さよならジョジョ先生―改稿版―   作:パラレル。

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この作品以外にも「Specialian's Life」というオリジナル作品を投稿していますのでそちらもどうぞよろしくお願いします。


第弐拾九話 『アンフェアー・ワールド』と『スターティング・オーバー』その①

五月半ばの日差しが強い土曜日、糸色望は暗い顔をしていた。

五月病にかかっていると考えられますが、どうやらそうではないようです。

 

 

「はぁ~~~~~。今日は外に出たくないのに~~~」

「折角明日は天気もいいことですし、バーベキューでも催して日頃の疲れを取りましょうよ、先生・・・」

「いや・・・ですが・・・・・しかし・・・」

 

 

望はやっと来た休日なので部屋でゴロゴロしながらテレビを見て一日を過ごそうと考えていたが、急に宿直室の扉が開いたと思ったら、体の至る所に包帯が巻きついてきたのだ。

その部屋に入ってきたのは木津千里と小節あびる。二人はショッピングにつき合うよう望に言って、包帯で捕えた望を無理矢理部屋から引きずり出した。

最初は抵抗していた望だが、千里に睨まれてからは大人しくなって現在にまで至る。

 

 

やはり部屋にいた方がよかったと愚痴っている望にあびるが気を持つように言う。

千里はバーベキューの話を振ってうだうだ言う望を元気尽かせようとするがあまり効果はなかった。その時、バーベキューをやることに言葉を濁す望の背後からひょこっと常月まといが現れた。

 

 

「別に構わないじゃないですか・・・。最近色々ありすぎて大変だったじゃないですか」

「話に入ってくるんですか常月さん・・・。だったら猶更ゆっくりさせてくださいよぉ」

「ですが先生・・・。あの女(小森霧)が最近“交(まじる)”くんの機嫌が悪いと言っていたんですが・・・。私が言うのも何ですが、こういうときに家族サービスしてあげないと・・・あの子いつかグレてしまいますよ?」

「そうですよ先生!あの子は先生の家族なんですし喜ばせてあげてくださいよ。きっと寂しがっていると思いますよ」

「そうですよ先生・・・。あの子きっと出番がなくて、しかも台詞を一言も喋っていないから、いじけているんですよ。こういうときに出してあげないと。」

「あの・・・木津さん?あなたの言っていること・・・全部私にじゃなくて作者に言うべき台詞ですよね?それ・・・」

 

 

千里達と同意見のまといに望は少し文句を言うが、それに対して彼女は何か嫌な奴の顔を思い出したかのような表情を見せながら望に主張する。

そしてその発言を機にあびると千里は便乗して、彼の甥の交を口実にバーベキューを押し薦めてきた。ちょっぴり千里の言っていることはズレているが・・・。

 

 

一行はそんなことをああだこうだ言いながら進んでいくと人混みの多い街に着いた。

百貨店やビル、デパートなどが建ち並んだこの場所で一行はある人物に出会った。

 

 

「おや・・・承太郎さん。奇遇ですね」

「ん?・・・ああ望か・・・何してんだ?」

「私達ちょうど明日のバーベキューの用意を・・・」

「バーベキュー?悪いがそんな酔狂なことをやっている暇は私にはない。SPW財団に敵の組織の情報を掴めるか確かめに行ってくるんだ。だが徐倫達には伝えておくよ・・・じゃ」

 

 

街中で彼等と偶然出くわした承太郎は事情をさらりと話した後、ジェスチャーで別れの挨拶を交わしてそそくさと歩き始めた。

その彼の背中を見ながら四人は沈黙に浸っていたが、望は開口一番に我が物顔で彼女たちに言い放った。

 

 

「それぇ!木津さん!小節さん!常月さん!さすが大人は違いますねぇ・・・決して気を緩めない承太郎さんを見習いなさい!!」

「何勝ち誇った顔しているんですかッ!!先生こそ見習ってくださいッ!!」

「承太郎さんが敵のことを把握しようと頑張っているときにダラダラしようとしてたくせに・・・」

「先生・・・カッコ悪いですよ」

「・・・・・ぐ。図星をつかれた気がします・・・」

 

