俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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今まで体験したこと無いスピードでお気に入り数が増えているので怖いです。
人気の二次作家さんはこんなのが屁でもないくらいのスピードで増えてるのに、よく耐えられるなぁ、と尊敬してしまいます。




3.禁断症状

守護騎士(ヴォルケン・リッター)のヴィータと言えば、なのは率いる『スターズ分隊』の副隊長で、トリガーハッピーで仕事が出来ない隊長に代わり事務、雑務、始末書作成などをそつなくこなす参謀役もとい雑用係である。

その幼い見た目とは裏腹に途方もない歴史の中で培ってきた貫禄と実力は隊内に秩序をもたらし、厳しくも何処と無く優しい、言うなれば『ツンデレ』な気質は隊の紳士諸君に絶大な支持を受けている。

 

「まったく、なのはのヤツ何処に行ったんだよ」

 

そんな超絶万能神ヴィータ(べた褒めだが、隊長のせいで相対的にそうなってしまうのだ)は、完成した新人達の訓練メニューの認可を貰うべく、隊長のなのはを探し回っていた。あんなトリガーハッピーでも、ヴィータにとっては歴とした隊長なのである。

 

「おーい……あっ」

「………」

果たして、なのはは見つかった。自販機の並ぶ休憩スペースに置いてある安っぽいベンチに腰掛け、この世の終わりと言わんばかりの顔をしている。

その姿にヴィータは始め話しかけるのを躊躇したが、認可も取らなければならないので、意を決し、声をかけた。

 

「おい、なのは」

「あっ、ヴィータちゃん」

 

こちらを向いたなのはの瞳は完全に病人のそれである。顔は少し痩けて、肌はカサカサ、唇も乾ききり、目の下には隈が浮き出ている。

 

「お、おい、大丈夫かよ……」

「う、うん。大丈夫……」

「うわぁ……」

 

数日前から彼女ははやてから『砲撃禁止令』を出されている。

初めの数日は何ともない様子でいつも通りの明るい顔を見せていたのだが、日が経つにつれてみるみる内に病人顔負けの様子へと変貌してしまった。

 

「ヴィータちゃん、人間の欲求って知ってる……?」

 

乾いた唇から発せられる声は掠れていた。

 

「三大欲求か?食欲、性欲、睡眠欲……だっけか?まぁ、名声や金欲が入る場合もあるな」

 

生きていくために必要な物である。後半二つはどちらかと言えば大罪に分類されるものであるが、間違ってはいない。

だが、なのははゆっくりと首を振り、「違うよぉ」。

 

「人間の三大欲求……それは、食欲、性欲、睡眠欲……そして……」

「そして?」

 

すると突然、なのはは立ち上がり、目をくわっと見開いて吠えるように言い放った。

 

「砲撃欲!」

「そりゃお前だけだ」

 

何が来るか予想していたヴィータは冷静に答える。しかしなのはは「そんなこと無い!」と拳を振り回して熱弁した。

 

「砲撃は人間が生きる上で必要なものだよ!砲撃によるストレス発散は私たちの生活をより豊かにします!美肌、ダイエット、運気向上など!」

「何か通販の宣伝みたいになってるぞ」

「とにかく、砲撃は平凡で退屈な日常にエキサイティングな喜びを与えてくれるの!……それにしても、喉が乾いたなぁ!ヴィータちゃん、青汁飲む?」

「奢りか?ならリンゴジュースが良いな」

 

ヴィータがそう注文するとなのははポケットから財布を取り出し、自販機に硬貨を投入してボタンを押した。間を開けてガコンッという商品の落ちた音が聞こえる。

 

「はい、ヴィータちゃんの分の青汁」

「何でだよ!」

 

満面の笑みで青汁を差し出してくるなのはにヴィータは意味不明だ、という思いを込めて吠える。すると、それを聞いた彼女は『計画通り』、というような表情を一瞬見せ、大袈裟に腕を広げると天井を仰ぎ見た。

 

「あぁ!近頃砲撃できていないストレスでヴィータちゃんの『リンゴジュース』を『青汁』と聞き間違えてしまった!これは由々しき事態ですよ?」

「何が……」

「このままでは、業務にも支障が出てしまうよ?」

 

支障が出るもなにもお前全然仕事してねぇじゃねぇか……。ヴィータの喉元までその台詞が出ていた。が、実のところ事務関連の仕事を全てヴィータに押し付けているのを少し気に病んでいる節がなのはにはあり、その事を追求して落ち込ませるのもいけないな、と思ったのである。

 

「……たく!分かったよ!」

 

ヴィータはなのはから青汁を奪い取ると、ちょっとムスッとしながら顔を背けた。

 

「はやてに、言っといてやるよ……」

「えっ?何を?」

「はやてに、砲撃の許可を貰ってきてやるよ!」

 

