特に深く考えずに書いた内容なので、細かいことは気にせず頭を空っぽにしてお読みください。
寝起きがいいのは得だと、個人的には思う。
「早起きは三文の得」とかそういった理由からではなく、単に眠気と悪戦苦闘しなければならない辛さを味わわなくて済むからというだけの話なのだが。
幸いにして子供の時分から頗る寝起きが良く、その点に限っては
なので自分こと
乱れていたベッドを整頓してから部屋を出ると、ある人とちょうど鉢合せとなる。
「おはよう善夜」
「おはようございます、白野叔父さん。……今日も徹夜してたんですか?」
「いや、今日は少し早く起きて気になった仕事を見てただけだよ。桜にも徹夜禁止を言い渡されてるしな」
そう言いつつ苦笑する男性は、名を岸波
プログラム関係の仕事をしておりその道では相当名を馳せているとのことだが、それ故か本人の気質のせいか、よく職場から朝帰りになったり徹夜で作業をしている場面を見ることがある。
「じゃあ、俺桜さんの手伝いに行きます」
「うん、いつもすまないな」
その言葉に「いえ、お世話になっているんですしこれくらい」とお決まりの返しをすると「だからそんなこと気にしなくていいって」と、これまたお決まりの反応を返してくれた。
それに対して互いに苦笑し、それぞれの向かう場所へと歩みを進める。
自分がその足で向かうのは台所―――岸波家の朝の戦場である。
「おはようございます、桜さん」
「あ、善夜くん。おはようございます。ふふ、今日もいつも通りですね」
「はは……もうこの家での習慣みたいなものですから」
言葉を交えつつ視界に入るのは二重、いや
薄紫のロングヘアに左即頭部へ結われた赤いリボンが特徴なその人物こそ、叔母である岸波 桜である。
手には調理具を手にしており、彼女が主婦の仕事をこなしているのは瞭然だった。
そして自分がすべき事も、分かり切っている。
「手伝います」
「はい、ありがとうございます。それじゃあ……―――」
「……じゃあ善夜くん。こっちはもう大丈夫ですから、
一通り朝食の準備が整うと向けられたその言葉に、頷きながら苦笑を浮かべる。
「分かりました……今更ですけど、年頃の男子が女子の部屋に入るって大丈夫ですかね。従兄妹同士とはいえ」
「あら……善夜くんはあの娘達に何か、いかがわしいことでも……?」
ぞわり、という悪寒と薄紫の髪がざわざわ揺れたのは気のせい……だと良いのだが。
「いえ、滅相もありませんっ」
「……クスッ、冗談です。まあ確かに善夜くんも健全な男の子でしょうけど、それ以上に相手を思い遣る優しい人だって知ってますから、その辺りはあまり心配していません」
黒く染まっているように思えた笑顔がいつも通りの暖かいものへと戻ったことに、ホッと胸を撫で下ろす。
「それに、あの娘達も善夜くんに起こされる方がいいでしょうし」
「……まあ起こし方は心得てますけど」
「フフッ……ではそれで構わないですから、お願いしますね?」
「分かりました。じゃあ行ってきます」
「はい、
……気を取り直しつつ向かった先は、岸波家の二階。階段を上りきるとそこには二つのドアがある。どれもこの家の住人が使っているもので、左右に分かれた部屋の内の左側を先にノックした。
コンコン、と程よい加減でドアを叩けば、「は、はいっ!」という聞き慣れた可愛らしい声がドア越しに聞こえてきた。
「
『あ、はいっ、起きてます善夜さん! すぐに行きますので!』
「OK。じゃあ優華の方を起こしてくるから」
『わ、分かりました! あの、気をつけてくださいね?』
「うん、善処するよ……」
アワアワとした様子がドア越しでも良く分かる従妹・岸波 芽愛の声と言葉に苦笑しつつ、今度は反対側の部屋へと体を翻す―――僅かな緊張を伴いながら。
「…………ッ」
ドアの前に立ってノックをしようとして―――『それ』を知覚し、全身が強張った。
ああ、自分はこの感覚をよく知っている。この家で暮らし始めてからというもの、幾度となくこの身を以て思い知らされているのだから。
手が汗ばむ。時期は春真っ盛り、暖気はあれども発汗などそうそうするものではない。故にそれが己の緊張と恐怖の顕れであることを自覚し、己への不甲斐無さに歯噛みした。
何をやっているんだ、岸波 善夜。今更この程度で尻込むというのか。お前はこの脅威に幾度となく直面してきたではないか。
今こそ、今日この時こそ、己は克服するのだ。克己するのだ。この恐怖を、そして何より己自身の弱さを。
「えっと……お、おはようございま―――善夜さん? 何して……あ(察し」
このドアは地獄の門だ―――汝、総ての希望を棄てよ。そんな囁きが己の心の弱さによるものであると自覚しつつ、しかし同時に決して間違った表現ではないと頷いてしまう。
血は繋がっていないが尊敬する
―――いや待て。この場面でそれをネタにするのは非常にアレだと思うのだが!? あと父親なのか母親役なのかはっきりさせたまえ!
