れないミカエルを修行している。

そんな事をラファエルやルシファーたちが聞いたら、

絶対に許してはくれない。下手をすればミカエルが殺されてしまう。

 

なぜ竣がこの提案を受けたかと言うと、

まずは自分にも修行する相手が欲しかった事。

そして、ミカエルが放っておけなかった事。

 

トイレで頼んできた時のミカエルの瞳が蘇る。

真剣な眼差し、迷いはなかった。それを竣は信じた。

ルシファー達が居る前では姿は現さない、それが条件。

 

「じゃあ、始めるよ」

 

「うん、ありがとう…竣君」

 

にこりと柔らかい笑みを浮かべる。

裏表のない屈託のない笑顔だった。

 

2人は完全に日が暮れるまで、修行に明け暮れた。

 

 

 

7月4日 放課後

 

竣は悩んでいた。

どうやったら、高坂と西蓮の啀み合いを止める事ができるかと。

 

まずはコミュニケーションが必要だとガブリエルに言われた。

そして同じ趣味があれば話が出来るとラファエルから聞いた。

 

まだ準備はほとんど始まっていない。

メイド喫茶はともかく、喫茶系の店をやる前提で、店の外装などを作っている状態だ。

 

竣は部屋の片隅で準備しているクラスメイトを見つめている西蓮の元へ行く。

 

「何かようかしら?」

 

こないだの戦いを見てからか、

西蓮も竣の実力をある程度は認めたようで、

反抗する口ぶりはしなくなっていた。

 

「西蓮の家って、茶道とかで有名なんでしょ?」

 

「ええ」

 

「もし良かったら、俺にも茶道。教えてくれないかな?」

 

そう言うと、疑いの目を向けてきた。

当然である、いきなり茶道を教えて欲しいと言ってきたのだから。

 

「本当の目的はなんです?」

 

核心をついてきた。

 

「いや、茶道に興味があったのももちろんなんだけど、今お前と高坂が喧嘩してて、これじゃあクラスがまとまらない。でも何故そこまで意地張り合うのかが分からないんだ、だから少しでもお前の気持ちが立場が分かったらなって」

 

正直に話したせいなのか、

少し考えた後ふっと西蓮は笑い。

 

「貴方も苦労人ですわね」

 

いや、お前達のせいだよと思ったが言わないでおく。

 

「良いですよ、では今日教えて差し上げましょう」

 

「良かった、ありがとうな」

 

「ふふ、それではこの準備が終わったら正面玄関で待っていて。迎えの車が来るはずですわ」

 

「ああ!」

 

何とか約束を取り付けられてホッと胸をなで下ろす。

どうにも西蓮と話す時は緊張してしまう。

 

 

西蓮の方を見るとこちらを見てにこりと笑う。

いつ見ても上品な笑い方だ。

 

「高坂さんよりも、私を選んだのは嬉しいですわ……ふふ」

 

 

そして準備が終わり、

言われた通り正面玄関で待っていると目の前に黒い車が止まった。

 

すると前のドアから黒い服を着た人が降りてきて、

後ろのドアを開けてくれた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

礼を言って車に乗り込む。

すると横には西蓮が座っていた。

 

「では、車を出して頂戴」

 

 

車の中では会話は無かった。

竣は妙に緊張していたのもあるが、

西蓮がずーっとこちらを見ていたから、恥ずかしくて話しかけられなかったのである。

 

そうしている間に、

豪邸のような家の前に着く。

ドアが開けられ、降り立ってみるとそこは旅館のような作りの大きな家であった。

 

縦に長いのではなく、横に長いのだ。

庭も広く、木々も剪定されていて綺麗だ。

 

石の上を歩いて家の戸の前へ進む、

すると西蓮が竣に待つようにと言った。

 

「少し待っていて下さいね」

 

すると戸を開け、

家の中へと姿を消した。

 

 

 

数分待っていると戸が再び開く。

 

中に入るとそこに正座している和服の女性が。

 

「ようこそ、西蓮家へ」

 

そう言って深々とお辞儀をする。

 

顔を上げたところで初めてそれが西蓮小毬だということに気づいた。

 

「ふ、雰囲気が違う…」

 

「ふふ、上がって下さいな」

 

「う、うん…お邪魔します」

 

靴を綺麗に揃え家へと上がる。

スリッパを履き西蓮の後に続く。

 

ふと時計を見ると午後5時半。今日の修行は遅くなるなと思った。

 

そしてやけに家が静かだった。

 

「あ、そうですわ。今はこの屋敷に居るのは私と貴方だけですから」

 

「えっ!?そ、それはどうして?」

 

「こちらは客人用の屋敷、家族用の屋敷には人が沢山居ますけれど…こちらには人は寄越して居ませんわ。私も貴方様と静かにお茶を楽しみたいのです」

 

振り返ってにこりと笑う

何故だか恥ずかしくて目をそらしてしまった。

 

 

 

西蓮家を出たのは午後7時。

色々話もしたので遅くなってしまった。

 

 

ミカエルが木の枝から西蓮家の扉を見ていると、

やっとその扉が開いた。

そこから竣が出てきた。

 

