シンデレラの奇妙な日々   作:ストレンジ.

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第21話『Ride The Wild Wind』

 

 思いがけない形で乃々のスタンド空間へ2度目の訪問となったわけだが、まずなにも状況を理解できてないであろうふたりにこのことについて説明しなくてはならない。

「スタンドだけど無害、のはずだから落ち着いてね」

 唐突な周辺の変化にポカンとなったままの加蓮と拓海に言うと、ふたりともスイッチが入ったように忙しなく辺りを見回し始めた。

「いやちょっと待って無害のはずってどゆこと?」

 見回す動作を続けながら加蓮が早口に言った。

「今朝またスタンド使いに会ったって話したでしょ? 中等部の子だったんだけど、これ、その子のスタンドなの」

「ああ、じゃ……問題なし?」

「問題なし」

 学園内の人物であれば無害ということになるわけではないけど少なくとも乃々は問題ない、というか場合によっては目をかけてあげないと乃々の方が危ないかもしれない。身を隠すには良さそうな能力ではあるものの、こうして本を開けば誰でも入れてしまうのだ。悪人にこの力を知られないとも限らない。

「で、拓海もスタンド使いだったんだ」

「あ?」

 落ち着かなそうに周囲に気を払ったままの拓海が横目でこっちを見た。

「ノート、持ってたでしょ。スタンドのノート。あれがこの場所の発生源、らしいよ。それが触れるってことは、そうなんでしょ?」

「ああ、そうなのか………………お前らもかっ!?」

 そして返事をした直後にいきなり叫んだ。私たちもスタンド使いであることに今気づいたようだ。

「そうだよ……ホラ、見える? キレイでしょ」

 ちょっと自慢気に加蓮がスタンドを出してみせた。ミントカラーのドレスを纏い、これまた同じような色の帽子を被って日傘を持ったお嬢様のような姿の加蓮のスタンド……。名前は『フローズン・ティアー』だったはず。

「おぉー! 確かにキレイだしカッケぇ!」

 拓海がどことなく奈緒のような感想を言った。見えるということはスタンド使いに間違いないようだ。

「調子はどうなの?」

「もう完全に自分の一部ってカンジ。暴れてたのがウソみたい。っていっても暴れてたときは感覚なかったからわからないんだけど」

 スタンドの調子を加蓮に尋ねると、論より証拠とばかりに『フローズン・ティアー』が日傘を開き空に掲げて、吹雪を出した。

「うおっ!?」

「こういう能力なんだよ、加蓮のスタンド」

「吹雪かー……強そうじゃんか」

 ワクワクした顔でそう呟いた拓海と、吹雪で薄荷色にほのかにキラキラ光る空を見上げた。

「降りそうだな……」

 また拓海が呟いた。確かにそのとおりで、今朝ここに来たときはこのメルヘンなスタンドの空間にふさわしいような晴れ空だったのに、今は現実世界のこれからの季節を先取りしたかのような曇り空だ。遠くの空はここよりもっと暗く、嵐の前触れにすら見える。

「とりあえず、あそこに入ろう」

 ふたりに少し先にある小屋を指し示して言った。小屋は朝来たときに乃々と高峯先生と会ったのと同じらしき小屋だった。確証はないし天候が違ってはいるけど、まわりの景色も含めて見覚えがあるから合ってると思う。

「おう、さっきから気になってたんだ。あそこに誰か、ってか本体がいんじゃねぇか?」

「今朝来たときはいたけど……」

 それなら私たちの声が聞こえているだろうし出てくるはず、とも思ったが、乃々のことを考えるとそうでもないかもしれない。

「いるかもしれないけど出てこないかも」

「なんでよ?」

 と、今度は加蓮が言った。「よく知りもしないのにこう言うのはなんだけど……」と、ふたりに言うわけでもなく自分に言い訳するような前置きを頭の中で唱えてから私は加蓮の疑問に答えた。

「少なくとも今日の朝、初めて乃々……このスタンドの本体の子ね。と会った限りでは、なんていうか、儚げ? おぼろげ? 守らないといけないような、そんな印象の子だったから、だとしたら向こうから出迎えてはくれないと思うんだ」

