ワールドオブスピリットオンライン ――相棒は犬――   作:ヒタク

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二十六話 戦闘考察 そして、戦いは始める前から始まる

「ヒカリちゃん! 一回戦突破おめでとう!」

 

 観客席に戻った僕にリーンはまるで自分のことのようにそう告げてくれる。

 

「あ、ああ。ありがとう……」

 

 自分でも言いよどんでしまったのが分かった。

 ……さっきの試合でちゃんとスキルが発動していたら良かったのに……。

 結果的に勝てたとはいえ、想定と違っていたし、何よりかっこよくなかった。

 

「どうしたの、ヒカリちゃん? 随分と表情を変えているけど」

「な、何でもない!」

 

 どうやら顔に出てしまっていたらしい。

 慌てて返した僕の返答を訝しく思ったのか、リーンが首を傾げた。

 しかし、どうやら更に追求するつもりはないようで、小さく「ま、いっか」なんて言葉が聞こえた。

 良かった……。深く聞かれたらどうしようかと思ったよ……。

 僕が内心ほっとしていると、リーンが口を開いた。

 

「そういえば次の試合ってあのルースさんを倒した人だったよね」

「…………そう、だな」

 

 リーンの言葉に僕は返す言葉がなかなか出てこなかった。

 確かに僕の次に戦う相手は残像剣――ルースを倒したプレイヤーだ。

 次の試合まで後30分はあるし、僕の試合はさらにその後だ。その空いた時間に何とかして残像剣の対策を考えないといけないのだけれど、一体僕に何が出来るのだろうか……。

 ただでさえ、強力で勝つのはかなり厳しいと思っていたルースをあっさりと倒した相手だ。

 いったい、どうすれば勝つことが出来るのだろうか――そもそも勝てるのだろうか。

 

「わんっ!」

 

 僕が弱気になりかけたのに気が付いたのか、いぬが一声吠えかけてくる。

 そうだな。戦う前から弱気になんかなっちゃだめだよな。

 全く、いぬは本当に頼りになるよ。

 

「ちなみにお姉ちゃんは次の相手について何か調べてるの?」

 

 ミイの言葉に僕は思い出した。

 先ほど戦った異能ただ高の時もそうだったが、僕に相手の情報を教えてくれたプレイヤーがいたのだ。

 そのプレイヤー曰く、残像剣が持っている称号スキルはバグ技みたいなものらしい。

 初めて聞いたとき、その意味は全く分からなかったけれどルースとの試合を見たためにその異様さを実感した。

 

 ルースのあれだけ多く存在していた武器に一切当たることなく、一方的にルースを倒した残像剣。

 確かに剣戟の音がしたために何らかの攻撃をしたということは分かった。

 しかし、全くその攻撃は見えなかった。一体、何が起きていたのだろうか。

 

「やっぱり、あまりよく分かっていなかったんだね」

 

 僕が返事をしなかったためか、ミイはそう言って何か納得するかのように頷いていた。

 

「ちょうど良かったよ。実はお姉ちゃんの戦いの最中に呼んでいたんだ」

 

 呼んでいた?

 誰を呼んでいたのだろうか。そして、ミイ……。僕の試合見てくれてなかったんだ……。

 

「やあ。この前振りですね」

「え。……え?」

 

 思いもよらない相手に僕は呆けたような声を出してしまった。

 そこにいたのはルースだったのだ。

 

「ルースさん! 試合の時に使っていたスキル、すごかったです!」

 

 リーンが興奮した様子でルースに声をかけた。

 対するルースは若干、苦笑いを浮かべている。

 

「あはは……。負けてしまった手前、少々恥ずかしいですね」

「そんなことないですよ! だってあれだけ――」

「リーン。そこまでにしておけ」

 

 困った顔をしていたルースを見た僕はリーンの言葉を遮った。

 若干、不服そうな表情をしていたリーンだったけれど、僕の意図に気が付いたのか、言葉を続けることはなかった。

 

「それよりルースさんには聞きたいことがあるんです」

 

 ミイが口を開く。

 

「何を聞きたいんだい? 私はもう試合に負けてしまったからね。私が知っていることなら何でも教えようじゃないか」

「ありがとうございます。それじゃ、いきなりなんですけど、残像剣について戦って分かった情報をお姉ちゃんに教えてあげてください!」

 

 いきなり何を言うんだ、ミイは!

