私がよければすべてよし!   作:しょうゆらーめん

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遠山金一の驚愕 前編

私とキンジは、今巣鴨に来ている。

キンジのお兄さん、金一さんに会うためだ。

ちなみに呼び方が変わっているのは、さすがに遠山呼びだと色々不便だからだ。

私がキンジに、お兄さんに会いたいと言ってから一週間が経った。

キンジはあれからお兄さんに連絡して都合をつけてもらい、遠山家で会うことになった。

何か流れでキンジの祖父母にまで会うことになったのは、まあ頼んだのは私なので許そう。

道中で、結婚前の挨拶みたいだね、と言ったら無言で頭を叩かれた。

この名探偵の頭脳になんてことを!

 

「いいか、兄さんの前で間違ってもカナのことを口に出すんじゃないぞ」

 

どうやらいつのまにか到着していたようだ。

玄関前で立ち止まり、キンジがそう聞く。

 

「その様子じゃ、当人は女装に恥じらいを持っているようだね」

 

ああそうだ、と私相手に誤魔化すことは無意味だと学習したのか、キンジは素直に認める。

そして私が了承していないことに気づかず、玄関を開けた。

 

「おかえり、キンジ。あれまぁ、可愛い子を連れてきたねえ」

 

出迎えてくれたのは、おばあさんだった。

話に聞いていたキンジの祖母、セツさんだろう。

 

「おいキンジ、お前人を連れてくるとは聞いてたが、女の子なんて知らないぞ」

 

おお、この人が金一さんか。

キンジよりも美人さんだ。

 

「はじめまして、私は江戸川 キリ。愚かな人たちを守る、世界最高の名探偵だ!」

 

武偵高の最初の自己紹介でも言ったようなことを、私は胸を張って当然のように言った。

キンジは、隣で早くも頭を抱えている。

 

「気にしないでくれ、キリは終始こんな感じだ」

 

「あー、そうか……俺は、知っていると思うが遠山金一だ。それと、こっちは俺たちの祖母の、遠山セツ」

 

どうせ変なやつだと思っているんだろう。

ちょっと面白くないけど、その認識もきっと私の名探偵ぶりを知れば変わるよね!

 

「ああ、もちろん知っている。何せ、キンジからお兄さんのことを聴く前から、調べはついていたからね」

 

私は、懐からメガネを取り出して着用する。

 

「じいちゃんは?」

 

キンジはセツさんにそうたずねる。

この私が、挨拶がわりに少し推理を見せてやろうじゃないか。

 

「おじいさんーーー鐡さんは、今から30秒後に帰ってくる。外出中なのだろう?…おそらく、セツさんが買い忘れた豆腐を買いに行っている。行き先は少し歩いたところにあるスーパーマーケットだ」

 

答えようと口を開きかけたセツさんに話す暇は与えず、私は自分の推理を披露する。

しばらく誰も喋らなかった。

そして、きっかり30秒後ーーーー

 

「ただいまーーーお、もう来ておったか、キンジ。なんじゃ、隣の別嬪さんはキンジのコレか?」

 

おじいさんが現れ、にやにやしながら小指を立てた。

コレ、と言って小指を立てる意味はよくわからないが、おそらく恋人なのかと聞いているのだろう。

 

「私とキンジはそんなのじゃないよ、鐡さん。ただのクラスメイトだ」

 

セツさんは、別段驚いた表情は見せない。

私たちより経験豊富であるおかげかな?

亀の甲より年の功とはよく言ったものだね。

 

「30秒、ぴったり…」

 

金一さんは数えていたらしい。

 

「金一さん、どう?当たってた?」

 

「…全部、大正解だ」

 

私は満足してメガネを外した。

一人だけ状況を知らない鐡さんは、不思議そうにしていた。

 

 

 

 

所変わって、遠山家の居間。

着いたのが昼食前だったため、そのままご飯をいただくことになった。

その準備にセツさんは台所で料理をしている。

鐡さんは、若い人だけで話したいこともあるだろう、と配慮して席を外していた。

つまり、居間にはキンジと金一さん、それから私の三人がちゃぶ台を囲んで座っている。

口火を切ったのは、金一さんだった。

 

