俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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最終話です。
いつもより推敲を入念にしましたが、入力機器の仕様で、自動的に誤字脱字が発生する場合があるので、ご容赦ください。

展開に不満があるかもですが、最初から決めてたので、どうぞ(何が)


19.解放の時

「なんだ?」

 

なのはは、ヴィヴィオが玉座から立ち上がると同時に部屋全体が仄かに光るのを見た。その光は鼓動のように定期的に点滅し、ヴィヴィオの方へ流れていった。

 

「何が……ヴィヴィオ?」

 

なのははストレンジハートを腰だめに構えながらヴィヴィオの名前を呼んだ。目の前にいる少女は彼女の知っているヴィヴィオよりも遥かに成長していたが、間違いなく自分をママと慕った小さな少女であると分かっていた。

彼女は、もう一度名前を呼ぶ。

 

「ヴィヴィオ!」

「私は、ヴィヴィオなどのような者ではない!」

 

そう叫んだヴィヴィオのオッドアイは熾烈な輝きを持ってなのはのことを見据えていた。

 

「私は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだ!」

『そうよ、彼女はヴィヴィオなどという小娘ではないわ』

 

粘っこいその声は、部屋のあちこちから響いてきた。

 

『リミッターを外し、レリックを埋め込まれ、ゆりかごから直接に力を受けとる彼女は、聖王を名乗るに相応しいわ』

「へぇ、ヴィヴィオ、あんた偉くなったね?」

「ヴィヴィオではないと言っている」

 

ヘラヘラと笑うなのはに顔をしかめながらヴィヴィオは右手を突き出した。すると、彼女の手のひらに魔力が凄まじい勢いで収束され、ディバインバスター並みの砲撃を、一瞬の内にかましてきた。

なのはは後ろに飛び退いて間一髪直撃を逃れるが、ヴィヴィオの放った砲撃は床を大きく抉り、衝撃はなのはをよろめかせた。

 

「はー、すげぇバカ威力」

「死にたくなければ、失せろ、下郎」

「あーもう、私、ヴィヴィオにそんな汚い言葉教えた覚えはないよ!」

 

そう言うとなのははストレンジハートを構え、ヴィヴィオに向かって容赦のない砲撃を放った。いくら強力な魔導師とはいえ、彼女の砲撃ではひとたまりもない。

が、しかし。

 

「うぇっ!?」

「…………」

 

放たれた砲撃はヴィヴィオに迷いなく直進し、直撃した。それにも関わらず、ヴィヴィオは身じろぎ一つせずにそこに立っていた。これには流石のなのはも驚く。

 

「当たったよね?」

「私の身体は『聖王の鎧』で守られている」

 

彼女は再び手のひらをなのはに向けて翳した。

 

「レリックを得、ゆりかごのエネルギーを吸った私は無敵だ!」

 

手のひらが煌めく! 放たれた砲撃は先程のより遥かに強力なものだった。なのはは今度それを上に跳ねて避ける。砕けた壁の破片が巻き上げられ、彼女の身体にパラパラと当たった。

 

「ヴィヴィオ凄いじゃん! 私興奮してきちゃった」

 

一般人なら恐怖で動けなくなるところだが、そこはやはり高町なのはである。寧ろそれに興奮を覚え、快楽が全身を駆け巡る。

 

「これは、全力全開でお相手しないとねぇ」

 

彼女の鼻息は、荒い。

 

 

ヴィータの息もかなり荒かったが、こちらは『息も絶え絶え』という表現の方が適切だろう。

彼女の率いていた第一分隊がダウンした後、彼女は一人でガジェットの群れ相手に激戦を繰り広げていた。彼女は魔導師としては超一流であるから、ガジェットの群れに対してもかなり善戦できた。しかし、数の暴力にち長時間善戦することは出来ず、次第に身体中傷だらけになっていった。

 

「はぁ、はぁ……ぐっ……」

 

そして、何体のガジェットをスクラップにしたかいよいよ分からなくなってきた時には、彼女の身体は血にまみれており、肋骨やらが数本折れているのが分かった。通常なら即病院送りの重症である。

しかし、それでも彼女はグラーフアイゼンを杖のようにしてゆっくりと、出来るだけ急いで前に進もうとしていた。

 

「くそっ……行かなきゃならねえのに……」

 

彼女は武装局員であり、守護騎士であり、スターズ分隊副隊長なのだ。与えられた役目を果たさなければ、後輩に示しがつかないし、

 

(今、動力炉を壊せるのは私だけなんだ。私しかいないんだ。私がここで倒れたら、みんなが困るんだ……)

 

という思いが強かった。様々な責任感や義務感が彼女を突き動かしていたのだ。半ば気力だけで歩いているようなものである。

 

「………」

 

そのような状態の彼女だ。

後ろに潜んでいたガジェットに胸を刃で貫かれたのも、最初は気が付かなかった。

 

「………!」

 

肺を貫かれたらしく、致命傷である。常人ならばここで崩れ落ち、後は死が訪れるのを待つのみである。

だが、生憎ヴィータはそこまで潔い為人(ひととなり)はしていない。

 

