俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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展開に関しては文句もあるかもしれませんが、どうぞ。


16.高町なのは

スバルが目を覚ましてまず感じたのは窓からの強い陽の光であった。どうやらベッドに寝かされているらしい身体もどこか自分のものではないような気がして、軋む両掌を握ったり閉じたりを繰り返した。

 

「ここは……」

「あっ、起きた」

 

首を左に廻らすとそこにはティアナが座っていて、リンゴの皮をショリショリ音をたてながら器用に剥いていた。

身体に感覚が戻り始め、ヨッコイショと起き上がり、スバルはようやくここが何処かの病棟であることを理解した。四人部屋で、全て埋まっている。

 

「スバル、調子はどうよ」

「右手が少し……あっ、ギン姉は!?」

 

スバルは記憶がプツリと途絶える前に見た光景を思いだし、ティアナに食い付くように訊いた。

 

「静かにしなさいっ……大丈夫よ、大怪我だったから、隣の個室にいるわ」

「そっか……よかった……」

「まったく。大変だったんだから」

 

ティアナが言うには、自分が追い付いたとき、丁度スバルが敵がいないのに暴れまわっているところで、壁をボコボコにしている彼女を止めるのは至難の技だったという。激しい戦闘があったのか彼女は傷だらけであった。その内の数割りはティアナが彼女を止める際にやむなく付けたものであるのだが、これは平和の為の秘密である。

 

「それにしても、何だったのかしらあの連中」

「たぶん、私やギン姉を捕まえる気だったんだと思う。私たちはあの子達の雛型みたいなものだから」

「成る程……」

 

ティアナはリンゴを切り分けると小皿に載せて、フォークと一緒にスバルへ差し出した。リンゴは完全に熟していないのか、やや酸味が強い。

機動六課の隊舎が襲われたこと、ディエチが脱走して、ヴィヴィオが拐われたこと……なのはが落ちたこと……そして、それらがつい二日前のことであることはティアナの口から伝えられた。

 

「なのはさんが落ちたって……まさか、撃墜されたの?」

「違う。なんか急に気を失ったっていうか、眠り始めたっていうか……」

「戦闘中に?」

 

短時間に魔力を使いすぎると『ブラックアウトダメージ』と呼ばれる状態に陥るというのは聞いたことがあった。魔力の負担が肉体にも及び、気を失うというものだ。しかし、スバルにはなのはがブラックアウトダメージの状態になるということが想像できなかった。

 

「なのはさんは?」

「三つ隣の病室で寝てるわ。他の隊長や、エリオとキャロもいる」

「私見てくる」

「身体、平気なの?」

 

スバルはシーツをはね除け、背筋で飛び上がるようにベッドを降りるとティアナに様々なポーズを見せて大丈夫だということをアピールした。ティアナはそれを見て笑いを堪えるような仕草を見せ、柔らかい笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫そうね。そら、早いとこ制服に着替えなさいな。そんな病院着で行ったら皆が何事かと心配するじゃない」

 

 

なのはの部屋は小さな個室だった。

扉を押し開けると側に立っていたエリオの背中に当り、スバルは一言謝ることになった。

 

「なのはさん、どうなの?」

「寝てるみたいです。ほら、イビキ、聞こえるでしょう?」

 

耳を澄ますと、なるほど、気持ち良さげに鼻息をたてている。あの高町なのはが落ちたというから心配してみればこれである。拍子抜けしたのと安心したのと息を吐きながら彼女は部屋に身体を滑り込ませた。

 

「スバルさんは、大丈夫なんですか?」

 

部屋に入ったスバルにキャロはそう囁いてエリオと共にいつも以上に心配気な視線をスバルの顔に向けた。多分に、スバルの身の上について聞いたのであろう。それにしても、優しい二人である。

 

「大丈夫だよ」

 

彼女は笑顔で答えながら部屋の中央にあるベッドに歩み寄った。ベッドの上のなのはは様々な生命維持装置(無論、使っていない。備え付けである)やはやて、フェイトを初めとした隊長、副隊長、さらにカード式の小型テレビ(テレビ電話機能付き)に囲まれてグースカ眠っている。

 

「まったく、腹立つ顔して寝てやがる」

「まぁヴィータ、そう言うな」

「でも、かれこれ二日寝てるんやろ?」

 