 

子供がする責任転嫁のように自分のことを棚に上げて三人を責め立てる望に千里とあびるとまといはその棚上げした事実を引きずり下ろして望の図星をつかせた。

図星をつかれたことを半分誤魔化している望を白い目で見る千里とあびるはふと時計を見て今の時刻を知った。

 

 

「げっ!もう10時半!?先生!早く一式買わないともうお昼ですよ!・・・ぐずぐずしていられない!」

「えぇ!?そんなに慌てなくてもバーベキューは明日でしょう・・・」

「そうは言っても先生・・・買うものはいっぱいあるし、それに“千里ちゃんの予定”を狂わすと・・・分かってますよね?」

「OKッ!!行きましょう!!」

 

 

慌ててデパートに入店した千里に望はやる気が最初はなかったが、あびるが言った“千里ちゃんの予定”という言葉を聞いた途端、血相を変えてやる気を出した。

冷や汗を流しながら望はあびるの後からデパートに入ろうとするが、その前に腕に変な違和感を覚えて立ち止まった。

見ると蚊にでも噛まれた跡が残っていたので、望はもうそんな季節なのですねぇと思った後、デパートの中へと入った。

 

 

 

 

敵に攻撃されたとも知らずに・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「ムフフフフフ・・・。楽勝だったぜッ!!あんな奴を仕留めればいいのかよ・・・・・プッ。バカめ・・・。そういえばうっかりしてたがあの“ジョータロー”って奴を噛むのを忘れてたぜ・・・。まあすぐに見つければいい話だがな。奴等の『幸運』を“アンフェアー・ワールド”で吸い取るだけでいいからな・・・実に楽なバイトだぜ・・・ケケ」

 

 

人混みが激しくなっている通りでとある人物が望のことを見張っていた。そいつが仕掛けたスタンド攻撃に望が気付かなかったので、ププッと嘲笑した。

望への攻撃は完了したので、そいつは承太郎にも同じ術にはめさせようと雑踏を利用した人海戦術で素早く移動し、完全に行方をくらました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、望はそんなことがあったこともみず知れず、デパートの各階、端から端まで荷物を持たされながら連れられてもうくたくただった。

ベンチスペースで息を整えている望の傍らで千里とあびるは満足げに話していた。

 

 

「もうこれぐらいかしら?」

「そうね。これだけあれば足りるからもう帰りましょうか?」

(ん?帰る・・・・・)

 

 

二人の会話にあった“帰る”というワードを耳にしたとき、望の頭に一筋の稲妻が走った。つまり、悪巧みを思いついたのだ!

 

 

「そうでした木津さん、小節さん。私個人で買いたいものがあるので先に帰っていてください!じゃあッ!」ピピューーーーッ

「ああッ!!先生逃げたッ!追いかけなくちゃ!」

「でも本当に買うものがあったらどうするの千里ちゃん?怪しい仕草だったけど・・・」

「ぐ・・・ま、まあいいわ。後々きっちりと埋め合わせをしてもらうことにするわ。なんだか釈然としないけど・・・。」

 

 

個人的に買いたいものを予め見つけていたので買いに行ってくると言って、二人から離れた望を見て、追いかけようとする千里に異様ではあるが、彼の好きにさせようとあびるが言ったので、千里は半信半疑ではあるが、仕方なく単独行動を許した。

だが勿論、望は逃げる気満々で、脱兎の如く走り去っている。あのままだと先程まで買っていた荷物を全て持たされる羽目になるからだ。

 

 

上手く逃走に成功した望は今にも鬼神と化した千里が襲ってくるかと思ってハラハラしながらブランドの衣服売り場の試着室の側を通り抜けるとき、緊張しているせいか体勢を崩し、立て直そうと不意に試着室のカーテンを掴んだ。

しかしそのまま転んでしまい、カーテンの滑車からカーテンが外れてしまった。しかも、そのカーテンは現在使用中の部屋のものだった。

 

 

 

 