「てめぇ……」

 

身体が丈夫に出来ているヴィータが抱いたのは痛みや苦しみ、諦めではない。憤怒であった。

 

「おどれ邪魔すんじゃねぇぇ!」

 

ヴィータは瞳に怒りの炎を迸らせながらグラーフアイゼンを振り上げて、彼女を突き刺したガジェットに叩き付けた。グシャリという潰れる音と共にそのガジェットは煙をあげて沈黙する。

彼女はハァハァと息を必死で整えながらガジェットの死体を少し眺めた。攻撃したとき、全身の傷口から噴き出した血がガジェットの肌にこびりついた。

 

 

「いやはや、凄まじいね」

 

スカリエッティはモニターで玉座の間で繰り広げられる砲撃戦をニヤニヤしながら鑑賞していた。そんな彼の背後では、フェイトががっちりと拘束されていた。スカリエッティのアジトを見つけ、拘束しようと突入したら何やかんやで逆に拘束されてしまったのである。

 

「フェイトくん、あそこで戦っているのも君の派生作品みたいなものさ。どちらを応援する?」

「スカリエッティ、ヴィヴィオに何をしたの?」

「フフ、そう怖い顔をするな」

 

彼は不気味に笑うと右手に着けた爪のようなデバイスで、趣味的に拘束されるフェイトの身体をツツと撫でた。

 

「レリックは、ある種のコンピュータのようなものだ……プログラムを施せば、規制主の人格も制御できる」

「何?」

「もっとも、あの少女に埋め込まれたレリックに正確なプログラミングする時間は無かったがね。あれは、ゆりかごからの情報に補正をかけたものだ」

 

フェイトは、聖王が強く優しい人であると聞いていた。そして、それは事実であろう。スカリエッティは、その人格の情報を自分達に有利なよう調整しているのだ。熾烈に、残酷に、傲慢に……。

 

「許されないことだ……」

「今さらとやかく言われることもない」

 

彼はフェイトの整った顔を眺めた後、途端興味を失ったようにモニターに視線を戻した。

 

 

なのはとヴィヴィオの戦闘は単に砲撃の撃ち合いではない。シューターも使うし、ヴィヴィオなどは格闘戦に持ち込もうともする。

そんな戦闘の中、なのはの中にある疑問が芽生えつつあった。

 

(ヴィヴィオは、私の真似をしているのかな?)

 

ヴィヴィオの立ち回り、攻撃方法、それら全てが、自分のやり方に酷似しているのである。全て、いつか自分が彼女に披露してあげていたものだ。

そして、その疑問はやがて確信に変わった。

 

「ええぃ、ちょこまかと!」

「うへへ当たらないわよん」

 

ヴィヴィオの放つ砲撃を飛んで跳ねて避けていたなのはだが、それにイライラしたのかヴィヴィオはある行動に出た。

彼女は相変わらず手のひらを突き出して砲撃を放った。そしてなのはに呆気なく避けられる。だが、これだけでは終わらなかった。

ヴィヴィオは、砲撃を撃ち続けながらグルグル回転を始めたのである。

 

「!? あれは、高町ローリングスペシャル!」

 

なのははこの技は実戦で一度しか使っていない。そして、それ以外の場面でこの技を見たのはヴィヴィオただ一人のみだった。

 

「ヴィヴィオー! あんた、やっぱりヴィヴィオだろ!」

「……!? 何を言って……!?」

「そうだよね! だって、その必殺技はさ、ヴィヴィオが見たいって言って、見せてあげたやつなんだもんね!」

 

ヴィヴィオの瞳が混乱に揺らいだ。

 

「ねぇ、一緒に帰ろう! フェイトママも、みんなも、待ってるぜ!?」

「……う?」

 

なのははヴィヴィオが確実に揺らいでいるのを見てとった。しめた、と思った彼女は追い討ちをかけようとする。だが、しかし。

 

「その様なことは無い。私は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだ! それ以上でもそれ以下でもない!」

『うふふ、高町なのはぁ、感動的な文句で元に戻ると思ったら大間違いよ』

 

ヴィヴィオの瞳には迷いや混乱の色は消え、再び鋭い意思を湛えていた。完全に聖王のそれである。

 

「くぅー! 駄目か!」

『当たり前よ。ゆりかごからエネルギーと情報が送られてくる限り、彼女は無敵の聖王陛下なのよぉ、オホホホ!』

「チキショー!……ん?」

クアットロの高笑いはスピーカー越しに玉座の魔に響き渡っていた。

だからであろうか、彼女がなのはの、誰かと話す仕草に気が付かなかったのは。

 

 

「はぁー、一頻り笑ってスッキリしたわ」

 

クアットロはさて、とキーボードに向き直り、連中をどのように痛め付けてやろうかと思いを巡らせながら指をワキワキさせた。

 

「うふふ……うっ!?」

 

しかし、その上機嫌も長くは続かなかった。彼女の元にゆりかごの出力低下を報せる情報が雪崩れ込んできたからである。彼女は予定外の出来事に激しく混乱した。

 

「何故!? どうして!? 被害状況は!?」

《メイン動力炉が破壊されました。出力は60%低下》

「動力炉が……!?」

 

