あと書いてて思ったのは、突然脇役キャラが絡み出すのは悪い癖だな。ということ。
ホテル・アグスタの警備任務以来ティアナがよそよそしくなった、とスバルは感じていた。
彼女には何故ティアナがそうなってしまったのか分からない。気がつくと自分はウィングロードの上にいて、拳はガジェットに突き刺さり、下ではティアナが座り込んで上ではヴィータが怒り心頭だったのだ。その後ヴィータからお叱りを受けるが、やはり意味が分からない。
「何があったんだろう」
ティアナに訊いてみても少し顔をしかめて、気まずそうに目を逸らすばかりである。
ヴィータに訊いてみようとも思ったが、お叱りを受けた上、「ところで何を怒ってたんですか?」と訊くのも気が引ける。
「……よし、あの人に訊こう」
彼女は全幅の信頼を寄せる人に解決策を訊いてみることにした。
※
「ティアナがよそよそしい?」
昼休み、スバルは休憩スペースでくつろいでいたなのはを捕まえてティアナについての相談をした。やはり、頼りになるのはエース、高町なのはである。
「倦怠期の夫婦じゃあるまいし」
「ホテル・アグスタ以来です。何か悪いことしたのかも教えてくれませんし」
なのはは自販機でカップコーヒーを二つ買うと一つをスバルに手渡した。砂糖もミルクも入れていないらしくスバルには少々苦かったが、憧れの大人に少し近付いた気がして無性に嬉しかった。
「まぁ、ティアナは悩みやすい質だからね」
「そうですね……でも、こんなによそよそしいのは初めてです」
「フゥム……」
なのははカップを手の上で少し遊ばせると中身を一息に飲み干した(スバルは流石だと感心した)。そして、素晴らしい考えが頭に浮かんだ様子でカップをクシャと握り潰した。
「友情を確かめるには、拳と拳のぶつかり合いだよ!」
「へ?」
初めは流石に「何を言っているんだ」と思った。しかし、なのはの無駄に自信に満ちた顔つきは特に根拠もないのに信頼できるような錯覚を覚えさせた。
「互いの拳で語り合う友情!素晴らしいと思わない?」
「それは……そうですね、道理ですね!」
「でしょう?」
なのはは握り潰した紙カップをゴミ箱に放り込むとスバルの肩を掴み、明後日の方向を指差して、
「さぁ行け!若人よ!友のもとへ!」
「はい!」
スバルは駆け出した。
彼女の心の草原に爽やかな風が吹いていた。
そうだ、なのはさんの言う通りだ!拳と拳で語り合う友情!私も昔は少し憧れたものだ。友情だけでない、信頼関係もそうだ!師匠と弟子のような関係にも言えるだろう。拳で語らい、最後は夕日に向かって「流派云々カンヌンは……!」などと叫ぶのだ!
読者諸君にはスバルのこの思考はあまり理解できたものでないだろう。だが、この時の彼女は今までに無いくらい素晴らしい気持ちになっていたのだ。胸のつっかえ物が取れたような、そんな気持ちである。
彼女はティアナを探し求めて走り去っていった。
※
さて、お求めのティアナ・ランスターであるが、食堂で一人少し遅めの昼食をとっていた。エリオとキャロが一緒に食べようと誘ってくれたが、彼女はどうも乗り気でなく、「少し一人にさせて」と断った。
ティアナはポテトグラタンをフォークでいじりながら項垂れた。
彼女は自分の失態で塞ぎこんでしまっているのだ。自分に自信を無くしつつあり、それを保持するのに必死なのだ。
そのせいでスバルに強く当たってしまい、その事への自己嫌悪が益々彼女を落ち込ませる。
「いけないなぁ……」
フォークに芋の欠片を突き刺し、口に運ぶ。
彼女自身、どうも悩み事を自分のなかに仕舞い込んでしまうきらいがあると感じている。それはいけないことだが、どうしてもそうしてしまうのだ。他人にあまり自分をさらけ出したくないのである。さらけ出せば、他人に自分が弱いことを知らしめてしまう。
「はぁ」
……そうだ、それが理由なのだ。それが理由で、私はスバルに強く当たってしまっている……。
「謝るべきかな」
彼女はボソッと呟いた。その声は近くで食事をしていたエリオとキャロにも聞こえたが、二人は少し興味を示した後テレビの時代劇に関心を移した。
(うん、謝ってしまおう。そうすればいい)
そう決心して彼女は立ち上がる。丁度そこへ、スバルが「ティア~」と手を振りながらやって来た。なんともまぁ、絶妙なタイミングである。
