俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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無性にフィンランドに行きたい。あとスイスにも行きたい。でもフィン語もドイツ語も分かんない。


8.焦燥と嫉妬

スバルとティアナの強みは、やはり何と言っても互いの長所を生かし、短所を補いあうそのチームワークであった。一般的な魔導師としての強さは主に魔力の強大さやその人の技能で分別されるが、優秀な魔導師はそれだけが強さの指数でないことを知っている。

 

「楽しみだな~」

 

穏やかな陽気の中、今度の対隊長模擬戦の舞台となる廃棄都市区画をなのははクルクルと駆け回っていた。それをフェイトが苦笑いしながら追う。

 

「楽しみって?」

「フェイトちゃんは楽しみじゃないの!?」

 

今度の模擬戦は新人達が『新人』を脱却するための重要な模擬戦である。ここでこれまでの成果を隊長にぶつけるのだ。

無論、フェイトもエリオとキャロがどれだけ成長したた楽しみである。だが、なのはの言う楽しみはこのような建設的な物とはあまり言えない。

 

「成長したあの子達は、ボコりがいがありそうだし」

「まぁ、なのははそうだろうね……」

「それ以外何があるの?」

 

なのはは心の底から理解できないといった調子で首を傾げた。その間違った方向に純粋無垢な彼女の顔を見てフェイトは少し呆れながら、話題をスバルとティアナに移した。

 

「そう言えば、あの二人、最近喧嘩気味らしいけど?」

「えっ? 何それ」

「まぁ、なのははそうだろうね……」

 

知らないだろうから話題に出したのだ。なのははどうしてもそういった仕事はヴィータの管轄だという認識を持っている。訓練の際の教導は彼女が率先している(スケジュールはヴィータが作っている)ものの、それは教導官としての仕事だし、隊長としての仕事はほぼしていないにも等しい。

良くも悪くも彼女はワンマンアーミーなのだ。

 

「大丈夫だよ。あの二人の持ち味は信頼関係その物でもあるからね」

「そう……」

 

そう言えば、とフェイトは思い返す。

昔のなのはは今ほどワンマンアーミーでは無かった。

闇の書事件の時は背中を合わせ、スバルとティアナよろしく互いを補い、励まし合いながら戦った。それ以降も、任務を共にする仲間に全幅の信頼を寄せ、少し無茶なところはあったものの仲間との『和』を重んじていた。

それがいつからこうなったのだろう。

いつから彼女はワンマンアーミー(というより一人宇宙戦艦)になってしまったのだろう。

気がついた頃には彼女はあんなバスターハッピーの超人類になっており、昔と比べると私生活でもどことなくよそよそしくなっていた。

かつての信頼関係は今の私となのはには無い……。

 

「フェイトちゃんどうしたの?」

「いや、何でもないよ」

 

そう曖昧に返事をするとフェイトは近くのビルの壁を軽く小突く。すると、塗装と劣化したコンクリートがポロポロと剥がれた。

 

 

模擬戦は午後から始められる。

それまでフォワード陣は緊張しながらそれへの準備をしていたのだが、スバルの緊張はその模擬戦に向けてのものではなく、どちらかと言うとティアナへのものだった。

ティアナはここ数日、ろくに口を利いてくれない。会話と言えば事務的なものだけで、向こうもどこかスバルのことを避けているように見えた。

 

「どうしようかなぁ」

 

スバルから見てティアナはとても危うい状況にある。今のティアナは理性ではなく焦燥感に突き動かされているように見えるのだ。

「焦った方が負けよ」

 

と言っていたのはティアナ本人なのだが、その事を覚えているのだろうか。

舞台となる廃棄都市は数年前の港湾での大火災の際に放棄されそのままとなっている区画である。人影は勿論無く、ひび割れたコンクリートの隙間から生えているちょっとした 草花と下水道から上がってきた鼠がここの支配者である。そんな場所であるから局の方も絶好の訓練場所だと気に入り、都市区画は未だ整備はされていない。

 