何やら遠い中東辺りの鉄火場にいそうな父の声が脳内に直接届いたような気もするが今は瑣末なことだ。
―――善夜、当たって砕けなさい。大丈夫、いざとなったら
うん、ありがとう母さん。ところで二人はいつから新人類になったの? いや、7章のトラウマじゃなくてニューなタイプやイノベイト的な方の。
あと、そのネタは割とシャレにならないから勘弁してほしい。どこかの赤い暴君が主催するお祭りでは無効だし。
あぁっ晩鐘が、鐘の音が……!
(善夜さん、また変なスイッチ入っちゃってる……でも真剣な姿も格好いいなぁ……)
何やら失礼なことと嬉しいことを言われた気がするが、気にしないでおこう。
それにしても後ろで顔を赤らめながらモジモジしている芽愛がなんとも愛らしい。いぢめたい。
俺の従妹がこんなに可愛くていじめたくなるのが辛いッ!!」
「はうっ!?」
ぼふん、という効果音がしそうな感じで下従妹が顔を爆発もとい紅潮させているが気にしない。
なんか口から心の声的なものを漏らしてしまった気もするが、気にしない!
「かわいい……かわいいって言われた……いじめられるのは嫌だけど……善夜さんになら―――」
「……よしっ」
準備は整った。後ろから聞こえてくる独り言はスルーする。
震えは治まっていない、恐怖も消えてはいない―――しかし、足は進むし手は動く!
なら、ならば前進せずしてなんとする!!
いざ!!!
―――コンコン。
停まっていた手を動かし、強すぎず弱すぎない加減でドアをノック、そして待機。
……10秒……20秒……30秒…………1分経過。
第一段階、失敗と判断。しかし気にはしない。元よりこれで済むなどとは思っていないから。
「……
返答は無言と無音、だが挫けない。
戦々恐々とドアノブに触れる。金属のほんのりとした冷たさが、この時ばかりは凍土の如きものに感じられた。
ガチャリ、という音を鳴らしながら回されるドアノブ。入室への工程が一つ一つ進む度に心臓の鼓動が高まる―――もちろん興奮ではなく、恐怖から。
それでも、岸波 善夜は止まらない!
