シンデレラの奇妙な日々   作:ストレンジ.

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第3話『Never Say Never』

 

「だあああああああっ、待てっつーのぉ‼」

 

 苛立った叫びが並木道に響く。まばらにいる下校途中の生徒たち、ジョギング中のおじさん、ベンチでうたた寝していたサラリーマンが、なにごとかと驚いてこちらを見ている。そんな視線などお構いなしに、奈緒はカラスを追いかけて公園中央の原っぱを駆け抜けていこうとする。

 途中、原っぱのはずれ、林道への入り口横にあるベンチにカラスが降下していくのが見えた。それを認めるや、奈緒はさらにスピードを上げて疾駆した。スタンドの能力によれば、まだ財布はくわえたままらしい。

 

 背の高い樹がうしろに広がるその場所へたどり着くと、果たしてカラスはそこにいた。財布もしっかりくわえたままだ。しかし、思わぬ光景も広がっていた。

 カラスはベンチに座っていた男性の肩の上に、居心地よさそうにとまっていたのだ。

 そして、くちばしにくわえた財布を差し出すように頭を突き出すと、男はそれを受けとった。

「ちょっ、ちょっ、ちょっ! ちょっと待った、そこのお兄さん! その財布あたしのなんだ! そいつに取られちゃってさ……」

「へ……⁉」

 いきなり話しかけられて面食らったのか、男は気の抜けた声を出した。

「そのカラス、速いのなんのって……肩にとまってるけど、もしかしてそいつ飼ってたりとか? だとしたら珍しいね、カラス飼うとか。でもビックリしたよ。いきなり現れて財布くわえて飛び去っていくんだもん」

 思ってもみなかった状況に戸惑いながら、矢継ぎ早に奈緒が事情を説明する。男は話を聞いているのかいないのか、薄く口を開けて無言のまま、じっと動かない。なにかを警戒するような目つきをしている。私にはそんなふうに見えた。

「あーっと、証拠がないよね⁉ それがあたしの財布だっていう……。うーん、証拠証拠……そうだ、カード! その中に『幽体離脱フルボッコちゃん』デザインのポイントカードが──」

 男の疑心暗鬼な様子を察したのか、必死に自分の財布を目の前のカラスに取られたことを主張する。だが、その言葉をさえぎるように、男が開いたままの口から声を出した。

 

「…………『見える』のか?」

 

「だから財布の中身を見てみれば……えっ?」

「だから、見えるのかって……『こいつ』が」

 男の意味ありげな発言。瞬間、既視感(デジャ・ヴ)をともなう嫌な予感が頭によぎる。

 このやりとり……まるで昨日の私たちのようだ。奈緒もそれを感じたのか、顔はひきつり、ぎゅっと拳を握っている。

『スタンド使いは引かれ合う』……木場先生のあの言葉が脳裏によぎる。

 予感を確信に変えていくように、私は言った。

「この子の財布、返してもらいたいだけなんだけど……その『カラス』が……どうかした?」

 突如、男の顔面が醜く歪む。『怒り』と『驚き』と、『(よろこ)び』……そんな感情がごちゃ混ぜになったような、気味の悪い表情。次の瞬間──

 

『AAaaaaaaaaaaaaaaa‼』

 

 カラスが雄叫びをあげながら猛スピードで奈緒に突っ込んできた。

「なおぉぉっ‼」

 刹那、反射的にスタンドを出して奈緒の前に立ちはだかる。剣を抜き横に構えて盾代わりにし、迫るカラスのくちばしを自分でも驚くほど的確に受けとめ、弾き返した。

「ぐっ、うぅっ!」

「凛⁉」

 が、そのパワーは強烈で、バランスを崩して後ろに倒れそうになる。そんな私を、慌てながらも奈緒がスタンドで支えてくれた。

 すぐに体勢を立て直し、男を見据える。遅れて奈緒もスタンドともども身構えた。

「……ちっ、今のを防ぎやがるか。生意気だなオイ……」

 男が不敵に笑う。私の予感は当たってしまったようだ。

「その『カラス』は、アンタの『スタンド』ってことなんだよね?」

「は? 『スタンド』? 名前はなんだか知らねえが……そうだよ。こいつは俺のチカラだ。俺だけが操れる、誰にも見えないチカラ…………のはずなんだが、他にも見えるやつがいたんだな。しかも見た目は違うが同じようなモンまで持ってやがる……」