 確かに聞きたい情報ではあるけれど、ルースに聞くのは失礼なんじゃ……。

 

「いいですよ。さて、何から話しましょうか」

 

 ……いいんだ。

 予想以上に乗り気なルースに僕は驚いた。

 しかし、ミイはこのことを予想していたのかどや顔をしている。……僕に向かってサムズアップまでしてきた。

 

「ルース。ミイがああは言ったが、本当にいいのか?」

「いいんですよ。ヒカリにはぜひとも残像剣に勝ってほしいですからね。私の敵討ちだと思って情報を受け取ってください」

「……分かった。それなら遠慮なく受け取るよ」

 

 実際、情報が欲しいのは事実だ。

 僕の言葉に頷いたルースは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、早速話していこうか。……そうだ。ヒカリは残像剣についてどれだけ知っているんだい?」

「僕が知っているのは残像剣はバグ技のような称号スキルを持っているということだけだ。実際のスキルについては何も知らないよ」

「そうか。それなら良かった。僕が戦って得た情報が役に立ちそうだ」

「ルースさんの戦った時ってあの見えない攻撃を残像剣がしていた時ですよね? 何か分かったんですか?」

 

 リーンが尋ねる。

 確かにあの時の試合は正直、何が起こったのか全く分からなかった。

 戦っていたとはいえ、ルースにも何が起こったのか分からないんじゃないだろうか。

 

「ええ。あの時はいまいち確信が得られなかったんですが、今思えばおかしいところがあったんですよ」

「おかしいところ?」

 

 一体、何がおかしかったというのだろうか。いや、バグ技みたいな技だし、ある意味おかしいところしかなかった気もするけど。

 

「あの時の私は残像剣に対して真っ直ぐに刀剣を飛ばしていました。しかし、その刀剣はすべてが真正面から当てに行っていたわけではないのです」

 

 あれだけの刀剣の数だ。

 真正面から当てに行こうとすれば、刀剣自体が他の刀剣に当たってしまい、まともに攻撃ができないに違いない。

 ルースの言葉に納得した僕は一つ頷くとルースに先を促した。

 

「私のスキルによる攻撃で残像剣に攻撃をした時、ほんの少しですが残像剣が身体の向きを変えていたことに気が付きませんでしたか?」

「え?」

 

 身体の向きを変えていた?

 ルースの言葉に僕はルースと残像剣の試合を思い出した。

 最後にルースが残像剣に対して刀剣を飛ばして攻撃をした時、残像剣は斜めに向いていた。

 そして、刀剣に飲まれてからは刀剣自体に覆い隠されてしまい、残像剣の取った行動が全く分からなかった。……そうか。その時に身体の向きを変えていたのか。でも、それがどうしたというのだろうか。身体の向きを変えるなんて――まるで見えない攻撃はある方向にしか放てないみたいじゃないか。

 

「ええ。ヒカリが考えている通りですよ」

「――っ!」

 

 僕の考えを読んだのか。ルースの言葉に驚かされた。

 

「確かに残像剣は身体のある方向からしか攻撃をしていませんでした。そして、その方向はおそらく右の斜め前方といったところでしょうね。実際、あの時に私の攻撃が右斜め前方以外から攻めてくる時には攻撃は当たらず、残像剣が向きを変えた瞬間に攻撃が当たりましたから」

 

 なるほど。その方向にしか攻撃が出来ないというのなら残像剣が身体の向きを変えていたということにも納得がいく。

 つまり、残像剣に攻撃をするには二方向から同時に行えばいいということか。

 

 だが、待てよ。それならどうしてルースの攻撃が全く当たらなかったんだ。

 いくら右斜め前方の攻撃は完全に防げるとはいってもルースの物量なら同時に二方向以上から攻撃が飛んでもおかしくない。それにも関わらず、残像剣はルースの攻撃を防ぎ切った。しかも、自身のHPを全く削ることなく、だ。