「……入るよ?」
回転しきったノブ(魔王・ガーチャーではない方)を握ったままゆっくり押せば、ドアは軋みなどあげることなく静かに開いた。
視界に広がるのは薄暗闇に覆われた部屋。もっとも中の構造は把握しており、薄っすらとした輪郭が判別できれば事足りた。
重しを着けたかのような一歩をゆっくりと、廊下から室内へ踏み入れる。続けて二歩目、三歩目―――一つ歩みを進めながら目標に近づく緊張感たるや、さながら目の前の時限爆弾解体に赴く爆発物処理班と言うべきか。
部屋中に漂う甘さを含んだ香りも、今この瞬間は心臓の脈拍数を増大させるばかりである。
実際にしてみれば10秒足らず、しかし岸波 善夜にとっては気が遠くなるような体感時間を以て―――遂に彼は目的の眼前へ辿り着いた。
それは、人一人大サイズのベッド。その上に『彼女』はいた。
「……優華ー? 優華さーん?」
返答は無かった。第二段階・至近距離からのアプローチ、失敗。
岸波 優華―――この部屋の主であり、岸波 善夜のもう一人の従妹。
そして、自分が請け負った
「……ゴクリ」
全身をすっぽりと覆う布団。その中にいるであろう彼女は身動ぎすらせず、完全な静寂を維持している。
それに向けて伸ばされるのは己の手。緊張により生じる固唾、間違ってもそこに如何わしさなど微塵も存在しない。あるのは、これから自分に襲い掛かるであろう脅威への警戒に他ならない。
…………ごめんなさい嘘です。ほんのちょっとだけあります。だって男の子だもの。
まあそれはさておき―――彼女を覆い隠している布団の端に手を掛ける。
そのまま一気に引っぺがす、などという暴挙は論外。むしろその逆、壊れ物を扱うかのように恐る恐る布団を持ち上げる。
僅かに晒された布団の下から出てきたのは、よく見慣れている薄紫色の綺麗な髪だ。在り来たりだが、絹のようなというという表現が適した滑らかさであることはよく知っている。
更に布団を下ろせば、いよいよ本人の顔が晒される。
陶器のようにきめ細かく白い肌、その内側に綺麗な青を宿す瞳はまぶたに隠されているものの、そこから伸びる睫が女性らしさを表している。
ほんのりした薄紅色の唇はあるかなしかに作られた隙間から小さな呼吸を行い、命の活動を控えめに主張していた。
静かに眠るその姿は、さながら物語に描かれる眠り姫か。だとすれば彼女のあどけない寝姿が纏う侵し難い清廉さも納得だ。
思わずこのまま布団を被せ直してもう少し寝かせてあげようと思ってしまう。
ええい、何たる恐ろしさ。これが“
告白を毒舌でこっ酷くフられた男子勢が逆恨むどころか揃って新しい世界の扉を啓いてしまったのも納得だ。
学園の
(―――いやいや、今はどうでもいいから)
我に返り頭を左右に振って横にそれようとする(というかしていた)思考を振り払う。
いけない、思わず現実逃避をしてしまった。いやアレはアレで自分とも強ち無関係ではなく一刻も早い解決を要する事案なのだが、まあそれはそれ、今は今である。
そう―――今の自分が向き合わねばならないのは、目の前にいる魔性の眠り姫なのだから。(キリッ
……ないな、自分。自分で言ったけど、ない。本人が起きていたなら絶対零度の眼差しを向けられていたことだろう。自分は至極ノーマルなのでそんなのは御免蒙る。
さて、茶番はここまでにして、そろそろ本当に―――
「―――んぅ……」
「(ビクゥッ」
―――なんてアホなことをやっていたら、まさかのここで目覚めの兆しである。
一度目の身動ぎの後、徐々に動きが大きくなっていく。
一人馬鹿をやっていて失念していた危機感が一気に復活した。
「ん……んむぅ……?」
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ)
ヤバイ。超ヤバイ。どれだけヤバイかというと、マジヤヴァイ。
だって考えてみて欲しい。今の自分は朝っぱらから女の子の部屋に侵入して、あまつさえ寝ているその子の布団を引っぺがそうとしているのだ。
これを何と言うべきか?―――控えめに言って変質者である。
もちろん言い分はある。そもそも彼女達を起こすのは二人の母親である桜さんからの要望、つまり親の容認の上である。当然自分も二人に変なことをするつもりなど毛頭無いと両親と天地神明に誓える。
……けれど、それで納得するかは相手次第なわけで―――特に『今の彼女』に、そんな弁明は先ず通じないことはこれまでの経験で身を以て知っている。
となると今の自分が取れる最善の選択は、彼女がまだまどろんでいる今の内に撤退することなのだ―――が。
(―――それは、違うだろ―――)
そうだ。そうだとも。
退くことを間違いだなんて思わない。その姿は無様かも知れないが、敢えてそれを選択し行う人間の勇気は素晴らしい―――それは敬愛する両親から教えられた事の一つでもある。
―――だけど。
そう分かっていても「撤退」という二文字を選択するという選択は、今この瞬間の自分には無かった。
己で選んだのだ。その気なら拒否することだってできた。それでもここにいるのは、『そうすべき』という使命感以上の、『そうしたい』という意志が確かにあったからに他ならない。
なら。
ならば突き進むしかないだろう。
他の誰でもない、己が決めた己の道なのだから。
覚悟を、気概を、信念を―――貫き通す!!!
