俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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何かとシリアスにしちゃう性分ですが、これはそうはしたくないですね。皆さんが気楽に読めるような物にしていきたいです。

非常に読みづらいとは思いますが、読み易くするため努力していきますので、御了承ください。

※原作未視聴の方に割りと不親切な内容です。読んでいて分からないことがあれば質問orアニメ視聴してください。


1.なのはさんとの出会い

その日のクラナガンの中心街は騒然としていた。

元々休日で、騒がしいのは確かなのだが、それとはまた別次元のヒステリックな騒ぎである。

麻薬を服用していた魔導師の男が街中で暴れだし、手近な少女を人質にとるとこれまた手近なファミレスに立て籠ったのである。

「これまた厄介な仕事やなぁ……」

八神はやては指揮車キューポラから頭を出して周りの野次馬を見つつそう一人ごちた。

はやては最近指揮官資格を手に入れたばかりの新米一尉である。彼女には説得の通用しない相手というのがどれだけ厄介で面倒なものか十分に理解できていた。

「麻薬捜査局は何しとったんや」

「押さえようとしたら、暴れだしたんだとよ」

はやては聞き覚えのある声に辺りをキョロキョロして、人混みの中にその人物がいるのを発見した。

「あっ、師匠」

師匠ことゲンヤ・ナカジマは人混みを抜けると一息ついて煙草に火をつけた。

「やっとのこさ令状が下りて張り切ってたんだろ。余計なことしてくれるぜ」

彼は忌々し気な目で向こうで右往左往する麻薬捜査局員を一瞥すると「状況は?」と上官らしく問い質してきた。

「目標は十歳の女の子を人質にとってあのファミレスに立て籠ってます。一番奥の席を陣取っています」

「要求は?」

「麻薬中毒者が、そんなことしませんて」

はやてが苦笑気味に答えるとゲンヤは笑って「それもそうだな」

現在犯人は訳のわからないことを喚き散らしており、何をやらかすか分かったものではなかった。女の子は身体を男にがっちりホールドされて身動きがとれないようである。

「オラオラ管理局の戌めぇ!テメーらの陰謀なんざお見通しだゴラァ」

立て籠り男は目を血走らせながら叫ぶ。それにゲンヤは、はてな、という顔をしてはやてに訊いた。

「陰謀って何だ?」

「レモンが酸っぱいのは、管理局の陰謀なんだそうです」

「なんだそりゃ」

冗談みたいな話だが、犯人は本気らしく報道カメラに向かって管理局の陰謀について喚きたてていた。

「立ち上がれ市民!うへへ、局員ども、来れるもんなら来てみやがれ!」

犯人は少女をグッと引き寄せると包丁を首もとに押し当てた。少女は小さな悲鳴をあげると「助けて……」とかすれた声を絞り出した。

「言われんでも行ったるわアホめ……」

突入部隊の準備は整っていた。向かいのビルの上には狙撃手もスタンバイしている。局員たちは数々の困難を乗り越えてきた強者たちだから、よっぽどのことがない限り失敗はないだろうと思われた。

はやては指揮車に頭を引っ込めようとする。すると、ゲンヤが何やら思い出したように声をあげてそれを引き留めた。

「言い忘れてたんだがな」

ゲンヤは煙草をポケット灰皿に納めると頭を掻いて言った。

「あの人質な、俺の娘なんだ」

 

 

スバル・ナカジマは首もとに押し当てられたナイフの嫌な冷たさを震えながら感じていた。

今日は兼ねてから姉と約束していた買い物に来ていたのだが、とんだ災難である。一体誰が出掛け先で錯乱者の人質になってしまうなどと考えたであろうか。

彼女は喚く男に振り回されながら苦しみに呻き声をあげる。

(うぅ……怖いよ……)

幼いながらも彼女は自らの無力さに悲しくなっていた。

魔導師の娘であり、十分な素質だってあると言われているのにそれを使って身を守ることすら出来ない。出来る抵抗といえばせいぜい鳴き声をあげないでじっと我慢する程度のことである。

「誰か……ギン姉……お父さん……お母さん……」

掠れる声で呼び掛けてもどうにもならないことは彼女にも分かっていた。だが、頼りになる家族の名前を呼ぶだけで何かしらの助けが来て、自分を助けてくれるような気がしたのだ。

彼女はそんな頼りない自分に一層悲しくなり、目を閉じてしまった。

だからであろうか、外がにわかに騒がしくなったことに気が付かなかった。

 

 