「・・・・えっ!?・・・・・きゃああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!ごめんなさいッ!!!」

 

 

閉められていたカーテンが外れ、中にいた加賀愛はびっくりして、しかも望と目が合ってしまって驚き、叫んでしまった。

下着姿の愛を見てしまったので、望はすぐに目を手で隠し、彼女に土下座で謝罪した。

しかし、叫んでいた愛は冷静になると、服を着て謝罪している望に顔を赤らめながら話した。

 

 

「せ・・・先生・・・。ど・・・どうしてここに・・・?」

「い・・・いやぁーーーー。実は買い物をしに来たのですが・・・誤ってこうなってしまいました。申し訳ありません!!」

「い・・・いえそんな!私こそこんな高貴な衣服を取り扱う店舗で買いもしない服を試着しようという卑しい考えを持った私が悪いんです!」

「いえ、私が悪いんです!責任はちゃんと取りますから・・・」

 

 

愛に謝る望に、愛も自分がこの店にいることが悪かったと謝りだし、結果水掛け論となって話が進まなかった。

しかし、一番この流れで非があるのは望なので渋々引き下がる愛は彼の台詞を思い出し、頭から湯気を出すほど赤面しながら望に聞いた。

 

 

「そ・・・・・それじゃあ。ちゃんと私のこと・・・・・ずっと気を遣ってくれますか?先生・・・い、いや・・・望さん」

「・・・・・えぇ。どんな困難があろうとも必ず実行させてみせます!・・・罪滅ぼしですから!」

 

 

赤面しながら愛が承諾したので望は喜んで、事件を丸く収めることが出来たと安心して胸をなで下ろす。しかしこの時愛が改まって自分の名前を言った意図が望には分からないほど二人の間の温度差はあるが・・・。

そんなことを知る由もない望は気持ちが楽になったのでそのまま立ち上がり、愛に明るく話しかけた。

 

 

「はぁ~~~。気持ちが楽になったことですし、加賀さん・・・罪滅ぼしとしてまずランチでも食べ・・・『ズルゥゥ』・・・まッ!!!何で!!」ブチブチ   スッテ~~~~~ン

 

 

望は愛にランチを奢ろうと話を切り出すが、その最中にまたしても使用中のカーテンを掴んで外してしまった。

 

 

「なぁっ・・・・・!?ぎゃああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーッ!!!」

「うわぁああああああーーーーーーーーッ!!またですか!すいません!!」

 

 

カーテンが外れてしまい、中にいる下着姿の木村カエレは悲鳴を上げ、対してまたもや望は土下座をする。

 

 

「土下座だけで済むわけないでしょーーーーーーーーーーッ!!!訴えてやるッ!!億単位の慰謝料を払わせてやるからなッ!!」

「待ってーーーーーッ!!はやまらないで木村さんッ!!なんでもしますから!!というか!いつも自分から見せてるくせにひどいじゃないですか!」

「何訳わかんないこと言ってるのよ!!そんな証拠何処にあるっていうの?一話もそんな描写出てないわよ!!」

「ありますよ!原作コミックスで数え切れないほどやってますよ!」

 

 

億単位の慰謝料を払わせようとするカエレと大事にしたくない望が揉めている傍で愛は顔を覆ってシクシク泣いていた。

 

 

「ひ・・・ひどいです先生・・・。私という者がいながら他の女性の人ともそんな・・・。うわああああああああん!!!」

「えっ!?そういうことだったの!!?ちょっと待ってくださいッ!!加賀さん泣き止んでください・・・つまり私が言いたいことは・・・・・ハッ!!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

泣きじゃくっている愛をあやそうと望は近くに寄ろうとするが、即座に悪寒に襲われる。

その悪寒の元凶は彼女の狂暴な精神で動く戦闘機の形をして現れた。それを見て望は心の底から震え上がった。

 

 

