俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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なんか今回いつもに増してうまく書けなかったわ。
変なミスがあれば教えてくださいませ。


9.誕生秘話

模擬戦以来、ティアナは益々口を利かなくなった。

しかし、以前のようなピリピリした感じではなく、何かに悩んでいるような、そのような感じであった。仕事や訓練をこなし、さっさと自室に戻って布団にくるまってしまう。

スバルを始めフォワードの面子は心配になってヴィータに相談したが、彼女は美味しそうにケーキを食べながら、

 

「若者には考える時間が必要なんだよ」

と、見た目に全く似合わない講釈を垂れるだけである。

 

「ティアさん、大丈夫ですかね……」

 

エリオとキャロは心配そうに呟く。しかし、スバルは二人ほどティアナのことは心配していなかった。

確かに、ティアナは焦燥感から怒っていたし、スバル自身もらしくなく苛立ってしまった。それでもティアナは眠っているスバルにシーツをかけてくれたのだ。

だから、きっと大丈夫である。

 

 

ティアナ・ランスターが自分のベッドで目を覚ましたとき、いつかと同じようにいつの間にか夜の九時を回っていた。いくら非番だからと言って少し弛んでいる気がしたが、すぐにその考えを隅に追いやった。

 

「………」

 

寝返りを打って横を向くと共同で使っている机の上に食事が置かれているのが見えた。ベッドを降りて近づいてみると、横に手紙も添えられている。

『大丈夫? 無理しないでね』

 

「スバル、アンタは優しすぎるよ……」

彼女は小さく息を吐いて食事にかけられていたラップを剥がした。そこにはパンとサラダ、シチューが置かれている。シチューの冷め具合からして、それほど時間は経っていないようだ。

席につき、スプーンを手に取る。

すると、まるでそのタイミングを見計らっていたかのようにサイレンが鳴り響いた。

 

『M23区臨海部にガジェット・ドローン出現。タイプは……』

 

ティアナは放送を聞くのもそこそこに、手にしていたスプーンを置くとハンガーにかけてあった上着を素早く羽織り、部屋を飛び出した。

 

 

隊舎屋上のヘリポートでは出撃のためヘリがローターをゆるゆる回転させていた。整備員が忙しく駆け回る中、隊長達を前にフォワード達が一列に並んでいる。その列へ、ティアナが滑り込むように入って来た。

 

「ティア、大丈夫なの?」

「平気よ……遅れました」

 

申告すると、隊長達は頷き、ヴィータが「今回は」と口を開いた。

 

「隊長及び副隊長のみで出撃する。夜間の空中戦だからな」

「副隊長、私も行かせてください」

 

そう一歩前に出て言ったのはティアナだった。スバル達が驚くのも気にせず、彼女は上着の襟を整え直し、もう一度、

 

「行かせてください」

「ダメだ」

 

ヴィータの答えは素っ気ないものだった。叱っているのとは違う事務的な声である。

 

「副隊長!」

「なのはに訊いてみな」

 

ティアナは次はなのはに食い下がった。いつもの彼女には見られないある意味貴重な光景である。

 

「ダメだよ、なんか調子悪いみたいだし、第一陸戦魔導師が夜間空中戦なんて」

「お願いです……援護なら出来ます! ヘリからの狙撃なら!」

「ダメなものはダーメ」

 

なのはの口調は自然と子供をあやすような調子になっていた。そのことはティアナの自尊心を引っ掻くようにじわじわと傷付けていく。

ティアナは声を荒げた。

 

「何でダメなんですか! 私に、才能が無いからですか!? スバルやキャロやエリオみたいにめざましい成長が無いからですか!?」

「そうじゃないよ」

「私だって死に物狂いで頑張っているんです! もっと成果を上げたいんです! お願いです!」

 

なのはは見たことの無い剣幕に困った様子で頭をポリポリと掻いた。その仕草の一つ一つがティアナを苛立たせる。彼女は掌を血が滲むのではないかというほど握りしめ、今にも殴りかかりそうな気配である。

スバルは止めようかと思った。なのはは案外平気かもしれないが、ティアナがただでは済まないと思ったからだ。しかし、どこかここで手を出してはいけないという考えもあり、おどおどしてしまった。