 邪悪な笑みを崩すことなく、男がつづけて言う。

「財布が空飛んでて意味わかんねぇ、けどラッキー──なんて思って取ったら、まさかこんなことになるとはな。ククク……でもイイや。JKふたりとか、楽しく遊べそうだなぁ……」

「っ⁉」

 心底不気味そうに奈緒が男を見る。どうやら、よりにもよってとんでもないやつと出会ってしまったようだ。

「……その感じじゃ、財布は返してもらえなさそうだし、逃がしてもくれなさそうだね」

「ケケケ……そりゃもちろん。チカラ使えんのは俺だけでいいんだよ! いっしょに遊ぼうぜ? イヤって言ってもいいよ? お前らに拒否権ねぇしィ⁉ ギャハハハハハ!」

 下品に笑いながら、じりじりと私たちに近づいてこようとする。奈緒は軽蔑の眼差しを男に向けているようだが、そんなものは気にもとめようとしない。

「好き放題言ってるけど、どうにかできると思ってんの? それとも、女だからってなめてる?」

 剣先を男に向けながら挑発するように言い放つ。奈緒のことは心配だ。でも──

 

「逃げられないなら……やってやる!」

 

「ハッハァ! 威勢のいい嬢ちゃんだな! チカラ持ってようがオンナふたりなんてワケねぇぜ!」

 同じスタンド使いどうしで二対一の状況にも関わらず、ずいぶん強気なやつだ。負けるはずがないとたか(・・)をくくっている。

 大丈夫、さっきは不意打ちを防いだ。動きはしっかり捉えられている。油断しなければ、大丈夫……。

「ふふふ……いけやァ‼」

『Aaaaaaaa‼』

 叫び声を合図に、カラスが弾丸のような勢いでふたたびこちらに向かってくる。今度は私がターゲットだ。速い、でもそれだけだ。動きがまっすぐな以上、反応さえできれば対処は容易い。

 迷いなく剣を構えて防御の体勢に入る。

「マヌケが……」

 男のつぶやく声がかすかに聞こえた。

 次の瞬間、一直線に飛んでいたはずのカラスが、一瞬で空高く上昇した。まったく減速することなく、それどころか体の向きすら変えていない。こちらに向かってくる姿勢のまま縦に動き、上空へと移動した。

「やれッ‼」

 黒い塊が私に向けて降ってくる──

「あぶない‼」

 ──ザシュッ!

 湿り気の混じった、風を切る音。

 うつぶせに倒れていた身体を起こすと頬に気味の悪い生温さを感じる。

「凛っ、血が──」

 泣きそうな顔で奈緒がこっちを見つめている。そして、遅れてやってくる鋭い痛み……頬を切られたようだ。

「大丈夫」

 立ち上がり、痛みをこらえてカラスのいる方に向き直る。

 上昇したカラスは、スタンドを盾にして後ろにいた私自身を狙ってきた。予期せぬ相手の動きに反応できなかったが、とっさに奈緒が突き飛ばしてくれたおかげでかすり傷で済んだ。もし直撃していたら……頭に穴が空いてたかもしれない。

 

 …………最悪。

 一瞬だけ、吐き気や、怒り、泣きたい気持ち……よく分からない自己嫌悪で胸がいっぱいになった。しかしすぐにそれは、心に湧いたひとつの決意でかき消される。

 

 ──この男を……止めなきゃ!