「なるほどね。一言で言ったら内向的な子ってこと」

「一言で言いたくはないけどとりあえずそれで合ってる」

「なんで?」

「自分の中で納得できてない。それに会ったばかりの子のことを教えるのにネガティブな言葉を使うのもなんか……」

「気が引けるみたいな?」

「たぶん」

 答えるとは言ったものの上手く言い現せないものを感じて私は私の言った言葉が妙に引っかかって言い淀む。陰口を言っているような気分に少しなっているのかもしれない。

「凛が気を遣いたくなるくらいデリケートそうな子ってことね。実際どうかは会ってみればわかるでしょ。初対面でずぶ濡れは嫌だし、行こ」

 加蓮に急かされ、乃々の人となりの共有はさておき全員で小屋へと歩みを進めた。

「拓海は大丈夫かな?」

 が、歩いて5、6歩のところで今度は加蓮が拓海を見て気がかりそうに言った。

「アタシ? なんだ?」

「おとなしそうな子なら、そもそも拓海なんか雰囲気だけで怖がられちゃうんじゃない?」

「あ?」

「ほら。その『あ?』っての、威嚇っぽいし」

「え、そんなか?」

 ちょっと心外そうに拓海が私と加蓮を交互に見た。

「これから気をつけた方がいいかもね……って、拓海とも会ったばかりなのにこういうこと言うのなんだけど」

「まあ……思うところないわけではねーからよ、気にすんな」

「じゃ、気を取り直して行きますか。見て。あっちなんかもう真っ暗」

 加蓮の視線の先を見てみると、遠くの林の上には、もはや嵐は避けられそうにないというほどの暗雲が空いっぱいに詰まっていた。さっきよりもずっと辺りは薄暗く、小屋には魔女でも棲んでいそうな気までしてくるが、あいにく入らないという選択肢はない。ここにいてもずぶ濡れになるのを待つだけだ。

 

「乃々、いる? 今朝会った渋谷だけど」

 扉を開ける前に小屋の中へ声をかけてみる。返事はない。特に物音も聞こえない。

「悪いけど入るよ。ごめん」

 ドアノブを回す。鍵がかかっているということもなく扉は開いた。誰もいない。明かりも点いていない。というか今朝は小屋の中をほとんど見なかったからわからなかったが出入口のすぐ横にスイッチがあって、押すとちゃんと明かりが点いた。

「いないじゃん」

 私に続いて入ってきた加蓮が中を見回しながら言った。

「絶対いるって確証なんかないからね。今朝はいたんだよ、乃々、と高峯先生」

「高峯先生? それは初耳」

 別に隠してたわけではないけど、確かに加蓮にも拓海にも先生のことは話していなかった。

「よくは知らないけど、スタンドのことで相談事とかじゃないかな。乃々、スタンド消すのに手間取ってたし。まだ扱いこなせてないのかも」

「あの先生と面談できるならそんな臆病な子でもないんじゃない? わざわざ相談相手に高峯先生は選ばないでしょ。先生だって生徒とやり取りするの得意そうではないし」

「いや、あれでなかなか面倒見いいんだぜ?」

 意外にも意外なことを口にしたのは拓海だった。高峯先生について、だいたいの生徒以上のことを知っていそうなのはやはり意外に思えるが『イメージが独り歩きしている』拓海なら、なにか高峯先生にまつわる意外な事実を知っていてもそれほど意外ではないのかもしれない。

「え、拓海、高峯先生と仲いいの? それは超意外」

「仲いいってのかはわかんねぇけど……まあハナシすっことはたまにあるぜ。つっても今年始まってくらいからだけどよ」

「やっぱりスタンドがきっかけなの?」

「いや……あ~と、夏樹、知ってるよな?」

「うん」

 ふたつ返事で加蓮は答えて私も軽く頷いたし、先日出会いもしたけど私はほとんど木村夏樹を知らない。軽音楽部で、飛鳥と同じバンドをやってる、それくらいのものだ。

「[[rb:軽音楽部 > けいおん]]の部室に行ってアイツらの演奏聴いてたらよ、なんか面白そうだなって思って『面白そうだな』って言ったらその場でちょっとベース触らして教えてくれたんだよ」