彼女は慌ててキーを叩き、動力炉の様子をモニターに映し出した。

本来なら動力炉はそこでゆりかごの巨体でも有り余るほどのエネルギーを放出している。しかし、そこに広がっていたのは粉砕された動力炉の破片と警備システムのスクラップのみだった。

「一体、誰が……」

 

部屋の中をカメラで見回す。すると、その一角で血塗れの魔導師が、別の魔導師に抱き抱えられていた。抱き抱えているのは、クアットロの宿敵である、機動六課部隊長の八神はやてであった。

彼女はこちらに気付いたのか、アッカンベーをしてきた。

 

「ムキィー! バカにして……!」

 

彼女は長い髪をらしくなくワシャワシャと掻きむしってやり場の無い怒りに悶えた。完璧な、完璧なはずだった計画が脆くも崩れ去り、愛するドクターの夢を叶えてあげられないというのは死ぬほど辛いことなのだ。

 

「くそぅ! だ、だけど!」

 

深呼吸して、無理矢理冷静さを取り戻す。

 

「ま、まだよ……幸い、コントロールルームの場所は割れてないし……奴等に思い知らせてやる!」

『コントロールルームの場所が割れていない? 寝言いってんじゃねぇや』

「えっ!?」

 

 

「とっくの昔にサーチャーで、あんたの居場所はバレバレなのよーん!」

『なっ……高町なのは!? あなた、いつの間に……』

 

玉座の間の中央、なのはは得意気な顔で姿の見えない敵に嘲笑を投げ掛けていた。

 

「んなのヴィヴィオとの戦闘中に決まってんじゃん?」

『う、嘘! だって、あんなに苦戦してたじゃない!?』

「はぁ? 苦戦だってぇー?」

 

なのはは飛び上がると身体をクアットロのいるコントロールルームの方向へ向け、ストレンジハートを掲げた。彼女の周りに幾つものスフィアが形成され、砲撃態勢に入ったことを暗に報せる。

 

「この私が! ろくな経験もない娘っ子に、苦戦するわけねーだろー!」

『ブラフだったとでもいうの!?……ならば!』

 

ゆりかごからのエネルギー供給がなくなってぐったりしていたヴィヴィオが突然立ち上がって、まるで引っ張られるようになのはの射線上に立ちはだかった。

 

『娘を撃てるかしら~? この娘は、オリヴィエとしての人格を失っただけで、まだ私の制御下にあるのよ~?』

 

クアットロの如何にも悪役な笑い声が部屋全体に響き渡る。人質を取るとは、クアットロも堕ちるところまで堕ちたものだ。

 

だが、ここで読者の皆様には、このお話の第一話を思い出して欲しい。

機動六課設立の数年前、ファミレスで幼いスバルを人質にとった犯人に対して、高町なのはが取った行動はなんだったか……。

 

彼女の前に人質というカードは意味をなさない。

何故なら彼女は、俺達の知っている『なのはさん』ではないのだ。

 

「スターライトぉ……」

『ち、ちょっと!』

 

悲鳴をあげるクアットロ。なのはは満面の笑みを浮かべた。

……すこぶる明るい笑顔だった。

 

「ブレイカァァァ!」

 

放たれたSLBは、これまでで一番大きく、高出力のものだった。桃色の光の巨柱はヴィヴィオの身体を包み、そのまま壁に突き刺さった。

 

「ひっ……!」

 

クアットロは恐怖に顔を引きつらせながら声にならない悲鳴をあげてその場から逃げようとした。しかし、狭いコントロールルームである。逃げ場はない。

SLBは全く減衰する気配を見せず、幾枚の隔壁を破り、コントロールルームを丸ごと光の渦へ飲み込んだ。

凄まじい威力の砲撃に晒されたヴィヴィオのレリックは、その溢れんばかりの魔力に耐えきれず、木っ端微塵に砕け散った。

 

そして、なのはのレリックもまた、同様であった。

 

 

 

 

スバルが、ヴァイスのバイクに乗ったティアナと共に玉座の間に着いたのはそれから少し経った頃だった。

ゆりかごは間もなく大気圏を離脱する。衛星軌道上にはクロノ率いる本局艦隊が待機しており、いつでもアルカンシェルを撃てるようになっている。早く脱出しなければならない。

 

「なのはさん! 迎えに来ました!」

「うわ、何これ……」

 

部屋に入ってまず二人の目に飛び込んできたのは破壊されまくった部屋の様子であった。抉れた床や、崩れかけた壁、粉砕された玉座が激しい戦闘があったことを物語っていた。

そして、その部屋の奥。一人のボロボロになった少女が、白いバリアジャケットの魔導師を背負って立っていた。

 

「ヴィヴィオ……?」

 

スバルが何故その少女がヴィヴィオであると分かったのかは後になっても分からなかったが、名前を呼ばれたヴィヴィオはゆっくりとこちらに首を巡らして、綺麗なオッドアイの瞳から一筋の涙を流したのは、紛れもない事実だった。

それを見て、二人は全てが終わったこと、終わってしまったことを理解した。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

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