私がよければすべてよし!   作:しょうゆらーめん

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閑話 コーリング・クエスト

首なし殺人事件でも、結局俺はキリに振り回されただけだ。

よくわからないまま呼び出され、使われたことに怒りはない。

ただ、流石と言わざるを得ないキリの賢さを、まだ俺は侮っていたようだ。

究極の推理とも言えるだろう未来予知を、平然とやってのけたあの頭脳。

あぶり出し、という古典的で回りくどい方法を取ったのは、情報の隠蔽と、もうひとつ理由があった。

時間の調整だ。

キリは、俺と白雪の行動をすべて予測し、自分のところに助けにくるまでの時間を完璧に管理していた。

俺からしてみれば、危ない綱渡りでしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

『もしもし、遠山キンジ殿で間違い無いだろうか』

 

誰だ。

星伽神社からようやく帰ってきた矢先にかかってきた電話は、予想以上に面倒臭さそうだ。

ちゃんと携帯の画面で、電話相手を確認してから出ればよかった。

声からして4、50代くらいだろう男性は、名乗るより先に俺の名前を出してきた。

 

「…そちらは?」

 

肯定も否定もせずに問い返す。

 

『失礼、俺は福沢だ。一時期キリの面倒を見ていたことがあり、その縁でキリとは未だによく話す。君のお祖父さん、(まがね)殿とも知り合いだ』

 

じいちゃんとキリの知り合い?

そういえば、福沢という名字はキリから一度聞いたことがある気がする。

 

「それで、何の用だ」

 

俺は今帰ってきたばかりで疲れてるんだ。

早く休ませてくれ。

 

『遠山殿と少々話がしたい。ーーーキリについてだ』

 

正直今すぐにでも切ってしまいたい。

しかし、この福沢という男、声の威圧感が半端じゃ無い。

 

「俺から話すことはないぞ」

 

『話したいのは俺の方だ。…君は、キリがメガネをかけて推理する理由を知っているか?』

 

見慣れた推理モードのキリを思い浮かべ、ああ、と肯定する。

 

「確か、暗示で脳の働きを抑えるため、だったか」

 

バスでそんなことを聞いた覚えがある。

まだ記憶に新しい。

 

『その通り。あのメガネをキリにやったのは俺だ。あの時は、あれだけで制御しきれていた』

 

過去形で話していることに嫌な予感がする。

メガネを与えたのがこの人なら、暗示をかけたのもこの人なんだろうか。

 

『しかし、キリの頭脳はまだ成長過程のようだ。それも、俺の予想をはるかに上回る速さで成長している。…このままではいずれ、メガネごときでは制御できなくなり、じきに暗示は解けるだろう』

 

この口ぶりからして、これはおそらくキリの知らない事実だ。

それを、この人はなぜか俺に話している。

わざわざ電話までかけて。

 

『キリには、メガネは脳の負担を減らすためだと言ってあるが、それだけじゃない。キリは特別で、それ故に普通に暮らすことが難しい。日常に溶け込んだどんな犯罪でも、無防備に暴いてしまう。キリが普通に暮らすには、あのメガネは必須だった』

 

話はまだ続くらしい。

俺は黙って聞いている。

 

『しかし、キリが普通に暮らすことはもはやもうできない。武偵になってくれたのは、僥倖だ。…しかしキリは、その頭脳以外は普通の少女にすぎない。だからーーーー』

 

ああ、嫌な予感がする。

携帯を握る手に、無意識に力がこもった。

 

『君が、キリを守ってやってくれないか』

 

ああ、面倒だ。

 

「どうして俺なんだ」

 

『キリは、君たち兄弟を大層気に入っている。中でも君のことは、取り分け話によく出てくる。それに君は、“遠山”だ。だから君になら、キリを任せられると思った』

 

「だからって、いきなりーーー」

 

『君しかいない。キリは、世界の裏側を暴く光となることができる。しかし、キリ自身が道を踏み外してしまえば、世の中にどのような被害を及ぼすか、見当もつかない。…彼女が光となれるよう、闇に落ちないように、君が見ていてくれないか』

 

世界とか、世の中とか、そんなスケールの大きい話なのか。

キリという一人の少女は、世界を揺るがすほどの力を秘めているのか。

突拍子もない話だ。

しかし何故だか、キリならあり得ると思えてしまう。

 

『彼女が道を違えそうになったら、君が正してやってくれ。…君にならできると、俺は信じている』

 

「俺は、そんな大層なモンじゃない」

 

キリに振り回されてばかりの俺に、そんな大役が務まるわけが無い。

 

『大切なのは、キリの才に圧倒されず、常に彼女を、一人の少女として、客観的に見てやれることだ』

 

それが俺にできるのだと、そう言いたいのか。

 

「…キリは、確かに危ういところがある。自分を強く持っていないから、不安定だ」

 

そう、キリは不安定だ。

悪を倒したいとか、そういう信念が全くない。

ただ、自分が楽しいことをしているだけだ。

 

「俺に、そんな役ができるとは思えない。だが、友人として、俺はキリが間違えるのを見過ごす気はない」

 

『それでいい。礼を言う、遠山殿』

 

礼を言われるようなことは、ない。

そう言う前に、電話は切れた。

世界とか光とか、そんなことはわからない。キリを導くなんてことも、できっこない。

それでも、こんな俺でも、キリの良き友人でいてやることぐらいはできるだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもし、福沢さーん?事件の資料助かったよ。…頼みがあるんだけどさ、福沢さんの情報網を私にちょうだい?…あ、いや、犯罪に関することだけでいいんだけど。イ・ウーについて、ちょっと気になってね。だってこの私でも簡単には捕まえられない犯罪者だよ?…面白いじゃないか!!…それにね、イ・ウーのやつらとは、いつか正面から対峙しなきゃいけない時がくるような気がするんだ。だから、イ・ウーに少しでも関連がありそうな情報、ぜーんぶ私にちょうだい!!』

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