「模擬戦はまず、スターズ分隊から行う」

 

区画の一角にある大きなビルの上でシグナムは大まかな流れを説明していた。

 

「ルールは簡単だ。隊長を撃墜するか、お前達が撃墜されるか」

 

そう言いながらシグナムはスターズ分隊の二人をチラと一瞥してから、「全員配置につけ」と号令した。

二人は開始位置をビルの一室に定めた。そこからなら向こうに見えるなのはの不意を突けると考えたからである。

開始一分前になり、スバルはティアナとろくな作戦会議をしていないことを思い出し、隣で愛機の手入れをする彼女にそっと声を掛けた。

 

「ティア」

「……何よ?」

 

答える声はひどく不機嫌である。

 

「作戦みたいのって、無いの?」

「作戦?」

 

ティアナは眉間に皺を寄せて軽く唸ると、不意に微かながら怒りを発してスバルに吐き捨てた。

 

「アンタが考えれば? 私なんかより、優秀なんだから」

「えっ?」

「始まるわよ!」

 

スバルはティアナの顔に一瞬だけ怒りとは別のものが過るのを見逃さなかった。だが、模擬戦開始のカウントダウンが始まり、それについて訊く余裕は無かった。

もっとも、訊いたところで余計に怒らせるだけだとは思うが。

 

『状況開始!』

 

開戦の合図が鳴った。

スバルはウィングロードを展開しながらビルを飛び出し、なのはの周りをぐるぐると回って足場を形成した。作戦はなくとも、航空魔導師であるなのはと対等に渡り合うには立体的なフィールドが必要である。

なのはは状況を窺っているようで、目立った行動はしていない。彼女を取り囲むように走った後、スバルは距離を置いた。

 

(ティア……どうするの?)

 

ティアナがウィングロードを駆けて来ることは無かった。姿を見せないのは、何か作戦があってのことだろうか?

 

「スバル、もうバテたの?」

「う……?」

 

スバルは余裕のなのはに指摘されて自分の息が荒くなっていることに気付いた。

焦っている……。ティアナがどこで、何をして、何を考えているのか分からないからだ。

 

(ティアには、作戦があるんだよね……!?)

 

今のスバルには自分が何をしてもティアナの足を引っ張る結果になるのではないかという恐れがあった。

それを見抜いているのか、いないのか、なのはは不思議そうな眼差しをじっと動かないスバルに向けていた。

数分……実際はものの数秒だったのだが……二人はじっと対峙し続けた。

緊張状態を先に破ったのはなのはの方である。彼女はその妙に視力の高い目で遠くのビルの上で狙撃しようとしているティアナを見つけたのだ。

彼女は舌嘗めずりしてからスバルに小さくウインクするとティアナの方へヒューンと飛翔していった。

 

「まずい!」

 

スバルは慌ててそれを追いかける。

 

「ティア! 退いて!」

 

有らん限りそう叫んだが、ビルの上のティアナは動く気配を見せない。なのはは何やら大技を出す気満々のご様子で、カートリッジを数発ロードしている。

 

「ティアー!」

 

ビルへなのはの背中越しにそう叫び続ける。と、その時。

なのはが急ブレーキをかけた。

 

「!?」

 

突然の停止に戸惑いながらもスバルは少しバックして距離を置く。

なのはは何かに気付いた様子で、野性動物か何かのように鼻をスンスンさせている。その行為自体には何の意味も無いのだろうが、妙な異常性は孕んでいた。

 

(これは……チャンスなのかな?)

 

今、なのはの注意は少なくともスバルからは逸れている。ならば、後ろから仕掛ければ撃墜できる。

それはとてつもなく卑怯なことである。だが、実戦で隙を見せればすぐに落とされてしまう。なのははその初歩的なミスを犯しているのだ。

スバルは。決意した。

 

「行くよ、マッハキャリバー!」

《OK!》

 

スバルはリボルバーナックルを回転させてなのはの背中に飛び掛かった。なのはは意外なことに全く気付いていない!

