7月6日(あと1日)
翌日。
クラスに高坂の姿が無かった。
突然出し物で争っていた相手が居なくなったので、
うちのクラスの出し物は喫茶店に決まった。
高坂派の人たちはまだ反抗的であったが、
リーダーがいないので渋々指示に従いはしていた。
七夕祭まで1日と迫っていたが、
みんな団結したお陰で何とか準備と出すクッキーなどの準備は整った。
「はぁ…疲れた!」
全部の準備が終わったのは夕方の5時。
クラスの中ではお疲れという声が飛び交っていた。
「皆んな!飲み物買ってきたよー!」
星崎を含む女子達が飲み物を買ってきてくれていた。
「サンキュー」
飲み物を貰い窓辺でくつろいでいると、
横に西蓮が寄ってきた。
「西蓮か、お疲れ様」
「ええ、お疲れ様でした」
カツンと持っていた缶同士をぶつける。
「結局、高坂は何がしたかったんだろうな?」
「さぁ?良く分かりません…」
高坂に襲われたことは黙っておくことにした。
「もし明日高坂が来たらどうする?」
「普通にシフトに参加してもらいます」
「分かった、俺と同じ所に入れてくれ。監視する」
「分かりましたわ」
シフトの管理は西蓮がしていたのが幸いであった。
普通の生徒では何故?と聞き返されてしまうだろう。
缶に入っていた飲み物をぐいっと飲み干す。
「それじゃあ、明日も頑張ろうな」
「ええ、もちろんです」
フッと笑い合う。
缶を潰してゴミ箱に捨てる。
まだクラスでは残って話をするもの、
まだ装飾に手を加えているもの。
様々だった、そんな中竣は一足先に帰ることにした。
そしていつもの公園に。
ここがミカエルとの修行場所だ。
もう隠して修行はしない、ただこの場所がやりやすいので変えていないだけだ。
「ミカエル、修行しよう!」
「うん!」
近くの木の上からミカエルが降りてくる。
周りに子供達は居ない。
「行くよ……」
そして気付く。
明らかに力の質が変わっていることに。
「なんだろう……この力……」
「凄いよ竣君!」
「………聖杯の力を押し上げられたのかな…?」
「とにかく戦ってみよーよ!」
「そうだな!」
以前とは違って澄んだ赤色のオーラが出る様になっていた。
聖杯の力の最低値を引き上げたことで、
少し力を入れるだけで高火力を出す事が可能になった。
昨日のラファエルとの戦いがキッカケとなったのは間違いない。
そう、あの戦いは色んなモノをもたらした。
7月7日金曜日(当日、1日目)
七夕祭が始まった。
1日目は平日なので生徒が中心に楽しめる、
2日目は休日なので外部からたくさんの人がやってくる。
高坂はこの日も来なかった。
喫茶店は大盛況である、
他のクラスはアトラクションものが多いため、
休憩したい生徒達が続々と入ってきていた。
竣のシフトは午前中だ、午後は自由である。
午前中から喫茶店は大忙し、皆んな慌ただしく働いていた。
ふと教室のドアを見るとその横に朝倉先輩が立っていた。
生徒達も注目している。
「し……曽谷はいるか?」
クラスメイトの1人がこちらを指差す。
「俺か…!」
先輩の元へ駆け寄る。
「話がある。仕事が終わったら生徒会室まで来るように」
「わ、分かりました」
あと1時間でシフトの交代だ、
話は気になるが今は仕事に集中。そう心に言いつけて残りの時間精一杯働いた。
コンコン
「曽谷です」
「入れ」
生徒会室に入ると先輩しか居なかった。
「あれ、他の人達は?」
「居ないぞ、個人的に話があったのだ」
「そうですか…話って何ですか?」
「それがだな。七夕と言うのは織姫と彦星が一年に一度会う。そんな話があるだろう?」
「確かにありますね」
「私の親族が神社の神主をしていてな、そこでは織姫を今日の夜だけ召喚するそうなんだ」
「………へ?」
意味が分からなすぎて気の抜けた返事をしてしまった。
「召喚って……実在しているんですか!?」