「やっぱり、男の人って・・・男の人っていうのは、所詮下心丸出しの猿なんですよねぇ~~~~~。この・・・・・女タラシがぁ~~~~~ッ!!!」ムカァ~~~~~ッ

「げっ!?加賀さん!?落ち着いてくださいッ!!落ち着いて・・・『「うるさい~~~~~ッ!!!死ねッ!!!」ドボゴゴゴァアア』・・・ぎゃああああああーーーーーーーーーーッ!!!」

ドボァアアッ   ドボァアアッ  ドゴォオオッ

 

 

愛は人集りが多いこの場所で憤激の頂点に達し、望目掛けてミサイルを射出した。望はこれを紙一重で躱すが、ミサイル自体は止まっておらず、試着室をカエレ諸共爆撃した。

爆撃を食らったカエレは「訴えてやるゥゥゥ!!」と叫びながら吹っ飛ばされ、隣の店のショーケースに直撃して行動不能になった。

いきなりの爆発とそれで起こった火災でデパート中がパニックになっている中、上手く爆風を回避してうつ伏せになっている望に愛は不気味な笑みを浮かべながら近付いてきた。

 

 

「先生・・・。ランチなんていりません・・・。代わりに先生を破壊させて・・・。このぶつけがたい怒りを鎮めるために、先生の肉をッ!!臓をッ!!思う存分ぶっ壊していいよねぇ!『Wii Sports Resort』の居合い切りの練習をするように気分爽快にッ!!」

「ひぃーーーーーーーーーーーーーッ!!勘弁してくださーーーーいッ!!!」

「フフフフフ。逃がさないわよ先生ッ!!!」ドォーーーーン!

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 

 

愛が突き出した用件に望は恐ろしく感じ、滑るようにエスカレーターに乗り、逃げ出した。

愛はそれを見て追いかけ、逃げる望に銃弾を発射する。

逃げる望と追う愛。二人が通った道やその周囲は悉く破壊され、出火していた。

 

 

(・・・このままでは死傷者を出しかねませんね・・・・・。ならここは『時』を止めるしかないッ!!)ドォーーーーン

 

 

デパート内は爆撃や火災で荒れ果て、客はパニックに陥っておりまともな思考も出来ない状況のため、望はこれ以上の被害を拡散しないようにスタンド能力を使い、『時』を停止した。

 

 

「『時』は停止しました。今の内に外に出て身を潜めるとしましょう・・・。いくら今の加賀さんでも標的である私を見失っている間は暴れるようなことはしないでしょう」

 

 

停止した時の中でデパートから離れようと考えた望は窓ガラスの方へ走り、スタンドのラッシュでガラスを叩き割り、外へ出た。

実際は2階から飛び降りているが、そこは着地時にスタンドの足で地面を蹴って、飛び降りたことで生じるエネルギーを相殺した。

そしてこの着地時に能力の時間制限に達して、能力が解除された。

 

 

「はあ・・・はあ・・・さてと、まだ彼女の射程内にいるわけですから早めに離れなくては・・・「あら・・・?何から離れるですって?」・・・えっ?・・・げっ!!木津さん!小節さん!」

「店内で騒ぎが起こったらしいので引き返してきたら・・・何をやらかしたのですか?」

「ちょっと・・・説明しづらいことですが、とにかく、・・・ひゃああ!!来た来た来た来たーーーーーーーーーーッ!!」

 

 

“マシュマロウ・ジャスティス『ACT3』”は人の考えることを読む能力であるため射程距離の40~50メートルよりも離れようとするが、ちょうどその時にデパート内の騒ぎを聞きつけ、千里とあびるが戻ってきてしまった。

望に何が起こったのかをあびるは聞き出そうとするが、彼がきちんと説明をする前にその元凶が轟音と共にやって来た。

望はいち早くそれに気付いたが、その時には望が開けた窓から猛スピードで愛が飛び出してきた。

 

 

「えっ!?加賀さん!?」

「なんで加賀ちゃんが・・・それに『ACT3』って・・・先生何を・・・」

「見~~~~~つけた。・・・先生。死にさらせぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」ズラァア~~~~~~~~ッ  ビシュバーーーーーーーッ!!

