シンデレラの奇妙な日々   作:ストレンジ.

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第2話『School Days』

 

 連休が明けて、また学園生活のはじまり……。

 とはいっても、今日は金曜日。今週はこの一日だけのお勤めで済む。中途半端と思うか、またすぐに休みが来ると思うかは人それぞれだけど、私はこの日を待ちわびていた側の人間だ。はやる気持ちで歩幅が大きくなっていく。

「来たな。おはよう、凛」

 正門をくぐり校舎前に着くと、奈緒が待っていた。そしてその隣に、もうひとり──

「おはよう、渋谷。よく眠れたか?」

──木場真奈美(きばまなみ)先生。

 保健体育を受け持つ教師であるとともに、この私立『美城(みしろ)学園』高等部の学年主任でもある。生徒に対して厳しい一方、親身にもなってくれる頼りがいのある先生。さらに、その長身と凛々しい顔立ちで生徒からの人気は高く、ウワサによると他校の生徒にまでファンがいるらしい。

「話は神谷から聞いている。君もスタンドを発現したそうだな」

 先生は私に向かってはっきりそう言った。奈緒が言ったとおり知っているんだ、スタンドのこと。

「放課後、教室に残っていてくれ。スタンドについてわかる範囲で教えよう」

「……わかりました。待ってます」

 スタンドについて、まだ分からないことだらけだ。話はできるだけ早く聞いておきたい。今後なにかが起こるにしても、そうでないにしても……。

「よし、ではまた放課後に。それまではいつもどおり勉学に励んでくれたまえ、しっかりとな」

 別に普段もそこまで真面目なわけじゃないけど、今日一日は上の空でも許してほしい──。

 先生と別れて私たちは教室へと向かった。

 

   *

 

 放課後、私と奈緒の二人だけになった教室に約束どおり木場先生がやってきた。授業の時と同じように教壇に立ったので、一応私たちも自分の席に座る。

「神谷からも聞いたかもしれないが、スタンドとは、精神のエネルギーが具現化したもの……つまり、自分の分身ということだ。幽霊だとか、異世界生物だとかいったものではない。『スタンド』という呼び名は『Stand By Me』……『そばに立つ』ことからこう呼ばれるようになった。このようにな──」

 ひと呼吸置いて木場先生の背後にスタンドが現れた。スマートな、でも奈緒のスタンドの様に逞しい体つき。立っているだけでその場の空気が引き締まるような威厳を感じる。

「では、ひとつずつ説明していこうか」

 先生のスタンドが歩き出した、と思ったらすぐに止まってしまった。

「まずひとつ。スタンドには『射程距離』というものがある」

 人差し指を立てて先生が言った。

「射程距離……?」

「『本体』からスタンドが離れて行動できる距離のことだ。私のスタンドは今いるここまで……2mほどだ」

「ちなみに、あたしも先生と同じくらいだな」

 奈緒も席を立ち先生の隣でスタンドを出し同様に歩き始めるが、先生のスタンドとだいたい同じ位置で動きを止めた。

「な? 一緒だろ。あたしは見たことないけど、100m以上行けるスタンドもあるらしい……凛はどうだ?」

 そう言って奈緒はまっすぐ私を見る。その瞳は子供のように輝いていた。

 そういえば奈緒ってアニメ好きなんだっけ。こんないかにも(・・・・)能力(チカラ)……食いつかないワケがなかった。発現したときとか、驚きはしたろうけど、そのあと大はしゃぎしてそう。ガッツポーズなんかしたりして──

 余計なことを考えながら私もふたりの横に並び、スタンドを歩かせてみる。

 