「わ、私に聞かれても分からん!ただ、問題はそこじゃないんだ。同じように彦星を召喚する家があってな、高坂家と言うんだが……」
「高坂家……高坂?………高坂綺音…!」
2つ目の衝撃が襲った。
もう脳が情報の処理を諦めかけている。
「そう、お前のクラスにいる高坂の親族や親戚だ。その高坂家が去年彦星の召喚に失敗した。原因は魔力と技術の不足。そして失敗した後から高坂家はこちらの召喚士を狙っているらしいという情報も入った」
「そ、それで…?」
「簡単にこちらの召喚士がやられる訳無いのだが、今日の夜だけは召喚に精神を注ぐから周囲に気を配ってられないのだ。きっと高坂家もそれを知っている」
「狙いに来ると…?」
「その通り、そこで。お前にも立ち会ってもらってボディーガードを頼みたいのだ」
「おお……」
処理が数分前で止まっている。
頑張れ頭。
「落ち着いたか?」
「事態は分かりました、でも俺なんかが立ち会って大丈夫なのですか?それに召喚してどうするのです?」
「立ち会うのは平気だ、私が話を通すからな。我々が今年1年の様々なことをお伝えし料理でおもてなしをする。そして彦星と一夜を過ごしてもらうはずなのだが…あちらが失敗した去年は織姫が取り乱してしまってな。年に一度会うことも出来なくて、それは深い悲しみに陥っていただろう」
「そ、そうですか……ボディーガードはやりますよ。織姫、生で見てみたいですしね」
「そうか、それは助かる。祭が終わったらまたここへ来てくれ、それまでは自由にして良いからな」
「分かりました、失礼します」
ソッとドアを閉める。
難しい話を抜きにすれば織姫に会えるかもしれないのだ、
そう考えるとワクワクしてきていた。
「ここが先輩の親戚の屋敷……」
大きい、そして和風な雰囲気を醸し出しているが、
簡単には踏み込めない雰囲気も兼ね備えている。
屋敷から人が出てきた。
「おお、貴方がボディーガードを務める方ですね」
若い男の人だ、先輩はその男と一言二言言葉を交わすと屋敷へと入って行ってしまった。
「俺はどうしたら?」
「屋敷の案内はお任せ下さい、ですが。少し力を見させてもらいます、ボディーガードとは言えミスは許されません」
「分かりました」
「本気を出して下さい、唯湖様から強いとは伺っておりますが、念のため」
真剣に頼まれたのなら手を抜くわけには行かない
拳を握り力を高める。
その様子を屋敷の窓から眺めている朝倉
近くに召使いが寄ってきた
「どうなされたのですか?」
「丁度良い、竣の戦いを見てくれ。驚くと思うぞ、彼奴はとっても強いからな」
「………唯湖様がそんな事を仰るなんて…珍しい…」
「ふふ、そうか?彼奴を見てると楽しいんだ」
召使いと2人で戦いの様子を眺める。
「行きます!はああぁぁぁぁっ…」
地響き、地鳴り、雲が凄い速さで動いていく。
「な、中々の力強さ…!」
「本気になるには少し慣れが必要みたいです…」
「そ、その強さで…まだ本気ではないのですか!?」
もう確かめる必要もない程に強かった。
「はい…大体7割位です……少しは強いでしょう?」
「え、ええ…これなら大丈夫です…」
男は戦いをやめようとしたが、
目の前から竣が消えた。気配がして振り返るが、既に目前に拳が迫っていた。
「ぐあっ!」
ガードするも衝撃によって吹き飛ばされ、
屋敷の一階を突き破り中庭の池に落ちる。
「だあっ!」
竣は上空に飛び上がり屋敷を飛び越える。
中庭に降り立つ。
80%____
空が赤く染まる
敷き詰めた石がグラグラ揺れて浮きだすものまで。
池から這い出た男は急いで止めようとする。
「も、もう結構です!」
窓から眺めている2人。
召使いは少し慌てた様子で朝倉に言う
「お止めになった方が良いのでは…?」
「良いや、このままだな。そろそろ興味を示すだろう?リーダーさんも」
「そ、それはそうですけれど…」
2人とは違う窓からまた戦いを眺めている女がいた。