 

 突然手に入れた魔法のような力。万能感に溺れ、自惚れてしまうのは仕方ないのかもしれない。

 だが、歪んだ欲望を満たすためにスタンドを利用して私たちや他の誰かを傷つけるのなら、見過ごすわけにはいかないし、なすがままにされる義理もない。止めてみせる、この男を。

「アンタを……倒す!」

 剣を握る手に力が入る。

「はん! やってみろよ!」

『Vhaaaaaaa‼』

 みたびカラスが唸り声をあげながら突っ込んでくる。

「させるか!」

 奈緒のスタンドもステッキを持ち、迎撃体勢をとる。

「Wwwwwuu‼」

 くちばしが剣に激突するすんでのところでカラスが真横に動く。私を攻撃すると見せかけて、狙いは……

「奈緒っ!」

「せいっ!」

 突飛な動きから繰り出された鋭いくちばしを、マジシャンは正確にステッキで捉えて受け流した。

 攻撃が不発に終わったカラスはそのまま横薙ぎに旋回し、男のもとへ戻る。

「ハッ、ふたり揃ってこいつの速さについてこれるとはな……」

 焦っているのか苛立っているのか、男が苦虫を噛み潰したような声を出す。

「まあ、こうすりゃ関係ねーか!」

『voeeeeeeeeeeeee‼』

 今度は私たちを囲むように四方八方闇雲に高速で飛びまわりはじめた。金切り声と風切り音が周囲の空間を震わせる。これはなかなか厄介だ。死角から攻められたら対応はどうしても一瞬遅くなってしまう。不確実な一手は自殺行為……けど、待っていてもヒット&アウェイでゆっくり痛めつけられていく。いったい、どうすれば……

「凛! もっと寄れ!」

 ぐっ、と奈緒に肩を引かれた。今はとにかく、乱れ飛ぶカラスのくちばしから身を守らなければならない。

 お互い全神経をスタンドに集中、カラスの動きを油断なく注視──と思いきや、

「スタンド引っこめて! そんで、しゃがめ!」

「はぁ⁉」

 自分から防御を解いて丸腰になれと? どうしてそんな……意味がわからない。しかし、そう言い切った奈緒の目には力強い光が宿っていた。

 狙いはわからないけど……なにか策があるなら、乗ってやる!

 奈緒を信用してスタンドを引っ込め、身を低く構える。警戒しつつ奈緒の顔を覗きこむと、あろうことか両目を閉じていた。

 そこでようやく気がつく。奈緒のスタンドはさっき、ステッキでカラスに『触れて』いた。それはつまり──

「いちおう聞くけど、いけるんだよね?」

「もちろん! あたしを信じろ!」

 目を閉じたまま奈緒が答えた。自信があるなら、私は信じるのみ。

「おーっと、目ェ閉じちゃって……諦めたかな?」

「どうかな……試してみたらどうだ?」

 大胆不敵な奈緒の挑発。男の顔がますます喜色に歪む。

「速さだけじゃ勝負できねぇからな。攻撃場所とタイミングは、よぉーく考えなくっちゃな……」

 こちらを()めつけ、じっとしたまま男はなにもしてこない。()らして集中が途切れる隙を狙う気か。

「ヒヒヒ……ところでお嬢ちゃん、パンツ見えて──」

「見えてないから」

 余計なことを……奈緒の集中を乱してはいけない。カラスだけでなく、やつの言葉にも注意しなくては。

「けっ、この手はダメか。……んじゃ、そろそろ返してあげますか」

 軽口を叩きながら、手に持っていた財布を用心深く握り直し、男が振りかぶる。

「よっ、とォ!」

 そして奈緒に向けてストレートに投げつけてきた。

 取らなきゃ奈緒にぶつかって意識が逸れてしまうだろう。だが、取ったら私に隙ができてしまう。どう動いても、ここでヤツの攻撃が来る……!

「っ!」

 しゃがんだまま手をのばし財布を取ろうとした。

「ナイスキャッチぃ~」

 財布が手に収まる寸前、下卑(げび)た声と、背中に冷たい風の音が聴こえた──

 

「ぷげらっ‼」

 

