A person dreaming in the daytime knows a lot of things that can not be seen by those who only dream of night.
———ああ、確かにその通りかもしれない。
わたしの名前はエリノア・アラン・ポオ。
米国で探偵紛いのことをしていた。
現在暗いところで捕まってしまっている、女子中学生である。
正直すごく後悔している。
来日した際に見かけたタクシーに違和感を覚えたのが、はじまりだった。
興味をそそられて調査してみたところ、なんと旅行客を狙った誘拐犯であったのだ。
来日したばかりで勝手がわからず、そのまま警察に伝えもせずに犯人のところへ乗り込んだのが失敗だった。
日本での警察の呼び方くらいは調べておくべきだった…。
普段引きこもっているわたしに抵抗する手段などなく、こうもあっさり攫われてしまった訳である。
愛猫である三毛猫のプルートごと。
そのおかげで何とか頑張って誰かに気付いてもらう算段をつけられたわけだが。
しかし、まさかわたしがこんな失敗をするとは…
ああ、はやく誰か助けに来ないだろうか。
わたしの両親は探偵では無いが、頭はキレる。
だからそう時間も経たずに救助が来ると思っていたのであるが…
“自分のことは自分で責任を取れ”
よく母が言っていた。
つまりわたしが誘拐されようが、それはわたしの責任なので直接助けには行かないぞ、という我が両親の意向である。
世知辛い。
やはりわたしの理解者は、プルートだけなのである…!
今は、そばにはいないが。
はやく誰か救助にこないだろうか。
ああ、はやく
「助けて…っ!」
何かを壊すような音が、大きく空気を震わせた。
今まで無音だった世界に響いた破壊音は、鼓膜を破りそうな勢いで震わせる。
その音から間も無く、暗かった室内に一筋の光が差し込んだ。
愛猫プルートが、その光の出所からこちらに走ってくる。
プルートはわたしにすり寄って、にゃあ、と鳴いた。
ああ、良かったプルート、無事だったのであるな…
ぱっと懐中電灯か何かで照らし出される。
「た、助けが来たの…?」
近くにいた女性が、眩しそうに目を細めながらたずねる。
すると光の方から、わたしとそう変わらないような年頃の少女の声が答えた。
「ああ、だけど少しだけ待って」
目が慣れてきて、ようやく少女の姿が見えた。
チョコレート色の帽子からはみ出た乱雑に切られた黒髪と、コートの裾がわずかに揺れている。
彼女はわたしたちに背を向けていた。
まるで、何かから守るかのように。
やがて、コツン、コツンと、小さく足音が聞こえた。
それは途中で止まり、代わりに男性の声が聞こえる。
こちらからはあまり聞こえなかった。
男性の姿も、よく見えない。
でもわたしたちを攫ったあの運転手であろうことは、容易に想像できた。
「やあ、犯人くん」
これは現行犯でもいけるかな、なんて軽口を叩く少女。
それから、少女の推理ショーが始まった。
大筋は、わたしの推理と同じだった。
大した相違点はない。
ということは合っていたのであるか、なんて考えていたら、いつの間にやら少女に指さされていた。
次々に披露されていく、わたしに関しての推理。
そして気づいた。
彼女とわたしの決定的な違いに。
わたしの推理は、ここまで細かく状況を当てることはできなかった。
どうして彼女は、わたしのことすらも、こうも簡単に推理していくのだろう。
ああ、すごいなあ。
馬鹿だなあ、と言われたのには多少腹が立ったが、こうして捕まっている以上ぐうの音も出ない。
それから流れるように犯人は追い詰められ、あっという間に取り押さえられたようだった。
素晴らしい手際だ。
少女が、くるりと振り返る。
黒縁眼鏡の奥にある涼やかな瞳の奥からは、理知的な光が見て取れた。
微笑みを浮かべる口元からは、どこか妖艶な雰囲気が漂っている。
わたしは、思わず声をかけた。
「あ、あの…!あなたの、名前は…?」
どうしても、知りたかった。
わたしが初めて、自分よりもすごいと思った頭脳の持ち主を。
「江戸川 キリ。君は?」
江戸川、キリ。
名前を何度も心の中で反芻する。
「わ、わたしは…エリノア・アラン・ポオである。その、ありがとう」
「推理力、行動力、判断力は結構良かったよ。ま、私には劣るけどね!それに、詰めが甘い」
キリは楽しそうに指摘した。
それがどんな指摘であろうと、わたしは天にも昇る心地だった。
彼女が褒めてくれた。
「…だから、もっと力を付けたければ、武偵になるといい」
キリは、わたしの前でかがんで目を合わせた。
武偵。
そこにいけば、彼女のようになれるだろうか。
それからキリはすぐに去って、わたしたちは解放された。
A person dreaming in the daytime knows a lot of things that can not be seen by those who only dream of night.
昼に夢を見る人は、夜にしか夢を見ない人には見えないたくさんのことを知っている、か。
きっとあの人は、真昼の夢を見ているのだ。
だから、こんなに多くを知っているのだ。
学びたい、と思う。
あの人のところで。
だから、———
「わたし…いや、我輩は、武偵になりたい!」
我輩は、はじめて母に頭を下げた。