と、いうのも、ルーテシアなどの登場人物は今回の小説の主軸にあまり関係がなく、下手に絡ませると話が混乱する可能性が大だからです。
申し訳ございません。
結果として、レリックは全て回収することが出来た。フォワードの活躍のおかげである。
その辺の話をこの場で書きたいのも山々の谷ななのだが、流れ自体はアニメ版と全く同じなので、断腸の思いで割愛させていただく。詳しくはDVDでチェック、である。
以前も書いたことだが、決して面倒なわけではない。
※
さて、謎の女の子騒動(命名なのは)から二日過ぎた頃、隊舎の一角では高町なのは一等空尉による重要参考人ディエチへの恐怖の尋問が続けられていた。
二人は暗い部屋の中で電気スタンドを載せた机を挟み対面する形で座っている。かなりリラックスした様子のなのはとは対照的に、ディエチは手足を拘束具で縛り上げられていた。
「さぁ、さっさとゲロしちゃいなさい。貴女達の組織、及び目的について」
「………」
強情なディエチは中々口を割らない。なのははそんな彼女に対して不気味な笑顔を見せ、箸を取ると煮立った鍋の中からがんもどきを一つ取り出した。
暗い部屋の中、机の上の電気スタンドに照らされたがんもどきは見るからに熱そうな湯気を立て、香りの良い出汁を滴らせていた。
「美味しいがんもどき! お食べ。はい、あーん」
「あーん……うっ!?」
なのははがんもどきをディエチの口から少し逸らして頬にピタリとつけた。焼けるような熱さがディエチの感覚神経を駆け抜ける。熱さをまぎらわそうにも手足が拘束されており、ただただ悶えるしかなかった。その光景をなのはは楽しそうに眺める。
「次は何がいい? 大根? ちくわぶ? ……大関の卵行っとく?」
「アホ」
悪の帝王っぷりを楽しんでいたなのはだったが、はやてのハリセン制裁により早くもそれは終わりを迎えた。久々のハリセンに頭を押さえながらなのはは「あれぇ、どうしたの?」ととぼけた声をあげた。
「拷問はご法度やろーが。なのはちゃんに任せた私がバカやったわ」
はやてはグリフィスにおでん鍋撤収を命ずると恋人と引き裂かれたかのように悲痛な面持ちを見せるなのはの頭をもう一度ハリセンで叩いた。
「高町一尉、お仕事です」
「はい、なんでしょう」
「聖王教会へシグナム二尉と出向しなさい。例の女の子の件です」
「ラージャ。……なんで、シグナムさん?」
「シグナムは車の運転もできるし、貴女の副官的立場にあるヴィータ三尉は誰かさんの尻拭いで忙しいのです」
なのははそれを聞くとまるで他人事のように「大変だねぇ」と感想を述べ、軽く敬礼すると駆け足でその場を去っていった。はやてはその背中を見送り、はぁ、といつものように溜め息を吐いた。そして、すぐに顔に笑顔を浮かべた。
「いやー、堪忍な、うちの部下が」
「仕方ないことだ。私は、虜囚の身だし」
「ごもっとも」
答えるとはやてはディエチの身体を縛る拘束具を外し、先までなのはの座っていた席についた。はやてはディエチが急に暴れることはないだろうと思っていたし、ディエチ自身、そのようなつもりはなかった。
「さて、改めてお話を聞かせてな? 立ち食いそばを一緒に食べたよしみで、一つ……」
※
聖王教は次元世界中に数多の信者を持つ世界宗教である。その性質は神を信仰するカトリック的なものというより、かつての聖王オリヴィエの唱えた教えを信仰する、儒教的なものと言える。
なのはとシグナムが向かっているのはベルカ自治領にある、次元世界中の教会を統帥する聖王教会本部である。
本部は様々な建物の複合体であり、豊かな自然に囲まれた教会自体が巨大な都市の体を成している。地球のバロック式を彷彿とさせる建物はとても美しい。
「いつ見てもさー、壊しがいがありそうだよねー」
「そう思うのはお前だけだ」
シグナムは物騒な発言をするなのはを諫めながらハンドルを握っていた。
目的地は本部内にある聖王病院である。そこに、例の少女が入院しているのだ。
「念のために言っておくが、相手は子供だ。変な気を起こすなよ」
「やだなぁ、私にペドフィリアの気は無いよ」
「そういうことではない」
検査では、一般平均よりもやや高めの魔力値が出たという話である。特別高いわけでもないのだが、シグナムはなのはが「なら、ディバインってみよう」と言い出さないか心配なのだ。
無論、いくらなんでもそれは無いのだが、それだけ信頼がないという訳である。哀れ。
目的地の駐車場に到着した二人を出迎えたのはシスターシャッハことシャッハ・ヌエラであった。見た目は穏和そうな女性であるが、シグナムに匹敵するやり手であり、中々のバトルマニアである。