はやては隣にいたフェイトに病院やシャマルはどう言っているのかを訊いた。

 

「昨日と同じ。何でかはよく分かんないけど、恐らく魔力の使いすぎだって。今日も起きなかったら精密検査するって」

「わかった」

 

フェイトに返事すると彼女は眠りこけるなのはの額をペチペチと叩いて、冗談混じりに言った。

 

「とりあえず、なのはちゃんは人間ってことやな」

『さて、それはどうかな?』

「うっ?」

 

思いがけない声にその部屋の人々は一様ち小さなどよめきが広がった。まとわりつくような、厭らしい声色である。その音源は、備え付けの小型テレビであった。

全員がテレビに顔を向ける。そこには、一人の白衣の男が不気味な笑みを浮かべて映っていた。

 

『お初にお目にかかるね。私が、ジェイル・スカリエッティだ……ちょっと、カメラ部分を隠さないでくれるかね』

「ヴィータ、気持ちは分かるけどやめたって。で、絶賛指名手配中の犯罪者が何の用や」

 

画面の中のスカリエッティはいたって落ち着いた様子でくつろいでいた。どことなく楽し気なその顔は人を不快にさせるに十分足るものであった。

 

『なに、これから盛大な所謂『犯行予告』をやるのでね。お世話になっている君たちに挨拶しようと思った次第さ』

「犯行予告? 犯行なら、もう十分にやったやないか」

『ふむ、もしやすると、君達は私の目的が公開意見陳述会のみだったと思っているのかね?』

「ちがうんか?」

 

そう言いながらはやてがスカリエッティの陰になる所で紙切れに何やら走り書きしてフェイトに握らせるのをスバルは見逃さなかった。

画面の中でスカリエッティはさも楽しそうに笑う。

 

『ふふん。ま、いずれ分かることさ。それより……』

 

スカリエッティは目を左右に動かしてまるで病室の中をぐるりと見回すかのような仕草を見せた。

 

『本当に素晴らしい部隊だ。タイプゼロにプロジェクトFの産物が二人。竜召喚師に夜天の主。そして……』

 

彼は視線をゆっくり下へ向けると厭らしい微笑を見せた。

 

『高町なのはか……『リミッター』は、まだ解除されていないようだな』

「……なんやて?」

『だから、リミッターが……』

 

スカリエッティはそこまで言うと一瞬キョトンとした顔をして、直後堰を切ったように笑い声をあげはじめた。その部屋にいる全員がその不可解なリアクションに不快感を感じながらいったい何事かという好奇心のようなものも感じていた。

彼はひとしきり笑うと再びリラックスした姿勢を取った。

 

『まさか、機動六課ともあろう組織が、何だかよく分からない人間を身内に入れていたというのか?』

「それは、なのはの事? 私達はなのはの事を良く知っている」

『そうか、だがプレシアの遺産、声が若干引き吊っているようだが?』

 

スバルは拳を握るフェイトと画面のスカリエッティ、そして、寝息をたてるなのはを順番に見比べながらどうしていいのか分からずにオロオロしていた。ただ言えることは、スカリエッティが言おうとしている事はこれまでの常識を覆すような威力を持っているということだけである。

 

『ま、君達も局員だ。知らないのは、ある意味で当然かもしれん』

「なんや、何が言いたい」

『ふむ、急かすな。実に単純な話だよ』

 

彼はそう言うと画面に一枚の書類が写し出された。そこには『本局指定一級秘匿書類』と書かれており、様々な写真や文章が載せられていた。隊長や副隊長はその画面上の書類を食い入るように読んだ。すると、副隊長二人は顔を青ざめ、はやてとフェイトは何処か落胆したような表情を見せた。

スカリエッティは籠った笑い声をあげた。

 

「八神部隊長、どうなんです? ……ヴィータ副隊長?」

「あそこには、何が書かれていたんですか?」

 

スバルとティアナは気になって大人達に聞いて回った。だが、誰も彼も首を横に振るだけで答えてはくれない。

 

『おやおや、お嬢さんがた、何なら、小生が教えて差し上げようか?』

「………」

 

二人は画面に顔を向けた。スカリエッティは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

『素直だね。ならば、教えてあげよう。先も言ったが、実に単純な話だ』

 