「ぎゃああああああーーーーーーーーーーッ!!!加賀さん・・・“それ”をどこでぇーーーーーッ!!!」

 

 

千里とあびるは愛が現れたことに少し困惑し、事の成り行きを瞬時に理解することが出来なかったが、そんなことはお構いなく愛は2階から飛び出した後、懐から何かを大量に取り出した。

それはきらきらと輝く金属のナイフ。それをこれ見よがしに望にちらつかせた後、雨霰の如く投下した。

 

 

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!“ミニット・エンジェル”ッ!!『時』を止めろーーーーーーーーーーッ!!!今すぐにーーーーーーーーーーッ!!!)ドォーーーーン

 

 

大量のナイフを見て望はゾッとし、急いで時を止めた。

時が止まったことで広範囲に投擲されたナイフが空中で止まり、望以外の物質の行動が全て停止している隙に望は逃げるが、彼が思っていた以上に持続時間を保てず、ものの7~8秒で限界時間に達した。

 

 

ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

「うげぎゃっ!」

「がはぁぶっ!」

「うそでしょ!!これだけしか止められないなんて・・・」(私のスタンド能力は十数秒間も最大で時間を停止できるが、連続で何度も止めようとするとその停止時間が短くなるという避けようがないデメリットを持つが、このままだとそう何回も使用出来ませんよ)

「逃がさないわよ先生~~~~~~~~ッ!!!」ドガガガガガガガガガガガガガガガ

「・・・それにしても何なんですか今日はッ!!ツイてなさ過ぎでしょッ!!不幸だぁ~~~~~~!!!」

 

 

夕立のように激しく降ってくるナイフは状況を把握できていなかったあびると千里の体にこれでもかというほど刺さってしまう。

それを見ながら徐々に止められる時間の長さが短くなっていくことに心の中で望は嘆きつつ、自分を追跡してくる愛を振り切ろうと爆走しながら、今日の自分の運勢を呪った。

 

 

逃走する望に機銃を乱射しながら後を追う愛が去った後、全身に深々とナイフが刺さり、よろめいて背後の壁に寄っているあびると千里はドクドクと血を流しながらも刺さったナイフの一本一本を抜いていた。

 

 

「加賀ちゃ・・・ん。『ACT3』になるほど怒って先生を追っていた・・・・・。ということは先生と“何か”あったということなのかしら?」

「なん・・・です・・・・・っっってぇ!!!私という者がいながら、他の女ともッ!?許してなるものかッ!!!必ず殺すッ!!!あのチキンめぇ~~~~~ッ!!!」ドドドーーーーッ

「ありゃりゃ・・・・・」

 

 

あびるが事の整理をするため、口に出して順を追って思い返していると、千里が激怒して、その怒りで刺さっていた全てのナイフを力んだ事による筋肉収縮で抜き飛ばした後、何処からかに隠していたスコップを構え、望や愛が向かっていった方角へ猛ダッシュで走り去ってしまった。

それをあびるは呆然とただ千里が見えなくなるまで凝視し、立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり知ることはできないかぁ・・・。相手は隠れのプロだな」

 

 

場所は変わって、承太郎は人混みの多いオフィス街を歩きながら、いまだ明確な姿を現していない敵組織の情報を得られないことにむず痒く思っていた。

自分達につながる情報を全て消し去っているせいで何の進展もない。組織を攻める手立てがない状況に面していた。

これは広大な砂漠の中からダイヤモンドを見つけるかのような難しい問題だ。

 

 

「このまま密林に溶け込んでいる虎のように一方的に攻撃され続ければ、いつかは大きなダメージを負うことになるだろう。先手を取られ続けてはダメだ」

 

 

ヤキモキする衝動を抑えながらも歩道を一歩一歩進んでいる承太郎はふと何か、頭上から気配を感じ取り、“スタープラチナ”を軽く出して、その器用な指先でとても小さな“それ”をつまんだ。

 

 

「ん??これは・・・蚊か?」

 

 