「まず、どうして君は俺に会いたいと?」

 

何だ、そんなことか。

そういえば、キンジにも話していなかったな。

 

「一番は、HSSになった時、どうなるのか見てみたかったから。ーーーキンジで試しても良かったが、それだと彼が嫌がるだろう?だから、自在になれる金一さんを訪ねた」

 

理由として最も大きいのは、今話したことだ。

キンジも金一さんも、これは意外だったらしい。

表情に表れている。金一さんの方はわずかな変化だったが。

 

「キンジ、HSSのことを話したのか」

 

「いや、私がすべて推理した」

 

すべて、の部分を強調する。

キンジに向きかけていた金一さんの視線は、再度私に向けられる。

 

「金一さんのこともね。そんなに警戒してなくてもいい。大して興味はないしね」

 

本心だ。この言葉をそのまま受け取るとは思っていないけど。

 

「…はぁ。仕方ないな。昼食後なら構わない」

 

すっごく苦い顔してるね。

だが一応了承してくれた。

HSSの理論的なことは知っているが、実際どういう感じになるのかは見てみないとわからない。

個人差もあるだろうしね。

だから文献だけでなく、直截この目で見たかった。

 

「君は、どうして武偵になろうと思ったんだ?」

 

間を置いて、金一さんが質問してきた。

普段なら答えるのが面倒だと一蹴しているが、頼みごとをしてしまった手前仕方なく口を開く。

 

「つまらないことを言ってしまえば、武偵高に入った方が色々と楽だったからだ。父さんもちょっと乗り気だったし、私にはこの最高の頭脳があるしね!」

 

自分が武偵として生きることに、あまり違和感はない。

当たり前のように銃を持ち、当たり前のように殺伐とした会話をする生活に、もう慣れてしまいそうだ。

武偵、というか私は名探偵なのだが、専門科目的にはしていること大差はない。

 

「お前、そんな適当な理由でなろうと思ったのか」

 

キンジが若干呆れたように言う。

はじめの理由は適当であろうが、私は今歩んでいるこの道に満足している。

 

「そうか…もうひとつ、いいか」

 

「お昼ご飯まで暇だし、大サービスだ!特別に許可しよう」

 

滅多にないぞ、こんな機会。

私の機嫌が良いうちに、はやく質問することをおすすめするよ。

ああでも、質問の内容には少々気をつけてほしいけど。

 

「君は、その、どうして自分が名探偵だと思い始めた?」

 

自称名探偵だと思っているような口調が少し気に入らないが、今の私は結構機嫌が良い。

 

「ある人、っていうか名前言ってもいいか。あー、福沢さんがね、言ったんだ」

 

『その頭脳で真実を切り裂け。闇に隠れた悪を薙ぎ払え。お前にはそれができる。お前は世界一の名探偵なのだから』

 

福沢さんは、私がまだ自分を周りと変わらない凡人だと思っていた時に出会った人だ。

そして、私が特別なんだと気づかせてくれた張本人でもある。

2、3年の歳月を共に過ごした。

それだけで、福沢さんは私に最も影響を与えた人だった。

福沢さんがいなければ、私はーーー

 

「その時から、君は名探偵なのか?」

 

彼方に飛びかけていた思考が戻る。

しかしそれを悟られぬように、私は笑顔を作る。

 

「ひとつ、って言ってたのに、これでふたつめだよ?でも、答えてあげないこともない。これで最後だからね?……答えは、イエスだ。あの時から私は自分が名探偵なのだと気付いた。それを職業にするとか、そんなことはちっとも思ってなかったけどね」

 

武偵高を選んだのは、本当に偶然だ。

探偵を本格的に職業として始められるのだと知り、最初に言ったように楽そうだったからそこにした。

…もう質問はないかな。

 

「ご飯の準備ができたから、準備しておいで」

 

セツさんの声が聞こえた。

和食の良い匂いがする。

やっぱりあの豆腐は、味噌汁になったようだ。

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