「あ、やっときた…!しゅんく……」

 

声をかけようとしたが、

再びその扉が開き和服の女性が飛び出てきた。

そして竣を呼び止める。

 

 

「どうした?」

 

「言い忘れていた事が」

 

「何を?」

 

「また家にいらしてくれるかしら?」

 

「!……西蓮が良いなら、またお邪魔するよ」

 

「…そう…ふふ、今日はありがとう…」

 

にっこり笑うと扉を閉め、家の中へと入っていった。

 

 

「むぅ……あの子誰かしら……」

 

もう出てくる様子がないのを確認して、ミカエルは竣の元へ寄って行った。

 

 

 

「はぁ…つかれた……ただいま」

 

家に帰ったのは午後9時。

 

リビングに行くとラファエルが待っていた。

 

「お帰りなさい、ガブリエルは今お風呂に入ってます」

 

「そっか、遅くなってごめんな」

 

「いいえ、七夕祭の準備お疲れ様です」

 

その言葉を聞くと、心のどこかが痛む音がした。

本当は準備なんかじゃない、でもそれを言うことは出来ない。

 

 

 

しかしその嘘もいつかは見破られる。

竣の予感はその日のうちに当たるのであった。

 

「はい、朝倉です」

 

「ちょっと話があるわ」

 

「……こんな時間に?」

 

「ええ、こんな時間だからよ」

 

「…はぁ……分かったわ……ええ、それじゃあ公園で」

 

 

 

 

 

7月5日(七夕祭まであと2日)

 

クラスの出し物が決まらない。

しかし進展はあった。

 

それは朝学活の時。

 

教卓に立った竣はみんなに三たび言っていることを言う。

 

「クラスの出し物…もう決めないと…」

 

しかし話は平行線。

どちらかが折れるという訳もない。

と、思っていたのだが…

 

「1つ、意見がありますわ」

 

手を挙げたのは西蓮だった。

 

「何?言ってみて!」

 

「メイドに関しては反対ですけれど、喫茶店をやるのは良いですわ」

 

「本当!?」

 

クラスがざわつく、

あの西蓮が少し妥協したのだ。

 

この調子で高坂も妥協して、喫茶店ということになれば良いのだが、

現実はそうは甘くない。

 

「ふん、貴女が折れるのが筋なの。そこまで折れるなら、さっさとメイド喫茶にさせてくれないかしら」

 

いつもは口を挟めなくなる竣だったが、今日は違う。

 

「いいや、違うだろ?西蓮は喫茶店でもいいと自分の意見に妥協したんだ、今度はお前の番じゃないのか?」

 

「何?この私に妥協しろと?」

 

「ああ、第一何故メイド喫茶にしたいんだ」

 

「そんなの簡単よ、私はモテるの?分かる?その私がメイドをやれば、この学園で1番の売り上げになる。売り上げの10%は私達に入るの、メイド喫茶なら商品の値段を高くしても文句は言えないわ。大儲かりよ。そして私の知名度も売れる。まさにピッタリじゃない」

 

「………………ふっ」

 

「…何かしら?」

 

「あははは!」「ふふふふ…っ!」

 

竣はその話を聞いて自然と笑ってしまっていた。

そして西蓮も同じく笑っている。

 

「な、何よ?」

 

「いやぁ…我儘以上に自分勝手、自己中心的、自信過剰、利己的だなぁと思ってさ」

 

「その通りですわ…ふふ、まさか高坂さんがそこまで自分の事しか考えていなかったなんて」

 

今日は妙に西蓮と息が合う。

昨日の経験が効いたのかも知れない、

西蓮の気持ちを理解する事ができたのかもしれない。

 

「……うるさいわ!何にせよ、私は曲げないから」

 

そう言って取り巻きたちと教室を出て行く。

 

教室内では、

高坂を言い負かしたと、盛り上がりを見せていた。

 

 

一方の高坂は…

 

「あの男…こちら側に引き込まないと面倒ね……」

 

 

 

そして放課後。

 

竣は高坂に呼び出された。

場所は屋上だ。

 

キィィィィ___

 

扉を開けるとフェンスに寄りかかる高坂の姿が。

 

「話って何だ」

 

「単刀直入に言うわ、私と協力して西蓮小毬を排除して」

 

「…………断ったら?」

 

「そうね、貴方をこの学校から排除する」

 

「へぇ……出来るかな」

 

「………そう、そうだったわ。貴方は生徒会長さんと妙な繋がりがあるのよね……ふぅ…もう一度だけ聞くわ、私と協力して西蓮小毬を…「お断りだ」

 

話を遮るように断ると、

竣は扉に引き返していった。

 

 

「…………そう……なら、ここで消すだけよ…」

 

 

キィィィィ____

 

扉を開け下の階へと繋がる階段を下ろうとする。

すると物陰に人影が2つ見えた。

 

「………………そういう事か」

 

竣がそう言うと、人影が動いた。

同学年ではない、3年生らしかった。

 

そして彼らの手元にはピアノ線が。

 

竣の足はもうピアノ線を引っ張っていた。

 

真横両方からナイフが迫る。

 

「………………」

 

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