 結果は……いちばん後ろの席あたりまで行けた。射程距離はふたりより少し長いようだ。

「おお! 凛のスタンドはあたしらより遠くまで行けるな」

 奈緒が嬉しそうな声を出す。歩いただけとはいえ、それぞれのスタンドの違いを目の当たりにして興奮したようだ。

「このように」

 はしゃぐ奈緒を制するように語気を強め、ふたたび先生が語り出す。

「スタンドにはに射程距離があり、それはスタンド間で異なる。そして、基本的に力と射程距離は反比例していく。遠くまでいけるものほど、力は弱い。別に確かめたりしないが、おそらく君のスタンドは単純な力に関しては私や神谷のスタンドほど無いはずだ。念のため言うが、「劣っている」ということではない。スタンドの性能は千差万別、向き不向きこそあれど万能なものは存在しないということを言っておこう。力の源が心にあることを考えれば当然のことだがな」

「要するに、人間と同じなんだ。似てるところがあっても、まったく一緒なものなんてない……なんか、イイよな!」

 つけ足すように奈緒も口を開くが、ずいぶん感覚的な言葉だ。なにが『イイ』んだ。しかし本人は白い歯を見せニカッと笑ってご満悦のようだ。口を出さずにはいられなかったのだろう。そんな奈緒を横目で見ながら先生は話をつづけた。

 

「そして、スタンドの最大の特徴とも言うべきものが、『能力』だ。ここでいう『能力』とは、スタンドそれ自体のことではなく、スタンドがひとりにひとつ持っている『不思議な力』のことだ。もちろんこの『能力』も人それぞれ、スタンドごとに異なるが、いずれも人間の理解や自然の法則を無視したかのような超常現象じみたものばかりだ」

「そう! それがスタンドのいちばんの『ウリ』なんだよ! 凛にいちばん教えたいのはそこなんだよ!」

 流れるように奈緒が言葉をつづける。その瞳は夏休み中の少年のようにらんらんと輝いていた。

「神谷、落ち着け……。話の腰を折らないでくれないか」

 普段は真面目だけど、テンションが上がると子供のようにはしゃぐ。そんな奈緒に先生は少し呆れ顔だ。

「でも先生、私のスタンドにそんな能力(もの)、無かったと思うんですけど……」

 奈緒をなだめながら、気になったことを口にしてみた。

「いや、君はまだ気づいていないだけだ、自分のスタンドの力を。それをいつ理解するかもまた、個人差がある。まあそのうちわかるようになるはずさ」

 今はまだ、気づいてないだけ……いつか理解する──。

「能力が判明しても、くれぐれも悪用はしないでくれよ? もしやったら──『指導』しなくてはいけなくなるからな」

 いたずらっぽい笑みを浮かべて先生が注意する。その目になぜか恐ろしいものを感じる。悪用なんてするつもりは無いけど、肝に銘じておこう……。

 

「最後に……これが私がいちばん教えておきたいことだ。『スタンド使いは引かれ合う』……」

 先ほどと違って険しい顔つきになって先生は言った。

「『引かれ合う』……? なんですか、それは」

「スタンド使いは……なぜそうなるのかわからないが、まるで見えない力で引き寄せられるように他のスタンド使いと出会う……。そんな奇妙なルールがあるんだ」

 

 スタンド使い同士は引かれ合う……いつかどこかで出会う……。それって──

 

「それって……危ないやつに会うこともあるんじゃ……」

 思ったことを無意識の内に声に出していた。それを聞いた先生はさらに渋い顔になる。

「そうだ……それを懸念している。危険なスタンド使いに会ってしまった場合、どうするか……。教師が生徒に向かってこういうことを言うのもなんだが、自分の身をスタンドで守れるようにした方がいいかもしれない」