その言葉が終わるか終わらないかの内に、なのはは「ありがとうー!」と半分雄叫びな声をあげながらヴィータの頭を抱き抱えた。顔が豊満な胸に押し付けられ、息が出来ない。

 

「むぐぐ!?」

「ありがとうヴィータちゃん!これで明日から生きていける!ヴィータちゃんマジ神!マジ天使!」

「ンー!ンッンー!」

 

喜ぶなのはは力を弛めない。そのうち貧乳筆頭、ヴィータは、

 

(む、無駄にでかい乳め……)

 

と声になら無い声で悪態を吐きながら暗闇の淵に沈んでいった。

 

 

 

 

お昼時になると隊舎の食堂は大変賑やかとなる。

安くて旨い食事ができることで話題の食堂なのだ。料理上手がここの責任者なだけあって、味にはちとうるさいのだろう。

そんなガヤガヤした人混みの中、フォワードの面子は固まって座り、新しく支給されることになった新デバイスの話題で盛り上がっていた。

 

「僕とキャロのデバイスは、マイナーチェンジみたいなものです」

 

エリオは常軌を逸した山盛りのトマトスパゲッティを頬張りながらスバルとティアナに説明してくれた。彼の隣に座るキャロは使役竜のフリードリヒにスパゲッティの中に入っていたミートボールを食べさせている。

「私もエリオ君も、新しいのだったら巧く出来ないかもしれませんし」

「なるほどねー。いいな、私とスバルは新型よ」

 

対してティアナとスバルのデバイスは完全新型だった。二人は当初手作りのデバイスを使い自分の能力を引き出していたのだが、相当ガタがきていた。だが、戦いの中で信頼できるのは使い慣れた武器だ。

 

「楽しみではあるけど……スバル?」

「………」

 

ティアナが隣のスバルに声を掛けようとするが、何やら沈んだ顔をしていた。目の前にある、これまた常軌を逸した山盛りスパゲッティを前にして一つも手をつけていない。

いつもならば、ペロリと食べてしまうのだが……。

 

「スバル!」

「えっ……うん!?」

「どうしたの?あんたらしくもない」

 

三人はスバルの顔を心配そうに覗き込んだ。彼女はそれぞれの顔を見て、「うん、それがね」と話始めた。

 

「最近のなのはさん、元気無いじゃん?」

「いつもが元気すぎるんじゃ……」

「違うよ。何か……スゴく疲れてる感じっていうか……」

 

スバルは心配なのだ。いつもは元気な彼女が、ここ数日病人のようになってしまっている。

実際のところ、読者諸君も知っての通り大した理由ではないのだが、なのはを尊敬慕うスバルにとって、憧れの人の不調は緊急事態なのだ。

 

「言われてみれば、そうね。キャロのヒーリングでどうにかならないの?」

「やってみましたが、ダメでした。効果無しです」

「全く?」

「まったくです」

 

スバル、ティアナ、キャロはう~んと頭を捻る。エリオのみがズゾゾゾとスパゲッティを食べていた。

 

「エリオ君、はしたないよ」

「あぁ、ごめん」

 

恥ずかしそうな顔をしたキャロに怒られたエリオは謝ると紙ナプキンで口の周りを拭いた。そして、「あっ」と微かな閃きの声をあげた。

 

「なのはさん、最近砲撃してないですよね?」

「そうね、あんなのバンバン撃たれた日にゃこっちの身体が持たんわ」

「はい。で、僕、考えたんですけど……」

 

彼はフォークを置いて水を一息に飲むと指を立てた。

 

「砲撃出来なくて、ストレスが溜まってるんじゃ無いですか?」

「え?」

 

他の三人はキョトンとした顔をする。「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの顔をしている。

 

「ですから、なのはさんは部隊長の砲撃禁止令のせいで、ストレスが溜まってるんじゃ無いですか?」

「ははっ、まさか……あり得るね」

 

高町なのはがそういう人物だということはフォワード陣はよくよく理解している。あのトリガーハッピー(というよりバスターハッピー)の事になると、そういったふざけた理由が現実味を帯びてくる。

 

「じゃあ、砲撃禁止令が無くなればなのはさん、元気になるのかな?」

 

スバルは弾む声でそう推測し、目の前のスパゲッティを口に運び始めた。

 

「禁止令を解いて貰うの?えー……」

素晴らしい手段を思い付いたという調子のスバルとは裏腹にティアナは少し嫌そうである。それもそうだ。訓練でまたSLBを連発されたら絶望しか見えない。

ついつい、どうせならこのままの方が……など考えてしまう。

だが、ティアナのその甘い期待も背後から聞こえる明るい声に脆くも崩れ去ってしまった。

 