絶妙な力加減で“それ”をつまんでいる承太郎は小さい“それ”が気になって人気のない路地へと移り、正体を確認した。

“スタープラチナ”の視力の精度を上げると、つまんでいるそれは蚊のような生き物、というよりはむしろ蚊のような形をした何かであった。

 

 

「ス・・・スタンドかッ!!?色合いやビジュアルが既存する蚊と似ていない・・・と考えるならこいつは敵スタンドと考えるのが妥当だ!昔ダンというゲスな奴もこれほど小さいスタンドを使っていたからな!」

 

 

長年の経験もあり、その蚊がスタンドであったことを見破った承太郎はそのままそのスタンドを潰してしまおうと指先に力を入れる。

しかし、スタンドを潰す前に背後から誰かがぶつかってきたためにうっかり逃がしてしまった。

一体誰だと青筋を立てて振り向くと、そいつはほんの数時間前にあったばかりの奴だった。

 

 

「望・・・お前」

「ひっ!承太郎さんでしたか・・・・・ほっ」

 

 

望は愛に追われる恐怖で前を見ていなかったため、前方の人にぶつかって決まりが悪くなるが、その相手が承太郎と知るとホッと胸を下ろし、厄介なことが増えなかったことを安心した。

だが対照的に、承太郎はそんな彼の胸倉を掴んで起こってきた。

 

 

「何が『ほっ・・・』だっ!!おかげで敵スタンドを見失ったじゃねぇかッ!!!」

「敵スタンドッ!!ど・・・どこにいたんですか!?」

『ケ・・・所詮ソンナ程度カ・・・糸色望。逆ニ礼ヲ言オウ』

「「・・・ッ!?」」

 

 

烈火の如く怒りをあらわにして胸ぐらを掴んできた承太郎に怯えながらも彼の台詞に反応して周りを見渡す望。

だが何処を見てもそれらしき姿がいないのだが、承太郎の背後からいかにも自分達に話しかけているような台詞が聞こえてきたので、承太郎は”スタープラチナ”で声が聞こえてきたおおよその位置に神速とも言えるラッシュを叩き込んだが、これといった手応えもなかった。

その直後に先程と同じ声がまた聞こえてきた。

 

 

『ムダダ・・・スデニ「攻撃」ハ終ワッテイル・・・・・。ソシテオ前等ハモウ敗北スル運命ニアル・・・。タトエボクヲ見ツケタトシテモ、オ前等ハボクニ指一本タリトモ触レルコトハデキナイッ!!』

「勝手に決めつけないでくださいよッ!!チビッこいスタンドめぇーーー「ドンドンドン」・・・なっ!?敵は・・・まさか・・・『もう一人』いたッ!!」ビュシューーーッ

『ソウダ・・・ククク。「チーム」サ・・・遠隔操作コンビダッ!!距離ヲオキナガラ確実ニオ前等ヲ倒スッ!!』

 

 

敵スタンドの余裕めいた発言に対して叱咤し大体の位置を把握した後、“ミニット・エンジェル”で叩き落とそうとする望だが、振りかざす“ミニット・エンジェル”の右腕に弾丸のような傷穴が3つできた。

その攻撃で望はひるみ、ダメージを負ってしまう。対する承太郎は突然の出来事に驚きつつも、着弾したものの予測軌道から上空を確認すると、その澄んだ青い空に一瞬だが黒い何かが飛び回っていた。

 

 

「“弾丸”か・・・ちっ・・・狙撃手が相手か・・・・・。ちと骨が折れるな・・・」

 

 

空を飛んでいたものを確認した承太郎はもう一人の敵のタイプを分析でき、その結果に対してちょっとした小言を言う。

そんなときに空中を旋回していた弾丸数発が急に軌道を変えて承太郎に向かっていた。

しかし承太郎はそのことを読んでいて、スタンドを前に出して向かいたった。

 

 

「悪いが・・・この私にそんな単純な手は通じないぜ!!」

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!』

 

 

向かってくる弾丸のスピードではやはりトップクラスのスピードを持つ”スタープラチナ”には勝てず、全弾オラオララッシュで弾かれてしまうが、このとき妙なことが起こった。

 

 