そんなシャッハはいつも冷静沈着なのだが、今日に限ってえらく慌てた様子であった。
「どうしたんだ、らしくない」
「申し訳ありません、例の女の子、目を離した隙に病棟を抜け出してしまいまして……」
「何?」
何もかもが謎に包まれた少女である。逃げ出して何をやらかすかは分かったものではない。シグナムの顔に緊張が走った。
そんな深刻そうな二人とは対照的にお気楽破壊神のなのはは頭の後ろで手を組ながら教会の美しい尖塔を見上げ、一人歩きだした。一見すると単なる御上りさんみたいだが、頭の中は破壊の業火に包まれている。
「ん?」
少し歩くと、路の脇の植え込みがガサガサとざわめいた。初め狸か何かかと思ったのだが、飛び出してきたのは二足歩行の小さな少女だった。
「あっ」
「……!」
なのははその少女を見て一瞬誰だか解らなかったが、すぐに例の女の子だと理解した。くすんでいたブロンドは綺麗になって夏の陽光に輝き、ワンピースのような患者服からは白い綺麗な四肢がすらっと伸びていた。手にはウサギの人形が抱かれており、少女はまるでそれを守るかのような体勢をとった。
二人の間に奇妙な沈黙が流れた。
「高町一尉、下がってください!」
その沈黙を破ったのはシャッハで、彼女はデバイスを展開し臨戦態勢でなのはと少女の間に滑り込んだ。
「あうっ……」
少女はシャッハの気迫に押され、目元に涙を浮かべながら思わず尻餅をついてしまう。
「よせシャッハ、相手は子供だ」
「しかし、シグナム二尉……」
シャッハは真面目だから、容赦というものをしない。そんな彼女を止めるシグナムの背中越しに、なのはは少女のオッドアイの瞳を見詰めていた。
すると、どうだろう。尻餅を着いていた少女はハッとしたような表情を見せると、立ち上がってなのはのもとにトテトテと駆け寄り、ポフンと抱きついて、とんでもないことを言い放った。
「ママ……」
「……はい?」
瞬間、その場の空気は凍りついた。
「高町……お前……」
「へっ!? いや、シグナムさん、違う違う!」
「前々からとんでもない奴だとは思っていたが、いや、まさか……」
いつも眉間にシワを寄せているようなシグナムだが、今度のそれは尋常ではなかった。軽蔑の眼差しがなのはの額を撃ち抜く。
「いや、違うし! 私まだ処女だし! ……ね、ねぇ、君、私は君のママじゃぁないよ」
「ママ……」
「おぉう……」
少女は安らかな笑みを浮かべ、なのはに抱きついて離れなかった。
なのはは染々と思う。
あぁ、以前から私は山より高い志と海より深い慈悲の心を持つ人間だと自負していたが、まさか溢れ出す母性すらも備えていようとは。
「いや、そんなこと考えてる場合じゃないや。君、お名前何て言うの? ワッチュアネイム?」
「……ヴィヴィオ……」
「ビビ男かぁ。面白い名前だね。マジウケる」
原始人以下の誉め方をしたなのはだったが、ヴィヴィオと名乗った少女はどうやら嬉しかったらしく、「ママ、遊ぼ」と言って手を引っ張りながら走り去ってしまった。
後には、シグナムとシャッハが残された。
「高町め、いつの間に……あれか? テスタロッサとの子供か?」
そう言うシグナムだが、なのはの嘘を吐けない
何やら一波乱がありそうな予感がしてならない。
※
夜の帳が降りて、隊舎は静寂に包まれた。
ディエチは堅いが心地よいベッドの上に座り、側の窓から夜の海を眺めていた。
彼女の力を持ってすれば、強化ガラスの窓や、鍵の掛かった扉なぞ簡単に突破できる。しかし、そういったことをするのを彼女はどこかで否定していた。
(それに、それは得策じゃない。姉妹達が、助けてくれるだろう……)
そう思いながら、彼女は横になって天井を見上げた。規則的な凹凸模様が描かれており、なんとも無機質な印象を受けた。
そのまましばらく見詰めていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「あの、入るよ」
「好きにすれば良い」
彼女は答えると身体に反動をつけて起き上がり、ベッドの縁に座った。スライド式のドアが開き、プレートを持った局員が入ってくる。
「……? お前は……」
「夕食、だよ?」
夕食の載ったプレートを持ってきたのはスバル・ナカジマであった。彼女の顔を、ディエチはよくよく知っている。
「タイプ・ゼロか……」
「………」
スバルは何も答えない。ただ少しだけ息を飲んで、プレートを側にある小さな机に置いた。そこに盛られたラザニアは美味しそうな匂いを立てていた。