 

「とった!」

 

撃墜を確信した。

だが、勝利の希望はあまりにも想定外な事態により脆くも崩れ去ってしまう。

彼女をオレンジ色の魔力弾が襲ったのだ。

 

「っ!?」

 

弾は数発放たれたようで、半分は足元に着弾し、残りの半分はプロテクションで何とか防御できた。

 

「スバル! 退きなさいよ!」

 

くき聞き慣れなた声が鼓膜を打つ。その声は目の前のビルの上からではなくその横のビルの中ほどから聞こえた。

 

「ティア!?」

「退きなさいよ!」

 

ビルの上のティアナは幻影だったのだ。本物は隣のビルからアンカーでぶら下がりながら機会を狙っていたのだ。

 

「ティア、大丈夫なの?」

「いいから! 早くウィングロードを展開しなさいよ馬鹿!」

 

叫ぶティアナの目は血走っている。その気迫に気圧されながらスバルは言われるがままなのはを囲い混むように走り回った。なのはが逃れようとするから、ついでにそれも阻止しなければならなかった。

ティアナも魔力弾を次々と放ってくる。だが、いつもの精密さも冷静さもなく、ただ遮二無二撃っているようであった。数発がスバルを掠める。

 

「スバル、避けなさいよ!?」

「無茶言って!」

「何!?」

 

二人のやりとりは自然に怒気を孕み始めていた。スバルはティアナの身勝手さに、ティアナは思い通りに行かない苛立ちに、それぞれ怒り始めていた。終いには、ティアナが、

 

「私がやる!」

 

とクロスミラージュの先端に銃剣を顕現させ、足元のウィングロードを蹴るとなのはに飛び掛かった。

 

「迂闊だ!」

 

スバルは悲鳴のような声をあげる。しかし、全く本当に運が良いことに、その飛び掛かったコースは偶然にもなのはからしてかなり防御しづらいコース、直上からの攻撃であった。なのはも、何故か先程から動きが鈍くなっている。

ティアナは血走った目に微かな笑みを浮かべた。

だが、なのははそれほど易々と撃墜される人柄ではなかった。

彼女はクロスミラージュを突き出して突撃してくるティアナをキッと睨むとそのまま手を伸ばし、あろうことかその銃剣の刃を素手で、魔力でコーティングすること無く掴んで受け止めた。

 

「えっ!?」

「うっ!?」

 

想定外のことに二人は悲鳴に近い驚愕の声をあげた。

 

「……残念だ」

 

なのはは刃を握りながら、俯き加減に首を振り、呟く。

 

「残念だ、落胆した、期待はずれだ……。二人はきっと良いコンビネーションで私を翻弄してくれると思ってたのに」

 

刃を握る手からは血が流れ、なのはの腕をツゥーッと伝っていた。その光景に耐えられなくなったティアナは銃け形態を解き、後ろに飛び退いた。

 

「何が期待外れですか! 貴女やスバルと違って才能の無い私に、何を期待していたと言うんですか!」

「才能が無い……?」

 

スバルはなのはを撃墜するという課題も忘れ、顔をくしゃくしゃにしたティアナを見つめていた。ティアナは震える手でクロスミラージュを構える。

 

「どれだけ頑張っても、どれだけ練習しても、みんなと違って私は……!」

「私は、何?」

 

そう問いかけるなのはの声は優しく、無感情なものだった。ティアナは答えの代わりに叫び声をあげ、引き金を引いた。

放たれた弾丸はなのはの横に逸れ、空中で霧散した。

 

「本当、自分の本当の強みを理解できないのは、不幸ね」

そう言うとなのははガタガタと震えるティアナにストレンジ・ハートの先端を向けた。それが何を意味するのか、スバルには容易に想像できた。

 

「なのはさん! 止めてください!」

「スバルは、じっとしてて」

 

なのははスバルを一瞥すると素早く五重のバインドをかけた。強力な拘束を五つである。スバルに、破る力は無い……。

 

「ティア! 逃げなくちゃ! 早く!」

 