「―――そう。それで茶番は終わったのかしら―――ヨ、シ、ヤ?」
―――はいアウトー。
そんな母の声が聞こえた気がした。
実年齢と合わない可愛い声で棒読みなのが腹立たしい。
―――……善夜? 帰ったらちょっとOHANASIしようか。主に女性へのデリカシーについて。
……自分の親は本当に新人類なのかも知れない。
なるほど、父が他の女性にフラグを建てた途端に折檻される理由がよく分かった。
―――なんでさ!?
まあ
現実逃避は止めよう。ただでさえ危うかった状況はいよいよ最悪一歩手前まで陥ってしまったらしい。いやまあ自分が一人馬鹿をやっていたのが悪いのだけれど。
自分を見据える青の双眸は、平素の涼やかな切れ長ではなくジトッとした半開き。まだ抜けない眠気と自分に対する呆れによるものなのは容易に理解できた。
だって眼差しが冷たいんだもの。瞳に触れたら凍傷になるんじゃないかと思えるくらい冷ややかなんだもの。
そんな絶対零度の視線にたじろいでいると、返事をせずにいたことに苛立ったのか目を細め、口元に弧を描く。
知っているだろうか。笑みとは本来攻撃的なものだとか。
……何が言いたいかというと、
「聞こえなかったの? 頭だけじゃなくて耳までおかしなったのかしら。ああ、もちろん私じゃなくてあなたがよ?
ねえ、違うというのなら答えて頂戴?―――間抜け顔を晒しているあなたは、そんなところで一体、何をしていらっしゃるのかしら」
「アッハイ」
炸裂する毒舌、ヒクつく目尻、嗜虐さを帯びた笑顔、前髪に隠れている額に浮き出た血管―――これ駄目だ。完全に怒ってらっしゃる。
そんな彼女に下手な弁明はより悲惨な結末をもたらすだけということは身を以て知っており、身が竦んでしまったこともあってそんな間抜けな返事しかできなかった。
するとご機嫌絶不調な眠り姫は、目をさらに細めて唇を酷薄に吊り上げ、
「ねえ、善夜。そんなことはあり得ないと分かっているけど、一応確認させて頂戴。
ここってあなたの部屋だったりするのかしら? もしかして私は夜中に寝惚けて自分の部屋とあなたの部屋を間違えてあなたのベッドに潜り込んだりしたの? あぁ、それなら私の落ち度だわ。ええ、言い訳なんてしようもないしする気もない私の不手際です。貴方には何の非もありはしないわ。むしろその場合、貴方はお間抜けな私にわざわざ自分のベッドをそのまま使わせてくれたのでしょう。今だって朝になったから私を起こしに来てくれたのよね? ありがたいし申し訳ない限りだわ。でもね? 正直自分がそんな間抜けだなんてどうしても思えないの。だって私、寝起きが苦手な代わりに寝相はすごくいいもの。それはもう一度寝たらなかなか起きないくらいよ。父さん達がよく言っていたわ。
さて、こうなると二つの可能性が提示されたわけね。一つはここが真実あなたの部屋で、私が実は男性の部屋に転がり込んでは我が物顔で寝台を占領する厚顔無恥な女だということ。そしてもう一つは実はここは私の部屋であり私は全くの無実で、信じ難いことにあなたはいたいけな年頃の婦女子の部屋に無断侵入した挙句、その寝所にまで手を出したということよ。
だから、ねえ? 聞かせて頂戴?