スカリエッティは画面越しに眠るなのはを指差して言った。

 

『高町なのはという人物だが、彼女はもう既にこの世にはいない』

「……は?」

 

そのあまりにも突拍子もない事に二人は一瞬言葉を失った。

高町なのはがもうこの世にはいない? ならば、ここで寝ているのはいったい全体誰なのだ。

 

「フンッ、バカらしい!」

 

ティアナは鼻で笑って画面に背を向けた。

 

「何を言い出すのかと思えば! もう少しマシな冗談は吐けないの?」

『信じるかどうかは君たち次第だが……タイプゼロは何となく分かる話ではないかね?』

「………」

 

病室に沈黙が流れた。エリオとキャロは事態を飲み込めずオロオロするばかりである。その様子を楽しむかのように、スカリエッティは続けた。

 

『十年ほど前だったか……局内でも秘密裏に人造魔導師計画が持ち上がった。かくいう私もその内の一人だが、それはまぁいい。その魔導師計画というのが、単純に強い魔導師を一杯造って最強軍団を作る、というものではなく、かつての聖王オリヴィエを甦らせて古代ベルカの遺物を再び呼び覚まそうという実に壮大なものだった』

 

彼はグラスの水を一息にのみ、一呼吸おいた。

 

『私はまだその時は局の飼い犬みたいなものでね。親孝行するため色々手伝ったものさ。戦闘機人(娘達)にも頑張って貰い、なんやかんやで聖王の聖骸衣を手に入れた。その後は研究所にお任せさ』

「あなたは、それに関わったの?」

 

スバルはティアナが咎めるのを聞かずにそう質問した。スカリエッティはまるで先生のように笑って続けた。

 

『私は娘達の開発に忙しかったからね。手伝ったのみさ……そして二年経った頃、二体の雛型が完成した。だが、どうもリンカーコアの生成や、肉体の生成が上手くいかない。研究所は、より確実性のある実験材料を求めた。そんな時のことだ。高町なのはの撃墜『事故』が起きたのは……』

 

その事故が、スカリエッティによって演出された茶番であることは今となっては誰の目にも明らかであった。ヴィータは顔を歪ませ、テレビ画面に殴りかからないよう必死に自分を抑えている。

 

『高町なのはは素材としては極上だった。健康な肉体に優れたリンカーコア! 我々は重傷を負った彼女を研究所へ運び、素材として有り難く利用させて頂いた』

「……!!」

「ヴィータ、抑えろ……」

『おお、怖い騎士だ……高町なのはのリンカーコアはコード名『ヴィヴィオ』に、拒否反応対処用としての肉体のほんの一部と共に移植された。言うなれば、あのヴィヴィオは高町なのはと聖王オリヴィエの娘みたいなものだ』

 

その場にいた全員がヴィヴィオがなのはを『ママ』と呼んでいたことを思いだし、はやては聖王教会からのメールの内容を思い出していた。

……ヴィヴィオとなのはのDNAは、親子のそれに近い……。

 

『……残った肉体は、もう一つの雛形に移植された。そして雛形と融合した肉体は限りなく高町なのはに近い人形となり、この世に送り出された。最低限の記憶情報と……リンカーコアの代わりとなるレリックと共に』

「なんやて!?」

「レリック!?」

 

今度部屋に走った動揺は尋常ではない大きさのものであった。自分達の追いかけていたロストロギア『レリック・ストーン』。それが、リンカーコアを無くしたなのはに埋め込まれているというのだ。

 

『レリックは、無限の魔力を産み出す。かつての王達はそれを自らに埋め込み戦っていたという。その肉体にレリックを埋め込んだのは、ヴィヴィオでそれを実践するためのテストでもあったんだよ。結果は、大成功だったね。君達も見たろう? 溢れんばかりの魔力……』

「そんな、バカな……」

『おや、八神部隊長、あなたは薄々気付いていたと思うが……』

 

先程まで不気味な微笑を湛えていた彼の顔だが、次の瞬間そこに現れたのは嘲笑であった。

 

『もしや、君達はそこの高町なのはに対して何の疑問も抱いていなかったのかね? そう思わせるような所は多々あったろうに? 莫大な魔力量、普通でない食欲、情緒の不安定、挙動不審、昔の思い出が無いこと……』