 頭上をなにかがかすめた。その直後、奇声をあげて男がその場に崩れ落ちる。顔を押さえたまま動かない。

「ナイスキャッチ……凛」

 微笑みながら奈緒が目を開けた。その言葉で、手に掴んだ財布の感触に気づく。

 振り返るとカラスが地面にぐったりのびていて、マジシャンの右手にはステッキが握られていた。

「卑怯者は後ろから襲う……お約束だな。右側だったから少し焦ったけど……ほんの少しなっ!」

「……すごい」

 率直な気持ちを言葉にすると、奈緒は誇らしげに言った。

「近距離なら、どれだけビュンビュン飛びまわってようが手に取るように細かい位置まで把握できる。これがあたしのスタンド、『ワン・ヴィジョン』さっ!」

『ワン・ヴィジョン』──その名を耳にしたのは、たしか二度目だ。

「でも……なにも目は閉じなくてもよかったんじゃ」

 私の指摘にも動じず、自慢げに話をつづける。

「感覚でわかるぶん、目で見てるとかえって惑わされるかもしれないからな。財布は取れなかったけど、これで理解できただろ? あたしの能力」

 たしかに奈緒の言うとおりよく理解できた。劇的な速さで動くカラスの位置をしっかり捉え、利き手でなくともそのスピードに対応できる素早く正確な動き。そして、一撃で行動不能にするほどのパワー……。正直、これほど強力な能力だとは思ってなかった。

 

「びゃぐっ……く、クソッ……」

 鼻を押さえて男がよろよろと立ち上がる。ステッキは見事に顔面に命中したようだ。

「悪いことはできないもんだな。必ず自分に返ってくる……。さて、あとは先生に任せよう」

 この問題を先生たちがどうにかできることなのか私たちにはわからない。しかし警察に言っても無駄かもしれない以上、ここはそうするしかないだろう。

 木場先生に連絡を取ろうとスマホを取り出そうとしたとき、髪を振り乱して奈緒が慌ててうしろを振り返った。

『KAaaaaaaaaaaaaaa……』

 覇気のない鳴き声を上げ、カラスがよろよろと羽ばたいている。

「無駄なことを!」

「無駄かどうかは……これから決まるんだァ‼」

 なけなしの力を振り絞ってカラスが疾風(はやて)のように低空を駆ける。ただし、行き先は私たちではなく真横に飛んでいった。その進む先には一匹の野良猫がいる。

『Kah!』

 両脚で猫の首筋を掴むと、ゆっくりと上昇していった…………。

「おまえぇっ! なんのつもりだ!」

 なにをするか、本当はたぶんわかっているはず。それがあまりにもおそろしいことだから、滅多に怒らない奈緒も動揺し、激昂した。そしてそんなようすが見てとれるのは、私も彼女とおなじ気持ちになっているからだ。

「……下衆」

「はい「ゲス」いただきましたぁ~! その感じなら……わかるよな?」

 鼻をかばいながら男が問いかけてくる。いわば猫は『人質』……助けたかったら逃げるのを止めるなということだろう。

「卑怯者……逃げられると思ってんの?」

「俺を逃がさなきゃ、猫ちゃんは死んじゃうぜ? っと、そういや猫は高いところから落ちても平気ってなんかで聞いたな。もうちょい上がっとこう」

 カラスが羽ばたき、さらに高度を上げていく……そうまでして逃げたいか。

「……べつに、私にあの野良猫を助ける義理なんて、ないけど……?」

「へへっ! 強がりはいけないなお嬢ちゃん。そんなこと言ったって見過ごせないだろう? 俺だってこんなこと本当はしたくないんだ。財布も返したんだし、ここでチャラにしようぜ」

「……!」

 こんなにも心の底から誰かを軽蔑したのははじめてだ。なにからなにまで自分の都合で動いて、まわりを傷つけていくこの男を逃がすわけにはいかない。でもあいつが言うとおり、猫を見捨てることは私にはできない。きっと奈緒は私以上にそんなことできないだろう。

 それに……猫を犠牲にしてこいつを倒すことは、『ちがう』……。私にとって、それは間違った道だ。

「できないよなぁ……。かわいそうだもんなぁ…………ふっ、うくくくく……下らねぇなぁ! くだらねぇ! そんなんじゃ社会に出てから苦労するぜ? ま、そのまま甘ちゃんでいてくれよ。俺みたいなやつには助かる存在だしィ⁉」