―――ここって私の部屋よね?」
「ハイ、ソウ デス。ココ ハ ユウカサン ノ ヘヤ デス」
怒涛の皮肉と毒舌に硝子な心は粉砕直前である。しかも彼女の名前を顕したかのように華が咲いたような笑顔で言われるのだからギャップによるダメージがハンパじゃない。
……しかしそれですら、これから訪れる飛び切りの恐怖の前触れでしかない。
「そう……それは良かったわ。でもそれだと一つ、とてもとても大事な謎が残るの。ねえ、何か分かる? お馬鹿な善夜」
「ナンデショウカ」
「あら、本当に馬鹿なのね。そんなの―――何であなたが朝から私の部屋で私の寝ているベッドの布団を剥がしているのかということに決まっているじゃない」
ニッコリ。天使も悪魔も思わず釣られて笑ってしまいそうな満面の笑みである。ただし副音声は「死ぬがよい」である。
うん、すんごい怖い。ガクブルなんて生易しい表現である。震えていないのは真っ当な恐怖心までもが超過して麻痺しているからだ。
あぁ、分かっている。もう無理だ。自分にこの結末から逃れる術など無い。
確定してしまった末路。幾度と無くこの身に刻んだ敗北と痛みを、今日もまた新たに付け加えるのだろう。
―――だが。
そんな自分にもできることは残されている。
ただ諦めるだけならいつだってできる。それこそ死ぬ直前でも構わないだろう。
だけど、できることが、やれることがあるなら最後の最後までもがき足掻いてやろうじゃないか。それがどんなに無様で醜くても、諦めないことこそ人間の極致のはずだ。
だから―――!
「優華」
「何かしら変態」
いよいよ変態とだけ呼ばれるようになった。なお彼女はこの時点でベッドの上で仁王立ちしており、凍りつくような冷徹な顔で自分を見下ろしている。有体に言うと、屠殺される豚を見るような目という奴だ。何度も言うが自分はノーマルなのでそれに興奮したりご褒美だと思ったりはしない。ウゾジャナイヨ?
……それでもそんな彼女から目を逸らすことなくその総てを受け止める。当たり前だ。自分が決めて自分が行動した結果なのだ。それすら受け入れられないなんてただの屑でしかない。
だから、さあ言うんだ。
例えその言葉が、これから訪れる恐怖を更に助長させるものになるとしても。
―――男なら、言ってあげるべき言葉があるだろう!!!!
「―――すっごく綺麗な寝顔だったヨ!!!」
満面の笑顔で告げてから、親指をグッ。
それを受けて、彼女はというと―――
「…………ッ~~~~~~~~!?!?!?!!!!」
一瞬何を言われたのか理解できなかったらしく目をパチパチと瞬かせていたが、直後には顔を真っ赤に紅潮させて口をパクパクさせている。
実に可愛い。眼福である。うちの従妹が(ry
「
「ドフォーーーーウ―――――――――!?!!!!」
「ふぇっ!? 何g……善夜さーーーん!?!?!?」
岸波家長女、岸波 優華。
注意点―――毒舌、蹴り、朝の弱さ。
特記項目―――寝覚めが悪い時はすこぶる機嫌が悪くなる。例えるならニトログリセリン。取り扱いに要注意。
―――以上が、岸波家の何気ない朝の一幕である。
『何度! な・ん・ど言えば分かるのかしら!? 私言ったわよね!? 勝手に入るなって言ったわよね! 健忘なの、それとも痴呆なの!? ええ違うわよね馬鹿なだけだもの! 真性の馬鹿なんだもの! 女子の部屋に朝から侵入した挙句なに一人茶番劇を始めてるのよこのお馬鹿は!(ゲシゲシゲシ』
『あわわわ……ゆ、優華落ち着いて! それ以上やると善夜さんの脇腹がおかしなことに~!』
『グフゥ……フォウくんがいっぴき……フォウくんがにひき……マーリンシスベシフォーウ……』
『なんかおかしな寝言言い始めてる!?』
『コイツは元からおかしいのよ頭が!!』
―――そんな三人の騒がしい囀りが天井越しに響き渡る一階では。
「あらあら。三人は今日も仲がいいですね」
朝食を食卓に並べながら楽しそうに微笑む母親の姿があったとかないとか。
■この話の趣旨
1.メルトとリップが可愛くて生きるのが辛い。
2.ぐだ男はやはりぐだ男である。
以上。