シンデレラの奇妙な日々   作:ストレンジ.

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第17話『Living Loving Maid(She's Just a Woman)』

 

 集合写真でみんな笑顔、というのだけで納得がいかないのであれば、こちらはいくらでも追撃の用意はある。約束は約束だから容赦はしない。負けを認めればお金を失うのは私なのだ。

「他の写真は? 集合写真だし、別に凛に対しての笑顔、ってわけでもないし」

 案の定、加蓮はさらなる判断材料の提出を求めてきた。財布の中の平和を思えば当然の申し立てだろう。しかしそれは自分の首を絞めることにしかならない。

 私は「してやったり!」的な表情になるのを堪えて、ことさら仏頂面をつくったぶん、狡猾に仕掛けを施した罠へと巧みに獲物を誘導していくハンターのような気持ちがマウスを操作する右手に宿っていたかもしれない。

「これは?」

 加蓮を見つつPCに映したのは、ガーベラの絵が描かれたスケッチブックを両手に抱えて私と並んで笑った顔をカメラに向けている女の子の写真。私の家は花屋だということを教えたら、嬉々としてこの絵を描いて私に見せた。彼女も花が好きで、しばらく花の話をしてたらいつの間にか仲良くなれた。

「……」

 加蓮はとりあえず沈黙した。一発で負けを認める気はないというサインだ。それは「もっと打ち込んでこい」というサインでもある。私はそう受け取ることにした。

「こういうのもあるね」

 人差し指で『次の画像へ』を4回クリック、ふたりの男の子が現れた。私といっしょに3人でジャングルジムの頂上でピースしている。私はしてないけど。莉嘉ほど素早くは登れないが『ネヴァー・セイ・ネヴァー』の能力で慣れた今、このくらいの高さには物怖じしなくなった。もっとも、その能力を使えばあっという間に登れる。が、そんなことをしてもしょうがないし、事態の収拾が済んだあと、園児たちは驚くほど普段と変わらずに友だちと遊んだり話したりしていた。みんなの本当のところはわからないが刺激しないに越したことはない。園児たちと同じだけ私たちも努めていつも通りに振る舞った。

「へ~、この幼稚園ジャングルジムあるんだ…………」

 そこからまた沈黙。未だジャングルジムのある幼稚園には驚いたものの、それ以外への反応はまたしてもシャットアウトだ。

「あとはこれとか」

 さらに11回左クリック。これはちょっと私も見せるのに勇気がいった。人形劇をやったあとの写真だが、ワニの人形を手にはめた私が男の子に笑顔でなにか話しかけている。なにを言ったかは忘れてしまったが、劇中のワニを演じたまま喋りかけていた記憶がある。ワニの名前はたしか『シャーロットちゃん』で、ウサコちゃんと同じく亜里沙さんの手によって生まれた仲間だそうだ。

「……」

 沈黙。しかし加蓮はやきもきと手をグーパーさせながら、なにか言いたそうな顔をしている。

「……っ、あーもうわかったわよ、降参。私の負け」

 静かな深呼吸のあと、ようやく私の待っていた言葉を加蓮は言った。折れた、加蓮が折れた! もはや勝負がどうというよりかは加蓮の鼻を明かしたのが爽快ではあったが顔には出さなかった。

 

「……もういいのかしら?」

 

 PCから目を離し、座ったまま清良先生が私たちを見上げて尋ねた。

「はい。ありがとうございました」

「土曜日に来てまでなにかと思ったら……賭け事でもやってるのかしら?」

「そんなんじゃないですよ~。ちょっとした女の勝負です」

「女の勝負? ……まあ細かいところは聴かないでおくわ」

 写真のページを閉じながら清良先生は柔らかい調子で言った。これが木場先生だったら少し面倒なことになっていたかもしれない。

 なぜわざわざ土曜日に学園に来てまでこんなことをしているのかという先生の質問に勝手に答えれば、それは加蓮の勇み足とでもいうものだが、勇み足の理由に私が関係していないわけでもないから、こうしてふたりして土曜日の学園の職員室にいた。

