「おはよう店長。」
「お、イリーナか。おはよう、今日は早いな。」
「ん、そうか?たまには早く来るのもいいかと思ってな。」
「それでもまだ開店の時間には早いぞ?開店準備は昨日で済んでるし、何もすることはないし。」
「まぁまぁいいじゃないか、早朝の空気も澄んでいて気持ち良かったしな。早起きは三文の徳、と日本では言うらしいじゃないか。」
「まぁ、そうだな。」
「ところで店長、ほら。」
「ん、これは?…なかなか可愛くラッピングされた箱だな。」
「世間はもうすぐバレンタインデーじゃないか、私もせっかくだから作ってみたんだ。」
「少し早くないか?まだ二月も入ったばかりだし…。」
「思い立ったが吉日、昨日の夜から作り始めてな、止まらなくなって作り切ってしまったんだ。まぁ、もらっておいてくれ。」
「そうだな、ありがとうイリーナ。開けてみてもいいか?」
「ああ。」
ガサゴソ
「…お、これは…可愛いハート型のチョコが、三つ。凄い良く出来ているじゃないか。」
「だろう?」
「うん、形もキレイだし…ハート形っていうのがなんだかイリーナのイメージとはちょっと違って新鮮だな。」
「ロシアのバレンタインでは、ハート形の物をプレゼントする風習があるんだ。」
「へえ、そうなのか?」
「ああ、私もよく貰ったものだ。何故かあげる側じゃなくもらう側になっていたのは不思議だったが…。」
「はは、イリーナはしっかり者だしな、案外女性にもモテそうだ。」
「ううむ…ただロシアなどではバレンタインデーの少し後、3月8日に国際女性デーというものがあってだな、そこでも私はプレゼントをいただくことが多いのだ、なんだか申し訳なくなってきてな…。」
「そうなのか、まぁでもイリーナが愛されている証拠だな。」
「ふ、ふむ、そういうものなのか?」
「そうさ。」
「そ、それは照れるな…。」
「はは、ところでこれは今食べていいのか?」
「ああ、いいぞ。」
「しかしよく見るとハート形ではあるが色が少し違うな。薄く赤かったり黄色かったり…味は変わらないのか?」
「ああ、それがだな。こないだバラエティ番組を見ていた時にインスパイアされたんだ。なんでも日本にはロシアンチョコというロシアの名が入ったチョコがあるらしいじゃないか。」
「ちょっと待つんだイリーナ。」
カランカラン
「おはよーございまーす!」
「おはようございますー。」
「お、この声は泉水に亜矢香だな。いいところに。」
「何故いいところなんだ?」
「いや、なんでもないんだ。おーい、泉水ー、亜矢香ー。」
「はい、あ、イリーナさんも来ていたんですね、おはようございます。」
「ああ、おはよう亜矢香。それに泉水も。」
「おっはよー!今日は皐月橋高校の三人での店番だよね?頑張ろおー!」
「ああ、その前になんだけどな。イリーナがチョコを作ってきたそうなんだ。一緒に食べないか?」
「あ、これイリーナさんが作ったんですか?すごくきれいなハート形…。」
「ほんとだ、すごいねー!これ私たちもいただいていいの?」
「三つあるし、いいだろイリーナ?」
「ああ、いいぞ。美味しいものはみんなで共有するほうが楽しいしな。それにロシアンチョコはその個数分の人数で食べるものと聞いている。」
「…ロシアンチョコですか?」
「ああ、日本ではそういうのがあるらしいのを聞いてな、作ってみたんだ。」
「イリーナさん、それじゃあこのチョコのうち一つに何かが…?」
「うむ、何を入れればいいのか迷ったのだが…そういうのは辛い物を入れるのが定石らしいから、からしが入っているぞ。」
「…。」
「…。」
「…だそうだ、大人しく食え二人とも。」
「ま、マジで言ってますか店長さん…?」
「亜矢香、いつもより口調が荒いぞ。」
「で、でも確率は3分の1、だよね…。」
「ああ、おそらくその他は美味しいチョコレートのはずだ。」
「見たところ、黄色っぽいのと赤みがかったもの、それに少し緑っぽいのがありますね…。」
「普通なら黄色いのだよね、からしが入ってるなら…。店長はどれにする?」
「見た目で安全そうな緑かな…。」
「じ、じゃあ逆を突いて私は黄色いので…。」
「私は赤いの、ですね…。」
「なにをこそこそ話しているんだ?」
「ああいや、何でもないんだ。イリーナがせっかく作ってきてくれたものだしな。早く食べて開店に備えよう。」
「そだね、…それじゃあ。」
「…ごくり。」
「…せーので食べるぞ二人とも。」
「う、うん…。」
「は、はい…。」
「せーの!」
パクッ
「…。」
「…。」
「…。」
「どうだ、三人とも?」
「…美味しいよイリーナさん!これ手作り?すんごくおいしい!」
「ですね!甘くてすごくおいしいです!」
「…。」
「そ、そうか。そんな喜ばれると作った甲斐があったというものだ、な…。」
「…。」
「…店長?どうかしたのか?」
「あれ、店長ー?」
「て、店長さん?」
「…。」
「さ、さー開店の準備だー。」
「お、おー。」
「店長、どうしたのだ?おなか痛いのか?」
「…。ハッピー…バレンタイン…。」