「貴方がそた……に………?」
曽谷に声をかけようと思っていた橘
しかし近づいてくるに従って、
見覚えのある顔だと感じる
「…………鴨居!」
鴨居だ。
鴨居は這い蹲りながら何かから逃げている様子だった。
そのまま橘の呼び掛けにも答えず、
一心不乱に這い逃げている。
すると橘は、
鴨居が現れたところにもう一つの人影を見つける。
その影は今度は這い蹲っては居ない、しっかりと立っている。
「あれが、曽谷なのかしら?」
後ろにいる女の子に聞く
「そ、そうです!でも……あんな目の色…」
曽谷と思わしき人影。
その目は赤く染まっていた、
決して血に染まったのではない、元からこの色だったかのように。
綺麗な紅色をしている。
そして、次に橘が曽谷の方に振り向いた時、
そこには既に人影は無かった。
その代わりに、背後から男の悲鳴が聞こえた
慌てて振り向いてみると、
這い蹲りながら逃げていた鴨居の上に曽谷が立っていた
曽谷の力に耐えきれず、半ば押しつぶされるようになってはいるが。
「あ、あなた!そこからどきなさい!」
橘はまず、鴨居と曽谷を引き離そうとした。
2人が近くにいては危険だからだ。
曽谷は橘を見る。
決して睨んだりした訳ではない、見たのだ。
ただ見ただけであるが、橘は今まで感じたことのない恐怖を感じる。
曽谷の目、それは狂気そのものだった。
そして曽谷はそのまま、
なんの感情もためらいもなく、鴨居の首を掴む。
「やめなさい!!」
例の丸い装置を取り出して威嚇する
このまま離さなければ、この装置を使って曽谷の力を奪い無力化するつもりだ。
曽谷は橘を見ることもなく、
鴨居の首を締め付けていく
「ぐ………が………」
鴨居は何かを言いたい感じであった
恐らく命乞いだろう。
鴨居の世界の中で何があったか、それを聞くためにもここで鴨居に死なれては困る。
橘は仕方なく装置を起動。そのまま曽谷に向けて吸引を始めた
「………………」
吸引は順調に進んでいった
少しずつではいるが、鴨居の首を絞める力が無くなっていく。
「………………が…は」
鴨居もそれに気付き少しでも抵抗しようとしているようであった
橘は異変に気付く
確かに、力は徐々に落ちてきているのは確認できるが、
それがどこまで続くかが分からないのだ
まさに、底なしの力と言えようか、そう言っても過言では無かった。
「マズイわね…」
力を吸収するのは良いが、
今度は逆に吸い過ぎて装置の容量がいっぱいになって来ている
このままでは、いつか装置が満タンになり吸引が出来なくなってしまう
橘にどんどん焦りの表情が出てきていた。
「は、早く…!………まだ力を持っているの!?」
一方で力を吸われている竣だが、
鴨居の首を絞める力は弱くなったが一向に苦しい表情を見せない
そしてついには口角を上げる。
「わ、笑った……!?」
その行動が焦りを募らせていた橘のイライラに火を点けた
「あーー!ウザいわね!!もう良いわ、こうなったら実力でねじ伏せる!」
力が弱まり今の竣になら太刀打ち出来ると判断した橘
装置を投げ捨て真っ向から向かっていこうとした
その時。
「……………!」
突然竣の周りからスパークの様なオーラが出たかと思うと、
それが一気に装置に吸引される
「くっ…!」
突然突然の高負荷に耐えれるわけもなく、
装置からはスパークのオーラが溢れ出ていた
そのスパークオーラが橘の腕へと伝染する
「きゃっ!」
痛みと驚きで装置を離してしまった橘
そのまま装置は竣の元へ転がっていく
正確に言えば、
竣の下にいる鴨居の横へと転がっていった
そして装置は更に竣のオーラを吸引する。
スパークオーラはやがて、
巨大化していき竣を飲み込み、
その末端は学校の校舎まで影響を与えていた
「マズイわ!このままじゃ校舎が!」
既に校舎は鴨居の世界から完全に現実世界へと変化していた
ようは校舎内にいる生徒にも被害が及ぶというわけだ
しかし橘はもうどうしようも無かった
そして装置は爆発を起こして、周辺に超強力なスパークオーラを放ちながら消し飛んだ