 

スカリエッティのその言葉はスバルの頭の中で濁流のようにうねりながらスバルが機動六課に来てからの様々な記憶を洗い出していった。

 

……。

 

『第一、SLBを雨あられのように降らす人外が、どこにいるってのよ!』

『何あの人! リンカーコア五つぐらいもってんじゃない!?』

『す、すごい量ですね……』

『……半年と少し経って、なのはさんは退院できたの。バスターハッピーに生まれ変わって……』

『退院後のなのはさんは凄かったらしくて、あっというまにSランク到達だったらしいわ』

『……覚えてないや』『えっ、じ、じゃぁ、すずかが男の子に告白されちゃったー! って話とか……』『覚えてねえっす』

 

……。

 

「情緒不安定……挙動不審……」

 

スバルの中で何かが崩れていくのが自分でハッキリと分かった。幼い頃からすがってきた彼女の中の憧れは違法に作られたもので、しかも全てが人の手によるものという現実は不安定な年頃の彼女には重すぎるものだった。

 

『信頼故の盲点だな。あからさまなおかしさに気付かないというのは、ちゃんちゃらおかしい。ギャグ漫画じゃあるまいし……』

 

病室の空気が一段と重くなるのを感じた。スバルには他の人の顔を見る勇気がなかった。今すぐに叫んで、スカリエッティの粘っこい顔が映るテレビを破壊したい。だが、それによって何かが変わるわけでもないことは、スバル自身が一番よく知っていた。

 

「……!」

 

結局、彼女に出来るのはその部屋を飛び出すことのみだった。

扉を蹴破るようにして廊下に飛び出す。背後からティアナ達の呼ぶ声が聞こえた気がしたが、気のせいだと言い聞かせた。

……憧れが、偽物だった……。

その衝撃、失望は甚大である。

彼女は信じていた宗教を失った信者のようなものなのだ。そんな彼女が、もう一人の憧れ、自らの姉のいる病室へ駆け込むことは至極自然なことである。

 

 

ギンガは病室のベッドで本を読んでいた。彼女は突然飛び込んできたスバルに驚きながらも、本を閉じて冷静に質問してきた。

 

「スバル、どうしたの……なに、泣いてるの?」

「うぅ……ギン姉……」

 

スバルはよろよろとギンガの側に近寄るとベッドの縁に顔を埋めてヨヨヨと鳴き声をあげた。ギンガは少し戸惑いながら、何年か振りに……本当に、何年か振りに……頭を撫でた。

 

「ほら、泣いてちゃ分かんない。言ってごらん」

「あう……」

 

スバルはひとしきり泣くと顔をあげて先のことを話そうとした。が、彼女なりの理性が働いてその事を躊躇させた。

一瞬の逡巡の後、彼女は少し誤魔化しながら話した。

 

「ギン姉はさ、例えば、憧れの人とかが偽物だったりしたら、どう思う?」

「スバル、それって……」

「ギン姉……」

 

ギンガはスバルのなんとも言えない表情に言葉を詰まらせた後、ため息を一つ吐いて「そうねぇ」と顎に手当てた、。

 

「やっぱり、がっかりはすると思うな。だって、憧れの人だもん」

「そうだよね……」

「でもさぁ」

 

ギンガはもう一度スバルの頭に手を乗せ、目元の涙を拭いてやった。

 

「例えば……例えばだよ? スバルはなのはさんに憧れているんでしょ?」

「……うん」

「じゃあ、スバルはなのはさんのどこに憧れたの?」

「強くて、優しいところ」

「……優しいかどうかはさて置き、別にスバルは『高町なのは』というネームバリューに憧れた訳ではないでしょ?」

 

そこまで聞いてスバルは「あっ」と微かな理解の声をあげた。

 

「例えなのはさんが偽物だとしても、スバルの憧れる今のなのはさんの強さと優しさは、本当だよ」

「そうか……」

 

スバルはスクと立ち上がり、ギンガ越しに窓の外の光を見つめながら確信を持った口振りで「そうか!」と叫んだ。

 

 

つづく




スカさんがえらい色々教えてくれるのは自己顕示欲が強いから。決して読者のためではない!
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