 

 職場体験学習で、私が実習先の幼稚園の園児たちと仲良くなり、それを証明できるような写真を撮れれば私が勝ち、できなければ加蓮が勝つ。負けた者は高級ハンバーガー店“ロッドリア”のメニューを勝者に奢る──というのが、加蓮いわく“女の勝負”の概要だ。“女の勝負”なんて気概のある言葉から示される概要が果たしてそれでいいのか。

 それにしてもなにも土曜日(きょう)でなくてもいいだろう。昨日まで慣れないことをやってたうえに襲われもしたのだ。今日はハナコの散歩をいつもより長くしたりして安らぎたい。しかし加蓮は今日まで実習期間だったし、こうして呼び出しに応じて来たのは他ならぬ私だ。自分のスマホで写真を撮らなかったこともある。ひと騒動あったおかげで勝負のことなど吹っ飛んでいた。

 しかし事件のこともあって、翌日から実習期間終了まで清良先生が見回りに来てくれていて体験学習の記録のための写真も撮っていたから、思い出したときには後の祭り、とはならなかった。

 

   *

 

「でさ……加蓮、本当に奢る気なの?」

「ん?」

 用を終えて職員室を去り、下駄箱で靴を履きかえたところで尋ねた。正確な額ではないものの、ロッドリアではシェイクですら2000円を越えると噂で、それは私だって加蓮だって伝え聞いている。

 情けをかけるわけではないが私は勝負に勝ったこと自体に満足していて、勝者への特典を反故にされることを望んでいるわけではないが、忖度は絶対にしないとしようとしてるわけでもない。ただ自分から「奢らなくてもいいよ」とは言わないし、ロッドのチョコレートシェイクは飲んでみたいのも正直な気持ちだ。

「どう思う?」

 2、3歩先にいる加蓮がこっちを振り返って訊いてきた。

「そりゃルールだから奢るよ。でもロッドでお腹いっぱいになるまで奢ったりなんかしたら、夏休みの予定なんて立てられなくなると思わない?」

 それはそうかもしれない。予算の不足によって夏休み中の加蓮の行動が制限されるということは、私や奈緒も少なからず不自由な夏休みを送るということだ。みんなが裕福であるに越したことはない。なんといっても、夏休み中の自分のお金はひとりのものにあってひとりのものにあらず。連携が取れなければ索漠とした長い休日を過ごすことになる。

 かといって加蓮の居直りをあっさり肯定できるわけもない。夏休みまでまだ二ヶ月近くある。その間バイトでもすればどうにでもなる。そういう案も出さずに話をなあなあにしようとするのは虫がよすぎる。

 しかしそういえば元々は加蓮の挑発的な態度が事の発端とはいえ口火を切ってこの勝負を持ちかけたのは私だった。つまり私が今回の勝負の公式だ。運営だ。開発陣だ。私が折衷案を出して加蓮がそれに同意すればルールの変更は可能と言える。

 

 それに多額のお金を相手に使わせることになる罰ゲームは問題では? ファミレスのドリンクバーを奢るならまだしも、対象はファストフードの代表格たるハンバーガーとはいえ、頭には『高級』の文字が付くレベルの代物だ。それを奢らせるとは、いわばカツアゲにあたる行為になってしまうのかもしれない。深く考えて勝負を持ちかけたわけではないが、それはマズいしそんな展開は望んでない。うーん……。

 あ! 気づいた。ここで私が柔和な内容にシフトした案を出せば加蓮に『貸し』のようなものをひとつ作れるんじゃないか? それは気持ちの問題に過ぎない、決して明確な貸し借りの関係などにはならない、法律云々より人情の問題だ。

 しかしそれを加蓮がどうして感じずにいられるだろう。加蓮のようなタイプには論破するより義理に訴えかける方がおそらく効果的だ、みたいなことを考え出しているようでは、私がすごく友だちに対して損得勘定を働かせてるということにならないか? 私こそが汚い女ということにならないか? ただ折衷案を出して加蓮に対して精神的にイニシアティブをとった気になりたい、しかもそれが錯覚であることはわかった上でそう感じたい、極めて控えめな欲を勝負に勝ったことへの裏の報酬のようなものとして得たいだけなのに!

