私がよければすべてよし!   作:しょうゆらーめん

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Murder in the river 前編

「そろそろ行った方がいいよね」

 

私以外に誰もいない寮の一室。

合格し、はれて武偵高に通うことになった私は、先日から寮生活を始めていた。

まだ完全に荷解きは出来ていないので、部屋の隅にはダンボールが積まれている。

入学式は数日前に済ませたばかりだ。

真新しい臙脂色のセーラー服に身を包み、入学祝いにと父さんがくれた拳銃ーーコルト・キングコブラを帯銃する。

1980年代に生産が開始された、割合新しいリボルバーだ。サビに強いステンレスが使われている。

他にも色々父さんが言っていた気がするが、興味なかったので聞き流した。

まあ、あまり使うことはないだろう。

これまた入学祝い(今度は母から)の折りたたみナイフであるスミス&ウェッソン CK5TBSも、忘れずにポケットに仕舞い込んだ。

これも父さんに説明されたが、聞いていなかったなあ。

武偵高では、面倒なことに拳銃、刀剣の携帯が義務付けられている。

まだ使ったことなど全くないので、真新しいままだ。

おっと、そういえば四月は名札を付けるというルールがあるんだった。

『江戸川キリ』と書かれた黒い名札をつける。

玄関先の帽子掛けからチョコレート色のハンチング・キャスケットを取って被り、最後に同色の腰ほどまでの丈のコートを、袖に腕を通さずに羽織る。

黒縁のメガネも持ったし、これでよし。準備完了。

 

「行ってきます」

 

返ってこない挨拶をして、私は学校に向かった。

私の通学は主にバスである。

乗り方などは未だに曖昧なので、バス停で新しくできた友人と合流しなければならない。

 

「おはよう、星伽!」

 

私に気づいていなかったようなので、後ろから大声で挨拶してやった。

案の定、星伽はびくっと肩を跳ねさせて、目をまん丸にして振り向いた。

 

「び、びっくりしたあ……おはよう、江戸川さん」

 

それを見た私は、満足げに口角を上げる。

純日本人、大和撫子を体現したような前髪ぱっつんの黒髪美人さんは、星伽白雪。

詳しくは知らないが、星伽神社の巫女さんらしい。

 

「おい、あまり白雪をいじめるなよ」

 

そう言ったのは遠山キンジ。

受験の日に会場を教えてくれた、ネクラそうな男子生徒だ。

星伽とは幼馴染というやつらしい。

 

「いいじゃないか、いじめてる訳じゃないし。それに星伽はそんなに嫌がってないよ?」

 

「だとしても、だ。心臓に悪いだろ」

 

「き、キンちゃんが私の心配を…?」

 

当の星伽は片思い相手である遠山の方を見て、顔を赤らめている。

こんなにわかりやすいのに気付かない遠山は、どれだけ鈍感なのか。

 

「おはよう!」

 

声をかけてきたのは、武藤剛気。

星伽白雪に好意を寄せている。

そしてそのことに、星伽も遠山も気付いていない。

お、ようやくバスが来た。

私たちは4人でそれに乗り込んだ。

 

「そういえば、キリ、お前今日はメガネじゃないのか?」

 

ふと、思い出したように遠山が指摘する。

ああ、そういえば最近はメガネをかけたまま学校に行ってたんだった。

まあ、説明するいい機会だろう。

 

「基本的にメガネはかけてないよ。脳にかかる負担をセーブするためにね」

 

わざと、理解できないだろうことをはじめに言う。

三人とも頭にクエスチョンマークを飛ばしていて、見ているだけで面白い。

 

「?…どういうことだ?」

 

遠山は手っ取り早く私に尋ねてくる。

まあ、わからないだろうね。

 

「トリガー、だよ。私は天才すぎて、色々と物事を考えすぎてしまうから、日常生活だけでもある程度脳に負担がかかるんだ。だからメガネをトリガーにして、オンとオフを分けている」

 

「じゃああのメガネは、特別製なのか?普通のメガネにしか見えなかったが」

 

「いや?普通の度なしメガネだよ。暗示をかけてるんだ。ーーー要するに、メガネをかけているときは“推理モード”ってことだよ」

 

武藤と星伽は納得したように、へー、とか言っているが、遠山は何か引っかかるところがあるらしい。

粗方予想はついているので、先に答えを教えてやろうじゃないか。

 

「遠山と受験の日に会ったとき、メガネなしでも強襲科だってわかったのは、なぜか?…そう聞きたいんだろう、遠山。いいだろう!教えてやる。遠山からは他の武偵高付属中学校の人よりも、硝煙の匂いが濃かった。…それに、服の上から見ただけでも、鍛えられているのはわかるからね。そのくらい、メガネなしでもちょっと考えればわかることだ」

 

遠山は少しの間唖然としてから、でも、と反論の言葉を発した。

 

「車輌科や装備科、他の学科でも、結構筋肉のあるやつはいるぞ?なのに、」

 

「他の学科と強襲科じゃあ、筋肉のつき方がまっっっったく違う!そもそも筋肉をつける目的が違うだろう?強襲科は直接戦闘のため、他の学科は力仕事のためが多い。戦闘のためもあるかもしれないが、戦闘が専門の強襲科と他の学科の生徒じゃ、筋肉量が違う」

 

「…よくそんなのわかるな」

 

「服を見ればわかる。ま、武偵はあからさまに筋肉つけるとバレるから、他の人よりも筋肉量がわかりにくいんだけどね」

 

実際、遠山も少し観察する時間を置いてから気付いた訳だし。

私の観察眼を甘く見ない方がいいよ?

