ワールドオブスピリットオンライン ――相棒は犬――   作:ヒタク

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三十二話 最終試合 そして、多重称号保持者

「さて、いよいよWOSOクローズドベータ最終イベントである闘技大会決勝戦が始まります!  対決する選手はいずれも歴戦を制した二人のプレイヤー! 改めまして紹介させていただきましょう――」

 

 闘技場へ移動した僕を待っていたかのように月金(ムーンゴールド)の口上が述べられる。

 僕は月金(ムーンゴールド)の言葉を聞き流しつつ、目の前に歩いているプレイヤーを視界に入れた。

 どうやらスサノオは僕がいた控室とは反対側にあった場所にいたようで、ちょうど控室から姿を現したところだった。

 余裕。そんな言葉を感じさせるほどに憎らしい笑みを浮かべているのが分かる。

 ちらりとスサノオが僕の方を見て、一瞬だけ驚きに目を丸くするが、すぐにその表情は滑稽なものを見た、とでも言うかのように変化した。

 

『よお。この前振りじゃねえか』

 

 スサノオが個人チャットを通じてメッセージを飛ばしてくる。

 まるで旧来の友人に声をかけるかのような気軽さ。それが僕にはひどく腹立たしい。

 

『……絶対にお前なんかに負けはしない』

 

 僕は決意を込め、スサノオに言葉を返す。

 言葉にはスサノオに返す意思より、僕自身に言い聞かせるような意図を持っていた。

 しかし、スサノオは僕の言葉をあざ笑うかのように笑みを深くしながら返した。

 

『はっ。よく言うぜ、一人じゃ何にも出来ないやつがよ。さっきのアマテラスとの試合もアマテラスがスキルを発動した後に空中へ逃げたから何とか勝てたようなものだろうが。この小心者が』

 

 確かにスサノオの言葉は正しいだろう。

 アマテラスが称号スキルを使わずにいれば、僕の勝利はあり得なかった。……もちろん、アマテラスのスサノオを闘技大会で優勝させたくないという意思を考慮しなければ、だが。

 

『お前も人のスキルをこそこそ奪うような真似しか出来ないコソ泥を続けるような輩じゃないか。この小物が何を言っているんだ』

 

 僕の言葉でスサノオの笑みが消えた。どうやら、相当な怒りを感じたらしい。

 僕はスサノオの表情の変化を見て、ざまあみろ、と心の中で呟いた。

 

『お前は絶対につぶす。今更泣き言を言っても絶対に許さねえぞ』

『はっ。やってみるがいい』

 

 売り言葉に買い言葉。僕たちは言葉の応酬をそこでやめ、無言で互いに向き合った。

 

「――さて、あまり長々と紹介をしていても仕方がありません。早速最後の試合を始めるとしましょう!」

 

 ちょうどいいことに月金(ムーンゴールド)の紹介もひと段落がついたようだ。

 僕たちの間に静けさが満ちていく。

 

「――それでは、はじめ!」

 

 そして、月金(ムーンゴールド)の言葉と共にその空気は一瞬ではじけた。

 

 

         ◇

 

 

「≪縮小≫、≪変身≫」

 

 スサノオから距離を取った僕は真っ先にスキルを使った。

 今まで何度も助けられてきたスキルだ。僕の主攻撃は魔法であるためにそもそも≪縮小≫の効果によるダメージ減衰はほぼない。加えて相手の攻撃自体当たりづらくなるのだから、使用するのは当然だった。

 ただ、≪縮小≫を使ってしまうと動きが制限されてしまう。いぬがいない僕にとってはそれは致命的に過ぎるが故に同時に≪変身≫のスキルを使って空中移動が出来るようにした。

 

「なるほど。今までに使ってきたスキルか。そっちのスキルの方が面白そうだったな。全く、奪ったスキルがあんなスキルなんてついてないぜ……」

「…………っ」

 

 自分の頭に血が上っていくのが分かった。

 スサノオに奪われた僕のスキルである≪ビーストテイマー≫はいぬとの絆だ。それを僕から無理やり奪っておきながら、いらないスキルなんて言うなんて……!

 怒りを口に出してしまいそうになるが、僕は必至でこらえた。

 今、ここで叫んでしまえばスサノオの意識は僕に集中する。

 せっかくスサノオが油断しているのだ。冷静な僕の思考の一部が、すぐにでもスサノオを攻撃すべきだと判断していた。

 

「≪ライトアロー≫!」

 

 魔法を放つ。

 光り輝く矢は真っ直ぐにスサノオに向かっていく。距離は試合が開始したばかりということもあり、大して離れていない。

 故に僕の魔法はスサノオに――目の前を見た瞬間、スサノオの顔が愉快そうに歪むのが見えた。

 

「≪魔女神(イシス)≫」

 

 スサノオがスキルを発動させ――スサノオの前に光り輝く壁が出来上がった。

 そこに僕の放った魔法が当たり、進行方向を真逆に変えて僕に向かって飛んできた。

 

「なっ!?」

 

 目の前に迫ってくる僕自身の魔法に驚愕するが、幸いとでも言うべきか、≪縮小≫を使っていたが故にすぐさま避けることが出来た。

 何が起こったんだ……?