 

 校舎を出て正門へ向けてアスファルトを踏んで加蓮と歩いていくなかで声に出すにははばかられる言葉が湧いてくる。加蓮が喋ってからどれくらい間が空いたんだろう。30秒? それとも1分? どちらにせよそろそろなにか言わなければ変かもしれない。

 

「おや……凛さんに加蓮さん」

 

 予期せぬ呼びかけにごちゃごちゃ回る思考は中断された。声の方を見ると、飛鳥だ。土曜日の学園になぜか飛鳥がいた。

「飛鳥……どうしたの。今日は」

「そう、ボクだ。二宮飛鳥がここにいる」

 相変わらず、と言うには浅い付き合いだが、今日は銀髪のエクステを風になびかせ、飛鳥は挨拶がてら芝居めいた言葉で自らの存在を誇示して、そこからさらに気の赴くままに台詞を言うように続けた。

「土曜日。かつては今日も人は学び、働きに出た。安息の天使の微笑む刻(にちようび)を求めて彷徨う最後の航海の日だ──」

 半ば当然であるかのように私も加蓮も足を止めて飛鳥の話の終わるのを待った。上を向くと空は青く、分厚そうなモコモコしたまっ白い雲がたくさん漂っていて、昨日まで通っていた幼稚園にあった送迎バスを思い出した。

「人の苦しみを天使は聴きたもうたか。天使は口角を上げ、さらに暖かな眼差しを荒れ狂う海に翻弄される小舟に向けた。かくして…………」

 そこまで言って飛鳥は言葉に詰まった。といっても悩んでいるような表情には見えず、真顔のまま4秒ほどフリーズしてから、

「……駄目だ。惰性で喋っているだけだ。くだらない。馬鹿げている」

 と呟いた。

「第一これはランコ(・・・)の意識を些末になぞってるだけのようなものだ。ランコほどの優美さ大胆さもなく虚飾に過ぎる。ボクの思考の発露は形而上学的でもあり、シニカルでもあるような……とにかくボクは今いい加減なものの言い方をした。それについては失礼したよ」

「そう……」

 それくらいしか言うことが見つからない。まして知らない固有名詞まで出されたらなおさらだ。

「で、ボクが土曜の学園でなにをしているかということに答えれば、部活の自主練みたいなものさ」

「部活? へー、アンタ部活入ってたんだ」

 実に意外そうに加蓮が言った。私も加蓮も帰宅部だ。ただ加蓮は家庭部に友だちがいるらしく、たまに遊びに行っているらしい。

「それで、ふたりはなにをしているんだい。高等部は昨日まで職場体験学習だろう? 実習先で粗相でも犯して反省文の提出に来たにしては悲壮感はなさそうに見えるが」

「そんなんじゃないよ。先週マックでアタシと凛が言い合ったこと覚えてる?」

「ああ、思い出した。ロッドリアを奢るとか奢らないとかの……」

「それそれ。それのこと……ってアタシが率先して喋るのも(しゃく)なんだけど」

「なるほど。ということは勝利の美食に酔うのは凛さん、か」

「飛鳥にも見せたかったよ、いつもはクールビューティ気取ってるクセに園児の前でニコニコしてる凛の写真。でもロッドはねぇ……夏休みにまで尾を引く値段だし、正直勘弁して欲しいなーって」

 別に気取ってはいない。いつもにしたって幼稚園のときにしたって私は素だ。そして話はもとに戻って、加蓮は本音をぶっちゃけた。

「約束だろう?」

 加蓮を(たしな)めるというよりは当然の反応といった感じで飛鳥が返す。

「それを言われたら弱いのよねー。でもさ、考えてみてよ。今ここでロッドを奢ったら夏休みの予定はどうするの? 夏物も買えないし、海に行くなら水着だって買わなきゃだし」