そうこうしているうちに、バスが停車する。

どうやら到着したようだ。

 

 

 

5時間目以降の専門科目、探偵科の授業は、私にとっては結構当たり外れが大きい。

古式ゆかしい推理学なんて、私には毛ほども役に立たないね!

その他の探偵術なんかは、地道な調査が大のニガテな私には、受ける価値のある授業…といえるだろう。

しかし、今日の私は授業には出ない!

依頼掲示板にあった依頼を解決に行くのだ。

ちょうど良さそうな殺人事件があったからね。

ところで、さっきから背後にいる…

 

「峰、君も依頼かい?」

 

背後を振り返り、ものかげの方にそう話しかける。

 

「うぐっ……うー、きりりんすぐに気付いちゃうから面白くなーい…」

 

ものかげから唇を尖らせながら出てきたのは、峰 理子。

同じ探偵科のAランクで、私が受験の時に派手だな、と思った蜂蜜色の髪の少女である。

入学初日から、すでにその制服はフリルたっぷりに改造されていた。

白ロリ風アレンジとかなんとか言っていたな。

 

「私を騙そうなんて百万年早いね!大方、私と一緒に依頼に行こうとしているんだろう?」

 

「だーいせーいかーい!…助手ってことで、ついていってもいい?」

 

「私に助手?まさか、二流探偵じゃあるまいし、助手なんていらないよ。…邪魔しないなら、ついてきてもいいけどね」

 

助手は本気でいらないが、私も鬼じゃない。

ついてくるくらいのことは許そうじゃないか。

前を向いて、また歩き出す。

 

「やったー!!ねーねー、現場はどこ?」

 

ちょっと小走りで峰は私に並び、顔を覗き込んでくる。

バニラみたいな甘い匂いがふわりと香った。

女子って感じがすごくする。

 

「私もよくわかんないんだよねー。ってことで峰、案内よろしく」

 

依頼の紙を峰に渡し、私は駅の方に歩いて行く。

電車で行く、ってことはわかるんだけど、電車の乗り方も、どの駅で降りればいいのかもさっぱりわからない。

だから、あらかじめついてくるだろうと推理していた峰に頼ろうと思って学校を出た。

 

「え!?ちょ、まさかのりこりん任せ!?」

 

ついてくると言ったんだから、そのくらいは働いてくれるよね?

 

 

 

 

現場となる河原に到着した。

 

「うう…まさかきりりんが切符の買い方とか改札の通り方まで本当にわかんないとは…」

 

「案内ご苦労!」

 

ぐったりする峰に声をかけ、現場入りする。

さあ、私を満足させてくれる事件であることを祈るよ。

他の武偵も先に調査に当たっているようだ。

そばにいた鑑識科の子に、状況や事件の概要を聞く。

 

「殺されたのは刑事の女性です。遺体は川を流れていたところを発見されました。死亡推定時刻、殺害現場共に不明です」

 

「となると、死因は溺死?」

 

峰が口を挟む。

鑑識科の子が答える前に、私はビニールシートを被せられた遺体に近づき、そっとめくった。

 

「どうやら、溺死ではないようだよ、峰。胸部に三発分撃たれたあとがある。一発は心臓を直撃だ」

 

「うへー、何で三発も?」

 

「まだ何とも言えないね、あ、続きある?」

 

鑑識科の生徒の話、まだ途中だったかな?

と思ったが、もう話は無さそうだ。

 

「ちなみに銃弾は見つかってる?」

 

「いえ、まだです。職場の後輩の方の話だと、特定の交際相手もいないようで」

 

「その後輩は?」

 

「あちらにいらっしゃいます」

 

ああ、あれか。青白い顔をした男性が、他の武偵と話をしている。

意外と近くにいたな。

服装からして巡査ってところか。

 

「確かある犯罪組織の報復手口に、似たようなのがあったよね?あ、でもあれはもっとエグかったっけ?」

 

峰は唇に指をあてて一応考えているようだ。

しかし真実には辿り着きそうにない。

 

「それに偽装しようとしたのかもしれない」

 

「え?でも、それにしては雑じゃない?」

 

多少は頭が回るようだ。だが、真実には程遠い。

 

「これは難事件だねー…きりりんはどう思う?」

 

その言葉に、口角が上がった。

さあ、私の推理を披露しようじゃないか。

私はメガネを取り出して、かけた。

 

「なるほど」

 

「き、きりりん?もしかして、犯人がわかっちゃったの!?」

 

峰がそこそこ大声で話したせいで、周りの武偵たちがざわつき始めた。

 

「まさか。まだ全然進展のない事件ですよ?それに…あなたは、調査なんてちっともしてないじゃないですか」

 

先ほどの鑑識科の生徒は、馬鹿馬鹿しいとでもいうかのような目をこちらに向ける。

 

「いいかい?名探偵は調査なんてしないの。証拠に、もう犯人が誰でいつどうやって殺したか、どこに証拠があってどう押せば犯人が自白するのかもわかっている」

 

「ほ、本当にこの短時間でわかっちゃったの!?」

 

峰は目を丸くして驚いている。

 

「当たり前だ。この世の難事件は、すべからく名探偵の仕切りに決まっているだろう?」

 

「そこまでいうのなら、その推理、見せてもらおうじゃないですか」

 

信用ないなぁ。こちらを見る武偵の目、すべて疑っているような目だ。

この名探偵の推理を聞けば、そんな目なんてできなくなるだろうけどね。

 

「いいだろう。犯人はーーーー君だ」

 

そう言って私は、1人の殺人犯を指差した。

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