「あっ、みんな!何、お昼?」

 

バスターハッピーこと高町なのは一等空尉のお出ましである。

四人が驚いたことに、朝練の時は病人のようだった顔が、隈も消え、肌はツヤツヤになっていた。スバルは憧れのなのはさんが()()()になっていることが嬉しいようで、ウキウキとなのはに声を掛けた。

 

「なのはさん、ご機嫌ですね?」

「うん!はやてちゃんに、砲撃禁止令を解いてもらったの!」

 

「悪夢だ……」というティアナの呟きは二人には聞こえなかった。なのはは大変嬉しそうに話す。

 

「ヴィータちゃんが頼んでくれてね。本当に良かった!……まぁ、SLBが撃てないのは残念だけど……」

 

流石にSLB乱発は禁止のままらしい。当然である。本当ならばディバインバスターも禁止にしてほしいところだが、それでは訓練にならないということは残念ながら全員理解していた。

 

「本当、平和で困っちゃうよね。テロの一つや二つあればSLB撃ち放題なのになー」

「その理屈はおかしいんじゃ……」

「キャロ……言っても無駄」

 

ティアナは悟りを開きそうな勢いである。

SLBを撃ちまくる方がテロ活動になるとは考えないのだろうか?いや、それ以前に平和を司る為の武官がそんな危ない発言をして大丈夫なのだろうか?

 

「そういえば、みんなお昼でしょ?何食べてんの?」

「御覧の通り、スパゲッティです。ミートボール入りの」

 

スバルは自分皿を手に取ってなのはの前に差し出した。なのははそれを見て、「うん、いい判断だね」と親指を立てる。

 

「スパゲッティや小麦系の麺類は効率よくエネルギーを摂取できる素晴らしい食べ物だよ。特にパスタ、中でもスパゲッティは私的に最高だね」

「なのはさん、スパゲッティ好きなんですか?」

「好きだよ。と、いうより、もう愛してる。ライクじゃなくて最早ラブ。結婚していい」

 

どんだけ好きなんだ。

しばらくすると、カウンターから料理が出来たとなのはを呼声が聞こえ(正確には、色着き番号札で呼ばれた)、彼女は舌舐りしながら取りに行った。

スバルがティアナにそっと耳打ちをする。

 

「流石はなのはさんだね」

「何が?」

「スパゲッティに発情するなんて」

 

そう言う彼女は尊敬に目を輝かせている。まったく、比喩表現だということが分からないのだろうか?

……比喩表現なのか?

……流石に比喩表現だろう。

スパゲッティに発情なぞ、上級者過ぎる。

数分後、人々の間を器用にすり抜けながらなのはが帰ってきた。

 

「お帰りな……ええっ!?」

 

四人に迎えられたなのはだが、その手にはこれまた凄まじい量のスパゲッティが鎮座していた。

その量はスバルをも上回るのではないかと思わせる。

 

「す、すごい量ですね……」

「うん。ちょっと多めにして貰っちゃった」

 

四人の内、少なくとも二人の辞書に登録されている『ちょっと』はもっと控え目な言葉だったはずだが、どうやらそれは間違いだったらしい。

凄まじい量のスパゲッティを見て、スバルは目を輝かせる。

 

「スゴいですね!フジヤマみたい!」

「あ、僕フジヤマ知ってます。なのはさんの故郷の、一番大きな山ですよね?」

 

皿に乗っているスパゲッティのその堂々たる姿は確かに富士山、それも赤富士を連想させた。

 

「スッゴクお腹空いてんの」

「何してきたんです?」

「海にSLB撃ってきた。最近溜まってたから」

 

そう言うとなのはは「いただきます」と手を合わせ頭を下げる。その後ろではニュース映像が流れており、クラナガン臨海部で謎の津波が発生し、停泊中のボート数隻が転覆したと報じていた。

 

「ま、まさか……」

「? ティア、どうかしたの?」

 

画面には波に煽られひっくり返ったボートの列が続く映像が映し出されていた。場所は、隊舎からそう遠くない。

ティアナは呑気にスパゲッティを頬張る最重要被疑者の顔を見た。気付いた彼女は一瞬不思議そうな顔を見せた後、ニッコリと笑って、

 

「変なティアナ」

 

あんたにだけは言われたくない!

ティアナは生まれてから、これほど強くそう思ったことはない。

 

 

続く




この書き方だと地の文を入れるタイミングが掴みにくい……。所々「これは誰がしゃべってんだろう」というシーンがあったかもしれませんが、ご容赦ください。誰がしゃべってようと問題ないと思います。

友達に、「これラスト考えてんの?」と訊かれたので、同じことを思ってらっしゃる方に。
ラストはちゃんと考えてあります。完結させますので、どうか!
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