朝倉の言っていたリーダーだ。そう、彼女がボディーガードのリーダー。レミリア。
窓が割れる音が聞こえる。
竣の目の前にガラス片が降って来た。
「!!」
反射的に顔をガードする、次の瞬間腹に重い一撃が入る。
「ぐ……誰だ…!」
見上げると男との間にショートカットのキリッとした女が立っていた。
「手合わせなら私とやろうじゃないか、少年」
「貴女は強そうです…良いですよ」
「それと………」
一瞬で真横に移動、耳元に口を寄せる。
「私の事はレミリア、そう呼んでね」
背中がゾワッとした、くすぐったかったと言うより恐れを感じた。
まるでルシファーに挑もうとしているかのようだった。
そして先輩に似た雰囲気を感じた。
「貴女は…先輩とはどういった関係ですか?」
レミリアは驚いた顔をして、それから拍手をした。
「素晴らしい、よく分かったな。私と彼女に接点があると」
「ええ、まぁ…何となくですけど…」
「彼女と私は姉妹だ、血は半分しか繋がっていないけど」
「姉妹!?」
「父親は一緒だ、だが。私の母はこの家の正統な権利を持つ人、彼女の母は父が気の迷いで作ってしまった時の相手よ。権利もないしお金もないわ」
「…………………」
「私は父と母の愛情を受けて育ち、訓練を受けボディーガードのリーダーを任されるようになった。彼女も昔は私と一緒に訓練をしていたけど、何時からか訓練に来なくなった。彼女は父にも愛されてはいなかったしね」
「…………………」
「言っておく、私は強い。彼女よりも、ずっと。」
「…………………」
「何を黙っている、まっ手合わせをさせて貰うわ」
気にせず距離を詰める、様子を伺いながらかがみ足払い。
竣はかがんだレミリアを冷たく見下ろした。
足払いを喰らう、しかしわざと食らったようにレミリアには見えた。
「真剣にやりなさい」
右ストレート。それをもわざと喰らう竣。
「……殺すぞ?」
レミリアから発せられた冷たき言葉、やっと竣は反応した。
「殺せよ、やれるものならな………やれるものなら…………!」
静かにオーラを放出。いきなり100%の力を出した。
空が赤く染まる、大地が揺れる、雲の流れが早い。
「へぇ、面白いじゃん」
余裕の笑みを見せるレミリア。
2人は距離をとった後、再びぶつかり合う。
同時に放つ蹴り、お互いがガードしきれず喰らう最中に、竣は地面にエネルギーを発し続ける。
砂煙が上がり、地面がえぐれる。
「……何を…?」
レミリアは距離を取るが、それが失敗だとすぐに悟る。
自分の真下からエネルギーが放出された。
竣の発したエネルギーは地下を通じてレミリアの元へと伝わった。
「どうだ!」
「無駄さ」
「!!」
喉元に穴が開くような衝撃
衝撃波が喉に直撃した。
「げほっ!ごほっ!!ぐ……」
数メートル先でレミリアは薄ら笑いを浮かべている。
力では勝てない、そう悟った。
「ならば………だだだだだっ!!」
エネルギー弾を連続でレミリアに向けて放出。
レミリアの周りで爆炎が巻き上がる。
「何の真似だい?」
煙の向こうから声が聞こえる。
煙の向こう_______?___違う
「後ろか!」
後ろに向かって回し蹴りをするが時遅し。
足を掴まれる。
「技量でも君は私には勝てない。愚かだね…」
挑発している。
この戦いを楽しんでいる、それが竣にとってはイラつく。
しかしイライラしてしまえば思う壺、冷静に保とうと心を落ち着かせる。
「……………そうか」
手をだらりと垂らす。
「?」
相手の注意がこっちに向いた瞬間に足を解放する。
少し距離を置き、再びだらりと垂らした体勢に。
「今度は何?」
くすくすと笑う、レミリアはあれこれ挑んでくる竣を気に入っていた。
だって面白いから。だって弱いから。
「来いよ」
一歩も動かない。
「………良いわ」
レミリアの口角が上がる、それが合図。
手を水平にして喉元に伸ばしてきた。
「………………」
ギリギリまで引きつける__そしてかわす__!