「へ~……、? 誰が?」

「いやだからのあさんだよ。高峯先生。別ににこやかに接して教えてくれたわけではないけどな」

「え……高峯先生、軽音部の顧問だっけ? てか楽器弾けるの!?」

 加蓮が驚いて声を上げる。その声の、面白そうなことを知ったときの抑揚の感じが、見知らぬ異空間の嵐前の暗い空の下の小屋の中で出すには場違いな感じがあって私にはそっちが少し面白い。

 

「軽音部の顧問ってヘレン先生でしょ」

 

 私の記憶違いでなければ、というか記憶違いなんてことは到底あり得ないと思っている。例えば他校の人にヘレン先生がどんな先生なのかを教えるのは難しいが、とにかく筆舌に尽くしがたいというか、なにかを超越した雰囲気があるというか……。こうして考えてみると自分の頭の中ですら言い表すことのできない、とにかく揺るぎない謎の存在感を放っているのがヘレン先生なのだ。だから記憶違いなんてことは起こり得なく、ヘレン先生は軽音楽部と合唱部の顧問だったはず。あれ、でも兼任してるということは──

「あの人は副顧問だな。のあさんもそんな頻繁に顔出してるわけではないみたいだけどな。ま、のあさんからベース教えてもらったのがきっかけだったわけよ」

「高峯先生が軽音、しかも楽器経験者なのは知らなかったな~。しかもなに拓海、『のあさん』なんて下の名前で呼ぶとか相当じゃん」

「そういうのはそのときの成り行きとか気分だよ。お前らだって早々にアタシのこと名前で呼び捨ててんじゃんか」

「私も凛もそういう性分なもので」

「んだそりゃ、構わないけどな。お前らと違って神谷は“さん”付けで呼んできそうだけどな」

「あ、奈緒」

 拓海の言葉で思い出したように加蓮が奈緒の名前を口にした。それとほぼ同時に私も思い出した。

「奈緒、置いてきちゃったね……」

「私も今気づいた。こんな異世界でいつもの放課後みたいなトークに花咲かせてる場合じゃなかったわ。ここってスマホ通じるのかな」

 誰かに尋ねるわけでもないがそう言いながら加蓮は自分のスマホを取り出して奈緒に連絡を取ったようだった。

「おいなんだそりゃ!?」

 連絡中の加蓮の胸を指差しながら拓海がいきなり大きな声を出した。見ると加蓮の胸から『虹』が出ていた。虹は大きくアーチを描いていて、小屋の天井を突き出してどこかへ繋がっていくように差していた。

「こっちもビックリした! けど安心して。これ、奈緒の能力」

 落ち着いた顔で加蓮は言った。私も、おそらく加蓮も一度しか見たことがないが、確かに虹は奈緒の能力だ。加蓮の行方がわからなくなったときに偶然か運命か、加蓮を探すために目覚めた力。奈緒と加蓮の間を虹が結んで互いの場所を知ることができる力だ。つまり加蓮から出ている虹のもう一端は奈緒に繋がっているはず。

「これ、来るかな奈緒? スマホは通じなかったけど……」

「ちょっと待て」

 拓海が扉を開けて小屋の外に出た。つられるように私と加蓮も拓海に続くと、虹は向きを変えながらも加蓮の身体の一部のようにぴったり胸から離れることなく差し続け、黒い綿飴のような曇天へと伸びていた。

「暗雲に虹たぁ洒落が利いてんな。映画のワンシーンみてーだ。で、コレはどういうことなんだ?」

 感心しつつも困惑した言葉で拓海が尋ねてくる。それに対する明確な答えはわかりかねるが、予想としてはこうだ。

「あの空の向こうがどうなってるかなんて知らないけど、たぶん……拓海が持ってきたあの『ノート』、あれに繋がってるんじゃないかな。で、そこから奈緒に向かって虹が伸びてる……はず」