「ここのご飯はさ、美味しいんだ。八神部隊長が料理好きで」
「タイプ・ゼロ」
「私は、スバル・ナカジマだよ」
ディエチは「あぁ、すまん」と言うと立ち上がって食事の置かれた机の前に座った。彼女自身、美味しいものを食べることは嫌いではない。彼女はフォークで掬い上げて一口口に入れた。ミートソースや焦げたチーズの香りが一杯に広がって、実に美味しい。
「美味しい?」
「うん、まぁ……ところで、タイプ……スバル・ナカジマ」
「スバルでいいよ、長ったらしい」
「あぁ、そうか……スバル」
ディエチは前に座るスバルに身を乗り出して、密談でもするように声を低めて言った。
「お前も戦闘機人なら、私たちに協力すべきだろうが?」
「私たち?」
「ドクターさ……ドクター・スカリエッティ。知ってるだろう」
「スカリエッティ……指名手配の?」
そうだ、と頷いてディエチは続ける。
「でも、悪い人じゃない。私たちのお父さんなんだ(この辺りだけ少し声のトーンが下がっていた)。ドクターは、科学の勝利を悲願している。私たちが胸を張っていきられる世界を創ろうとしている。スバル・ナカジマだって、どうせ自分のことを仲間に打ち明けられていないんじゃないか?」
その言葉にスバルが少し息を飲むのが分かった。
ディエチが言った後部屋には静寂の波が広がり、食器の触れあう音だけがいやに大きく響いていた。
「スカリエッティは……いろんな人を困らせる。それは、いけないことだよ」
「そういう理屈もあるのは分かる。だけど、私たちだって叫んで良いハズだ」
スバルはそれを聞いて寂しげに「そうだね」と囁くと黙って部屋を後にした。そして、そのまま彼女は廊下を歩き、部隊長執務室に立ち寄った。ノックをして、ドアノブを引き、部屋の中に入る。薄暗い部屋の中、スバルを出迎えたのは、椅子にゆったりと腰を沈めたこの部屋の主であった。
「お疲れ様」
「こういうのって、好きになれませんよ」
スバルは懐から小さなボイス・レコーダーを取り出して、はやての執務机に静かに置いた。
「無理に好きになる必要はあらへんよ。こういうのは、年上の仕事やからな」
「でも、人を騙すのって……」
スバルは基本的に曲がったことが嫌いな実直で悪く言えば馬鹿な少女である。たとえそれが敵対するものでも、どうしてもこういった欺くようなことはしたくなかったのだ。
はやてはそんなスバルを見て小さく笑った。
「本当、なのはちゃんにそっくりやな」
「何がですか?」
「そういう、曲がったことが嫌いな所」
「はぁ」
はやては立ち上がり、スバルに近づくと肩を数回ポンポンと叩いた。
「そっくり、ホント、昔の、なのはちゃんにさ……」
「……?」
はやてが口にしたのはそこまでだった。彼女はまた笑うとてをヒラヒラさせてスバルに退室を促し、そのまま部屋の奥の窓から夜空を見上げ始めてしまった。
夜は、どんどん更けていく。
※
《あの『鍵』は局にとっても重大な財産だ》
《それを今は教会と六課が所持しているというではないか?》
《何のために君の援助をしてきたと思っているのかね?》
レジアス・ゲイズは真っ暗な部屋の中央に置かれた椅子に座って電子的な説教の声を聞いていた。声の主は局の実権を握る最高評議会の面々で、かつては英雄として崇められた人々である。
「六課の件は次の公聴会でケリをつけます。それより、皆様の飼い犬の暴走が、今回の件の発端ではないのですか?」
レジアスは一方的に言われるのも癪だったから、少し皮肉を混ぜた事実を老人たちに提示して見せた。しかし、その電子的な声に焦りの色は現れず、
《あれにはあれの考えがあるものよ》
と言ってのけた。
「反抗期を迎えたというのは無いのですかな? 我が娘にはありましたが」
《フム、オーリスのことか。だが、彼は彼女と違ってただの人間ではない。我々が手塩にかけて造り上げた作品なのだ》
《鍵も、また同じこと》
《我々は貴公にアインへリアルといった防衛機構の援助をしているのだぞ》
レジアスは奥歯をギリギリと鳴らした。ここの老人達は、結局のところ自分達のことしか考えていないのだ。『鍵』の件しかり、事実が公となるのが怖いのだ。公になれば、それと連鎖反応的に様々な事柄が白日のもとに照らし出されることとなる。
(奴とは、私も関係を強化しなければなるまい。老人達は、もうだめだ)
彼はそのように決意しながら、姿無き最高評議会議員たちに恭しく礼をすると部屋を後にした。
つづく
さて、そろそろ話が動き始めますぞよ。
なのはさんも、リリ刈るマジ狩る頑張ります。