「避け方を変えたのか、良い考えだよ君。でもそれは……実力がある程度近しい相手じゃないとね?」
再び攻撃。今度は足を狙ってきた、足払いだと判断。
これは防御し反撃をしようとした。
「………………!」
防御する。確かに足の動きは止まった。
「……ぐ………っ!!」
力が想定外だった。今までとは想像もできないほどの強力な力。
今の一発で足の骨にヒビが入る。
そして倒れこむ。
向こうから朝倉が走ってくるのが見えた。
激痛に耐えながら立ち上がろうとする。誰かに持ち上げられる。
「……レミリア…!」
「貴女が気に入るのも分かるかも、私も気に入っちゃった。その弱さに。あははははは!!!」
「………絶対に……お前を倒す………くっ!」
レミリアを押しのける、一歩二歩進んだところで前のめりに倒れる。
それを間一髪で朝倉が受け止める。そして付いてきたメイドに引き渡す。
「話がある」
「私も」
朝倉とレミリアはどこかへと行ってしまった。
夜になった。
いよいよ召喚の儀式を行うらしい。
レミリアの父の父、つまり祖父が召喚士らしい。
魔法陣の真ん中に立ち何やらブツブツと唱え始める。
空には星が輝き雲ひとつない綺麗な夜空。
「…………………」
朝倉は魔法陣から少し離れたところで立ち、上空を見上げている。
「………………レミリア………」
あの後、レミリアと話した。
話したと言っても一言二言、後は殴り合っただけ。
その証拠に服を脱げば痣がたくさん浮き出てくるだろう。
「………敵わない…」
悔しさが滲む。
ふと視線を横に移す。
松葉杖をついた竣が目に入る。彼も何か考え事をしているようだ。
「………レミリアは強い……でも、あいつがのさばる限り先輩は……」
足はまだ痛い、側には何かあっても良いようにメイドさんが待機している。
「竣様、大丈夫ですか?」
視線に気付いたのかこちらを見て声をかけてくる。
「はい、大丈夫です……迷惑をかけてすみません……」
「良いのですよ、子供の頃はやんちゃをするものです」
「えっ?」
「ふふ、何でも御座いません」
くすくすと笑っている。
この人の名前、まだ聞いていないが傷の手当からここの案内、色々お世話になった人。
この人も昔はやんちゃをしていたのだろうか。
空から一筋の光が降りて来る。
おぉ…という感嘆の声が周囲から上がる。
どうやら成功したらしい。
魔法陣の中心はまだ眩しい、しかし人がいることは確実に分かった。
朝倉は近づく、祖父が既にその人に話しかけていた。
「今年もおいで下さって誠にありがとうございます」
深々とお辞儀をする。
少しずつ眩しさが取れていく、眩しさから生まれたのは綺麗な美人だった。
この人を見るのは何度目か、小さい頃に見た気がするがここ数年は顔を出して居なかった。
妙に気恥ずかしさもあるが、朝倉も近くに行き挨拶をする。
「お久しぶりです。朝倉唯湖です。この度はおいで下さりありがとうございます」
「……まぁ、唯湖ちゃん!お久しぶりね」
そう言って大きくなった私の頭を撫でる。
父にも愛されなかった私、織姫には愛を貰っている。そんな気がして心地良かった。
「………レミリアは…どこへ?」
竣はそんな様子を遠目から眺めながら、メイドさんに尋ねる。
「さぁ…レミリア様はこの儀式には興味が有りませんから……どこかで時間を潰しているのでは無いでしょうか」
「そうなんですか……邪魔してこないなら良いのですけれど…」
正直、レミリアとは戦いたくなかった。
なぜかって?