 

「ティアナには才能があるよ。その方向性がまだ定まっていないだけで」

「そんなのって……」

 

なのはが何を言おうとティアナにとっては無駄なことだった。彼女の焦りは消えてはいない、むしろ増大しているのだ。彼女は本当になのはに飛び掛かりそうになった。

その時であった。

吼えるティアナの襟をシグナムが掴み上げて引き寄せると、そのまま横薙ぎに殴り付けたのだ。守護騎士の将たる彼女の一撃は重く、ティアナは地面にもんどりうって倒れこんだ。

 

「シグナム……」

 

横で傍観していたフェイトがシグナムを諌めようとするが、彼女はそんなフェイトを手で制すと頬を押さえたまま呆然とするティアナの襟を掴んで今度は持ち上げた。

 

「貴様は赤ん坊じゃないだろう。分別くらいつけられんのか」

「違いますよ……私には才能がないから、死ぬ気でやらなきゃダメというだけなんです」

「………」

 

シグナムは目を伏せるティアナを一睨みするとその手を放してドンと押し飛ばした。よろけたティアナはスバルに受け止められる。

 

「先輩の思いを理解出来ん奴はいつまでも二流のままだ。少し頭を冷やせ」

 

そう言い捨ててシグナムはツカツカとヘリに乗り込んでいった。続いてヴィータ、フェイトもこちらを振り向きながらヘリに乗り込んでいく。ただ、なのはのみが何か言いたそうな様子で残っていた。

 

「あのさ……ティアナ」

「なのは! 急げよ」

 

しかし、ヴィータの急かす声に遮られ、彼女は未練な面持ちでヘリに乗り込んでいった。

ローターの回転数が上がり、ヘリはふわりと浮き上がる。そしてそのまま突風を巻き起こしながら上昇し、しばらくすると星空の中に消えていってしまった。

見えなくなるまでフォワード達は、特にティアナはそれをずっと見つめていた。

 

 

その後四人は眼鏡オタクでお馴染みのシャーリーに呼び出され、隊舎の一角にある小さな映写室にやって来た。何やら見せたいものがあるらしい。特に、ティアナに。

 

「みんな揃ったね?」

 

何時もは明るいシャーリーだが、今日は神妙で不安気な雰囲気である。彼女は部屋の明かりを落とすとよく手入れされた映写機のスイッチを入れ、端末を操作し始めた。

四人の前のスクリーンには一枚の写真が映し出される。

そこには小さな女の子が数人写っていた。真新しい局の制服を着て緊張した面持ちである。

 

「これ、誰だかわかる?」

「えっと……一番右の人がフェイトさんで……」

「その隣が八神部隊長?」

 

エリオとキャロが答えるとシャーリーは手をうって正解!と言ってくれた。しかし、一番左の、頭の両サイドから髪の毛をちょこんと生やした、優しげな少女が誰だか分からない。

 

「皆のよく知ってる人だよ」

「……?」

 

皆目検討つかない。だが、ティアナがそっと手をあげて、

 

「もしかして、なのはさんじゃない?顔立ちが似てる」

「えっ?」

 

しかし、スバル達は「まさかぁ」と一笑した。

 

「なのはさんが大人しく写真取るわけ無いじゃん!前だってストレンジ・ハートを持ちながら撮影してたんだから」

「そうですよティアさん」

「……みんな結構ひどいのね」

 

シャーリーは苦笑しながらそう言う。読者諸君は分かったかもしれないが、写真の一番左に写っている少女というのは高町なのはその人である。

その姿(というか雰囲気)はフォワード四人の知るなのはとは別人に思えた。

 

「なのはさんは、魔法に出会う前はごく普通の、理系教科の得意な女の子だったの」

「ごく普通の……なのはさんが?」

 

日常的に触れ合っている四人にとってのごく普通の高町なのはというのは、砲撃が趣味でそれに性的快感を感じてしまう変態のことである。しかしシャーリーはなのはに世間一般的に『ごく普通な』時期があったのだと言う。

 