「たしかに、なにをするにしても夏休みに向けて予算の確保は肝要だね。ただ加蓮さんは納得ずくで凛さんの勝負を受けたのだから、それを反故にしようというのは……気を悪くしないで欲しいが、傲慢というか、わがままなんじゃないのかい?」

「ん、うーん……まあ、ね」

 後輩に“わがまま”なんて言われてはさすがに加蓮もばつが悪い。

 

「……約束は約束だけど、変えられないとは言ってないからね」

 飛鳥の言葉の返事に淀む加蓮を見て、ここが潮時でも悪くはないと思い、心を決めた。弱気というほどではないにしても少なからず意気を乱された加蓮を見れたのだから、当分は元気にやっていけるというものだ。こう思うは私はやっぱり意地の悪い女なんだろうか?

「他のお店で奢るのでもいいんじゃないかな、って思わないこともないよ」

 心を決めたにしては歯切れの悪い折衷案を私は繰り出した。しかし内心ホッとしてもいた。約束通り加蓮に食事を奢らせ、かつ夏休みの予定段取りへの影響も軽減させたのだから、加蓮からしてみれば今や私はささやかながら救世主のはずである。もっとも加蓮本人はそこまで大それたエモーションを感じてはいないだろうし、こんなことを考えている私だって本気でこう思ってるわけではない。

「え~、それでいいの? だったら話は早いね。もうちょっとリーズナブルでいこう」

 そら見たことか。「それで借りを作ったなんて思わないことね」と言わんばかりの軽やかな反応、羽毛みたいな。

「ただしハンバーガー以外で」

 どうせお店を変えるのならハンバーガー店以外がいい。気分転換にもなるし、これなら加蓮に一矢報いた感じがしないでもない。まるで加蓮をハンバーガーの申し子のようなものだと思っているのか私は。しょせん職場体験学習で一週間ばかりマニュアル通りの対応だけでバーガーを売ってただけの女だ。しかもこいつの真の狙いはポテトであってバーガーではない。「Wチーズのセット。ポテトはLで」と、まるで控えめに発されたこのポテトこそが加蓮にとっては主役でバーガーは脇役なのだ。もっとも『相棒』でいえば伊丹刑事くらいにはフィーチャーされている度合いの脇役ではあるはずだろうが。でなきゃそもそも頼まないはずだし、なんだったらそのぶんポテトを追加するだろう。そして私や奈緒が想定外のカロリーを摂取する羽目になる。それを自分は腹八分目で早々に切り上げて横目で見ているだけ。まるで氷のような女。実際スタンドも吹雪を出す能力だし。

 しかしそれを言ったら私だって一週間ばかり園児たちと遊んでいたただの花屋見習いだ。それでも私にはハナコがいる。加蓮にも奈緒がいるが奈緒は私の友人でもある。いい勝負だ。この辺りに関してはライバルと認めざるを得ない。奈緒は私の頭の中でまでいじり倒される運命にあるのか。それは私の意思次第だ。ごめん、と先に謝っておこう。

 

「それなら、これは思いつきなんだが、これからボクが食事に行こうと思ってる店で誓約を果たすというのはどうだい。少し遠いところだが……」

 意外にも飛鳥がそんなことを言ってきた。こんなときは第三者の提案が心地よい。いっそこの約束のすべてを飛鳥に委ねてしまい、私は帰ってハナコの散歩にでも行きたくなってしまったほどだ。

「それってなんのお店?」

「喫茶店……だがレストランとしての利用にも耐える。なにより味は保証するよ。店長(マスター)が凝り性なものだからね」

「値段は?」

「それも問題ない。それなりに高価なものもあるが、基本的にはリーズナブルだ。もっとも、店の様式には驚くかもしれないがね……」

 コスパへの注意を怠らない加蓮の質問に、なにやら含みを持たせつつ飛鳥は答えた。

「驚くって、どういうこと?」

「それは……来てからのお楽しみ、とでも思って欲しい。その上で、どうだい? 行くかい?」

 私が尋ねたことで含みはより意味深なものとなった。とはいえ飛鳥の言い方からしてマイナスに感じるようなものではなさそうだ。ちょっとしたサプライズ要素のあるお店といったところだろうか。いずれにせよこの飛鳥の提案は渡りに船だし、すべては行けばわかる。