単純な事。
勝ち方が分からない。
織姫は周囲を見回す、どの人も去年見た人たちだった。
みんな元気そうで何よりだと思った。
相変わらず綺麗な家、綺麗な庭、綺麗な木々たち。
ひとつだけ違うものがあった。
松葉杖をついた男の子がいる。
織姫がスタスタと歩く、向かっているとは竣の方。
朝倉は祖父に止めなくて良いのかを聞いたが、別に時間はあるので構わないそうで、
全く止める雰囲気が無い。
「……初めましてこんばんは、貴方は誰ですか?」
自分の眼の前には織姫が居る。
改めて緊張した。
「お、俺は…曽谷竣と言います。は、初めまして」
お辞儀をする、目線を下に向けていた方がずっと気が楽だった。
「竣君だね、礼儀ある良い子ね」
頭を撫でられる、自分の頬が熱くなるのは感じた。
「あ、ありがとうございます…」
緊張していて上手く言葉が出ない。
タイミングを見計らって祖父が織姫に中へお入り下さいと声をかける。
織姫が竣の前から居なくなった。
ホッと一息つく。
「顔真っ赤だぞ」
「!!?」
耳元で声がした、慌てて振り向くとニヤニヤ顔の先輩が立っていた。
「ほら、お前も中に入れ。食事をするぞ」
スッと真剣な顔に戻る。
これ以上言っても仕方が無いのでついて行くことにした。
中に入ると少しずつ食事の準備が進んでいた。
「座って待っていろ」
先輩に指示された通り、扉に一番近い頃に座って大人しく待つ。
足が痛むが立っているわけにもいかず、少し足を伸ばす形になった。
織姫は先輩の祖父と何やら話をしていた。
今年何があったか、今年も相手は召喚に失敗したこと。
織姫も悲しみはあるが、この世界に召喚されること自体奇跡だから。と少しずつ受け入れているという話だ。
織姫は今年も彦星に会えないと思うと悲しくなったが、
去年は泣き腫らし暴れ、この家の人たちに多大な迷惑を掛けてしまった。
その反省から今年は落ち着くことにした。
そしてまた視界の端に捉える。
竣君が足を伸ばして座っている事に。
最初は行儀が悪いと思ったが、松葉杖を持っていたので足を怪我しているのだとすぐに思い直す。
織姫が近づいてくる。
竣の心は緊張した。
「足を怪我して居るの?」
竣の前にかがみ、優しく話しかける。
「は、はい……まぁ、その、色々あって…」
嘘が下手な子、織姫は微笑ましい気分になった。
「治してあげようか?」
「えっ?」
しかしその話を聞きつけたお爺様がやめて下さいと言ってきた。
力を無駄に使わないで欲しいとの事だ、もし何かあったらと心配して居るのだろう。
「織姫さん、俺は大丈夫ですから…」
「…ダメよ、治すわ」
ムッとした表情で織姫は、竣の足に手を優しくおく。
すると足の痛みが消えていた。
「ほ、本当に…治った……?」
「良かったわね、その代わり…」
「その代わり?」
「隣に来てお酌をして頂戴?良い?」
なんだそんな事かと思いコクコクとうなづく。
今は足が治った事に驚いているので精一杯だ。
そうこうしているうちに、料理が並べ終わる。
織姫がジッとこちらを見ている。
竣は少し緊張しつつも、料理を持ち織姫の横に正座する。
「いただきます」
広い畳の部屋には10人ほどが座って、話をしながらご飯を食べている。
最初は竣もご飯を食べながら、お酌をして居た。
1時間後。
もう周りの人は片付けを始めていた、
織姫が寝る場所の整理などを行っているのである。
広い部屋には先輩と先輩の祖父、メイドさんと織姫、そして竣だけが残っている。
祖父が一足先にごちそうさまと言う、織姫に少し席を外します。何かありましたら、そこの女中にお申し付け下さいと言った。用を足しに行ったらしい。
すると、織姫が端を置き竣の方を見る。
「竣君は家族はどうしているの?」
「か、家族は………居ません……」
嘘をつくわけもなく、俯き加減でそう答える。
すると自分の背中まで腕が伸びてきて引き寄せられる。
「……………」