「じゃぁ、魔法を知ってからあんなのになっちゃったんですか?」

 

エリオの言葉にスバルが「失礼だよ」と言ったが、彼女もそのことは気になった。いつ、何があって今のバスターハッピーが形成されたのだろう……。

 

「ううん。なのはさんは友達思いで、この力を人の役に立てたいといつも考えているような優しい女の子だったよ」

「砲撃好きではなかったんですか?」

「別に。砲撃系は得意だったけど、他にもいろんな戦法を編み出してくれたのよ。私達が使った教導書にも幾つか載ってたんだから」

 

なぜか自慢気に話すシャーリーに全員がウンウンと頷く。だが、またも彼女の表情にサッと影が射した。

 

「あの事件があってから、全て変わってしまったの」

「あの、事件?」

「そう」

 

彼女は端末を数回叩き、映っている画像を切り替えた。

 

「……う!?」

 

その画像は四人にとってあまりにも生々しすぎた。

画像には血塗れのなのはが写し出されていたのだ。

恐らく雪原地帯であろう、大きく抉られたお腹や首元から大量の血を流し、雪に染み込ませている。瞳は虚ろに開かれ、ヴィータであろう魔導師や数人の医療スタッフが必死で介抱していた。

 

「十一の頃、なのはさんは本当に、本当に些細なミスのせいで大ケガを負ったの」

「些細な、ミス?」

 

ティアナが不思議そうな顔をする。

 

「日頃の無茶な練習が祟っての、判断力欠如だよ」

 

それを聞いた途端、不思議そうな顔をしていたティアナの顔に衝撃の色が浮かび上がり、目を見開いたままゆっくりと下を向いた。

室内に沈黙が広がり、数秒を経てシャーリーが話を続ける。

 

「その後なのはさんは病院に入れられて、半年以上面会謝絶の状態が続いたの」

「あんな大怪我しましたもんね」

 

エリオとキャロは少し怯えながらもしっかりと話を聞いていた。

 

「フェイトさんや八神部隊長はずっと心配していたらしいよ。当然だね。そしてね、半年と少し経って、なのはさんは退院できたの。バスターハッピーに生まれ変わって……」

「えっ」

 

シャーリーは感動的だと言わんばかりに涙を流し、ハンカチでそっと拭っている。しかし、あまりにも唐突な生まれ変わりにスバルは困惑の声を上げた。

 

「すみません、意味が分からなかったんですけど……」

「きっと入院中に色々あったのね」

「いや色々って……」

 

しばらく会っていない人に会うとすっかり雰囲気が変わってしまっていることはあるが、ここまで人間が劇的に変わるものなのだろうか。かつての優しげな(今も優しげではあるが)な高町なのはとはまるで別人である。

 

「退院後のなのはさんは凄かったらしくて、あっという間にSランク到達だったらしいわ。当然だね」

「人が変わるってここまで変わるものなのかなぁ……ねぇ、ティア」

 

疑問に思ったスバルは隣に座るティアナに話を振った。が、驚いたことにティアナは俯いたまま激しく嗚咽を漏らしていたのだ。顔を覆った手のひらからは涙が伝っている。

 

「テ、ティア?」

「ひっぐ、まさか、なのはざんにえっぐ……そんな過去があったなんてウッグ」

「ティア、何を泣いてるの?」

「ウエッ……だって、なのはさんは私に、自分みたくなって欲しくないと思って……ヘッグ」

 

ティアナか顔をクチャクチャにしながら泣いている。シャーリーの講義を受けてどうやか感銘を受けたらしい。退院したら人が変わっていたということは気にならないのだろうか。

 

「入院したら、人柄ぐらい変わるわよ……ウエッ」

(ティアって結構チョロいや)

 

しゃくり上げるティアナを見ながらスバルはそう思った。だが、そんなティアナの様子を見る限り色々と吹っ切れたような印象があった。そのことはスバルを大いに喜ばせる。

とにもかくにも、なのはさんに感謝、である。

 

 

夜の薄暗いオフィスで書類をまとめていたヴィータのもとへティアナが訪ねてきたのは零時を回ろうとしていた時であった。入り口で気まずそうに立っているティアナに不思議に思ったヴィータが声をかける。