「つまり……『闘う』ことがあるかもしれないってことですか?」

「…………『無い』、とは言えないな。だが、襲われたときは逃げてくれ。逃げるのが無理なら、隠れる。そのあとは──これだ」

 そう言うと先生は私にプリントを差し出した。色んな先生の名前と番号が並んでいる。

「とにかく、まずいと思ったらそこに載っているだれかに連絡するんだ。生徒は教師が守ってみせる」

 ずらっと並んだ番号は全部で10人分以上あった。うちの学園の教師陣だけでもこんなにたくさんのスタンド使いがいるのか。

「あれ、日下部(くさかべ)先生の番号が無い」

 ひととおりプリントを見渡していたら、私たちの担任である日下部先生の名前が見当たらないことに気づいた。

「ああ、日下部先生はスタンド使いではない。そこに載っていない教師にスタンドの話をしても、なにも通じないから気をつけろ……不安にさせてしまったが、話はこんなところだ。番号はきちんと登録しておいてくれ」

 ひと通り説明を終えて、木場先生は教室から出ていった。

 一抹の不安を胸に残したまま、私たちも教室を後にした。

 

   *

 

「そういえば──」

 

 学園を出て、坂を下りたら右手に広がる森林公園。そのなかを友達と喋りながら帰る。いつもの下校風景。いつもと違うのは、会話の内容が、『奇妙な力』についての話をしているということだけだ。

「そういえば、スタンドには能力があるって言ってたけど、実際奈緒たちの能力はどんななの?」

 話を聞いただけではいまいち理解できないし、正直この目で見てみたい気持ちもある。スタンドは万能じゃないって先生も言っていたし、まさか世界を滅ぼすようなものでもないだろう。

「その質問を待ってたぜ! 知りたいか? 聞いて驚け ……って言っても、先生のは知らないし、あたしのは地味なんだよな……便利だけど」

 別に便利なら地味でもなんでもいいだろう。むしろ、まわりには見えなくても派手だと使い辛い気がする。

「あたしのスタンドの能力は……こいつ、『ステッキ』持ってるんだけど、これで触ったものの『場所がわかる』んだ」

 スタンドを出しながら奈緒が説明してくれる。

「『場所がわかる』っていうのは……つまり、離れたり、見えなくなっていてもってこと?」

「そう。どこらへんにあるか、どれくらいの距離なのかが感覚で分かるんだ。距離が近ければ近いほど細かいところまで知ることができる」

「へぇ……便利そうじゃん」

確かに地味かもしれないけど普通に使えそうな能力じゃないか。

「一度にひとつのものにしか使えないけどな。とりあえず、普段は財布に使ってるんだ。これなら、落としたときすぐに分かるからな」

 そう言いながら奈緒は財布を取り出した。

「具体的にどんな感じか見せてやるよ……そらっ!」

 スタンドが財布を空高く放り投げた。

 そして顔を下に向け、左手を掲げたまま財布を待ち受ける。能力で場所を探って、見ずにキャッチしてやろうという魂胆だ。

 奈緒を脇目に頭を上げて落下する財布を見守る。位置は奈緒の頭のすこし右側。

 キャッチできたときのドヤ顔が楽しみだ──なんて思ってた、そのとき……。

 

『カァーッ! カァーッ!』

 

 カラスが物凄いスピードで私たちの真上に飛んできた。

 そしてそのくちばしで奈緒の財布を……パクッ、とくわえて飛んでいってしまった。

 

「ん⁉ んんんんッ!?」

 

 異常に気づき頭を上げた奈緒の、ちょっとバカっぽい声が響く。

「え、なに⁉ どこっ⁉ サイフ⁉」

 落ち着け。能力で分かるはずだろう。いや、パニックで混乱してるんだろうけど。

「ちょっ、落ち着いて! カラスがくわえてったよ? ほら……」

「あぁ~! 待て~! 待ってくれぇ~!」

 教えるやいなや、奈緒は電光石火でカラスを追いかける……私も追わないといけない流れだよね、これ……。

 

「やれやれ……」

 スタンドがどうの、なんてことも霞むほどのしょうもなさに思わずため息が漏れる。

 すこし笑いながら大地を蹴って、愛嬌あふれるボリューミーな髪が揺れる背中を追いかけた。

(つづく)

 

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