「ティア!」
「スバル!あのさ、この前はごめブベッ!」
それは突然起こった。
少し決まりが悪そうながら謝ろうとしたティアナの顔面をスバルの右ストレートがバッチリ捉えたのだ。
スバル渾身のパンチにティアナは辺りのテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛び、人々の度肝を抜いた。
テレビからは、『ご乱心じゃぁ!』という声が聞こえる。
唖然とするギャラリーに囲まれてスバルはモジモジと話す。
「ごめんねティア。けど、なのはさんが言うには拳と拳のぶつかり合いこそが信頼関係構築の第一歩らしくて……。最近のティアはなんだか悩んでるみたかったから、心配で心配で……」
だが、スバルの話などティアナは聞いちゃいない……突然吹き飛ばされて冷静に話を聞くことはまず無いだろう。
ティアナは頭に被った皿とサラダを払い除け、プルプルと震えながら立ち上がり、泣きそうなのを堪えて怒鳴った。
「何すんのよ突然!折角人が、アンタに謝ろうと決めた時に!」
「謝る?何を?」
「……!」
ティアナはスバルの疑問の声に言葉を詰まらせた。確かに、私は何を謝るつもりだったのだろう。誤射したこと?強く当たったこと?
彼女は大いに混乱した。自分の気持ちが正直分からなくなったのだ。それで結局、そのもどかしさに苛立ち、つい悪態をついてしまう。
「知らないわよ! このバカ!アホ!トンチキ! すっとこどっこい!」
ティアナは真っ赤にした顔をスバルから背けるとそのままどこかへ走り去ってしまった。
食堂には、言い様のない沈黙だけが残った。
※
夜。
スバルは一人トボトボと堤防沿いの道を歩いていた。
隊舎の方を見ると、自分達の部屋の電気が消えていた。もう寝たのだろうか。近頃ティアナは朝は早く、夜は遅くまで自主訓練に励んでいてまともに休む暇が無いと見えていたから、このようなことはある意味で良いことだと言える。だが、スバルの胸には空しいものが拡がっていた。
「ん? スバル?」
俯き加減で歩いていると声を掛けられ、顔を上げると素敵なアドバイスをくれたなのはさんだった。待機状態のストレンジ・ハートをクルクル振り回している。
「何してんの?」
「なのはさんこそ、どうしたんです?」
「ん? ちょっとディバインバスターが撃ちたくなってさ」
なのははニコリと笑う。スバルはガクンと頭を落とした。
「どうしたの?」
「あのですね、それが……」
スバルはなのはに事の経緯をかくかくしかじかと話した。なのははうんうんと頷きながら話を聞き、首を思いっきり傾げた。
「なんでだろうねぇ?」
「さぁ……」
「お前相談する相手間違えてるぞ」
背後から声を掛けられ、振り向くとそこにはヴィータとシグナムが並んで立っていた。声を掛けてきたのはヴィータの方である。
「副隊長、どうされたんですか?」
「いや、シグナムとゲームしててな。その休憩だ」
「スマブラをやっていた」
シグナムがそう答えるとヴィータはなのはにジロリと目をやり、変なことをまた変なことを吹き込んだな、という視線を送った。なのははにゃはは~と笑う。
「いやー、私ならそうやって解決するから」
「フェイトもはやても、すごく怒ると思うぞソレ」
「殴り愛みたいな?」
「そうか。試してみるか?」
ヴィータは手をパキパキ鳴らしながらなのはに迫る。チンチクリンなヴィータだが、このような時の迫力は尋常ではない。なのはもヴィータには頭が上がらないようで、愛想笑いを見せるとそそくさとディバインバスターを撃ちに去っていった。
「まぁ、アイツも悪気はないんだ。赦してやってくれ」
ため息を吐きながらヴィータはぼやくように言う。スバルは別に怒ってもいないし、なのはの言うことは彼女にとってそれほど大切なことなのだ。
シグナムがスバルに顔を向けた。
「先人に意見を等のも大事だ。だが、お前は高町を信用しすぎているな」
「あの……いけませんか?」
「や、違う。そうじゃない。大いに結構だ」
彼女は慌てた感じで何かを振り払うかのように手を振った。
「ただ、ナカジマは高町の言葉を何もかも神託のように受け止めているよう感じられる」