 前回と違って、いわゆる『異空間』を介してる以上わかりようなんてないけど、以前のときを踏まえるとそうなっているはずだ。

「もしこの空間を越えて『向こう』に行きようがないとしたら、空の向こうのどこかであの虹は途切れてるかもしれないけど……」

「いや、それはないんじゃないかな。凛、これって奈緒の能力だよ? てことは虹はあくまで『奈緒から出て私に向かって伸びている』はずだから、奈緒の方からすればさっき凛の言ったとおりにノートに向かって差してるはずだよ。それで奈緒がノートを開けば……」

「こっちに神谷も来るってことだな! ヨシ! この虹で、とっとと森久保見つけて無事解決ってわけだ」

 グッと拳を握って景気のいい声で拓海がそう言ったが、ここで残念なお知らせをしなければならない。

「拓海、この虹は『お互いを意識』してないと発動しないんだ。きっと奈緒が私たちの心配してて、そのタイミングで私たちも奈緒のこと思い出して意識しあったから加蓮に虹が出たんだと思う。けど奈緒と乃々って面識ないと思うから、これで探すのはたぶん無理」

「うえぇっ、そうなんか?」

「みたいだね。前に凛たちに助けてもらった後奈緒に聞いたけど、奈緒の能力って『ステッキで触ったものの場所がわかる』っていうのと、この『お互い意識してると自分と相手を虹が結びつけて場所がわかるようになる』って二通りの力があるんだって」

 落胆する拓海に加蓮が奈緒のスタンドの能力を説明してくれた。

「なるほどな。便利だけど、まったく知らない、触れもしないヤツ相手には使えないわけか……。つーか、お互い意識してると虹が出るってなんかすげーな」

「アハハッ、過剰なくらいロマンチックだよね。ゲームとかアニメ好きだから、そういう面がスタンドに反映されてるのかも」

 やっぱりスタンドは精神の力なんだからそういう面は大いにあるだろう。しかしそんなことを言うなら加蓮のスタンドだって見た目はお姫様だし、傘から雪を出すなんて奈緒にも負けないくらいロマンチックなスタンドだ。中世の騎士の見た目をしているスタンドの本体の私が言うことでもないけど。でもそんな風に本体の人物像とスタンドの見た目や能力を照らし合わせてみるのも面白いかもしれない。

「あー、そういうのはあるな。アタシはバイク好きなんだけどよ、やっぱりスタンドにもバイクのパーツが付いてたりして……よ……」

 拓海が言葉を詰まらせた。なにやら緊張しているのかピクリとも動かず身体を強張らせている。

 

「ありゃ、なんだ…………」

 

 判断ができないまま、一点を凝視しながらそうゆっくり言った。拓海がわからないのなら当然なんのことやらまるでわからない私たちも、わからないままに拓海が見ている方向へ目を向ける。

 そこに毛むくじゃらの大男がいた。たぶん……裸の。全身が焦げ茶色の体毛で深く覆われていて、肌が見えないのは幸いだった。というかそんなことを気にもさせないほど男は大柄で、腕も脚も太く、柄の長い斧を両手で持っていて……というか、いちばん着目すべきなのは頭が…………

 

「牛ーーー!」

「バッファローーー!」

「ミノタウロスだぁーーーっ!!」

 

 3つの叫び声が上がった。そう、加蓮の言うとおり男の頭は牛だった! でも牧場でのどかにしてるイメージが浮かぶ乳牛のような顔つきではないし、こめかみ辺りに太い角が生えていて、頭も体毛同様焦げ茶色で白黒系ではなかったから拓海が言ったように牛は牛でもバッファローとかそういう闘牛な感じだし、奈緒が叫んだように牛の頭に人間の胴体の生き物といえばいわゆる『ミノタウロス』だし奈緒がいつの間にか来てたしとにかくヤバい! 

 

「ブモオオオオォォォォッ!!」

 

 あぁっ、牛っぽい雄叫びだ! いやそんなのはどうでもよくて、斧を構えてこっちに走ってくる!

