イチョウが降りてきます。
空に浮かんだお天道様の光をいっぱいに浴びて、そのイチョウの森はきらきらと明るく光っています。
その中を二人の少女が歩いてきました。
一人は茶髪に黒い帽子。帽子についた大きくて白いリボンが揺れています。彼女は一面に敷き詰められたイチョウの絨毯をくしゃくしゃ鳴らしながら歩ています。
もう一人は金髪の少女でした。彼女はイチョウを見上げながらゆっくりと歩いています。だから前を歩いている少女、宇佐見蓮子がくるっと後ろを向きます。ただ足は止めません。
「メリー。早く」
「待ちなさいよ。蓮子」
メリーと言われた少女ははあと息を吐きます。秋の暖かい日を楽しんでいるのですが、それは蓮子には少し退屈なようです。メリーは少し足を速めました。そんなとき、イチョウの一枚が彼女の頭に降りてきます。
「あっ」
メリーはそれを指でつまみます。鮮やかな黄色に染まった一枚の葉。
その細い部分を指で挟むように持ってクルクルと回します。
「あ、あれ!」
その元気な声がメリーをはっとさせました。見れば前を歩く蓮子がずっと先を指さしています。
立ち並ぶイチョウの木々に囲まれるように、1つのお社がそこにありました。
古ぼけたお社です。そこまでの道はイチョウの絨毯が敷き詰められています。
「あれが目的の神社……神社って感じじゃないわね」
メリーは思ったことをそのまま言いました。ただ、少し綺麗だと思ったのは黙っています。
蓮子はメリーを振り返ります、イチョウの木々を背にスカートがふわりとするほど勢いよく。メリーは一瞬目を奪われてから、はっとして首を振ります。
蓮子は逆にいたずらっぽく笑います。
「メリー。ここのご利益は縁結びらしいわよ」
その声音にからかうような含みがあります。メリーはむっとしました。
「それなら蓮子がよく祈ったらいいわね」
ふんっとほんのりほっぺたを膨らませてメリーは横を向きます。
それでも「反撃」をやめません。彼女は口元をにやりとして、流し目で蓮子を見ます。
「まあ、蓮子はどことなく男の子っぽいところもあるし、そーゆー縁は難しいかもしれないわね」
少し強引なところも、いつも元気なところからもメリーはそう思うのだ。
「どうせなら男装でもしてみたらどうかしら」
ちょっと調子に乗ってメリーは言います。
蓮子もそれにはむっとします。彼女は落ち行くイチョウを見ながら、ぱぁと笑い。それをだんだん悪いことを考える笑いにしました。そこまでいうなら男の子の真似をしてみましょう。そう思ってしまったのです。
「あーあー」
蓮子はできるだけ低い声を出そうとします。
彼女はずいとメリーに近寄ります。メリーはなんとなく変な雰囲気にぎょっとして後ろにさがります。
くしゃり
足元でイチョウが音を鳴らします。
メリーは背中に何かがあたりました。後ろには大きな木の幹があります。蓮子が少し近づいてから、
ドン
メリー頭のすぐ上に手をだして、木に手をかけました。彼女は作った凛々しい顔でメリーを見下ろします。自信に満ちたその顔をメリーは呆然として見ています。
「好きだぜ、メリー」
蓮子の声がメリーの耳に響きます。
ただ、
「あ、あ、やっぱいまのなし」
両手で顔を押さえて蓮子が逃げ出します。やってしまったら意外と恥ずかしかったのでしょう。
メリーははあと息をついて、胸に手を当てました。
とく とく とく
ほんのり顔が熱いのは気のせいでしょうか。メリーは上目づかいで逃げていく「情けない蓮子」みつつ、その桃色の唇をかくすように、さっきのイチョウをかざしました。
「わたしも」
小さな声でそう言います。