 邪悪に笑いながら男がすこしずつ後ずさって、私たちから離れていく。

「まあ安心しな。逃がしてくれりゃ、猫はちゃんと降ろすぜ」

 嘘だ。でも、猫にとってはこのままあいつを逃がした方が安全かもしれない。仮に落としたとしても私のスタンドなら落下するまでにギリギリたどり着けるだろう。ただ、そうすれば男に逃げられる。もうすでにやつはカラスから50mくらい離れたところにいる。腹の立つことに射程距離がかなり広いようだ……。

 どうすればいい……? どうすれば……

「あたしがあいつを追うから、凛は猫を助けてやって……」

 横から奈緒が話しかけてくる。

「ここから追いつける? あの男が天性の運動オンチでもないかぎり、無理だと思うけど」

「でも、そうするしか方法がないだろ⁉ 最悪、あいつは後で探して捕まえればいい!」

「ダメ。逃がしたらあいつは他の人を襲うかもしれない……。猫も守るし、あいつも、いま捕まえる!」

「だからどうやって──」

「はぁい、ちゅうもーく‼」

 遠くから威勢のいい声が響く。奈緒と言い合ってるあいだにかなり距離が開いてしまっていた。

「ありがとよおぉっ‼ 俺からのプレゼント、受け取ってねー、バイバーイ‼」

 

 ──!

 

 カラスが両脚を解放した。猫が落ちる……男は逃げる……。

「っ! とにかく、あたしはあいつを追いかける! 凛は猫を!」

 言い終わらないうちに奈緒は男を追っていった。とにかく、まずは猫だ。

 全速力で猫が落ちる場所へ向かう。もうすぐスタンドの射程内だ。いま助けてあげる……!

「ミギャーッ‼」

 間一髪。猫はスタンドの腕のなかに収まった。

「ほら、おいき」

 そっと地面に下ろしてやると、猫は一目散に逃げていった。

『aaaaaaaaaa……』

 頭上のカラスが飛び去っていく。勝利を確信してなのか、大きく翼を広げて悠々と主人のもとへ帰っていく……。

 

 このままじゃ、ダメだ。

 あいつの身勝手で、これ以上傷つく人を増やしちゃいけない。ううん、あいつだけじゃない、スタンドを使ってこんなことをするやつらが他にもいるなら、止めなきゃ。守りたい、みんなを──この町を! 絶対に!

 

「絶対に、諦めない……!」

 

 腹をくくり、胸のなかに決意の炎を宿す。覚悟で感覚が研ぎ澄まされ、スタンドとの完全な一体感が生まれた。鼓動を感じる、息づかいを感じる……。頭のなかに、自分の声がこだまする──『絶対に諦めない』……。

 そうだ! そう決めたんだ!

 決意を刻もう。『もうひとりの私』に。そして、叫ぶ。その名前を……!

 

「『ネヴァー・セイ・ネヴァー』!」

 

 呼びかけに応じるように、無意識にスタンドが動きだす。『お姫さまだっこ』で私を抱え、大地を蹴って跳んだ。もちろんその一歩ではカラスへは到底届かない。

 跳躍が頂点に達すると、『ネヴァー・セイ・ネヴァー』が今度は空中を蹴る。すると、実に奇妙なことが起こった。

 まるで、地面がそこにあるかのように空中を『跳んだ』。触れてもいない私の両足からその感覚まで伝わってくる。

 いまの私には、心で『理解』できる。空中でも、地面とおなじように『自由に移動できる』──それが『ネヴァー・セイ・ネヴァー』の能力……!

 私を抱えたまま『ネヴァー・セイ・ネヴァー』は、見えない階段を駆け上るように空を走る。一歩一歩を踏み込むたび、青い花びらのような光の粒がブーツの底からこぼれ落ちる。それがまるで足跡を残すように次々と空中に刻まれていき、やがて風に溶けていく。

 

 のんきに飛んでいるカラスの無防備なうしろ姿に徐々に近づく。数歩手前まで来たところで、両足を揃えて再度大きくジャンプした。

 そして、突き出した両足をカラスの背中にぶち当てて……

 

『グエェッ……⁉』

 地上まで──叩きつけるっ‼

『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……』

 

 ダァンッッ‼

 

 ──無事、着地…………やり過ぎてない、よね?

(つづく)

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