はやては指揮車から突入隊に指示を出していた。

相手は麻薬中毒の錯乱者である。下手な突入をすれば人質の命は無いだろう。慎重な判断が必要だった。

「八神一尉」

そんな中、彼女の前の通信席に座っていた局員がはやてを呼んだ。

「通信です。回しますか」

「誰や?」

「教導隊の高町と名乗っています」

その名前を聞いた瞬間、忙しげに指示を出していたはやてがピタッとその動きを止めた。そして、驚愕したような顔で「なんやて?」と聞き返してきた。

「ですから、教導隊の高町だと……」

通信士の言葉が終わるか終わらないかの内にはやては頭を押さえ込んで、「あぁぁぁ……」と悲鳴をあげた。

「何でなのはちゃんはこういう争乱に敏感なんや!全くどこから嗅ぎ付けてくるっちゅうねん!」

「あの……どうされたんです?」

はやての慌てっぷりに驚いた車内の局員達は恐る恐るそれが何者なのかを訪ねた。すると彼女は頭を押さえたまま顔を上に向けて深く溜め息を吐いた。

「『教導隊の大魔王』って、知っとるか?」

「えぇ、噂だけなら」

はやての言う『教導隊の大魔王』というのは局内で流れる一種の都市伝説のようなものである。

尋常でない魔力と、気力と、破壊力を持って目に入る敵を殲滅しつくすという伝説の魔導師である。

その魔導師が蹂躙した場所には草木一本生えず、とある世界で大規模な内乱が起きたときなぞ核兵器も真っ青な状況を作り出したという。

まさしく、魔王。

「それがどうかしたんですか?」

「……それが高町なのはや」

通信士は始め意味が分からず「はい?」と間抜けな声で聞き返した。するとはやては再び頭を抱え込んで叫んだ。

「その高町ってのが『教導隊の大魔王』なんや!」

『やっほー、はやてちゃん!』

それとほぼ同時、指揮車の中に底抜けに明るい少女の声が響き渡った。噂の、高町なのはである。はやてはその声を聞いてまたも深い深い溜め息を吐いて、

「何やなのはちゃん。今回はたぶん出番はあらへんで」

『そんなことないでしょ?最近ディバインバスターすら撃ってなくて()()()()()()

この人は人質ごと犯人を吹っ飛ばすつもりなのだろうか。発言が色々と危ない。

「なのはちゃん……いや、高町三等空尉、今回は人質事件なんよ、ディバインバスターなんか撃てるわけないやろ?」

『えー』

「えー、じゃない!」

はやてはピシャリと言い放った。この現場でなのはの恐ろしさを一番知っているのは確実にはやてである。当然の判断だ。

だが、なのはは食い下がる。

『ねー、殺したりするわけじゃないんだからさー』

「むぅ……」

高町なのはは恐ろしい。だが、ベテランであるのもまた事実であった。

ここはクラナガンの中心街。流石にこんなところでの砲撃は自重するだろう。それになのははこういった荒っぽいことが異常に得意なのだ。

「……分かった、任せる。せやけど、私の言うことは聞いてな?ディバインバスターとかの砲撃はだめやからね!」

そう言うとスピーカーの向こうからなのはの『ありがとう!』という明るい返事が帰ってきた。この部分だけ切り取れば、なんとまぁ可愛らしい声なことか。

なのはは『頑張っちゃうぞ』と意気込み、内心あまり頑張らないで欲しいというはやては苦笑した。

『吉報を待っててね。現場の判断で行動するからね』

通信は、切れた。

 

「行こう、ストレンジ・ハート」

《了解です》

魔王が、クラナガンの空を飛翔する。

 

 

スバルは振り回されるのと、緊張とで疲れがピークに達てしていた。ちょっと眠りたいところだが、居眠りしようとすると男が喚きながら彼女を振り回す。

お腹も空いてきた。近くのテーブルにはまだ少し温かい料理が残っており、それが余計に腹を空かす。

(もう……何でこんなことになってるの……)

彼女の精神は先刻まで恐怖に支配されていたが、時間がたつにつれてそれは段々怒りに変換されていき、中々救助に来てくれないことに苛立ちを感じ始めていた。

(何モタモタしてるの!こんなヤツ、バーッて来てドカーン!てしてやればいいのに!)

だが、そこまで考えると次に襲ってくるのはやはり悲しさで、

(私がもっとしっかりしてれば良い話だったんだ……)

と自己嫌悪に陥ってしまう。

「チッ、外が、騒がしいな?」

男が息を荒げながらそう呟いた。

自己嫌悪に沈んでいたスバルだが、そこで始めて奇妙な騒々しさに気が付いた。外で局員たちが慌てているようなのである。

「何事だぁ?……テメーら!変なことすると、ぶっこぶッ殺すぞ!」

男はナイフを振り回しながらヒステリックに叫んだ。すると、入り口の自動ドアが開き、店内に入店を知らせる軽やかなチャイムが鳴り響いた。

「……!?」

この時スバルと男が抱いた感覚は、店の中に何やら恐ろしい物が入り込んできたという印象だった。入り口は影になっていて見えないため、ゆっくりと迫る足音に脈を速くしていた。

「だっ、誰だ!?オイ!」

男はスバルにナイフを突き付けて誰何する。

その問いに答えるのように足音は大きくなり、その主はいよいよ物陰から姿を表した。

教導隊のワッペンを付けた白いバリアジャケットに身を包み、綺麗な栗色の髪を頭の両サイドから纏めて垂らしている、まだ幼さが残っていながら十分に綺麗な女性。そんな髪から覗く顔は優しい印象を与えた。