 

「オイ、就寝時間は過ぎてるぞ」

「すみません……あの、なのはさんは?」

「アイツはもう寝たよ。SLBを五連発だったから、帰ってきてすぐ寝た」

 

そう言うヴィータはどことなく忌々しげである。恐らく、今打ち込んでいる書類は始末書であろう。本当に世話女房な人である。

 

「どうしたんだ? 伝言なら伝えとくぞ」

「あ、ありがとうございます……実は……」

 

ティアナの言ったことを一言で纏めるなら、謝罪であった。自分の未熟さや思慮の浅さを彼女は少し気恥ずかしそうにヴィータに伝えた。ティアナは若干緊張して要領の得ない話し方も度々したが、ヴィータは全て黙って聞いた。

 

「そうか……。お前は、自分の成長が感じられないことにもどかしさを感じていたんだろ?」

「はい……」

「ふぅん」

 

ヴィータは椅子の背もたれに寄り掛かりうんと背伸びをした。そして立ち上がるとティアナの元に近づき、腰をポンポンと叩いた。

 

「なのはも私も、ちゃんとお前達の成長は見てるぞ。口先だけじゃない、お前にはリーダーとして新しい戦い方だって教えようと思っていたんだ」

「えっ?」

「なのはが言ってたぞ。お前は私たちに無い、秘めたものを持っているってな」

 

驚くティアナを置いてヴィータは小さく笑いながら部屋を後にしようとした。そして、その去り際に振り向いて、「そうそう」

 

「お前が謝るべき人はなのはじゃないぞ。もっと他にいるはずだ」

「謝るべき人?」

 

ティアナの問いに答える人はいなかった。だが、電気の消えたオフィスで、彼女はそれが誰なのかをハッキリと理解していた。

 

 

 

 

高町なのはは朝練を前にして海辺に立ち、瓶入り牛乳を腰に手を当てながらゴクゴクと飲んでいた。無論、仁王立ちである。

 

「……プハァ! やっぱり海に向かって飲む牛乳は最高だね!」

「おう、私の分は無いのか?」

「あ、ヴィータちゃん! うん、無いよ!」

 

明るい笑顔で否定するなのはにヴィータは呆れながら微笑んだ。

 

「せっかく昨日はお前の顔を立てといたのにな」

「ふえ? なんの話?」

 

ヴィータの言うそれは昨深夜のティアナに話したことである。

実は、ヴィータの話した内容の半分以上が口からの出任せであった。

と言っても、彼女がティアナに期待しているのは本当であるし、近々新しい技術を教えようと思っていたのも事実である。ただ、『なのはが言っていた』ことは本当に出任せである。

 

「まぁ、いいさ。ところで、なのは」

「なに?」

「昨日の夜の出撃の時、ティアナに何て言おうとしてたんだ?」

 

昨晩のスクランブルの際、シグナムに殴り飛ばされたティアナに彼女は何か言いかけていたのをヴィータは見逃していなかった。

なのはは一瞬何のことか分からないといった顔をしていたが、「ああ、あれか」とすぐに合点いった様子で笑顔を見せた。

 

「あれね、ティアナにちょっと頼まれてほしいことがあったの」

「なんだ?」

「レンタル屋さんにアニメ返してきて欲しいって」

「……は?」

 

てっきりなのはなりにティアナを気遣っての呼び掛けかと思っていたヴィータはその想像の斜め上を行った回答に思わず拍子抜けしてしまった。

 

「延滞料金を払いたくなくてさ。でも、いいの。良い映画だったから」

 

うんうんと一人感動の余韻に浸るなのは。それに対しヴィータは拳をワナワナと震わせていた。

 

「やっぱり良いね、地球のアニメは。 あ~あ、私も着てみたいな、プロテクトギ……」

 

そこまで言うとなのははヴィータの蹴りによって海に突き落とされた。

景気良く水しぶきが舞い上がり、太陽の光にキラキラと輝いている。

もうすぐで、夏であった。

 

 

つづく




次回、ついに運命の少女が登場!(するかもしれない)
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