 僕は自身の考えをルースに伝えた。

 

「はい。実を言うと私の攻撃が残像剣に当たりそうな時はあったんですよ。しかし、当たったと思った時には残像剣に攻撃は当たらずに素通りしていました。あまりに違和感なく攻撃を素通りしていくものですから、私の見間違いかと驚きましたよ」

 

 笑うルースだったが、とんでもない話だった。

 ただでさえ、ある方向に対しては攻撃が完全に当たることがないというのに攻撃をすり抜けるようなスキルを持っているなんて。

 でも、おかしいな。

 攻撃をすり抜けるようなスキルを持っているのなら身体の向きを変えてまで攻撃を防ぐ理由がないはず。わざわざ向きを変えていたということは攻撃を受ける個所が近くに存在していたということか……?

 その時、僕は思い出した。

 

 先ほどの試合で異能ただ高に対して≪弱点看破≫を使った際に弱点が空中に現れていたことを。

 異能ただ高が何のスキルを使って弱点の位置を変えていたのかは分からない。実際、最後に攻撃したのは空中に現れていた弱点に対してなのだから攻撃をすり抜けていたのかすら分からない。少なくともいぬの攻撃は異能ただ高に当たっていたわけだから、スキルが完全に一致しているわけじゃないだろう。

 しかし、残像剣が同じようなスキルを使って自身の姿を誤魔化していたとしたら……?

 それは僕にとって有効な攻撃手段足りえない。何せ、相手の≪弱点≫は目に見えているのだから。

 

「ありがとう、ルース。お蔭で十分な情報が手に入ったよ」

「そうですか? それなら良かったんですが……」

 

 ルースは煮え切らない様子だったけれど、正直かなり助かった。

 僕だけでは最初の見えない攻撃だけで何も出来ずにやられていたかもしれないしな。

 

「ああ、そういえば急に移動するスキルの詳細は分からなかったのですけど、あのスキルは前兆があるみたいですね」

「前兆……?」

 

 そういえばルースはあのスキルを初めて見たにも関わらず、あのスキルが発動する寸前に飛び退いていたな。……飛び退くよりも残像剣の攻撃範囲に入る早さが上であったためにやられてしまったわけだけれど。

 

「はい。あのスキルを発動する瞬間なんですが、残像剣の姿がぶれたんですよ」

「ぶれた? どういうことだ?」

「ちょっと説明しづらいんですが、そうですね……。まるでテレビゲームの画面が乱れるかのようにプレイヤーの姿が一瞬乱れるんですよ」

 

 なるほど。そんな異常があったからこそ、ルースが飛び退いたのか。……何の判断材料もないのに何か来ると判断するとは……さすがだな。

 

「そして、あの移動するスキルを使った後はすぐに別のスキルが使えるみたいですね。……もしかするとあの見えない斬撃だけかもしれないですけど、楽観視はしない方がいいと思います」

「なるほど。貴重な情報助かった」

「いえいえ。あまり多くの情報を与えられず申し訳ないぐらいですよ」

 

 あまり多くの情報を与えられなかったとは言うけど十分すぎるぐらいに情報をもらっている気がするけどな……。

 

「十分すぎるぐらいだよ。本来なら全く情報がない状態で戦わないといけなかったんだからな」

 

 謙遜するルースに僕は言葉を返した。

 

「喜んでもらえて何よりですよ。あなたが私の仇を打ってくれるのを楽しみに試合を見ていますよ」

 

 そう言ってルースはその場から去って行った。

 本当にありがたい。今まで全く分からなかった残像剣のスキルについて知ることが出来た。これなら何もできずにやられるなんてことはないだろう。

 

「お姉ちゃん。勝てそう?」

「まだ分からない。だが、きっと勝つさ。いや――絶対に勝つ」

 

 僕は心配そうに声をかけてきたミイに言葉を返した。

 そして、自身に言い聞かせるように僕は頭の中でも繰り返すのだった。

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