それと同時に、中心にいた竣と鴨居に襲いかかる。
「鴨居っ!!」
あまりの眩しさに目を瞑ってしまう橘
最後に見たのは、
スパークによって意識を失い校舎に吹き飛ばされた竣と、
逆に吹き飛ばされずスパークをまともに受けた鴨居であった。
「う………くっ……」
意識を取り戻した橘
直ぐに前方を確認するが…
鴨居の姿は無かった、完全にスパークオーラによって消し飛んでしまったみたいだ
次に橘は竣の姿を探す
記憶によれば、校舎に吹き飛ばされていた
「…………あ、あそこは…」
ただ単に校舎に吹き飛ばされたなら良いのだが、
その場所が悪かった
「ど、どうしたんですか?」
背後から声が聞こえる
さっきまで背後に居た、星崎という女子だ。
彼女も服はボロボロでなんとか立てているといった状況だ
そういう橘もかなりダメージを負っている。
「あの曽谷とかいう奴が吹き飛ばされた場所よ…」
「場所?」
「ええ…あそこは………生徒会室よ」
「な、なんでダメなんですか!?」
「別に資料とかが吹き飛ぶのは良いの、ただ。あそこには会長の朝倉さんが寝ていたのよ…!」
「ね、寝ていた…?」
なぜそれがダメなのか分からないといった表情だったので、
橘はまくし立てて伝える
「端的に言えば、会長の昼寝を邪魔すると殺されるわ!確実に!」
「ええっ!?そんなっ…!」
殺されると良いこともそうだが、
昼寝を邪魔されただけで激怒することに驚いた
次の瞬間、竣が危ないと気づく
「早く行かないと…!」
しかし校舎はボロボロ、
中から混乱している生徒の声は聞こえるが、
おそらく怪我人も大勢いるだろう。
今生徒会がそこを通れば、質問攻めにあうであろう。
「は、早く行きましょうよ!」
星崎が橘を催促する
「………仕方ないわ!行くわよ!」
意を決して校舎へと足を踏み入れる
「…………ん」
竣が目を覚ますと目の前に女の人の顔があった
とても綺麗な顔だったので、
竣はボケっとそれを眺めている
「私の顔に何かついてるか?」
透き通った声が聞こえる
「…………あなたは…?」
まだ状況が把握出来ていないので、
取り敢えず名前だけでも聞いてみることにした
「私の名前は。朝倉唯湖」
校舎に足を踏み入れた橘と星崎
やはり混乱している生徒から、事態の詳細を尋ねられる。
それも1人2人ではなく、今ではもう大行列が出来ていた
なんせまだ4月の始まりの時期、こんなときに大問題が起きたのだから仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。
「くっ……どきなさい!どかないと…潰すわよ!」
並んでいた生徒全員に睨みを効かせる
すると生徒たちの間に道が出来たようであった
2人はとこを歩いて行く
「た、橘さん…こんな強引に良いんですか?」
心配そうな声が後ろから聞こえてきた
「構わないわ!今は非常事態よ、本当のね」
そう言った橘の顔はひどく焦りに満ちていた
「朝倉唯湖…?」
誰だそれといったような表情を浮かべる
それを見た朝倉は
「そうか、お前は1年か」
と、納得したように言う
「そ、そうです…朝倉さんは?」
「私か?私は3年生だ」
竣の目が丸くなる
「そ、そうだったんですか!」
しかし竣は強ち気付いていた、
お得意の洞察眼で只者ではないと。
そしてこの目の前の女が何をしようとしているかも
だからこそ。
「………!」
目の前の女はいきなりパンチを繰り出してきた
しかしそれよりコンマ数秒早く竣は手を軸にして回転、
そのまま上空へと飛び上がる
それと同時に周りの風景に見覚えが無かった
「ここは…?」
そんな竣にシンキングタイムは与えられない
直様同じ高さに飛び上がった朝倉、そのまま下段蹴りを溜めなく打ち込む
「ぐっ…」
それをかろうじて足を思いっきり跳ねあげ避けるが、
竣には浮力が無かった。
飛び上がった勢いは消えて、そのまま地面に向かって落ちてゆく
一方で女は落ちることなく上空に留まっている