なのはに狙われているのは幻影のティアナではない。だが、ティアナの答えはNOだった。

 

「嫌よ!……逃げるもんですか、逃げるもんですか!」

「良い度胸じゃない」

 

なのはは少し感動した様子で身を微かに震わせた。

 

「ディバイン……」

「ティア!」

「バスタァァァ!」

 

桃色の濁流は全く自重する気配を見せずにティアナに迫り、その身体を呆気なく飲み込んだ。

スバルの絶叫。

余波で砕けるビルの音。

模擬戦中止を伝える放送の声。

それらを聞きながらティアナは不思議な温かさと落下する感覚を体感していた。そして、突然、まるでテレビの電源を落としたかのように、辺りは真っ暗になった。

 

 

 

 

「……う……」

 

ティアナが目を覚ましてまず目に入ったのは清潔そうな白い天井と自分を取り囲む白いカーテンだった。次に背中にフカフカした感触を感じ、自分が医務室のベッドに寝かされてる事を理解した。

しばらく天井を眺め、ふと左に目をやると備え付けの椅子の上でグッスリ眠るスバルの姿があった。

 

「目が覚めたのね?」

 

カーテンを開け、シャマルが顔を覗かせる。

 

「あの、私は……」

「模擬戦で、ディバインバスターに飲み込まれたのよ。ちょっとした騒ぎになったわ」

「……すみません」

 

謝るとシャマルは微笑みながら「いいのよ」と言ってくれた。

ティアナは上体を起こして時計を見る。時刻は九時をとっくに回っていた。

 

「お腹空いていない?」

「はい」

「食堂から何か持ってきてもらうわね」

 

シャマルは顔を引っ込ませて連絡を取りに行った。ティアナはベッドからゆっくりと降りて、自分が使っていたシーツを寝息をたてるスバルにそっと被せた。

 

しばらくとせず食堂の人がプレートにシュークルートとパンを二つ、蜂蜜入りのホットワインを載せて持ってきてくれた。食事は医務室の隅にあるテーブルに置かれ、ティアナは席についた。

 

「シャマル先生、色々、ありがとうございます」

「フフッ。お礼なら、スバルに言ってあげなさい」

 

シャマルは紅茶を淹れるとティアナの向かいの席に腰をおろし、食べるように促した。ティアナは皿の上の豚肉を切り、ナイフとフォークで器用にザウアークラウトを載せると口に運んだ。塩味が妙に滲みる。

 

「スバルね、貴女につきっきりだったのよ」

「……スバルが?」

「そうよ」

 

ティアナは閉められたカーテンへ目を向けた。中では相変わらずスバルが眠りこけていることだろう。

 

「私、スバルに酷いことしたのに……」

「確かに、怒ってたわね。でも、心配の方が勝ったみたいよ」

 

紅茶をすすり、あまり美味しく淹れられなかったのかシャマルは顔をしかめる。ティアナはパンを千切ると口に放り込んだ。

 

「私スバルが羨ましいんです。ヴァイス陸曹は嫉妬してると言ってたんですけど、やはりそうなのかも」

「嫉妬自体は別に悪いことじゃなくってよ?」

「その理屈は、わかります」

 

そう答えてホットワインを手に取ると手の平に挟み弄んだ。蜂蜜の甘い匂いと、まだ微かに残っているアルコールの匂いが複雑に混ざって彼女の鼻をくすぐった。

 

「でも、それだと益々自分が惨めになってしまって……」

「………」

 

室内にしんとした空気が流れた。夜の静けさは耳に痛い。

ティアナはまだ納得していないのだ。具体的に何が、と訊かれれば答えに窮するのだが、自分の中で決着のついていない部分があるのを感じていた。

しかし、今のティアナはそれを解決する術を知らない。

 

 

 

続く




シュークルートは僕が今一番食べてみたい料理の一つ。詳しくはググれ!

皆もなのはさんの期待を裏切らないようにね。

誤字、脱字、その他諸々あればくださいまし。
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