織姫に抱き締められている。
「ごめんなさい、辛い事を聞いてしまったよね…竣君、私は短い間だけど母親だと思ってくれても良いからね…?」
優しい声が聞こえる。
思わず涙が溢れた。
何故かは分からない、
不思議と暖かくて心地良かった。
だから自然と言葉が出てきていた。
「織姫さんは今日と明日しか居れないんですよね…なら、外の世界はどれだけ見た事ありますか?」
織姫が竣を離す。
そして答えを返す。
「あんまり見た事はないかな、明日しか自由な時間はない上にね、私は完全な実体じゃないのあそこにある魔法陣からあまりにも離れてしまうと体を保てなくなって存在が消えてしまう。だから遠くには行けない」
「…………もし、行けるとしたら行きたいですか?」
「!!そ、それはもちろん…見てみたいけど…」
「なら試したい事があります。それは…「ならぬぞ」
祖父が帰ってきていた、話を遮る。
「ボディーガードの身でどこまで出しゃ張るつもりか?いくら唯湖が連れて来たとはいえ、あまりに酷いようなら追い出すからな、良いな?」
鋭い眼光で睨みつけられる。
「おい、聞いていr「その方法は何なのかな?」
今度は織姫が祖父の言葉を遮った。
さすがに驚いている。
「ほら、言ってみてよ。言うのはタダだから」
織姫も砕けた口調で話しかけてくれる、
それも嬉しくて方法を話す。祖父は遮られた事に戸惑い口を挟んでは来なかった。
「俺は、前に自分の中に自分以外の人の魂というか意思というか……そう言うものを居れた事があったんです。だから、織姫さんの意識を俺の中に入れれば、俺が見た場所は織姫さんにも見えるはずです。そしたら少しは楽しめるのかなって気がして…」
そこまで言うと織姫が固まっている事に気づいた。
その直後竣の方をふっと見つめてくる。
「お、織姫さん…?」
「凄い……凄いわ竣君!」
また抱き締められた。安心して身を預けてしまう自分が居た。
「是非、やりましょう。きっと竣君なら成功してくれるはずよ」
立ち上がると早くやろうというように竣を急かす。
織姫さんの子供っぽい一面が見れた。
翌日
「んーよく寝た!」
竣が布団から起き上がる、
自分の意識の中にしっかりと織姫がいる事を感じる。
結局家に電話をし今晩は朝倉家の屋敷に泊まる事にした。
あれ一向にレミリアは姿を現さない。
(おはようございます、大丈夫ですか?)
(ええ、ばっちり!竣君ありがとう)
大丈夫みたいだ、今日は七夕祭2日目。
まずは学校へ行くことにした。
クラスに着くと星崎が話しかけてきた。
「おはよう!」
「おう、おはよ」
「…………んー」
なにやら考え込む星崎、何かと竣が聞き返す。
「なんか違う?…雰囲気というか…」
「そうか?」
と言ってふわりと笑う、その笑顔が違和感をさらに呼び混乱する星崎だったが準備の事を思い出し慌てて動き始める。
「俺も手伝わなきゃ」
するとスタスタと今度は西蓮が近づいてきた。
「おはようございます」
「西蓮か、おはよう」
するとやはり西蓮も何かを考えている。
「やっぱり、俺なんか変?」
「え、ええ……言葉では表し辛いですが…柔らかいというか優しいというか…普段から優しいのですけど、もっと凄いというか…」
珍しい。
饒舌な西蓮がここまでしどろもどろになるなんて。
朝から貴重なものを見れたので、良しとしよう。
2日目の祭りが始まった。
今日のシフトは午後なので、午前中を謳歌していると人混みの中から見覚えのある姿がこちらにやってきた。
「ラファエル!ガブリエル!」
「良かった、すぐ見つかりました」
「竣君おはよー!」
「来てくれたの?」
「はいっ」「うん!」
2人とも楽しそうな表情だ。
「そうだ、今暇だし一緒に回ろっか」
そして回りながら2人も竣に違和感を抱いていたが、
昨日の話を2人には聞かせるとそういうことかと納得したようだ。
他のクラスで買ったラーメンをすすりながら3人はベンチに腰掛けている。