まず弾かれた弾丸だが、奇妙なことに”スタープラチナ”のパワーで相殺されたにも関わらず、承太郎の方へ飛んでいき、腕やら脚やらに掠った。

それに加えて、他のものは流れ弾として車道に飛んで、そのまま走行している車のタイヤに当たり、スリップを起こし、最悪なことに承太郎達の方向へ突っ込んできた。

 

 

ドグォォオオオォォン

「ぐはっ!!く・・・そ・・・・・挟まれてしまいました・・・背骨を粉砕してしまいました・・・」

「大丈夫か!・・・くそ、また来やがってッ!!」

『オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーラァッ!!』ブオォン

ブオン ブオン ブオン「ちっ!また掠っちまった・・・・・」ダラァ~~~~~ッ

 

 

スリップしてきた車を承太郎はジャンプして躱したが、望は反応が遅れてしまい、車に衝突。そのまま壁と車の板挟みになって背骨を折ってしまう。

承太郎は望の安否を気にするが、ジャンプ中のこのときに弾丸が来襲してきて、”スタープラチナ”のアッパーで難を逃れようとするが、運悪く、その一発が頭を掠って血を流してしまう。

その後、承太郎は着地してから、突っ込んできた乗用車をどかして望を引っぱり出した。望は背骨が折れたことで起き上がれず、ぐったりと床に伏せていた。

 

 

『カカカカカカ。“ツキ”ヲ失ッタダケデコウモ防戦一方トハナ・・・ボクタチハ単純ナ攻撃シカシテナイノニナ・・・』

「“ツキ”を失っただと?成る程・・・お前の能力は他人の”ツキ”を奪い取れるのか?」

『ホウホウホウホウ・・・・・察シガイイジャン?ソウ!オ前等ノ幸運ハボクガイタダイタッ!!幸運ヲ奪ワレタラ悪イコトシカ起キナインダヨ!ヘヘ』

「なるほど・・・だからさっきから・・・・・」

 

 

敵スタンドが言った“ツキ”と言うワードを聞いただけで、そいつの能力を的中させた承太郎に少し感心して自分から自身の能力をネタばらしした敵スタンド。

背骨を現在再生中で仰向けになっている望はそれで今までの出来事に合点がいき、気付くのが遅すぎたことに悔しさを覚えた。

 

 

『コレデイイ・・・アトハ高ミノ見物トシャレコムカ・・・ハハハッ!!』

「お・・・おのれぇ~~~~~ッ!!」

 

 

蚊のスタンドは自らの役目を全うしたようなので、本体の元へ戻しに行った。自分達の大切な運を持って逃げられたので望は悔しくて握り拳を上げる。

そしてこのとき、大量の弾丸が青白い空を旋回し、彼等への狙撃の準備を整えていた。

 

 

「銃そのものがスタンド・・・・・俺の“スターティング・オーバー”に死角はないッ!完璧だ・・・実にイイッ!!情報通りパワフルな力と強運を持っていたから初めはちょいと苦戦したが、もう奴等の運も底をついた。もう逃れられるとは思うなよッ!!・・・この“益井魁(ますいさきがけ)”からッ!!」

 

 

承太郎と望が運を奪われたまま上空を旋回している弾丸に狙われている場所から数百メートルも離れたビルの屋上に一人の男がいた。

背丈は約180センチ、歳は20代後半と推測できるその男はトサカのように長い前髪をかき払って、異彩を放つライフルのスコープを覗いていた。

そのスコープには色んな角度から見える承太郎と望が次々と映り出されており、その男、魁はベストな角度をスコープで見つけ出すと、殺気立った笑みを浮かべながらライフルの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに・・・・・

 

 

 

 

「先生――――――――――ッ!!!何処に行きやがった変態ヤローーーーーーーッ!!!」

「うなああああああああああああ!!!殺してくれるわ糸色望――――――――――――――ッ!!!」

 

 

この二人は事の深刻さにいつ気付くだろうか・・・・・・・・?

 

 

 

 

To Be Continued・・・・・⇒

 


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