「いいでしょ、加蓮?」

「そりゃもちろん、凛がいいなら。美味しくてリーズナブルっていうならアタシは文句なんてないし」

 話はまとまりすべてが順調に進みだした感じがあった。しかしなんで奢られる側の私がこんなに煩悶とすることになってしまったのか。最初から最後まで加蓮のペースに乗せられてたということなのか。まあいい。私が奢られる側なことに変わりはない。溜め込んだモヤモヤは美味しい物で黙らせてもらうとしよう。

「じゃ、決まり。飛鳥お願い」

 案内を飛鳥に頼み、私たち3人は颯爽とふたたび歩きだした。

 まあ、生きていればいつかは飲めるよね。ロッドリアのチョコシェイク……。

 未練がましさを紛らわすために少しだけ歩幅が大きくなった。ロッドリアは今から4年後、食品偽装が発覚して全店閉店した。

 

   *

 

 学園からやや長い道のりを歩いてたどり着いたお店は、外から見る限りは特段なんの変哲もないように見えた。

「外観は普通だね」

「中に入ればすべてが氷解するさ。では往こうか」

 飛鳥がノブに手をかけ扉を開けると、カランと音が鳴った。すかさず誰かが私たちの前に立った。

 

「お帰りなさいませお嬢様が、た……たたたたたたたたたっっ!?」

「あら……あらあらあらあらあらあら~っ!!」

 

 目の前に映し出された光景の情報処理に頭が追いつかず一瞬真っ白になったものの、落ち着いて状況を把握したとき、飛鳥の言った通り確かに私は驚いたし加蓮も驚いていた。それに飛鳥も驚いていた。飛鳥にとっても予期せぬものが目に見えていたことはすぐに理解できた。

 扉を開けて目の前に現れたのは、見るもキュートなメイド服を着た奈緒だった。かわいい。私たちを確認したとたん挨拶の言葉も中断してバグっている。加蓮はさすがといったところで、驚きつつも即座にこの場を楽しむべく好奇心を貪欲に動員しているのは明らかだ。そのふたりの反応の結果が“たたたた”と“あらあら”のラッシュとなってお店の入り口で激しくぶつかり合っている。

 

「なに!? なにごとなのっ!?」

 

 当たり前だが騒ぎを聞いて店の奥から他の店員がやって来た。妙に甲高い声の持ち主は制服越しにも鍛えているのがよくわかるほどの体つきをしたコックさんだった。

「マスター! 止めて! この女止めて!」

「はじめましてマスター。うちの奈緒がお世話になってます」

 好奇心を爆発させつつ、いや爆発しているからこそ冷静かつ唐突な社交性を発揮して加蓮は奈緒がマスターと呼んだコックの格好をした男性に挨拶した。

「あら、奈緒ちゃんのお友だち? ゆっくりしてってちょうだい。でも他のお客さんに迷惑かけるのはいけないわよ」

「そうですね。はしゃぎすぎました。以後気をつけます」

 丁寧に謝り、素早く場を収める。しかしそれで加蓮の好奇心までもが収まったわけではない。

「さ、案内してもらおうかしらメイドさん。3名のお嬢様がお待ちかねよ!」

 ほくそ笑みながら奈緒に応対を要求する。飛鳥は自分はどう出ればいいのかわからず黙ったまま。私も黙ってはいるが、それはこの場は加蓮に任せた方が面白そうだと思ってのことだ。

「くそっ……3番テーブルに来やがれ、お嬢様がた……」

 小さじほどの反抗心をあらわにしながら奈緒は私たちを案内してくれた。メニューにスマイルはあるのだろうか。

 

(つづく)


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