「ささ、下がってな!」

 私たちの前に出て拓海が言った。いきなり怪物が現れたこともあって少し声が震えている。

 突然の危険を前にしてみんなを庇おうとする勇気は尊敬するけどこのままじゃ拓海がマズい、そう思った次の瞬間──

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』

 

 重く低く、くぐもった、小刻みに震えるような金属感のある轟音とともに、黒い塊が拓海の1歩前に現れた。黒い塊は突っ込んでくるミノタウロスに向かって動いた。

「オラァ!!」

 ドスの利いた拓海の声の後に、鈍く湿った音が響いた。黒い塊──拓海のスタンドだ──が、斧を振り上げてがら空きになったミノタウロスの胸目がけて渾身の右ストレートを喰らわせた音だった。

 

「オォォ……オオオォォォォォォ……!!!?」

 

 ミノタウロスは斧を落とし大きくのけ反り、そのまま倒れるかと思いきや、突如のけ反った姿勢のまま真後ろにかなりのスピードで吹っ飛んでいった。それはもう本当に文字通りきれいにまっすぐ『吹っ飛んだ』。心なしかミノタウロスの声にも驚きのようなニュアンスがあった。

 ミノタウロスは叫び声を上げたまま森の中へと突っ込み、それでも吹っ飛ぶ勢いは衰えてないらしく、声は徐々に遠ざかって小さくなっていき、やがて消えた。

 

「……悪霊……退散」

「いや悪霊では……なくね?」

 決め台詞のような拓海の言葉に茫然としつつもツッコミを入れてから、周囲を用心したまま奈緒が話し出した。

「店出たらみんないなくなってて、落ちてたノートに向かって虹が出たから開いてみたら……なんなんだここは? なんだったんだ今のは……うわぁっ!?」

 そして拓海の方を見たまま声を上げた。奈緒の驚きの理由は半ば理解できているが、それでも“それ”をはっきりと目にした瞬間は声を出して驚きそうになった。“それ”とは言うまでもなく拓海のスタンドだ。

「またすごい見た目のスタンド……。パッと見だと明らかに敵ってカンジ」

「んだよ、それもわからなくはねぇけどカッコいいだろ?」

 拓海は加蓮の感想に冗談半分に悪態をつきつつも理解を示しながら誇らしげに自らのスタンドを見せてくれた。

 

 拓海のスタンドは身体が全体的に暗い紫色をしていて濡れたように艶があり、機械のパーツ──騒ぎの前に言ってたことからするとバイクのパーツ類なんだろうか──が人型に組合わさったような姿は、いわゆる変型ロボットを思わせる、少年心をくすぐるビジュアルかもしれないが奈緒が姿を見て驚いたように顔はなかなか凶悪だ。目は極端に瞳の小さい三白眼。口には鋭そうな鈍色の銀歯がきれいに並んでいて、常に歯を食いしばっている。ロボットっぽくもありながら、目を反らした瞬間噛み殺されそうな飢えた猛獣のような恐ろしさも感じさせるスタンドだ。

「間違いなく強そうだよな。まぁ実際強かったわけだけど。名前はなんて言うんだ?」

 しばらく拓海のスタンドをみんなで見ていると、思い出したように奈緒が尋ねた。

 

「獰猛……巻き込むものすべてを薙ぎ倒す“暴風”のような荒々しさ……。それで『ワイルド・ウインド』と名付けたそうよ」

 

 この場の誰のものでもないが聞き覚えのある声が聞こえた。みんながその抑揚の少ないある種の冷たさを覚える声のした方を見ると、そこに高峯先生がいた。

「いったいなぜ貴方たちはここにいるのかしら」

 私たちの誰かがこの場で彼女と遭遇した驚きを口にするよりも先に、いつものように、といってもこの人の“いつも”でないときを見たことはないが、学園で話すときと変わらない様子で先生が言った。

「中で聞くわ」

 そして誰も反応しない内に一言付け加えて、小屋へと軽く頭を傾けて私たちを促した。未だに本体の所在不明のスタンドの異空間の中で堂々と振る舞う高峯先生に続いて、私たちは奈緒を加えて再び小屋へと戻った。一向に晴れ間の差さない暗雲の下、気がつけば辺りは初めてここを訪れたときのように恐ろしいほどの静けさを取り戻していた。

(つづく)

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