「誰だッて、聞いてんだよ!」

バリアジャケットの女性は男とスバルを交互に見比べ、男の方を指差した。

「何、ロリコン?」

「は?」

男は想定外の返事に拍子抜けした声を出してしまう。

女性の持つデバイス……どうやら、インテリジェント・デバイスのようである……は女性に対して説明を始めた。

《彼は生粋のロリコンです。年端もいかない少女を人質にとっていることからそれは明らかでしょう》

「何それキモい」

《生理もろくに来ていないであろう少女を……》

この後、デバイスによる犯人の人格判断(というより最早人格攻撃)が続く。が、公序良俗に反するので割愛させていただく。

「男の風上にもおけないね」

「テメーら何ゴチャゴチャ言ってやがる!」

男はナイフをギラギラと見せつける。スバルはいい加減精神的に限界突破寸前である。

「ロリコンはよく吠える」

《まったくです》

「黙りやがれ!」

スバルはこの局員が自分を助けてくれるかどうか非常に心配だった。もしかするとこの男を煽るだけ煽ってそのまま帰っていくのではないかと思えた。

「そう言えば、ロリコンの語源ってロシア文学の『ロリータ』なんだよね」

「……だから、何だ!?」

「いや、なんでミッドチルダで通じるのかなって」

女性の話には脈絡が見えない。

だからであろうか、男は「アマァ……」と顔に青筋を浮かべながら口許と目許をヒクヒクと痙攣させ、スバルの首筋にナイフの切っ先を強めに押し付けた。後少し強めれば、ザックリといくだろう。

「ひっ……」

「テメェ、女の分際でよぉ……えっえっ偉そうによお」

「あら、女の分際って?」女性は髪をパッと跳ねさせると嘲笑うかのように言った。「単なる種馬がよく言うわね」

その顔つきはその気がなくてもゾクゾクするような怪しく、危険なものだった。

「生理の痛みも知らないで、夜な夜な発射試験に勤しむお気楽な生き物の癖に」

スバルは男のナイフを握る手に力が入るのを感じた。ただでさえ沸点が低くなっている人間を煽って何が楽しいのだろうか?こちとら楽しくも糞もないのに。

「このクソアマ……!」

男はナイフを振り上げた。スバルは恐怖に目をギュッと瞑る。だが、彼女にとって全く意外なことに、彼はそのままナイフを女性に向かって投擲した。

ナイフは綺麗に飛翔し、女性の頬を少し切って床に落ちた。

切り口からツゥーと一筋の血が流れ女性の口の中に入った。

その瞬間……その瞬間の彼女の顔を、スバルは忘れることはないだろう。

女性はまるで玩具を与えられた子供の如く眩しい笑顔を浮かべ、今にも跳び跳ねそうな雰囲気を醸し出していた。

「ストレンジハート、撮った?撮ったよね?」

弾む声で訪ねると、デバイスは、

《間違いありません。抵抗しました》

すると女性はデバイスにカートリッジロードを命じた。煙を吐き出しながら空薬莢が甲高い音をたてて床を跳ねる。

(まさか……)

スバルは、この行為が意味するところを知っていた。

「はやてちゃーん!」

女性は嬉しそうに、目を見開きながら声をあげる。

「抵抗してきたらさー!」

そして、手にしていたデバイスをこちらに向けてきた。

「応戦するしかないよねー!?」

「えっ、そんな!?」

スバルは人質にとられてから始めて本格的な悲鳴をあげた。男は何が起こっているのか分からないのだろう。その場で硬直してしまっている。

「ディバイィィィン!」

こちらに向けられたデバイスの先端に、桃色の魔力が集積されていくのを見た。そして、

「バスタァァァ!」

の叫びと同時に魔力は解放され、圧倒的な力を持って桃色の光は男とスバルを呑み込んだ。

スバルの視界は一面桃色となり、自分が吹き飛ばされているという現実を理解した。

そして、薄れ行く意識の中、彼女は思った。

 

こんな強い人になりたい………。

 

 

 

 

 

 

かっこいいお姉さんの話 スバル・ナカジマ

 

お休みの日、お姉ちゃんと街へお買い物に行ったら、何か知らないけど変なおじさんに人質に取られてしまいました。おじさんは何だかよく分からないことを言っていて、とても怖かったです。

でも、管理局のお姉さんが、私を助けに来てくれて、嬉しかったです。お姉さんは強くて、怖くて、かっこよかったです。私も、あんな強い人になって、いろんな人を助けてあげたいです。

けれども、人質ごと吹き飛ばすのはどうかと思いました。

 

 

 

 

五年経ち、スバルは十五歳となった。

白いハチマキを頭に靡かせ、瞳は希望に燃えている。

彼女は管理局に入り、あの日のお姉さん……高町なのはのような強い人間を目指して日々努力している。そして今日、それらの成果が出るか否か試験がある。

あの日彼女は無力で、一人だった。だが、今は力を蓄え、ちょっと短気だけど優しくて頼りになる相棒もいる。

新暦75年。 例の高町なのはは、十九歳となっていた。

 

 

つづく




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