 僕が放った魔法をそのまま返してきたとでもいうのか……?

 

「あはは。やっぱり最高だな、お前。その驚く顔が心底面白いわ」

 

 スサノオが僕を見て笑う。

 

「……お前が使ってきたスキルは魔法を跳ね返すのか」

 

 僕は怒りを抑えつつも問いかけた。

 

「そうだな。面白いスキルだろう? こいつを持ってたプレイヤー曰く結構なレアスキルなんだとよ。まあ、所詮はランク5のスキルってだけだがな」

 

 こいつを持っていた……? そうか。そのスキルの持ち主も……。

 

「お前は一体何人のプレイヤーからスキルを奪っているんだ……」

「ああ? そんなもん数えてねえよ。でもまあ、スキルの数は150個を超えてるんだ。そのぐらいの奴らを狩ったんじゃねえの?」

 

 笑いながらなんでもない風に言うスサノオ。

 そのあまりの態度に先ほどから何度も抑えていたが、僕は自分のはらわたが煮えくり返るのを抑えきれそうになかった。

 

「これでも抑えてる方なんだぜ? 一応、一人につき一つのスキルしか奪わないっていう決まり事を作ってやってるぐらいだ。俺に感謝してほしいぐらいだぜ」

「ふざけるな! 人のスキルを勝手に奪っておいて、何が感謝してほしいだ!」

「ああ? 何言ってるんだ、お前。人は奪い奪われる者だろうが。そして、奪う者と奪われる者は生まれた時から決まってるんだ。奴らは所詮、奪われる者だったというだけの話だろうが。……ああ、お前も奪われる者だったっけか」

「くっ……」

 

 なんて奴だ。スキルを奪うことに対して何の躊躇いもないとは。こいつは野放しには出来ない。絶対に倒してやる。

 僕はそう決意するが、どうにも有効な手が思い浮かばない。

 何せ、僕の魔法が跳ね返された以上、僕のスキルには有効な手がないと言っても等しいのだから。

 

「そうだ。せっかくだからよ、お前で試してやるよ」

「……何をするつもりなんだ」

 

 嫌な予感しかしない。

 僕にいぬを失った時と同様の予感が伝わってくる。

 スサノオは僕の言葉に笑いながら返した。

 

「一人のプレイヤーに対して、二回目に奪うスキルはなんだろうってことだよ。……食らえ、≪神喰狼(フェンリル)≫!」

 

 スキル発動と共にあの憎き狼が現れる。

 

「≪ライトアロー≫!」

 

 僕は狼から距離を取るように空中へ移動しながら魔法を放つ。

 

「あはは。無駄だよ、無駄だ! ≪神喰狼≫はどこに逃げようとお前に食らいつくんだ!」

 

 スサノオが言うように狼は空中を駆け上がる。あり得ないと言いたいが、スキルである以上、そういうものとしてとらえるしかないのだろう。

 だが、僕が取った行動はただ空中へ逃げるだけではない。僕の放った魔法が狼へ食らいつく。

 あの時は外にいたために僕のステータスは闘技大会のようなあり得ない数値にはなっていなかった。でも、今はあの時とは違うんだ。

 狼へ当たった魔法は尚も僕を食らおうとしていた狼を消し飛ばした。

 ……やはり、≪神喰狼≫のスキルも魔法と同じくオブジェクト耐久値が存在していたようだな。

 僕は自身の考えが当たったことにほくそ笑んだ。

 

「へえ。≪神喰狼≫を消すとはなかなかやるんだな、お前」

 

 スサノオが面白いものを見たとでも言うかのような余裕な表情で言う。

 自慢のスキルであるはずの≪神喰狼≫が聞かなかったというのに何でそんな態度なんだ。

 訝しむ僕を気にすることなく、スサノオはあり得ない言葉を口にした。

 

「さて、どうせだから使ってやることにするか――称号スキル≪勇者≫」

「そんな馬鹿な!」

 

 スサノオが使ったスキルは勇者ああああが持っていた称号スキル。スサノオが持っているはずがないスキルだ。

 信じられない僕の言葉とは裏腹にスサノオの手には称号スキルの効果であろう剣が形作られていく。

 

「さて、それじゃ行くとするか」

 

 そんな軽い言葉のすぐ後、スサノオは僕に向かって斬りかかってきた。

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