「でも、なのはさんはエースだし、隊長だし……憧れだし」
最後の憧れはスバルにとって重要な事だった。彼女が局員になったのもなのはの強さに憧れたからである。
「憧れは結構。だが、何もお前まで高町なのはになる必要はない」
そういうものなのだろうか。
スバルにとって自らの道を切り開いていくことはとても難しいことに思えた。憧れ、夢を描いてそれにより近付く方がやる気も出るし、何より困ることはない。
彼女の耳に静かな波の音が響いていた。
※
翌朝早朝、ティアナは自分のベッドから抜け出し、二段ベッドの上で気持ち良さげに眠るスバルを一瞥すると静かに着替えてクロスミラージュを手に取るとスルリと外へ出ていった。
自主訓練をするのである。
訓練、と言っても一人で行う簡単なもので、辺りに数個のスフィアを浮かべて、それら順々に照準を合わせていくのだ。
が、簡単、とは言ったものの、実際にやってみるとハードなものである。十分もすると彼女の顔を玉の汗がつたり始めていた。
「頑張ってるじゃないか」
練習を初めてから三十分弱、スポーツドリンクを一息に飲み干すティアナに声を掛けたのはヘリパイのヴァイスだった。
「……何か、用?」
ティアナはこの男があまり好きではなかった。いつもヘラヘラしていて、節操が無さそうなのである。
勿論謂れの無い偏見なのだが、彼女にとって男性のあるべき姿は殉職した兄そのものだった。真面目で、優しく誠実な、それこそが彼女にとっての理想だった。
「一人で頑張ってるお前を、応援してやろうとしてるんだろ」
「余計なお世話……目障りだから、去ね」
「へへっ、つれないなぁ」
ヴァイスは鼻の頭をポリポリと掻くと笑顔を絶やさずティアナにとって今一番聞きたくない話題を吹っ掛けてきた。
「スバルはどうしたんだ?」
ティアナは呼吸が息切れとまた別に苦しくなるのを感じた。深く息を吸い込み、なるたけ冷静を保つ。
「スバルはまだ寝てる」
「お前さんは寝ないのか?」
「私は……」
クロスミラージュを浮かぶスフィアの一つに向ける。命中を知らせる楽しげな音が響く。
「私は、スバルと違って凡人だから」
「フゥム、凡人か……」
彼は顎に手を当て少し考えた後、ニヤリと笑ってティアナの予想しないこと……と言えばうそになる……を言い放った。
「お前、スバルに嫉妬してるだろ」
「……何を……!?」
ティアナは自分の頭が熱くなるのをしっかりと感じた。しかし同時に、ここまで熱くなるのは自覚があるからだと彼女は理解していた。
スバルに強く当たったのは、自分の失敗が許せないのではなく、嫉妬していたからなのだ。
ホテル・アグスタでの戦闘で、彼女はスバルと自らの間に技術力において圧倒的な差があることを知り愕然とした。一緒に訓練校を出て、一緒の職場に就き、一緒に訓練してきたのにも関わらず、スバルはメキメキと成長しているのだ。対して自分は未だに何が成長したかもよくわからない。
何故? 何故こうも違う。
ティアナはスバルが天才的センスの持ち主だと知っている。それを彼女は長く理解していたはずなのだが、その理解もスバルがその才能を遺憾なく発揮するまでの事だった。
「嫉妬なんて……してない」
「んっそうか?すまない!」
ヴァイスはアッハッハと笑い、そしてやはり笑顔を崩さぬまま、
「今度模擬戦あんだろ?スバルと仲直りしとけよ」
「別に、喧嘩してるわけでもない」
「そうかよ」
彼はそう言い残すといつの間にか居なくなっていた。
ティアナは練習を再開した。
だが、どうも調子が上がらず、スコアは先程の半分になってしまっていた。
つづく
「はやてはユーノ君が好きなん?」みたいなのが感想にありましたので、必要ないかもだけど解説します。
にじファン時代に書いてた二次にガンダム×なのはのクロスオーバーものがあって、それのStS編ではやてとユーノがオトナのお付き合いしてたんです。で、はやての懐妊した胎児がラストで重要な役割を果たす予定だったんです。規制で完結できなかったけど。
今回の小説でその設定若干引っ張ってるんですね。でもぶっちゃけ本筋と関係ないし、まぁ結局のところ書いてる本人にもよくわかっていません。勝手に妄想してください。
誤字、脱字を知らせることができたら貴方は幸せになれる。