そして次の瞬間、眩い光と共に大量の閃光が現れたかと思うと一瞬にして竣に降りかかってきた
「な、なにこれっ!?」
急に現れた無数の閃光に驚いて一瞬反応が遅れる
そんな隙を逃さず、閃光は竣に降り注いだ
「ふん……つまらんな」
上空にいる朝倉は呟いた
そして興味のなくなったような表情で地上に降りる
地上には大穴がいくつも空いていた
「強すぎるというのも暇ね」
「そうかもな…」
背後から聞こえるはずのない返答が返ってきた
「!!」
流石に驚いたような表情で後ろを振り向く朝倉
次の瞬間膝に大きな衝撃を感じる
竣が膝に思いっきり自分の膝をぶつけて来たのだ
「くっ!…」
朝倉は痛みに耐えかね、苦悶の表情を見せる
同時に竣にも少なからず痛みは伝わったはずだが、
竣は動じることなくすぐさま次の攻撃へと移る
今度は痛みのせいで反応が遅れた朝倉が竣の攻撃を受けることに
足払いで体勢を崩され、そのまま右腕を掴まれる
「はあぁぁぁぁ!」
そのまま回転し始める
右腕をもつ力は強く、朝倉でも振りほどくことが出来なかった
そしてそのまま投げられる
「ちっ…!」
投げられている最中に体勢を立て直した朝倉
何とか物にぶつかる前に止まることができた
しかし異変を感じる、明らかに竣の動きがおかしいのだ
閃光を放った後から、何か竣そのものの質が変わったのだ
「流石だね……生徒会長さん」
朝倉は気づいた、異変の正体に。
それは目の色だ最初に会った時には黒色だった、
なのに今は綺麗な青色をしている。
朝倉は知らないが、鴨居と戦った時の赤い目とはまた違う色だ
そして戦い方は好戦的に、より敵の急所を狙ってくる攻撃へと変わる
「面白い……お前ならこの力…耐えきれるか?」
お互いが笑う
しかし次の瞬間笑っていたのは朝倉ただ1人。
一瞬で懐に移動し膝蹴りを食らわせる
あまりの衝撃に数秒動きが止まる竣、朝倉は竣の顎をグッと掴む
「気に入ったよ、1年」
その美麗な笑顔に魅せられ、竣の力は一瞬にして抜ける
その証拠に目の色も黒色へと戻ってしまう
そして朝倉は一番言いたいことを言う
「我ら生徒会に入らないか?」
朝倉からの突然の誘いに呆気にとられてしまう竣、
なぜ急に誘われたのか、理解が出来て居なかったのだ
「私は力のあるものが生徒会に入るべきだと考えている」
「で、でも…俺は強くなんて…!」
すると朝倉はくっくっと笑う
「鴨居……」
「?」
「鴨居を倒したのは…お前だろう?」
目を丸くして驚く竣、それもそうだ。
鴨居との戦いは鴨居の世界で行っていた、
たとえ世界崩壊の時に一瞬だけこちらの世界で鴨居と関わったが、
その時朝倉は昼寝をしているため、記憶に残るわけがない。
「何故知ってるか、気になるか?」
「はい」
「私は、超能力者だからだ」
「ここにも居ない!」
橘は押し寄せる生徒を押し退け、
なんとか生徒会室に入った。しかしそこには誰も居なかったのである
「一体どこに行ったのよ!」
「もう探すところはない…ですよね?」
後ろから様子を見ていた星崎が問いかける
「ええ、そうね…!全く…!」
半ば呆れ、半ば焦ったように橘は再び学校の周辺に探しに行く
その頃、学校に一筋の光が差し込む
「うわっ!」
その光からは竣と朝倉が現れた
「も、戻ってきた!」
「…………って!ねぇ、朝倉さん!」
「なに?」
「この体勢嫌なんだけど…」
「良いじゃない、別に」
朝倉が竣をお姫様抱っこする形になっていた
竣はもちろん恥ずかしいが、
当の朝倉は何も感じていない…いや、むしろ楽しんでいるようだった
そのままの状態で屋上に降りる2人、竣は思った
「…こんな人……どこかにも居たような…」
脳裏に浮かぶのは毎晩家に上がりこんでくる堕落天使の顔だった
「へっくしょん!………誰か噂してるのかしら?」
そしてその天使はどこに向かっているかというと、
「確かもう少し行ったところね」
持っている地図には、雲雀ヶ丘高校と書かれていた。
登場人物
曽谷竣
ルシファー
星崎涼子
鴨居京太/神威
橘美沙
朝倉唯湖